魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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月単位で投稿が遅れてマジすみません。
遅れた理由とか……別に創作意欲がなくなったとかではなく、他の作品見てたり完結していないにも関わらず新しい作品の裏設定を延々と考えていたのが原因です。

言い訳はここら辺で、とりあえず一言。
\(●)/ 私は帰ってきた!



騒動

闇の魔術に対する防衛術の最初の授業から幾日かが経った。ルーピン先生の授業は生徒たちの間で噂になり、瞬く間に一番の人気の授業となった。反面、魔法生物飼育学は初回の授業での事件が尾を引いているのか、授業内容が“レタス食い虫の育成”というつまらないものが続いている。これが将来美しい蝶にでもなるというなら意欲も沸くだろうが。

 

 

 

「では、今日の授業はここで切り上げようか。宿題を一つ、今日学んだことについて羊皮紙一枚分のレポートを書いて来週に提出すること」

 

本日最後の闇の魔術に対する防衛術の授業が終わり、ルーピン先生が出した宿題に呻き声を上げる生徒に混じって教室を出て行く。日が進むごとに授業内容が難しくなっていくが、ルーピン先生の進め方がいいのか生徒から不満が出ることはない。スリザリンを除いてだが。逆に魔法薬学の授業は多くの生徒から不満の声が上がっている。内容が難しいのはいつもの通りだが、今年は生徒いびりが酷いらしい。特にボガートの一件でスネイプ先生に妙な格好をさせたネビルに対してはそれが顕著だとか。

 

そんなことを考えていると、どこからか見られている気がして思わず振り向く。振り向いた先ではルーピン先生が教室奥にある部屋に入っていくのが目に入った。

闇の魔術に対する防衛術の最初の授業の日、ルーピン先生と話をしてからちょくちょく今みたいに視線を感じることがある。視線を感じた方向に目を向けるとそこには必ずルーピン先生がいて、部屋に入ろうとしているか床に落としたものを拾っているかなどをしているのだ。

 

監視―――というには雑すぎる気がする。あの日話したことは多分ダンブルドア校長にも伝わっているだろう。話した内容は同じだが、何か不審な点に気づきダンブルドア校長から注意を向けておくようにでも言われたのかもしれない。まぁ、一日中見られているというわけでもないし、最近やっているのも呪文の練習に人形の作成と見られて困るものでもないから気にすることはない。

 

 

 

夕食を食べに大広間へ入ると部屋の左右から妙な気迫を感じた。何だろうと思い視線を向けるとグリフィンドールとスリザリンがお互い睨み合っている。今度は何があったのだろうと考えるも、グリフィンドールはキャプテンのオリバー・ウッドが今年で最後だということでクィディッチに相当な気合が入っていると聞いたので、そんなグリフィンドールにスリザリンがちょっかいをかけたといった感じだろうと結論付ける。

 

夕食を食べた後談話室へと戻ると掲示板の前に人だかりが出来ていた。何かと思って掲示板を覗き込むとホグズミード週末のお知らせが貼ってある。そういえばマクゴナガル先生に許可証について聞くのを忘れていた。無理だとは思うけれど、明日マクゴナガル先生に聞いてみるか。

 

 

 

 

 

「駄目です」

 

翌日、マクゴナガル先生に許可証のことで聞きにいったが、還ってきた答えは予想していた通りのものだった。取り付く島もないとはこのことを言うのだろうか。

 

「やっぱり無理ですか」

 

「えぇ。許可証に書いてある通りに保護者が署名をしなければホグズミード行きを許可することは出来ません。ミス・マーガトロイド、貴方は保護者を名乗り出た人たちの提案を悉く蹴ったと聞いています」

 

「はい」

 

マクゴナガル先生の言う通りだ。両親が死んで保護者もいない天涯孤独というのなら話は別だろうが、私みたいに保護者を名乗り出た人を断り続けたということなら、そんな言い訳は通用しないだろう。

 

「私としても出来ることなら許可したいですが規則は規則です。残念ですが諦めなさい」

 

「いえ、私の方こそ無理を言ってすみません。では失礼します」

 

そう言ってマクゴナガル先生の部屋を出て行く。ホグズミード村に行けないのは残念だがその分空いた時間で魔法の練習でもしていればいいか。学生としては随分寂しい青春と思わなくもないが割り切ろう。

 

 

 

 

「あ」

 

ふと声が聞こえたのでそちらに目を向けるとハリーが階段から降りてくるのが見えた。いつも一緒にいるハーマイオニーやロンの姿は見えずハリー一人だけのようだ。これからクィディッチの練習があるのか赤いユニフォームを着ている。

 

「こんにちはハリー。これからクィディッチの練習?」

 

「あ、うん。アリスは何してるの?」

 

「ちょっとホグズミードのことでマクゴナガル先生のところにね。私は両親も保護者もいないからどうにかならないか聞いてみたんだけど、駄目だって言われたわ。予想はしてたけれどね」

 

そう言うとハリーは驚いたような顔をした。そう言えば、ハリーに両親のことについて話していなかった気がする。そこまで接点があるわけじゃないし、ハーマイオニーが話したというのも多分ないと思うので今初めて知ったのかもしれない。

 

「その、マクゴナガル先生はホグズミード行きを許可してくれなかったって?」

 

「えぇ。私の場合両親の変わりに保護者がいればよかったんだけれど、昔から保護者に名乗り出てくれた人の話は断り続けていてね。今回はそれが裏目に出てしまったわ」

 

「……そうなんだ」

 

それっきりハリーは黙り込んでしまった。話は終わりかと思い、そのままハリーの横を通り過ぎようとする。ちょうどハリーの横に立ったときに再びハリーが話しかけてきた。

 

「アリスは寂しくないの?両親がいないことに」

 

「……昔は寂しかったわ。でもいつまでも落ち込んでいてもしょうがないしね。過去に縛られるくらいなら未来を向いた方が有意義じゃない?」

 

私は話を打ち切りハリーに構わず階段を登っていった。ハリーから両親云々で話を振られるとは思わなかったけれど、考えてみればハリーも両親を亡くしているんだったか。それも私とは違い両親の顔も覚えていないみたいだし。その分、両親への想いが強いのだろうか。

 

 

 

 

ハロウィーンの日、その日は朝から生徒みんなが騒ぎ立てていた。一・二年生はハロウィーンのパーティーが楽しみなのだろう。どんなご馳走がでるのかところ構わず話し合っている。三年生以上の生徒はホグズミードの話で盛り上がっている。それは勉強にしか興味がないと囁かれるレイブンクローとて例外ではない。

 

「アリス、ホグズミードに行けないのは残念だけど、その代わりいっぱいおみやげ買ってくるからね!」

 

「アリスは真面目だからな。ゾンコのいたずら専門店の物なんかどうだろう」

 

朝からこんな調子でパドマとアンソニーが張り切っている。その気持ちは嬉しいけれど少しは抑えてほしい。周りからの視線が刺さる。

 

「ありがとうパドマ、期待しているわ。それとアンソニー、あまり過激なものは控えてね」

 

二人の心遣いは純粋に嬉しいが、私としては二人がホグズミードでどう過ごしたかを聞かせてもらえれば十分なのだが無理だろう。この二人、人前でいちゃつく割には自分たちのことを話さないのだ。

 

 

 

 

 

談話室へと向かって歩いている途中人気のないところに差し掛かかり、歩く速度を緩めながら小声で呟く。

 

「それじゃ、三人とも行ってらっしゃい」

 

言い終えると同時にマントの下からドールズが出て行くのを確認する。そのまま歩く速度を元に戻して私は談話室へと向かっていった。今回ドールズには城の中や校庭をそれぞれ自由に動き回るように言ってある。三人とも自由に動けるようになったとはいえ私を中心に五〇メートルぐらいの範囲でしか動いたことがないのだ。なので、人が一気に少なくなるこの日を利用してドールズの行動範囲を広げてみることにした。

ちなみに、ドールズには魔力を通すと“目くらまし術”を発動する指輪を着けさせているので簡単には見つからないだろう。以前は私が直接“目くらまし術”を掛けていたが、今のドールズにはその必要もない。

 

 

談話室へと戻った私は夜のパーティーの時間まで魔法薬学や変身術の宿題を片付けながら時間を潰すことにした。談話室はいつもに比べて人が少なく、一・二年生が課題であろうものに必死になって取り組んでいるのがちらほらと見える。

 

二時間ほどが経ち、最後の変身術の宿題が終わりそうになったころに横から声を掛けられたのでそちらを向くと、ルーナが腕に教科書や羊皮紙を抱えて立っていた。

 

「こんにちはルーナ。久しぶりね」

 

ルーナとは同じレイブンクロー生ではあるが、普段あまり接点がないので会話をするのは久しぶりだった。

 

「こんにちはアリス。席空いてる?他は全部取られてて」

 

「別にいいわよ。ルーナも宿題?」

 

「えぇ。魔法薬学が難しくってちっとも出来ないの」

 

そう言って、ルーナは机に教科書と羊皮紙を広げて宿題に取り掛かり始めた。それを見て、私も自分の宿題の仕上げに取り掛かる。

三〇分後、全部の宿題が終わり背を伸ばす。ずっとテーブルに向かっていたせいか背骨からパキと骨が鳴る音がした。テーブルに広がった教科書やインク瓶などを片付けながら向かいに座るルーナを見る。あれから三〇分経っているにも関わらずルーナの前に広げられた羊皮紙は未だに何も書かれていなかった。

 

「ルーナ、どこか分からないところでもあるの?」

 

そう尋ねると、ルーナは教科書を穴が空くほど見つめていた視線を上げた。

 

「えぇ、“ふくれ薬”についてなんだけれど」

 

ルーナが開いた教科書のページを向けながら答える。

 

「あぁ、これはね―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうアリス。アリスのおかげで宿題が全部終わったわ」

 

あの後、ルーナの“ふくれ薬”を手伝ったついでに他の教科の宿題も手伝うことになった。宿題の殆どが白紙の状態で、どう考えても宿題の提出期限にまで間に合わないと思ったからだ。

 

「お礼はいいから、次からはこまめに宿題をやっておきなさい。マクゴナガル先生やスネイプ先生は一回の宿題の量が多いから後々に回すと追いつかなくなるわよ」

 

「うん、気をつける」

 

本当に分かっているのだろうか。ルーナのぼんやりとした声で聞いているとどうにも真偽の判断がしにくい。

壁に掛かっている時計を見るとずいぶんな時間が経過しており、あと一五分でハロウィーンパーティーが始まろうとしていた。宿題を置きに寝室へと向かい、途中でルーナと別れる。大広間まで一緒に行くかルーナに尋ねるが、部屋で少しやることがあるからと言われて先に向かうことにした。

 

 

 

 

ハロウィーンパーティーは去年にも増して豪勢な料理でテーブルが埋め尽くされていた。私はパドマたちと一緒にホグズミードの話を聞きながらゆっくりと料理を食べている。よほど楽しかったのかパドマのテンションが話を追うごとに高まっていって、流石に見かねたのかアンソニーが押さえに入った。パドマは話を中断させられたせいか不満そうな顔をしていたが、アンソニーが耳元で何かを呟いた後、顔を真っ赤に染めて大人しくなった。そのパドマの変わりように驚くも、いつの間にか二人だけの世界に入っていた二人に対して言葉を挟めるわけもなく、溜め息を吐いて黙々とパンプキンパイを食べ始めた。

 

 

パーティーが終わり、他の生徒と共に寮へと戻るために廊下を移動する。ドールズとは予め寮の入り口前で落ち合うことになっており、生徒が談話室へと入っていくのを見ながら周りに気づかれないようにマントの下へと潜り込ませる。だが蓬莱だけがマントの中に入らず、私の肩に乗り小さな声で話し出した。

 

「アリスアリス。さっき犬みつけた~。おっきな黒い犬~」

 

「犬?学校の中で?」

 

「うん。それでね、犬がおとこの人にへんしんしたの~」

 

「……とりあえず、詳しくは部屋に戻ってから聞くわね」

 

談話室へと入り、蓬莱の話を聞くためにそのまま寝室へと向かう。だが、寝室へ続く階段を登ろうとしたときに勢いよく談話室の扉が開かれたため、足を止めて入り口の方に振り向いた。見るとフリットウィック先生が息を荒くしながら入ってきている。

 

「生徒はみんな大至急大広間へと集まるように!さぁ急いで!監督生は生徒を誘導して!さぁ早く!」

 

フリットウィック先生が告げたことに戸惑いながらも、生徒たちはぞろぞろと入り口に向かっていく。私も何だろうと思いながらも、他の生徒の流れに乗って移動を始めた。

 

 

 

 

 

その夜、生徒たちは大広間での就寝を命じられた。何でも指名手配中のシリウス・ブラックが城内に入り込み、グリフィンドール寮の入り口である太った婦人(レディ)の絵画を切り刻んだらしい。寮へ侵入されそうになったこと、まだ城内に潜んでいることを考えて、生徒は一箇所に集めて防備を固め、先生たちで城内を捜索するのだとか。

 

すでに消灯時間が過ぎて大広間は真っ暗になっている。残された光源は銀色のゴーストと天井に再現された星空の僅かな光だけだ。主席の生徒が早く寝るよう促しているが、他の生徒たちは今回の事件についてヒソヒソと話し合っている。話の中心はグリフィンドール生がいる周辺で、他の寮生がグリフィンドール生に話を聞いているのが聞こえる。

 

そんな中、私は寝袋に深く入りながら蓬莱を出す。先ほど聞きそびれた事について尋ねるためだ。とはいえ、周囲に人が大勢いる中で堂々と蓬莱から話を聞くわけにもいかないので、蓬莱の記憶を見ることにする。

本来、他者の記憶を覗くには開心術を使うか憂いの篩(ペンシーブ)という魔法具で見るしかない。だが、ドールズは独立した自我があるとはいえ元は私の魂から生まれた存在なので、パスを繋ぎ意識を同調させることでドールズの記憶を見ることが可能なのだ。

 

蓬莱の頭を私の頭と触れ合わせて意識を合わせる。そして目を閉じると今いる場所とは異なる光景が見え始める。

私の目には暗い城の廊下が映り、視界はどんどん移動していく。そしてグリフィンドールの寮塔が近づいたところで蓬莱の言っていた黒い犬を見つけた。犬は廊下の隅を隠れるように進んでいき、太った婦人の近くに来たところで犬は一旦止まり、周囲を見渡した後その姿を変えた。

さっきまで犬の姿をしていたものはぼろぼろの服を纏った長身の男に変わり、次の瞬間には太った婦人目掛けて勢いよく走り出した。男は太った婦人に扉を開けるように叫ぶ。だが太った婦人は合言葉がなければ開けることはできないし、生徒でも教師でもない者を入れるわけにはいかないと断り続ける。怯えながらも断固として扉を開けない太った婦人に業を煮やしたのか男は懐からナイフを取り出して太った婦人の絵画を切り刻み始めた。太った婦人は流石に限界だったのか別の絵画を通って逃げ出す。男は太った婦人がいなくなった後も絵画を切り刻んでいたが、突如として聞こえた声に振り向き、急いでその場から逃げていった。

 

聞こえた声で分かったが廊下の向こうからやってきたのはピーブズだった。ピーブズは刻まれた絵画を見ながら笑っており、グリフィンドール生がやってきたところで天井へと姿を消した。

その後は、切り刻まれた絵画を見た生徒がダンブルドア校長を呼び、ダンブルドア校長が戻ってきたピーブズから話を聞いたあと先生たちに指示を出して今に至る。

 

 

意識を切り離して目を開けたときには周囲は静まっており、静かな寝息だけが聞こえてきた。私は蓬莱の頭を撫でながら今見たことについて考える。

蓬莱が見た男の正体がシリウス・ブラックで間違いないだろう。薄暗かったが、逃げていく際に松明の明かりで見えた顔は指名手配書の顔と同じものだった。さらに犬から何の呪文も無しに変身したということは、シリウス・ブラックは動物もどき(アニメーガス)である可能性が高い。動物もどきは非常に高度で珍しい変身魔法であり、その殆どの使い手は魔法省に登録されていて何時誰が何処で使用したかが監視されているらしい。

殆どというのは、魔法省への登録を避けて自身が動物もどきであることを秘匿している魔法使いが少なからず存在しているからである。そういった魔法使いは大抵その能力を悪用に用いているため、魔法省が動物もどきを厳しく取り締まる原因となっている。

 

もしシリウス・ブラックが魔法省に登録されている動物もどきだったらすでに捕捉されているはずなので、シリウス・ブラックは魔法省に登録されていない非合法の動物もどきなのだろう。

だとしたら、シリウス・ブラックがホグワーツに侵入できたのもあり得なくはない。吸魂鬼は人間の幸福という感情を吸い取るが、動物もどきによって変身した人間は感情が抑制されるらしいので吸魂鬼では満足に対処できないだろう。アズカバンを脱走できた理由にもなる。

だからといって城への入り口は全て吸魂鬼が見張りに当たっているので、いくら感情を吸い取られないとはいっても見つからずに侵入するというのは困難なはずだ。

とすれば考えられるのは、シリウス・ブラックは吸魂鬼や学校側も知らない侵入経路を知っているということだろう。そうでなければ学校内へ侵入できたことが説明できない。確実なのは、今すぐ本の虫でシリウス・ブラックを探すことだ。あれなら相手が動物もどきであろうとも関係なく探し出すことができる。しかしこの暗闇で見ることは出来ないし、かといって明かり灯すわけにもいかない。明日になればシリウス・ブラックは城の敷地外へ逃げているだろうから本の虫では探すことはできなくなるが仕方がないだろう。

 

明日以降は出来る限り本の虫を使ってシリウス・ブラックと遭遇しないように注意すること、それとピーブズをどうお仕置きするか考えながら眠りについた。

 

 

 

シリウス・ブラックがホグワーツに侵入したことで、ホグワーツの警備は一層厳重になった。吸魂鬼は自分たちが知らぬ間に侵入されたのが原因なのかは分からないが、遠目に見た感じでは以前にも増して活発に周囲を警戒しているようだった。

他に変わったところがあるとすれば、ハリーの周囲に必ず教師の誰かが付き添うことになったことだろう。一日中見ているわけではないので違うかもしれないが、少なくても私が見ている限りは移動中のハリーが一人で歩いているのを見なくなった。

明らかにハリーが重点的に警護されている。理由はハリーがヴォルデモートを破り、シリウス・ブラックがヴォルデモートの配下だったからだろうか。シリウス・ブラックによるヴォルデモートの敵討ち。まぁ、ハリーが狙われる理由としてはあり得なくはない。

 

あの日以降、本の虫でホグワーツの敷地内を見ているがタイミングが悪いのか侵入していないのか未だにシリウス・ブラックは発見できていない。しかし、どこから侵入しているのかはある程度予測はついている。

吸魂鬼の警備によって正面から侵入することが出来ない以上は隠れ道を使うしかない。現在ホグワーツと外を繋ぐ隠れ道は全部で七つ。そのうち四つは吸魂鬼に加えてダンブルドア校長が直々に魔法を掛けているらしいので除外。一つは道が崩壊し通行不可能。残る二つは四階の廊下にある隻眼の魔女の後ろと庭に植えられている“暴れ柳”の下が入り口となっている。それぞれの出口はホグズミードにあるハニーデュークスという店の地下と観光スポットとなっている叫びの屋敷の地下。

かたや人気のお菓子の店、かたや人気のないボロ屋敷。どちらが怪しいかなんて考えるまでもないだろう。

 

 

 

 

私が本の虫で調べている間にも時間は当然のように流れていき、今学期初のクィディッチの試合の日が迫ってきた。天候は日を追うごとに悪くなっていき、このままいけば試合当日にはもっと酷くなっているだろう。

 

悪天候のせいで普段より一層暗くなっている闇の魔術の防衛術の教室でルーピン先生を待っていると、唐突に教室の入り口が勢いよく開かれた。思わず後ろを見ると、そこにいたのはルーピン先生……ではなくスネイプ先生だった。生徒は突然のスネイプ先生の登場に動揺しているのか近くの者とヒソヒソと話をしている。だが、それもスネイプ先生が教壇の前に立ち教室を一睨みすれば一斉に静まった。

 

「今日は我輩が臨時で闇の魔術に対する防衛術を教えることになった」

 

「あの……ルーピン先生は?」

 

ハーマイオニーが手を上げて恐る恐るスネイプ先生に尋ねる。スネイプ先生は目を細めてハーマイオニーを見た後すぐに視線を戻し淡々と答えた。

 

「ルーピン先生は気分が優れないとのことだ。さて、では教科書の三九」

 

スネイプ先生が教科書を捲りページを言おうとしたところでまたも勢いよく扉が開かれた。見るとハリーが息を切らしながら入ってきており、それを見たスネイプ先生の口元が攣りあがったのは見間違いではないだろう。ハリーは教室の前にいたのがルーピン先生ではなくスネイプ先生だったのに驚いたのか目を見開いている。ハリーは何故ルーピン先生がいないのかを尋ねるが、スネイプ先生は先ほどと同じように淡々と簡潔に答えるのみだった。

 

グリフィンドールはハリーの遅刻によって十点減点され、さらにスネイプ先生は座れと言った言葉に素直に従わなかったハリーが気に食わなかったのか、もう五点減点した。グリフィンドール生は隠そうともせずにスネイプ先生を睨んでいるが、スネイプ先生はそれを無視して授業を始める。

 

スネイプ先生が今回取り上げたのは“人狼”についてだ。それについて生徒たち、特にグリフィンドールが声を上げるがスネイプ先生に黙らされる。

スネイプ先生が人狼と真の狼との違いが分かるか問いかける。それに対して手を上げたのはハーマイオニーのみ。私も答えられることは答えられるが、明らかに不機嫌な今のスネイプ先生は絶対に生徒に答えを求めてはいないだろうと思ったので止めた。

 

その後は教科書から人狼について写し書きを行い、最後に人狼の見分け方と殺し方についてのレポートを書くよう宿題を出されて終わった。

この後はもう授業はないので図書室へと向かう。今回出されたレポートの提出期限が早く時間がないので今のうちからやっておきたい。

 

クィディッチ前日ということもあり図書室にいるのは十人もいない。本棚に付けられているプレートを見ながら人狼について書かれていそうな本を探す。十分ほど探した結果“忌み嫌われる生き物”“闇の魔獣”“夜の化生”といった、それっぽい本をいくつか見繕い空いている席に座って読み始める。

人狼については三つの本全部に書かれていたが、問題の見分け方と殺し方について書かれていたのは“夜の化生”のみであった。本の記述によると、人狼を見分けるには月との関係性から追うのが重要らしい。普段は人間と見分けがつかない人狼は月が満月へと近づくにつれて獣としての性質が現れる。これは精神力の強いものならある程度は自制出来るが、その代わりに身体への不調が現れるらしい。そして満月の時となると自制できないほどの獣の衝動が襲い、人狼として覚醒・変身するのだとか。また、この獣への変身は“脱狼薬”という魔法薬で抑えることが可能とある。とはいえ非常に複雑な調合が必要で、脱狼薬を煎じることが出来る人は多くはいないらしく、買おうにも当然のように高価であるため経済的に不利な人狼は中々手に入れることができない。

 

多少話がずれたが、要するに人狼を見分けるには長期的に対象を観察して生活習慣を見極める必要があるということだ。最も、人狼かどうかを確かめるだけなら満月の夜に引っ張り出せばいいだけだと思う。その後の命の危険は度外視する限定の方法だけど。

殺す方法については多く書かれていなかったが、魔法が使えるなら上級以上の魔法で攻撃すること、魔法が使えないなら銀を使った武器で攻撃することとある。人狼として覚醒した者は魔法に対する抵抗力が非常に強くなり並の魔法では少しの間動きを止める程度にしか効果がないので、必然的に人狼に対処できる魔法使いは限られてくる。銀を使った武器は人狼に大して効果的ではあるが、武器である以上は人狼に近づかなければならないのが問題だ。下手に近づけば人間の身体能力を圧倒的に上回る人狼に殺されることは目に見えている。

 

結局のところ、ゴリ押しなら魔法で弱点を突くなら銀製の武器を用いるというのが人狼を殺す方法である。とはいえ、これは人間が人狼に対処する場合である。人狼が人間よりも優れた身体能力を持とうが、同じ魔獣同士であった場合はその優位性もなくなる。人間を人狼へと変える毒も人間以外には一切効果がないので、人間以外と人狼が戦う場合は純粋に身体能力や体格が優れる方が有利だ。ましてや猛毒や特殊な力を持った魔獣であったなら人狼といえども危うい。極端な話、人狼がバジリスクと戦って勝てるかということだ。

 

 

 

 

 

 

いよいよ最初のクィディッチの日がやってきた。試合の組み合わせはグリフィンドール対ハッフルパフ。本来であればグリフィンドールとスリザリンの試合だったのだが、スリザリン側がシーカーであるドラコの腕の怪我が治っていないことを理由に組み合わせを変更したのだとか。ドラコの怪我が治っていることは殆どの生徒が知っているので、所々で不満の声が上がっている。学校側もよくスリザリンの要請を認めたものだ。マダム・ポンフリーの腕なら腕の怪我程度すぐに完治させられるだろうに。

とはいえ、別にスリザリンが取った選択は卑怯ではないと思う。自分たちに不利な状況であるなら、それを自分たちに有利な状況へ持っていくことは立派な作戦だ。事実こういう勝利への狡猾さが他寮よりずば抜けているから過去の試合でも勝利してきたのだろう。

選手たちはみんな、クィディッチの試合は真剣勝負だと主張している。真剣勝負に卑怯もなにも存在しない。

 

 

試合が始まるも吹き荒れる雨の所為で満足に見ることもできない有り様だった。応援席も雨に晒されて、すでにマントの下半分や靴に靴下はぐしょ濡れとなっている。試合はグリフィンドールがリードしており、点数は五〇点の差ができている。そこで一旦グリフィンドール側がタイムアウトを取り、大傘の下で作戦会議をしている。

 

試合が再開するも雨はさらに強くなり、落雷の頻度も増してきた。このままでは誰かが落雷に当たってしまうのではないかと周囲では心配の声が上がっている。その数分後、ハッフルパフのキャプテンでシーカーのセドリック・ディゴリーが猛スピードで移動を始めた。恐らくスニッチを見つけたのだろう。ハリーもセドリックの姿を見てその後を追っている。

 

会場にいる人間が言葉にならない程の大声を上げて二人のシーカーを見守る。しかし、それは唐突に破られた。この暴雨の中でも聞こえていた応援の声が一斉に止んだのだ。私の耳がおかしくなってのでなければ雨の降る音さえも消えている気がする。

この感覚には覚えがある。ホグワーツ特急で感じたアレとそっくりだ。ということは、と思い空を見上げる。雨と雲によって黒一色に染まっている空しか見えないが、目を凝らすと何か黒い塊が大量に蠢いているのが見えた。

 

吸魂鬼だ。ざっと見て百人は超えるだろう吸魂鬼の群れが競技場を飛び回っていて、そのうちの何人かはハリーに向かって飛んでいっている。吸魂鬼がハリーのところに辿り着いた瞬間、ハリーは箒から滑り落ちて地面に向かって落下した。だが、地面にぶつかる寸前に声が響き渡ったかと思うと、ハリーの落下速度が減速した。

競技場全体が突然の事態に混乱している中、ハリーの下にダンブルドア校長がやってきた。その途中で銀色の塊を空に放ち、それに追い立てられるように吸魂鬼が競技場から立ち去っていく。恐らく守護霊の呪文を放ったのだろう。

 

予想外のハプニングがあったが、試合はハッフルパフの勝利で決着がついた。ハリーが落下している最中にスニッチを確保したディゴリーは、事態を把握した後試合のやり直しを求めていたが認められず、その日はそのままお開きとなった。

 

 

 

 

 

その日の夜、ベッドに横になりながら試合中に起こったこと、正確には競技場へと乱入してきた吸魂鬼のことについて考えていた。ダンブルドア校長が吸魂鬼をホグワーツの敷地内に入れるのを反対しているのは誰でも知っている。当然、吸魂鬼に対しても厳重に言い含めていたはずだ。加えて吸魂鬼は魔法省のよって管理をされている。もし吸魂鬼が生徒を襲おうものなら一大事になるのは明白で、そんな不祥事を魔法省としては断固として防ぎたいだろう。つまり吸魂鬼は現在、ホグワーツと魔法省の二つの機関から行動を制限されていると考えられる。それなのに無断でホグワーツへ侵入し、挙句の果てに人が大勢集まるクィディッチ競技場へと乱入するという事態が発生したのは大問題だ。ホグワーツや魔法省でさえ吸魂鬼の行動を完璧に縛ることができないということの証明なのだから。

 

今回の件でダンブルドア校長が一層強く吸魂鬼に対して言い含めるだろうが、それもどれだけ効果があるか分からない。今回のようなことがまた起こるようであれば生徒に被害が及ぶのも時間の問題だろう。私の考えすぎかも知れないが可能性がゼロでない以上は対策を講じておく必要がある。

 

吸魂鬼に唯一対抗できる手段―――守護霊の呪文。

難易度の高いこの呪文を独学で身につけるには時間が足りない。できればパチュリーにでも教わりたいけれど学校は始まったばかりなのでクリスマス休暇まではどうしようもない。

 

「……通信教育でもしてみようかしら」

 

必要の部屋に置いてあるキャビネットを使えばパチュリーと連絡を取ることも出来るし、習得に役立つ本も見つかるかもしれない。今まではダンブルドア校長とかに目を付けられているかも知れないと考えて使用してこなかったが、効率を考えると必要の部屋ほど役立つ場所はない。

 

面倒くさいことにならなければいいなと思いながら、私は目を閉じた。

 

 

 




久々に書いたので、今までの展開方法やアリスの動かし方に違和感が出ているかもしれない。

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