魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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遅くなりました!
秘密の部屋編最終話の投稿です。

終盤の部分を修正しました。
後々の展開を考えるとあのままでは戦力過多になったというか、設定的に無理があったと思う。


秘密の部屋 ing~after

スリザリンの継承者による3回目の事件。

あの日からホグワーツではパニックに近い騒ぎになっており、もうすぐやってくるクリスマス休暇では殆どの生徒が実家へ帰るために準備をしていた。

 

ハリーはというと、決闘クラブからそれほど時間を置かずに例の事件が起きたせいでホグワーツ内では孤立状態になっていた。ハーマイオニーやロンとその家族は今まで通りに接しているようだったが、それ以外の生徒はグリフィンドール生でも距離を置いているようだ。

 

そんな中、私はというといつものように必要の部屋に篭っていた。とはいえ、あまり篭りすぎるとパドマたちが心配して探しにくるので前より使用できる時間は短くなっている。

 

クリスマス休暇中にパチュリーと話し合う内容をまとめながら、京人形の作成と“双子の呪い”の練習を続けている。今作っている京人形は本来の使用方法をした場合消耗品となってしまうため、双子の呪いによって数を増やさないと使えないのだ。

とはいえ、双子の呪いは上級呪文なので難易度も高い。練習用の人形をコピーして練習しているが成功しないか不出来なものがコピーされるかの繰り返しだ。

まぁ、この呪文は成功するまでひたすら繰り返すしか練習の仕方がないので、クリスマス休暇が明けるまで形だけでも成功すれば上出来だろう。

 

 

 

 

それからクリスマス休暇が始まるまでは授業と宿題、必要の部屋で練習の日々が続いた。

双子の呪文は未だに成功しないが、京人形に関してはほぼ完成していた。残る作業は京人形と私の間に特殊なラインを繋げるだけなのだが、これが難しい。ラインの内容が内容なだけに仕方がないのだが。

 

パチュリーに相談すれば恐らく何かしらの解決策が見つかると思う。しかし何でもかんでもパチュリーに相談していたのでは悪いし、私としてもプライドがあるからできれば自分の手で完成させたい。

まぁ、そこまで急いで完成させる必要もないし、本の虫を見ていればバジリスクの位置も分かるから襲われて命を落とすなんていうこともないだろう。秘密の部屋に侵入すれば別だが、態々バジリスクのいる場所に出向く必要がない。

とはいえ研究素材としては非常に興味がそそられる存在ではある。特にバジリスクの毒は一般には出回らず、アクロマンチュラの毒よりも希少価値が遥かに高い。何とかして手に入れられないだろうか。

 

 

 

 

 

クリスマス休暇に入り、私は大勢の生徒に混じってホグワーツ特急に乗りロンドンへと戻ってきた。帰って早々漏れ鍋に部屋を取り、荷物を置いてパチュリーのところへと向かう。

ダイアゴン横丁を抜けて夜の闇横丁に入る。暫くジメジメした狭い道を歩いているとヴワル図書館が見えてきた。

扉に近づき軽くノックする。

 

「パチュリー、入るわよ」

 

扉を開けて中へと入る。

 

「……は?」

 

中へと入った私の目に入ってきたのは、部屋の中が本によって文字通り埋め尽くされている光景だった。均一に整頓されていた本棚は見る影もなく倒れており、中には折れている本棚もある。本棚に隙間なく収められていた本は全て放り出されて、足の踏み場がないほどだ。

 

予想外の光景に戸惑っていたが、このままじゃ中に入れないので杖を振るって本棚を直して本をしまっていく。本来ならパチュリーが掛けた魔法で勝手に戻っていくはずなのだが、どうにも機能していないのか戻る気配がなかったのだ。

 

散らかった本を戻しながら奥へと進んでいく。そしてパチュリーがいつも本を読んでいるスペースに辿りつくと、そこには一際高く積み重なった本の山があった。その山も上の方から順番に片付けていき、ある程度片付いたところで紫色の何かが出てくる。

 

「ちょっとパチュリー、大丈夫?」

 

「むきゅ~」

 

ある程度は予想していたが、本の下から出てきたのはパチュリーだった。

どうやら気を失っているようで声を掛けても「むきゅ~」としか言わない。仕方がないのでパチュリーを寝室へと連れて行き、パチュリーが起きるまで部屋の片付けでもやっておくことにした。

 

 

 

 

結局、その日の内にパチュリーが目覚めることはなく、目を覚ましたのは翌日の昼に差し掛かった頃だった。

 

「……昨日は迷惑を掛けたみたいね」

 

「別にいいけれど、何があったのよ?」

 

「たいしたことじゃないわ。ちょっと失敗しただけよ」

 

「失敗?」

 

「……アリスが気にすることじゃないわ」

 

どうやら事の経緯を説明する気はないようだ。話を振るたびに視線をずらしているが、よく見ると耳がうっすらと赤くなっている。

本当に何をやったのだろうか。

 

「それで、今日はどうしたのかしら?クリスマス休暇に入るなりいきなりやってくるなんて珍しいわね」

 

「ちょっとパチュリーに相談したいことがあってね」

 

私はホークラックスの件についてパチュリーに話す。

 

「……なるほどね。確かにホークラックスを使えば人形に魂を与えることは可能だと思うわ。問題点については恐らくなんとかなるでしょう。それにしてもよくホークラックスなんて見つけたわね。普通2年生が知るべき魔法ではないわよ?」

 

「好奇心って怖いわよね」

 

「言うようになったわね。まぁいいわ。それでさっき言った問題点についてだけど」

 

パチュリーが言うには分霊箱の役割を持つほどに魂を分割するならば殺人が必要だが、人形の魂を形成するための核にする程度ならば殺人の必要はなく、儀式によって分割する程度で十分らしい。

また、魂を分割したときに起こりえる肉体への影響については、それなりの痛みを伴うのは避けられないが僅かに魂を分割する分には影響はないだろうということ。ようは肉体の外傷と同じで、小さな切り傷ならば時間を置けば自然と治癒するが、腕を切断した場合は元の形には戻らないという風に考えていいらしい。

 

「とまぁ、このぐらいかしらね。この程度ならアリスでも分かると思うけれど?」

 

「分かっても確証ができないから不安は残るのよ。場合によっては自ら痛みを知って成長していくのも必要とは思うけれど、活用できるものがあるなら活用すべきと言ったのはパチュリーでしょ?」

 

「正面から私を活用したと言われても反応に困るんだけど……まぁいいわ」

 

それからはお互いの最近あったことを話し合った。スリザリンの継承者や秘密の部屋のことが話しに出てくると詳しく話しを聞かれたが、特に何かを言ってくるといったことはなかった。まぁパチュリーが作った本の虫に散々秘密の部屋について書かれてあったし、今更興味を引くものではないのだろう。

 

それからは、クリスマス休暇が終わるまでパチュリーの部屋を貸してもらい双子の呪いの練習と京人形に繋げるラインについて研究をしていった。ヴワル図書館の部屋の一つに魔法の訓練部屋みたいなのがあり、そこでは外部と完全に遮断されているため魔法省が未成年魔法使いにつけている匂いを無効化することが可能なのだ。ここならば魔法省の監視を気にすることなく魔法を使うことができるのだが、流石に無条件では使わせてもらえず、休暇中に本の整理や掃除をやらされることになった。

 

 

 

 

クリスマス休暇が終わりホグワーツに戻ってきた私は早速必要の部屋へと入ろうとしたのだが、ハーマイオニーがクリスマス休暇中から医務室に泊まりっぱなしなっていると聞いたので一度お見舞いに行ったが、面会謝絶となっているため直接会うことは出来なかった。

 

 

授業が再開してからはこれといって特別なことは起こらず、スリザリンの継承者による襲撃も落ち着きを見せていた。

そんな日々が続いたが、2月終盤に入るとホグワーツは独特の雰囲気に包まれていた。原因は最早説明も不要といえるロックハート先生だ。これまで何度も秘密の部屋の事件は解決したと言い張ってきたが、今回は学校中の落ち込んでいる気分を盛り上げるためにバレンタイン・イベントを催したのだ。

 

バレンタインの日は一部を除く生徒はもちろんのこと、先生たちも表情を一切動かさずに淡々と過ごしていた。特にマクゴナガル先生とスネイプ先生の剣幕は凄まじく、無表情で一言も喋っていないのにも関わらず生徒を黙らせ、淡々と授業を進めていく。そんな中でバレンタイン・カードを配達している小人には多くの人が同情の視線を向けていた。

 

またこの時期になると迫る学年末テストに向けて宿題が大量に出されるので、必要の部屋に行ける回数も随分と減った。

京人形の作成は寮の部屋でも出来るのですでに完成したが、肝心のラインが出来ていない。普通に動かす分には問題ないのだが肝心の機能が実装できていないのだ。

 

双子の呪いについては最近になって成功するようになってきた。成功といっても形だけで、露西亜をコピーしてもその中身まではコピーできていない。

今学期中は双子の呪いを習得することに専念し、人形に魂を込める儀式は夏休みにヴワル図書館の部屋を借りて行うことにした。

 

 

 

 

 

今日は久しぶりのクィディッチの試合が行われる。空は快晴でクィディッチには申し分のないコンディションだ。試合の組み合わせはグリフィンドール対ハッフルパフ。両チームとも普段以上に気合が入っており、特にグリフィンドールはこの試合の結果によっては優勝杯を手にすることができることもあり観客含めて異様な盛り上がりを見せている。

 

両チームとも最後の作戦会議が終わったのか、箒に跨りいつでも開始できる体勢だ。

フーチ先生が中央に入りクァッフルを構える。

そして、クァッフルを放り上げる瞬間、競技場に予想外の人物が入ってきた。

 

入ってきたのはマクゴナガル先生で、フーチ先生と何か喋っている。

そして話が終わったのか、マクゴナガル先生は手に持っていたメガホンを構えて競技場全体に聞こえるかのように叫んだ。

 

「この試合は中止です!」

 

その言葉を聞いた会場は騒然となった。特にグリフィンドールは凄まじく、自分たちの寮監に対して野次や怒号を叫んでいる。

グリフィンドールのキャプテンがマクゴナガル先生に詰め寄っているが、先生は耳を貸さずに寮へと戻るようメガホンで叫び続けた。

 

 

寮へと戻った私たちに聞かされたのは、再びスリザリンの継承者による被害が出たというものだった。犠牲になったのは二人で、レイブンクローの監督生のクリアウォーター先輩とハーマイオニーらしい。

周りでは自分たちの寮の監督生が襲われたということで悲鳴が上がり、中にはすすり泣いている人もいる。

私もハーマイオニーが襲われたと聞き心配になるが、話を聞く限りは今までの犠牲者同様石になっただけらしいので近いうちに治療されるだろう。

 

スリザリンの継承者が誰かは分からないけれど、一体何が目的なのだろうか。

バジリスクを使っているにも関わらず死者は一切出さずに石にするだけに留めている。殺すつもりはないのか、ただ単に偶然が重なって死者が出ていないだけなのか。

伝説通りマグルを学校から追放するならば石にするなんて中途半端なことはせずに殺したほうが効率がいいだろう。バジリスクの眼で殺せなくても、石にしたあとに殺せば済む話なのだから。それとも殺せない事情でもあるのか。あるいは別に目的があるのか。

 

 

翌日、朝食を取るために大広間へ行くと、スリザリンのテーブルからドラコが大きな声で話しているのが聞こえた。ドラコが必要以上に大きな声で話すのは、話の内容を誰かに聞かせるためというのが殆どだ。そしてその対象はグリフィンドールというのもほぼお決まりとなっている。

 

ドラコになるべく近い位置に座り話に耳を傾ける。

昨日の夜にドラコの父親と魔法省大臣がやってきてハグリッドをアズカバンに送り、ダンブルドア校長を停職にしたのだとか。ハグリッドは前回秘密の部屋が開かれたときの容疑者としての前科から今回も疑われ、ダンブルドア校長は一連の事件を防ぐことができなかったのが原因みたいだ。

 

 

 

 

学年末試験が3日後に迫り、生徒たちは課題や勉強に時間の殆どを費やしていた。

どうやら殆どの生徒は一連の事件があったため、学年末試験が行われるとは思っていなかったようだ。まぁ、私もこの騒ぎの中試験なんてやっている余裕があるのかと思っていたが、普段から予習復習だけは欠かさずやっていたお陰で他の生徒ほど切羽詰まってはいない。

 

また、マクゴナガル先生からマンドレイク薬が今夜にも出来上がるという知らせも受けた。これでバジリスクによって石になった人たちは治療されるだろうと多くの生徒が安堵の息を吐いている。一部の生徒はクィディッチの試合が再会されたとかスリザリンの継承者を捕まえたとかを期待していたみたいだが外れたみたいで残念がっていた。

 

 

 

午前の授業を終えて、昼食を食べるために大広間へと移動しているときにマクゴナガル先生の声が学校中の廊下に響き渡った。

 

「生徒は全員それぞれの寮にすぐに戻りなさい。また教師は全員職員室へと集まってください」

 

突然の出来事に生徒は呆然とするが、今までの経緯からしてすぐに寮へと戻れということは、再びスリザリンの継承者による被害が出たのだろうと簡単に想像がついた。

生徒は我先と寮へ向かって走り、私も生徒の流れに逆らえずにそのまま寮へと向かっていった。

 

寮へと戻った私たちが知らされたのは、予想通り再びスリザリンの継承者による襲撃があったということだ。ただし、今回は今までの犠牲者ように石になって見つかったのではなく、秘密の部屋へと連れ去られてしまったらしい。

 

連れ去られたのはグリフィンドールの一年生であるジニー・ウィーズリーらしいのだが、ウィーズリー家は純血の家系のはずだ。その末である彼女がなぜスリザリンの継承者に襲われたのだろうか。

周囲では純血であっても襲われると騒いでいて、純血非純血関わらず怯えていた。

 

その後、生徒は一歩たりとも寮を出ないようにと厳重に注意して先生は寮から出ていった。

先生が出ていったと同時に談話室の中は喧騒に包まれる。怯えるもの、涙を流すもの、呆然とするもの、部屋の隅で縮こまっている人など反応は様々だが皆パニックになっている。男子監督生のレインス先輩が生徒を落ち着けようとしているが、あまり意味をなしていないようだ。

 

 

 

あの後、何とか混乱は落ち着き、生徒は全員寝室へと向かっていく。一部の生徒は寝室へと戻らずに談話室で過ごしているようだ。その殆どが男女のペアというのも分かりやすい。

ちなみにパドマとアンソニーも談話室に残っている組だ。

 

 

私はというと、寝室の机に向かいながら本の虫を見ている。この本ならば秘密の部屋の中であろうと誰がいるかぐらいなら知ることが出来る。

以前調べた秘密の部屋の入り口がある三階の女子トイレを探す。本がパラパラと捲れてゆき、一つの頁で止まるとインクが滲み出してきた。

 

三階女子トイレ周辺の地図が浮かび上がる。一番奥のトイレには“マートル”の文字と黒点が書かれている。

入り口を確認し、そこから秘密の部屋へ順番に調べていこうとしたところで、地図の隅に三つの黒点が現れた。黒点は女子トイレへと入り、中央にある洗面台の前で止まる。

 

黒点にはそれぞれ“ハリー・ポッター”“ロナルド・ウィーズリー”“ギルデロイ・ロックハート”の名前が書かれている。

この状況で三人が女子トイレにやってくるのか分からずにしばらく様子を見ていると、ロックハート先生の黒点が洗面台に向かった途端に消えた。それに続くようにハリーとロンの黒点も消える。

 

あの洗面台は秘密の部屋の入り口になっているはず。そこで三人の黒点が消えたということは、秘密の部屋へと入ったということか。確かにハリーなら蛇語を喋れるので入ることは可能だろう。ハリーが入り口を知っていたのには驚いたが。

 

三人を追いかけて本の頁を捲っていく。最近知ったのだが、地図に浮かび上がった人物をマーキングすることでその人物を自動で追い、それに合わせて地図も変化していくのだ。

今回はハリーにマーキングをする。女子トイレの地図は消えて、新たに蟻の巣のように入り組んだ地図が浮かび上がった。

 

三人の黒点は広い空間にまとまっていたがすぐに移動を始めた。三人が秘密の部屋への道順を知っているのかは分からないが、確実に秘密の部屋へ向かって移動をしている。

途中、道が狭くなっているところで三人は止まった。その中でハリーの黒点だけがゆっくり動いていたが、ロックハート先生の黒点がロンの黒点に向かって動きすぐに離れる。

すぐに三人の黒点は激しく動き回り、ハリーの黒点は道の奥へと進み、ロンとロックハート先生の黒点は道を少し戻ったところで止まっていた。

 

その後、ハリーだけの黒点だけが動き出して奥へと進んでいく。一本道となった道を進んでいったハリーは秘密の部屋への扉に辿り着き、中へと入っていった。

 

 

 

 

部屋の中では、奥へ進むハリーの黒点とは別に三つの黒点があった。一つはジニー・ウィーズリーの名前が書かれていて部屋の奥で動かずにいる。もう一つの黒点は部屋壁の中にある空間にいてバジリスクと書かれている。

だが最後の黒点には名前が書かれていなかった。最初は部屋の一部かとも思ったが、黒点は確実に動いているので生き物であることは間違いないはずだ。

 

ハリーはジニー・ウィーズリーへと近づき、少し時間を置いて名前のない黒点が二人に近づく。名無しの黒点とハリーは話でもしているのかしばらく動きを見せなかったが、少しずつ名無しの黒点が部屋壁へと近づいていく。すると壁の中からバジリスクが出てきて、ハリーは部屋の入り口に向かって移動を始めた。バジリスクは名無しの黒点とジニー・ウィーズリーを通り過ぎハリーを追っている。

 

バジリスクはこの名無しの黒点の人物が操っているので間違いないだろう。となると、この人物がスリザリンの継承者ということか。

 

さすがにハリーが逃げるよりもバジリスクが追う速度の方が速いのか、すぐに追いつかれてしまう。ハリーとバジリスクの距離があと僅かとなったところで、その場に新しく乱入者が現れた。物凄い速さで移動している黒点には“フォークス”と書かれている。フォークスはしばらくバジリスクの周囲を動いていたがすぐに離れていった。

 

ハリーは部屋の横から伸びている細道に入りバジリスクから逃げている。途中で行き止まりに入って目の前をバジリスクが通ったが、気づかれなかったのかバジリスクはハリーを無視して移動を続けている。

 

しばらくしてハリーは部屋の中央へと戻り、ジニー・ウィーズリーに近づいていく。だが、すぐにバジリスクがやってきてハリーは部屋壁へと進み左右に動きながらバジリスクの突撃を避け続ける。

 

数秒か数分か。バジリスクがハリーへと突撃を続けるが、急に不規則に動き回って動かなくなった。少し様子を見るもバジリスクが少しも動かず、バジリスクの黒点が徐々に薄くなって、遂には完全に地図上から消えてしまった。

この本で生き物の黒点が消えるというのは、範囲外から出るか死ぬかの二通りしかない。状況を考えるとハリーがバジリスクを殺したと考えられるが、一体どうやってバジリスクを殺したのだろうか。

こういう時、その場の動きだけで詳しい状況が分からないのはもどかしい。

 

ハリーはジニー・ウィーズリーに近づき、名無しの黒点はハリーに近づいて移動している。ハリーがジニー・ウィーズリーのところに辿り着くと、ハリーに近づいていた名無しの黒点が先ほどのバジリスクと同じように薄くなっていき、数秒で完全に地図上から消えたのを確認する。

これはハリーがスリザリンの継承者を倒したということなのだろうか。バジリスクと同じで詳しい状況が確認できないが、秘密の部屋で今動いているのはハリーしかいないから、そうとしか考えられない。

 

その後は、再びフォークスというのがやってきて、フォークスを先頭にハリーとジニー・ウィーズリー、合流したロンとロックハート先生が城まで戻ったところで本の虫を閉じた。

 

 

 

 

 

 

ハリーたちが城へと戻ってから二時間程だろうか。寝室にまで届くほど大きな叫び声が談話室から聞こえた。周囲の部屋から次々と扉が開く音がして、いくつもの足音が下へと降りていくのが聞こえる。

 

何事かと思い談話室へと向かうと、生徒が喜び合いながらはち切れんばかりに声を上げている。周りの話を聞いていると、石になった人たちが回復したこととスリザリンの継承者はいなくなり秘密の部屋も閉ざされたという知らせがあったそうだ。

それに加えてこれからパーティーを開き、さらには事件解決を祝して学年末試験を中止するとの通知もあったらしい。

 

その日は夜通しパーティーが開かれ、途中にダンブルドア校長がハリーとロンに二〇〇点ずつ与えたことでグリフィンドールが二年連続優勝となったことでさらに盛り上がり、パーティーが終了したのは日が昇ってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、行きましょうか」

 

事件解決パーティーから一週間後、私は秘密の部屋へと入るために城の裏道を移動していた。なぜ秘密の部屋へと入るために裏道を移動しているのかというと、三階女子トイレは現在封鎖されており入ることができないからだ。

とはいえ、三階女子トイレにしか入り口がないというわけではない。隠し部屋の構造上、出入り口を封鎖された場合に備えて別の出入り口を用意しているものだ。隠し出入り口なだけにかなり見つかりにくい場所にあったが、三日間調べてようやく見つけた。

 

隠し出入り口は学校の裏手側にある崖岩に隠されていた。岩が重なり合うように隠されていた場所には蛇の彫刻が施されている。

 

「んっんん!―――『開け』」

 

今日までに練習してきた蛇語で合言葉を唱える。すると岩はズズズと横に移動し暗い通路が現れた。

 

「ルーモス -光よ」

 

光源を確保して通路を進んでいく。長い間使われえていなかった為か歩くたびに埃が舞い、所々には蜘蛛の巣が張っている。巣が張ってあっても蜘蛛がいないのは近くにバジリスクがいたせいだろうか。

 

一時間ほど歩いたか、ようやく通路の端に辿り着いた。

鉄の扉があり、本来ドアノブがあるべき場所にはとぐろを巻いた蛇の像が取り付けられている。

 

「『開け』」

 

入り口同様蛇語で合言葉を唱える。取り付けられた蛇の像は複雑に動き、ガチャリという音とともに鉄扉が開く。中へ入ったそこは小さな部屋で、奥には上に続く螺旋階段があった。螺旋階段を上り、頭上にある石を浮遊術で浮かしてどける。階段を上りきると、そこは広い空間の隅で他からは見えにくい場所に出た。

 

 

部屋の中央に向かって移動すると、部屋の奥に巨大な何かが倒れているのが見え、それに近づいていく。そこに倒れていたのは緑色体表をした大蛇だった。

 

「これがバジリスクね。十メートル近くはあるかしら。本当、ハリーはどうやって倒したのかしらね」

 

よく見るとバジリスクの眼は抉れており生々しい肉が露出していた。ハリーが潰したのだろうかと一瞬考えるが、移動する大蛇の眼を的確に潰すなんて芸当が出来るのかと疑問に思う。

 

「そういえば、バジリスクがハリーに襲い掛かっているときフォークスっていうのが乱入していたわね」

 

フォークスが何者かは分からないが、本の虫の地図上で見ている限りでもかなりのスピードで動いていたはずだ。なら、バジリスクの眼を潰したのはハリーではなくフォークスと考えるのが妥当か。

 

現場検証も程ほどにして私はバジリスクの頭部に近づく。今回ここに来たのはバジリスクの毒を採取するためだ。

浮遊術でバジリスクの頭を浮かし、口を開く。血のように赤い口内と黄色い牙が露出し、牙からはポタポタと黄色い液体が滴り落ちている。死んだから毒腺が緩んでいるのだろうか。

 

私はローブの下からクリスタルの瓶を取り出し、牙から滴る毒を採取していく。幾つかは研究用として小瓶で採取を行う。

 

毒の他に鱗や牙などを採取し終えた私はバジリスクから離れ、少し離れた場所の岩を削っていく。岩を削り出来上がった大穴の中にバジリスクを移動させて不恰好にならないよう岩を積み重ねていった。最後に長方形に切り取った石を積み上げた岩の前に置き文字を彫っていく。

 

【偉大なる蛇の王者 ここに眠る】

 

そう石に刻んだ私は、作り上げた墓標の前で軽くお辞儀をした。

バジリスクの墓標を作った後も秘密の部屋の探索をしていたが、サラザール・スリザリンの残した隠し部屋という割にはこれといって目を引くものはなく、バジリスクの毒や牙を手に入れただけで他に収穫はなかった。

 

 

 







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