リリネギカルま! 改訂版   作:藍上 尾

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 本日よりEpisodeⅤ『完全世界』を更新していきます!

 どうぞよろしくお願いします<(_ _)>


EpisodeⅤ 完全世界
プロローグ


 

 

 ……ヒトはどうして脆いのだろう

 

 『彼女』は泡沫の夢の中でそう呟いた。

 

 触れるだけで砕け散る。

 

 百年かそこらで稼働限界に達し、あっさりと死に絶える。

 

 ……ヒトはどうして愚かなのだろう

 

 『彼女』は永劫の微睡みの中でそう呟いた。

 

 不条理を繰り返し、非生産を繰り返し、惑星の生態系を我が物顔で犯し尽くす。

 

 ……ヒトはどうして素晴らしいのだろう

 

 だが、そんな脆くて愚かでどうしようもない人間と言う生物が『彼女』は嫌いではなかった。可能性に溢れ、繁栄と自滅を繰り返す彼らの行く末を、永遠の眠りについて見守ろうと思う程度には。

 

 赤毛の化け物の嘆きを『彼女』は視る。 

 

「わたし、化け物になっちゃった。覚悟はしてたけど……もう、人間じゃない。……それでも、それでも嫌われたくない奴が居るんだ。どうしようもなく欲しくて、欲しくて欲しくて、一緒に居たくて心が痛むの。わたし、あいつに会いに行ってもいいのかな」

 

 己の選んだ道、選んだ業に身を蝕まれながら、それでもヒトと魔との間で揺れ動く少女の心が、視えた。

 

 そんな葛藤を、『彼女』は愉しげに眺める。

 

 病に身を蝕まれる夜天の主を、『彼女』は視る。

 

「幸せなんて知りたくなかった。家族が出来て、怖くなった。うち、こんなに死ぬのが怖いなんて、思ってなかった。死にたくない。生きていたい……」

 

 呪われた書物に選ばれた少女の、今にも折れてしまいそうで、けれども気丈に耐え忍ぶ強い心が、視えた。

 

 そんな不条理に幸あれ、と『彼女』は愉しげに眺める。

 

 己の力を恐れる英雄の卵を、『彼女』は視る。

 

「傷付くことが怖いの。傷付けることも、怖いの。相手の正義を知らずに挫いてしまうことが。わたしの力は、間違った道でも貫いてしまえるから。だから強い心が、力が、魔法の力に振り回されないだけの、確固とした想いが欲しい。けれど、そうして貫いた道が正しいかなんて、誰にも分からないよ……」

 

 この時代、この世界の中心にして収束点。英雄たる宿命を負った少女の心に芽生えた迷い。本来ならあり得ない筈の車輪のズレが、『彼女』には視えた。

 

 岐路に立つ少女の選択を、『彼女』は愉しげに眺める。

 

 この世全ては泡沫の夢。

 

 過ぎた干渉は、世界を殺してしまいかねないから。

 

 『彼女』はそう言い聞かせて、再び微睡む。

 

 ……?

 

 だがそこで、少しだけ雑音が聴こえてくることに気が付いた。

 

 雑音が永劫の夢に亀裂を入れる。

 

 雑音が世界に歪みを作り出す。

 

 人間の形をした歪みが、『彼女』の前に現れた。

 

 しかし、それは少なくともヒトではない。

 

 かつてはヒトであったナニカ。『彼女』に近く、けれど『彼女』とも違った存在だった。

 

『…………』

 

 ……?

 

 歪みが口を開くが、聞き取れない。

 

 繋がりを形成しきれていないのだろう。だが、この世界へ干渉してきた存在など、永劫にも思える悠久の時の中でも、片手で数える程だ。

 

 深い闇の底で微睡んでいた『彼女』は、ゆっくりとその手を伸ばして…………

 

 

 




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