魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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お久しぶりです。

すでに忘れ去られているかもしれませんが、ここにきてようやく投稿ができました。

執筆が遅れた理由は……うん。最近、面白い二次小説が多いですよね。
さらにそれらに触発されて新しい小説の構成を考えていたら。

ともあれ、新章突入です。


追記
誤字を修正しました。


GOBLET OF FIRE
闇の始動


 

「私、ここから出て旅に行くことにしたから」

 

「……は?」

 

パチュリーの言葉に自分でも間抜けと思えるような声を出してしまう。この魔女はまた、唐突に何を言い出すのか。頭に手を当てながら溜め息を吐く。

 

「あー、うん。また何で唐突に?」

 

「極東の地に世界から失われた神秘が眠っているという情報を手に入れてね。それを確かめに行くのよ。場合によってはそこに住むことになるわ」

 

「ここはどうするのよ?」

 

「アリスにあげるわ」

 

「はい?」

 

「貴女にあげると言ったの。持っていってもいいんだけど邪魔かつ面倒だし。出来るだけ最低限の荷物で済ませたいのよ。だから、本や魔法具を含めて貴女にあげるわ。まぁ、大事なものや必要なものは持っていくけどね」

 

ここ最近荷物を整理していたのはそういうことか。いきなり図書館を丸ごとくれると言われても正直どう反応すればいいのか迷う。

 

「まぁ、くれるというのなら貰うけれど。本当にいいの?」

 

「えぇ。私が持っていったところで殆どは死蔵しちゃうと思うし、だったら後輩に与えて魔女として成長してもらったほうが有意義でしょ。仮にも貴女は私の弟子ともいえる立場なんだし、生半可な実力で終わるのは私としても本意ではないわ」

 

「……そう。そういうことなら有難くいただいておくわ」

 

正直とてもありがたい。まだまだ私が読めていない本は多いし実家とは違う魔法的なことを行える家が手に入るというのは今後を考えるととてもありがたいことだ。しかも、ここはパチュリーが使用している家であることから、その防衛能力はとても高い。いくつかの防衛機能はパチュリーが維持しているようなので私ではそれらを使用することは出来ないだろう。だが、それを差し引いても十分すぎるほどの機能を持っているのは確かだ。

 

 

その後は他愛もない世間話をしながら私は今後の計画を立てていった。計画とは勿論ドールズのことである。本体はすでに全部作り終えているので、あとは魂を吹き込む工程だけだ。

まず京人形から魂を吹き込み、次に倫敦人形と仏蘭西人形に魂を吹き込む。残るオルレアン人形は冬休みを予定している。そして時間の合間にドールズに持たせる魔法具を作っていくつもりだ。

 

「ん?」

 

窓の方からコンコンと音が響き、そちらに視線を向けると二羽のふくろうが飛んでいた。近寄り窓を開けるとふくろうは部屋へと入り机の上に着地する。

 

「ふくろう便ね。一つはホグワーツから、もう一つは魔法省からだわ」

 

パチュリーがそう言いながらふくろうから手紙を取る。魔法省からの手紙を持ってきたふくろうは足に細い筒を付けていて、筒ごと受け取っている。

ふくろうは机の上に置かれたお皿からビスケットを数枚咥えたあと、用は終わったと言わんばかりに飛び立っていった。これは別にふくろうが急いでいたとかではなく、早く帰るように意識誘導されているのが原因だろう。

 

パチュリーから手紙を受け取り、まずはホグワーツからの手紙を開く。手紙には四年生で使用する学用品のリストが書かれていた。明日にでも買いに行こうと思いながら読んでいくと、普段なら見慣れない単語が目に入った。

 

「パチュリー、ドレスローブってどういうのを持っていけばいいかしら?」

 

「ドレスローブ?」

 

「えぇ、ドレスローブよ。必ず持ってくるようにと書かれているわ」

 

一体何に使うのだろうか。いや、ドレスローブというんだからパーティーか何らかで着るのだということは分かるが。昔、コンクールで表彰されたときに着ていたようなものでいいのだろうか。

 

「ふぅん。まぁ、あまり派手過ぎないほうがいいんじゃないかしら。特に指定がないってことは各々の判断に任せるってことでしょ。なら下手に突飛なものよりシンプルなものを選んだほうが当たり外れもなくていいんじゃない?」

 

なるほど。それならそこら辺の洋装店で十分かしら。前見たときにそれっぽいのが置いてあったと思うし。

 

「ちなみに、ドレスローブなんてのはどの家でもオーダーメイドで作っているのが一般的よ。洋装店なんかでもいいんだけど、そういうところで買うと誰かと被ってしまうことがあるから切羽詰っていない限り既存品を買うのはお勧めしないわ」

 

「まぁ、そうよね。一着一着別物を作っていたんじゃ大変だろうし。当然被るっていうこともありえるか」

 

どうするか。別に魔法界で買わないといけないなんてルールはないしマグルの世界で買えば問題はないだろうけど。マグルの世界なら魔法界より多くのドレスローブがあるだろうし、学校に通っているのは魔法界出身が多いから零と言わずとも被るなんてことは滅多に起こらないはず。

でも、折角なんだし少し気合入れてみてもいいだろうか。今回だけじゃなくてこれからも着る機会は増えるだろうし、現状は数が必要でもないのだから質を求めてもいいだろう。

 

「……よし、作りましょう」

 

「あら、オーダーメイドにするの?アリスなら既存品で済ませるかと思ったけれど」

 

「まぁ折角だしね。将来的には質は勿論、数も揃えないといけないんだろうけど、学生の間はそうそう着る機会はないだろうし。今回くらいは質を求めてもいいかなってね」

 

「学生でも名家だと質と数が求められるけれどね。まぁ、いいんじゃないかしら?どこに注文するの?マダムマルキンの店かしら?」

 

「違うわよ。言ったでしょ?作るって」

 

「だから、どこの店で作るのか聞いて「自分で作るのよ」……貴女って人形の服のみならず自分用のドレスローブまで作れるの?」

 

「昔、何回か作ってみた程度だけれどね。まぁ周りの評判はよかったし、他のドレスローブを参考にすれば夏休み中には何とかなるでしょう」

 

となると、早速取り掛からないと。時間はあるとはいえ無限ではないんだし、生地を探して選ぶのが特に時間掛かるから無駄にはできない。

 

「と、それはともかく。魔法省の手紙って何かしら?」

 

筒の蓋を開けて中に入っていた手紙を取り出す。差出人は魔法省の―――ファッジ魔法大臣?

 

「へぇ、大臣直々の手紙だなんて凄いわね。何をやらかしたの?」

 

「……別になにもなってないわよ」

 

一瞬言いよどんだのは少しばかり心当たりがあるからだが、それならあのときに直接言ってくるはず。そうでなくとも何かしらの注意はあったはずだ。

そういえば、三年生の終わり頃に個人的に褒賞を与えるとか言っていたのを思い出す。ならきっとそれに関してではないだろうか。

 

とにかく中を見れば済む話なので、ペーパーナイフで封筒を開けて中の手紙を読む。

内容は予想通り、個人的な褒賞とやらについてだった。

 

「それで?中身は何だったの?」

 

「チケットみたいね。クィディッチ・ワールドカップ決勝戦、アイルランド対ブルガリアの観戦チケット。大臣が言うにはいい席みたいね」

 

「あら、よかったじゃない。確か開催地がイギリスになるのは三十年ぶりじゃなかったかしら」

 

「そうなの?まぁ折角貰ったんだし見に行こうかしら……パチュリーも行く?チケットが二枚入っているわ」

 

手紙にも友達と楽しみなさいと書いてあるし。ていうか私以外に一人だけって場合によってはかなり面倒なことになるのでは。尤も交友関係が豊かとはいえないし、夏休み中はずっとここにいるわけだから問題ないといえば問題ないんだけれど。

 

「そうね……折角だから行きましょうか。それにしても貴女―――」

 

「ん?」

 

「友達いないの?」

 

「……うるさいわね」

 

 

 

 

「すごい人の数ね」

 

手紙がきてから数週間後、私とパチュリーはクィディッチ・ワールドカップが行われる会場近くのキャンプ場にいた。ここの経営者か管理人の男性に料金を払い、指定された場所へと向かう。

 

「確かにすごい数だけど、それ以上にテントの作り方もすごいわね。到底真似したくはないわ」

 

パチュリーの言う通り、ここに立てられている多くのテントはどれも普通とはいえないようなものばかりが並んでいる。煙突や屋根が付けられているテント、三階建ての家の如く高く作られたテント、様々な家畜が近くに繋がれているテント、噴水や時計塔が設置されているテントなど、およそマグルが建てるテントとはかけ離れたものがあちらこちらに作られている。さらに着ている服も奇天烈なものであり、この場の異様な雰囲気をよりいっそう際立てている。

 

「さっきのマグルの管理人が訝しげな目で見ていたけれど、これを見たら納得ね」

 

まぁ、私たちのように年若い女性二人組みというのも目立つだろうが、この人達ほどではないだろう。

 

「秘匿の秘の字もあったものじゃないわ。昔からだけど、どういう神経をしているのかしら。マグルがどんな格好でどうキャンプしているかなんてある程度観察していれば判るでしょうに」

 

パチュリーと周りの光景について話しながら目的の場所へと向かっていく。二十分程歩くとマーガトロイドと書かれた立て札が打ち込まれた空き地に辿り着いた。

荷物を降ろして用意してきたテントを張っていく。何回か練習していた甲斐もあって、特に問題もなくテントは張り終わった。

 

「ちょっと待ってなさい」

 

そう言って、パチュリーは先にテントの中へと入っていき、二言三言なにかを唱えると再び外へ出てきた。

 

「出来たわ。私は試合が始まるまで中にいるけれど、アリスはどうするの?」

 

「そうね。出店も出てるみたいだし、ちょっと見回ってみるわ」

 

「そう、行ってらっしゃい」

 

パチュリーは素っ気なく言うと、そのままテントの中へと入っていった。

私は周囲の奇抜な光景を無視しながら出店で賑わっている一角へと向かう。

 

出店には食べ物や飲み物だけでなく、様々なクィディッチ用品が置かれている。アイルランドやブルガリアの国旗に大から小までの旗、各選手のミニチュアにユニフォームや箒など凡そスポーツ競技に関するあらゆる商品が揃っているのではと思うほどの品揃えだ。

 

幾つか食べ物を買い、食べ歩きしながら人ごみを進んでいく。行儀が悪いとは思うが、今日くらいはいいだろう。

食べ終わったゴミを近くのゴミ箱へと入れて、そろそろ試合が始まる頃だと思いテントへ戻ろうと歩を進める。その途中、見知った後姿を見つけた。

 

「ルーナじゃない。こんばんは」

 

「あらアリス。こんばんは。アリスもワールドカップの観戦に来たの?」

 

「えぇ、そうよ。ルーナは一人?」

 

そう言うが、一人で着ている学生なんて普通いないだろう。いや、どこかにはいるかもしれないが。

 

「ううん、パパと一緒だよ。アリスは?」

 

「私は友達とね。ルーナのお父さんってザ・クィブラーの編集長なんだっけ?」

 

「そうだよ。アリスが定期購読しているって言ったらとても喜んでたよ。一度話してみたいっていってたんだ。すぐそこなんだけれど来る?」

 

「そうね、折角だし挨拶していきましょうか」

 

ルーナに続いてテントの合間を進んでいく。辿り着いたテントの前にはルーナによく似た男性が立っていた。少しの間、ルーナのお父さん―――ゼノフィリアス・ラブグッドと話をして、面白かった記事や気になった記事は何かと事細かに質問されたが、試合開始の時間が迫ってきたので、きりのいいところで話を切り上げる。

話してみた感想としては、この親にしてこの子ありといえるような人だった。

 

 

 

テントでパチュリーと合流して試合会場へと向かう。会場への道は大勢の人で溢れかえっており、歩くたびに誰かとぶつかりながら進んでいく。

入り口を通り、チケットに書かれている指定席の場所まで壁の標識を確認しながら進んでいくと、奥に進んでいくにしたがって周囲の人が少なくなるにつれ奇抜な格好をした人もいなくなっていった。反対に魔法使い的にしろマグル的にしろまともな格好の人が多くなっているようだ。

 

「ここら辺の人たちはまともな格好をしているわね。といっても、他の人たちがおかしいだけなんだけど」

 

「みたいね。まぁ、ここら辺にいるのはそれなりに地位があったり重役に就いているのが多いみたいだし、当然じゃないかしら」

 

パチュリーの言葉を聞いて周囲にいる人たちをもう一度見渡す。すると、確かに以前日刊預言者新聞などで見たことのある人が多かった。

 

「……もしかしなくても、チケットに書かれている指定席って貴賓席か何かかしら?」

 

「もしかしなくてもそうでしょう。よかったわね、随分魔法大臣に気に入られているわね」

 

「……分かってて言っているわよね?」

 

「さぁ?」

 

思わず溜め息を吐いてしまう。魔法界でも重要な人物たちが座る席近くになんて誰が好んで座りたがるのか。いや、中には積極的に座りたいと考えている人もいるかもしれないが、私は是非ともご遠慮願いたかった。

 

階段を登り観客席の最上階まで登っていく。最上階に辿り着くと、そこは小さなボックス席になっており、高級そうな椅子が二十席二列に分かれて並んでいた。位置としては両チームのゴールポストの中間地点になり最上階ということもあって、競技場全体がよく見渡せる場所だった。

 

「へぇ、さすが魔法省大臣ね。試合を観戦するのにこれ以上はない特等席だわ」

 

パチュリーのファッジ大臣に対する評価を聞き流しながら指定された席へと向かう。貴賓席には既に何人かの人が座っており、そのうちの何人かは新しくきた私たちへ視線を向けている。私達を見たあと隣に座っている人と小声で話しているのを見ると、どうしても居心地が悪くなってしまう。

私達は後列の手前から四つ目と五つ目の席に座る。試合開始まではまだ少し時間があるため事前に買っておいた両チームの解説が書かれた雑誌を開いて時間を潰すことにした。

 

 

 

 

「あれ?もしかしてアリス?」

 

名前を呼ばれたので雑誌から視線を上げる。そこにはハーマイオニーが驚いたような顔をして私のことを見ていた。ハーマイオニーの周囲にはハリーやロン、それにロンと同様に赤毛をした人たちが並んでおり、不思議そうに私とハーマイオニーを見ている。

 

「こんにちは、ハーマイオニー。あなた達も観戦にきたの?」

 

「えぇ!ロンのお父さんに誘ってもらったの。アリスは一人で来たの?」

 

「いいえ、今日は……友達ときたのよ」

 

そう言って隣に座っているパチュリーに視線を向ける。途中、言葉に詰まったのは私とパチュリーの関係を何て言うか迷ったからだが、無難に友達にしておいた。パチュリーも何も言わないから問題はないだろう。

 

「そうなの?始めまして、アリスと同じホグワーツに通っているハーマイオニー・グレンジャーです」

 

「……パチュリーよ」

 

パチュリーは顔を僅かに上げて一言言うと、すぐに雑誌へと戻してしまった。

 

「気にしないで。あんまり人と話をするのが好きじゃないのよ」

 

「そ、そうなの」

 

ハーマイオニーは若干戸惑ったように返事をした。まぁこうもぶっきらぼうに挨拶―――とは呼べないか―――されて戸惑うなというのは中々に難しいので仕方ないだろう。

 

「ところで、そちらの人たちはロンのご家族かしら?」

 

「えぇ。こちらの人が今回招待してくれたロンのお父さんよ」

 

「はじめまして。アーサー・ウィーズリーだ。君のことはハーマイオニーから聞いているよ」

 

そう言って握手を求めてきたのは少し薄くなった赤髪にセーターとジーンズを着た人だ。ここにきて見た魔法使いの奇抜な格好と比べると十分マグルの服装といってもいい格好をしている。

 

「はじめまして。アリス・マーガトロイドです」

 

挨拶を交わしながら握手をする。その後は簡単に自己紹介をして、ウィーズリーさんの家族を紹介された。まぁ、殆どはホグワーツの生徒なので実際に紹介されたのは長男と次男、ウィーズリーさんの三人だけだが。

 

「それにしても、どうやって貴賓席のチケットを手に入れたんだい?この席のチケットはかなり入手困難だったはずなんだが」

 

そういうウィーズリーさんも魔法省の魔法ゲーム・スポーツ部の部長との伝手で手に入れることができたようで、普通なら魔法省や魔法界で重要な立場の人たちにしか回らないらしい。

少し迷ったが、別段隠すことでもないので話そうとしたところで、入り口の方に見覚えのある人物が現れた。

 

「さぁさ、こちらです。絶好の席ですぞ―――駄目だな、ちっとも伝わらん」

 

入り口に現れたのはファッジ魔法大臣だった。両脇にいる豪華なローブを着た男性に大声で話しているが、とても言葉が伝わっているようにはみえていない。ファッジ大臣は貴賓席にいる人たちと会話をしながら男性を案内している。

途中、ハリーに気がついたファッジ大臣は挨拶を交わし、両脇にいる男性を紹介していた。それを聞いていると、どうやら両脇にいる男性はブルガリアとアイルランドの魔法大臣らしい。言葉が通じていないようなのでハリーのことは伝わっていないみたいだが、ブルガリアの魔法大臣がハリーの額を指差して騒いでいたので、ハリーが誰かというのは伝えられたみたいだ。

 

ファッジ大臣たちの話が落ち着いたようなので、挨拶するために近づいていく。他国の魔法大臣や各方面の重要人物がいる中で一介の学生でしかない私が魔法大臣に話しかけていいものか迷ったが、招待してもらった以上はこちらから挨拶するのが礼儀というものだろう。

 

「こんにちは、ファッジ魔法大臣。本日はお招きいただいてありがとうございます」

 

「ん?おぉ、ミス・マーガトロイド!ホグワーツ以来だね、元気にしていたかね?」

 

「はい、大臣もお元気そうで」

 

「いやいや、そうでもないよ。ただでさえ仕事柄休みを取ることが出来ないのに、今年は一大行事が重なっているからね。落ち着いたら半年はバカンスに行きたいくらいだ」

 

ファッジ大臣は少しおどけながら気さくに話してくる。先ほどからファッジ大臣の話している様子を見ていたが、どんな人に対してもこうなんだろうか。目上の人目下の人に関わらず気さくに話している姿は、親しみやすいといえば親しみやすいのだろう。

 

「この前はすまなかったね。本来であれば勲章をあげられたものを、我々の不手際で台無しになってしまった」

 

「そんなことありません。私がしたことなんて微々たるものですし、このような場に招待してもらえただけでも身に余るほどです」

 

「そんな自分を卑下するものじゃない。あの日君がいたことで人の命が救われたのだ。もっと胸を張りたまえ。ところで、そちらのお嬢さんは君のお友達かね?」

 

ファッジ大臣の視線が私の後ろに向いたので思わず振り向くと、さきまで雑誌を読んでいたパチュリーが後ろに立っていた。

 

「はじめまして、ファッジ魔法大臣。アリスの友達でパチュリー・ノーレッジと申します」

 

そう挨拶しながら頭を下げたパチュリーに対して、私は内心驚いていた。パチュリーの性格からして、相手が魔法大臣だとしても敬語はおろか頭を下げるとは予想していなかったからだ。まぁ私としては不敬な態度をされるより助かるのだけれど、違和感があるといえばそのとおりだ。

 

「あぁ、ファッジ」

 

その後は、ファッジ大臣も忙しいだろうと思い再度お礼を言ってから失礼しようとしたのだが、突如として聞こえた声にそちらに視線を向ける。

 

「おぉ!ルシウス!」

 

ルシウスと呼ばれた男性は背筋をピンと伸ばしながらファッジ大臣へと近づいてくる。その途中で見えた男性の後ろにはホグワーツでも見覚えのある男子、ドラコの姿が見えた。ということは、この人がドラコの父親か。見れば顔がそっくりだし間違いはないと思う。

母親らしき女性と話していたドラコが私に気づいたのか驚いた顔をしている。まぁ、ドラコみたいに魔法界の貴族の家系でなく、マグル生まれの私が貴賓席にいたりしたら驚くのも無理はないか。ドラコの家は純血主義だと聞くし、ドラコ自身もあまり私と関わり合いになりたくないのは知っているので、声はかけずに目礼だけしておいた。

 

マルフォイさんはファッジ大臣と話が終わったようで歩き出したが、ウィーズリーさんの傍までくると足を止めて話しかけている。その話し方や態度はドラコのハリーやロン、ハーマイオニーに対する姿勢を冷静かつ陰湿にした感じで、ドラコも将来はこうなるのだろうかと思わず考えてしまった。

マルフォイさんは早々に話を切り上げて席に向かおう歩き出し、通行の邪魔になっていたので道をあけるように横にずれる。その際にマルフォイさんと目が合ってしまった。

 

「おや?君のような子供がこんなところにいるとは。保護者はどこかね?」

 

マルフォイさんは私を保護者と逸れた子供として話しかけてきた。とはいえ、その視線がウィーズリーさんに向いているところをみると、私もハリーたち同様にウィーズリーさんにお呼ばれされたのだろうと思っているのだろうか。

 

「あぁ、ルシウス。彼女は私が招待したのだよ」

 

マルフォイさんが再度何か言おうとしたときに、他の人と話していたファッジ大臣が戻ってきてマルフォイさんに声をかけた。

 

「ファッジが?失礼ですが、彼女とはどういった間柄で?」

 

マルフォイさんは訝しげな視線を私に向けるも、すぐにファッジ大臣に向き直る。

 

「彼女はホグワーツでシリウス・ブラックが発見された際に奴の捕縛に貢献してくれたのだよ。本来であれば勲章を与える予定だったのだが、不覚にもシリウス・ブラックに逃げられてしまったことでそうすることもできなくなってしまってね。代わりといってはなんだが今大会のチケットを送ったのだよ」

 

ファッジ大臣がマルフォイさんに説明すると、マルフォイさんは再び私へと視線を向けてきた。

 

「それはそれは。シリウス・ブラックの捕縛に貢献したということであれば納得です。さぞや彼女は優秀な魔女なのでしょうね」

 

マルフォイさんは値踏みするような目で見てきた。正直あまり気分のいいものではなかったが、表情には出さずにマルフォイさんを見返す。

 

「……それに気丈でもあるようだ」

 

「はっはっ!それはそうだとも。何せ彼女はその年で守護霊を作り出すことに成功しているのだからな。これで優秀でないとしたら何が優秀だというのだね」

 

ファッジ大臣は気分よく話しているようだが、私としては出来れば止めてもらいたい。今でも非常に目立っているのに、これ以上目立つことは遠慮願いたい。

 

「ほう、守護霊をですか。それは素晴らしい。将来有望といったところですかな?」

 

「そうだな。私としては彼女には将来、是非とも闇払いに入ってもらいたいと思っている」

 

ファッジ大臣とマルフォイさんの会話はどんどんとヒートアップしていっている。というか、闇払い云々の話はあの場のノリではなく本気の話だったのか。

 

「大臣、そろそろよろしいか?」

 

「おぉ、すまないバグマン。もうこんな時間か。では私はこれで失礼するよ。楽しんでくれたまえ」

 

ファッジ大臣はバグマンと呼ばれた人についていき、この場には私とマルフォイ一家だけが残された。残されたとはいっても周囲の席には人がいるのだが。

 

「では、我々も失礼するよ。ミス・あー……」

 

「アリス・マーガトロイドといいます。ホグワーツの生徒で今度四年生になります」

 

「ルシウス・マルフォイだ。四年生というとドラコと同い年か。寮はどこなのかね?」

 

「レイブンクローです」

 

「そうか。学校ではドラコとよくしてくれたまえ」

 

そこでマルフォイさんは話を打ち切り席の間を進んでいく。その際ドラコとすれ違うが、ドラコは一瞥するだけでそのまま歩いていった。ドラコとよくしてくれなんて、マルフォイさんは私がマグル生まれだと知らないのだろうか。まぁ、帰ったらドラコから話を聞くんだろうけれど。

 

その後、すぐに試合が始まり会場は割れんばかりの歓声で包まれる。そんな中、パチュリーが私に話しかけてきた。

 

「アリス。気がついているか知らないけれど、さっきの男「闇の魔法使い?」―――あら、気がついていたの?」

 

「何となくだけれどね。以前会ったことのある死喰い人と雰囲気が似ていたし。それより、私はパチュリーに驚いたわよ」

 

「何がかしら?」

 

「ファッジ大臣と話しているとき自分から自己紹介した上に頭まで下げていたじゃない?パチュリーの性格からして大臣だろうと絶対に頭は下げないと思っていたから」

 

「一応、私はアリスに誘われたとはいえ、間接的にファッジに招待されたことになっているのだから挨拶くらいするわよ。そのほうがアリスも変に荒波立たなくていいでしょう?」

 

つまり、言い方を変えれば私のためということなのだろうか。パチュリーはそれ以降黙ってしまったので真意は分からないが、もしそうなら嬉しく思う。

 

 

 

 

試合はアイルランドの勝利で終わった。

点数はブルガリアが一六〇点でアイルランドが一七〇点であり、点数だけ見るとブルガリア優勢のところをアイルランドがスニッチを獲得して逆転勝ちしたように思えるだろう。だが実際には、試合は終始アイルランドの優勢で進み、ブルガリア側のシーカーであるビクトール・クラムがスニッチを取って終わったのだ。

ブルガリアはスニッチを取っても点数差が十点あって、十点差なら巻き返すことが可能と思えるが、私の目から見てもブルガリアのチェイサーよりアイルランドのチェイサーの方が上手いというのが分かる程に選手の実力に差があった。故に、あのまま試合を続けていても点数差は広がるばかりで、後になればなるほどに圧倒的点数差で終わることになるのは予想できたことでもある。

ビクトール・クラムは優秀な選手だと聞くし、多分あのまま続けても試合に勝つことが出来ないとわかっていてスニッチを取ったのではないかと予想つける。圧倒的点数差かつ相手にスニッチを取られて終わるくらいなら、少しでも早いうちに自分の手で終わらせたい。そんな感じだろうか?

 

「と、私は思うけれど、パチュリーはどうかしら?」

 

「……さぁね。スポーツ選手の考えなんて理解できないわ。理解以前にどうでもいいし」

 

なんともパチュリーらしい言葉に思わず苦笑する。

今は試合会場からテントに戻り、中で紅茶を飲みながら静かに休んでいる。一応、外の様子が分かるように遮音ではなく静音の魔法を掛けているので、テントの外で試合の興奮が収まらず騒ぎ散らしている音が僅かに聞こえる。

ちなみにテントの中は空間拡大呪文が掛けられており、小さいテントには到底収まりきらないであろう数と大きさの家具や物が置かれている。内装はログハウスのように木で組まれたデザインをしており、とてもテントの中とは思えないほどの快適さを作り出していた。

 

しばらく私もパチュリーも本を読み続け、時間も遅くなりそろそろ就寝しようかと思ったところで、突如として外が騒がしくなってきた。

何かと思い静音呪文の効果を弱めると、叫ぶ声や悲鳴が聞こえてくる。

 

「何かあったのかしら?」

 

テントの入り口を少しだけ捲り外の様子を窺う。外は走り回る人々で溢れかえり、遠くでは少なくない数のテントが燃えているのが見えた。さらに断続的に赤や緑の光が空に向かって放たれ、時折大砲の発砲音のような重く響く音も聞こえる。

近くで叫び合うように話し合っている人たちの会話を盗み聞くと、どうやら仮面を被った黒いローブの集団がマグルの一家を捕らえながら暴れているらしい。一団はこちらに向かって行軍しているようなので、直にここにやってくるだろうことも話していた。

 

「パチュリー、仮面を被った一団が魔法を放ちながら暴れているみたいよ。こっちに向かっているらしいし、面倒になる前に逃げましょう―――パチュリー?」

 

テントに入りパチュリーに逃げるように声を掛けるが、当の本人は呼んでいた本を机の上に置いて、ゆっくりと椅子から立ち上がり、これまたゆっくりとした足取りでこちらへと近づいてくる。外の騒ぎはさらに大きくなってきて、人の悲鳴も何かが壊れる音も耳障りなほどに増えてきていた。

パチュリーが私の横を通り過ぎたとき、僅かに聞き取れたパチュリーの呟きを理解した私は、この騒ぎの襲撃者に思わず同情の念を送ってしまった。

 

「―――ドンドンギャーギャーと、煩いのよ」

 

まぁつまり、パチュリーが苛立っているということだ。

 

「イネシェタ・ウオネァラ・パティプラフナグ ―沸き立ち、襲え、苦痛の牙よ」

 

パチュリーは杖を持った腕だけをテントの入り口から突き出して呪文を唱える。初めて見る呪文だけれど、一体どのような魔法なのだろうか。

パチュリーの邪魔にならないようにテントの隙間から外を窺う。すると、ちょうどテント前の地面から何か小さいものが吹き出ているのが見えた。近くの明かりによって僅かに照らされたそれらの正体は二センチ程の大きさの蟻であり、無数の蟻は地面から吹き出ると物凄い速さで騒ぎの中心地へと向かっていく。

 

「……あれは何かしら?」

 

「見ての通り蟻よ。尤も、噛まれることによる痛みは冗談ではすまないレベルだけれど。パラポネラって言えば分かりやすいかしら?」

 

「……そう」

 

パラポネラ。別名、弾丸アリ。

この蟻に噛まれるとありとあらゆる痛みを集中させたような激痛に襲われ、二十四時間以上もそれが治まることなく継続するという凶悪な蟻だ。刺されたときの痛みの指標では、どんな蜂に刺されてもこれ以上のいたみはないとされるほどに恐ろしい激痛とされている。

ちなみに、パラポネラは“痛み薬”を作る際の材料の一つでもある。一部の昆虫や動物は魔法界でも様々な材料に使用したりするので、マグルだけでなく魔法界の間でも比較的広く知られているものも存在している。

 

ともあれ、この騒ぎを引き起こしている人たちは運がなかったというほかない。この場にパチュリーさえいなければ、耐え難い激痛に襲われることもなかっただろうに。

 

 

 

その後は、パラポネラの襲撃に遭ったためなのか襲撃者は次々と逃げていったようだが騒ぎが収まることはなかった。その原因は空に突如として現れた髑髏。空に現れた緑色をした髑髏は口部分から長い舌のように蛇を模した煙が伸ばされて、その動きは獲物を狙っているようにも見えた。

現れた髑髏は闇の印と呼ばれるものであり、闇の魔法使いヴォルデモートの印として有名な印である。それが正体不明の襲撃者たちの騒ぎに乗じて現れたのだから、騒ぎの一つや二つ起こっても不思議ではないだろう。それに、クィディッチのワールドカップでこのような事件が起こったのだから、騒ぎは今日だけに留まらず暫くはニュース一面を飾ることは間違いない。

 




久しぶりの執筆なので、矛盾点や表現のおかしい点がないか不安でいっぱいです。


追記

今回パチュリーが使用した魔法。
「イネシェタ・ウオネァラ・パティプラフナグ ―沸き立ち、襲え、苦痛の牙よ」
秘密の部屋でマルフォイが蛇を杖から出したように、蟻を地面から召喚する同系統の上位魔法。今回お呼びしたのはパラポネラ。噛まれると痛いです。作者が噛まれたことないので想像もできませんが。
磔の呪文とどちらが苦痛なのでしょうね。

本来奴らは、木の上から金切り声を上げながら獲物へと襲い掛かるそうです。鳴き声が聞こえたころには既に攻撃範囲内とは……


あと、ワールドカップのチームメンバーに魔理沙か射命丸あたりをだそうか考えましたが、カオスになりそうなので自粛しました。

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