ロスト・オア・ゲット~失うか求めるか~   作:茅倉 遊

5 / 18
難とか溜めて置いた ストック を投稿しました。茅倉です。
前回の前書きで書いた通り、二週間程 投稿及び執筆 が出来なくなります。
しかし、その後は しっかり投稿していく ので見捨てないで下さい!


初めての模擬戦

 ≪無手模擬戦《フィストプラクティス》≫---

 

 入学四日目の本日から、新しく始まった授業の一つで、簡単に言うと 自由組手だ。

 素人が多い新入生に、最初から怪我を負うかもしれない組手を行わせるのはどうかと思うのだが、学園側の方針としては技術は教わるだけでは意味が無く、使用してこそ身につくということらしい。

 その模擬戦にて、昨日の運動能力測定で目立っていた女子二人---ユミエの妹である ユリエ と、もう一人見覚えのある生徒が周囲の注目を集めていた。

「透流。あっちでユリエと組手をやってる、黒髪の女子生徒って誰だっけ? 何か見たことあるんだよな」

「え? 橘《たちばな》の事か? 橘 巴《たちばな ともえ》だよ」

「ふんっ。さすがは橘流十八芸と言ったところだな」

 悠也が隣に居た透流に質問していると、さらにその隣に居た 虎崎 葵《とらさき あおい》、通称 トラ が会話に割り込んできた。

「「橘流?」」

「古武術を主体に様々な武芸に通じている有名な流派だ。実際に見るのは初めてだがな」

「・・・・よく知ってるなぁ」

「確かに、ムダの無い良い動きだ」

 悠也がユリエと橘の攻防を見ながら、小さく呟く。

 息も吐かせぬ連撃を見せる橘。対してユリエは接近したり離れたりのヒットアンドアウェイを主体にし、自身の速さを有効に使って対抗していた。

「昨日のリストに 新入生全員の情報 が書いてあっただろう。何故読んでいないのだ、貴様らは」

「≪絆双刃《デュオ》≫はトラと組むわけだし、別に他のやつをわざわざチェックしなくてもいいかなぁと・・・・」

「 情報 ってのは、自分で集めてこそ価値のある物なんだよ」

 苦笑いしながら答える透流と、腕を組みながら平然と答える悠也。それを見たトラは、無言で頭を抱えたのだった。

 と、そこで組手終了のホイッスルが鳴り響く。

「はいはーい。そこまでー。三分休憩の後、今度は相手を変えてねー♪」

 月見先生が、片手を上げながら口を開く。その言葉が本当の終了の合図になったようで、生徒たちはお互いに一礼してから次の相手を探し始める。

「ユーヤ。次の相手はもう決まったのですか?」

「いや。まだ決まってないぞ?」

「では・・・・」

「じゃあ悠也! 俺と手合せしてくれないか?」

 いつの間にか近くに来ていたユミエが、悠也に話しかけてきたが、その言葉は隣に居た透流の声に掻き消された。

「あぁ、いいぜ透流! ・・・・っと、悪いな、ユミエ。何か言いかけてたみたいだったけど」

「ナイ。ユーヤの相手が決まっているのなら大丈夫です」

「?」

 ユミエが悠也から視線を外したので、この会話は強制的に終わってしまう。

(まぁ、大丈夫ならいいか・・・・)

 悠也も深くは考えずに、別の事を考え始める。---透流との 手合せ の事だ。

 

(速さならユリエ、ユミエ姉妹だが・・・・恐らく、総合的な実力では 透流 が新入生で一番強い。最初のトラとの手合せを見たところ、並々ならぬ 修行 を積んできたような、そんな感じがした)

「トラも強かったけどな」

 昔、同じ道場に通っていたらしく二人は幼い頃から知り合いのようだ。

 ---だが、

「俺の敵じゃないって顔だな、悠也」

「油断してると抜かれそうなのは、私たち 二人 だけよ邦弘」

 これもまた、いつの間にか近くに来ていた邦弘と佐紀が、悠也の後ろで小さく呟く。

「早く俺に追い付いてくれないかな・・・・。いや、俺が力を 失くす方 が早いか?」

 悠也は一人、自嘲気味に笑うのだった。

 

 ホイッスルが鳴り、悠也と透流は軽く拳を合わせる。それから互いに間合いを取ったのだが、

「さぁ、始めようぜ!」

 透流が一気に、その間合いを詰めてきた。

 悠也は冷静に透流の攻撃を捌きながら、落ち着いて口を開く。

「良い動きだが、攻撃ばっかじゃ勝てないぜ。防御が脆いからな」

「ははっ! 攻撃は最大の防御って言うだろ!」

「・・・・残念だけど、それはもう古いぜ透流」

「っ!?」

 透流の息も吐かせぬ連撃を捌いていた悠也は、透流が見せた一瞬の隙を衝きバックステップで距離を取る。

 そして今度は、悠也がその間合いを一気に詰めた。

「・・・・なっ!?」

 透流が驚愕した理由は二つ。一つは悠也の想像を絶する速さ。もう一つは---

 一瞬の間で、悠也の姿が 消えた こと。

「 ---『白蓮《はくれん》』 」

 悠也の声が一言だけ聞こえると、透流の視界は反転した。

 

「な、何が遭ったのですか!? どうしてトールは 仰向けになって 倒れているのですか!?」

 悠也と透流の手合せを観戦していたユリエが、驚きの声を上げる。

「ユ、ユーヤが 一瞬だけ消えた ように見えました!」

 その隣で観戦していたユミエもまた、驚きの声を上げていた。

「ったく、悠也のヤツ・・・・。素人《トーシロ》相手に『白蓮』なんて使うか、普通?」

「あら? 九重くんは他と違って、素人じゃないはずなんでしょ」

「佐紀もホントは解ってんだろ。『白蓮』に引っ掛かる時点で トーシロ だよ」

 そう。『白蓮』とは、ただの ---『緩急』。

 バスケットボールなどの競技で、相手を抜き去るために使用される技。素早く動いた後、一度速度を落としてからもう一度加速する。そうする事で相手には、自分が動いている以上の速度を認識させる事が出来る。

 想像以上の速さに驚いた相手は、テンポを崩しその動きに付いて行けなくなる。

 ・・・・つまり、『白蓮』はその動作を尋常じゃない速度変化で行い、相手に『自分が消えたように錯覚させる技』だ。

 驚いた相手の両足を蹴っ飛ばして宙を舞わせ、頭を殴って地面に叩き付ける。その過程で、相手は軽い脳震盪を起こし『一瞬だけ視界が真っ白になる』。それが『白蓮』と言う名前の由来だった。

 

「・・・・降参するか、透流?」

 仰向けに倒れている透流に、悠也が声を掛ける。

「・・・・やっぱ凄いな、悠也・・・・。---けど、降参はしないッ!」

「いいぜ。来いよ、透流」

 悠也は倒れている透流から、一旦距離を取った。その間に起き上がった透流は、弓を放つかのように右拳を引き絞る。

「?」

「俺も、面白いのを見せてやるよ・・・・来い、悠也!」

 挑発か? そう思ったが、ここは敢えて---

「ノッてやるよ! その言葉ッ!」

 一気に悠也が駆け出した。その悠也の身体に、透流はまるで本当に矢を放つかのように、

「貫けぇーーーっ!!」

 充分に引き絞った右拳を、悠也に向けて放つ。

「・・・・ッ!?」

 目には見えないが恐らく、透流の今出来る中での最強の技だろう。その『不可視の攻撃』は、一直線に悠也に向かって飛んで来る。

( ---『衝撃波』 かよっ!?)

 しかし悠也は走りながら跳躍し、空中で体を 捻って その攻撃を躱す。さらにそのまま透流に急接近すると、

「 ---『螺旋天衝《らせんてんしょう》』 ・・・・ッ!!」

 捻っていた身体を元に戻す 遠心力 と、空中だから可能となる悠也の 全体重 を乗せた 一撃 が透流の身体に炸裂・・・・・・しなかった。

 透流の身体に当たる少し手前で、悠也が意識的に寸止めしたのだ。

「こいつで チェック《王手》 だけど、どうする透流?」

「 チェックメイト《詰み》 だろ・・・・。あぁ、おれの負けだ」

 

 透流がそう答えた後、組手終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

 

 

 

 夜---夕食も風呂も終え、後は寝るだけ。

 悠也はいつも通り、レモンティーを用意していた。もちろん 二人分 。

 同居人であるユミエも、いつも通りテレビを観ていた。今日は動物特集をやっていて、子ライオンが転がる姿を観て「可愛い・・・・」と呟くユミエの瞳はどことなく輝いているように見える。

「ユミエは動物が好きなのか?」

「ヤー。特に鳥が---中でもインコが好きです」

 レモンティーの入ったカップを手渡しつつ悠也が尋ねると、ユミエが迷いの無い答えが返って来た。

「ユーヤも動物が好きなのですか?」

「俺か? そうだなぁ・・・・」

 佐紀は猫、中でも黒猫が好きだと言っていたし、邦弘は犬派だと言っていた。

「えっと、そういえば俺・・・・。動物と触れ合った事が、あんまり無いんだ」

 記憶を探るが、どうしても動物と触れ合った思い出が見つからない。何故なら、動物は人間の数倍 危機察知能力 に長けているからだ。つまり、悠也を 危険 と判断するのがほとんどで、動物はまったく悠也に寄って来ないのだ。

「そうですか。では、悠也は動物が苦手なのですか?」

「いや、苦手って訳じゃ・・・・」

 ・・・・ん? 待てよ。そういえば昔、邦弘が言ってたな。確か、「悠也は犬と猫なら、猫なんだろ? だったら 猫耳少女 がおススメだ!」とか---

 ・・・・何言ってんだろうな邦弘のヤツ。

「? どうしたのですか、ユーヤ」

「あぁ、悪い。何でも・・・・え!?」

 首を傾げてこちらに視線を向けるユミエを見た悠也が、思わず声を上げた。

 理由は単純。ユミエの頭に猫耳が付いていたのだ。よく見ると腰の下の方には尻尾まで付いている。可愛らしく首を傾げ、こちらを上目使いで見つめてくる 猫耳少女 に悠也は思わず・・・・

 ドクン と、胸を高鳴らせてしまう。つまり、見惚れてしまっていた。

「確かに、可愛いな・・・・」

「どうしたのですか、ユーヤ?」

「・・・・・・え? あ!?」

 無意識の内に何か口走ってしまったが、急いで頭を振って意識を正す。するとさっきまでの幻は消え、ユミエの姿も元に戻っていた。

「ユーヤも、この子ライオンを可愛いと思ったのですか?」

「あ、あぁ! そうそう! か、可愛いな子ライオン!」

「ヤー。とても可愛いです♪」

 共感者を得て嬉しかったのか、ユミエは嬉しそうに口を開く。

 悠也は一人、片手で頭を押さえながら・・・・

「危なかったな・・・・。いったい何だったんだよ、今の。げ、幻覚だ・・・・よな?」

 決して、あぁなってほしいと言う≪願望≫ではないはずだ。そうであってほしい。

 

「---何やってんだろうな、俺・・・・」

 悠也は誰にも聞こえないくらい、小さな声で呟いた。

 

 

 

 

    See you next again!!!

 

 

 

 

 




どうでしたか?
感想等、書いてくれると嬉しいです。
次回は『初めての実戦(仮)』ですので、お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。