あの無限書庫での大冒険から、一週間が経った。
探索自体は大成功を収めた。闇の書の奥深くに眠る驚異の正体を掴むことは出来た。だが、
「……はあ」
重いため息が零れる。
探索が終わり次第、逃げるようにユーノの前から去ったフィーは、デメキング号の操縦室で頬杖をついていた。
放置されたジャンクパーツ。食べ掛けのお菓子の袋が幾つも口を開け、ジャージやパンツまでもが脱ぎ散らかされている。
まさに自堕落の権化。
『……フィー。いい加減動かないと、身体に悪いよ』
なんてネギの言葉に、うーん、と気だるげに返す。
言葉にこそされなかったが、目の前で瀕死の重傷が綺麗さっぱり治ってしまったのだ。現行の魔導技術では不可能なレベルの現象。いつだったかの遺跡発掘中に遭遇した生物兵器すら彷彿させる……怪物じみた肉体。
「……」
訝しがるユーノの雰囲気に対して、逃げ出すように無限書庫を後にしたフィーは、闇の魔法を安定させる為、気休めでしかないがグダグダと時を過ごしていた。
化け物へと変貌してしまった身体。
膨れ上がった欲望が暴走して衝動的に動いてしまうフィーは、己自身が恐ろしくて、逃げ出してしまったのだ。こんな醜い自分の姿を晒してしまうかもしれないと思うだけで、心臓が握りつぶされてしまうほど怖かったのだ。
ああ、もう自分に嘘はつけない。
「…………はぁ」
薄々感ずいていたが、自分はユーノ・スクライアという少年が大好きなのだ。
だが、そんな少女の淡い感情すらも、闇の魔法で膨れ上がる醜く、どす黒く、刹那的な欲望の糧となってしまうのだ。
もしもユーノが自分を好きじゃなかったら?
もしも他の子を好きになっていたら?
自分のものにならないなら、殺してしまえ。奪ってしまえ。そうすれば、永遠に彼は自分のものになる。
……なんて、意味わかんないこと考えちゃうし
ネギはこの狂おしいほどの欲の渦を乗り越えたと言うが、自分は果たしてどうなるのか。そもそも、闇の魔法を修得した事例が少なすぎる。発現する症状が全く同じとも限らないではないか。自分はいま正気なのか。この欲望は乗り越えられるのだろうか。
ぐちゃぐちゃの思考のまま、宛もなく次元空間を航行させている間に、いつの間にか一週間が過ぎてしまった。補給物資を考えれば、そろそろ手頃な世界に停泊しなければならないが。
『……そう言えば、もうすぐクリスマスだね』
なんて言葉に、フィーは首を傾げる。
「なにそれ?」
『うーんと、地球の、主にキリスト教圏内で開かれるお祭り、かな?』
「……お祭りね~」
『今の座標は地球に近いし、せっかくだからなのはちゃんやフェイトちゃんに会いに行ってみようか?』
「…………ぇ」
相棒が言わんとしていることは、わかる。
願望、決意、効率。そう言った強い感情は闇の暴走に繋がってしまう。だから、少しでも気楽な時間を過ごすことで、心の平穏を保つのだ。
だが、もしかすると地球にはユーノが居るかもしれない。あの遺跡バカに出会ってしまえば、次は何をしでかすか分かったものではない。まだ抱きつくぐらいなら恥ずかしいだけで済むが、悪くすれば……
『だからって、ユーノ君とずっと会わない気かい? そんな状態にフィーの心は耐えられるの? むしろそのせいで暴走しても可笑しくないだろう?』
「む……ぅ」
『怖いのはわかる。けど、あの時とは違って、今は僕も表に出られるんだ。本当に不味くなったら僕が入れ代われば危害を加えるようなことにはならないよ』
「そう、だよね。うんうん、その通り」
運命の悪戯か。
或いは、これこそが逃れ得ぬ業……カルマか。
少年に会って謝りたい。自分を受け入れて欲しい。ネギと言う保険がフィーを動かした。
フィーの身を、その行く末を案じるネギは暴走の危険を考慮に入れつつも、地球への航路を勧めた。
よりにもよってクリスマスの地球へと、デメキング号の舵を切ってしまったのだ。
……
……
……
友人のお見舞いを予定する少女達。
事件解決を目指し、奔走する者。
主を縛る呪いの楔を解き放たんとする人形。
己の欲のままに、強者との死闘を望む者。
闇に紛れて暗躍する組織。
そして、
……もう間もなく、か
世界に次善解を示さんとする者。
世界の車輪が大きな音を奏でて回転する。魔法少女と異界の英雄を巻き込んだ因果は、人知れずその回転に吸い寄せられ、物語を紡いでいく。
本日でEpisodeⅣは終了。明日からは、引き続きEpisodeⅤをお送りしていきますので、今しばらくお付き合いください<(_ _)>
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