魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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もうすぐ日付が変わってしまいますが
明けましておめでとうございます。

前投稿から非常に遅くなってしまって誠に申し訳ありません。

しかも昨日活動報告で今日の午後には投稿するとか言っておいて、気づいたらこんな時間になってしまっていた。

今回から試験的に ◆ を導入。
話の中で大きく期間が開く際に使用。




考察

タタンタタンと一定のリズムで響く汽車の走る音を聞きながら、私は窓の外に流れる景色を眺めていた。コンパートメントはいつものように私一人で、隣では上海と露西亜がチェスをしており蓬莱はそれを静かに眺めている。

 

時間が流れるのは早いもので、吸魂鬼がクィディッチの試合中に乱入した日からもうクリスマス休暇へと入ろうとしている。

あの日、吸魂鬼が乱入したことでダンブルドア校長がかつてないほどに怒っていたようで、それ以降吸魂鬼がホグワーツの敷地を越えることはなくなった。それと試合中にハリーが落下した際、ハリーが持つ箒が暴れ柳へと突撃してバラバラに壊されたということもあったらしいが、正直それはどうでもいい。

 

吸魂鬼といえば守護霊の呪文についてだが、やはり万が一の事態に備えて身につけることにした私は必要の部屋にあるキャビネットを使いパチュリーへと事の経緯を伝え、アドバイスをもらいながら練習を進めている。時間もないので長くは練習できなかったが、それでも不完全な靄を出現させる段階までは成功している。とはいえ、これはパチュリー式の練習法というか幸福なイメージの仕方をしているせいであり、一般的な方法でなら数秒だが形を持った守護霊を出現させることができている。その際に確認した私の守護霊は一メートルほどの孔雀の姿をしていた。

 

パチュリーが言うには、単純に幸福なイメージを思い浮かべる方法の場合はイメージが崩れやすく、少しでも精神を揺さぶられると守護霊は脆くなってしまうらしい。とはいえ、強力な魔法使いならその限りではないらしいが。

それに対し、パチュリー式のイメージの仕方は一つの幸福なイメージで守護霊を作るのではなく、複数の小さな幸福と一つの大きな幸福のイメージによって守護霊を作り出す方法らしい。一つの幸福なイメージを思い浮かべるのに対して複数の幸福をイメージするので当然難易度は高いが、その分イメージの地盤が強固になり多少揺さぶられた程度では揺るがない守護霊を生み出すことが可能らしい。簡単に言えば、長身の建物を建造するときに一つの柱で建てるのと、複数の柱で互いを支えあうように建てる場合でどちらがより耐久性に優れているかということだ。

 

そういう訳で、パチュリーのアドバイスにしたがって演習をしているのだが冗談抜きで難しい。二つ三つなら問題ないのだが、パチュリーに言わせれば最低でも十以上のイメージを持たないと意味がないらしい。そのため、今も窓の外の景色を眺めていると見せかけて頭の中ではイメージの構築に集中している。

 

 

 

 

キングス・クロス駅へと汽車が到着したのを確認して、生徒の波に乗りながらプラットフォームを出て行く。駅構内のお店で昼食を済ませたあと、駅前でタクシーを捕まえて漏れ鍋の隣にある本屋へと向かう。

 

タクシーの運転手に料金を払った私は目の前の本屋へと向かわずに、その隣にある漏れ鍋へと入る。店内には二人三人の客とカウンターでコップを磨いているトムさんしかいなかった。扉を開けた音でトムさんがこちらに振り返り、私を見ると笑いながら話しかけてくる。

 

「いらっしゃい。久しぶりですね、ミス・マーガトロイド。ホグワーツはもうクリスマス休暇ですかな?」

 

「はい。トムさんもお元気そうでなによりです」

 

「いやいや、いくら身体が元気でもこうも不景気じゃ商売上がったりですよ」

 

「……シリウス・ブラックですか?」

 

「えぇ、困ったものです。みんな外出を控えているせいか昼時だというのにこの様です」

 

そう言ってトムさんは店内を見渡して溜め息をつく。

 

「そういえばミス・マーガトロイドは今日どうされたので?知っての通り今は何かと物騒なご時勢ですし、早めに自宅に戻ったほうがよろしいのでは?」

 

「ちょっとダイアゴン横丁に用事がありまして。急ぎの用事なので早めに済ませたいんですよ」

 

本当はパチュリーのところへ行くためだけれど。というか、自宅にいるよりヴワル図書館にいたほうが安全であるのは確実なので、態々自宅に戻る必要がない。

 

「そうですか。まぁ今の時間なら人も多いですし心配はないと思いますが。遅くなる前にお帰りになられたほうがいいでしょう」

 

「そうですね。あまり遅くならないように気をつけますよ」

 

トムさんに別れを言ってから店奥にあるダイアゴン横丁の入り口へと向かい、杖で叩いてダイアゴン横丁へと入る。大通りから裏道へと進み、ところどころに張られている結界を抜けて、目的地のヴワル図書館へと辿り着いた。ドアをノックしたあと扉を開けて中へと入る。本棚の間を抜けて二階へと上がり、一番奥のある部屋の扉を開ける。

 

「久しぶり。それともこんにちはかしら?」

 

私が部屋へと入ると暖炉の前で椅子に座りながら本を読んでいたパチュリーが視線をこちらへと向ける。

 

「久しぶりでいいんじゃないかしら?」

 

手紙でやり取りをしていたとはいえ直接会うのは三ヶ月ぶりだし。久しぶりというほど長い期間ではないけれど、こんにちはというのも違う気がする。

 

「まぁどっちでもいいけれどね」

 

「そっちから話を振ってきた割にはばっさりと切るわね」

 

「あら、アリスが思考に嵌りそうだから止めてあげたのよ?」

 

「……どうもありがとう」

 

失礼な。確かに少し考え込んでいたけれど言われるほどではない。

 

「ところで……」

 

「ん?どうしたの?」

 

パチュリーが何か言いたそうに私へと非難の目を向けてくる。なんだろう、着いたばかりだし文句を言われるようなことは何もやっていないはずだが。

 

「あれ……どうにかならないの?」

 

そう言ってパチュリーが横へとずらした視線の先を追う。

 

「……はぁ」

 

思わず頭を抑えて溜め息をついてしまった私は決して悪くはないと思う。視線の先では、どこからかお菓子を引っ張り出してきたドールズが勝手に紅茶を入れてまったりと寛いでいるのだから

 

 

 

 

荷物を整理して一息ついたあと、紅茶とお菓子を用意してパチュリーと情報交換を行う。バジリスクの毒の分析については不明だった残りの成分の分析が終わり、今は分析結果を元に毒の精製をしている最中であるらしい。

 

「ところでアリスのほうはどうなのよ?ちゃんと守護霊出せたの?」

 

「一般的な方法ならね……といっても数秒程度だけれど。パチュリー式の方だと靄が出る程度よ。複数のイメージを構築するのってかなりキツイわね」

 

「今は幾つぐらいのイメージをしているのかしら?」

 

「十個よ」

 

「そう……それなら、もうその方法は止めていいわよ」

 

「……は?」

 

一体何を言っているのだろうか、この魔女は。止めていい?何を?

 

「ごめんなさい。もう一度言ってもらえるかしら?」

 

「だから、貴女の言うパチュリー式のイメージ方法はもう止めていいわよって言ったのよ」

 

「……何故?」

 

若干顔が引き攣るのを自覚しながらパチュリーに説明を求める。

パチュリー曰く、一つではなく複数の幸福なイメージをさせていたのは柔軟化のためであって、複数のイメージによる守護霊の強化なんて事実は一切ないらしい。一つのイメージで練習し過ぎるとそれに固執しすぎて、いざそのイメージが崩れた際に即座に代わりとなるイメージを構築することができないから、保険として幸福なイメージを予め構築しておくということらしい。これなら一番の幸福のイメージが否定されても、一番が否定された時点で二番目の幸福が一番に成り上がるので多少の効果減少はあっても守護霊を生み出すことが容易になる。その下地を作るためにあのような練習をさせていた、というのがパチュリーによって説明された概要だ。

 

「だから、あとは単純に一つのイメージの強化だけやっていればすぐにでも安定した守護霊を作り出せるわよ。分割していた思考を一つに纏めるんだからかなり楽になるはずよ。アリスならクリスマス休暇中には何とかなるんじゃない?」

 

「……まぁ、そういうことならいいけれど」

 

正直、今までの練習法が冗談とか言われたらどうしようかと思った。そのような意図があるなら最初に言ってほしい。

まぁパチュリーの言うことが確かなら、これまでの練習法によって持続力と構築力が鍛えられたということなのだろう。少し思うところもあるが話の筋は通っているのでよしとする。

 

「あっ、ちなみにアリスの場合は急いでいたようだから今回の方法を取っただけで、長期的に身につける場合だったら一般的な方法で十分事足りるということだけ言っておくわ」

 

「……」

 

自業自得だったか。

 

 

 

 

パチュリーに予想外の事実を告白されてから数週間、クリスマス休暇も終わり学校へと戻ってきた。

クリスマス休暇の間、延々と守護霊の呪文を練習していた甲斐もあり何とか満足のいく守護霊を作り出すことに成功した。ちなみに満足したというのはパチュリーなので間違えないように。守護霊として形を保ち十分に効果を発揮する段階までは休暇が終わる一週間前には出来たのだが、所々に安定しきっていない場所はあるもので、パチュリーはそれが気に入らなかったらしく何度も駄目出しを食らった。自分が教える以上は生半可な守護霊は許さないといった感じだ。まぁそのお陰でパチュリーも満足のいく安定さを身につけることが出来たので文句はないが。

 

 

 

授業は月の一週目からさっそく行われ、休み明けにも関わらず多くの宿題が出された。その中でも古代ルーン文字学、数占い学、魔法薬学、変身術の宿題の量といったら投げ出したくなるほどだ。とはいえやらないという選択肢はないので宿題が出された日の内に取り掛かるのだが。

 

週末には年明け初のクィディッチの試合が迫っている。対戦カードはレイブンクロー対スリザリンだ。ちなみにグリフィンドールからしたら、この試合の勝敗によってグリフィンドールが優勝杯に手が届くかどうかが決定するので落ち着かないことだろう。グリフィンドールが大嫌いなスリザリンが勝たないと勝ち目がなくなるのだから。

 

 

 

 

「あ~もう!くやしい!あそこでブラッジャーがこなければレイブンクローが勝てたのに!」

 

競技場からの帰り道、パドマが今日行われた試合の結果を思い返しているのか声高々に愚痴を言っている。レイブンクローとスリザリンの試合は僅差ながらもスリザリンの勝利という結果となった。お互い一歩も引かない攻防を繰り広げ、後半からレイブンクローが大きくスリザリンをリードしていたのだが、スニッチをスリザリンに取られてしまい負けてしまったのだ。それもレイブンクローのシーカーにブラッジャーが向かってこなければ確実に取ることができただろう状況だったので、パドマの態度もしょうがないのかもしれない。パドマを落ち着かせているアンソニーも態度こそいつも通りだが、内心は悔しがっていると思う。当然、私だってレイブンクロー生の一員である以上悔しくは思っている。あまり表にそういった感情を出さないので勘違いされやすいけれど。

 

 

 

 

夜、談話室でクィディッチメンバーを労わる会とでもいうのか、各々が食べ物や飲み物を持ち込んで小さなパーティーを開いている。これはレイブンクローの伝統のようなもので、勝敗に関係なく試合の日の夜にみんなが集まっているのだ。

 

暖炉を中心に扇状に広がり、真ん中あたりにクィディッチメンバーが座っていて、今日の試合についての反省点や良かった点、スリザリンに対する愚痴などを言っている。

 

「あ~、やっぱり悔しい!あそこでチョウにブラッジャーがこなければ絶対にレイブンクローが勝ってたのに!」

 

そんな中、少し大きな声が聞こえて思わずそちらに振り向く。振り向いた先にはレイブンクローのシーカーを勤めるチョウ・チャンを中心に女生徒と数人の男子が集まっていた。

一学年上のチョウ・チャンは吸い込まれるような鮮やかな黒髪をした女性で、女の私から見ても可愛いと思える。顔立ちや名前から多分東洋の血筋なのだろう。今までは怪我をしていて試合を控えていたらしいが、今回から復帰したらしい。箒の操作技能が高いらしいので、怪我によるブランクがなかったら今日の試合でもスニッチを取ることが出来たとはキャプテンの談だ。

 

 

「こんにちは、アリス」

 

「ん?」

 

チョウ・チャンから目を離し近くのお菓子に手を伸ばそうとしたところで、後ろから声を掛けられる。振り向くといつものように奇抜な格好をしたルーナがいた。

 

「こんにちは、ルーナ。今日も楽しそうなものを着ているわね」

 

「これ来週のラッキーアイテムなんだ。一週間かけてやっと完成したの」

 

それはつまり、一週間前から次の週のラッキーアイテムを自作していたということなのか。その手の小道具が手作りというのも驚きだが、授業や宿題の方は大丈夫なのだろうか。

 

「大丈夫だよ。宿題が終わった後に作っていたから」

 

「それならいいのだけれど」

 

「アリスは何を見ていたの?チョウ?」

 

ルーナは私が見ていた方を見ながら確認するように聞いてくる。別段隠すようなことでもないので、ルーナの問いに肯定で返す。

 

「えぇ、特に理由はないけれど彼女たちが話している声が聞こえてね。それでちょっと見ていただけよ」

 

「そうなんだ。いっぱい人に囲まれてるもんね。シーカーっていうのもあるけれど、やっぱり可愛いからかしら」

 

そこで話を切ると、ルーナはチョウ・チャンに興味が無くなったかのように視線を外し、小さく欠伸をしながら立ち上がった。

 

「そろそろ寝るわね。これ作るのに夜遅くまで起きていたからとても眠くて。おやすみなさい、アリス」

 

そう言ってルーナは欠伸をしながら寝室の方へと向かっていった。ルーナとの会話も幾分慣れたとはいえ、あの独特の話し方というか雰囲気には時たま戸惑うことがある。

私もそろそろ寝ようかと思い、カップに残った紅茶を飲みきろうと口を付ける。

 

「そうそう、アリス」

 

「!?」

 

寝室に向かったはずのルーナの声が背後から聞こえてビクリと身体が硬直する。その際に手に持っていたカップから紅茶が床へと零れてしまった。まぁ、噴出さずに済んだだけよしとしよう。

 

「……どうしたのかしら?寝室に戻ったんじゃないの?」

 

驚かされたこともあって、少し言葉に棘を含ませてルーナに問いかける。ルーナは気づいていないのか気にしていないのか、首を傾げているだけだった。

 

「一つだけ言い忘れたことがあって。さっきチョウのこと可愛いって言ったけれど、アリスはチョウよりもっと可愛いよって。彼女の周りにいる男の人たちは見る目がないんだね」

 

そう言って、ルーナは今度こそ寝室へと戻っていった。私はルーナに言われたことを一瞬理解できないで呆然としていたが、ルーナの言葉を理解していくと共にそそくさと寝室へ戻る。

 

「まったく、ルーナも口が上手くなったわね」

 

ルーナへと小言を言いながら寝室へと入り、寝間着に着替えてベッドへと入る。

 

その日は、いつもより気分良く眠れた気がした。

 

 

 

 

今年二回目のクィディッチの試合が近づいてきた頃、ホグワーツ内でとある噂が囁かれていた。その内容はハリーが新しい箒にファイアボルトを手に入れたというものだ。確かファイアボルトは去年に発売された現在で最高峰の箒だったはず。その名に恥じない性能を誇り、国際チームでも採用が決まっているとか。当然値段もそれ相応で、500ガリオンというとんでもない高額となっている。

それをハリーが手に入れたというのだから生徒間で噂になるのも仕方がないと思う。それにグリフィンドール生の反応を見ている限り本当っぽいし。

 

気になるのはハリーがどうやってファイアボルトを手に入れたということだけれど。普通に買ったのだとしても500ガリオンなんて大金をハリーが出せるのだろうか。いくら学費が低価格だとはいえ教材や学用品、日用品も含めると年間でかなりのお金を使うことは間違いない。ハリーには両親がおらず叔父叔母の家で暮らしていると聞いたことがある。その叔父叔母が非日常的なことを非常に嫌っているということも。そんな叔父叔母では休暇中ならともかくマグルにとって非日常の産物である魔法の箒なんて買うとは思えない。

 

つまりハリーは魔法関係の買い物に関して両親の遺産のみでやりくりしないといけない環境に置かれているはず。ハリーの両親が残した遺産がどの程度かは知らないが、魔法省の高官か大貴族でもない限り莫大な遺産を残すということはないだろう。もしあったとしても500ガリオンも使えば貯蓄が一気になくなることは確実。いくらハリーが箒を欲しているからといって、そこまでして箒を手に入れるとは考えにくい。何か特別な収入源があるというのなら別だが、まずないだろう。

 

とすると、考えられるのは誰かからの贈り物の可能性だろうか。ハリーは一年の頃にマクゴナガル先生から箒を贈られているのでありえなくはない。最も、500ガリオンの箒をプレゼントできる人物なんて誰だという話になるのだが、そこは考えたところでどうしようもないので捨てておく。

 

「まぁ、経緯がどうであれ箒が実際に存在するという事実があれば十分だけれどね」

 

「……アリスって本当に色々考えているのね。で、アリスは本当にハリーがファイアボルトを手に入れたと思う?」

 

「可能性は高いわね。ハリーやロン、グリフィンドールの態度を見ていれば分かると思うけれどあからさまに浮ついているもの。それにこれだけ大きな噂を否定もなにもしないということは、その必要がないということでもあるでしょ」

 

「でも、本当に誰がハリーにファイアボルトを送ったんだろうな。マルフォイぐらいの家でもなけりゃ、まず買えない代物だぞ。もし無理して買ったとしても後々が絶対に苦しくなる」

 

「そればかりはハリー本人に聞かないと分かりようがないわね。というかパドマはお姉さんから何か聞いていないの?」

 

「それがパーバディに聞いても詳しくは教えてくれないのよ。グリフィンドールの秘密だとか言って。まぁその時点で箒の噂は本当だと思うけれど、あの感じだとパーバディ自身も箒が誰から贈られたのかは知らないみたいだったわ」

 

 

 

 

いよいよ今日はレイブンクロー対グリフィンドールの試合の日だ。ファイアボルトについては最早確定した。ご丁寧にもハリーが朝食の大広間に箒を持ってきていたのだから。見せ付けるように箒を常に持ち替えてアピールしていたが、あれだけの箒を手に入れたのがから見せびらかしたくなるのもしょうがないだろう。それにハリー自身、嫌みったらしくするのではなく純粋に自慢したいだけのようだ。スリザリンに対してはそうでもなかったが、それに関しては今更だろう。

 

また別の話になるが、いつもならハリーやロンと一緒にいるはずのハーマイオニーの姿が見えない。この前、大広間で三人を同時に見つけたが、どうにもハーマイオニーがハリーとロンを避けているみたいだ。いつもの喧嘩とも思ったが、それにしては長いし雰囲気も重々しい。ハーマイオニーが近くに来たとき二人の態度からして、恐らくロンと喧嘩をしているみたいだけれど何をやったんだろうか。

 

 

 

 

 

「さぁさぁ始まりました、注目のグリフィンドール対レイブンクロー!今回の見所は何と言ってもハリー・ポッターが乗るファイアボルトでしょう!賢い箒の選び方によれば―――」

 

「ジョーダン」

 

「おっと、失礼しました。では気を取り直して、まずはレイブンクローがクァッフルをキャッチ!そのままゴールポストへと―――」

 

試合が始まり、実況のリー・ジョーダンの解説が響き渡る。出だしからグリフィンドール……というより今回は箒か。若干贔屓気味の解説なのは恒例だろう。

 

試合は基本グリフィンドールのリードで進んでいった。やはりファイアボルトがあるということで士気が高いのか、グリフィンドールのプレー一つ一つに力強さが見える。勿論レイブンクローが弱弱しいというわけではないが、元々レイブンクローは冷静に確実に試合を進めるスタイルなので比較対象にはならない。

 

ファイアボルトに乗るハリーはまさしく風になったという表現が的確だろうか。競技場全体を縦横無尽かつ高機動に飛んでいる。妨害があったが既にスニッチを取る寸前までいっているのだからグリフィンドールの士気は上がりっぱなしだ。

 

それから数十分。レイブンクローが何とか盛り返し、スニッチを取りさえすれば逆転できるところまで迫る。その間、ハリーが二回目のスニッチを補足したようだが、チョウ・チャンに妨害されて見失ってしまったのだろう、再び競技場を飛び回っている。チョウ・チャンは自らスニッチを探そうとはせずにハリーをマークしているようだ。ハリーに付いていった方がスニッチを見付け易いと思ったのだろう。それとも単純に点数を稼ぐまでの妨害目的か。

とはいえ、その方法ではいざハリーがスニッチを見つけて急加速した際に追いつくことが出来ないのは明らかだと思う。さっきの妨害がハリーの視覚外から不意をついたことで成功したものだし、今のようにハリーの後ろを飛んでいる形ではハッキリ言ってどうしようもない。

 

 

 

 

試合はグリフィンドールの勝利で決着した。あの後、チョウ・チャンにマークされたハリーは急下降と急上昇でチョウ・チャンを振り切り、進行方向の先にあったスニッチを見事捕らえた。

だが問題もあった。あのまま試合が終了すればよかったのだが、ハリーがスニッチを取る寸前に競技場に吸魂鬼―――の変装をしたドラコを含めたいつもの三人組とマーカス・フリントが乱入してきたのだ。一瞬会場が騒がしくなるが、ハリーは箒に乗りながら杖を抜き、いつの間に身に付けたのか守護霊の呪文を唱えたのだ。ハリーの守護霊は大きな塊といったもので動物の形をしてはいなかったが、箒での高速移動中に守護霊を出したことを考えれば十分だろう。

 

 

 

 

 

試合の翌日、朝からホグワーツでは厳戒態勢が布かれていた。理由はシリウス・ブラックが昨日の深夜にグリフィンドールの寮塔に侵入したからだ。前回のように入り口で引き返したわけではなく生徒たちがいる寮内にまで入ったのだから事の重大さが伺える。

最初は何故部外者のシリウス・ブラックが寮内に入れたのか疑問の声が上がっていたが、ネビルが一週間分の合言葉を書き記したメモを無くしてしまっていて、入り口を守っていたカドガン卿の証言でシリウス・ブラックがメモを読み上げていたことが判明したのだ。これにはマクゴナガル先生も大激怒したようで、ネビルに罰則と一人での寮への出入り―――つまり合言葉を教えることを禁じたらしい。

 

また、一連の事件で注目を浴びているのはハリーかと思われたが、意外にもロンだった。何でもシリウス・ブラックはロンに馬乗りで覆いかぶさりナイフを突きつけたのだとか。そこでロンは悲鳴を上げてシリウス・ブラックは逃走したということらしいが、そこが分からない。何故寮内にまで侵入しておきながら誰も殺さずに逃げたのか。ロンが悲鳴を上げたにしても、その場にいた生徒を皆殺しにするだけの時間はあったはずだ。杖がなかったのだろうか。それなら確かに時間は掛かるし、そのような状態で先生たちが集まってくれば逃げることすら出来なかっただろう。

 

だが、それでもシリウス・ブラックからしたらハリーを殺すだけでも十分だといえるはず。自らの主を倒した敵なのだから、むしろ何よりも優先して排除に掛かるべきであろうに。それでもシリウス・ブラックは逃走を選んだ。ハリーを殺すにしても今はそのときではなかったのか、それとも最初から別の目的があったのか。

 

 

 

 

今週は珍しいことに魔法薬学以外の宿題が出なかったので、久しぶりに人形の制作と双子の呪いの練習に集中して取り組んだ。授業が終わった後の時間を十分に使えたので京人形の仕上げも完了して儀式を行うのみになった。双子の呪いもようやく中身まで完全に複製できるレベルにまで身に付けることができたのは大きな進歩だ。以前より双子の呪いの難易度が低く簡単になった気がしたのだが、他の呪文を試してみたところ今まで少し梃子摺っていた魔法が全部無駄なく使えるようになっていたのだ。

気になって調べてみたところ、高位の魔法を習得した場合それ以下の魔法の習得の難易度が個人差はあれど低くなるらしい。双子の呪いは習得難易度では守護霊の呪文よりも低いので、守護霊を完全に作り出せるようになった今だからこそ、容易に完成させることができたということだ。それに加えて、練習してきて不完全ながらも呪文を身に付けていたことも大きいだろう。

 

ともあれ、これで現状優先して行うべきことは終わった。私と京人形を繋ぐラインにしても理論の構築は済んでいるので、あとは実際に組み込んでテストをするだけ。

このまま順調に京人形が完成すれば、残るのは三体だけ。それも京人形ほど複雑ではないから人形自体はすぐに出来る。

 

「あとは……そうね。多くの人形をどうにか携帯できないかしら」

 

双子の呪いで人形を複製したところで持ち運べなければ意味がないし、その場で複製するにも魔力を消費しすぎていざというときに動けなかったら本末転倒だ。とすれば、予め人形を複製しておいてそれを保管・携帯できるような何かが必要だろう。

 

「まぁそれは追々考えていきましょう。とりあえずこれからは人形作りと量産ね。複製した人形はとりあえず必要の部屋に置いておきましょう」

 

 

 

 

週末はホグズミード行きの日だったので、学校内は朝から静まり返っている、つい最近学校内にシリウス・ブラックが侵入したというのに殆どの生徒が外出している。やはり危険だということがわかってはいても偶のホグズミードには行きたいのか。

まぁ常に学校内で警戒態勢が布かれていたのでは息も詰まるし、学校側もそれがわかっているからホグズミード行きを禁止にはしないのだろう。

 

静まり冷え切った廊下を歩きながら必要の部屋へと向かう。階段を登り廊下の突き当たりに辿り着いたところで、どこからか口笛が聞こえてきた。思わず周囲を見渡すけれど人の姿はなく、口笛だけが聞こえてくる。そして口笛を吹く音が大きくなったと同時に、私の頭の上の壁から見覚えのあるゴーストが姿を現した。

 

「あら、ピーブズじゃない。最近全然見なかったけれど何していたの?」

 

壁から現れたのはここ最近姿を見ていなかったピーブズだった。生徒の間でも最近ピーブズが姿を現さないどころか悪戯を仕掛けもしないので、逆に不気味に思われていた。

 

「おや、その声は麗しのアリスじゃないか~。元気だったかい~?」

 

「まぁそれなりね。で、ピーブズは何をしていたの?」

 

「それがさ~、酷いんだよ~!去年のハロウィーンの日にあの男がグリフィンドールのおばさんの絵を切り刻んだことを教えてあげたのに、その日から学校の敷地内をずっと見張っていろとか言うんだよ~あの爺さん。親切を仇で返されているんだよ~、酷いと思わないアリス~」

 

「そうなの……それって貴方が太った婦人の絵が切り刻まれたのを笑っていたからじゃないの?」

 

そう指摘するとピーブズは僅かに身体を硬直させて恐る恐るといった感じで私の方に向き直る。

 

「な……何のことでしょうか~。僕そんな酷いことしてませんよ~」

 

ピーブズは明らかに動揺しているようだけれど、あくまで白を切るようだ。まぁ、あの時あの場に私がいたわけではないので惚ければ何とかなると思っているのだろう。

確かに私はいなかったしね。

 

「はっはっはっ~、ん?」

 

惚けていたピーブズは不意に後ろを振り向く、何かが身体に触れた感じがしたからだろう。しかしそこには何もないので気のせいだと思ったのかピーブズは再び私の方へと向き直る。

 

「んん?」

 

再びピーブズが後ろを振り向くがさっきと同じでそこには何もなく、石壁が続いているだけだ。だが今回は一回目と異なりピープズの目の前で何かが揺らめいたのが見える。

 

「……げっ」

 

ピーブズがとたんに嫌な顔をする。それもそうだろう。そこにいたのは毎回ピーブズを追い掛け回している蓬莱が剃刀を片手に現れたのだから。

 

「ちなみに、その子が見たものを私も見ることができるんだけれど……言いたいことは分かるわよね?」

 

「……はっはっは……すみませんでしたー!」

 

 

 

 

 

 

あの後、謝罪したピーブズへのお仕置きをしようとしたけれど、あることについて教えてもらうことを条件に控えることにした。最も、私に謝罪したところで意味はないので、今度改めて太った婦人に謝りにいきなさいと言い含めておいたが……まず謝りにいかないだろう。

 

私がピーブズに聞いたのはシリウス・ブラックについて。もしシリウス・ブラックがホグワーツ出身であるのならば長年ゴーストとして住み着いてきたピーブズなら彼がどんな学生だったか知っているはずだ。

 

それをピーブズに聞いたところ、やはりシリウス・ブラックはホグワーツの生徒だったらしい。しかも当時ではかなり有名だったのだとか。

シリウス・ブラックの実家であるブラック家は昔から続く純血の一族であり、多くの闇の魔法使いを輩出したことでも有名らしい。全員が全員、闇の魔法使いであったわけではないみたいだが、それでも純血主義らしく典型的なマグル排他的な思想ではあったようだ。有名どころでは歴代校長の一人であるフィニアス・ナイジェラスや死喰い人のベラトリックス・レストレンジがブラック家に連なる者らしい。

そんな家系に生まれたシリウス・ブラックは当然スリザリンへと入るものだと当時の誰もが考えていたらしいが、予想外にも彼はグリフィンドールへと入ったらしい。

 

それだけでも話題性は十分だが、グリフィンドールでつるんでいた三人の生徒と引き起こした悪戯でも話題を呼び、その三人を含めて知らない者はいなかったとか。

ちなみにその三人の内の二人は、ハリーの父親であるジェームズ・ポッターと現闇の魔術に対する防衛術の先生であるリーマス・ルーピンなのだとか。最後の一人はピーター・ペティグリューという小柄の男であり、シリウス・ブラックがアズカバンへと投獄されることとなった事件で犠牲になってしまったらしい。

 

そういえば、ホグワーツに入りたての頃読んでいた日刊預言者新聞過去集の一部にそのようなことが書かれていた気がする。

 

 

他にもシリウス・ブラックについてピーブズから色々聞いてみるが、どうにも腑に落ちない。ピーブズの言うシリウス・ブラックの印象からして、とてもではないが親友の殺害やマグルの虐殺をするような人物とは思えない。ピーブズは大して興味もないのか深く考えてはいないようだけれど。

 

「とまぁ、ざっとこのぐらいかな。もういいかい?」

 

「えぇ、ありがとうピーブズ」

 

私がお礼を言い終えるとピーブズは壁をすり抜けてどこかへと消えていった。ピーブズから長いこと話を聞いていたので、廊下は赤い夕焼け色に染まっている。今日は必要の部屋に行くことは諦めて談話室へと戻ることにした。

 

 

 

 

 

「ピーター・ペティグリューは勇敢にもかつての学友であるシリウス・ブラックへと挑むも敗れてしまう……多くのマグルを道連れに……残ったのは僅かな肉片……指一本……深く抉られたクレーター……下水管にまで至りそこには穴が空いていた……」

 

ピーブズに話を聞いてから、寝室の棚に置きっぱなしにしていた日刊預言者新聞過去集でシリウス・ブラックが捕まった事件について調べている。というよりは読み返しているといったほうが正しいか。

ピーター・ペティグリューがシリウス・ブラックに殺害されて残ったのは指一本のみ。それ以外の部分は粉々に吹き飛ばされたとある。

 

「でも、普通人間の身体が跡形も無くなるほど吹き飛ばされて、指一本だけが運よく残るのかしら」

 

それに他にも不可解な点はある。

血だ。新聞には当時の現場の写真が載っているが、周囲のマグルが死んだことによる血痕の量に対してピーター・ペティグリューの血痕があまりにも少なすぎる。一番シリウス・ブラックの近くにいたピーター・ペティグリューだからこそ血すら残さずに吹き飛んだとしても、その場合現場に指や血痕が残っているのが逆に不自然だ。身体が粉々に吹き飛んだにしては血痕が少ないし、身体が跡形もなく消し飛んだなら血痕が多い。

 

少し考えればこの不自然さに気づきそうなものだが、この時勢ではヴォルデモートがいなくなりシリウス・ブラックによる大量虐殺という重大事件が二つもあったのだ。緊張や恐怖、安堵が一度に降りかかり細かな現場検証を見逃してしまった、というのが一番可能性の高い仮定だろうか。

 

しかし、そうなると別の問題が出てくる。不可解なピーター・ペティグリューの死が偽りだったと仮定するとして、ピーター・ペティグリューはどこに逃げたということだ。現場にはシリウス・ブラック以外の生き残りは確認されていないのだから、シリウス・ブラックを追い詰め魔法を放たれるまでの間に行動に移したということになる。人ごみに紛れて逃げたのなら魔法省が保護しているだろう。魔法で姿を消していても同様だ。血痕が出来ている以上は大なり小なり怪我をしていることは間違いないのだから、どこかで痕跡が残るはず。それなのに一切の痕跡を残さずに死んだことになっている。

 

怪我をしたにも関わらずあの場から誰にも気づかれずに逃げる方法。可能性を上げてそれを消去法で消していくと残るのは。

 

「……下水管、ね」

 

“クレーターは地面を深く抉り、下水管には穴が―――”

残る逃げ道は下水管しかなくなる。そして下水管に空いた小さな穴を通るには身体の大きさを変えれば済む。縮小呪文か変身術か方法は分からないが不可能ではないだろう。

 

そして誰にも気づかれずに下水管を使ってまで逃げる理由。いくつか思いつくが考えてもしょうがない。いくら考えたところで私に答えなんてだせないのだから。

 

 

 

 


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