これまで更新できずに、本当にすみませんでした。
落ち着いてきたので、不定期ではありますが更新を再開します。
また、更新が止まっている間に、運営の方から『オリ主』タグをつけるように言われましたので、付けることにしました(正確には強制的に付けさせられました)
正直、性格が極端に異なるとはいえ、『門矢士』を元にしたもう一人の『カドヤツカサ』なので(作中の設定でもそうなので)、『オリジナル主人公』にするのは逆にマズいのでは…………と思いましたが、下手に逆らって作品が消されるのは嫌なので、大人しく従います。
このタグが付いたことに不満を持つ読者もいると思いますが、このような事情があるのでお許しください……
※※今回の話は、胸糞悪い要素が含まれています※※
「紗夜たち、もう戻ってるかな?」
『ライスカ』のライブが終わり、司は紗夜たちと合流しようと、スタジオルームに向かって歩いていた。
司はふと、現在時刻が気になり懐から携帯を取り出そうとする。
「あっ!」
懐に手を入れて漁っていると、同じ懐に入れていたライドブッカーが零れ落ち、ガツンと大きな音を立てて床に落ちた。
司は慌ててライドブッカーを拾う。
「傷ついてないかな……?」
司はライドブッカーの隅々まで確認し、傷がついてないか確認する。
武器である以上、戦闘を重ねれば傷つくのは避けられないものであるが、それでも不用意に傷つけたくないと司は思っていた。
だが、一度戦闘を行ったにも関わらず、ライドブッカーには傷一つなかった。
「良かった……」
司はペットの頭を撫でるかのように、ライドブッカーに描かれているディケイドの紋章を人差し指で触れる。
「――――!?」
すると突然、司は謎の圧迫感に襲われ、思わず周囲を見渡す。
周囲には誰もいない。しかし、何かが起きていることを司は感じ取る。
(もしかして、《リコルド》!?)
司は《リコルド》が出現したことを察知した。
確信は持てなかったが、尋常じゃない寒気と威圧は奴らの仕業としか、今の司は考えられなかった。
――ビビッ!! ビビッ!!
「うわっ!!」
突然、ライドブッカーから耳障りな警告音が鳴り響き、司は思わず声を上げる。
ライドブッカーを確認すると、紋章が赤紫色に光っていた。
しばらくすると、紋章が別の物に変わっていた。
「……魔法、陣…………?」
紋章がディケイドから、ウィザードに変わっているのだ。
しかし、それを司が知っているわけがなかった。
「これは一体――――って、あれ?」
気がつくと、ライドブッカーから出ていた警告音が止み、紋章も元に戻っていた。
さらに、先ほどまでの圧迫感も嘘のように消えていた。
(気のせい……な気はしないけど、朝も悪夢見たしなぁ……今は変に追求しない方が良さそう)
司は気にしないことにし、紗夜たちのいるスタジオの前まで歩く。
「!?」
スタジオの目前まで歩いたところで、司は前から歩いてくる少女に目が留まった。
『ライスカ』のライブを真剣に見ていた少女――友希那だ。
「あら、あなたはさっきの……」
友希那も司の存在に気づき、声をかけてくる。
「えっと…………」
「
司が友希那の名前を出すかどうか迷っていると、彼女の方から名前を出してくる。
彼女の名前は知っていた司だが、盗み聞きで知った名前を出しては不審がられるのでは思ったが故の迷いだった。
「か、門矢司です! その……どうして友希那さんがここに?」
「どうしてって、ライブがあるからよ」
「ライブ……ライブ!? もしかして、バンドやってたりするんですか!?」
「いえ、今はソロでボーカルをしているわ。あなたこそ、バンドを組んでいたの? ここではあまり見ない顔だけれど」
「いや、俺はその…………」
「――もう無理!!」
すぐ隣のスタジオから怒声が聞こえてくる。
司はこの声に聞き覚えがあった。元より、声が聞こえてきたスタジオは彼が目指していたスタジオ。誰の声なのか一瞬で察しがついていた。
「奈菜ちゃん!? まさか…………!」
嫌な予感が頭に過った司は、迷わず扉を開けて中に入る。
「あなたとはやっていけない!!」
スタジオ内にいる、怒りを露わにした奈菜が、紗夜に対しそう言い放った。
司が入ってきたことに、この二人の他、芽生と小和も気づいていない。
「……私は事実を言ってるだけよ。今の練習では先がない」
一方、紗夜は冷静に言い返す。
「バンド全体の意識を変えないと……いくらパフォーマンスや衣装で誤魔化しても、基礎のレベルを上げなければ、後から出てきたバンドに追い抜かされるわ」
「っ!?」
紗夜の正論に、奈菜の怒りが更にこみ上げてくる。
「でも……いくらそうでも! あなたが入ってきてから……私達まだ高校生なのに! みんな練習と課題で寝る時間もないのよ!!」
「奈菜ちゃん! 落ち着いてよ!」
紗夜に迫ろうとする奈菜に、芽生は涙を目に浮かべつつ押し止める。
「……ねぇ紗夜」
ドラム椅子に座って、一連を黙って聞いていた小和がやっと口を開く。
紗夜は後ろを向いて小和と顔を合わせる。
「あなたの理想はわかる。でも……あなたには、バンドの技術以外に大切なものはないの?」
「…………」
紗夜は目を逸らして考える。その視線の先に、偶然司が立っていた。
「司……くん…………!?」
奈菜たちはやっと、司の存在に気づいた。
「……お、お気になさらず…………」
下手に口を出したら余計悪化する。
これまでの経験から、司はこの状況を見守ることが最善だと結論付けていた。
司に対して紗夜は何も反応を示さず、小和が出した問いに答える。
「ないわ。そうでなければ、わざわざ時間と労力をかけて集まってまで、バンドなんてやらない」
「っ! ひどいよ!!」
紗夜の冷酷な言葉に、奈菜が再び口を開く。
「私達は確かに、いつかプロをって目指して集まった! でもみんな……仲間でしょ!?」
「仲間? 馴れ合いがしたいだけなら、楽器もスタジオもライブハウスも必要ない。高校生らしくカラオケかファミレスにでも集まって、騒いでいれば充分でしょ?」
「紗夜! それは言い過ぎだ!」
黙っていられなくなった司が口を挟んでくる。
「紗夜の言うように、上を目指すには生半端な気持ちで練習したって意味がないのはわかる。でも、一緒に演奏する仲間との関わりを、馴れ合いだって言って見限るのはおかしい! 紗夜は、技術だけに固執するロボットと演奏したいのか!?」
「ロボット…………」
「!?」
(今度は自分が言い過ぎた! ……けど、ここまで言わないと、紗夜は――――)
「……考えてもみなかったわ、最終手段として候補に入れておくわ」
「えっ…………!?」
司は目を見開く。
冗談か、はたまた本心か。真意はともあれ、紗夜の発言に司はショックを受けた。
「……最低!! もういい!! こんなバンド解散よ!!」
怒りが頂点に達した奈菜は、自暴自棄な言葉を吐き出した。
「奈菜、落ち着きなって」
変わらず冷静な小和が間に入る。
「私達がバラバラになることはないよ。この中で考え方が違うのは一人だけ…………紗夜、そうだよね?」
「!?」
彼女の言葉を聞いて、動揺を見せたのは司。
ここまで来ればこの後どうなるのか、わかり切っていたからだ。
「……そうね」
紗夜はどうするべきか悟ったようにギターケースを肩にかけ、扉の前に立つ。
「私が抜けるから、あなた達はバンドを続けて。その方が、お互いの為になると思う。今までありがとう。行きましょう、司」
「え!?」
紗夜は司の手を引っ張り、もう片方の手で扉を開く――――
「――待って」
司の腕を掴み、彼と紗夜の動きを止めたのは、奈菜。
「……その手を放しなさい」
司でなく、紗夜がそう言った。
紗夜は奈菜を強く睨み付けている。
「抜けるのはあなただけ。司くんは関係ない」
奈菜は強気な口調でそう告げた。
まだ怒りの熱は冷めていないが、先ほどと違って我を忘れている様子はなかった。
「関係あるも何も、司は元から『ライスカ』のメンバーではないわ」
「違う! たとえ一緒に演奏したことなくても、『ライスカ』と共に時間を過ごしてきた司くんも! 大切なメンバーよ!」
「奈菜ちゃん…………」
司を掴む奈菜の手が震えている。彼女の言葉が本物であることを、司は実感した。
「……このことに、これ以上司を巻き込まないで」
「元は紗夜の方よ! 紗夜が勝手に連れまわしてるだけでしょ! 聞いた話だと、これまで紗夜がいたバンドの練習に、必ず司くんを連れて行ってるって本人から聞いたよ!!」
「…………」
紗夜が司の方に視線を送る。
気まずい司は視線を返すことができず、他所を向いた。
奈菜に紗夜が意図のわからない連れまわしをしていることを、司は話したことがあったのだ。
紗夜は司に何も言わず、奈菜の方に視線を向けなおす。
「それでも、司がここにいる意味にならないわ。だから――」
「……紗夜、ごめん。先に行っててくれないか?」
司の発言に、紗夜は信じられないと言わんばかりの驚いた顔を見せる。
「つ、司……?」
「大丈夫。後ですぐ合流するから。少しだけ、奈菜と話をさせてほしい」
「…………っ!」
紗夜は不満げな顔を浮かべた後、司を掴む手を放し、勢いよく扉を開けてスタジオを抜ける。
その後、紗夜が誰かとぶつかる音がするが、司たちの耳には入らなかった。
「司くん! 残ってくれるんだね!」
奈菜は喜び、目に涙を浮かべる。
芽生と小和も安心した表情を見せた。
「…………」
しかし、司はまだ迷っていた。
「司くん? 大丈夫? ねぇ司くん? あなたは抜けないよね? 私たちのそばにいてくれるよね?」
暗い顔をしたままの司に、奈菜は次第に焦りが出てくる。
司は一度深呼吸をし、奈菜たちに向けて言い放つ。
「ごめん…………俺は紗夜について行くことにしたよ」
「えっ…………」
司の決断を耳にした『ライスカ』の三人は息を止める。
「……どうして…………どうして!?」
最初に口を開いたのは奈菜。何の躊躇いもなく涙を流し、司に尋ねる。
「どうしてなの……司くん!?」
「……何を言ってるんだ、司?」
芽生も小和も続けざまに聞いてくる。
「……奈菜ちゃん、芽生ちゃん、小和ちゃん。三人のことは本当に大切な友達だと思ってる。それでも…………それでも、紗夜を一人にできないから……俺は、紗夜のそばにいることに決めた」
司は奈菜の手を解き、優しい表情でゆっくりと告げた。
「なんで……なんでよ!」
しかし、納得できなかった奈菜は意地でもと司に食い付く。
「なんで紗夜にこだわるの!? 信じられない!!」
「……紗夜は、恩人だから。生涯孤独だったかもしれない、俺を救ってくれたから。紗夜がいたから、『ライスカ』とも出会えたんだ」
「それでも!! 司くんが無理して司くんについて行く必要はないじゃん!!」
「俺が行かなかったら……紗夜が一人になるから…………でも、約束するよ。ライブには必ず行くし、スタジオにも顔を――――」
「どうしてあんな女のために!?」
「…………」
奈菜の一言――その一言が、司の意思を固めてしまう。
奈菜自身も悪気はなかった。言うつもりもなかった。この言葉を口にし、司の表情が険しくなったのを見て我に返った奈菜は罪悪感に包まれ、怯えた表情で体を震わせ始める。
「……紗夜のこと、悪く思う気持ちもわかる。けど、俺は『本当の紗夜』を助けるために、支えるために、紗夜について行く。たとえ、俺の存在が……紗夜の眼中になかったとしても」
司は扉の方を向き、ドアノブに手をかける。
「待て!! 奈菜はお前のこと――!!」
「ッ!!」
小和が何か告げようとしていたが、司は耳に入らないように勢いよく扉を開け、走り去っていく。
――司自身、辛いのだ。
自分で決めたこととはいえ、友達を捨てたのだ。
紗夜と奈菜たちを仲直りさせて、『ライスカ』として活動を続けさせてやりたかったのが本心。だが、『今の紗夜』では到底叶いっこない幻想で、仮に『ライスカ』に残る選択をさせられたとしても、気まずい空気が続くだろう。そうなれば、今度こそ『ライスカ』は解散の道を辿る。
奈菜たちとは半年間とはいえ、とても楽しくかけがえのない日々を過ごしてきた。しかしそれ以上に、紗夜との時間が司にとって大切なものだった。
紗夜は自分の生きる意味をくれた存在。行くべき道を照らしてくれる存在。
『今の紗夜』は出来の良い『妹』の存在に、『姉』として生きる意味を見失い、道なき道を彷徨い歩いている。
だから今度は、自分が紗夜の道しるべになりたい。紗夜に、紗夜として生きてもらいたい。
中学の時から、司はそう決意していた。たとえ、友達を捨てても――――紗夜を――――
「っ…………!!」
しかし、司は本心まで非情になりきれず、奈菜たちと縁を切るようなことをした自分に嫌悪感と、まだ他の方法があったのではという後悔がこみ上げ、涙を流す。
「っ!? 司!?」
なぜか友希那と話していた紗夜は、横を走り去る司に驚き声をかける。
しかし、司は止まることなく、外へと走っていく。
紗夜は司を追いかけようとする前に、友希那の方を向く。
「……わかりました。でも、まずは一度聴くだけです」
「いいわ、それで充分よ」
「一旦失礼します――」
話し終えると同時に、紗夜は猛ダッシュで司を追いかける。
「…………」
友希那はその姿を見送った後、自分のスタジオへ歩いていく。
前書きが長くなりすぎたので、書ききれなかったことをこちらに書きます。
時系列の関係上、司たちの年齢を一つ下げました(高校二年生→高校一年生)。
少しネタバレになってしまいますが、Roseliaのバンドストーリー第二章を一年の中で無理矢理詰め込む予定でしたが、他イベントの絡みがないと成立できず、一年間でそれも詰め込むのは不可能だと今更気づいたが故の変更です。
これまで読んでくださった方の混乱を招くような変更をしてしまい、すみません。
ただ、これによってこれまでの話に大きな変化は起きていないので、安心してお読みください。
活動報告でもしたように、本編のストーリー構成を見直すために、しばらく外伝の更新に専念します。
本編の方を楽しみにしてくださってる方が多いと思う中、勝手なことをしてすみません。
四月中には本編も再開したいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。