リリネギカルま! 改訂版   作:藍上 尾

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第十話

 

 

 

 稲妻が走り、帯電した空間。

 

 途方もない魔力の残滓を漂わせ、頬を撫でる灼熱の大気。

 

「うわっちちちっ!?」

 

 噴火直後の火山を思わせる熱気に目を瞬かせ、精神世界の深奥から復帰したフィーは思わずそう声を漏らした。

 

 視界を埋め尽くすのは、泥々のマグマのように燐光を帯びた黄赤色の内装の数々。

 

「これって……」

 

 何時の間にか場所が変わり、少女が佇んでいたのは通路ではなく広い空間だった。と言っても、元がどんな場所だったのか判別しようもないほど見る影もなく破壊し尽くされているが。

 

 ……どんだけ激しい戦いだったの、これ

 

 ざっと目を通すだけでも窺い知れる、大魔法と極大魔法のオンパレード。

 

 点在する血溜まりのような黒い水溜まり。その中のひとつにはアンドロイドの成れの果てだろうか、拳大の黒い球体が転がっている。極大魔法の着弾点だろう場所は、煮えたぎる火口のようにぽっかりと口を開けていた。

 

 反魔法物質が含まれた内装が大破している。もしも外だったなら、余波だけで周囲にどれだけの被害が及ぶのか、想像もつかない威力だ。

 

 刹那に迸る雷神の槍が脳裏に浮かぶ。滅多に見れない、奥の手を切ったネギの勇姿。最強クラスの戦闘を観戦出来なかったことを、少女は些か残念に思った。

 

「…………」

 

 嘆息を飲み込みながら辺りを索敵。それと同時に身体の調子も確める。

 

 結果は、良好。

 

 あるのは引き裂かれたバリアジャケットと、穿たれたインナーシャツ。肉体には傷の一つも存在しなかった。肌理細かく白い肌が、その隙間から覗いている。

 

「ちょっと恥ずかしいかな」

 

 ほとんど裸体を晒すような装備の損傷具合に苦笑を浮かべ、とりあえずの繋ぎとしてバリアジャケットだけでも張り直した。

 

 フィーが壁に叩き付けられてから、おそらく十分も経過していない。あれほどの重傷がそんな短時間で跡形もなく治癒するなど、ネギの魔法技術をもってしても不可能だ。

 

 どんな手段で回復したのか。まともな精神の人間なら不安になって然るべきだが、フィーにとって、もはや肉体がぐちゃぐちゃに壊れようが瞬時に再生することは当然の事だった。

 

 自分の影との殺し合いで身体が再構築されていく感覚に少女は慣れていた。それが現実世界にまで及んだだけだ。

 

 虚像との意味不明な対話の際に掴んだ感覚は、未だに手の中に残っている。成ろうと思えば今すぐにでも、自分は化け物へと変じることが可能だろう。

 

 頭のネジが壊れてしまったのか。何故か身体の再生に疑問を抱かない。何故、肉体の変貌に嫌悪を抱かないのか。

 

 ふと疑問が浮かび、

 

「……そっかそっか」

 

 しかしそんなこともう、あまり気にならなかった。

 

 闇の魔法が混じりきってしまったのだ。多分、自分の身体はもう人間とは呼べないほどに、魔へ堕ちている。

 

 けれど、そんな事実を悲しいとすら少女は思わなかった。

 

 自分はもう、人間ではない。

 

 心すらも、少しずつ変貌してしまいそうで怖かった筈なのに。今はもう、恐怖心すら薄れてしまった。 

 

 ……うん、身体は絶好調

 

 あらかた己の状態を把握したフィーは、沈黙を保つネギへと声を掛けた。

 

「ネギ? 状況はどうなってるの?」

 

『……反魔法物質相手に、火力で押し切るのはかなり骨だったよ』

 

 頭に響く、何処か弱々しい相棒の声。

 

 人格の表に出ての全力戦闘。時の庭園でのサーティとの死闘程ではないにせよ、極大魔法を連発した短期決戦は、ネギを疲弊させて然るべきだものだったのだ。

 

「ごめんね、相棒。わたしがへましなきゃ、あんなピンチにならなかったのに」

 

 そして、

 

『あのアンドロイドが強かっただけだ。むしろ、僕の想像以上にフィーは強くなってるよ。本当に……』

 

 何故か、何かを悟ったようにネギが言葉を詰まらせた。

 

 気にせず踵を返す。未だ、他の防衛機構が乱入してきても可笑しくないのだ。少しの期待を込めた警戒もそこそこに、ユーノの待つ機密資料保管庫へ足を進める。

 

「ちぇっ、あのアンドロイド、わたしがぶっ壊してやりたかったな。ちょ~っと残念」

 

『…………フィー』

 

「うん? どうしたの?」

 

『……封印が消し飛んでる。さっきの重傷で最後の一線を越えた。闇の魔法が、身体を作り替えてしまったんだ』

 

「はっはん、なるほどね。分かってはいたけど、だから調子が良いんだ。なんか魔力も涌き出てくるし、手頃な防衛機構が出てきてくれれば、楽しめるんだけど」

 

『……封印がないと、いつ暴走しても可笑しくない。僕は今こんな有り様で手助けできない……気を強くもって。流されたら駄目だよ』

 

「大丈夫だってば。封印なんて要らないでしょそんなもん。と言うか流されるもなにも、わたしは何時も通りだって……っ」

 

 封印。闇の魔法を制御し、その侵食と暴走を抑制する術式だ。手甲に組み込まれているものの、先程の戦闘でその手甲自体に深刻な亀裂が幾重にも走っている。

 

 だが、気にする必要はないだろう。封印するまでもなく、自分は闇の魔法を制御出来ているのだから。

 

 そう考えたところで、フィーは微かに響く水音のような空気の震えを聞き逃さなかった。

 

「おっと」

 

 突然、その場から跳ねる。

 

 側転の要領で身を投げ出して片手で床を捉えた次の瞬間、響き渡る衝撃音。一瞬前まで少女が歩いていた虚空を、人の指程の太さをした槍のようなモノが貫いたのだ。

 

 身体を捻って背後へ振り返りながら着地したフィーは、その赤い瞳を見開く。

 

「なにそれ」

 

 跡形もなく破壊され尽くしたアンドロイド。その身体から出てきた拳大の球体を核に、黒い液体がひとりでに地を這いずり集結しているのだ。少女を攻撃してきたのは、そんな集結し、直径一メートル程にまで肥大化した物体から生えた触手だ。

 

「何でもありじゃん、古代遺跡」

 

『対象ノ危険度ヲ最大ニ設定』

 

 しかも、それで終わりではない。

 

 幾重にも連なる水音が、そこらかしこの換気口のような穴から響いたかと思うと、黒い液体が噴き出してアンドロイド(?)の球体へと合流。その大きさを一回りも二回りも成長させていく。

 

『まさか、神ころしで倒しきれなかったのか?』

 

「さっきの黒いのが核っぽいね。液体金属? とにかく、皮を剥がして中身を潰せば止まるでしょ」

 

 そうこうするうちに直径三メートル程の球体に変貌したアンドロイドの核。漆黒のそれは、艶やかな表面に波紋を浮かべて静止している。

 

 ……ヒトガタとは違った意味で厄介そう

 

 なんて思考を巡らせながらも、少女の口角は無意識の内に吊り上がっていく。

 

 内側から湧き出る力が、早く暴れさせろと蠢いている。

 

「ははっ」

 

 赤く染まった世界。それは融解した内装の照りか、はたまた血を求める化け物の衝動か。内なる衝動、欲望に突き動かされ、フィーは狂喜するように敵へと足を踏み出した。

 

『駄目だ、フィーっ!』

 

 拳が、空間ごと黒を抉る。

 

 湧き出る魔力を全て身体強化へ。

 

 それは、常人では歩くことも儘ならない程の出力、人間の肉体では耐えられないレベルの強化倍率だ。しかし、天才すらも凡夫へ落とす少女の鬼才と、魔へと変じた肉体がその不可能を可能にする。

 

「あはっ、あはは、ははははははっ!!」

 

 踏み込んだ足先から弾き出される力のベクトルを、魔力運用と関節の動作で以て加算。千分の一秒単位で同期した全身運動から吐き出される拳の砲弾は、豆腐のように容易く黒い球体を削り飛ばしていく。

 

 肥大したアンドロイドの成れの果て。液体の塊のように見えるそれは、決して柔な物質ではなかった。鋼鉄を超える強度と強靭さ。ネギの拳でも到底打ち破ることは出来なかっただろう。しかし、今のフィーにそんなことは関係ない。一撃毎に拳の骨に亀裂が走って砕けるものの、次の瞬間には元通りなのだから。

 

 削り、抉り、吹き飛ばす。

 

 一秒で体積の五分の一が周囲へぶちまけられ、次の一秒で半分に。次の一秒でこの遊びもおしまいか、と嘆いたところで、フィーは頬が裂けるような笑みを浮かべて飛び退いた。

 

 一瞬前まで少女が居た空間を、無数の槍が貫いたのだ。

 

「そうこなくっちゃっ!!」

 

 反撃とばかりに黒槍が音速の二倍ほどの速度で生えてきた。その数、三百五十二本。音の壁を突き穿ちながら、飛び退いたフィーへ襲い掛かる。

 

 空間を埋め尽くすように引かれる、黒の線。

 

 最短距離を走る一直線、弧を描く曲線、うねるような軌道もあれば、背後から回り込むような死角からの刺突もある。それら全てが魔法障壁を無効化し、分厚い鉄板すら容易に貫通する致命の槍だ。

 

 だが、

 

「とまってみえるってのぉおおお!!!」

 

 確実に対象を殺害する無機質な黒すらも、少女を悦ばせる危険のスパイスに過ぎなかった。

 

 三百六十度、全方位からの包囲攻撃は、フィーの珠肌に掠り傷一つつけられない。

 

 虚空を蹴り、その勢いで独楽の如く回転しながら突撃。目まぐるしく流れていく視界の中で、迫り来る無数の槍を拳撃で、或いは蹴撃で正面から叩き潰していく。

 

 硬質な音を奏でて砕ける黒槍。そして少女自身の肉体。

 

 刹那の間隙を抜けた先で待ち受けるは、更なる槍衾の迎撃。見据えた先に捉えたのは、その身を磨り減らしながらフィーを撃退せんと槍を繰り出す黒い球体の姿だ。憐憫すら感じさせるそんな強敵の様に、浮かべた笑みを更に深める。

 

「くふ、はははっ!!」

 

 両手両足からは槍を迎撃した反動で鮮血が噴き出している。

 

 抉れた肉。

 

 折れた骨。

 

 砕けた関節。

 

 そして、それら全てが瞬く間に回復していく人外の再生力。

 

 繰り返される破壊と再生。視界が明滅するほどの苦痛すらも、今のフィーにとっては心地好かった。

 

 研ぎ澄まされた精神が時の流れを細断し、那由多に分割する。全身を紙一重で掠めていく槍衾の中、揃えた右の五指へ全霊の魔力を集中。

 

「っああああああああああッ」

 

 闇の魔法がもたらす膨大な魔力。ランクに換算すればSを優に凌駕するそれを集束し、凝縮し、次の刹那、絶叫じみた気合と共に解き放つ。

 

 白く眩い筈の魔力光は堕ちた闇色へ。しかし、そんなことなど気にもとめず、少女の抜き手は万物を貫く神槍、いや、邪槍と化して一条の閃光となった。

 

 人間では不可能な次元の魔力制御、よしんば可能としたところで、腕一本が吹き飛ぶことを前提とするような狂気の荒業を誰が好んでやるものか。だが、人を外れてしまった少女に、そんな常識は当てはまらないのだ。

 

 勿論、アンドロイドもただ迎撃に力を注ぐだけではない。幾十もの反魔法物質による防御膜が展開され、その上で黒槍が渦巻く。オーバーSランク級の砲撃魔導師が渾身の集束砲撃を直撃させようとも、本体である核には微塵も届き得ぬ鉄壁の布陣で以て、少女の一撃を待ち構えていた。

 

 だが所詮は機械。脅威を前にした直感など働きようもない。故に、防御を選択した時点から、その結末は当然の結果だった。

 

『…………?』

 

 甲高い、空気を摩擦する高音がひとつ。

 

 それで終わり。

 

 莫大な魔力量と制御技術、神憑り的身体運用センスによって放たれた少女の抜き手を前に、アンドロイドの防御など、熱されたバターも同然でしかなかったのだ。

 

 瞬時に限界を越えた反魔法物質が自壊を起こし、液状化。確かな手応えが少女の頬を吊り上げる。

 

 僅かに黒い液体を噴き出し全体を小刻みに振動させるアンドロイドの姿は、まるで心臓を抉られた動物が最期に見せる断末魔のようだった。

 

『フィー!』

 

 弾けるようにして砕けた核が、ネギの魔法によって未だに熱気を帯びる空間へ乾いた音を響かせる。

 

『しっかりするんだ、フィー!』

 

 一拍遅れ、千切れ掛けた右腕から流れる鮮血が床で弾ける。本来なら再起不能な損傷すらも、瞬く間に元通り。グロテスクな光景を溢れ出る達成感と多幸感に酔いしれながら眺めていると、

 

「あはは……は……ぁ」

 

『フィー!!』

 

「ぁ…………」

 

 脳裏に響く相棒の声。そこでようやく、少女は酔いから覚めた。

 

 ……なにやってんの、わたし

 

 何もかも吹き飛ぶような多幸感が一転、最低最悪な気分に早変わりだ。

 

「……ごめん、ネギ。わたし、どうかしてた」

 

『良かった。正気に戻ったみたいだね』

 

 何が闇の魔法を制御できているだ、と先程までの思考に毒を吐く。呑み込まれてるの間違いだ。

 

「わたし…………」

 

 ようやく聞こえるようになった相棒の言葉は、少女の頭に入ってこなかった。

 

 大丈夫だろう、そうどこかで考えていたのだ。自分には相棒がいる。自分自身も強くなった。だから大丈夫な筈だ、と。

 

 両手で胸を押さえる。

 

 ドクリ、と鼓動が蠢く気がした。

 

 己の心音とは別の胎動が、内側から響いた気がした。

 

 もはや手遅れ。そんなことは百も承知で来た筈だった。

 

 だと言うのに、フィーは立ち尽くし、しばらくその場を動くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「……よ、し。掌握かん、りょう、だ」

 

 息も絶え絶えの満身創痍。脳細胞の一片までも酷使して、遂にユーノは防衛機構のコントロールを人工知能から奪うことに成功した。

 

 全身は鉛のように重い。最早、瞬きをすることすら億劫なほどだ。それでも、少年は受付のカウンターから立ち上がり、滑らかな動きで開いていく隔壁扉へと歩を進めた。

 

 ……無事でいてくれ

 

 神に祈るように、少女の姿を探す。

 

「フィー、大丈夫なの? 何処にいるんだっ!」

 

 真っ直ぐ続く通路には、激しい戦闘を物語るようにその爪痕が刻み込まれている。

 

 戦闘音は既に絶えていた。

 

 それは、少女が勝利したからか。

 

 それは、少年が防衛機構を掌握したためか。

 

 あるいは…………

 

「……いや、ネギ君も居るんだ。そんな筈ない」

 

 探す。

 

 探す。

 

 探す。

 

 そして、破壊し尽くされた通路の先、巨大な大穴が穿たれた壁の向こう側で、ユーノは相棒の少女を見つけた。

 

 こちらに背を向けて立ち尽くす少女。

 

 如何なる大魔法によるものだろうか、反魔法物質を含む内装が融解するほどの惨状。そんな最中、足元に砕け散った黒い破片を見下ろす少女の背中に、ユーノは何故か妙な胸騒ぎを覚えた。

 

「…………フィー?」

 

「ぁ……ゆー、のん?」

 

 振り返る少女。髪を纏める紐が戦闘で千切れてしまったのだろう。絹糸のように綺麗な赤毛が赤熱する内装の照りを反射し、妙な艶やかさを醸し出す。

 

 開けたジャージの前から顔を覗かせる黒いシャツ。そして、そこから顔を覗かせる’傷一つない’瑞々しい珠肌。僅かな胸元の膨らみを認め、ユーノは頬が紅潮するのを感じた。

 

 こんな遺跡の奥深くだと言うのに、未成熟な少女に性を感じる自分がどこか気恥ずかしく、目をそらし、

 

 ……いや、まって

 

 あまりにも綺麗すぎるその柔肌に、不協和音じみた違和感を覚えてしまう。

 

 傷一つない健康体だったのだ。

 

 良く見れば、この一週間で全身に負ったであろう細かな傷跡も全くない。アンドロイドから受けた筈の傷は控えめに見て全治三か月。ネギの魔法ですらこんな短時間で治癒する筈もないと言うのに。

 

「……ゆーのん」

 

 何故か、自分を呼ぶ少女が泣いているようにユーノは感じた。

 

 このままでは駄目だ。

 

 そんな確信がある。

 

 いったい何があったのか。フィーはアンドロイドと戦い勝利した。ユーノは人工知能との電脳戦を制し防衛機構を掌握した。それで終わりじゃないのか。何事もなく順調に探索を終えて、闇の書の秘密を暴き、この事件を大団円に終える。今まで通りの日常が続いていくのだ。自分はスクライアで、少女はフリーランスの魔導師として、たまに遺跡に潜って親交を深めて、そして……

 

 そして、

 

「ちょっとごめん、ゆーのん」

 

 動いたのは少女が先だった。

 

「ぇ」

 

 身体を包む、柔らかな感触。

 

 女の子の甘酸っぱい匂い。

 

 気付けば、ユーノはフィーに抱きつかれていた。

 

「ち、ちょっと、フィー!?」

 

「…………」

 

 動転、困惑、少女の行動が理解できず、ユーノが慌てていると、唐突に突き飛ばされる。

 

 思いの外強い力によろめいた拍子に尻餅を着く。顔を上げれば、

 

「……い、いや~、お互い危機一髪だったね。上手いこと防衛機構を騙せてたと思ったけど、そう簡単にはいかなかったし、まったく、死にかけたっての」

 

 いつも通りの雰囲気を装う少女の姿がそこにはあった。

 

 先程までの妙な気配は鳴りを潜め、有無を言わさぬ調子でそうまくしたてる。

 

「ほら、さっさと調査して逃げるよゆーのん」

 

 そう嘯いて踵を返す少女の背からは、隠す気もない、説明を拒む気配が伺えた。

 

 暫しの間を置き、ようやく現実に理解が追い付く。

 

 五感が、ようやく再起動する。

 

「……そう、だね」

 

 納得できる筈がない。

 

 理由はわからない。

 

 けれど、見当はついた。きっと、以前から自分に隠してきたナニカが原因に違いない。

 

「フィー……、」

 

 思わず零れた言葉に、少女の歩みが止まる。

 

 呼び止め、フィーの肩を掴んで振り向かそうと手を伸ばしかけ、

 

「……なに、ゆーのん?」

 

「…………ううん、何でもないよ。いや~、無事で安心したよ」

 

 後ろ髪を掻くように誤魔化した。

 

 ユーノは恐れた。

 

 肩を掴み、振り向かせ、なぜ怪我一つないのか問いただすことで、今までの関係が決定的に変化してしまうことを、恐れてしまったのだ。

 

「……」

 

 だから、この話はこれまで。

 

 そうやって釈然としない内心を誤魔化し、ユーノとフィーは無限書庫の深奥部の調査を継続するのだった。

 

 

 




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