リリネギカルま! 改訂版   作:藍上 尾

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第三話

 

 

 

 天秤の針が傾いたのは、呆気ないほど唐突だった。

 

「ぅぐっ!?」

 

 水気を帯びた、そんな呼気。

 

 咄嗟に向けた視線の先でシグナムが見たものは、長大な氷槍。腹部を貫通するそれによって地面へ縫いとめられたシャマルの姿だった。

 

「シャマルッ!! ってっめぇ! ッぐぁ!?」

 

 更に、そんなシャマルを庇おうと向かったヴィータの背後から迫る、無数の黒曜石の刃。気を取られたヴィータはそんな致命の嵐を躱しそこねた。全身に裂傷を負い、鮮血を噴き出してシャマルと同じく大地に叩き付けられる。

 

 地上では、ザフィーラが雷を纏った長身長髪の男に吹き飛ばされていた。圧倒的な速度で放たれる拳の連打を、守りに秀でたザフィーラが辛うじて凌いでいるが、時間の問題だろう。

 

「くっ」

 

 状況は余りにも悪い。

 

 だが、シグナムには倒れた仲間をフォローする余裕など微塵もなかった。

 

 鉄すら蒸散させる灼熱の連撃。華奢な四肢から繰り出されるそれは途方もない威力を秘めて、こちらの命を消し炭にしようと猛り狂う。負けじと走らせる剣閃は信じがたい密度の積層多重障壁に弾かれ、牽制程度では直撃しても薄皮一枚断つのが精一杯だ。

 

「ぉおおおああああッ!!」

 

「ふんっ」

 

 刹那で十を数える必殺の応酬。

 

 刃が閃き、炎が猛り、斬撃と打撃が交錯する。

 

 瞬間、袈裟懸けの一閃を手のひらで受け流されたかと思うと、お返しとばかりに手刀が大気を引き裂いた。炎を纏ったそれは容易く騎士甲冑を破り、シグナムの右脇腹を焼き抉る。

 

「っ!!」

 

 激痛。

 

 口内に血の味を噛み締めながらも距離を取り、

 

「終わりだな」

 

 褐色の少女は追ってこなかった。いや、追う必要がなくなったのだ。その事に気付いたときには、もう手遅れ。背後に気配を感じて振り向き様にシールドを展開するものの、焼け石に水だ。

 

 脳裏を過る死の予感。

 

 ……氷槍弾雨(ヤクラティオー・グランディニス)

 

 足元まで届く長髪。垂れ下がった角を頭の両側頭部から生やし、厚手のコートに身を包んだ女。そして、その周囲の空間全てを埋め尽くすような無数の氷槍が解き放たれた。

 

 上下左右、飛行魔法と瞬間加速を駆使したランダム回避。躱し切ることは、不可能。

 

「ぐ、ぁあああっ!!?」

 

 直撃コースのそれを咄嗟のシールドで防ぎ切れる筈もなかった。

 

 大気を引き千切り、霞む速度で迫る槍衾。圧倒的物量にシグナムは飲み込まれた。

 

 硬質な音を立ててシールドが砕け散り、鋭い痛みが全身を襲い、滲む鮮血に視界が染まる。

 

 全身に深い裂傷を負いながらも、それでも辛うじて致命の槍だけは愛剣で切り払ったシグナムは頭上からの詠唱、爆発的な魔力の高まりに息を飲んだ。

 

ほとばしれよ(レウサントーン・)ソドムを焼きし(ピユール・カイ・テイオン・)火と硫黄(ハ・エペフレコン・ソドマ・)罪ありし者を(ハマルトートウス・)死の塵に(エイス・クーン・タナトウ)

 

 ……燃える天空(ウーラニア・フロゴーシス)

 

 視界全てが炎の赤に染まる。

 

 骨すら残さず、万象一切を塵へと変える浄化の炎。

 

 己の消滅まで残り一秒。

 

 ……こんなところで

 

 主を残して、死ぬわけにはいかない。

 

「カートリッジッ!!!!」

 

 一秒後に迫る死を否定し、生へと噛み付くようにシグナムは吼えた。

 

 愛剣はそんな自分の気合いに応えてくれた。機構が作動し、残ったカートリッジ五発全弾をロード。肉体が内から弾けそうな魔力の猛りが全身を駆け巡り、それら全てを余すこと無く障壁へと注ぎ込む。

 

 刹那、視界を埋め尽くす広範囲焚燒焼殲滅魔法に呑み込まれる。

 

 激震する大気。

 

 迸る爆炎。

 

 燃える。

 

 燃える。

 

 燃える。

 

 障壁を越え、騎士甲冑を越え、存在自体を焼却せんと炎がシグナムを犯す。

 

「ガァアアァアアアアッ!!!!」

 

 ビキリ、と強化を重ねた堅固な障壁に亀裂が走る。

 

 渾身の魔力ですら浄化の炎を防ぎきるには些か足りなかった。いや、そもそも全身に裂傷を負い、ダメージが蓄積した状態でベストコンディションでも可能か分からぬ無茶に挑んだのだ。必然と言いうべきだろう。

 

 バキリ、と全霊の魔力を滾らせても亀裂の進行は止まらない。

 

 世界を燃やし天空全てを焦がす炎。それは永劫に続く業火の如く、空間を焼却する。

 

 バキン、と広がった亀裂から入り込んだ灼熱がシグナムの頬を舐める。

 

 全身が熱い。

 

 視界はアカイ。聴覚は轟音によって麻痺し、嗅覚は血の臭い、味覚は鉄の味、触覚すらも定かではない。

 

 自分は今、レヴァンティンを握っているのか。自分は今、ちゃんと空に踏み止まれているのか。いや、それどころか自分の身体が存在しているのかすらも、分からない。

 

 だがそれでも生き抜かなければ、と思った。あの優しい日々を取り戻すために、自分はここで消えるわけにはいかないのだ、と。

 

「…………が」

 

 パリン、と儚く散った障壁。

 

 そうして、障壁が砕け散るのとほぼ同時に、赤の世界をシグナムは抜けた。

 

「が、ぁ…………あ」

 

 生き残った。

 

 引き千切れんばかりに張っていた精神の糸が僅かに撓んだ瞬間、気付けばシグナムは地面へ向けて落下していた。

 

 最早、残りカスのような魔力しか残っていない。

 

 ……負けたのか、私は

 

「く、……そ…………っ」

 

 朦朧とした意識の中、余りにも不甲斐ない己の弱さを嘆く。

 

 まだやれる。そう己の肉体に鞭を打ち、辛うじて絞り出した魔力で地面に着地。だがそこまでだ。片膝をついた足が、地面に根を張ったように動かない。既に魔力は枯渇し身体はボロボロ。立ち上がることすら難しい状態だ。

 

 だが、それでも。

 

「…………まだ、だ」

 

 気付けば、隣でシャマルとヴィータ、ザフィーラが倒れていた。一ヵ所に纏めて一気に終わらせるつもりだろうか。いや、

 

「まだ、終わらん」

 

 震える膝に活を入れ、無理矢理立ち上がる。

 

「…………ぇえ、まだ、やれるわ」

 

 腹部を氷槍に刺し貫かれたシャマルは、応急措置のみを施した鮮血の滲む腹を押さえて、立ち上がる。

 

「もちろん、やれるぜ」

 

 全身の裂傷から鮮血を垂らすヴィータは、デバイスである鉄槌(グラーフアイゼン)を杖代わりに身体を支え、立ち上がる。

 

「うむ」

 

 口端から垂れる鮮血を拭い、ザフィーラは両の脚でしっかりと立ち上がる。

 

 まだやれる。

 

 主を救う。

 

 確固たる決意が肉体の限界を越え、精神でもって身体を動かす。しかし、そんな彼らに待っていたのは、更なる絶望だった。

 

「……もういいだろう。表層の掌握は完了した」

 

 少女と女のちょうど間ほどの、それでいて機械的な温度を感じぬ声音。

 

「なっ…………」

 

 ヴォルケンリッター全員が目を見開いた。

 

 明らかに愛しい主とは異なる、艶やかな声音が戦場に響いたかと思えば、辛うじて立ち上がるシグナム達の前に見覚えのある容姿をした女が現れたのだ。

 

「ば、かな」

 

 それしか言えなかった。

 

 夜空に輝く流星のように煌びやかな銀髪。鮮血のような赤い瞳。佇んでいたのは、漆黒のローブに身を包んだ管制人格の姿だったのだ。

 

「守護騎士プログラム、機能停止」

 

 なんて、あっさりとした命令だけで、シグナム達の身動きは完全に封じられてしまう。

 

 それだけで理解できてしまった。

 

 敵はもはや、闇の書の深い部分にまでその制御の手を伸ばしているのだ、と。

 

「手向けだ。最後は主と共に夢へ沈むがいい」

 

 何て嘯き、いつの間にかはやてをその手に抱える造物主。用済みだと言わんばかりにシグナム達の目前まで眠るはやてを浮遊させ、その身を地面に横たえさせる。

 

 ……終わり、か

 

 システムによって縛られ、完全に動かぬ身体。

 

 目の前に横たわる愛しい主。

 

 そして、こちらへ手を向ける管制人格の姿を象った造物主なるバケモノ。

 

 絶望に目を閉じたその時、

 

「…………む」

 

 造物主が結界に包まれた天を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 残念ながら、己には圧倒的な力と言うものがない。

 

 彼の英雄、千の刃(ジャック・ラカン)の如き莫大な『気』を練ることも出来ない。千の呪文の男(サウザンドマスター)や、脈々と連なる呪術の家系に生を受けた近衛木乃香のような圧倒的な魔力も持たない。

 

 特殊な能力を持つでもなく、言ってしまえば自分は凡庸な存在でしかなかったのだ。

 

 認めたくなかった。

 

 すぐそこに限界の壁を感じながら、来る日も来る日も鍛練に励んだ。拳が、四肢が潰れるまで打ち込み、内臓機能を高める代わりに死のリスクを負う秘薬を常用し、気力を爆発的に向上させる術式実験にも参加した。

 

 だが、そこまでだ。

 

 確かに一流の高みには立てただろう。だが、自分が目指すのは更に上。一流の上の超一流を更に越えたその先。

 

 何か方法はないかと調べた。

 

 慣れない文献を探り、情報をかき集め、漸く掴んだのは自身の生家である古家が秘匿する究極闘法(アルテマ・アート)の派生系だった。

 

 娘にすら秘匿されていたその術を奪うため、父と母、祖父と祖母には死んでもらった。戦争中の混沌とした世界では、容易いことだった。

 

 咸卦法。

 

 肉体外部の魔力を陽の気、肉体内部の気を陰の気として、異なる性質のそれらを混ぜ合わせることで莫大な力を得る術法だ。

 

 針の穴を通す、なんてレベルでは済まないほどの精神力と集中力を要する高難度技法。古菲が知る限り、世界でも実践レベルまで極めた咸卦法の使い手は、高畑・T・タカミチと故人であるガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグの二人、そして神楽坂明日菜もそれに一歩劣る形で修得している。

 

 確かに困難だろう。だが、どれほど困難であろうとも力が手に入るならば邁進するのみ。

 

 そうして試行錯誤の中、生家に伝わっていた秘伝書を頼りに、古菲は究極闘法を形にしていった。

 

 魔力を水とするなら、気は火だ。

 

 拡散する性質を持つため魔法と言う術式に当てはめる『魔力』。生命力を燃焼させ無理矢理肉体の活性化を促す『気』。相反する性質を持つが、上手く組み合わされば凄まじい出力が引き出せる。

 

 ようは火薬と同じだ。単独では火を点けても燃えるだけだが、圧縮すれば爆発を起こす。常人ではその爆発を御することなど出来ず、下手をすれば肉体が内から弾けて死ぬだけ。

 

 だがしかし、古菲と言う拳の魔物は、どんな天才でも足掛かりに数年は掛かるその行程を、たったの一月でものにした。

 

 拙い魔力制御を、研ぎ澄まされた気の制御技術でカバー。遠回りな自殺行為を平然と日常的に、寝ても覚めても繰り返す。下手を打てば魔力と気が反発し、その身が砕けても可笑しくはない狂気の沙汰。

 

 そんな日々を過ごすこと一年。漸く満足できるレベルまで技量が練熟する頃には、戦争は終わっていた。

 

 古菲は戦いの場を無くした。

 

 地球連合と魔法世界の抗争、『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』との死闘、その両方に区切りがついてしまったのだ。

 

 だから、

 

「……だから、本当に嬉しいアルヨ。貴様が再び私の目の前に現れてくれるなんて」

 

 そう呟いて、古菲は大気を蹴った。

 

 場所は管理局の魔導師が張った結界。造物主が閉じ籠る漆黒の結界、その周囲を囲む魔力結界を無理矢理突き進み、制止する魔導師を裏拳の一つで吹き飛ばした。

 

 飛来する射撃魔法を手捌きで投げ返し、近付くものは拳で黙らせる。血反吐を吐き出して墜ちていく魔導師達の行方になど目も向けない。古菲にとって蹴飛ばした路傍の石に他ならないからだ。

 

 そうして、うるさい羽虫達が墜ちていくのを視界の端に映しもせずに、結界の天辺に辿り着く。

 

 僅かな精神集中。

 

「ぅん」

 

 丹田にて混ざる陰陽、気と魔力が炸裂した。

 

 莫大な力の奔流。そこに有るだけで空間が捻り曲がってしまいそうな咸卦の気。少しでも扱いを誤れば、その瞬間に身体が弾けてしまいそうな力の胎動が、一切の無駄無く肉体を駆け巡る。

 

 これより先は死地。

 

 己が望み、憧れた修羅場。

 

 この先を乗り越えたならば、更なる高みが見れるに違いない。

 

「まだ私は強くなれるアル。まだ先へ、高みへ届く。その可能性があるならば、死ぬ程度わけないアルヨ」

 

 ……絶招

 

 故に笑う。

 

 まるで、誕生日を前にした幼子のように、

 

 嗤う。

 

 まるで、餌を前にした肉食獣のように、

 

「ぁあ」

 

 幾度も幾度も、幾度も夢に見た修羅場。圧倒的な敵にちっぽけな己一つで立ち向かう、夢。

 

 願わくばどうか、夢そのままであってくれますように。

 

 なんて破滅的な願いと共に、

 

「流星崩拳」

 

 その拳を振り抜いた。

 

 凄まじい轟音と共に漆黒の結界に突き刺さる一打。

 

 あたかも巨大な質量を有する隕石が天から堕ち、大地へ降り注いだかの如き拳の振り降ろし。

 

 流星崩拳。

 

 それは、地形を変え生態系を滅ぼす天からの一撃を模した拳。莫大な咸卦の気を毛の先程も無駄にせず、集束させた一打。オーバーSランク級魔導師の砲撃魔法すらも比較にならぬ大威力。

 

 英雄ジャック・ラカンの奥の手、最大出力の気を爆裂させるラカン・インパクト。Sランクの砲撃魔導師が高難度の集束技能を体得することで放つことを可能とする、凡そ個人の成せる最大最強の一撃、集束砲撃(ブレイカー)。そんな人類最高峰に並び立ち、超える為に編み出した業だ。

 

「は、はは、くははははははっ!!」

 

 大気を震撼させる余波が掻き消えた先には、人一人優に通り抜けられる孔。

 

 驚くべきは個人で壮絶極まる強度の結界を貫通し得た古菲か、それとも、そんな馬鹿げた強度の結界を張って見せた造物主に対してか。

 

 自己修復し、徐々にその孔を閉じて行く結界。

 

 穿たれた結界の先、黒いローブを見据えて、

 

「さぁ、お前と言う壁を私は越えて見せるアルヨ」

 

 古菲は一人、死地へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

「なになにっ、いったい何が起きたっての!?」

 

 視界の遥か先、フィーの目指す漆黒の結界の上部が爆発したように輝いたかと思うと、次の瞬間には管理局の結界すらも越えて響く轟音と地響きだ。

 

 ビルとビルの間を跳び跳ねて移動していたフィーは、思わず立ち止まり、目を疑った。

 

 眼下では何事かと辺りを見回す一般市民の姿。

 

『……クー、老師? いや、でもこんな……まさか!? 先を急ごう、フィー。行ってみれば分かるさ』

 

「おっけー!」

 

 クー老師と言えば、ネギが師事した近接戦闘の師の一人だと聞く。古菲と呼ばれる女性。戦乱の中で行方知れずになっていたと聞くが……

 

「管理局の人達がどうなったか心配だし、もう少し飛ばしてこうか」

 

 そう言って、フィーは虚空を蹴って先を急いだ。

 

……

 

……

 

「いったい何が……エイミィ、情報を!」

 

「ちょっと待ってよ、クロノ君!! えぇっと……」

 

 アースラのブリッジには幾つもの空間ディスプレイが展開され、サーチャーから送られてくる情報が煩雑に次から次へと表示されていた。今宵二度目の異常事態だ。クロノの声に反応し、エイミィはキーパネルを慌ただしく叩いた。

 

 角度を変えて結界を監視する幾つものサーチャーから映像が入り、モニターへ映し出されていく。

 

 エイミィの隣では、アレックスが結界監視の為に配置に着いていた魔導師達へ連絡を取っているが、突如発生した大爆発の影響で念話にノイズが走っているようだった。

 

 幾つもの映像から、爆発直前に何が起きたのかを探ったエイミィは、十秒ほどで結界上部に拳を振り下ろした褐色の女の姿を補足した。

 

「クロノ君」

 

「こいつか……いったい何者なんだ」

 

 映像を切り抜き、人物像を検索に掛ける。そして、暫くして出された答えは、

 

「第一級広域次元指名手配犯罪者、本名は不明で、通称『魔拳』……うわっこの人、超人集団の特務機動をたった一人で殲滅したことがある凶悪犯みたいだよ」

 

「なんだと!?」

 

 クロノが驚愕するのも無理はない。特務機動隊と言えば、その道のスペシャリストが集う超エリート集団だ。若くして執務官となった少年でも、一対一でどこまで食らいつけるか、と言ったレベルの相手なのだ。そんな人間の限界に挑むような超人達をたった一人で殲滅する。もはや、それは人間と言えるのだろうか。

 

「これは、下手に手を出すわけにも行かなくなっちゃったかな。と言うか、なんであんなのがこんな世界にいるかな~」

 

 なんてエイミィの嘆きに頷き、クロノはモニターを凝視した。

 

「…………闇の書、か」

 

「え?」

 

「管理外世界であるこの次元で、魔法関連の事件と言えば今起きている闇の書関連しかない。無茶苦茶で強引な誇示付けだが、あいつの狙いは闇の書をどうにかすることなんじゃないか?」

 

「どうにかって、どうするって言うの?」

 

「そこまでわかったら苦労しないさ。兎に角、今は提督と相談して本局に応援を頼むしかないが……地球の拠点に転移中継ポートが開いているから、一日もあればここまで来れるだろうが、肝心の人員が難しいな」

 

 次元世界を股に掛ける時空管理局の本局とは言え、手の空いている戦力が常に滞在しているわけではない。特に、あんな化け物と対峙しようと言うのであれば、相応の部隊を組み、組織的に動かなければ勝ち目はないだろう。そこまで考えると、一週間あっても足らないだろう。

 

「くそっ、ある意味闇の書のバグった防衛プログラムよりも厄介だぞ」

 

 アースラの最大戦力はクロノ、フェイト、なのはの三人。リンディ提督やユーノは優れた魔導師だが、『魔拳』を相手にするにはあまりにも危険過ぎる。各戦闘部隊もだ。彼らが弱いと言うわけではなく、相手が悪すぎる。

 

 エイミィは思わず目頭を押さえ、頭を抱えた。

 

「ぁあ~、もう、どうしよう」

 

「とにかく、もう一度会議室に集合するぞ。結界監視班の被害を確認して、こちらに戻せ。危険過ぎる。それと、恐らくもうすぐフィーが出てくる筈だ。合流してから話し合おう」

 

「了解!」

 

 何かが起きている。

 

 あの結界の中で、何か恐るべきことが起きている。

 

 今はまだ機会を待つ時だ。そう言い聞かせて、エイミィは端末のキーパネルに指を走らせるのだった。

 

 

 

 




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