ロスト・オア・ゲット~失うか求めるか~   作:茅倉 遊

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 どうも皆さん、おはこんばんにちわ! 茅倉です。
 次話投稿が遅れてしまい、本当に申し訳ありません。初めての番外編と云う事で、文章量がけっこう多めになってしまいました(過去最高っぽい)。
 えっと、こんな話はどうでもいいですよね?

  ―それでは、どうぞ!



番外編:バレンタインデーというモノ

 ――≪Valentine's Day≫・・・通称、≪バレンタイン≫。

 

 リア充にとっては待ちに待ったイベントだが、非リアにとってはただ過ぎるだけの一日でしかない。もともと発祥の地である海外では≪男性が女性にプレゼントを渡す日≫らしいが、何故か日本では≪女性が男性にチョコレートを渡す日≫になっている。一説ではお菓子業界の陰謀とされているが、実際の所はよく解っていない。

 まぁ、一つだけ解かっている事は俺・・・倉峰悠也(くらみね ゆうや)にとっては≪特に関心の無い日≫だと云う事。毎年訪れるその日を、ただのんびりと過ごしているだけだった。

 

 ――だが、今年は違う。

 

 何故なら今年の悠也には、≪彼女≫がいるのだから・・・・

 正確に言うと去年から付き合っているのだが、≪彼女≫が出来てから≪バレンタインデー≫を迎えるのは今年が初めてだ。去年も≪様々なイベント≫が催されたが、2月14日・・・この日もまた≪特別なイベント日≫となりそうである。

 

 

 

 

 ――枕元にセットしている目覚まし時計よりも、早めに起床する少年が居た。

 少年は同じ毛布を使い、まだ隣で眠っている少女の頭をそっと撫でてから、静かに毛布から出る。この部屋にある寝床は≪二段ベッド≫なのだが、もう長い間≪上段のベッド≫は使っていない。理由は単純、この部屋に住んでいる二人が同じベッドを使っているからだ。この二人は≪男女≫であるのだが、同意の上で一緒に寝ている。これも理由は単純だ、二人は≪付き合っている≫から。まぁ、付き合っているからと言って≪一緒に寝る≫のが正しいかどうかは人それぞれだがな。

 人知れず起きた少年は、部屋にある台所でレモンティー(ただし粉末タイプ)を作り始める。同居人の少女が熱いのを苦手としているため、少し早めに作って置くのだ。そうしておけば少女が起きる頃には、丁度良い温度まで下がっている筈だから。

 出来上がったレモンティーを、机の上に置いて待っていると・・・・

 

「―おはようございます、ユーヤ」

 

 二段ベッドの下段で眠っていた少女が、ゆっくりと起床してくる。まだ少し眠いのか、その美しい深紅の瞳(ルビーアイ)を瞬かせながら、悠也の方に顔を向けていた。だが少女のまったく曲っ気無く流れる銀色の髪(シルバーブロンド)や、透き通るような雪色の肌(スノーホワイト)は、朝日に照らされて神秘的なまでに美しく輝いている。精巧な西洋人形(ビスクドール)のように端正な顔立ちをしているこの少女を、誰かが「天使である」と言い出しても何の不思議も無く信じる事が出来るだろう。だが、この少女も少年と同じ人の子であり、何処にでも居る人間の女の子だ。

 

「―おはよう、ユミエ」

 

 彼女の名前は、ユミエ=シグトゥーナ。少年の・・・倉峰悠也(くらみね ゆうや)の生まれて初めて出来た≪彼女≫でもある。

 

 

 

「はぁ~、今日も良い天気だな」

「ヤー。今日も良い天気です」

 二人並んでレモンティーを飲みながら、悠也が呟いた声にユミエも頷く。窓の外に広がる空は快晴、まさに雲一つ無いような天気であった。最近、こんな天気が続いているため悠也とユミエは「今日も」という言葉を使ったのだ。暦も2月に入ったが、まだ季節は冬である。肌寒いこの季節に、小春日和が続いてくれるのは嬉しい事だ。まぁ、ユミエにとっては今の時期(日本の冬)の方が、身体には丁度良いそうだが。北欧の寒冷国出身だし。

 さて、レモンティーも飲み終えた所で・・・次は朝食だ。悠也たちが通っている晃陵(こうりょう)学園には食堂があり、この学園に通う生徒たちは食事の際その食堂を利用する。だからこそ、悠也とユミエも朝食を摂るため、食堂へ行く準備を始める必要があるのだが――

「・・・ユーヤ。もう少し、このままでもいいですか?」

「あぁ、まだ時間もあるしな。・・・ニュースでも観るか」

 そう言って、悠也はテレビの電源を付けた。今の時間帯でやっている朝の情報番組を、ユミエと二人で観る事にする。

 悠也とユミエはお互いの肩を触れ合わせ、寄り添い合ったような状態でテレビを観ていた。しかしユミエが、少し経ってから悠也の肩に自分の頭を乗せて来た。

「・・・・ユミエ?」

 気になった悠也が声を掛けると、

「・・・・すぅ、すぅ」

 ―隣からは、小さな寝息が返ってくる。どうやらユミエは、もう一度眠りに就いてしまったようだ。確かにこの季節は布団が恋しく、二度寝をしてしまい易い。隣へ視線を向ければ、ユミエの寝顔がすぐ近くにあった。

 このまま寝かせてやりたいが、今日は登校日であるためそうはいかない。・・・だが、

「まぁ、ちょっとくらいなら・・・別にいいだろ」

 誰に対してでも無く一人呟いた悠也は、ユミエの頭をさっきと同じようにそっと撫でるのだった―――

 

 

 

 生徒たちは食堂で各自の朝食を摂り終え、さっそく教室で朝のHRが始まるのを待っていた。

 そう、朝のHRを待っていた・・・・・・筈だった。

 

「ハロー、ハロー♪ みんな元気ー? さっそくだけど、今日は≪バレンタインデー(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)≫だよね! 男子生徒の皆は、うさ先生に≪逆チョコ≫をあげるチャンスだよ☆」

 

 ―担任の開口一言目がこれでは、さすがの生徒たちも反応に困ってしまう。

「あれあれあれぇー、どうしたのみんな? 今日一日も、楽しんで行こうよ! はぁーい☆ それじゃあ、さっそく一限目から行ってみよう♪」

 そして生徒たちは、考えるのを止めた――

 

 

 

 その後、四時間の座学を終え、午後からの体力トレーニングの二時間を終えて今日の授業は終了となる。

 夕食はシャワーを浴びてから皆で行こうと決めているので、悠也と邦弘(くにひろ)透流(とおる)、トラの≪男子チーム≫は並んでシャワー室へ向かう。

「はぁ~、今日も悠也に勝てなかったな。もっと身体を鍛えないと・・・」

「仕様がないって、透流。何たって相手は、あの≪絶対強者(アブソリューテ)≫だし!」

 透流の呟きに、邦弘が笑いながら答える。

「あのって何だよ、あのって・・・。なに、透流も良い動きだったぜ」

「ふんっ! 『目を瞑って、左手だけしか使わない』という制限付きでも、圧勝して見せたのは何処の誰だ?」

 邦弘の言葉に悠也が言い返すと、トラが不機嫌そうに口を開く。

「・・・・トラも、ボロ負けだったしな」

「そ、それは関係ないだろう!」

 どうやら透流の小さな声も、今のトラには聞こえていたようだ。

 そんな話をしていると、シャワー室へ辿り着く。さっそく、シャワーを浴びようと4人が会話を止めた――その時、

 

「おー、悠也! やっと来たぁ♪」

 

 男子専用のシャワー室の前に立っていた女子生徒(・ ・ ・ ・)が、嬉しそうに声を上げてくる。

「・・・ん? どうしたんだよ、日向(ひなた)。こんな所で?」

 彼女の名前は、星吹日向(ほしぶき ひなた)。これでも立派な高校生なんだが、身長は140cm以下と低く見た目は完全に小学生である。その腰ぐらいまで伸びる軽いウェーブが掛かった髪は、廊下の照明に照らされて美しく輝いていた。まだ幼過ぎるくらいの童顔で、その顔立ちはとても可愛らしい。しかし、蒼み掛かった黒色の瞳(ブルーダーク・アクア)はまるで深海のように、誰にも底を見せずにいた。

 そんな可憐な少女が、どうしてこんな男子が集まる場所(男子専用シャワー室の前)に居るのか? 疑問に思うのも当然だろう。

「悠也に≪チョコレート≫を渡しに来たのー」

「・・・チョコレート? ・・・俺に?」

「おー! (ひな)の≪チョコ≫、受け取って欲しいなって♪」

 そう言って日向は、その手に持っていた物を悠也に差し出す。それは可愛くラッピングされた箱だったのだが、まぁ中身は≪チョコレート≫だろう。違ったら、びっくりだ。

「あぁ、ありがとうな。日向」

 そういえば、今日は≪バレンタインデー(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)≫だったな。別に貰わない理由も無いし、有難く貰って置こう。

 しかしまさか、日向から貰えるとは思っていなかったため、悠也は少々驚きを隠せないで居た。

「頑張って作ったから、きっと美味しいと思うの!」

「おぉ、これ手作りなのか? なおさら感謝するぜ、日向。夕食の後で、美味しく頂くよ」

「おー! 喜んでくれて良かったの♪ それじゃあ、ひなはもう行くのー。―バイバイ、悠也!」

 日向は本当に嬉しそうな表情で一度笑うと、悠也に何度か手を振ってから走り去って行った。確かに、こんな場所(男子専用シャワー室の前)に長居は無用だろう。

 

「良かったじゃんかよ、悠也! 女子から≪チョコレート≫貰えるなんて。しかも、クラスのマスコットキャラである星吹(ほしぶき)から。こりゃあ、クラスの男子を敵に回したな!」

 隣に居る邦弘が表情に笑顔を浮かべながら、悠也に向かって大声で告げる。だが、後半のセリフは素直に喜べない。というより・・・

「お前、ワザと大声出してるだろ? シャワー室にいる奴らにも聞こえるように」

「・・・ナンノコトカナ?」

「ったく、もういいよ。どうせ前から敵に回してるからな、クラスメイトの男子は」

 そう、≪ユミエ=シグトゥーナ≫という ≪美少女≫を彼女にしている時点 で、悠也はクラスの男子・・・・いや、世界中の男(主に非リア)を敵に回しているのだから。

 

 

 

 

 シャワーを浴びてから、皆で食堂に向かう。そこで夕食を済ませてから各自の部屋に戻るのだが、悠也と透流、ユミエとユリエが並んで歩いていると≪珍しい人物≫と遭遇する。

 

「よぉ、≪絶対強者(アブソリューテ)≫に≪異能(イレギュラー)≫! それに銀髪の双子ちゃんも一緒か、ホント仲がよろしいこった!」

 

 月見璃兎(つきみ りと)、我らが担任である。担任の何が≪珍しい≫のかと言うと・・・彼女が最初から≪本性≫を見せて来た事。だいたい授業中は≪本性≫を隠しているのだが、今回は登場から素の状態な様だ。

「俺たちに何か用ですか? 黒ウサ先生?」

「殺すぞ☆ ――あぁ、そっか! 君は【殺せない】んだったね、倉峰(くらみね)君♪」

 ・・・・結局、何しに来たんだよ この人?

「くはっ! まぁ、くだらねぇー事はこの辺にしといて本題だ! ・・・ほらよ!」

「「・・・?」」

 月見は悠也と透流に、何か箱のような物を投げて寄越す。それを手に取ってよく見てみると、

「「・・・何だ、これ?」」

 よく見ても解からなかった。

「ったく! チョコだよ、≪チョコ≫。ガラでもねぇー事、言わせんなよな!」

 そっぽを向きながら口を開いている月見に、嘘を吐いている様は見られない。どうやらこれは、本当に≪チョコレート≫のようだ。

「お前等二人には、特別にアタシの≪手作りチョコ≫をやるって言ってんだよ」

「・・・毒とか入ってんじゃないだろうな?」

 透流が半眼で月見に尋ねる。幾らなんでも・・・それは失礼だと思うぞ、透流。

「そんなに心配なら、今ここで食べてみればいいじゃん。九重(ここのえ)君☆」

「・・・え? い、いや、別にそこまで本気で言ってる訳じゃ・・・」

 そんな事を言われると思っていなかったのか、透流の顔に冷や汗が見える。―なぁ、透流。お前、本気で疑ってるんじゃねぇーか?

(・・・まぁ、ここは助け舟を出してやるか。俺と透流の仲だし)

「――それじゃあ、俺が頂きますよ」

 手に持っていた箱を一度よく見てから、悠也が一言だけ口を開く。周りにそう告げてから、悠也は箱を開けて中身を取り出す。

(・・・形は、普通のチョコレートだな。まぁ、もし毒が入ってても俺には効かないから大丈夫だけど)

 と、悠也も失礼な事を考えながら、それ(箱の中身)を口にする。

 

 その刹那、――悠也は 絶叫 した。

 

「ユ、ユーヤ!? 大丈夫ですか!?」

 胸と口を押えて蹲る悠也の姿を見て、さっきまで無言で様子を見ていたユミエも慌てて駆け寄る。

「ゆ、悠也! おい、悠也!! しっかりしろよ!?」

「な、何があったのですか!?」

 透流とユリエも、悠也の苦しむ姿を見て驚きを隠せない。

 その時、悠也は・・・

(――う、嘘だろ!? 俺は毒に対しての耐性が在る筈だぞ! まさか新種か? いや、それでも身体に異常は無い。いや、むしろ異常しかないのか? もし生命の存続に係わるなら、【あの能力】が発動してる筈だ。けど、どうやら発動していないみたいだしな。命に問題は無いか。じゃあ一体、この≪痛み≫は何なんだ? 身体が・・・特に、口や胸が焼けるように痛い!)

 ・・・と、ただ困惑していたのだった。

 だが、一つだけ悠也には≪やらなければならない事≫がある。これ以上、≪犠牲者を出さないため行動する事≫という責務が・・・っ!

「ぐぁっ! ・・・と、透流。お前の持ってる・・・が、あっ! そ、その(月見のチョコ)を・・・俺に! うくっ!」

 

「「「――ホントに大丈夫か/ですか、悠也/ユーヤ!?」」」

 

 悠也以外の3人が口を揃えて叫ぶが、今はそんな事どうでもいい。悠也は透流から(月見のチョコ)を受け取ると、自分のと一緒に宙に投げる。そして――指を弾いた。そう、前にも見せた≪フィンガースナップ≫と云うヤツだ。だが、悠也の場合は≪ただ指を弾いただけ≫ではない。そう、悠也の場合この動作(フィンガースナップ)は、悠也の能力の一つである≪空間支配(ワールド・ジャック)≫を発動させるためのモノ。

 実際の所、≪空間支配(ワールド・ジャック)≫を発動させるのに動作自体必要ない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)のだが、まぁ悠也の癖みたいなモノだ。

 そしてこの≪空間支配≫の能力とは、空間に亀裂を入れ・・・その亀裂に、人や物を≪縫い付ける≫と云うモノ。

 だが、今回はさらに――

 

「≪異次元の炎(ディメイション・フレイム)≫ッ! ≪異界の炎≫で、真っ赤に染まりな!」

 

 風間との戦いでも見せた、悠也の能力の一つである≪異次元の炎(ディメイション・フレイム)≫を使用する。

 チョコ(とは言えない、もはや化学兵器)を空間に≪縫い付ける≫ために生じていた亀裂・・・その亀裂の隙間から、一斉に≪炎≫が溢れ出す。その≪炎≫は、化学兵器(月見の手作りの何か)を跡形も無く焼き尽くすと一瞬で消え失せた。この≪炎≫こそ、悠也の能力によって生み出された≪異次元の炎(ディメイション・フレイム)≫なのだが、まさかこんな事に使う羽目になるとは。・・・いや、尊い命(主に悠也と透流)を救ったのだから こんな事 と揶揄する必要は無いのかもしれない。

 

「くははっ! どうやら口に合わなかったみてぇーだな、≪絶対強者(アブソリューテ)≫!」

「・・・・くっ! いったい何なんだよ、あれは?」

「えぇ~、最初に言ったじゃーん☆ ≪手作りチョコ≫だって♪」

「何混ぜたら、あんな≪化学兵器≫が出来んだよ!?」

 素直に驚きだぜ、あの――不味さ。この世のモノとは思えないとは、まさにこの事だろう。

「・・・なーに、貰えただけ有難いと思いな! ――じゃあな、≪絶対強者(アブソリューテ)≫に≪異能(イレギュラー)≫! あと銀髪双子ちゃん!」

 そう告げると、月見は笑いながら帰って行く。

 

 ――ホント、何しに来たんだよ あの人?

 

 

 

 

 透流たちと別れ、悠也とユミエは自室へと戻って来た。

「・・・ユーヤ、本当に大丈夫なんですか?」

「あぁ、もう大丈夫・・・・な筈だ」

 まだ少し、後味が残ってるのを如何にかしたい。そう考えていた悠也は、ふと制服のポケットに入っているモノを思い出す。

「そういえば、日向(ひなた)からも≪チョコレート≫を貰ってたな」

「・・・・え?」

 悠也の言葉に、ユミエが首を傾げる。だがユミエは、悠也のポケットから出て来たモノを見ると、すっと目を細める。そんなユミエの表情に、チョコレートの箱を開けている最中の、悠也は気付かない。

 箱を開け終えると、悠也は箱に入っていたチョコレートを手に取る。形は・・・ハート型だった。

「・・・・・・」

(あれ、可笑しいな? 急に寒気が・・・まだ、季節は冬だからかな?)

 背筋に冷たいモノ・・・というより、隣から冷たい視線を感じながらも、悠也は≪日向のチョコ≫を口にする。

「――おぉ、美味いな!」

 前に食べた物があれ(月見のチョコ)では、その後に食べる物など全て美味しく感じてしまうのかもしれない。だが、≪日向のチョコ≫は単純に美味かった。

「・・・ユーヤ、一緒にレモンティーを飲みませんか?」

「え? あぁ、ありがとな。ユミエ」

 悠也がチョコを食べていると、隣に座っていたユミエが立ち上がる。

 

 ――コンコン、

 

 ユミエが立ち上がった丁度その時、扉をノックする音が聞こえてきた。

「いいよ、俺が出る。ユミエはレモンティーを用意して置いてくれ」

「・・・ヤー。解かりました、ユーヤ」

 扉の方へ行こうとしたユミエを制止させ、悠也が立ち上がって扉へと向かう。

「はいはい、どちら様ですか?」

 悠也がゆっくり扉を開けてみると、其処に立っていたのは・・・

 

「――せ、先輩はきっと、私の≪チョコ≫の方が嬉しいに決まってます!」

「そ、そんな事ないもん・・・ません! 悠也さんは、私の≪チョコレート≫も喜んで食べてくれる筈です!」

 

 何故か、扉の向こうが修羅場ってた。・・・もう、このドア閉めた方がいいんじゃないか?

 悠也の目の前に立っているのは、二人の少女。

 悠也から見て右側に居る、悠也を「先輩」と呼ぶ方は神凪夢衣(かんなぎ むい)。その愛らしい顔立ちの中で特に目を引くのは、一切の曇りが無い翠玉色の瞳(エメラルド)だ。艶のある黒髪をセミロングで切り揃えている。そして悠也から見て左側に居る、悠也を「さん付け」で呼ぶ方が萩原沙奈(はいばら しゃな)だ。身長は143cm程で、特徴的な美しい鈴の音のような声を持っている。本人は「隠れ難いので嫌」と言っているが、ショートカットに切り揃えた緋色の髪(スカーレット)はとても綺麗だ。歳相応の幼さを残しながらも、端正な顔立ちの中にある可愛らしい大きな瞳の色は、明るい輝きを持つ≪朱色≫(本人は≪血色≫と言う)をしている。

 そんな≪美少女≫二人が目の前に立っているのに、悠也は扉を閉めたくて仕様が無かった。理由は簡単。

 

「悠也さん! 私の≪チョコレート≫を受け取って下さい!」

「ちょ、ちょっと待って下さい! 私の≪チョコ≫を、先に受け取って下さい!」

 

 ――バチバチバチッ! と、二人の間に見えない火花が散っている様だ。まさに、修羅b・・・

 

「ユーヤ、レモンティーの用意が出来ました」

 

 バァァァアン! そこに、ディ○もビックリな効果音が鳴り響いた・・・ような気がした。

 

「「・・・ひぃっ!?」」

 

 ユミエは恐らく悠也の後ろに居るため、悠也からはユミエの顔が見えない。だから悠也には解からなかった。ユミエの顔が見える位置にいる、夢衣と沙奈が――短い悲鳴を上げた理由が。

「「先輩/悠也さん、これ受け取って下さい! それでは、私たちはこれで失礼しますっ!」

 悠也に急いで≪チョコレート≫を渡し終えると、夢衣と沙奈は一目散に駆け出して行った。・・・何故だ?

「・・・ホント、何だったんだ?」

「ナイ、私にも解かりません」

 悠也がユミエの方に視線を向けた時には、ユミエは普段と変わらない状態で立っていた――

 

 

 

「・・・あれ、悠也? その≪チョコ≫どうしたんだ? 日向から貰ってたのとは、違うみたいだけど」

「あぁ、あの後、夢衣と沙奈からも貰ったんだよ」

「神凪と萩原からねぇ~、よっ! モテる男はツラいな、悠也!」

「・・・余計なお世話だっての、邦弘」

 透流の質問に悠也が答えると、邦弘がさっそく悠也をからかい始める。その邦弘の言葉に、悠也はしれっとツッコんだ。

 現在、毎日の日課となっている『透流の修行』を終えたばかりの3人、悠也と邦弘と透流は生徒寮にあるバルコニーで身体を休めていた。運動して小腹の空いた悠也が、持っていた≪チョコレート≫を食べようとしたのが事の発端である。

「そういえば、俺もさっき穂高みやび(みやび)から貰ったんだ」

「へぇ~、みやびから・・・ん?」

 確か、みやびはクラスの男子全員に≪チョコ(もちろん義理)≫を配っていた筈だ。料理が得意であるみやびは、クラスの女子たちと一緒になって≪チョコ≫を作ってたりしてたからな。だが、透流が持っている箱は明らかに、みやびが他の男子に渡していたモノとは違う。もっとちゃんとラッピングされ、可愛らしいリボンで結ばれたモノだった。

「ははっ、明らかに≪本命≫って感じだな! 良かったじゃねぇーか、透流!」

(あぁ、そういえば・・・みやびって、透流の事を・・・)

 邦弘の発言からも解かる通り、みやびは透流の事が好きだった筈である。それも、けっこう前からみんなに公言していたな。

「・・・・ん、邦弘? お前が手に持ってるのは、誰から貰ったんだ?」

 その時、透流は邦弘が手に持つ≪黒を基調にして綺麗にラッピングされた箱≫に気付いて声を上げる。

「・・・え? あぁ、これか? 俺の唯一貰った≪チョコ≫さ! まぁ、俺の場合は―≪これ(本命)≫だけ貰えれば十分だけど」

「ったく、お前だって貰ってんじゃねぇーかよ・・・・≪本命≫を」

 邦弘がその≪本命チョコ≫を誰から貰ったのか気付いている悠也は、あえてその人物の名前を言わない。

「・・・・?」

 ―何も知らない透流は、ただ首を傾げただけである。

 

 

 

「・・・・ふぅ~。やっぱりこの季節の湯船は、すっげー気持ち良いな!」

 透流と邦弘の2人と別れ、自室に戻った悠也は風呂に入っている。

 

「・・・・ユーヤ、髪を洗ってくれませんか?」

 

 ――だが、一人で入っているとは言ってない。

「あぁ、大丈夫だぜ。けど、ちゃんと前は隠してくれよな ―ユミエ」

「ヤー、大丈夫です」

 ・・・何が大丈夫なのだろうか? 

 そう―悠也は、ユミエと2人で風呂に入って居るのだ。湯船に浸かっていた悠也の隣で、ユミエは身体を洗っていた。そして身体を洗い終えお湯で流した所で、ユミエは悠也を呼んだのである。

「・・・ふぅあ~♪ とっても気持ち良いです、ユーヤ」

「そりゃ、良かった」

 どうやらユミエは、悠也に髪を洗って貰うのが好きなようだ。悠也と一緒に入った時は、だいたい悠也に洗って貰っているくらいだし。

 悠也が撫でるように髪を洗っていると、ユミエは気持ち良さそうに目を細める。まるでご主人様に、身体を洗ってもらい喜んでいる子犬みたいだ。ユミエは、小動物っぽいしな。

 シャンプーとリンスを使用して、悠也はユミエの髪を洗い終える。

「ユミエ、洗い流すから目を閉じてくれ」

「ヤー。・・・優しく、して下さい」

「―了解」

 本人の希望も有り、ゆっくりとシャワーを使って洗い流す。

「よし、終わったぞ。ユミエ」

「ヤー♪ ありがとうございます、ユーヤ」

 妹のユリエと違って、ショートに切り揃えられた髪を指で梳かしながら、ユミエは表情に笑みを浮かべる。

「それではユーヤ、湯船に浸かりましょう」

「・・・え? いや、俺はもう出ようかなと・・・」

「一緒に浸かりましょう、ユーヤ」

「お、俺は先に上がってレモンティーの準備を・・・」

「一緒に浸かりましょう」

「・・・・は、はい」

 結局、悠也が押しに負けるのだった。

 

 幾ら2人用の部屋でも、バスタブの大きさは明らかに1人用だ。そんなバスタブを2人で使えば当然、肌が重なり合うのは避けられない。いや、別に嫌な訳じゃない。そんな事は絶対にない。

 では、悠也が一緒に浸かるのを遠慮したのは何故か? 答えは、ユミエの位置取りにある。普通なら、お互い背中合わせで入るなりして工夫すればいいのだ。

 だが、ユミエは悠也と同じ方向を見ている。それが何を意味するか? ――単刀直入に言おう。

 現状を傍から見れば、悠也がユミエを後ろから抱き締めているように見えるだろう。まぁ、実際にユミエは悠也の腕の中だ。そんな位置取りを、ユミエは悠也と一緒に湯船に浸かる時、毎回やってくる。

(・・・・単純に、恥ずかしいんだよ! だいたい、これ R-15指定 でやって大丈夫なのか?)

 そんなモラル的な事を考えていると、何を思ったのか――ユミエが、身体の向きを変えて来た。

 さっきまでユミエを背中から抱き締めているような状態だったのが、ユミエが身体の向きを変える事でお互いが前を向いて抱き合うような状態に。

 しかも、此処は風呂。つまり・・・その、

 

 お互い――――生まれたままの状態(素っ裸)で。

 

「ちょ、ちょっ、ちょっと待て! どうしたユミエ!?」

 あまりの驚きに、悠也の口調が何処かのお笑い芸人みたいになる。

「・・・ユーヤは、今日いくつの≪チョコレート≫を貰ったのですか?」

「え? ≪チョコレート≫?」

 何かあるのだろうか? まぁ、何も解からない悠也が考えても仕様がない。

「えっと、確か・・・・≪5つ≫、だったかな」

 日向から貰ったのと、みやびから貰った義理チョコ(クラスチョコ?)。それと数に入れていいのか定かではないが、月見からの化学兵器(一応、チョコ?)。そして、夢衣と沙奈の2人から。これで、合計≪5つ≫の筈だ。

「そうですか・・・それは、良かったですね」

 ユミエは一言だけ告げると、悠也の胸に自分の頭をそっと寄せ付ける。

「・・・・あ、あぁ?」

 あれ、これって素直に喜んでいいのだろうか? 何か忘れてないか? 

 ・・・・・うん? そ、そういえば――

 

(―ユミエから≪チョコレート≫貰ってないじゃん、俺っ! なんで気付かなかったんだよ!?)

 

 悠也は、彼女である筈のユミエから、まだ≪チョコ≫を受け取っていないのだ。

 ・・・けど、ちょっと待てよ。もしかしたら、ユミエの出身国である≪ギムレー≫には、≪バレンタインデー≫という文化自体存在しない(・ ・ ・ ・ ・)のかもしれない。そう考えると、貰えないのも納得出来ないか? すっげー悲しいけどな!

「ユーヤ。私は先に上がって、レモンティーの準備をして置きます」

 悠也がそんな事を考えていると、ユミエは湯船から上がり始める。

「・・・あぁ、頼む」

 ―もう少し悠也は、悲しみと云う湯船に浸かっておく事にした。

 

 

 

 風呂から上がり、身体を拭き終え寝間着を着た悠也は、脱衣所を後にする。

 リビングに戻って来た悠也は、先にテーブルに着いて居たユミエの隣に座った。此処が悠也の定位置なのだ。

「ユーヤ、レモンティーです」

 悠也が座り終えると、ユミエがレモンティー(ただし粉末タイプ)が入ったカップを手渡してくる。

「・・・ありがとな」

 それを受け取ると、悠也は一口だけ頂く。うん、いつもと変わらない味だ。・・・当然か。

 

「・・・それと、これをどうぞ」

 

 レモンティーを飲んでいると、ユミエが悠也に何かを手渡してきた。それは可愛らしいリボンで結ばれて、インコのシールを貼る等してラッピングされた――

「え? これって・・・ゴホッゴホッ!」

「っ! だ、大丈夫ですか!? ユーヤ!」

 それを見た悠也は、思わず咽てしまい咳き込んでしまう。

 何故なら今、悠也が手に持っているモノは明らかに――ユミエからの≪チョコレート≫だったからだ。

 もう貰える事はないと思っていたため、悠也は余計驚いてしまったのである。

「ゆ、ユミエ・・・≪バレンタインデー≫、知ってたんだな!」

「・・・? ヤー、もちろん知ってますよ?」

 可愛らしく首を傾げるユミエを見ながらも、悠也はまだ驚きを隠せないでいた。

 まさか、ユミエから貰えるなんて・・・。2月14日も、あと少しで終わりを迎える筈の時間帯に。だが、まだ2月14日。ギリギリセーフだ。

「さっそくだけど、食べてみてイイか?」

 ――出来れば、2月14日の内に食べてしまいたい。

「ヤー。ユーヤのために作りました。・・・是非、食べてみて下さい」

 ユミエは不安そうな表情をしながらも、悠也が≪チョコ≫を食べる瞬間を見逃さないよう、視線を向けてくる。

 箱を包んでいた紙を、なるべくキレイに剥がす。インコのシールを傷付けないようするためだ。ユミエは妹のユリエと一緒で、鳥類・・・特にインコが好きだからな。

 悠也は箱を開け終えると、中に入っている≪チョコレート≫を取り出す。少し形は崩れてしまっているが、何とか≪ハート≫に見えない事もない形は、頑張って作ったのが窺える。

「それじゃあ、頂きます」

 そう言って、悠也は≪ユミエのチョコ≫を口にする。

 ・・・・食感は、少し硬かったが・・・

 

「うん、美味しいよ。――ありがとな、ユミエ」

 

 悠也は、笑顔でユミエにお礼を言う。

「ヤー。ユーヤが喜んでくれて、とても嬉しいです♪」

 悠也の言葉に、ユミエもその表情に笑みを浮かべるのだった。

 

「・・・ユーヤ、私も少し食べてみてイイですか?」

「え? けど、もう≪チョコ≫は・・・」

 悠也が≪ユミエのチョコレート≫を全部(・ ・)食べ終わった所で、ユミエが口を開いてそんな事を言ってくる。

「ナイ。こうすれば、大丈夫です」

「いや、だから何が大丈b・・・・っ!?」

 さすがに悠也がツッコみを入れようとしたら、そのツッコみは途中で止まってしまう。

 

 ユミエが悠也の口を、自分の口で―――塞いだ(・ ・ ・)からだ。

 要するに、・・・ユミエが悠也にキス(・ ・)して来たのである。

 

 いつもは、悠也からする事の方が多いのだが。今日は珍しく、ユミエからして来たのだ。

「~~~♪ すごく甘いですね、ユーヤ」

「ったく、もっと甘くなっちまったな・・・」

 最初からけっこう甘味が強かった≪ユミエのチョコ≫は、どうやらさっきの行為(ユミエとのキス )でもっと甘くなってしまった様だ。

 まぁ、≪チョコレート≫は関係ない(・ ・ ・ ・)かもしれないけれど。

 

 ―――自信を持って言えるのは、≪ユミエのチョコ≫が今日食べた≪チョコ≫中で、一番甘かった(・ ・ ・ ・ ・ ・)と云う事。

 

 

 

 

「それでは・・・そろそろ寝ましょうか、ユーヤ」

「う~ん・・・けど俺、寝る前に≪チョコレート≫食べてるからな。まだ眠くないって言うか、何と云うか・・・」

 実際の所、けっこうな数の≪チョコ≫を食べた悠也は、ほとんど眠気を感じていない。

「ナイ。心配入りませんよ、ユーヤ。私もまだ眠くありませんから、大丈夫です」

「いやな、ユミエ。だからさ、何が大丈夫なのk・・・っ!」

 またしても、ツッコみを入れようとした悠也の言葉は途中で止まる。だが、今回は悠也が意図的に(・ ・ ・ ・)口を閉じたのだ。

 

 ――ユミエが何を言いたいのか、その言葉の意味が解かったから。

 

「・・・まぁ、それなら大丈夫か」

「ヤー♪ ・・・それでは、ユーヤ―――優しく、して下さいね?」

 

 そして、悠也とユミエは昨日と同じように、一緒のベッドへ入って行くのだった。

 

 

 

 

  See you next again!!!  This was Valentine's Day story!!!

 




 この後、めちゃくちゃ(ry・・・はい、自重しますorz
 どうでしたか? 感想等、戴けると嬉しいです!
 まぁ、具体的な表現は無いから≪R-15指定≫でも大丈夫な筈!(・・・たぶん!

 えっと、実の所・・・作者はこう云った≪普通のラブコメ≫を書くのが、けっこう好きだったりします。何か「こう云った≪イベント≫も書いてみろよ!」というリクエスト(?)がある方は、是非――感想欄にご記入下さいorz
 また、少しずつ番外編も入れて行くので、その参考にしたいと思います。

 それでは皆さん、また次回!  до свидания(笑)
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