ロスト・オア・ゲット~失うか求めるか~   作:茅倉 遊

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 ・・・・みなさん!
 ---新年、明けましておめでとうございますっ!
 今年も良い年になりますように。
 この年が自分にとって良い年になるよう、全力で頑張っていきますっ!
 みなさんも、良いお年を~~(笑)


初めての出会い

 「---俺は、自分の力を 失うために 此処に来た・・・・」

 

 その発言はクラスに流れていた時間を止めるには、充分過ぎたようだった。このクラスにいる生徒たちの動きが、時が止まったかのように完全停止する。

「・・・・自己紹介は以上です」

 発言者本人である悠也は、何食わぬ顔で席に着く。そして、それに続くように今度は悠也の後ろの席に座っていた男子生徒が立ち上がった。

「次は俺の番っすよね、月見センセ」

「ん! そだね☆」

 今だ事態が呑み込めていない生徒たちと違い、やはり教師は理解力が優れているようだ。というより、恐らく教師陣は悠也の素性知っているのだろうが・・・・。

「俺は、杉原 邦弘《すぎはら くにひろ》! 特技ってほどじゃないが、隠密行動が得意だ」

(・・・・いや、隠密行動って言ったらダメじゃん)

 悠也は後ろに立っている親友であり 戦友 の事を思いながらため息を吐く。昔っからこういうヤツだ。

 背は悠也と同じくらいで 170 前後。茶髪(地毛)の髪は男子にしては少し長めで、ヘアーワックスを使って普段から整えている。全体的に、太ってもなく痩せてもいない中肉中背の何処にでも居そうな男子高校生だ。アイツの特徴っていうか何と言うかは、恐らく首にいつも忘れず掛けている ヘッドフォン だろう。

 常時掛けていて、掛けていない姿を見るのは風呂か寝るときくらいだろう。

「趣味は・・・・・・ 音楽鑑賞 ! 特に、盛り上がるロックが好きだな!」

 嘘は吐いてない。けど、アイツの ヘッドフォン は音楽鑑賞用ではない。だってあれは・・・・・・

「私の名前は 麻耶乃 佐紀《まやの さき》 です」

 ・・・・って、交代速いな。

 邦弘が席に着くと、隣の机の席に座っている 女子生徒 が立ち上がりながら自己紹介を始める。

 彼女も悠也の知り合いってか 親友であり戦友 だ。彼女・・・・佐紀《さき》と邦弘と悠也は世間一般でいう所の 幼馴染 と言うヤツであり、昔っからお互いの事を知っている。

 身長は女子高生の、それも一年では高い方で 160 くらいある。まるで最高級の漆を塗ったように美しく輝く漆黒の黒髪は、肩を少し過ぎるくらいの長さで切り揃えている。全体的にスレンダーな体型をしていてその洗礼された独特の雰囲気は、如何にも活発そうな行動派の印象を周りに与える。

(・・・・例えるなら、男ばかりの騎士団に居る唯一の 女騎士 って所だな)

「さっき自己紹介した倉峰《くらみね》君と杉原君とは 同じ学校 の出身で、幼馴染です。みなさんとも早く打ち解けあえるよう努力しますので、これからよろしくお願いします」

 その端整な顔立ちに、思わず見惚れるほどの微笑みを浮かべながら佐紀は席に着いた。

 そして、今程になってようやく生徒たちが我に返り始める。この生徒たちの中で、何人くらいさっきまでの自己紹介を真面に聞けていたか見物だな・・・・。

(・・・・まぁ、俺も前半はほとんど聞いてなかったけどな)

 

 やがて自己紹介が終了すると生徒手帳と学生証、寮生活のしおりが配られた。

 月見先生の話によると、学生証がクレジットカードとして使えるらしい。限度額は月々十万円とのことで、それを聞いてかなりの人数が色めき立つ。

 それを言葉で制した月見先生は、パンパンと手を叩きつつ言葉を続ける。

「うちのガッコには 『絆双刃《デュオ》』 って言う パートナー制度 が存在してね。二人一組になって授業を受けたりするわけ」

(・・・・なるほど、そのための 二人用の机 な訳か)

 悠也が一人納得していると、月見先生はさらに言葉を続ける。

「うちを卒業すると、機関《ドーン》の治安維持部隊へ所属するって話は知ってるよね」

 ・・・・え? 今初めて聞いたけど、そんな話。

「そこの任務は常に二人一組《ツーマンセル》、もしくはそれ以上のチームで任務を遂行してもらってるの」

 その後の月見先生の話によると、今週末までに正式な相手を決めて貰う必要があるそうだ。

 さて、どうするかな? こっちは根っからの 三人一組《スリーマンセル》派 なんだが・・・・。

(昔っから常日頃、俺と邦弘と佐紀の三人で行動してきたからな・・・・。二人行動なんて聞いてねぇーぞ)

「・・・・で、本題はここからなんだよねー。実はうちのガッコって 『絆双刃《デュオ》』 を組んだ後は、お互いをより深く知り、絆を強くするためにもできる限り一緒の時間を過ごせーって校則があるのね。まー何が言いたいのかっていうとぉ・・・・寮で相部屋になるってことなんだけど♪」

 へぇー。その辺はよく考えてるな。でも、相部屋ってのは頂けないな。それだと同居人に自分の生活状況や行動パターン、普段から無意識にやってしまう癖、好きな食べ物から嫌いな食べ物まで、そして一番遭ってはならない 実力の露見 が起きて仕舞う。相部屋は、自身の 手の内や奥の手など 隠さないといけないモノが隠せなくなって仕舞うのだ。だから「相部屋は絶対するな」と『あそこ』で教わったのだが・・・・

(・・・・別にいいだろ)

 もう『あそこ』の生徒じゃない悠也に『あそこの校則』なんて守る必要がない。もちろん、邦弘や佐紀もそう思っているだろう。

「あの、質問があるんですけど」

 その時、一人の男子生徒が手を上げた。

「はいはーい、『異能《イレギュラー》』の九重くん、なんでしょー?」

(・・・・『異能《イレギュラー》』? 何だ、それ?)

「週末までに 『絆双刃《デュオ》』 を決めろって言いましたけど、それまで寮の部屋割りはどうなるんですか?」

(・・・・・・確かに。 どうする気だ、クジ引きか? 運の悪さには定評及び自信あるぞ、俺)

 男子生徒が質問を終えると、月見先生は生徒たちへ向かってビシッと指を差し、ろくでもない答えを口にした。

「週末までは、いま 隣の席に座ってる人 と同居してもらいまーす♪」

「・・・・は?」

「つまり仮の『絆双刃《デュオ》』ってことだね。これは校則なので、拒否は無駄無駄ダメダメ不許可だよ☆ ねっ、三國《みくに》センセ♪」

 胸の前で手を交差してバツを作る月見先生へ、ため息をつきつつ無言で頷く三國先生。

 まぁ、仕方ないか。ここの生徒である以上、ここの校則には従わなければならない。

(ええっと、俺の隣は・・・・?)

 悠也が隣に視線を移すと・・・・・・『西洋人形《ビスク・ドール》』と目が合った。

(ん? 待てよ・・・・。これって、何か嫌な予感が・・・・)

「そ、それって・・・・」

 悠也が危険を察知したのと同時に、先ほど九重《ここのえ》と呼ばれていた男子生徒が息を呑んでいた。

「イエスッ♪ キミの同居人は銀髪美少女の ユリエ ちゃんです。男子三十七人、女子十五人の新入生どころか全学年で唯一女子と同居・・・・・・じゃなかったみたいだね☆」

 ぞくり。月見先生と目が合った瞬間、背筋に震えが走る。

「良かったね、九重くん♪ 仲間がいるよー!」

 ---見つかった。頭の中にそんな言葉が響く。どうせなら、スーツ姿でサングラス掛けた足の速い人に見つかった方がマシだったぜ。

「倉峰くんと九重くんは、女の子と同居できちゃうんだよ。きゃー、らっきー♡ ・・・・あ、そうそう。不純異性交遊をすると退学になっちゃうから気をつけるよーに。わかりやすく言えば教室で口にするのは躊躇うようなことをシて、三人めの同居人がデキ---」

「「するかぁああああああああっっっ!!」」

 思わず、見ず知らずの男子生徒とハモリながらの絶叫ツッコミ。

(・・・・俺なんて、隣に座ってる女子生徒の 名前 すら知らねぇーんだぞ!)

 チラッと横目で、週末までの同居人を見ると---再び『西洋人形《ビスク・ドール》』と目が合う。正確には、『西洋人形《ビスク・ドール》』のような 女の子 とだが・・・・。

(コイツは・・・・、さっきの 異国少女 か?)

 クラス中の視線を集めた 双子の片割れ が、その深紅の瞳《ルビーアイ》で悠也を見つめる。

「よろしくお願いします」

「よ、よろしくな・・・・」

 確かに自己紹介があったのに、それを聞き逃した悠也が悪いだろう。

 だが・・・・、

 

(---まずは、名前を教えてくれぇーーーっ!)

 

 

 

 

 

 

 敷地内にある寮へ移動し、寮則(門限や、食事の時間等)について聞かされ、そのまま食堂に案内されて早めの夕食を終えた後---

 悠也《ゆうや》は、これから自身の部屋となる寮部屋の前で立ち竦んでいた。

 ---あの 異国少女 と共に。

「と、とりあえず中に入ろうぜ。えっと・・・・」

 セリフの最後に相手の名前を呼ぼうとしたが、まだこの異国少女の名前を知らないことに気づく。

「ヤー《はい》」

 しかし異国少女はそんな悠也の考えなど露知らず、部屋の中に入って行った。

「さて、どうすっかな? ・・・・・・結構、広いな」

 悠也も少女に続き、部屋の中に入る。その後、ドアの鍵は掛けていない。部屋の中で何か起こった時に、すぐ脱出できるようとの考えだ。

 寮の部屋は思った以上に広く、綺麗だった。床はフローリングで中央にはカーペット、キッチンとテレビが備え付けであり、二人部屋ということもあって衣装ケースは同タイプのものが二つ、ベッドは二段ベッドが設置されていた。

(・・・・俺は 下段 で寝るか、その方が 緊急時の対応 がしやすい)

 そんな事を一人考えていると、悠也は いいコト を思い付いた。

 そうだ。

「えっとだな・・・・。せっかく週末まで(現在月曜日)一緒に一つ屋根の下で過ごす訳だし、もう一回自己紹介しないか?」

「ヤー」

「俺は---」

「ユーヤ」

「え? ・・・・あ、そです」

 どうやら、あっちはちゃんと自己紹介を聞いていたらしい。自分が情けないね!

「まぁ倉峰でも悠也でも、呼びやすい方で呼んでくれ」

「わかりました。それではユーヤと呼びます」

 発音のアクセントが違うのが少し気になるも、外国人だからそれは仕方ないのだろう。

「私は ユミエ=シグトゥーナ です。ユミエと呼んで下さい」

「解ったよ、ユミエ」

 なるほど。この異国少女は、ユミエっていうんだな。にしても、流暢な日本語だな。目瞑ってたら、日本人が喋ってるように聞こえるぞ。まだ少し違う部分もあるが(悠也の呼び方とか)、言葉は通じるようだ。

「ユミエはどこの出身なんだ?」

「北欧にあるギムレーという国です」

「留学生か・・・・、大変だな。日本語が上手なのは?」

「仕事で通訳をしているママに、しっかりと教わってきましたので」

「なるほどね」

「それと向こうの学校では、選択授業で日本語学科もありましたので」

(選択授業か。俺らの学校にもあったな≪直接的な殺人技術≫か≪間接的な殺人技術≫の二択だったけど、ホントに狂ってたよ『あそこ』・・・・)

 その後、互いに向かい合ってから、低めのテーブルを挟んで座る。

 少し遠くを見つめてから、悠也はもう一度ユミエを見る。

 華奢な体つき、整った顔立ち、透き通るような雪色の肌《スノーホワイト》、深紅の瞳《ルビーアイ》、そして彼女の一番の特徴と言える、肩に触れるか触れないかの長さ《ショートカット》に切り揃えられた銀色の髪《シルバーブロンド》・・・・。

「そういえば、一緒に居た 髪の長い方 は姉妹?」

「ヤー。彼女は ユリエ です。私とユリエは 双子 でとても仲が良いです♪」

 姉妹の事がホントに大好きなのか、姉妹の話をするユミエの声は嬉しそうだ。

(・・・・と言っても表情の変化は小さいし、声にもあまり感情といったモノが見受けられないがな)

 さっきのユミエの変化も、相手の状態(些細な表情変化や声色の変化)を読む訓練をした悠也だからこそ解ることだった。

 恐らく、双子と言っても 一卵性の双子 だろう。それくらい瓜二つだ。

「私もユーヤに一つ聞いていいですか?」

「ん? 何だ?」

 その時、ユミエに話し掛けられた。

「ユーヤが自己紹介の時に言っていた、自分の 力を失うため とはどういう事ですか?」

「あぁ、それね」

 分かっちゃいたが、このタイミングで聞かれるとはな・・・・。さて、どう答えるべきか?

「俺は、責任から逃れたいんだ」

「責任?」

「---力を持つ者には、責任がある。大きな力を持つほど、それと同じくらい大きな責任をな」

「? よく分かりません」

「まぁ、簡単に言うと 弱くなりたい んだよ俺は」

 少し俯きながら、悠也は答える。

「・・・・私とは 逆 ですね」

「逆?」

「私は 強くなるために 此処に来ました。---もう あんな思い はしたくないから」

「・・・・いろいろ遭ったんだな。そっちも」

「ユーヤ」

「ん?」

 いきなり名前を呼ばれ、悠也《ゆうや》はすぐに顔を上げる。

「シャワーを先に浴びてもいいですか?」

「あぁ、別にいいけど?」

 すごい唐突だな・・・・。

「ありがとうございます。まだお話をしたいのですが、時差のせいか先程から眠気が強くて・・・・。すみませんが、汗を流して今日はそろそろ休むことにします」

「時差はキツそうだな。・・・・・・ッ!?」

 そこまで言って、悠也はユミエの発言の不自然な所に気づく。

(確かに今日は暖かいが、汗を流すほどじゃない。それに 眠気 はホントに時差のせいか?)

 急いで、部屋の中に意識を集中させる。何か不自然な物はないか、それと 毒 が流し込まれていないかの確認をする。

(俺は 毒でも平気 だが、ユミエは違う。ただの学生だ。何か遭ったらマズイ!)

 何度も確認するが、そういった 奇襲用の類 は感じない。

「それにしても、日本は暑いですね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・暑い?」

 季節はまだ春になったばかりで、夜になった今はまだ冷え込む。

 寮は暖房完備で暖かいとはいえ、暑いというには程遠い。

 まさか、ユミエはもう手遅r---

「私の国では夏の暑さと同じくらいです」

「・・・・・・あ! そ、そうか・・・・。北欧の国出身だもんな」

「ヤー」

 そうだった、その線を考えてなかった。心配しなくとも、ユミエはまったくの健康体だ。

(女子と相部屋って事に、そんなに 動揺 してんのかね俺は・・・・)

 早く慣れないとな、この環境。週末までとは言え、油断は出来ない。

「油断大敵って事だな・・・・」

「それでは、シャワーを先に使わせて頂きます」

「・・・・ヤー《どうぞ》」

 ユミエの真似をして見たが、ユミエは一礼した後脱衣所へと入っていった。

(笑わないんだな・・・・)

 今だ一度も、ユミエの笑顔を見ていない気がする。というより見ていない。

「---笑えばもっと可愛いだろうにな。・・・・さて、と。荷物の整理でもするか」

 誰にともなく呟き、悠也は事前に寮に送っていた荷物を整理し始めることにした。

 

 ---ついでに、心の整理もしとくか。

 

 

 

 

    See you next again!!!

          --- And happy new year!!!

 

 

 

 

 




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