ロスト・オア・ゲット~失うか求めるか~   作:茅倉 遊

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部内のランキング戦、結果は≪2位タイ≫(レギュラー内の≪九人≫中)。
 ・・・・・・微妙ですかね?
 ―――それでは、どうぞ!


第一章 ~物語の始まり~
新たな始まりというモノ


 目を覚ますと朝になっていた。

 寝不足のため頭が重く、まだ眠い。

 けれど眠りにつくまで幾度となく反芻した昨夜の出来事―――ユミエの≪告白≫を改めて思い返すと、二度寝をする気にはなれなかった。

 目を閉じれば、脳裏に浮かぶのは一条の≪傷痕≫を刻まれたユミエの姿。

 どういった経緯で刻まれたのかはわからない。けれど―――

(≪復讐者(アヴェンジャー)≫、か・・・・)

 あの言葉を口にしたユミエの悲哀の光を湛えた瞳。

 だが、悠也は知っていた。

 『復讐の闇に囚われた者は、決して報われることがない』と。むかし悠也の周りにも、≪復讐者≫となって戦場に赴く者たちが何人もいた。しかし彼らは戦場で命を散らせ、憎悪と後悔だけを残して消えていく。そんな報われることの無いような人生をユミエに歩んで欲しくない。

 ―――『≪想い人≫を失いたくない』と、考えるのは当然のことだろう。

「パパを、殺されました・・・・」

 昨夜のバルコニーで、ユミエが話し始めた過去。

「当時の私は知りませんでしたが、パパは誰よりも強かったと聞いています。名を聞けば誰もが認めるギムレー一の勇者である、と・・・・」

 もしかしたら、ユミエの剣の才能は父親譲りなのかもしれない。最初に思った事がそんな事だった。

「ですが私にとっては優しい父でした。いつも笑顔で、ママやユリエと私を愛してくれて・・・・」

 その表情に温かな笑みを浮かべる両親の間で、幸せそうに笑うユミエとユリエの姿は簡単に想像できる。

「けれどある冬の夜でした。パパは険しい顔をして家を出て行きました。すぐに帰って来るから決してついてきてはいけない、と言い残して・・・・。あのときの顔は忘れません。いつも優しいパパが初めて見せたあの顔は・・・・忘れられません」

 こんなにも神様に愛されたような少女が、≪復讐≫という心を灼く≪炎≫に囚われた真相。

「不安でした。すぐに帰ると言っていたパパはなかなか戻って来ることはなく―――やがて凄まじい地響きを耳にした瞬間、私とユリエはママの制止を振り切って家から飛び出しました」

 その真相がユミエ本人の口から、まるで昨日の事のように語られている。

「向かった先は、よく家族で訪れていた野原です。森の奥にあり、春には花が咲き乱れるとても美しいところでした」

 月を見上げつつ懐かしそうに、けれど寂しそうにユミエは故郷について話した。

「ですがあの日、私の目の前にはまるで地獄のような光景が広がっていたのです」

 木々は薙ぎ倒され、大地には巨大な穴が幾つも穿たれていたとユミエは続ける。

「言葉では言い表せない程の凄まじい闘いが、私の目の前で繰り広げられていました・・・・。やがて―――」

 月から足元へ、ユミエの視線が落ちた。

「パパは・・・・負けました・・・・。あの男の前で崩れ落ちたパパへ駆け寄ると・・・・私とユリエの頭を撫でて、申し訳無さそうに笑って・・・・そして・・・・」

 声が震え、最後は言葉とならない。

「「・・・・・・・・」」

 互いに、言葉を発さぬままに時間が過ぎて行く。

 悠也にはユミエの心の傷を癒すことは出来ない。

 それでも、悠也はユミエを力強く抱き締めた。

「背中の傷は、あの男につけられたものです。父を殺された哀しみを忘れないように、父を殺した男への憎しみを忘れないように・・・・忘れず、忘れず、決して忘れず・・・・いつか自分を殺しに来いと刻まれたものなのです」

 悠也の胸に抱かれたまま、ユミエの口は休む事無く言葉を紡ぐ。

 背中に刻まれた≪傷痕≫へ触れるかのように、ユミエは自分の肩へと手を置いた。

「だからこの≪傷≫は―――≪呪い≫。この≪呪い≫を解かない限り、私は未来永劫憎しみの炎に身を灼かれ、前へ進むことを許されないのです」

 ユミエが大きく息を吐く。

 長く長く息を吐き、波立つ心を落ち着かせるように。

「≪力≫が欲しい。復讐を遂げるための≪力≫が。その力を≪求めるため≫、それが私が晃陵学園へ入学した理由であり、目的です」

「・・・・・・そうか」

「だからユーヤが―――『お前の力になってやる!』と言ってくれた時、私は本当に嬉しかったんですよ?」

 まるで尋ねるように、ユミエが悠也に向かって口を開く。

 未だに二人は抱き合った状態であり、悠也の方が身長が高いためユミエが見上げる感じになっている。

 その上目遣いに・・・・先ほどまで辛い過去を語っていた少女に、悠也はたった一言―――

「聞き終わった後で今さらかもしれないけど、俺にそこまで話してよかったのか?」

 それだけ告げる。ユミエと悠也は、それほど親密な間柄でもなければ特別な間柄でもない。

 しかし、悠也のその考えはユミエの言葉によって改められた。

「ナイ。・・・・ユーヤは≪特別≫ですから」

 そしてユミエの人差し指が、悠也の唇へとつけられる。

「私が話したいと思ったから話したのです。何より・・・・本当に今さらですよ、ユーヤ」

 ユミエにしては珍しく―――ただし一瞬だけだが―――悪戯そうな笑みを浮かべた。

 だが、その後・・・・。ユミエは頬を思いっ切り桜色に染める。

 その表情を例えるなら、まるで恋する乙女のように―――

 ユミエは恥ずかしそうに視線を下げて、悠也の腕の中で口を開いた。

「ユーヤが近くにいるだけで、何故だか分かりませんがとても安心します。それにユーヤの事を考えると、胸がドキドキして・・・・それがとても心地良くて―――。今もユーヤに抱き締められて、胸がすごくドキドキしているのに、不思議と苦しくなくて・・・・とても気持ちが良いのです。≪新刃戦≫が終わってからずっと、ユーヤの姿が頭の中に映っていて・・・・消えることがありません」

 尚もユミエは言葉を続けていく。

「ユーヤと目が合うとすごく恥ずかしくなって、視線を逸らしてしまいます。ユーヤの声を聞くだけで身体が熱くなって、すぐにユーヤの事で頭がいっぱいになります。ユーヤの笑顔を見ればとても気分が落ち着いて、一緒に笑い合いたいな、と望んでしまうのです。こんなにも深く、憎しみに囚われた醜いだけの≪復讐者≫である私が―――」

 いつもあまり喋らず無表情でいることの多いユミエが、まるで別人のように声を上げる。

 そこに居たのは、さっきまで辛い過去を話していた≪復讐者≫ではない・・・・

 何処にでも居るような、普通の―――――≪恋する乙女≫がそこに居た。

 ユミエは醜いだけの≪復讐者≫なんかじゃない・・・・断じて違う。

「・・・・だってユミエは、こんなにも―――≪可愛い≫じゃないか」

 この世界には、世の中に存在した偉人の中で【最も気高き偉人】が残した『言葉』がある。

 

 『≪可愛い≫こそが、この世界に置ける≪唯一無二の正義≫である』と、

 

 その言葉を聞いたユミエはその深紅の瞳(ルビーアイ)を潤ませながら、悠也の腕の中から上目遣いで見上げてくる。

「・・・・・・もうユーヤの事で、頭がいっぱいです」

 そのままユミエは一度頭を下げると、

「・・・・今やっと、この症状の原因が分かりました」

 たった一言だけ呟いてから、もう一度顔を上げた。

「恐らく私は、ユーヤの事が―――――っ!?」

 ユミエの言葉は最後まで続かない。何故ならユミエの口を悠也の口が塞いだから。

 あの時(新刃戦終了間際)と同じように、悠也が突然ユミエに≪キス≫したのだ。

 ユミエにとっては突然だが、悠也にとっては我慢の限界である。想い人にあそこまで言われて、思春期真っ盛りの男子が我慢できる筈が無い。

 しかしユミエも前とは違って、今度は緊張することなく悠也を受け入れている。

 目を瞑っている悠也には見えなかったが、ユミエは嬉しそうに微笑んでいた。

「―――――♪」

 さっきまでの雰囲気が嘘のように、幸せに満ちた空間へと変わった。

 そこに居るのは、互いに≪初恋≫を知った少年少女(悠也とユミエ)のみ・・・・

 ・・・・≪復讐者(アヴェンジャー)≫など、何処にも居なかったのである。

 

 ―――ここまでが、昨夜に起こった出来事の全真相であった。

 

 

 

 

 

 

 晃陵学園の学食は生徒数からすると余裕を持った広さであり、おかげで特に食事をする定位置は決められていない。

 だが、大半の生徒はいつも同じ場所で食事を摂るのが当たり前となっていた。

 ・・・・しかし、悠也は学食の席に着いていない。≪ある人物≫とともに、校舎の中を歩いている。

「いやぁ、申し訳ありません。楽しい朝食の時間を邪魔してしまって♪」

「教師からの呼び出しなら仕方ねぇーよ。でも、選りによってアンタとはな・・・・」

 そう、悠也の隣を歩いていたのは≪風間隼士(かざま はやと)≫だった。

「少し『お話したい事』があるんですよ。いえ、軽い『小問集合』だと思って下さい☆」

「まさか本当に、臨時教員として学園に潜入してくるなんてな。アンタの雇い主(バック)は相当な大物だな?」

 あれだけの事件を起こして置きながら、学園はそれを隠蔽して風間を雇用している。

 何事も無かったかのように、ただ普通に突然やって来た臨時教員として・・・・

 そんな事が出来るのは、恐らく―――

「こう見えて、僕は『白銀聖騎士団(シルクス)』の団員でしてね。その任務は潜入捜査なんですよ♪」

「いや、それ言っちゃダメなヤツだよな?」

「それに僕、実は≪大佐≫なんです☆」

「・・・・へぇ」

「あれ、リアクションが小さいですよ?」

 だってどういう反応をしろと言うんですか。さっぱり分かりませんよ。

 まぁだいたい予想通りだな。そんな大掛かりな事出来るのは『白銀聖騎士団(狂ったヤツ等)』ぐらいだろうよ・・・・

「で、話したい事って何だよ?」

 とりあえず、風間の話を早く打ち切らせて帰ろう。何故なら学食には―――

「≪可愛い彼女(ユミエ)≫さんが居ますもんね♪」

「ぶーっ!? な、な、なんでそれを・・・・っ!」

「いえいえ、偶然聞こえただけですよ。公衆の面前では控える様にと、僕は忠告しましたよね?」

 恐らく風間は、昨夜のバルコニー付近に居たのだろう。通りで会った時からニヤニヤしていた訳だ。

「いやぁ、良いですねぇ。青春ですねぇ。初々しい告白タイムでしたねぇ☆」

 ここまで人を殴りたいと思ったのは、生まれて初めてだな。とりあえず―――

「まぁ、そんなに急かすなって。・・・・ちょっとくらい、俺と遊んで行けよ?」

「それは堪忍ですね。僕の死亡フラグが立ってますよ?」

 悠也の恐ろしいまでの笑顔に、風間が爽やかに返答するのだった。

 

 風間に連れられて歩み進めること、数十分。見知らぬ部屋の前に悠也と風間は到着した。

「どこだよ・・・・ここ?」

「僕の部屋ですよ?」

「・・・・どうして臨時教員如きが、一端に個人部屋(プライベートルーム)持ってんだよ?」

「どうしてって、ここはそういう学園じゃないですか?」

「・・・・何故だろう。納得した俺がいるよ」

 確かに風間の言う通りだ。ここはそういう学園である。

「どうぞ、お入り下さい」

「罠とか仕掛けとかねぇーだろうな?」

「ご安心を。電源はすでに切ってありますので」

「・・・・一応、在るんだ(笑)」

 もう笑うしかない。

 中に入ると、そこは普通の書斎という感じだった。壁際には幾つもの本棚があり、部屋の奥には観葉植物。部屋の中央付近に一つの大きめなテーブルと、それに向かい合う様にして二つのソファが置かれている。部屋の隅にコーヒーメーカーがあり、そのすぐ脇にはワインクーラーが設置してあった。

(マルボーにラピット、オーブリオン。おいおいシャトーペトリスまで在りやがる。すげぇ高級なワインばっかりだぞ・・・・!)

「たまに飲むんですよ。ワインが好きでしてね」

「アンタ、歳は?」

「・・・・? ≪23≫ですが、どうかしましたか?」

「いや、まさかの未成年って可能性も・・・・」

「僕は≪月見先生≫ではありませんよ」

「あっ・・・・。そういえば≪月見先生≫はどうなったんだよ?」

 すっかり忘れてたぜ。我らの担任。確か敵だったって邦弘が言ってたよな。まさかの処分済みか?

「彼女も僕と同じで御咎め無しですよ。彼女はこの学園に再就職しました」

 なるほど、【雇い主】の変更って事か。まぁ妥当な判断だな。それで首が繋がったわけだし(リアルな意味で)。

 そんな事を悠也が考えていると、風間はカップを二つ用意してコーヒーを作り始める。

「どうぞ、ソファにでも座ってお待ち下さい」

 風間にそう言われたので、悠也は素直にそれに従う。如何にも高そうな二人掛けのソファに、一人で腰掛ける。するとすぐに、風間がコーヒーの入ったカップを机に置いた。

 そして風間が向かいのソファに腰掛ける間に、悠也はコーヒーを一口飲んでみる。

「・・・・苦いな」

「おや。Pは疑わないのですか?」

「なんで毒だけ業界用語なんだよ? ・・・・俺は毒に耐性を持ってるから、入ってても平気なんだよ」

 半眼で風間を見ながら、悠也はもう一度コーヒーを口にした。やっぱり苦い。

「それともワインの方が良かったですか?」

「俺は未成年だっての」

 コーヒーカップを机に置くと、悠也は無言で風間を見る。まるで話を促すように。

「この学園に、新しく転入生が来ます」

 悠也の視線を感じたのか、風間は淡々と口を開く。

「一人はイギリスの『フォレン聖学園』から、まぁ晃陵学園の『兄弟校』のような所です。もう一人は本土(日本)にある『一般の高校』から、でも≪超越者(イクシード)≫ですよ♪」

「珍しいケース、だな」

 こんな時期に転入してくるのも、『一般の高校』から≪超越者≫が見つかるのも。≪超越者≫なら、もっと早く見つかっている筈だ。それこそ悠也たちのように、生まれた時から。

「そして、もう二人は・・・・」

「ちょっと待て。何人居るんだよ≪転入生≫は? 多過ぎだろ」

「転入生は≪四人≫ですので、職員の間では≪四重奏(カルテット)≫と呼ばれています」

 なぜ地味に≪二つ名≫を付けてるんだ、この学園。

「もう二人は、我々の宿敵である『トワイライト学院』からです。まぁ貴方の場合は、元母校からですよ」

「―――っ!!」

「もちろん情報偽装はして来ると思いますが、我々が手に入れた情報ではそういう事になっています。恐らく、晃陵学園の監視や調査が目的でしょうね」

 風間は事の重大さに気付いている筈なのに、飄々とした態度を取っている。さらには、優雅にコーヒーを飲み始めた。

「『話したい事』ってのは、それの事か? ・・・・ははっ。つまり、アンタはこう言いたいのか?」

 風間が余裕でいられる理由は、たぶん―――

「『≪絶対強者(アブソリューテ)≫の力を貸せ』ってな・・・・」

「いやぁ、正解ですよ。やはり貴方は話が速い♪」

 風間・・・・いや、『白銀聖騎士団(シルビィア・パラディクス)』は悠也が自分たちに力を貸すと確信しているのだ。

 同じ『トワイライト学院』を良く思わない、お仲間同士なのだから。

 それに風間は悠也を従わせるための手段(カード)を、もう一枚持っている。正確には昨夜、手に入れたばかり物だが。

 風間はそれを、躊躇わずに悠也へと見せる。

「≪ユミエ=シグトゥーナ≫さんは、我々『白銀聖騎士団』が全力で保護します。もちろん、今すぐ我々に協力してくれるのなら、晃陵学園≪全生徒≫の安全も保障しますよ☆ それくらいの戦力なら、『白銀聖騎士団』も保有しています」

 相変わらず、こういう交渉が上手いな。

 第一に≪絶対強者≫一人が味方に付くだけで、『トワイライト学院』は抑えられる。後は、他人を巻き込まずに戦いを終えるだけで良い。そうすれば、犠牲者の数は極端に減る。

 古今東西、戦争によって死ぬ人の数は≪兵士≫よりも巻き込まれた≪一般市民≫の方が多いものだ。そう考えればこの睨み合いも、≪一般市民≫を巻き込まないで終わるのがベストだろう。

「ったく、判ったよ。分かりました。是非とも『白銀聖騎士団』に、ご協力させて下さい」

 だから悠也は―――首を縦に振る。

「いえいえ。こちらこそ、宜しくお願い致します」

 そして風間は笑顔で続けた。

「生徒たちの安全は、我々『正義の味方』にお任せ下さい♪」

 先生。アンタに一つ教えてやるよ・・・・

 

 ―――――争いを始めた時点で、双方ともに『悪役』だってな。

 

 

 

 

    See you next again!!!

 

 

 

 




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