「……ッッッッッッ!!!」
走る、走る、走って、滑り込む。
「ぜー、ぜー、ぜー……あっぶねえ」
ドタドタという足音と共に、怒号と自分の名前を呼ぶ複数の声が聞こえる。
昔、女の子に追われてみたいなとかふざけたことを抜かしてた自分を殴りたい
メッチャクチャ怖いんですけど!!
「……どうしてこうなった」
口からこぼれた言葉に、俺の脳内に自業自得の四文字が浮かび上がる。
そして即座に頭を横に振り、否定する。
自業自得じゃない、ただ俺はゲームを楽しんでいただけだ。
「考えても仕方な――――ひゃぁっ!?」
バキン!! と隠れていた部屋の扉から拳が突き出ていた。
おかしい、銭ゲバ猫にKAN-SENでも壊れない防護扉にしといてと貴重なダイヤをはたいて制作させたはずなのに。
バキン! バキン! バギャァ!! と握りこぶしが扉を破砕していくのを俺は引きつった笑みで見ることしかできない。
ちょうどバスケットボールほどの大きさだろうか、そのくらいに開けた穴から無数の瞳がじっとこちらを見つめていた。
――――はっきり言う、くっそ怖い。
「あらあら、ここにいましたか指揮官様ァ」
「指揮官、見つけた」
「なぜ逃げるのですか? ご主人様」
狐、ウサギ耳、メイドの三人がシャイニン○よろしく、こちらを見てる。
さらに複数の足音がこちらに向かっているのが聞こえる。
「……逃してクレメンス」
「「「ダメ」」」
さてはて、どうしてこうなったのかというのは一年前まで遡る。
まだ俺が学生で、『この世界』に来たばかりの頃だ。
***
異世界転移という言葉は、昨今では珍しくない。
異世界にいってチートしたり、なんか別の種族になったり、そこで暮らしちゃったり、現地人と交流したりと幅広いジャンルがある。
俺も好んだジャンルだし、自分もそうなったらと夢想したものだ。
ただスラム街のような場所に転移し、追い剥ぎのように手荷物を取られ、偶然通りかかった憲兵隊の人が優しくなければ俺はなぶり殺されていた。
そして『偶然』メンタルキューブに触れ、『偶然』指揮官の適正があって、『偶然』たまたま空いた母港があって、『偶然』その母港を見に行ったらセイレーンが来襲して、『偶然』俺が触れたメンタルキューブから産まれたラフィーがそれを撃退し、『偶然』その場にいた超偉いおっさんを助けて、『偶然』指揮官になった。
……言いたいことはわかる、偶然使いすぎだってのは。
あとなんだそのドミノ倒しのような展開は、って言うのは。
脚本家出てこい、というか確実にセイレーン案件だろこれぇ……。
まぁ、あれよあれよという間に指揮官に据えられた。
流されすぎ? ぶっちゃけ混乱してる中、事態が動きすぎたし、なにより好きだったゲームの世界に来れたという興奮と遅咲きの中二病が合わさって、気づいたときにはときすでにお寿司……じゃなかった遅かった。
というか気づくべきだったんだろう。最初に建造したラフィーの姿が何故か改造後だったり、メンタルキューブでは建造できないはずの艦がひょっこり出てきたり、そもそもなぜかゲームでは最初ツンツンだった娘たちが俺に対してデレデレだったりとなんかおかしいと思うべきだった。
駄菓子菓子、指揮官業務を覚えたり、戦術を覚えたり、メンタルケアしたりとくっそ忙しかった俺は特に気にしてなかった。現実逃避はしてないよ、ホントダヨ。
そんでもって数週間前、ようやくセイレーンの攻勢も落ち着き、三笠ばーちゃんと茶飲みながらゴロゴロしてた頃、本部からある通知がやってきた。
『ケッコンして戦力増強するんだよおうあくしろよ、指輪一つ送っといたから頑張れ、頑張れ(意訳)』
「ほーん、こんなのもある……あ、あの? 三笠ばーちゃん? 目が怖い、というかなんか近づいて……だ、誰か、誰か来てぇ!! いやぁあ!!! 男の人ー!! 男の人来てぇ!!」
なんとかばーちゃんは取り押さえられたが、上記の通知が母港を駆け巡り……最初のようなことが連日起きることになった。
嬉しかった面もある、元の世界じゃモテなかったしKAN-SENの皆は可愛いし、悪い気はしなかった。
ただ問題が一つあった。
指輪が一つしかないのだ。
うん、すまない一つだけだけなんだ……馬鹿じゃねえの(震え声)
てっきりゲームのように買えると思ってたのだが……。
「えっ、買えるわけないじゃないですか、それともなんですかスケコマシ野郎とでもいいますか? あっ、金メ――金箱買います?」
店員にそうジト目で言われた俺は膝から崩れ落ちた。
可愛いからあげる、強いからあげる、シコ……げふんげふん、美しいからあげると課金しまくった俺にとってたった一隻だけ選ぶのは無理だった。
いや、正直に話すとゲーム内でケッコンして好感度200まであげると性能がアップするから戦力増強みたいなもんやろとケッコンしまくってたのが実情であった。
まぁ、その考え方が間違いの始まりであったのだが。
たった一つしかない指輪をどうするかと思った俺は――――机の中にしまい込むことにした。
というかDTで彼女歴もないオタクに、いきなり指輪とかむーりぃー。
そんでもって混乱していた母港を落ち着かせるため、朝礼の際にこういった。
「えー、皆聞いてると思うけど本部から指輪もらいました。うん、色々言いたいことあるだろうけど一つ言っとく……ケッコンする気はな――――ってぎゃああああああああああああああああああああああ!!!???」
その日から母港は阿鼻叫喚の地獄と化した。
隙きを見せれば睡眠薬をサーッ!され、夜這いなんぞ当たり前、秘書艦を巡って日夜火砲の音は絶えず、微笑ましい姉妹愛が殺し愛にまで発展してあぁもうめちゃくちゃだよ。
どうしてこうなったのか、皆大好き銭ゲバ猫に聞いたが、聞かなきゃよかったと後悔した。
「なんで指揮官を巡って争うか、不思議かにゃ? ――――忘れてないにゃ、指揮官と過ごしたあの時間、そして戦った日々、指揮官はよく明石を使ってくれたにゃ! だから……明石にそれをくれるにゃ?」
……まぁ、そういうことだ。どういうことってゲームでケッコンして好感度200になってた艦が何故か、こっちの世界で建造できたから、母港のほぼ過半数が愛情グラビティ勢になってたってことだよ、いわせんな恥ずかしい。
さらにこっちの世界の好感度も合わせて計測不能だって饅頭たちが教えてくれた。
最初に言えよこのやろぉおおおおおおおおおおッ!!!
おかげでセイレーンじゃなくて、内ゲバでうちの母港壊滅するわ!
まぁ、なんとか保ってられるのは一部ガチ勢が俺の気持ちを尊重してくれている(つもり)だからである。……たまに理性を振り切ってくるけどな!
***
「諦めて食われたらいかんのか?」
「食われたらガチの殺しまで発展するわボケェ……」
髭が生えた饅頭……まぁ、おやっさんと俺は呼んでる。
あのシャイ○ングよろしく追い詰められた場面から逃げ切った俺は、おやっさんが所属する工場に逃げ込んでいた。
ここは母港の生命線であるから、一種の非戦闘地域として機能している。
「ぶっちゃけ指揮官はホモなのか?」
「馬鹿野郎大きいのから小さいのまでバッチコイ、ただし園児服組は勘弁な!」
「なら食えばいいだろう。バッチコイで、都合のいい女たちだぞ」
「そういうゲスムーブはいやーキツイっす」
おやっさんがため息を付くがわからんでもない。
実際、俺が欲望に身を任せて彼女たちを抱いても、あの子達はニッコリ笑顔で受け入れるだろう。
だけど……。
「ゲームで育まれた愛を植え付けられた子たちをどうこうしたら俺は外道だよ」
「……はぁーっ」
なんかクソでかため息をつかれたんですけどぉ!?
なんだよ人がせっかくシリアスになってたってのに。
「お前さんのその謙虚さは美徳だ。ただお前さんはもう少し、この世界で得たものを大事にすべきだ――――アッ(スタッカート)」
「おやっさんんんんんんんんんんんん!!!」
宙に舞うおやっさんを叫びつつ、俺はノータイムで走り出す。
あぁ、ほんとに――――
「どうしてこうなったぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
○指揮官(オリ主)
名前は特に決めてない。
アズールレーン廃人で気に入った艦とケッコンしまくってたら母港がやべーやつらの巣窟となって日夜足腰を鍛え、逃げ切ってるすごいやつ。正規の指揮官ではないため、指揮能力も事務能力もへっぽこであるが饅頭含めた母港人員がフォローしているのでへーきへーき。
実は上層部からも「あれ? こいつの母港おかしい、おかしくない?」と秘密裏に調査が入ろうとしたが、全員海の栄養となったので危険が危ないという認識のため手出しされていない。
とりあえず作者の過去作のDDはHDDクラッシュやら仕事の疲れでエタりました(事後報告)。こっちもいつエタるかわからないけど気の向くままに書くよ。
あっ、アズールレーンわからねえってホモもノンケも早くDLやってやるんだよ。簡単操作、レベルを上げて装備で殴ればいいだけ、KAN-SENが可愛い。PS4でゲームも出るから買ってクレメンス(ダイレクトマーケティング)