Decade ~Neo-Aspect~   作:黒田雄一

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第八話 問われ続ける存在意義

「!? あったぁ!!」

「よかったね!」

「うん!」

 

 公園の砂場で、少年少女が探していたネックレスを見つけ出す。

 先ほど怪物に食われた記憶も忘れて。

 

「…………」

 

 それをベンチに座っている司が安心して見守っていると同時に、劣等感に陥る。

 

(俺の力だけじゃ……あの子たちを助けることはできなかった……人助けが自分に向いていないのはわかっている。でも、それを言い訳にして戦いから逃げたくはない。きっと、俺にしかできないことがあるから、このドライバーをもらったはずなんだ!)

 

「ッ!?」

 

 突然、こめかみに鋭い激痛が走る。司は思わず身を横に逸らす。

 

「悪い、まだ痛むか?」

 

 近くの自販機で飲み物を買っていた晴人が、司の分の缶ジュースを彼のこめかみに優しく当てたのだ。しかし、傷口が完全に塞がった今もなお、痛みが治まることはなかった。

 

「はい。少しは収まりましたが……助けてくださって、ありがとうございます」

 

 司は晴人から缶ジュースを受け取る。

 

「気にすんなって」

 

 晴人は司の隣に座り、自分の缶ジュースを開けて一口飲む。

 

「……自己紹介がまだだったな。俺は晴人。操真晴人だ、よろしく」

 

 晴人は手を差し伸べ、握手を求める。

 

「……門矢、司です」

 

 司は応じ、晴人の手を握った。

 

「知ってる。確か、先週傷だらけでCIRCLEに来てたよな?」

「は、はい! どうしてそれを!?」

「あの周辺に大量の《リコルド》が発生したのを探知して来たんだが、急に《リコルド》が一斉に俺を無視して商店街の方に行ったんだ」

「商店街…………」

 

 司は初陣の時を思い出す。

 晴人を無視したのは、司の元にいた《リコルド》が呼び寄せたからであると考えた。

 

「駆けつけた時には《リコルド》は全滅。存在修復が始まって街は元通りになった。気になった俺はしばらく探索して、CIRCLEに戻ってみると傷だらけのお前を発見。名前はお前の彼女が叫んでたから、把握してるってわけ」

 

(晴人さん、紗夜を俺の恋人だと勘違いしてるみたい…………嬉しいけど)

 

「晴人さんは、その、存在修復する前の記憶も残っているんですか?」

「当然。《異端者》に選ばれた者は『存在』を外部から干渉されないらしいからな」

「い、《異端者》って……えぇ!?」

 

 《異端者》。

 その言葉が他の人の口から出ると思っていなかった司は、思わず声を荒げる。

 

「晴人さんも、《異端者》なんですか!?」

「俺が仮面ライダーであることがその証明だ。本来、この世界に仮面ライダーは存在しないらしい」

「この世界って言い方ですと、まるで他の世界があるみたいな言い方ですが……?」

「さぁな。悪い、俺も詳しいことは知らないんだ。俺にベルトを渡した『黒髪の少女』から少し話を聞いたぐらいでさ。あっ、その少女、司の彼女に似てるんだよね」

 

 そう言いながら、晴人は司の背後を指差す。

 気になった司は後ろを向く。

 

「はぁ……はぁ……!!」

 

 ギターケースを持った紗夜が、息を切らしながら司の方に走って来たのだ。

 

「紗夜!?」

 

 驚いた司は、思わず立ち上がる。

 

「司! 大丈夫!? 何があったの!?」

 

 紗夜は息を整えず、真っ先に司の両肩を掴んで尋ねた。

 

「うッ!!」

 

 両肩に痛みが走り、司の体が怯む。

 

「えっ!?」

 

 予想外の反応に紗夜の声が裏返る。

 

「ご、ごめんなさい! 痛めるつもりはなかったのに……!」

「大丈夫、君のせいじゃないから」

 

 晴人がフォローに入る。

 

「君の彼氏、凄いんだぜ? 確か――」

「司は私の彼氏じゃありません。ただの幼馴染みです」

「うぐッ!!!」

 

 精神的大ダメージを受けた司は左胸を抑え、膝を崩す。

 

「司!? ……何があったんですか!? 本当に大丈夫なんですよね!?」

 

 紗夜が晴人に強く問い詰める。

 

「落ち着いてくれ。話を続けるが、確か五人のチンピラが子犬をいじめていたのを、こいつが一人で追っ払ったんだぜ」

「子犬?」

 

 紗夜は周囲をキョロキョロと見渡す。

 

(あれは本当か確かめたいんじゃない、どんな子犬か見たいだけだ……)

 

 紗夜の行動に、司は冷静な分析をしながら立ち上がる。

 紗夜は大の犬好き。真面目な彼女に反して、犬には目がないのだ。

 

「あーすまん。子犬はどこかに逃げちまった。どこか安全な場所に行ってくれていることを願う」

「……そうですね」

 

 紗夜は晴人の作り話を疑うことなく、子犬の安全を彼とともに願った。

 

(戦いのことを簡単に隠して見せた。俺なんかよりも遥に長く戦ってきたんだろうな……)

 

「……そういえばあなた、昼過ぎに白金さんの隣にいましたよね?」

「そうだが、もしかして燐子ちゃんの友達?」

「クラスメイトです」

「そっか。よかったら仲良くしてやってくれよ。人見知りだけど、優しい子だから。俺の名は操真晴人。訳あって燐子ちゃんの家にいるから、何かあったらよろしく!」

「氷川紗夜です。司がお世話になりました」

 

 紗夜は晴人に一礼した後、司の前に立つ。

 

「司、私はこれからCIRCLEに戻らないといけないけど……」

「もう大丈夫。痛みも引いてきたから……でも、CIRCLEにまだ用事があるの?」

「えぇ、実は湊さんのライブを見ないといけないから」

「湊さん……って、まさか友希那さんのこと!?」

「あら、知り合いだったの?」

「まぁ……今日知り合ったばかりだけど」

「なら話は早いわ、行きましょう」

「う、うん! うん!?」

 

 紗夜は司の手を掴み、彼を引っ張ってCIRCLEへ向かって足を運ぶ。

 司は戸惑いつつも、彼女について行くことに。

 

(これで恋人じゃない――っていうのは無理がないか?)

 

 晴人はそう思いつつ、二人の後を追う。

 

「?」

「実は俺も、連れをCIRCLEに待たせているんだ」

「そうですか。では、一緒に行きましょう」

「おう」

 

 三人は、CIRCLEへ向かう。

 

 

   ※

 

 

 CIRCLEのライブ会場。

 客席には司たち三人が着いており、友希那のライブを待っていた。

 

「……すごい熱気だね」

「そうね……こんなにファンがいるなんて――」

 

 紗夜の肩に誰かの肩がぶつかる。

 横を向いて確認すると、パーマをかけた茶髪を一つに束ねている、いかにもギャルっぽい雰囲気を漂わせている少女がいた。

 

「あっ、ごめんなさい!」

「いえ……こちらこそ」

 

 少女は見かけによらず丁寧な声で謝り、距離を置く。

紗夜も頭を下げる。

 

「あれっ、この時間のライブを見るって聞いたんだけどなぁ……」

 

 一方、晴人は燐子たちを探すため周囲を見渡している。

 

「りんりん! こっちこっち!」

 

 すると、後方から聞きなれた声が聞こえてくる。

 ドリンクバーの近くに今しがた、あこと燐子が来たのだ。

 

「ここに居れば、押されないからね! って……り、りんりんっ!?」

「人が……たくさん…………うち……に…………帰……りた…………い」

「わわわわわ!! りんりんの顔が青い!!」

 

 大はしゃぎしているあこに対し、燐子は顔を青ざめ、体を震わせている。

 人混みが苦手な燐子の体から次第に力が抜け、後ろに倒れそうになった。

 

「っ!?」

 

 その体を、先に回り込んでいた晴人が支える。

 

「大丈夫か?」

「は、晴人さん!?」

「そうはるだ! もうバイトは終わったの?」

「まぁな。燐子ちゃん、立てるか?」

 

 晴人が尋ねると、燐子は彼の方を向き涙目で訴える。

 

「か……帰りま……しょう…………!」

「えぇ!? りんりん! ここまで来てそれはないよ!?」

「燐子ちゃん、あこちゃんのためにも今日は頑張るべきだと思うけどな」

「うぅ…………」

 

 弱気な燐子に励みを入れた晴人。

 三人の様子を、紗夜と司は見つめていた。

 

(白金さん……彼女も湊さんのファンなの? それにしても隣の子、騒がしい……)

 

「ちょっとあなた達、静かに――――」

 

 紗夜が注意しようとしたところで、友希那のライブが始まった。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 彼女の歌声が耳に入った瞬間、紗夜は目を大きく見開き、ステージ側を振り向く。

 これまで聞いたことのないキレのある声。偽りのない感情が籠った声量。

 友希那の歌声に、聞いている全ての人が虜になる。

 

(言葉ひとつひとつが、音に乗って、情景に変わる……

 色になって、

 香りになって、

 会場が包まれていく……

 

 ――――『本物』――――

 

 やっと…………見つけた……!!)

 

 心を打たれた紗夜は拳を強く握りしめる。

 

「…………!!」

 

 司も友希那の歌に心を奪われていた。

 

(俺は素人だから、どんな風に凄いとか言葉にできない……けど、他のボーカルとは決定的に違う。感情の込め方が尋常じゃない!)

 

 友希那の歌が終わると同時に、歓声が会場全体に巻き起こり、その声はCIRCLEの外にも漏れるほどだった。

 

 

   ※

 

 

「……どうだった? 私の歌」

 

 ライブが終わり、紗夜と司は友希那のいるスタジオに訪れていた。

 

「うん! とっても良かったよ!」

「…………」

 

 司が素早く答えるも、紗夜の反応がない。

 

「紗夜?」

 

 心配そうに彼女の顔を覗きこむ司。それに応じたわけではないが、紗夜が口を開く。

 

「……何も言うことはないわ。私が今まで聴いたどの音楽よりも、あなたの歌声は素晴らしかった…………」

 

(紗夜がここまで相手を褒めるの、初めて見たかも……!)

 

 紗夜の素直な感想に、司は驚く。

 だが、更に彼を驚かせる一言が、彼女の口から放たれる。

 

 

 

「あなたと組ませてほしい」

 

 

 

「!?」

 

 司は目を見開き、息が止まる。

 そんな彼の反応を誰も気に留めず、紗夜が言葉を続ける。

 

「そして……『FUTURE(フューチャー) WORLD(ワールド) FES(フェス).』に出たい……あなたとなら、私の理想――――頂点を目指せる」

「……ええ!」

 

 紗夜の言葉を聞いた友希那は、微笑むを浮かべた。

 

「ちょちょちょッ!! ちょっと待って!?」

 

 司が体を震わせながら、声が裏返りそうになりつつも口を開いた。

 

「どうしたの? そんなに焦って」

 

 紗夜が不思議そうに司の方を見る。

 

「いやだって今! 今『組む』って!? それって、バンドのことだよね!?」

「それ以外何があるの――って……ごめんなさい。説明してなかったわね。実は、司が『ライスカ』と話をしているときに、湊さんに誘われたのよ」

「えぇ!? えぇ!?」

 

 司は動揺を更に大きくし、友希那の方に視線を向ける。

 

「紗夜の言う通り、先に誘ったのは私の方よ」

「そ、そうなんだね……!」

「……司、ひょっとして反対なの?」

 

 紗夜が不安そうに尋ねてきた。司は首を横に振る。

 

「そんなことはない! ただ、話が急だったからその……理解が追いつかなかっただけ……」

「そう、なら良かったわ」

 

 紗夜は安心したように一息吐く。

 

(……もしかして、俺が反対したら考えを改めるつもりだった!? ……いや、考え過ぎか……)

 

「――ところで、司」

 

 彼を呼んだのは友希那。

 

「ッ!? はい!」

 

 急に話しかけられたことに驚いた司は、思わず大きな声で返事をした。

 

「あなたは何か演奏できるのかしら?」

「……ごめん、何もできない……です…………」

「そうなの?」

「俺はただのカメラマンです……」

「カメラマン? 紗夜はそんなものを連れて――」

「『そんなもの』ではないわ」

 

 紗夜が割って入って来る。

 

「司は私の幼馴染みで、私とともに様々な音楽に携わってきた。ある程度音楽の知識はあるから、客観的な良いアドバイスをくれる。私が保証するわ。彼が邪魔になるようなことがあれば、私も責任を取って抜ける」

「そこまで言う!?」

 

 紗夜の過大評価に、司に変なプレッシャーがかかる。

 

「そう……紗夜がそこまで言うなら、司を連れてくることを許可するわ」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとう……」

 

 頭を下げる紗夜に、司も頭を下げる。

 

「……あなたと組める事になってよかったわ。もうスタジオの予約を入れていい? 私、時間を無駄にしたくないの」

「……同感ね」

 

 友希那と紗夜がスタジオを抜ける。

 司も慌ててその後を追う。

 

「他に決まっているメンバーは?」

「いいえ、まだ誰も……ベースとドラムのリズム隊、それにキーボードは特に重要」

「あと三人も……だったら急ぎましょう。実力と向上心のあるメンバーを見つけて、少しでも練習時間を確保して――」

「最高の曲を作り、最高のコンディションでコンテストに臨まなきゃ」

「……本当に、あなたとはいい音楽が作れそう」

「そうね」

 

 意気投合し、互いに微笑み合う紗夜と友希那。

 

「…………」

 

 そんな二人を見た司は、罪悪感に呑まれ始める。

 

(紗夜が他人に微笑みを浮かべたの、久しぶりに見たかもしれない……友希那さんとなら、本当に上手く行くかもしれない……そう考えたら、俺が『ライスカ』から離れた意味は…………なかったのかもしれない……)

 

「メロディはさっき聴いてもらったものを、私の方で詰めてみるわ」

「じゃあ私は、その後のパートのベースを――」

 

 

「あのっ!」

 

 

 友希那と紗夜の目の前に、隠れていた少女がばっと現れる。

 

(この子……確か、晴人さんと一緒にいた、あこちゃん? だっけ……?)

 

 少女――あこを目にした司は、周囲を見渡してみる。

 すると、奥の扉の陰に隠れている燐子と晴人の姿が確認できた。

 燐子は飛び出したあこを見て慌てており、晴人は司がこちらを見てきたことに気づき、微笑み返す。

 

「あのっ! さっきの話って! 本当ですかっ!? 友希那――さん、バンド組むんですか!?」

 

 あこは緊張で目を回しながら友希那に尋ねた。

 

「……えぇ、その予定よ」

 

 友希那は素直に返答した。

 

「あ、あこっ! ずっと友希那さんのファンでしたっ! 憧れてますっ!! ……だ、だからお願いっ!」

 

 あこは両手を合わせ、勢いに身を任せて願いを告げる。

 

 

 

「あこも入れてっ!!」

 

 

 

 




どうも、専門学生――だった者です。
今月から晴れて社会人になりました。


紗夜の口調に関してですが、友希那と出会ったばかりの頃は敬語が安定していなかったはずなので、そちらの方に合わせました。


四月に入ったので、今後は本編の方も更新していきます。ただ、実は一次創作の新作も別サイトで投稿していきたいと考えていますので、以前よりも更新頻度は下がるかと思われます。


今後とも、よろしくお願いします!
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