Decade ~Neo-Aspect~   作:黒田雄一

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第一章 青薔薇と椿に紛れる異物
第一話 司と紗夜


「ふぁ~……!」

 

 赤色のシャツの上にスーツのような黒の上着を身に纏い、首からマゼンタ色の二眼レフカメラをぶら下げた少年が、大きなあくびをしながら、駅前で誰かを待っていた。

 

 彼の名は門矢(かどや)(つかさ)

 現在高校一年生である。

 

「――少しくらいなら、いいよね?」

 

 退屈しのぎに、司はカメラを手に取り、周囲の風景を撮りだす。

 司は無我夢中で撮っていると――

 

「また勝手に撮ってるの?」

「うぇ!?」

 

 レンズ越しに、司の見慣れた少女が目の前に現れ、司は驚いてカメラを手放す。首にカメラのストラップをかけていたため、地面に落ちることはなかったが、驚きすぎた司はその勢いで尻もちを着く。

 

「……驚きすぎよ。情けないわね」

 

 青緑色の髪を腰の高さほど伸ばし、左肩にギターケースを持った少女が、司に手を差し伸べる。

 彼女の名は氷川(ひかわ)紗夜(さよ)

 司の幼馴染み。現在とあるバンドのギターを務めている。

 

「ご、ごめん……」

 

 司は紗夜の手を取り、立ち上がる。

 

「行きましょう。ライブハウスへ。時間が勿体ないので」

 

 紗夜は司の手を引っ張り、ライブハウスへと足を運び出す。

 

「えっ? 集合まであと1時間以上は――」

「その間は全て練習に当てるわ」

「紗夜、今日はライブだよね? 下手に体力を使うと本番で――」

「私がそんなヘマをするように見える?」

「い、いえ! 見えません!」

「よろしい」

 

 紗夜は微笑みを浮かべ、そのまま先に進む。

 

「…………」

 

(紗夜は、どうして俺を連れ回すんだ? 邪魔になるだけだと思うのに……)

 

 そんな疑問を持ちながら、司は黙って彼女についていく。

 

 

 

 

 司と紗夜は、目的地のライブハウス『CIRCLE(さーくる)』に辿り着く。

 

「あっ、紗夜ちゃんと司くん! 今日も早いね!」

 

 CIRCLEのスタッフ――月島(つきしま)まりなが出迎える。

 

「ど、どうも……」

 

 司は慣れない様子で受け答えする。

 

「手を繋いじゃってぇ! もしかして、付き合ってる?」

「えっ!?」

 

 その言葉を受けた司は思わずドキッとする。

 

「いえ、司はただの幼馴染みです」

「うっ……」

 

 紗夜は平然と返す。

 それを聞いた司はショックを受ける。

 

「?」

 

 司の反応を疑問に思った紗夜であったが、流すことに。

 

「……スタジオは空いてますか?」

「もちろん! 出演者用の練習スタジオがあるから。04番のスタジオを使ってね!」

「ありがとうございます」

 

 紗夜は司の手を引っ張ってスタジオに向かう。

 

「――応援してるぞ☆」

 

 すれ違いざま、まりなは司に小さな声で励ました。

 

「…………」

 

 スタジオに入った二人。

 紗夜はギターを取り出し、練習の準備をする。

 

「…………」

 

 何もすることがない司はそわそわし始める。

 

「? どうしたの?」

 

 その様子が気になった紗夜が尋ねる。

 

「あー、その……ずっと思ってたんだけど……俺、邪魔じゃない?」

 

 司が気になっていたことを口に出した。

 

「邪魔? そんなこと、思ったことはないわ」

「えぇ!? 逆にどうして!?」

「少なくとも演奏の邪魔にはならないわ。それに、多少音楽の知識があるから、客観的に見た演奏の感想もほしいから。司の存在は邪魔じゃないわ」

「そ、それならいいけど…………」

 

 紗夜が司の存在を肯定してくれたのだが、司自身は微妙に納得していなかった。

 本当に存在意義があると思えなかったからだ。

 

「!」

 

 そう思っているうちに、紗夜がギターを弾き始める。

 聞き惚れするような彼女のギターテクニックに、司は思わずカメラを構え、撮り始める。

 その様子を確認した紗夜がくすっと微笑み、より手の動きが洗練される。

 

「――ふぅ」

 

 弾き終えた紗夜が長い髪を片手でバサッと払いなびかせる。

 その瞬間も、司は逃さずシャッターを切る。

 

「……司にとっても、撮影の練習になるでしょ?」

「う、うん。確かに……」

「写真もギターと同じ、練習の積み重ねが大切なはずよ。私なら文句は言わないから、私で練習しなさい」

 

 そう言った後、紗夜はギターの練習を続ける。

 

「…………」

 

 彼女の姿をカメラに写しながら、司はある日のことを後悔する。

 

 

 

(紗夜がギターに固執するのは、きっと俺のせいだ――――)

 

 

 

   ◆

 

 

 「………………」

 

 中学時代――

 紗夜は放課後、学校の屋上で黙々とギターを弾いていた。

 その時の表情は真剣そのもので、演奏以外のことは一切考えていなかった。

 

 

 ――カシャ!

 

 

「!?」

 

 カメラのシャッター音を耳にした紗夜は、ギターを弾くのを止め、音がした方を向く。

 一人の少年――門矢司がカメラで紗夜を撮っていたのだ。

 

「司! 勝手に私を撮らないでと何度も言ってるじゃない!」

 

 紗夜は強い口調で司を叱り、カメラを奪い取ろうとする。

 

「ご、ごめん! つい!」

 

 司は怯えつつも、紗夜の手を的確にかわしていく。

 

「つい――じゃありません! 盗撮は立派な犯罪、私でなければ訴えているわ!」

「どうしても!」

 

 司は思いきって紗夜の手首を掴む。

 

「!?」

 

 強気になった司に、紗夜は驚いて思わず右足を引く。

 

「どうしても! ギターを弾いている時の紗夜を、紗夜自身に見せたいんだ! その時の紗夜が、一番輝いているから! 真剣な表情で弾く姿を! 本気で取り組んでいる姿を!」

「っ!!」

 

 司の想いがこもった言葉に、紗夜の冷えた心が溶け始める。

 

「ご、ごめん! 偉そうなことを言って……」

 

 我に返った司は、紗夜の手首を離す。

 

「…………」

 

 紗夜は無言のまま、ギターを弾き始める。

 

「おぉ……」

 

 司が紗夜のギターテクニックに見惚れ、聞き惚れていると彼女は指を止める。

 

「……撮りなさい」

「えっ……?」

「……あなたの気が済むまで、撮りなさい」

 

 そう言って、紗夜は演奏を再開する。

 司は慌てつつも紗夜を撮り始める。

 

「!?」

 

 司の手に、雫が落ちてくる。

 それを感じ取った間もなく、豪雨が降り始める。

 

「雨!? そんな予報聞いてないぞ!? 紗夜、撤退しよう!」

「…………」

 

 紗夜は雨を気にせず弾き続ける。

 

「紗夜、風邪ひくしギターも悪くなるからそろそろ――」

「!」

「ひっ!」

 

 紗夜は司を睨みつけた。司は思わず怯えたが、同時に弾き続けたいという彼女の熱意を感じ取る。

 

「…………」

 

 司は紗夜の気持ちに応えようと、カメラのシャッターを切る――

 

 

 

 

 

 ――結局、紗夜は雨が止むまでの三十分間、ずっと弾き続けた。

 

「あぁ、びしょ濡れだ……! 俺、タオルとか持ってきてないからなぁ……ハンカチじゃ気休め程度だし……」

 

 フェンスに背を向けている司はせ、めてものと思いカメラをハンカチで拭く。そのハンカチはズボンのポケットに入っていたもののため、当然濡れている。

 

「……ねぇ、司」

「?」

 

 司の左隣にいる紗夜がギターを構えたまま、彼に尋ねる。

 

「ギターを弾いてる私が一番輝いてるって……本当?」

「う、うん! 本当だ!」

「……そう」

 

 紗夜は右手を自分の胸に当て、安心した表情を浮かべる。

 

「!!」

 

 その姿を見た司は、再び紗夜に目を奪われる。

 雨に濡れた彼女の姿は、雲が晴れ差し掛かった夕日に照らされ、より美しく瞳に写った。

 司は、その瞬間も逃さずにシャッターを切る――

 

 

 

 この時の司は知らなかった。

 

 自分の言葉によって、紗夜が変わったことを。

 

 紗夜が、司のために弾いていることも――――

 

 

 

   ◆

 

 

 

――あの時、気づいていれば……紗夜は変われただろうか?

 

――気づいたとして、俺は何か言えただろうか?

 

――紗夜が変わったとしたら、紗夜に幸せが待っていたのか?

 

 

 

 司は思考を巡らせながら、シャッターを切り続ける。

 ふとスタジオにある時計が目に入る。

 

「あれ、もう1時間経ったのか……けれど、皆来ないね」

 

 司が呟くと、それを聞いた紗夜が首をかしげる。

 

「皆? 司、誰か呼んだの?」

「えっ? あーいや、バンドメンバーのこと」

「バンド? 何を言っているの?」

 

 紗夜が信じられないことを口にする。

 

 

 

「――私、バンドなんて組んでないわよ?」

 

 

 

「ぇ…………?」

 

 司が困惑する間もなく、スタジオにまりなが入ってくる。

 

「!?」

「!?」

 

 彼女の姿を見た司と紗夜が、息を止めるほど驚く。

 まりなの全身血まみれになっており、怪我した右肩を手で抑えていた。

 

「二人とも!! 逃げて!! 早――あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!」

 

 背後から、得体の知れない怪物に大剣を突き刺される。腐敗した人の肉片を混ぜて作ったような怪物が。

 まりなは耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げる。

 

「ぁ――――」

 

 まりなが白目を向き、全身の力が抜ける。

 彼女が死んだのを確認した怪物は大剣を抜き、彼女に抱きついては体を食べ始める。

 

「まりな……さん…………!?」

 

 司は腰を抜かして怯える。

 

「っ!」

 

 同じく恐怖を抱いていた紗夜だが、このままでは司もろとも死ぬと思い、動く。

 

「司! 逃げるわよ!」

「で、でもまりなさんが――」

「まりなさんの行動を無駄にしないで!!」

 

 紗夜は司の手を取り、彼を引っ張りながらスタジオを去る。

 

「!?」

 

 

 しかし、その先も地獄絵図だった。

 

 

 どこを見ても血痕があり、まりなを襲った怪物と似たものが、他の人を襲っては食っている。

 紗夜は襲われている人を無視して、CIRCLEを出る。

 外も荒れており、怪物が暴れていた。

 

「まりなさん……大丈夫かな……?」

「『まりな』? まりなって誰かしら?」

「うえぇ!?」

 

 またも首をかしげる紗夜に、司は変な声を上げて驚く。

 

「何言ってるんだ!? さっき俺たちを――あれ……なんだっけ? さっきまで覚えてたのに……」

「っ!! 司!!!」

 

 何かを見た紗夜が全力で司の手を引く。

 

「うぉ!?」

 

 司は前に引っ張られ、倒れる。

 

「紗夜、どうし――た…………」

 

 司は体を起こしながら、紗夜の方を向くと、血飛沫を浴びると同時に言葉を失った。

 

 

 ――紗夜が、司を庇って怪物に食われていた。

 

 

「つか……さ……逃げ――て――」

 

 紗夜が怪物に押し倒され、体を食われ始める。

 

「あ……あぁ…………!」

 

 食われていく。

 大切な人が――

 

好きな人の顔が――指が――髪が――目が――食われていく。

 得体の知れない化け物に――――

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 司は無我夢中で、怪物に蹴りを入れる。

 何度も何度も何度も何度も――――

 しかし、司の力が弱く、怪物は蹴られていることに気づいていないように紗夜を食べ続ける。

 次第に、他の怪物が司を襲おうとやってくる。

 それでも司は紗夜を助けようとする。

 

 

 ――つか……さ……逃げ――て――

 

 

「…………!」

 

 紗夜の最後の言葉を思い出した紗夜。

 

「あぁ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 司は狂うように叫びながら、その場を走り去る。

 紗夜を置いて――

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……うぅ……」

 

 商店街――。

 司は見知らぬ店の路地裏に身を潜めていた。

 商店街にはまだ怪物は現れておらず、司を偶然目にした何も知らない住民が、血まみれの彼を見て悲鳴を上げている。

 だが司によってそんなことどうでも良かった。

 

 司は泣き崩れていた。

 紗夜を見殺しにした。助けられなかった。

 大切な人を――あの人を――あの…………

 

「あれ……俺は誰を見殺しに……見殺し? 何を言っているんだ?」

 

 司は忘れてしまう。

 自分の大切な人を。それに関することも。

 

「なんで俺は血まみれなんだ? なぜ……?」

 

 司は自分自身に困惑していると、懐から一枚の写真が落ちてくる。

 歪んでいるが、雨に濡れた紗夜が写っている写真が。

 中学の時に撮った、あの時の写真が。

 

「!?」

 

 その写真を見た瞬間、司は思い出す。

 

「紗夜……氷川紗夜! どうして忘れかけたんだ!? 紗――さ……あれ?」

 

 自分の意志とは関係なしに、紗夜が自分の記憶から消えようとしていた。

 司はスマホを取り出し、待ち受け画面になっている紗夜の写真を見て記憶を維持する。

 

「紗夜……紗夜……! 忘れるか!! 忘れてたまるか!!」

 

 司は返り血を使い、地面に紗夜の名前を書き続ける。

 

「紗夜! 紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜!!」

 

 指が痛くなっても止めない。一瞬でも止めたら、忘れてしまいそうだから。

 

 

 

「紗夜!!!」

 

 

 

「――意外ね。あなたが選ばれるなんて」

 

「!?」

 

 司の隣から、紗夜の声が聞こえてくる。

 司は期待するように左を向く。

 

「……紗夜…………なのか……?」

 

 彼の隣に立っていたのは、彼の知る紗夜ではなかった。

 しかし、髪の色が黒であること以外は、紗夜そっくりだ。

 

「……人の名前を書き連ねて……気持ち悪いわね。でも、それだけ彼女のことを愛していたのね」

 

 少女は手に持っていた、緑色のカメラのようなものを司に差し出す。

 

「これをあなたに。これを使えば、彼女を取り戻すことができるわ」

「!?」

 

 司が反射的に立ち上がる。

 

「《リコルド》を倒せば、喰われた記憶、存在が戻ってくる。奴らを倒すには、『仮面ライダー』になるしかないわ」

「仮面……ライダー…………?」

 

 司は疑問に思いつつも、カメラのようなものを手に取る。

 

「これ……カメラじゃない?」

「仮面ライダーへ変身するためのベルトよ」

「ベルト?」

「あなたが本当に『異端者』であれば、使い方は本能が教えてくれるわ」

「『異端者』? 何を言って――」

 

 司が尋ねようとするも、少女は最初からそこにいなかったかのように消滅していった。

 

「…………」

 

(これを使えば……紗夜を生き返らせることができるのか……!?)

 

「いた! おいそこのお前!!」

 

 通報した住民によって、警察がこの場に来る。

 

「手に持っているものを地面に置いて、両手を――ぶふぁ!!」

 

 警察の背後から怪物が現れ、彼の左胸に拳を貫かせる。

 倒れた警察を、怪物は貪り始める。

 

「……紗夜を食べた怪物」

 

 司の目の前に現れたその怪物は、紗夜を食べた怪物だった。

 

(…………あの人の話がどこまで本当かわからない。けど――)

 

 司はカメラのようなものを腰に当てる。すると、ベルトが放出され、腰に固定される。

 少女の言う通り、司は本能的にベルトの使い方を理解していた。

 司はベルトのハンドルを引き、バックルを九十度回転させる。その後、ベルトに掛かっている本のような入れ物から一枚のカードを取り出す。

 

(俺は紗夜を見殺しにしてしまった。その罰が戦うことなら、紗夜のために――罪を償うために! 俺の全てを戦いに捧げる!!)

 

「変身!!」

 

 司はカードをバックルに挿入する。

 

『カメンライドォ!』

 

 謎の音声を聞いた後、ハンドルを戻す。

 

 

 

 

『ディケイド!』

 

 

 

 

 司から円を描くように九人の幻影が生み出され、彼を中心に一つになってモノクロのヒーロースーツを身に纏う。その後、ベルトのレンズから七枚の赤い板が生み出され、顔面部に刺さると同時にスーツに色がつき、マゼンタが基調のスーツへと変わった。

 

 

 この日を境に、司は『仮面ライダーディケイド』として戦うこととなった。

 




2020/03/15追記
時系列の関係上、司と紗夜を高校『二年生』→『一年生』に変更しました。
これまで読んでくださった方に混乱を招くようなことをし、すみません。
ただ、本編の方には影響はないので、ご安心ください。
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