リリネギカルま! 改訂版   作:藍上 尾

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第八話

 

 

 

『対象ヲ侵入者ト断定』

 

 目前から発せられる思念の波が、不穏な空気を醸し出す。

 

 こちらを見据える無機質な琥珀の眼光に、フィーはやっぱりこうなったか、なんて内心で毒づいた。

 

 そもそもここまで易々と侵入出来たことが僥倖なのだ。

 

 幸いなことに相方のユーノは施設利用者として認識されているらしいので、庇うことに気を取られず、己自身に振り掛かる火の粉を払うことに集中出来る。

 

『排除ヲ開始シマス』

 

 瞬間、女アンドロイドが踏み込んできた。

 

 途轍もなく速い。一歩目からトップスピードのそれは、さながら銃口から発射された弾丸だ。並みの魔導師では何が起きたのか悟ることすら困難だろう。

 

 だがそれでも、

 

 ……ネギや、サーティやゼスト程じゃない

 

 迫り来るアンドロイドを前に、半身に構える。

 

 喉元目掛けて繰り出される右の抜き手を左手甲で受け流す。刹那で引き戻された右手に続き、左拳が頭蓋を砕かんと迸るも、抜き手を流した手のひらで捌く。

 

 同時、腰溜めに構えた右拳を握り込む。

 

 引き千切れる大気。頬の横を抜ける拳に見向きもせずに、今度はこちらから踏み込んだ。

 

 半歩。たったそれだけで、フィーはアンドロイドの懐に移動する。狙いは胸の中央、人間で言う心臓部。腰に装填した拳を解き放ち、魔力の煌めきが吼え猛る。

 

 音を遥か後方へ置き去りにした速度域。カウンター気味の少女の一撃に、アンドロイドは当然のように反応してきた。神速で引き戻される左腕の動きに連動し、半身に体が捌かれる。

 

 躱される。

 

 と同時に足捌きによって、女がフィーの体側へ。踏み込んだ足元を黒のハイヒールに包まれた土踏まず……変形の小外刈の如く刈られる寸前、飛び退ることで回避する。

 

「っ!」

 

 普段からサンダルで縦横無尽に駆け巡るフィーが言えることではないが、ハイヒールなんて明らかに移動に不向きな靴で高速戦闘をやってのける女アンドロイドの技量に思わず目を見張った。

 

 だが、そんなことに驚いてはいられない。

 

 飛び退いた五メートル程の間合いが、百分の一秒に満たない刹那の内に蹂躙されたのだ。

 

 樹脂と見紛うほどに無機質な眼光を虚空へ刻み、既に互いの手が届く至近距離。

 

 振り上げられる右腕。

 

 手刀の形に指が揃えられたかと思うと、その輪郭がぼやけた。神速で振り下ろされた一閃にフィーの知覚が間に合わなかった為ではない。

 

 ぞくりと走る悪寒に逆らわず、両腕を頭上で交差させて防御する。

 

「ッ!!!」

 

 手甲とナニカ硬質な物が衝突する衝突音。

 

 両腕を襲ったのは、女の細腕からは想像も出来ない途方もない重さだ。重機か何かを相手にするような馬鹿げた馬力に、フィーはただ歯を食い縛って拮抗する。

 

 この時点で、戦闘開始から一秒。

 

 一瞬を、刹那を、極々短い時間の流れを、極限の集中力が何十何百倍にも引き伸ばす。

 

 一瞬の内に交わされた拳の応酬を把握できる者が、果たして次元世界全域にどれほど存在するだろうか。一流では足らない。超一流と呼ばれる、一握りのスペシャリストくらいのものだ。ユーノの知覚速度では何が起きたかわからない筈だ。

 

「ぐ……むぅっ!」

 

 見れば、女の右手が漆黒の刃と化していた。

 

 比喩ではなく、その前腕部から手刀の先端に掛けて煌めく刃物の輝き。

 

 刃があり、峰があり、鎬がある。明らかにヒトの手ではない刃物だ。

 

 と、一瞬の静止を見逃さず、相棒のユーノが援護を入れてくれた。薄緑の光の帯が虚空を駆け、瞬時に女の四肢に絡み付く。ユーノの得意とするバインドだ。だが、

 

「ばっ……!!」

 

 一瞬の拮抗も、抵抗すらも許されずに、魔力の鎖が掻き消された。

 

 魔導学的にあり得ない、普通なら起こり得ない現象だった。どれほどの実力者だろうとも、破壊には時間が掛かる。それこそ刹那であろうとも、その時間は零にはならない、筈だった。

 

 ……まさか、こいつ反魔法物質で造られてるっての?

 

 魔力を感じない馬鹿げた身体能力、変形する肉体、魔法の無効化。ことここに至り、フィーは目の前の存在が人間とは掛け離れた機械仕掛けなのだ、とようやく実感する。

 

 しかし、

 

「ッ!!」

 

 その実感は些か遅すぎた。

 

 アンドロイドの背後。未だ資料保管庫内に立つユーノから、驚愕するかの如き呼気。

 

 その理由が、フィーにはわからない。

 

 なまじ相手がヒトガタを保っている為に、意識の間隙を突かれたのだ。精神世界で戦況を逐次確認しているネギすらも。

 

 背後からアンドロイドの姿を確認出来たユーノだけが、その黒槍の存在に気付くことが出来た。

 

 蠢く黒髪。明らかに不自然なその動きを訝しんだ時には、既に手遅れ。

 

 アンドロイドの肩越し、脇から都合七条もの黒槍が霞む速度で突き出された。何度目かの、そして此度最大の驚愕にフィーとネギは襲われた。

 

「ッ!!?」

 

『なっ!?』

 

 意識の外からの攻撃。しかも、頭上から滅茶苦茶な馬力で押し付けられる黒刀に両手で抵抗している最中だ。取れる対処などそう多くはない。

 

 仮にこれが単なる物理攻撃や魔法攻撃ならば、致命的ではなかった。バリアジャケットがある限り、余程の威力でなければダメージが蓄積されるか、或いは多少の手傷で済んだだろう。しかしたった今、目の前でバインドが消失する様を見せつけられたのだ。その槍が単なる髪の毛の束だなんて希望的観測は持ち得る筈もない。

 

 目の前に迫る死……既に人間と言う種から半歩踏み外している少女が死ぬかは兎も角として……危機に瀕したフィーの肉体は思考が漂白されたその刹那、積み重ね、乗り越えてきた鍛練と死線の数に突き動かされ、半ば自動的に最適な動きを実現した。

 

 脱力。

 

 頭上から押し付けられる絶大な刃の重圧を、精緻な力の抜き加減と手甲による誘導でするり、と体側へと流す。

 

 拮抗していた刃と手甲のせめぎ合いが変化し、女アンドロイドの重心が僅かにブレる。そして、そのブレた身体と繋がっている髪の黒槍もまた、その刺突を僅かに逸らした。

 

 更に刀を流す動作と連動して身体を捻ることで、逸れた刺突の穂先から逃れようと試みる。僅かな時間差で黒槍が、紙一重の空を穿つ。

 

 一、二、三、四閃、

 

 そして、

 

「くぅっ……!!」

 

 そこまでだった。

 

 噴き出す鮮血。

 

 回避し切れなかった残りの槍撃が三つ。頬を深く抉り、肺を穿ち、脇腹を貫く。灼熱感が傷口から全身を駆け巡り、発狂しそうな激痛が思考を炙る。

 

 ……まだ

 

 魔法的防御を当然のように素通りされ、防刃・防弾のシャツすら無意味。

 

 負った手傷は深く、されど致命傷ではない、と悲鳴を噛み殺す。

 

 激痛に痙攣しそうになる身体を魔力による肉体活性で無理矢理動かし、突き刺さった黒槍を引き抜きながら一息の内に後方へ逃れる。転げるようにして瞬時に二十メートルの距離を取り、そこで足がもつれて無機質な鋼の床に膝をついた。

 

 喉の奥に溢れる鮮血で、呼吸が苦しい。いや、肺に大穴が穿たれているのだから当然か。

 

「がぁあ、ぁぐう……」

 

 手で抑えようとも、出血が止まる筈もない。滝のように流れ出した熱血が、寒々しく鉄が剥き出しの床に赤を広げる。

 

『っ、してやられた。あそこから良く躱した。ここからは僕がやるよ』

 

 精神世界からの相棒の言葉に、

 

「ば、は……ごればぢょっど、ぎっづぃなぁ~っ」

 

 苦笑混じりに呟き、喉にたまった血の塊を吐き捨てる。こんな状態からネギに引き継ぐのは心苦しいが、治癒魔法の心得がないフィーでは、もはや戦闘の継続は不可能なのだから致し方ない。

 

 だが、負傷した侵入者を見逃すほど、目前に佇むアンドロイドは優しくなかった。

 

『対象ノ生命活動ヲ確認。危険度レベルヲⅡカラⅢヘ移行シ、引キ続キ排除ヲ継続シマス』

 

 背筋が粟立つ感覚に、フィーはニ十メートル先で僅かに腰を落とした女を見据えた。

 

 激痛に苛まれる思考。急激な出血により視界は歪み、それでも目は離さない。瞬きすらもしていなかった。だと言うのに、フィーが認識出来たのはアンドロイドが疾走した後に生じた、空間の歪みだけだった。

 

 その踏み込みは、先程までのそれとは桁が違った。

 

 コマ落としの如く掻き消える女の姿。

 

 合金製の床が、足の形に爆ぜる。

 

「!?」

 

 弾丸どころの話ではない。重力の楔を振り切る第一宇宙速度に等しい、超神速の踏み込み。

 

 半ば本能的に魔力を両腕に集中。魔法無効化の影響が少ない身体強化を全力で行使し、交差させて頭を庇う。

 

 刹那、

 

「ッ」

 

 世界が揺れた。

 

 轟音。爆音。破裂音に炸裂音。

 

 鈍い音が身体の内外から鳴り響く。痛覚の上限を遥かに超過した衝撃で感覚が鈍いが、恐らく両腕の骨が粉々に砕かれた。

 

 ひび割れる手甲、ガードの上から走る衝撃が全身を軋ませ、魔力で強化した肉体が悲鳴をあげる。

 

 ……、ぇ?

 

 気付けば、フィーは宙に浮いていた。一瞬だけ意識が飛んでいたのだ。

 

 ……殴られた、の

 

 やけに長い滞空時間が、思考を混乱させる。勢い良く蹴られた小石か何かのように、フィーの身体は床と水平に吹き飛んでいた。そして、

 

「か、はッ……!!」

 

 全身が砕けそうな衝撃が、背中から襲ってくる。

 

 通路の終点。百メートル以上の長さがあった筈の直線を突き抜けて、フィーは合金の建築材剥き出しの壁に叩き付けられた。

 

 激しく打ち付けた後頭部に生暖かい感触が流れる。

 

 雑巾を引き千切るような怪音が身体中から響き、新たな鮮血が喉の奥から溢れだして、呼吸すら儘ならなくなった。

 

 ……ヤバ、い

 

 これほどの重傷は、それこそ化け物と化した自分自身と精神世界の牢獄で殺し合って以来だ。

 

 ずるり、と身体が陥没した壁の隙間から落ち、そのまま動けなくなる。

 

 真っ赤に染まった視界が明滅し、

 

 ……ゴメン、ネギ。あと、頼んだ

 

 そこでフィーは気を失った。

 

 

 処理の失敗を示すエラーコードが、床に並べた五台の携帯端末、その全てのディスプレイを埋め尽くす。

 

 ユーノは血が滲むほど強く拳を握り締めて、固く閉ざされた隔壁扉へ力任せに叩き付けた。

 

「くそッ!!」

 

 苛立ちに沸騰しそうになる思考を拳の痛みで無理矢理抑え込み、叩き壊さんばかりの勢いで端末のキーパネルを弾く。マルチタスクを全開にした五台同時平行作業で、だ。それでも尚、フィーを排除しようとするシステムの流れに干渉するどころか、隔壁扉をこじ開けることすら出来ない。

 

 施設のセキュリティを管理している管制システムへハッキングを仕掛け、どうにかフィーを利用者に登録出来ないか試みているのだが、どう試行錯誤したところで、不正なアクセスとして弾かれてしまうのだ。

 

 ……どうする。いったいどうすれば

 

 空回りする思考。

 

 頭に浮かぶのは、鮮血に塗れる少女の姿だ。重傷を負ってしまったのだろうか。それとも大したことはないのか。アンドロイドの身体に隠れてユーノの位置からでは見て取れなかったが……出血量から考えて、浅い傷とは思えなかった。反魔法物質が利用された壁に遮られ、念話すら届かない現状では、少女の無事を確認することも出来ない。

 

 地鳴りのような轟音が、隔壁扉越しに響く。

 

 まだフィーは生きている。だが、戦闘音が止まないと言うことは、それだけあのアンドロイドが強敵だと言うことでもあるのだ。負傷した少女では、万が一があっても何ら不思議ではない。

 

「くっ……!」

 

 このままでは防壁を突破することは不可能。電子戦に長けた部隊でも、このセキュリティを欺くことは難しいだろう。

 

 ならば、何が出来る。祈るしかないのか。相棒の少女の勝利を、安全地帯から祈るしか自分には出来ないのか。

 

 必死の思いで思考を高速回転させること十秒。

 

「ッ! そうか、ここの端末ッ!」

 

 弾かれるようにして、ユーノは受付カウンターに据え置かれた端末へと目を向けた。外部からのアクセスは無理でも、内部からなら試してみる価値は十分にある。

 

 隔壁扉に接続した端末をそのまま放置して、ユーノは全速力で受付カウンターへ駆け出した。

 

 

 死に掛けた身体に、力が籠る。

 

 血に塗れた四肢が、ピクリと反応した。

 

 本来なら指一本も動く筈のない身体。

 

 両腕、両足、腹部、胸部、内臓……無事な箇所を見つける方が難しいほど、肉体の各所が骨折し、靭帯が断裂し、或いは神経や血管が千切れ、通常の機能を失った少女の身体。管理局が誇る最高の医療スタッフが最善を尽くしても、元通りになるか怪しい、命を繋ぎ止めることすら危うい状態のフィーの身体が、その損傷の一切無視して立ち上がる。

 

 身体に宿った外道の業、闇の魔法(マギア・エレベア)。魂を更なる高次へ押し上げる秘法が、死という全ての生物にとって約束された安息を覆す。魔の法則により歪められた生命の本質。肉体を構成する元素が、血肉ではなく魔力に取って代わったのだ。

 

 砕けた骨が再構築され、千切れた靭帯がひとりでに繋ぎ合わされる。急速に身体組織が再生、映像が逆戻りするかの如く元通りに回復する。

 

 腕を持ち上げ、拳を握る。

 

 つい先程までの重傷など感じさせない、スムーズな動作。

 

 身体の調子を確かめたネギはどこか虚ろな面持ちでぽつり、と一言呟いた。

 

「……そうか」

 

 半ばまで変質していた肉体が、最後の境界線を越えたのだ、と悟る。

 

 今まで以上に馴染むのは、元の世界での自分の身体に飛躍的に近付いたからか。

 

 辿り着く場所が人外の魔物であることは、闇の魔法に手を掛けた時点で変え得ぬ必然であった。だがしかし、誰よりも近くで見てきた少女の相棒として。そして、その邪道を可能とした張本人として、ネギは吐き出すことの出来ない言い知れぬ感情が渦巻くのを感じた。

 

 血が這いずり、肉が軋むようにして回復していく、ある種グロテスクな様をフィーに見せずにすんだことだけが、幸いとも言えるだろうか。

 

 フィー自身も、己の身体の変質に気が付いているだろう。だが、こんな決定的なことを少女へ伝えるのは些か以上に憚られた。

 

『対象ヘ与エタ損傷ノ治癒ヲ確認』

 

 近付いてくる気配に顔をあげれば、百メートル以上の距離を瞬時に詰めた女アンドロイドの姿。十メートルの距離を取って佇むそれの長髪は、槍と化したことなど微塵も窺わせない艶やかさをいつの間にか取り戻していた。

 

 硝子玉のように無機質な琥珀色の眼球は、かつての仲間であり同じくアンドロイドだった女性、絡繰茶々丸から感じたそれとは何故か全く異なる印象を受ける。

 

『エクリプスシード保持者ノ体質変化ニ酷似。危険度レベルⅢヲ維持シ、排除ヲ継続シマス』

 

 仕様なのか、無機質な思念波が周囲へ響く。そんな様子にネギは小さく口元を歪めた。

 

 これではまるで、思い通りにいかない現実に駄々を捏ねる幼児のようだな、と。

 

 握っていた拳を開き、あらかじめ装填していた魔法を解放する。

 

 ……解放・固定、千の雷

 

 手のひらから吹き荒れんとする幾千もの雷撃を集束し、直径にして一メートル程の球形状に固定。稲妻の迸る中、目前のアンドロイドが行動を起こすよりも先に、ネギは握り潰すことでその膨大な電流の塊を己の肉体に取り込んだ。

 

 ……掌握、術式兵装『雷天大壮』

 

 刹那、

 

『対象ノ変化ヲ、』

 

「シッ!」

 

 百分の一秒に満たぬ極細塵の時を駆け抜け、思念波すらも引き裂きながら、ネギの拳が強かに女の鳩尾に突き立った。

 

 稲妻が大気を走るような炸裂音が通路に木霊する。

 

 放電を媒介とした超高速移動、雷速瞬動。荷電粒子へ変質した肉体だからこそ可能となる邪道の業は、秒速にして百キロを優に上回る。

 

 先程のお返しとばかりに雷光の軌跡を残し、直撃した超神速の拳打。まるで鋼鉄の塊を叩くかの如き重い手応えと共に、アンドロイドが一直線の通路を吹き飛んで行く。が、それで終わりではない。瞬きの間も置かず、稲妻の速度で吹き飛ぶ女へ追い付いたネギの蹴撃が、容赦なく機械を破壊せんと迸る。

 

 連続した轟音。

 

 走る稲光。

 

 認識すら置き去りにする高速移動で翻弄し、一瞬の内にアンドロイドを打ち据えた拳撃蹴撃は百を超える。最後に回り込んだネギの頂肘が重低音を轟かせながらアンドロイドの脇腹を捉え、フィーが激突したことで陥没した壁の窪みへと叩き付けた。

 

 並みの人間では絶命していて然るべき猛攻だ。だが、相手は並みどころか人間ですらない。観察するような冷徹な瞳には、焦躁の一つも窺うことが出来なかった。

 

『未知ノ魔導技術ヲ感知。解析ヲ開始シマス』

 

「……く」

 

 四肢に残る痺れに、ネギは思わず顔をしかめた。

 

 こちらの攻撃が効いていない。極限の『気』に練り上げられた肉体でも、絶大な魔力の鎧を纏っているわけでもなく、純粋にネギの拳では破壊できないほどの強度と柔軟性があるのだ。魔法無効化能力を併せ持つことを考慮すれば、その様は正しく魔導師殺しの為だけに造られた絡繰人形だった。

 

 ……時間は掛けられない

 

 恐らく、自分が人格の表に居座って全開の戦闘を繰り広げられる時間は長く見積もっても三十分。それ以上はフィーと入れ替わってしまうだろう。交代を無理矢理拒んで表へ出続けたなら、どうなるか予測がつかない。少なくともただでは済まないだろう。

 

 しかも此処は古代遺跡の内部、つまりは敵の腹の中。防衛機構による迎撃が女アンドロイド一体だけとは限らないのだ。ネギの想像だにしない事態も十分にあり得る。

 

 兎に角、長期戦は悪手。

 

 故に、

 

「出し惜しみはしない」

 

 ”現状で”振るえる最大火力でもって、反魔法物質の限界、女アンドロイドが無効化出来る許容範囲を突き抜けることで自壊に追い込む。

 

 ……左腕解放・固定、千の雷

 

 肉体の魔力容量が増大した今ならば、全盛期に近い出力も不可能ではない。

 

 狙うは短期決戦。下手に長引かせてしまうと、こんな殺人兵器との対決をフィーへ押し付けることになる。相棒の少女はネギの予想を遥かに上回る勢いで成長しているが、肉体が不安定なこの時期に無茶をさせるのは得策ではない。肉体に引きずられ、精神にどんな悪影響が出るか分かったものではないのだ。

 

「ッ」

 

 再び出現した雷の大球。莫大なエネルギーを内包したそれを一切の躊躇なくネギは握り潰し、

 

 ……掌握

 

 一際盛大な稲妻が、空間に迸った。

 

 

 




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