Decade ~Neo-Aspect~   作:黒田雄一

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リアル多忙により、更新が遅れてしまいすみませんでした!



第四話 紗夜のバンドメンバー

「……ただいま」

 

 五日後の夕方。

 たった五日間で完治した司は家に帰ってきた。

 

 司の傷は全治まで早くとも一ヶ月とされていたが、彼は異常なまでの回復力をみせた。医者は困惑していたが、本当に体に異常がなくなっていたため、司は無事退院することができたのだ。

 

 しかし傷は完治しても、疲労は抜けていなかった。

 

「…………」

 

 司は無言で二階に上がり、自室へ向かう。

 

 二階には四部屋あり、元々両親が使っていた部屋が二つ、もう一つは誰も使っていない空き部屋だった。司本人は知らないが、後々弟妹が生まれてもいいように、司の嫁が住み始めてもいいように空けてあったのだ。

 

 司は迷わず自室に入り、吸い込まれるようにベッドに倒れ、うつ伏せで横の壁を見る。

 壁には、紗夜の写真がびっしりと貼られていた。

 大きく歪んだ写真もあれば、ピントのあった良い写真まである。

 

「紗夜…………」

 

 司は彼女の名を呟いた――――

 

『ガァアアアアアアア!!』

 

 すると突然、全身腐敗した目玉が飛び出ている人間のような怪物が、部屋の壁を突き破って入る。

 

「怪物……《リコルド》!?」

 

 司は跳ねるように立ち上がり、ディケイドライバーを渡した少女が言った怪物のと思われる名前を口にする。

 

「どうしてここに!? ――いや、今はそんな事気にしてる場合じゃない!」

 

 司はドライバーを取り出し、腰に付ける。

 

『ウゥ……オエッ!!』

 

 怪物は顔が裂けそうなほど口を大きく広げ、何かを吐き出した。

 

「ッ!?」

 

 それを見た司が片足を引く。

 怪物の吐く様にゾッとしたわけではない。正確には、それを軽く超えるとんでもないものが吐き出された。

 

 

 

 ――氷川紗夜の、頭だ。

 

 

 

 驚いた表情で固まった紗夜の顔が、目に焼き付く。

 

『オエッ!! ブェッ!!』

 

 怪物が吐き続ける。

 

 右腕――右足――左腕――左足――胴体

 

 紗夜の五体全て、怪物の口から吐き出された。

 

「紗夜…………紗夜!!」

 

 司は紗夜の体をかき集め、生首を持ち上げる。

 

「…………痛い」

「!?」

 

 紗夜が口を開いた。

 生首の状態では、まともに話せるわけがないのに。

 その理由を考えさせる間もなく、司の精神が追い込まれていく――。

 

 

 

 

「痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ピンポーン! ピンポーン!

 

 

「!?」

 

 家の呼び鈴に、意識が鮮明となった司。

 窓から昼の日差しが差している。司は無意識の内に寝ていたのだ。

 

 司は飛び起き、部屋を抜けて階段を降り、玄関へ走って扉を開ける。

 

「――退院おめでとう、司」

 

 その先にいたのは、紗夜だった。

 

「昨日はごめんなさい。本当なら家に送って行きたかったのだけれど、急用ができて――って、司?」

 

 司は目を見開かせた状態で、紗夜の体を舐め回すように両手で触り始める。

 

「司!? ちょっ、やめなさい!!」

 

 紗夜は戸惑いつつ、反射的に司を蹴り飛ばした。

 司は大の字になって倒れる。

 

「あなた、一体何を考え――はっ、ごめんなさい!」

 

 無断で体を触ってきたことを叱ろうとした紗夜であったが、病み上がりの司を蹴り飛ばしたことに気づき、慌てて彼のそばへ駆け寄る。

 

「大丈夫? 傷口開いてない?」

「…………良かった。紗夜が無事で」

「え?」

「いや、何でもない。体は大丈夫。傷口はもう完全に塞がってるから」

 

 司は立ち上がり、荷物をまとめようと自室に戻っていく。

 

「…………」

 

(たとえ怪物を倒して紗夜を戻したところで、食われた時の紗夜は苦しむ。なんとしてでも、紗夜を守らないと! せめて、奴らが現れる原因がわかれば……)

 

 

 

   ※

 

 

 

 駅前広場。

 

「…………」

 

 汚れ一つない長い黒髪に、白と黒のドレスのような服を身に纏い、男なら誰しもが一度目を留める大きな胸をした少女――白金(しろかね)燐子(りんこ)が誰かを待っていた。

 

「あこちゃん、まだ来ないな」

 

 その横に、一人の青年がドーナツを食べながら待っていた。

 黒いジャケットを着た、茶髪青年の名は操真(そうま)晴人(はると)

 ある事情で、燐子の家に居候している。

 

「そうですね……」

 

 

「――遥かいにしえの時より、我と共に戦いし魔導士とその従者よ……」

 

 

 突然、ゲームのキャラクターか何かを気取った口調の紫髪の少女が現れる。

 

「今宵 火と闇の封印が解かれし暗黒の地にて いざあいまみえん……!」

 

(……っ! キマった……!)

 

 少女がドヤ顔をみせる。

 

「こんにちは、あこちゃん」

 

 燐子が笑顔で少女を迎える。

 彼女こそが、燐子達が待っていた宇田川(うたがわ)あこ――中学三年生である。

 

「おまたせっ! りんりん! そうはる!」

 

 少女あこは先程とは異なり、中学生相応の明るさで二人に駆け寄る。

 

「やっぱりんりんの考えてくれたセリフ、かっこいいよ!」

「ありがとう……今日もかっこいいね」

「えへへっ、ありがとう!」

「俺はなーんか勿体ない気がするんだけどなぁ~」

 

 晴人があこの頭を撫でる。

 

「あこちゃんは可愛いんだから、もうちょっと可愛い服を着ても似合うと思うんだけどな」

「ふっふっふ……わかっておらぬな」

 

 あこは晴人の手をゆっくり降ろし、後ろに下がって格好いいポーズを決めようとする。

 

「我の魅力を――っいて!」

 

 しかし、後ろの通行人のギターケースにぶつかってしまう。

 

「ごめんなさい! ケース当たってしまいました?」

 

 通行人――氷川紗夜が立ち止まってあこに尋ねる。

 紗夜の隣には、司の姿もあった。

 

「あっ、全然大丈夫っ!」

「そうですか……では」

 

 紗夜は前に向き直り、先に進む。

 その後、晴人に目を向けた。

 

(あの男……どこかで見たことあるような……それに、隣にいるのは同じクラスの白金さん……?)

 

「紗夜、どうかした?」

 

 紗夜の様子が気になった司が尋ねる。

 

「いえ、何でもないわ」

 

 紗夜は顔を前に戻し、CIRCLEへ向かう。

 

「…………」

 

 一方、晴人は司の方を凝視していた。

 

(あいつ……たった一週間で完治したのか? ……ただの新人ではなさそうだな)

 

 

 

   ※

 

 

 

「おはようこざいます」

 

 CIRCLEに着いた紗夜と司。

 紗夜は受付のまりなに挨拶をした。

 

「おはよう! 紗夜ちゃん。司くん無事退院できたんだ! おめでとう!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 司は頭を下げる。

 

「今日は普段より遅かったけど、何かしてたのぉ?」

 

 まりながニヤニヤしながら聞く。

 

「…………いえ、何も」

 

 まりなの期待していることがわかっていた司であったが、本当に何もなかったので、残念そうな顔で答えた。

 

「そ、そうなのね……」

 

 司の様子に、まりなが同情するような悲しい声を出す。

 

「皆はどの部屋にいるんですか?」

 

 二人の会話に何の反応も示さなかった紗夜。

 

「『ライスカ』の皆なら、02番のスタジオにいるわ」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 紗夜はお礼を述べた後、司の手を引っ張ってスタジオに向かう。

 

「うおぉ!?」

 

 いきなり手を掴まれたことに驚いた司は、変な声を上げた。

 

「――おはようございます」

「お、おはようございます……」

 

 紗夜と司がスタジオに入る。

 

「おはよ――つ、司くん!?」

 

 マイクを持った茶髪の少女。

 最初は気を落としたような声で挨拶をしようとしたが、司の姿を見て驚き彼に駆け寄る。

 

「怪我はもう大丈夫なの!?」

「うん。大丈夫だよ、奈菜(なな)ちゃん。もう完治したって医者が言ってた」

「……っ!! 良かったぁ……!!」

 

 少女――奈菜が彼に抱きつく。

 

「!?」

 

 司は思いもよらぬ彼女の行動に驚き、目を見開く。

 

「……やめなさい、彼は病み上がりよ」

 

 紗夜はその光景に目を反らしながら、奈菜に注意する。

 

「あっ!? ごめん! 痛くなかった!?」

 

 奈菜は司から離れ、彼の身を案ずる。

 

「大丈夫。体はもう痛まないから。みんな、心配かけてごめん……」

 

 司は頭を深く下げる。奈菜だけでなく、他の少女二人に対しても。

 

「私たちは大丈夫だよ……退院おめでとう……!」

 

 紺色のツインテールをした少女――芽生(めい)が優しい表情で答える。

 

「あまり心配かけるなよ。約一名が集中できないからな」

 

 黒髪のボーイッシュな短髪をした少女――小和(こより)が苦笑を浮かべる。

 

(一名……紗夜のことかな……?)

 

 と思う司であったが――

 

「ちょ、小和! 余計なこと言わないで!」

 

 小和の言葉に顔を赤くしながら反応したのは、奈菜だった。

 

「?」

 

 司は奈菜が反応した理由がわからず、首をかしげる。

 

 

 門矢司、恋をしながらも他者から向けられる好意には気づかない、鈍感な男である。

 

 

 

 奈菜、芽生、小和の三人は、紗夜のバンド仲間である。

 奈菜がボーカル。芽生はキーボード。小和がドラム。そして、紗夜がギターを担当している。

 彼女達四人はガールズバンド『RISE(ライズ) TO(トゥ) THE() SKY(スカイ)』、略して『ライスカ』としてCIRCLEでライブを行っている。

 

(紗夜は自他共に厳しい性格だから、これまで様々なバンドから存在を阻まれてきた。その度に別バンドへと転々としてきたけど、どれも長続きしなかった。けれど、『ライスカ』は違う。もう半年も続いているんだ。きっと、上手くやっていける……きっと)

 

 司は、バンドを続ける紗夜を見てきた。……正確には、見せられ続けてきた。

 今回は大丈夫――そう思う彼であった。

 

 

 

 しかし――――――

 

 

 

 

 

「ねぇ司くん? あなたは抜けないよね? 私たちのそばにいてくれるよね?」

 

 

 

 

 司の『人生』は、またも彼に究極の選択を突きつける。

 

 

 

 




 作中に出てきた『ライスカ』というバンドは、紗夜がRoseliaに入る前にいたバンドのことです。名前は勝手ながら自分で考えてつけました。
 奈菜たち三人の名前もです。
 彼女達の容姿は漫画版を元にしました。



 まだ忙しい状態が続くので、更新が遅くなりますが、今後ともよろしくお願いします!

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