リリネギカルま! 改訂版   作:藍上 尾

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第七話

 

 

 

 その理想が向かう先は破滅か、或いは楽園か。

 

 人の数ほど幸せの定義は存在し、人の数ほど不幸もまた存在する。

 

 それら全てを満たす解などこの世には存在せず、しかし、ならば次善解を示そうと足掻く者がここに居る。

 

 『彼女』には、彼の者の行く末に何が待つか見通すことは出来なかった。神の如き傲慢な思想。聖人の如き滅私の求道。完全な世界が齎すであろう人類の幸福と停滞を、繁栄と見るべきか、破滅だと糾弾すべきなのか。だがしかし、

 

『うん』

 

 そこに在るだけで星を滅ぼす、唾棄すべき存在である己の力が、救世の為に使われるならば本望だろう、と。

 

 幾つもの星を人の住めぬ死の世界へ変えてきた。

 

 積み上げた骸の数は兆にも及ぶだろう。

 

 その事を嘆きはしないし、慈悲も乞わない。そんな機能は『彼女』には無いからだ。だが、摘んでしまう命の蕾を惜しむ位の心はある。だからこそ、

 

『貴方なら、使いこなせるかな』

 

 と、漆黒の外套に身を包む存在へ呟く。

 

 その行く先に多くの人々の笑顔があることを祈って。

 

 『彼女』は、差し出されるその手を取った。

 

 

 

 

 

 

 静寂。

 

 頂点と頂点の激突は既に過ぎ去り、後に残されたのは物寂しく吹き荒ぶ終わりの風。

 

 遮断結界によって外部から隔絶していたそんな空間に、黒いバリアジャケットに身を包んだクロノはただ一人降り立った。

 

 未知の術式による封鎖結界が解除されてから五分。短い時間ながらも、出来る手は全て尽くした。ならば、あとは最善を尽くすのみだ。

 

 デバイスを油断なく構える。飛行魔法で宙に滞空し、短時間で頭に叩き込んだサーチャーが捉えた周囲の状況を再確認する。

 

「……っ」

 

 感じたのは、噎せ返るほどに凄まじい魔力の余波だった。

 

 少なくとも十人以上の、Sランクオーバーの魔導師が熾烈を極める戦闘を繰り広げたのだろう。広い敷地を持つ大学病院は瓦礫に変貌し、周囲の大地には深い魔法の傷跡が無数に刻まれている。

 

 結界内へ侵入した魔拳と造物主との激突。残留魔力や、状況を考慮するに、あの女は単騎にして『使徒』と呼ばれる守護騎士のように強力な存在達を屠ったことになる。だが、そんな化け物じみた魔拳ですら、造物主に敗れて姿を消した。

 

 ……確認した通り、ヴォルケンリッターは動けないか

 

 何らかの束縛を魔導書から受けているのか、地上には傷だらけで膝をつく四人組と……恐らくは闇の書の元主であろう倒れた少女の姿。

 

 そして、

 

「お前が、」

 

 眼前の空間に漂う黒衣。

 

 神々しさすら感じさせる、銀髪の女の姿が一つ。

 

 その肉体は記録にある闇の書の管制人格のそれと同一だ。だが、中身が全くの別物。一向に暴走の気配を感じさせず、向けられた紅の視線に籠る神威は、ただそれだけで数多の事件を乗り越えてきたクロノを跪かせん程。

 

 ……やはり

 

『クロノくん!』

 

『あぁ……』

 

 可能性はあった。持ち主を蝕み、最期には暴走して世界を壊す闇の書。第一級捜索指定ロストロギアを完全なる制御下に置く。そんな不可能を、悠久の時を生ける化け物は可能にしたのだ。

 

「……造物主(ライフメーカー)

 

「その名を知ると言うことは、やはり我が宿敵もこの次元へと堕ちてきたか」

 

 静かな、それでいて大自然の壮大さすら窺わせる魔力の動き。

 

 個人でどうにかなる相手ではない。そのことを知識ではなく体感として、執務官の少年は痛いほど思い知らされた。膨大な魔力を持つ相手との戦闘経験は確かにある。だが目前のそれは、以前の事件で対峙した大魔導師(プレシア・テスタロッサ)、自滅を覚悟した彼女のそれすら凌駕している。

 

 その力は、もはや人の域にはない。

 

 その威容をなんと表現すべきだろう。人の形をした大規模魔力炉心、とでもいうべきか。

 

 だがそれでも、世界の秩序を維持する時空管理局の執務官として、少年は造物主へと己の愛機を向ける。

 

「時空管理局、執務官のクロノ・ハラオウンだ。お前には第一級捜索指定遺失物所持、そして管理外世界での魔法行使、管理局法違反の容疑が複数掛けられている。抵抗せず、大人しく投降しろ」

 

 突然アースラから転移してきてデバイスを向けるクロノに対し、造物主はただ視線を向けるのみだ。警戒など全くしていないのだろう。だが、それも無理はない。AAA+の格付けを持っているクロノですら、目前の存在との間に人と神ほどの隔絶した差が横たわっているのだから。

 

 ……好都合だ

 

 だからこそ、確実に倒せるだろうクロノを攻撃しない。

 

 このまま対話に持ち込み、時間を稼ぐ。

 

 作戦には今しばらくの時間が、

 

「……時空管理局。次元世界の秩序の番人か。確かに、その存在は数多くの人々を不条理から救い上げたのだろうな。救い上げた人々に倍する弱き者の犠牲を対価に」

 

「……なんだと?」

 

 管理局の存在理由を根底から否定するような造物主の言葉に、思わず眉間に皺がよる。

 

「秩序とは、歴史の勝者が敗者を律するために造った枠組みに過ぎない。其処から溢れた者に、否が応にも不条理を強いる」

 

「……勝者も敗者も関係ないさ。犯罪には罰を、救われない者に救いを。確かに手は足りないが、それでも管理局は世界を護る為に尽力している」

 

「その支配下にある世界の住民は、であろう? 彼の英雄から私のことを聞き知っているならば、私の目指す先も知っている筈だ。私ならば管理外世界であろうと管理世界であろうと、此の世に生ける魂全てに救いを与えられる」

 

 完全なる世界。

 

 かつて、目の前の存在が率いた組織の名であり、遍く人々の全てを幸福が支配する異界へと封じる大魔法の名。

 

 ネギの言葉は本当だった。

 

 人の世を救おうとする狂った聖人にして、史上最大規模の祟り神のようなモノ。それがアレの正体だ。だが、そんなものは、

 

「…………そんなもの、お前の独善に過ぎない」

 

 こんな筈じゃなかった世界。不条理で不合理な現実。だが、そんな逆境を乗り越えてこそ、人は先へ進める。

 

 宝石の原石が研磨なくして輝かないように、試練なき人間に成長はない。

 

「悲しみを乗り越えて初めて人は前へ進めるんだ。お前のそれは、ただの停滞に過ぎないと何故わからない! それだけの力があれば、何れだけの人間を救えると思ってる!! 何でお前は、最初から諦めてるんだ!!!」

 

 柄にもなく、クロノは自分が熱くなっていることに気が付いた。

 

 それは造物主が、今まで少年が対峙してきた犯罪者とは一線を画する存在だからだ。人々を害そうと、己の欲を満たそうと他を害する犯罪者ではなく、人々を救わんとして世界を壊そうとするなど、本末転倒も良いところだ。

 

 志の根幹は同じだった筈なのだ。だと言うのに、どうしてこうも道を踏み外してしまったのか。

 

「……そうだ。結局、良くも悪くも人間は前へ進むことしか出来ぬ。幸福の青い鳥が身近に居ると知りながら、其れでも満足せずに先へ先へ……秩序を志す者よ。貴様もいずれ、人間の度し難い愚かさに膝を折る時が来る」

 

「そんなこと、とっくの昔に知っているさ。自分勝手な人間が引き起こす事件に、僕達が何れだけ振り回されていると思ってる?」

 

 噛み合わぬ主張。

 

 それも当然か。神と人とでは、その視点からして異なるのだから。故に、この会話に意味はない。ただ己の考えを提示するだけの、時間稼ぎの作業に過ぎない。

 

 その事を、少しだけクロノは惜しく感じた。

 

 こんな神の如き存在が秩序の維持に貢献してくれるなら、いったいどれ程の人々が救われるだろうと思ってしまうから。だが、それも此処までだ。

 

『準備完了だよ!』

 

『了解だ。作戦通りに行くぞ』

 

 エイミィの合図。

 

 それに言葉短く返答し、クロノは造物主を睨む。

 

「投降の意思はないんだな」

 

 そんな最終確認と共に、造物主の周囲を魔力で編んだ蒼い刃が囲っていく。

 

 スティンガーブレイド・エクスキューションシフト。本来は敵頭上から撃ち下ろす百を越える剣群を、三百六十度全方位、囲むように配置する。

 

「時間稼ぎはもう良いのか」

 

「っ!」

 

 こちらの意図を見抜かれている。

 

 だが、もう遅い。

 

「むっ?」

 

 刹那。

 

 天より、一条の極光が世界を貫いた。

 

……

 

……

 

「主砲を、ですか!?」

 

「ぇえ。それしか方法は無いでしょうね」

 

 エイミィの驚愕の声に、リンディ提督は落ち着きを払った態度で頷いた。

 

 時は遡り、クロノがアースラを発つ前のこと。ネギによる情報提供から作戦会議に進んだ際の出来事だ。

 

 英雄ネギ・スプリングフィールドの情報を元に練った作戦。それは、通常ならば絶対に取らないだろう常軌を逸したものだった。

 

 フェイト、なのは、アルフ、ユーノ、そしてフィー。会議室に揃ったクロノを入れて六人の主戦力は、リンディ提督の言葉に眼を見開く。

 

「地上へアルカンシェルを使う訳じゃないわ。通常の艦載射砲撃を最大出力で撃ち込むのよ。……ネギさんは何て言ってるかしら?」

 

 何て問いにフィーが小さく唸り、頷いた。

 

「むーん、相棒もそれしか無いだろうってさ」

 

「あの、アルカンシェルってなんですか?」

 

 首を傾げるなのはに、フェイトが耳打ち。

 

「凄い威力の魔導砲だよ、なのは。多分、地上に向けて撃ったら、海鳴市が無くなっちゃうくらい強力な。対闇の書対策用にアースラに装備されてるんだ」

 

「ふえぇ!?」

 

「まぁ、アルカンシェルじゃなくて通常の艦載砲撃でも、個人に向けて撃つものじゃないんだけどね。それでも倒しきれないとか、何れだけ厚い魔法障壁なんだか。曼荼羅のような積層多重障壁、か。曼荼羅ってあれだよね、地球にある宗教の……」

 

 結界魔導師であるユーノは、出鱈目な造物主の防御力に溜め息しかでない様子だ。

 

 確かに、近接戦闘よりも魔法障壁の減衰をもろに受けてしまう砲撃だとは言え、アースラのような大型の次元航行艦船からの砲撃を受けても墜ちないなど、大型航行艦船よりも固い防御と言うことになる。クロノは改めて敵の出鱈目さに固唾を飲んだ。

 

「そして、クロノ執務官」

 

「はい」

 

「貴方には、一人で地上へ転移してもらいます」

 

「!」

 

 息を呑む一行。

 

 危険な役割だ。だが、そんな危険な役割を受け持つために、執務官としてクロノは厳しい訓練を乗り越えてきた。

 

「リンディ提督、それは」

 

「良いんだ、エイミィ」

 

 エイミィの言葉をクロノは止める。そうして、リンディ提督と、己の母と視線を合わせた。平静を装う提督としての表情、その奥に光る、心配、そして信頼。

 

「……僕が注意を引いて、その隙に砲撃を充填する、と言うことですね」

 

「えぇ。普通なら考えられないけれど、大気圏外での魔力充填を感知される可能性も考慮します。最大出力の艦載砲を確実に直撃させて、防いでいる間に残りの人員を転送。砲撃照射限界の凡そ一分前後の間に、各々の最大魔法で攻撃し、造物主の障壁を完全突破して彼を撃破します」

 

 力押しだが、短時間で考えうる最善の策だろう。

 

「で、でも、造物主さんは倒せないって、さっきネギさんが……」

 

 なんてなのはのもっともな疑問に頷く。

 

「ああ。だが少なくとも、それで闇の書の狂った防衛機構(ナハトヴァール)はコアを露出させる筈だ。当初の予定通りに宇宙空間へ転送してアルカンシェルで消滅させれば、魔力源を失った造物主の封印処理も可能になるかも知れない」

 

 強大な力の源たる依代、闇の書を失えば造物主の力も半減する。それでも尋常な相手ではないが、今の状態よりは封印魔法による対処も可能な筈だ。

 

 困難だが、決してこのメンバーで不可能な作戦ではない。

 

 幸い、カートリッジによって瞬間出力はオーバーSに匹敵するなのはとフェイト、そしてネギの存在が影響しているのかS級まで成長しているフィーが居る。魔導師として最上位に位置する資質を誇る三人と、それには一歩劣るものの優秀なユーノとアルフ。更には艦載砲撃だ。如何に闇の書を携えているとは言え、防ぎ切れないだろう。

 

「回避出来ないように、何とか造物主の動きを制限して下さい。頼むわよ…………クロノ」

 

「了解です、艦長……いえ、母さん」

 

……

 

……

 

 障壁が軋む金切り音。

 

 大気を白熱させる轟音。

 

 眩い白銀に染まる世界。

 

 直径にして十メートルは下らない極大の魔力砲撃。大気圏外、宇宙空間より放たれるそれは一流の魔導師でも掠るだけで消滅するだろう超威力。対艦戦を考慮したそれは、もはや個人へ向けて放つものではない。

 

「くっ……!!」

 

 そんな万象一切を消し飛ばす一条の極光が、幾十幾百の層が繊細にして緻密に重ねられた障壁に、正面から受け止められている。

 

 ……やはり

 

 リンディ艦長、そしてネギの予測は正しかった。

 

 激震する空間の中で、クロノは眼を細める。

 

 信じがたいことだ。最上位に位置する魔導師が対艦戦闘で勝利した例は皆無でない。だが、果たして正面からのぶつかり合いに応じて尚、膝を屈しない化け物は存在しただろうか。

 

 だが、

 

 ……それも作戦の、想定の範囲内だ

 

 元より防がれること前提の主砲。故に、クロノは驚愕を呑み込み、一切の遅滞無く展開していた魔力刃による一斉掃射を解き放つ。

 

「ぉおおおおおおおお!!」

 

 全身全霊。

 

 後先など考えぬ全開だ。

 

 恐らく、ここで仕留めることが出来なければ、管理局の総力を結集した大事件に発展しても可笑しくない。それほどの脅威を、執務官であるクロノは肌で感じていた。

 

 猛る魔力。

 

 大気を貫く蒼き刃が、頭上からの砲撃に動けぬ造物主目掛けて迸る。

 

 最初に展開した百。それでは足らぬと追加で刃を生成し、遂には千へと達する。

 

 クロノだけではない。

 

 砲撃の直撃とほぼ同時に転移してきたフィー、なのは、フェイトが各々の最大を解き放たんと莫大な魔力を集中させている。

 

 フィー。

 

 頭の後ろで束ねた長い赤毛、ピンクのジャージをはためかせ、その片手を掲げて見せる。迸る膨大な魔力の雷が集束し、空間に出現する長大な雷神の槍『巨神ころし(ティタノクトノン)』。少女の身体に宿る英雄、ネギの必殺。広域雷撃殲滅魔法を凝縮し、その超絶の威力を一投に封入したそれは、直撃すれば大型次元航行艦船すら、防御の上から撃墜しても可笑しくはない。人の域にある魔法としては極限、最上位に位置する業。

 

 全てを滅する雷神の一撃が、空間を奔る。

 

 なのは。

 

 構えた愛杖、レイジングハートは既に最大駆動(フルドライブ)のエクセリオンモード。弾き出される空薬莢は四発。足下の中空へ展開される桜色の巨大な魔法陣。集束する魔力の胎動は、Sランク級の砲撃魔導師と遜色ないほど。『エクセリオンバスター・フォースバースト』。強大な魔力を内包する桜の光球が少女を中心として四つ。それは、チャージに時間が掛かる集束砲撃(スターライト・ブレイカー)を除けば、なのはの持つ手札で最大威力の技だ。障壁貫通、着弾時炸裂反応、同時発射される四条の柱と、その中央を突き抜ける極大の砲撃。

 

 合わせて五条。桜の極光が、雪崩を打って突き進む。

 

 フェイト。

 

 なのはと同じくフルドライブモード・ザンバーフォーム。バルディッシュ・アサルトをその手に握り、ツインテールに束ねた金の長髪を棚引かせる。そのデバイスの形状は、半実体化した魔力の大剣だ。優に身の丈の数倍を越えるそれを、肩へと担ぐ。紡がれるは高速の儀式魔法。それは、W軸への干渉だ。この次元とは位相を異にする上位存在へ魔力を対価に超絶を乞う。迸る稲妻。カートリッジ全弾をロードし、手にした全てを雷刃へ。『プラズマザンバーブレイカー』。それもまた、人の域にある魔法としては最上位にある極限の一つ。集束砲撃(ブレイカー)や、彼の英雄の気の爆裂、人の域に在った頃の魔拳が手にしていた究極の一打。そんな、最強クラスにある業と同格の一撃。

 

 雷光一閃。大剣の一振りが巨大な斬撃の奔流と化し、万物を元素の粒へと滅却する。

 

 空間を穿ち、万象を呑み込み消し去る三つの超威力。もはや、如何なる存在であろうとも抵抗を許されぬ魔法の奔流が、艦載砲撃で中空の一点に縫い止められる造物主目掛けて突き進む。

 

 回避は不可能。

 

 防御も無意味。

 

 神話の一頁すら連想させるその極限を、クロノはその眼に焼き付ける。

 

 視界の端、ユーノとアルフが地上で立ち尽くすヴォルケンリッターとその元主の少女をこの戦闘域から救出しようと向かっている。

 

 この時点で、艦載砲撃から三十秒。

 

 広大な封鎖結界内全てを掻き乱す爆裂の剛風が、着弾と同時に吹き荒れた。

 

……

 

……

 

「直撃、確認しましたっ!」

 

 戦域をモニターしているアースラのブリッジに、そんなエイミィの声が響く。

 

 サーチャーから送られてくる無数の情報を整理し、映し出される幾つものモニター。その中でも一際巨大なメインモニターに映されるのは、造物主が存在した中空だ。

 

 アースラ最大出力の艦載砲撃。クロノによる魔力刃の一斉掃射。フィー、なのは、フェイトによる三つの大魔法。如何に神の如き存在であろうとも、ここまで絶殺を揃えた陣容を前に、抵抗など不可能な筈だ。

 

「反応はどうなっていますか! 転送準備と封印魔法の準備、急いで!」

 

 思わず、荒げそうになる声を抑えて、リンディはそう言った。

 

 慌ただしく情報収集に努めるアースラスタッフ。祈るような心地でモニターを凝視する。大魔法の爆裂した余波により蜃気楼のように歪む、サーチャーからの光景。造物主の姿は未だ確認できない。

 

 倒せたのか。

 

 倒せたならば、早く闇の書の核を転送魔法で宇宙空間へ送ってもらわなければならないが。

 

 何十倍にも長く感じた十数秒が過ぎ、

 

「……魔力反応確認! こ、これはっ……!?」

 

「っ!? なんて、こと」

 

 驚愕が、アースラの中を駆け巡った。

 

……

 

……

 

 間違いなく、直撃した。

 

 黒いバリアジャケットの裾を激しい烈風に煽られながら、クロノはそう確信する。

 

 艦載砲撃。クロノが放ったスティンガーブレイド。なのは、フェイト、フィーによる三種の極大威力の魔法。

 

 吹き荒れる爆煙と魔力の嵐は、それだけで人など容易に吹き飛ばす暴風だ。アルフとユーノが元主の少女とヴォルケンリッター達をシールドで守りに入らなければ、彼女達は大怪我を免れなかっただろう。

 

『反応は! エイミィ、奴はどうなった!?』

 

『────ク……くん。だ──力反……が──……』

 

 念話による通話が、予想を遥かに上回る魔法の余波のせいで通じない。

 

 クロノは一つ舌を打つと、造物主が居ただろう空間を見据えた。自前の魔力感知も、この高濃度の残留魔力の嵐の中では当てにならないのだ。

 

 作戦通りなら、造物主が依代としている管制人格の器は消滅し、闇の書の核が露出している筈だった。いや、器の消滅とまでいかずとも、機能不全に陥る程度には、確実にダメージが通っていなければ可笑しい。

 

 そして、

 

「……闇統べる王(ロード・ディアーチェ)。王のマテリアルを拝命」

 

「……星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)。理のマテリアルを拝命」

 

「……雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)! 力のマテリアルを拝命だよっ!!」

 

 どこか見覚えのある顔をした三騎の使徒。絶望が煙を切り裂いて現れた。

 

「ふむ」

 

 黒衣を靡かせる造物主は無傷。そして、その周囲を守るように陣取る新たな使徒。

 

 元主の少女、なのは、フェイトに酷似した容姿を持つその三騎はしかし、纏う超絶の魔力と冷徹な……若干一名異なるものの……風格が少女としての可愛さよりも、触れれば切れる刃の如き佇まいを窺わせた。

 

「……馬鹿な」

 

 それしか、言葉が出ない。

 

 使徒は魔拳との闘いで全て消滅した筈だ。新たな使徒などそうそう造れる筈がない。だと言うのに、三人の少女は確かに其処に存在した。

 

 ……まさか、闇の書に保存される膨大な情報を流用したのか

 

 或いは、書に封じられていた管制人格とは異なる人格を、読み取られていた肉体情報の中から最も相応しい器に押し込み、使徒として完成させたか。

 

 何にせよ、目前の絶望は変わらない。

 

 クロノ達の作戦成功確率は、一息にゼロに等しくなってしまった。

 

 ……どうする、撤退するか。だが、そう易々と撤退出来るのか

 

 頬を伝う冷や汗。

 

 停止しそうになる思考を必死に働かせ、この難局を乗り越えようと試行錯誤していると、元主の少女に酷似した使徒……ロード・ディアーチェが動いた。

 

「喜べ下郎共。王たるこの我が、手ずから楽園へ導いてやろう」

 

 堕天使の如き様相の、漆黒の翼を背に負った少女の姿。

 

 左手に闇の書に酷似した魔導書を携え、右手には身の丈ほどもある魔杖。その十字の穂先を此方へ向ける。

 

 刹那、

 

 ……万刃黒血剣(ブラッティ・ダガー)

 

「な……ッ」

 

 闇紅色に染まった無数の刃が、クロノの視界を覆い尽くした。




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