約一年ぶりの更新となってしまい、本当にすみません。
「司、体の調子は大丈夫かい?」
「まぁ、今は大丈夫かな」
時刻は午後三時過ぎ。
学校の授業を終えた大樹と司が学校の昇降口を抜け、外を歩き始めている。
大樹は朝お腹を壊した(ふりをした)司の身を、数時間経った今も心配していた。
「大怪我をしたばかりだから、無理はしないでくれ」
「わかってる…………大体は」
『大体』
自分に自信が持てないが故に生まれた、司の口癖である。
今回も、《リコルド》との戦いを考え、断言出来ずについ口癖が出てしまった。
「…………!」
校門に差し掛かったところに、司の見知れた人物が立っていた。
ギターケースを肩にかけている紗夜が、司が来るのを待っているのだ。
校門を抜けていく生徒達の中には、彼女に視線を奪われる者も少なくない。
ギターケースを持ってるが故に目立っているのもあるが、彼女の美貌に惹かれている男子が殆どであった。
「おや、お迎えが来てるみたいだね。それじゃ、僕は邪魔にならないように別の方から帰ることにするよ。お義姉さんによろしく!」
大樹は茶化すようにそう言い、その場を後にする。
「いや、そんな気を遣わなくても――!」
司が呼び止めようとした際には、既に大樹の姿はなかった。
「!」
司の声が紗夜の耳に入る。
紗夜は声がした方を向き、司を見つけると微笑みを浮かべた。
「あ、あはは……」
目が合った司は、気まずそうに手を振る。
高校に上がってからほぼ毎日、紗夜が迎えに来ているため、この状況には慣れている。しかし、昨晩のことでまだ整理がついておらず、変に意識してしまっているのだ。
司は紗夜のもとへ歩み寄る。
「司、体の方は大丈夫?」
「もう、大丈夫だよ……」
気弱な返事をしてしまう司。
「? 何かあったの?」
「え……?」
「いつもより元気がないみたいだけど……」
その様子を、紗夜は見逃さなかった。
「もしかして、いじめとか――」
「ないない! 大丈夫! 大丈夫だから! 今日もスタジオ行くんだよね? 友希那さん待たせたら悪いし、行こう!」
「え、えぇ…………そうね」
せっせと歩いて行く司に、紗夜は不安な表情を浮かべたまま彼の後ろについていく。
※
「…………」
とある一軒家の一室。
一人の少女がグランドピアノを黙々と弾いていた。
黒の長髪にドレスのような服を纏った少女――白金燐子だ。
彼女が奏でる音は優しくも熱があり、退屈さを感じない旋律。この場に観客がいないのが勿体ないくらいだ。
――――――!!
すると、ピアノの近くに置いてあった、オレンジ色の石が光り始める。
その石は次第に形を変え、一つの指輪に姿を変えた。その指輪の形は、晴人が使用している『ウィザードリング』と同じ形をしている。指輪の表面には、眠っているドラゴンの模様が描かれていた。
燐子はピアノを弾くのを止め、立ち上がって机の上に置かれたリングを手に取る。じっくりとリングを眺めていると、扉をノックする音が聞こえてくる。
「どうぞ」
扉の先の人物を察していた燐子は、躊躇うことなく声をかけた。
「――ただいま」
扉を開け中に入ってきたのは、《リコルド》退治を済ませた晴人。
彼は訳あって燐子の家に居候しているのだ。
「晴人さん、新しいリングです」
「おっ、ありがと。でも無茶するなよ。リングを生成するのに莫大な魔力を消費するからな」
晴人は燐子からリングを受け取る。
「さて、早速試してみるか」
晴人は『ウィザードライバー』を起動させ、ハンドルを操作した後リングを右手の中指に着ける。そしてバックルの手形に合うように手を添えた。
『スリープ!』
『プリーズ!』
ドライバーから聞こえてきた音声に、魔法の効果を察する燐子。
「今、スリープって…………あっ」
「…………」
しかし、その時には既に晴人は立ったまま眠りについていた。
次第にバランスを崩す晴人。運良く燐子が使っているベッドの上に倒れた。
「……………………どうしよう」
※
「ありがとう、紗夜」
「こちらこそ。やはり湊さんと組んで正解でした」
夕日が沈む頃。
スタジオでの練習を終えた友希那と紗夜が微笑みを浮かべながら、CIRCLEを抜けようとする。
「…………」
二人の背後には、司の姿が。
(見てると、やっぱり今回は上手く行きそう。俺がついていく理由なんて、本当にないのかも知れない)
司は紗夜の様子に安心しつつも、自分がこの場にいる意味を未だに考えていた。
すると、前方から小さな声が耳に入ってくる。
「昨日はダメだったけれど、今日こそ……っ!」
「あ、あこちゃん…………」
出入り口に、友希那と紗夜が来るのを待っているあこと燐子の姿があった。
晴人の姿がないことに司は疑問を浮かべる。
自爆で眠りについていることを、最後まで知る由もなく。
「よしっ!」
友希那たちが近くまで来たことを確認したあこは、勢いに任せて彼女達の前に出る。
「友希那さん! あの――」
「帰って」
しかし、用件を聞く前に紗夜がきっぱり断る。
「はぐっ!!」
ショックを受けたあこはその場で硬直した。
「ちょ、ちょっとくらい話を聞いてあげても――」
あこの反応を見た司は、紗夜たちを引き止めようとする。
その瞬間、司の前身に寒気が走った。《リコルド》が出現する前兆だ。
(強い……もしかして、すぐ近くに!?)
司は周囲を見渡し始める。
「考えは変わらない。聞くだけ時間の無駄だから――司?」
ふと後ろを向いた紗夜が、司の様子を不思議に思い始める。
あこのすぐ近くにいた燐子も、焦った様子で携帯を取り出し、晴人に電話をかけていた。
「お願い……出て……!」
しかし、魔法によって眠らされた晴人は、着信音で起きることが出来なかった。
『ギャバァァァァァァァァァァァァ』
その束の間、《リコルド》が奇声を上げながら、CIRCLEの壁を壊し司たちに向かって突進してくる。
《リコルド》は、ケルベロスのように三つの頭が付いたヤギのような姿をしていた。
「!?」
「? 何かしら?」
得体の知れない怪物に息を止める紗夜。
一方、友希那は状況が理解できていない上、危機感を感じていない。
「ね、ねぇ! 何かのイベントだよね!? りんりん!」
「…………!!」
あこも状況を飲み込めず、燐子に助けを求めている。
燐子は覚悟を決め、スカートのポケットから何かを取り出そうとした。
「はぁ!!」
その前に、司が《リコルド》に蹴りを入れ、突進を食い止める。蹴られた《リコルド》は怯み、視線を全て渠に向け始めた。
「司!?」
無茶をすると咄嗟に感じた紗夜が、司を止めようと駆け出す。足音を聞いて察した司が後ろに右手の平を向け、紗夜を制止させる。
(《リコルド》との出来事はなかった事になる……なら、紗夜の前で戦っても問題ないはずだ!)
「紗夜たちは逃げて……ここは俺が何とかする」
司は紗夜たちの前で堂々とディケイドライバーを取り出す。
「司……それは……何…………?」
「…………」
紗夜の問いに司は何も答えず、ドライバーを腰に着ける。ドライバーのハンドルを引いた後、
「……変身!」
『カメンライドォ!』
『ディケイド!』
司はカードをバックルに挿入し、ハンドルを押し戻して『仮面ライダーディケイド』へと変身を遂げた。
「か、かっこいい!!」
ディケイドとなった司を見て、あこが興奮する。
「ぇ…………?」
それを他所に、燐子は彼の姿に言葉を失っていた。
「? 何かの撮影かしら? 紗夜、彼は俳優だったの?」
友希那は特撮ものの撮影か何かと勘違いしている。
「……………………」
「紗夜?」
「……………………」
紗夜は司が謎のヒーローに変身を遂げたことで頭が一杯になり、友希那の呼びかけにも反応しなかった。
「はぁ!!」
司は『ソードモード』のRBを構え、《リコルド》に攻撃し始める。
《リコルド》は最初の一撃を受けるものの、二撃目をかわして中央の頭の口から舌を伸ばし、鞭のように撓らせて司の胴体に打ち当てた。
「くッ!」
司は打たれた衝撃で後ろに吹き飛ぶも、しっかりと両足で着地する。しかし、スーツの隙間から血が流れ出ていた。
ヤギの舌はやすりのようにざらついているため、人の皮膚を傷つけることができるのだが、《リコルド》の皮膚は明らかに人を傷つけるための刃が付いている。
「っ!? 司!?」
それを見てようやく我に返った紗夜。急いで彼の元へ駆け寄ろうとする。
「来るな!!」
司は思わず強い口調で紗夜を止める。普段弱気な彼から出ない強い言葉に紗夜は驚き、言われた通り制止した。
「……俺は大丈夫だから、皆は逃げてくれ」
司は体勢を整え、RBを構えて《リコルド》に向かって走り出す。
《リコルド》は向かってくる彼を殺そうと三つの口から舌を伸ばし、彼を斬り刻もうとする。
彼は迫ってきた三本の舌を払いながら前に進もうとする。舌の攻撃は流せているものの、刃と刃が衝突する勢いに押され、前に進めずにいた。
(キツい……でも、街を守るため――紗夜を守るためにも! ここで負けられない!!)
司は舌を弾きながら左手でドライバーのハンドルを引き、RBを持っている右手をクイッと捻りRBを開いた。すると、RBから自動的にカードが放出され、ブーメランのように弧を描いてバックルに挿入される。
『アタックライドォ!』
RBの知らなかった機能について考えるのを後にし、ハンドルを押し戻す。
『スラッシュ!』
RBの刃がマゼンタの光を放ち始める。司は地面を強く蹴り、宙に舞う。それを逃がすまいと《リコルド》は三枚の舌を一気に上げ、司の体を貫こうとする。
「そこだ!!」
三枚の舌が密集したのを確認した司は前宙しながら舌に刃を当てる。『スラッシュ』によって強化されたRBの刃は、《リコルド》の刃をいとも簡単に切断した。
『ガァバァァァァァァァァァァ!!』
《リコルド》は舌から大量の血を流しながら悲鳴を上げ、その場で地団駄を踏み始める。
「これで終わらせる!」
司はRBから新たなカードを取り出し、バックルに挿入する。
『ファイナルアタックライドォ!』
『ディディディディケイド!』
ハンドルを操作すると、司の前に巨大なカードがドミノのように並び立つ。司はカードを突き破るように走り、RBにエネルギーを纏わせる。走った勢いを殺さず、《リコルド》に『ディメンションスラッシュ』をお見舞いした。
『アァァァァァァァァァァァァ!!』
《リコルド》の体が真っ二つに切断され、爆散する。
周辺に肉片が飛び散るも、一秒もしないうちに消滅していった。
「はぁ……はぁ……良かった…………勝てた」
司は息を整えながら、変身を解除する。
「友希那さん! あの――」
「帰って」
そして、CIRCLEの入り口を向くと、紗夜たちは何事もなかったかのように会話していた。原因は不明だが、《リコルド》が出現する直前のやり取りが行われている。
「はぐっ!!」
加入を紗夜に断られたあごが、先程と同じようにショックで体が硬直する。
「司、ここにいたのね」
司の姿を見た紗夜が、彼に歩み寄る。
「用事は済んだの?」
「……うん、まぁね」
(俺は用事があってスタジオを抜けたことになっているんだな)
司は紗夜に合わせ、頷いた。
「っ!? 司、どうしたのその体!?」
「えっ? あっ……!!」
司は自分の胴体を確認すると、服がボロボロになっていた。《リコルド》との戦闘で攻撃を受けたことによって服の一部が破け。そこから露出している肌の傷口から今も血が流れ出ていた。
「何があったの!?」
「その……猫を助けただけだから!」
司はその場をしのげる言い訳が思いつかず、紗夜から逃げてしまう。
「待ちなさい!!」
紗夜は彼を全速力で追いかけていく。
「……猫?」
司が放った言葉に反応した友希那は周囲を見渡す。
「…………」
その後、友希那は紗夜を追いかけることなく、そのまま帰宅することにした。
「……ディケイド。あの人も、晴人と同じ……仮面ライダー…………」
硬直し続けているあこの隣に立っている、燐子が小さく呟いた。
ポケットから取り出した、ウィザードリングを握り閉めながら。
次の更新についてですが、今週末に約一年半ぶりに本編の方を更新いたします。
本来であれば本編の方を先に更新する予定でしたが、二月下旬頃から急用ができてしまい、ストックの関係上こちらを先に更新してしまいました。すみません。
詳しいことにつきましては、後日改めて活動報告にてお伝えいたします。
今後とも、よろしくお願いします。