魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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僕はね……昔……正義の味方になりたかったんだ。

↑ 明かされる真実――――――嘘です

*閑話休題*

炎のゴブレット編
完! 結!




明かされる真実

ヴォルデモートは周りの者に構わず、ペタペタと自分の身体や顔を触っている。まるで、この身体が自分のものであるかを確かめるように。

それが終わると、ヴォルデモートは自分の足元に蹲っているピーターへと顔を向けて冷たく撫でるような声で命令する。

 

「立て、ワームテール。俺様の杖をよこせ」

 

ヴォルデモートに命令されたピーターは足を震わせながら立ち上がり、ポケットから取り出した一本の杖をヴォルデモートに手渡す。

ヴォルデモートは手に持つ杖をゆっくりと愛しむように撫でていたが、不意に杖を振るうとピーターを浮かしてハリーが拘束されている石像へと叩きつけた。地面へと落ち、痛みで呻くピーターをヴォルデモートは高笑いをあげながら見ている。そして、ピーターへと近づくと再度の命令を告げる。

 

「腕を出せ、ワームテール」

 

「あ、お……おぉ、ご主人様……ありがとうございます」

 

ヴォルデモートにお礼を言いながら手を切り落とした右腕を差し出す。治療してもらえると思っているのだろう。

 

「違うぞ、ワームテール。もう一方の腕だ」

 

だが、ヴォルデモートは腕の怪我を無視して無傷の腕を差し出せと言う。その言葉にピーターは泣きながらも許しを請うが、ピーターの言葉に一切の反応をしないでヴォルデモートはピーターの左腕を引っ張る。そして乱雑に捲られた右腕へと杖を突き刺した。

その瞬間、ピーターは歯を食いしばり、目を強く瞑りながら痛みに堪えるようにしている。

 

時間にして数秒か。ヴォルデモートがピーターから杖を離すと顔を空へと向ける。

 

「全員が気づいたはずだ。それを知り、俺様の下に戻る勇気あるものが何人いるか。そして、離れようとする愚か者が何人いるのか」

 

ヴォルデモートは顔を戻すと、今度はハリーへと向ける。

 

「ハリー・ポッター。お前が何の上にいるか知っているか? 俺様の父親の遺骸の上だ。愚かなマグルだったが―――お前の母親がお前のために死んだように、俺様が殺した父親も役に立った。どのように役立ったかは―――見ての通りだ」

 

ヴォルデモートは語る。自分がどのように生まれ、両親がどのような末路を辿ったか。

 

「だが、今この瞬間! 俺様の真の家族が戻ってきた!」

 

その言葉と同時に墓場のいたるところから姿現しをした者たちが現れた。黒いローブを頭からすっぽりと被り、顔にはそれぞれ意匠の異なる仮面をつけている。

 

「よく来た。よくぞ戻ってきた―――死喰い人たちよ」

 

死喰い人は一人ずつヴォルデモートに近づくと、足元に傅いてローブの裾にキスをしていく。死喰い人は円を描くように整列するが、ところどころ隙間が空いている場所があった。

ヴォルデモートは死喰い人の顔を一人ひとり見渡しながら饒舌に喋りだす。その言葉は、前半は呼びかけに応じて馳せ参じた死喰い人との絆が固く結ばれているという歓喜の言葉だった。だが後半の言葉は、絆を保ち永遠の忠誠を誓ったご主人様を何故助けにこなかったとかという憤怒に満ちた言葉だった。

 

「俺様は失望した―――そうだ、失望させられたと告白しよう」

 

その言葉に死喰い人の一人が跪き許しを請うも、ヴォルデモートは許さないと言わんばかりに“磔の呪文”を唱える。

 

「俺様はお前たちを許しはしない。お前達が俺様の信頼を裏切り続けた十三年間。その分のツケを払ってもらう。その点―――お前は役に立った、ワームテール。だが、お前も他の者同様に俺様から逃げていたことに変わりはない。今回の一件で幾分かツケは返したが、それでは足りない。分かっているだろうな、ワームテール」

 

「は……はぃ……ご主人様」

 

「その腕の苦痛は報いだ―――だが、お前が俺様を助けたのも事実。ヴォルデモート卿は、助ける者には褒美を与える」

 

そう言って、ヴォルデモートが杖を一振りすると、杖先から液体金属のようなものが噴出し、手の形を形成するとピーターの右腕の切断面へとくっついた。

 

「おぉ……ご主人様、ありがとうございます」

 

「お前の忠誠心が二度と揺るがないことを期待するぞ、ワームテール」

 

その後も、ヴォルデモートは死喰い人一人ひとりに詰め寄り仮面を剥がしていった。その中にはドラコの父親のルシウス・マルフォイも含まれていた。集まらなかった者の中では、アズカバンに収容されたものには栄誉を、逃げた者には報いを与えると宣言する。

 

「そして、最も忠実な僕であり続けた者は既に任務に就いている。そう、ホグワーツでだ。その者の尽力によって、今夜、我らは若き友人を迎えた。尤も、一人余計な者が一緒ではあるが」

 

そこでヴォルデモートはハリーへと、そして私へと視線を向ける。

だが、どういうことだ? 最も忠実な死喰い人がホグワーツで暗躍しているとヴォルデモートは言った。今年のホグワーツは三大魔法学校対抗試合が開催されることもあり、例年以上に警備が厚くなっているはずだ。そんな中を死喰い人は暗躍を続けていたというのか?

 

「皆も知っているだろうが紹介しよう。かつて俺様の手から逃れ、今や英雄として持て囃されている“生き残った男の子”―――ハリー・ポッターだ。この度、俺様の復活パーティーに列席してもらった」

 

ヴォルデモートが一旦言葉を切ると、ルシウス・マルフォイが一歩進み出て頭を下げながら問う。一体、どのような奇跡を以ってして復活したのかと。

それに対し、ヴォルデモートは饒舌に語りだす。ハリーを殺そうとした日から始まり、どうして自身が放った呪いが自らに降りかかったのか、どのようにして生き延び在り続けたのか。一人の魔法使い―――クィレル先生のことらしい―――に取り付いて賢者の石を手に入れようとしたがハリーによって失敗したこと。僅かな希望さえも抱けなくなってしまったこと。ヴォルデモートを探してやってきたピーターによって思わぬ好機を得たこと。蘇りの魔法を執り行うのに必要不可欠なハリーの血を求めて死喰い人に暗躍を命じたこと。そして、今夜それを達成したこと。

 

「クルーシオ! -苦しめ!」

 

ヴォルデモートがハリーに“磔の呪文”をかけた。ハリーの絶叫が墓場中に響き渡り、それを間近で見ているヴォルデモートが愉悦と言わんばかりに笑みを浮かべている。

 

「見たか! この小僧がただの一度でも俺様より強かったと考えることは愚かしいことだ。ハリー・ポッターが俺様から逃れたのは偶然と幸運に過ぎない。こやつ一人では何にも出来はしないのだ。」

 

そこで、ヴォルデモートは杖を下ろす。ハリーの叫びは終わったが、今度は荒い呼吸と脂汗を流しながら自身を拘束する縄にもたれかかっている。

 

「今夜、ハリー・ポッターを殺そう。他ならぬ俺様の手によって。そうすれば、愚かなお前達にも俺様の力が理解できよう―――その前に」

 

ここで、ヴォルデモートが再び私を見た。赤く光る目が、私を真っ直ぐ見据えてくる。

 

「もう一人の主賓を紹介しよう」

 

ヴォルデモートの言葉に死喰い人たちから疑惑の目が向けられる。

ハリーが主賓だというのは分かるが、何故私までが主賓なのか。心当たりなんて―――まぁ、なくはないが。

 

「我が君。一体、この娘が何なのでしょう?」

 

困惑する死喰い人を代表してルシウス・マルフォイがヴォルデモートに問いかけた。

 

「良い質問だな、ルシウス。それについては今から教えてやろう。だが、お前はこの娘のことは他の者よりは知っているだろう? まずはそれを聞かせよ」

 

「はい、我が君―――この娘、アリス・マーガトロイドに初めて会ったのはクィディッチ・ワールドカップの時です。友人と思わしき魔女と二人で貴賓席にいたので疑問に思ったのですが、どうも魔法大臣が特例で招待していたようです。なんでも、去年に起こったシリウス・ブラックのホグワーツ侵入事件の際に、奴を捕らえるのに貢献したのだとか。息子と同学年でしたので息子にも話を聞いたところ、認めたくはないものの、マグル出身としてはかなり優秀な魔女だと言っておりました―――私が知るのはこのぐらいです」

 

ルシウス・マルフォイの話を聞いて僅かに驚いた。無いも同然な交友関係だったドラコが私のことをそのように思っていたとは。

 

「その通りだ―――だが、一つだけ俺様が知っていることと食い違っているな。俺様がワームテールに聞いた話だと、マーガトロイドはワームテールを捕らえるのにシリウス・ブラックと協力をしたらしいが。どういうことだ? ワームテール」

 

ヴォルデモートの冷たく細められた視線がピーターを見据える。

 

「ひっ! ご、ご主人様……私は、決して嘘は申しておりません」

 

「ルシウス?」

 

「我が君。私も決して嘘は申しません。それに、事件の日にホグワーツにいた魔法大臣が直々に申したことですので信憑性は確かかと」

 

ヴォルデモートはピーターとルシウス・マルフォイを交互に見やる。その目は相手の心の奥深くまで探るかのように光って見えた。

 

「嘘は言っていないようだな。だがそうなると、この齟齬はどういうことなのか。ここは本人に聞こうではないか―――立て、マーガトロイド。下手な芝居は勧めないぞ? お前がいつでも拘束から逃れられるということは分かっている。先ほどから杖は手放しておるまい?」

 

思わず杖を握る手の力が強まる。見えないようにしていたつもりだったが、いつから見抜かれていたのか。

 

「ディフィンド -裂けよ」

 

“引き裂き呪文”で身体を拘束している縄を引き裂く。急いで立ち上がるが、杖は構えずに手に持つだけに留める。

 

「良い判断だ。杖はそのままにしておくがいい。そうすれば、今は危害を加えはせぬ。さぁ、では聞かせてくれ。去年のあの晩、本当は何があったのかをな」

 

今は危害を加えないか。殺す宣言しているハリーと比べれば随分と穏やかな対応だけれど、今後の展開しだいでは変わってくるだろう。

―――今更過ぎるが、やはり儀式を妨害していた方が良かったのかもしれない。

 

「―――二人の言っていることに間違いはないわ。事実、私はピーター・ペティグリューを捕らえる手助けをしたし、シリウス・ブラックを捕らえるのにも協力したわ」

 

「だが、ワームテールはここにいて、シリウス・ブラックが捕まったという話は聞かないが?」

 

「最終的に二人とも逃げたからね。最初、ピーター・ペティグリューをシリウス・ブラックや他の人と協力して捕まえた後に一騒動あって、それに乗じることでピーター・ペティグリューは逃げたわ。シリウス・ブラックについては、彼の冤罪の証拠でもあるピーター・ペティグリューが逃げた時点で無実を証明することができなくなり、その時に唯一動けた人が関係者を運んだ後、大臣に事実を少し曲げた報告をしたのよ」

 

「それは誰だ?」

 

「―――スネイプ先生」

 

スネイプ先生の名を出すと死喰い人たちがざわざわと騒ぎ出すが、ヴォルデモートが手を上げると一斉に静かになった。

 

「なるほど、セブルスの差し金か。確かにあやつは、常々シリウス・ブラックをアズカバンに放り込みたいと言っていたな。だが、セブルスはワームテールのことも嫌っていたはずだったが、こやつのことについては触れなかったのか?」

 

常々言っていた? ヴォルデモートとスネイプ先生は、常々というほどの付き合いがあったということなのか?

 

「ピーター・ペティグリューが姿を晒してから逃げるまでの間、スネイプ先生は気絶していたのよ。一応、事の顛末をスネイプ先生に伝える際に彼が生きていることを伝えはしたけれど、彼が死んでいたという事実がシリウス・ブラックを捕らえる理由に必要だったから、あえて見逃したのだと思うわ」

 

「―――なるほど、よく分かった」

 

ヴォルデモートは一度頷くと、ゆっくりと歩き出す。円陣をとる死喰い人に沿うようにして一周回った後、再度口を開いた。

 

「マーガトロイドよ、所属寮はどこだ?」

 

「―――レイブンクローよ」

 

質問の意図が分からずに首を傾げる。

 

「英知を求める者が集う寮か。なるほど、話に聞く限りお前はレイブンクローに相応しい者なのだろう―――だが、俺様はレイブンクローが真にお前に相応しい寮であるとは思わん。マーガトロイドよ、お前は組み分けのときにレイブンクローともう一つ、寮を進められたのではないか? ―――そう、スリザリンをな」

 

何故―――それをヴォルデモートが知っているのだ? あのときの組み分け帽子の言葉は当事者にしか聞こえないはず。何らかの理由で組み分け帽子から情報が漏れたのだとしても、それがヴォルデモートの耳に入るとは思えない。

 

「不思議そうだな? 何故俺様がお前の勧められた寮を知っているのか。答えは単純だ。俺様の経験、そして得た知識から、お前はスリザリンにこそ相応しいと思っただけのことだ。才能的にも思考的にも―――血筋的にもだ」

 

血筋的? どういうことだ? マグル生まれの私の血筋は、スリザリンからは最も縁遠いものではないのか?

 

「恐れながら、我が君。この娘はマグル生まれでは? とてもスリザリンに相応しき者とは思えませんが……」

 

ルシウス・マルフォイが、私が疑問に思っていることをそのままヴォルデモートへと投げかけた。

 

「お前ならばそうであろう。いや、お前だけでなく、こやつを含めた全員に言えることだろう。恐らく、こやつの素性について完全に把握しているのは俺様だけだ。ダンブルドアでさえ知り得ていないだろうな」

 

「……何を知っているというのかしら?」

 

ヴォルデモートの言葉に思わず反応してしまう。

 

「そう慌てるな、マーガトロイドよ。一つずつ教えていってやろう」

 

どうでもいいが―――いや、よくはないか―――ヴォルデモートの私への接し方が、ハリーや死喰い人と比べて幾分と穏やかに感じるのは気のせいだろうか。

 

「一つずつ説明してやろう。まず才能についてだ。こやつは十一歳にて死喰い人の一人を倒している。倒されえた死喰い人にも油断や慢心があったのは確かであろうが、それでも死喰い人を破ったという事実は変わらない。さらには十三歳、去年には百体を超える吸魂鬼を有体守護霊にて退けている。その場には他のものが放った守護霊もいたようだがな。しかし重要なのはそこではない。こやつはそのとき、守護霊を同時に二体作り出していたのだ。十三にて守護霊を使役できる魔法使いは多くはないが、いないわけではない。だが、守護霊を複数使役するというのは異例だ。少なくとも、俺様はその歳でそれほどの技量を持つ者を知らぬ」

 

守護霊のことを何故ヴォルデモートが知っている? 聞こえないほどに小さな舌打ちをして考えを巡らす。あの夜のことを知っていてヴォルデモートに伝達できるような存在は限られるはずだ。

まず―――ファッジ魔法大臣。魔法大臣が直接漏らしたということは無いだろうが、ルシウス・マルフォイが魔法大臣と親しいことを考えると、彼から伝わった可能性もある。だが、ルシウス・マルフォイとヴォルデモートは今日この場で再会したようなので、事前に伝えていたということはないだろう。

次に―――スネイプ先生。さっきのヴォルデモートの話から、ヴォルデモートとスネイプ先生は何かしらの関係があるようなので、スネイプ先生がスパイとして情報を漏らしていた場合だ。だが、ヴォルデモートと関わりの可能性がある者をダンブルドア校長がホグワーツの教員として採用するかと考えると、ないだろうと思う。仮にもハリーがいるホグワーツに、そのような不安要素は置かないだろう。

最後に―――ピーター・ペティグリュー。あの夜にいて、前からヴォルデモートの傍にいたであろう者。ピーターはルーピン先生が人狼に変身した歳に逃げ出したが、すぐにホグワーツの敷地外に出ずに情報を集めていたとしたら? ヴォルデモートの元へ戻るのだから何かしらの手土産が必要だと考えて行動したというのならば、ありえないことではないだろう。

可能性としてはピーターが最も高いだろうと結論付ける。

 

「そして、今回の三大魔法学校対抗試合だ。俺様はこやつの実力を測ると同時にこの場へと連れてくるよう、死喰い人に命じてこやつを代表選手として参加させた。試合の経過はホグワーツに潜入させている死喰い人によって逐一伝えられていた。第一の課題、ドラゴンから卵を奪い取るというものでは、変身術を巧みに使い、自立稼動という妙な人形を用いることで目立った怪我もなくクリアした。俺様としてはこやつが使った人形というのにも興味があるが、それは一先ず置いておこう。第二の課題、湖の底から人質を助けるというものでは、四年生では教わらないような呪文を複数使用してクリアした。その際にホグワーツの湖に住む大イカを襲わせたのだが、水中であるにも関わらず見事に逃げ切ってみせたようだ」

 

あの大イカ―――執拗に私を狙ってきていたと思ったら、ヴォルデモートの差し金だったのか。どうやって大イカを差し向けたなんてこの際関係はない。死喰い人の手によるものであるなら“服従の呪文”でも使ったのだろう。それよりも、ドールズに興味を持たれたのが面倒だ。

 

「最後に、第三の課題。様々な障害を乗り越えて迷路を抜け優勝杯を掴む。その過程で再び死喰い人にこやつの実力を測るように指示を出した。こやつとハリー以外の選手には直接妨害させ、それによって残った障害を嗾けたのだ。そして、こやつはそれを見事に突破してこの場へとやってきた。見たところ大きな怪我もしてはいない―――これだけの力を持っているのだ。未熟な部分はあれど才能は十分と言えよう。そうは思わんか、ルシウス?」

 

「それは、はい。我が君の仰る通りです」

 

「加えて言うならば、こやつはこの場へ来てから常に周囲を警戒し、取り乱した様子もなく、冷静に事態の把握をしていた。独自によるものか教わったのかは分からんが、若くして戦いを知る動きを出来る者は、そうはおるまい」

 

一旦話を切ってルシウス・マルフォイへと話しかけるヴォルデモートを見ながら考える。あの迷路ではやたらと障害が多かったと思っていたが、まさか人為的によるものだったとは。ということはフラーとクラムは死喰い人の妨害によってリタイアしたのか。セドリックが無事なのは、多分だがハリーがその場に居合わせて助けたのだろう。ハリーが一緒にいれば死喰い人も易々と妨害行為は出来なかったはずだ。

だが気になるのは、死喰い人はどうやって迷路にいる選手達を妨害したのかということだ。迷路は当然中からも外からも見えないようになっているし、迷路の外は先生たちが見回っている。その中で迷路の中を把握して妨害する―――いや……そうか。

 

あの人なら一連の行為を行うことが出来る。迷路に加えて、水中で動き回っていた私の位置も正確に把握できただろう。

 

「これで、こやつの才能は貴様らにも分かったと思う。次に思考についてだが、知識を求める者は二通りに分けられる。目的―――即ち知識を得るために手段を選ばないか否か。欲を満たすために犠牲を払うか否か。それがスリザリンとレイブンクローの違いだと俺様は考えている。そして俺様が見たところ、こやつは前者―――手段を選ばず必要とあらば犠牲も払う―――と、俺様は見ている」

 

―――直接会ってからそう時間もそう経っていないのによく見ている。確かに、ヴォルデモートの言うことは正しいと思う。さっきので私も確信した。私は自分の知識欲を満たすためなら手段を選ばないのだろう。事実、ドールズを生み出すために闇に属する魔法を使っているのだから。

限度は―――あると思いたいが。

 

「最後に、血筋についてだが。結論から言えば、マーガトロイドはマグル生まれ―――穢れた血ではない。尤も、魔法使いの血筋なのは母親だけであって、父親はマグルであるがな。つまりは、半純血ということだ」

 

「お母さんが……魔女?」

 

ヴォルデモートから告げられたことに、呆然となる。それほど、お母さんが魔女だというのは驚きのことであるからだ。あの普段からポワポワとしていて、子供の私より子供のようだったお母さんが魔女だなんて予想もしていなかったことだ。

 

「そうだ、マーガトロイドよ。お前の母親は魔女なのだ。だが、それも普通の魔女ではない。俺様の祖先たるサラザール・スリザリン。その血筋に勝るとも劣らない高貴な血を引く魔女よ」

 

ヴォルデモートの言葉に周囲を囲む死喰い人全員がざわめいた。それもそうだろう。ヴォルデモートは純血を尊ぶとはいえ、サラザール・スリザリンの血を引く自らの血筋こそ至高だと考えていることで有名だからだ。そのヴォルデモートが自らと同等と言う血を引くと言っているのだ。

 

「俺様がこの事実に辿りつけたのは偶然と言ってもいい。まだ学生だった頃、そのときから永きに渡って集めていた様々な知識があればこその結果だ」

 

「し、しかし、我が君。マーガトロイドなどという家名は純潔の魔法族にはないはずですが。それも、我が君と並ぶ血筋ともなると―――」

 

「単純な話だ、ルシウスよ。こやつの母親はマグルの男と結婚する際に、自らの家名を捨てたのだ。マーガトロイドはマグルの父親の家名だ」

 

確かに、マーガトロイドはお父さんの家名だ。お母さんの家名は、昔に聞いたことはあるけれど教えてもらえたことはなかった。

 

「貴方は知っているの? お母さんの家名を」

 

「勿論だ。そして教えてやろう、母親の本当の名前をな。お前の母親の名は―――シンキ・ベルンカステル。千年も前に滅んだとされるベルンカステル家最後の当主にして世界最高の奇跡の魔女と称された者だ」

 

ヴォルデモートがお母さんの本当の名前とやらを言うと、死喰い人が今まで以上に騒ぎ出した。ヴォルデモートは、それを止めることせずに愉快そうに放置している。そんな中で、ルシウス・マルフォイが一歩前に出てきて、うろたえながらヴォルデモートへ問いかけた。

 

「わ、我が君。ベルンカステル家は遥か昔に無くなった家です。その家の当主がどのようにして、この娘の母親などと仰られるのでしょうか?」

 

「お前の疑問も尤もだ、ルシウス。確かに、ベルンカステルの家は千年の昔に滅んだとされるが、最後の当主であるシンキはその後も幾度か目撃されている。とはいえ、当時のことを記した文献自体が少ない上に、殆どの者は信じていないような情報だったがな。しかし、スリザリンの者は執拗にシンキを追っていたらしく、それについての文献がスリザリンの家に受け継がれていた。俺様はかつて集め、そして隠していたそれらの文献を漁ることで、シンキが隠れながらも生存していると考えた。文献によれば、シンキは独自の不老不死の魔法を生み出し、永い時を生き続けてきたとされている。それがどのような魔法かは不明だが、現代にも限りなく不老不死に近い魔法があることを考えればありえない話ではない。シンキは奇跡の魔女の名に相応しく、今も受け継がれる魔法では到底不可能な魔法を使用したとサラザール・スリザリンの手記に書かれている。そのような魔女なら真の不老不死を会得していたとしても、ありえないことではない―――ありえないということは、ありえない―――文献に記されたシンキの言葉だ。俺様はこの言葉に深く感銘を受けたものだ」

 

ヴォルデモートは饒舌に語るが、その話では不自然なところがある。

 

「ちょっと待って。私の両親は事故で死んだわ。仮に貴方の話が本当だとしても、それなら何故お母さんは死んだのかしら?」

 

不老不死だというならば、事故などというもので死ぬことはないはずだ。

 

「それも簡単な話だ。同時に、俺様がシンキを愚かだと思うところでもある。近年になるほど情報が少なくなっているので予想でしかないが、恐らく間違ってはおるまい。全く以って理解できないがな。シンキはマグルの男と恋に落ちたことが切欠で魔法との縁を断ったのだ。不老不死の魔女とマグルでは添い遂げることなどできんからな。魔法の一切を手放したことなど理解できん。最低限の魔法でも使えば、交通事故などというくだらないことで死ぬことなどあり得なかったはずだ。普通ならば、魔法を手放すことなどありえない。だが、ありえないということは、ありえない。故に、俺様は理解できないながらも、最も可能性が高いだろうそれに結論付けた」

 

ヴォルデモートの言葉を聞きながら、昔、お母さんが言っていたことを思い出す。

「お母さんは昔色んなことをしていたんだけど、お父さんと出会って添い遂げると決めてからは、全部捨てちゃった。だって、そんなものより、お父さんとアリスの方が大事なんだから」

そう言ったお母さんの顔はとても綺麗だった。当時は、お母さんが何を言っているのか深く理解はしてなかったが、今にして思えば、お父さんと私の為に魔法を捨てたということなのだろう。ヴォルデモートの話を信じるとするならの話だが。

 

「ベルンカステルの血はスリザリンよりも古い。つまり、お前は魔法界において俺様と並ぶに値する血を持っているのだ。俺様がかつてのシンキを超える力を持っているとは言わん。だが、現存する魔法使いの中で最も近い場所にいることは確かだ。お前の血と才能、そして俺様の力と知識があれば、お前はかつてのシンキに迫ることが出来るやもしれん。それは俺様にとっても様々な利点を生み出す―――俺様の下へこい、アリス・ベルンカステルよ」

 

「は?」

 

呆然。それがヴォルデモートを除く、この場にいる全ての者に当てはまる言葉だろう。私もハリーも、死喰い人もヴォルデモートが言った言葉に驚いている。

 

「わ、我が君! 突然なにを仰られます!? こ、このような小娘を!」

 

「黙れ、ルシウス。俺様の言葉に文句があるのか? ならば言うがいいい。その全てを残らず聞いてやろう」

 

「あ、いえ……滅相もありません」

 

「他にも異議のあるのもは前に出ろ。その全てを聞いてやろうではないか」

 

ヴォルデモートが死喰い人を見渡しながら問いかけるも、誰一人として異を唱えようとする者はいなかった。

 

「ふむ。どうやら誰も反対の者はいないようだな。それで? 返答はどうだ? アリスよ」

 

「―――何で私なんかが欲しいのかしら? 私が貴方の言うとおりの存在だとするならば、力を得たときに貴方を殺すかもしれないわよ?」

 

「そういうところも俺様は評価しているぞ。最近の若造は殺すことに妙な禁忌感を持っているからな。それに、俺様にそこまで言える者も少ない。やはり、お前が欲しいな」

 

―――いきなり何を言いだすのか、この帝王様は。

 

「あら、そんなに直接的に言われると照れるわね」

 

「思ってもいないことは言うものではないぞ? 理由はある。上に立つものが俺様一人だと、万が一にも十四年前のように俺様がいなくなった時に、勢力を纏め上げる者がいないのは欠点だ。今回のように復活できても、勢力を再結集するというのは手間がかかる。そういった意味でも、俺様に代わるまとめ役が必要だ」

 

「その言い方だと、まるで私を貴方と同格として扱うように聞こえるけれど? それに、まとめ役ならルシウス・マルフォイがいるのではないかしら?」

 

「その通りだ。お前を我が陣営に迎い入れた際には、俺様と同格として認めよう。お前にはそれだけの価値がある。ルシウスでは駄目だ。ルシウスだけではない、この場にいる死喰い人の誰一人として駄目だ。こやつらは俺様に忠誠を捧げてはいても、自らの保身を念頭に置いている。真に忠誠を捧げる者は、まとめ役とするには気性の荒いものばかりだ」

 

私を同格として迎い入れると言ったヴォルデモートに対して口を開こうとした死喰い人がいたけれど、続くヴォルデモートの言葉に口を噤んでしまっている。ヴォルデモートが視線を向ければ、身体を僅かに震わせていた。

 

「俺様が視線を向けただけでこの有様だ。こいつらでは、とても勢力を任せるには値しない」

 

「―――万が一、仮に私が貴方の勢力を引き受ける立場になったとしても、素直に貴方の考えどおりにすると思っているの? 立場を利用して闇祓い達に一網打尽にさせるとは考えないのかしら?」

 

「それはないな。俺様はそこらの者よりも人を見る目がある。多くの心を覗いてきた。誰が何に、怯え、恐怖し、畏怖し、尊敬し、敬愛し、同調しているのか。どんなことを考えているのか。味方につくのか裏切るのか。全てとは言わないが、限りなく全てのことを見通せる。そんな俺様が見たお前は、一度味方になれば決して裏切りはしない。自らの保身は考えようとも、必ず味方を助ける―――そういう女だ」

 

随分とまぁ、高評価だと思う。少し間違えれば陣営内に不和の火種を招くことだというのに、それらを無視してでも求められるというのは悪い気はしない。尤も、火種といってもヴォルデモートがいる限り力で抑えるのだろうが。

 

「では、答えを聞こうか?」

 

そう言って、私の顔を真っ直ぐと見てくる。目を合わせているというのに開心術を使っていないというのは、ヴォルデモートなりの誠意ということか?

とはいえ、私の返す答えは決まっている。

 

「折角のお誘いだけれど、遠慮しておくわ」

 

誰が好き好んで日の目を見れない場所に立とうというのか。いや、ヴォルデモートが魔法界を支配すれば見れるだろうが、それまでは確実に影に生きる生活だ。それに、ヴォルデモートが支配する世界が楽しいかと問えば、確実に楽しくはないだろう。恐らく待っているのは恐怖政治。大多数の人が排他される世界。そんな世界は楽しくはない。活気のない町に行って何が楽しいのかという話だ。いくら魔法や研究に専念できても、永遠にそれだけをやっているわけではないし、合間の息抜きや遊びも必要だ。

ヴォルデモートの話が本当ならば、彼の持つ魔法の知識をくれるらしいけれど、知識に関してはこちらも負けてはいない。未だに全部を把握していないヴワルの蔵書には多くの知識が眠っている。ホークラックスという深い闇の魔法まであったヴワルならば、ヴォルデモートの知識と比べても遜色ないだろう。下手すれば上回っている可能性もある。

 

「何故だ―――と、問うのは止めておこう。俺様も簡単にお前が首を縦に振るとは思っておらん。今日は引き下がっておこうではないか。だが覚えておけ、俺様は確かにお前が欲しいが絶対ではない。お前が俺様の下にこないときは、お前が死ぬときだということをな」

 

随分と簡単に引き下がったヴォルデモートに首を傾げながらも、話は終わったとばかりに私から離れていく。これからも勧誘を続けるということは、この場は殺さずに生かして返してくれるということか? まぁ、その勧誘も回数制限があるようだが。

 

「ところで、私はどうすればいいのかしら?」

 

「慌てるな。事が済めば移動キーでホグワーツへ返してやる―――さて、いよいよ本題だ」

 

そう言って、ヴォルデモートはハリーへと近づいていく。ヴォルデモートはピーターにハリーの拘束を解かせると決闘を行うと言い出して、死喰い人が囲う円の反対側へと歩く。だが、その途中で何かを思い出したかのように足を止めた。

 

「あぁ、そうだった。俺様としたことがすっかり忘れていた。この場には相応しくないものが招かれていたな―――アバダ・ケダブラ!」

 

ヴォルデモートが振り返り“死の呪文”を放った。その呪文の先にいるのは―――セドリック。

 

「ギュデート・イトゥムプパ! -踊れ、石人形!」

 

ヴォルデモートが“死の呪文”を放つと同時にセドリックの前に石人形を作り出す。ヴォルデモートは余計な者がいると言い、ハリーと私が主賓と言ったことから、セドリックを始末するだろうことは予想がついていた。だから、いつでも石人形を作って盾とできるように気を払っていたのだが、予想は的中といったところか。

 

「悪いけれど、セドリックを殺させる訳にはいかないわ」

 

杖を構えながらセドリックの傍へと近づく。正直言って私の為にも、セドリックには生きて戻ってもらいたい。私がホグワーツに戻ったとして、間違いなく今回のことで問い詰められる。課題中に選手が迷路内部からいなくなっているのだ。いくらなんでも気づいているだろう。となれば当然、何があったのかと聞かれることは間違いない。流石に嘘を言うわけにもいかないから、正直にヴォルデモートが復活したと言うしかないが、果たしてそれをどれだけの人が信じてくれるか。自慢ではないが、私は交友関係が広いとは決していえない。そんな私がヴォルデモート復活と言ったところで信じてもらえるとは思えない―――パドマたちなら信じてくれるだろうか?

その点、セドリックなら交友関係も広く人望もある。さらに父親が魔法省に勤めているから、そちらへも働きかけることが出来るかもしれない。それに短い期間ではあるけれど、セドリックとは結構親しくなっているので、見捨てることもできない。

 

―――あぁ、確かに。ヴォルデモートが言うとおり、私は親しくなった相手には甘いのかもしれない。

 

「―――まぁ、よかろう。そいつが生きようが死のうが関係はない。だが、これから始まることまで邪魔されては堪らんからな」

 

ヴォルデモートが手を振るうと、死喰い人二人が近づいてきて私とセドリックの横に立ち杖を構えた。余計なことをしたら殺す、ということか。

 

「ハリーよ、決闘のやり方は学んでいるな? まずお辞儀をするのだ。格式ある儀式は守らねばならん―――お辞儀をするのだ!」

 

ヴォルデモートが杖を振るって、ハリーを無理やりにお辞儀させる。それを見て、ヴォルデモートだけでなく死喰い人もハリーを嘲笑っていた。

 

「よろしい。今度は背筋を伸ばして向かい合うのだ―――さぁ、決闘だ!」

 

決闘の開始と同時にヴォルデモートは“磔の呪文”を唱えた。ハリーは何の防衛も出来ずに“磔の呪文”によって苦しみだす。

 

「苦しいか、ハリー。この程度まだまだ序の口だぞ? お前にはたっぷりと俺様の力を教えてやる。 クルーシオ! -苦しめ!」

 

ヴォルデモートが再度“磔の呪文”を放つも、今度は横に動くことで呪文を避け、墓石の裏へと身を隠した。

 

「ハリーよ、これは隠れんぼではないぞ? 由緒正しき決闘なのだ。お前は由緒ある戦いに泥を塗ろうというのか? お前の父親でもそのようなことはしなかったぞ。お前は父親にも劣る腰抜けか?」

 

ヴォルデモートの挑発とも取れる言葉に激昂したのか、ハリーは勢いよく墓石から飛び出してきた。

 

「エクスペリアームス! -武器よ去れ!」

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

ハリーは飛び出すと同時に“武装解除術”を放つが、ヴォルデモートは待ち受けていたように“死の呪文”で迎え撃った。二人の杖から伸びた赤と緑の閃光は中心でぶつかり、鬩ぎ合っている。だが、やはりというべきか。魔力も呪文の威力も劣るであろうハリーがヴォルデモートに押されている。このままでは確実にハリーは“死の呪文”に貫かれて死んでしまうだろう。

 

「……」

 

傍にいる死喰い人を見る。死喰い人はハリーとヴォルデモートの決闘に気を取られているのか、こちらには無警戒だ。不意を突けば倒せるだろう。

だが、その後どうするかだ。この死喰い人を倒しても、残りの死喰い人とヴォルデモートをどうするか。ヴォルデモートは決闘の邪魔をすれば間違いなく激昂して殺しにかかってくる。このまま手を出さなければ私とセドリックはホグワーツへと帰れるが、それではハリーが死んでしまう。かといって、手を出せば全滅の可能性が大だ。

 

私がハリーを助けるか、それとも静観しているかを考えていると異変が起きた。鬩ぎ合っていた二つの閃光に代わって金色の光が両者の杖を結んだ。金の光は杖を結びながら細い糸を放出して囲いを形成する。やがて、ハリーとヴォルデモートを覆う半球状のドームが出来上がった。

外からでは何が起きているのか分からないが、ドームの中にいる二人は何かを見て驚愕しているように見える。

 

数秒か、数分か。

金の光が生まれてから僅かな時間が経ったとき、突然光のドームが弾け飛んだ。その衝撃に近くを徘徊していた死喰い人は吹き飛ばされている。何人かは墓石に身体をぶつけて気を失ったようだ。ヴォルデモートには人の形をした金の光が纏わりついていて、振り払うように抵抗している。ハリーは、そんなヴォルデモートに目もくれずに、一直線にこちらへと走ってきた。

 

「アリス!」

 

ハリーが叫ぶと同時に行動を起こす。突然の展開に呆然としていた隣の死喰い人に“失神呪文”を放って気絶させる。急いで反対側にいる死喰い人へ呪文を放とうとするが、私が動いたことで正気に戻ったのか杖を向けてきていた。

 

「ステューピ―――」

 

呪文を唱えようとした死喰い人だが、それが放たれることはなかった。死喰い人の足元で気絶していたセドリックが消えたと同時に死喰い人の背後に現れて気絶させたからだ。

 

「セドリック! 起きていたの!?」

 

「あれだけ時間があれば流石にね! 起きるタイミングを見計らってた!」

 

セドリックに問いかけながらも、二人でハリーを攻撃している死喰い人の妨害をする。ヴォルデモートは未だに金の光を払えないようで、こちらには気づいていない。

 

「アクシオ! -優勝杯よ、来い!」

 

ハリーが私達の場所まで辿り着いたと同時に“呼び寄せ呪文”で移動キーである優勝杯を呼び寄せる。お互いに身体に触れているのを確認して優勝杯を掴む。

そして、お腹が引っ張られる感覚と共に私達はその場からいなくなった。

 

 

 

 

 

地面に足が着く感触と同時に歓声が聞こえてくる。顔を上げて周囲を確認すると、迷路の開始地点であるスタンドの中央へと戻ってきていた。スタンドに座っている生徒は誰もが興奮している様子で歓声を上げている。それに対して、審査員の席からはダンブルドア校長が急いで近づいてきていた。

 

「どうやら、無事に戻ってこれたみたいだね」

 

「そうみたいね」

 

セドリックの呟きに相槌を打つ。若干放心していた感じのセドリックは頭を軽く振るった後、地面に寝転がって荒く息を吐いているハリーに手を伸ばして起き上がるのを手伝い始めた。ハリーだけ着地に失敗したようだが、ヴォルデモートと魔法を撃ち合って逃げてきたのだから仕方ないだろう。

 

ダンブルドア校長に続いてファッジ魔法大臣やマクゴナガル先生、ムーディ先生たちが駆け寄り迷路で何があったのかと尋ねてくる。だが、ムーディ先生がハリーの怪我に気づいて医務室へ連れて行くべきだと提案し、私達をダンブルドア校長たちに任せてハリーを連れて城へと向かっていった。

 

私とセドリックは迷路での出来事を話すために城へと連れていかれた。同伴しているのはダンブルドア校長にマクゴナガル先生、スネイプ先生の三人だ。残りの先生や大臣を含めた魔法省関係者は生徒や来賓の対応に回るためにスタンドに残っている。

 

「校長先生、城に行く前に一つだけよろしいですか?」

 

私は周囲に人がいなくなったのを確認すると、ダンブルドア校長へと話しかけた。ムーディ先生がハリーを連れて行った以上は、早く行動する必要がある。

 

「どうしたのじゃ? アリス」

 

ダンブルドア校長へ話しかけたことで、マクゴナガル先生やスネイプ先生もこちらへと振り向く。セドリックはチラチラと城の方へ視線を向けながら落ち着きなくしている。

 

「迷路での経緯を話す前に、ムーディ先生の後を追う必要があります。それも一刻も早く」

 

「何故じゃ? ムーディ先生はハリーを医務室へと連れて行っておるのじゃぞ?」

 

「詳しくは後で話します―――ムーディ先生の正体は、姿を偽っている死喰い人です」

 

私がそう告げると、マクゴナガル先生が息を呑み、スネイプ先生は目を鋭く細めた。ダンブルドア校長は何も聞かずに一直線に城へと駆け出していく。それに続くように、私達はダンブルドア校長の後を追って走りだした。

 

城へと入り、医務室に向って廊下を駆ける。階段を登り、突き当たりにある医務室の扉を勢いよく開ける。だが、そこにはハリーやムーディ先生の姿はなかった。

 

「いない―――二人は一体何処に!?」

 

「部屋じゃ!」

 

マクゴナガル先生の焦る声にダンブルドア校長が声を荒げて反応する。医務室から離れ、階段を登り、ムーディ先生に割り当てられている部屋へと近づくと、部屋の中から言い争う声が聞こえてきた。

 

「ステューピファイ! -麻痺せよ!」

 

部屋の扉前に着くと同時に、ダンブルドア校長が“失神呪文”を部屋の中に向って放った。扉は赤い閃光に当たるとバキバキと音を立てて吹き飛んでいく。部屋の中を確認しないで呪文を放ったのでハリーに当たってしまうのではと思ったが、流石はダンブルドア校長とでも言うべきか、呪文は寸分の狂いなくムーディ先生へと突き刺さっていた。

 

「ポッター! 大丈夫ですか!?」

 

マクゴナガル先生は真っ先に部屋の壁に寄りかかるハリーへと近づき、ダンブルドア校長とスネイプ先生は気絶しているムーディ先生を掴み上げながら椅子へと拘束している。私とセドリックは一連の流れを見ながら、走って乱れた呼吸を落ち着かせている。

マクゴナガル先生がハリーを医務室へと連れて行こうとするが、ダンブルドア校長に止められてしまう。

 

「校長、いましたぞ」

 

スネイプ先生が部屋の隅に置かれた大きなトランクの前に立ちながらダンブルドア校長に声を掛けた。そのトランクは七段の作りになっており、全ての段は開け放たれている。そのうち一番上の段を覗き込むと、トランクよりも深い穴が広がっていた。穴の底には、酷く衰弱している様子のムーディ先生が倒れている。

 

「“失神呪文”じゃ。“服従の呪文”も掛けられておるな。非常に衰弱しておる―――セブルス、どうじゃ?」

 

「―――ポリジュース薬です」

 

スネイプ先生が、ムーディ先生が日頃口にしていた酒瓶の蓋を開いて中身を確認している。それを聞くと、ダンブルドア校長は杖を振り、穴の底で気を失っているムーディ先生に毛布を掛けさせる。

ダンブルドア校長は、マクゴナガル先生にウィンキー―――誰のことかは分からないが―――を連れてくるように、スネイプ先生には最も強力な真実薬を持ってくるように指示を出す。

 

「実に単純であり見事な手口じゃ。アラスターは専用の酒瓶からしか飲まないことで有名じゃ。それを上手く利用された。この偽者はポリジュース薬を作り続けるために、アラスターを拘束した上で手元に置いておく必要があった。完璧な成り代わりじゃ」

 

マクゴナガル先生が一匹の屋敷しもべ妖精を連れて戻ってきた。セドリックに聞くと、このウィンキーは、クラウチ氏の家に仕えていた屋敷しもべ妖精らしい。スネイプ先生も戻ってきて、その手には小さな小瓶が握られている。

そのとき、椅子に拘束されているムーディ先生がブルブルと震えだした。どうしたのかと見れば、身体が形を変え、膨張と収縮を繰り返しながら別の姿へと変化していっている。ポリジュース薬の効果が切れたのだろう。

 

「この者は!?」

 

マクゴナガル先生が変化したムーディ先生の偽者の姿を見て驚いている。ウィンキーはそれを見て泣き叫び、ハリーは目を見開いている。

 

「セブルス、真実薬を」

 

スネイプ先生が偽者に真実薬を飲み込ませると、ダンブルドアは杖を振るって偽者を起こした。

 

「バーティ・クラウチ・ジュニアじゃな?」

 

「―――そうだ」

 

ダンブルドア校長の問いにムーディ先生の偽者―――バーティ・クラウチ・ジュニアは素直に肯定する。これが真実薬の効果か。ヴォルデモートが信頼する死喰い人があっさりと白状するとは。

 

それからは、ダンブルドア校長の問いにクラウチ・ジュニアが淡々と答えていく時間が過ぎていった。マクゴナガル先生が連れてきた屋敷しもべ妖精のウィンキーは、監禁されていたクラウチ・ジュニアの世話係をしていたらしい。質問に答えるクラウチ・ジュニアに縋り付いては泣き喚いていることから、解雇されてもクラウチ家に忠実な屋敷しもべ妖精なのだろう。

 

死喰い人として父親に裁かれてアズカバンへ投獄されたのにどうやって抜け出したのか。今まで何処にどのようにして隠れていたのか。クィディッチ・ワールドカップでの一連の行動、ヴォルデモートによって監禁から開放されたこと、ムーディ先生に成り代わって暗躍したこと、父親を殺して隠蔽したこと、ハリーと私をヴォルデモートの下へ送った手段など。

洗いざらいのことを自白させられたにも関わらず、クラウチ・ジュニアは晴れやかな笑顔で、自分はご主人様より最大の栄誉を与えられるだろうと言い切った。

 

「―――ハリーだけならばまだしも、何故アリスをもヴォルデモートの下へ送ったのじゃ?」

 

「それは知らない。ご主人様はアリス・マーガトロイドを連れて来いとしか仰らなかった」

 

「ふむ」

 

ダンブルドア校長は手を長い髭に当てて考えるような仕草をした後、マクゴナガル先生とスネイプ先生に指示を出して、私とハリーとセドリックを校長室へと連れて行った。

 

 

校長室に入ると、まず目に入ったのは壁一面に飾られた肖像画だ。肖像画にはホグワーツの歴代校長が描かれていて、部屋へと入ってきた私達を堂々と見ているのもいれば、薄目を開けて見ているのもいる。

机の上に置かれている止まり木には紅と金の羽根をした美しい鳥が眠っていた。本で見たことしかないが、恐らくこの鳥が不死鳥なのだろう。

 

「ん?」

 

全員が部屋の中へ入ると、部屋の奥から一匹の大きな黒い犬が現れた。それを見たハリーは驚きダンブルドア校長、そしてセドリックを見る。セドリックはハリーが何を慌てているのか分からないようで、首を傾げている。

まぁハリーが慌てるのも分かる。何せ、あの犬は世間的には殺人者で通っているシリウス・ブラックが変身している姿なのだから。あの犬の正体を知らないのは、この部屋ではセドリックだけだろう。

 

「セドリックよ。話を聞く前に、お主に教えておかねばならぬことがある。同時に、このことは誰には明かさずに真実を知る者だけの秘密としてほしい」

 

ダンブルドア校長がそうセドリックに言うと、セドリックは誰にも喋らないと固く約束して応えた。セドリックの言葉を受けたダンブルドア校長は一度頷いてシリウス・ブラックを見る。その視線を受けたシリウス・ブラックは変身を解いて、元の人間の姿に戻った。その姿を見た途端に身構えたセドリックに、ハリーが簡単に事情を説明している。

 

「君とは凡そ一年振りとなるのかな?」

 

ハリーがセドリックを落ち着けている間にシリウス・ブラックが話しかけてくる。

 

「そうね。それと、去年はごめんなさい。仕方なかったとはいえ、貴方を見捨てるようなことになってしまって」

 

「構わないさ。スネイプもいたあの状況では、無理に事情を説明しても混乱していると思われてしまっただろうからな。ピーターの奴が逃げてしまった以上は私の無実を証明することは無理だっただろう」

 

それに結果的にはピンピンしているから問題ない。そう軽くおどけるシリウス・ブラックは去年とは随分と雰囲気が違って見えた。

その後は、セドリックも落ち着きを取り戻したことで、今夜何が起こったのかを説明することとなった。迷路内におけるクラウチ・ジュニアの暗躍から始まり、移動キーで辿り着いた墓場でピーターとヴォルデモートに遭遇したこと、ヴォルデモートが何らかの儀式によって復活したことやハリーの血を取り込むことで力を増したこと、死喰い人が現れヴォルデモートへ再びの忠誠を誓ったこと、ヴォルデモートが語った私の母親の正体や味方へ引き込もうとしたこと、ハリーとヴォルデモートの決闘、突如現れた金の光のこと。

 

ハリーとヴォルデモートの杖を繋いだ金の光については、ダンブルドア校長は“直前呪文―――呪文逆戻し効果”と言った。両者の杖に使われている芯は同じ不死鳥の尾羽が使われた兄弟杖であり、それが戦い合うと稀に起こる現象の一種らしい。外からでは見えなかったが、その現象によってヴォルデモートが過去に殺した者が木霊という存在として現れて、ハリーを助ける力となったようだ。ハリーの両親の木霊も現れたと聞いたシリウス・ブラックは俯き、顔に手を当てていた。

 

ちなみに、両者の杖に使われた尾羽は、部屋の中で止まり木に止まっている不死鳥―――フォークスの尾羽であるらしい。ハリーはフォークスの尾羽ということに驚いていたが、私はとある事を思い出していた。

二年生の学期末、本の虫を使って秘密の部屋を見ていた際に現れたフォークス。あれの正体がずっと謎だったのだが、今の話を聞いてようやく疑問が解けた。

 

 

「ハリーよ。今夜、君はわしの期待を遥かに超える勇気を示した。闇の時代に生きた魔法使いにも劣らぬ勇気でヴォルデモートと真正面から向かい合った。それはハリーだけではなく、アリスやセドリックも同じじゃ。君らは今夜起こった我々が知るべきことを全て話してくれた―――さて、三人とも。今日はもう休むといい。医務室へ向おう」

 

ダンブルドア校長が立ち上がるのに続いて私達も席を立つ。シリウス・ブラックは再び黒い犬へと変身してハリーの傍へと並ぶ。校長室を出て医務室へと向うと、段々と騒がしい声が聞こえてきた。医務室へ入ると、部屋の中にはモリーさん、ビル、ロン、ハーマイオニー、パドマ、アンソニー、チョウ、ディゴリー夫妻がいて、マダム・ポンフリーに何か問い詰めている様子だった。私達が部屋に入るのを全員が見ると、真っ先にモリーさんが駆けつけてきてハリーへと抱きついた。パドマとアンソニーも私へ駆け寄ってきたが、その前にダンブルドア校長が詰め寄る全員に静止をかけた。

 

「皆、すまないが質問をするのは待ってくれんかの。この三人は今夜、恐ろしい試練を潜り抜けてきた。三人に今必要なのは安らかに眠ることじゃ。無論、三人が皆にここにいて欲しいというならば構わないが、一切の質問はしないで欲しい」

 

ダンブルドア校長がそう伝えると、パドマとアンソニーは気遣うように話しかけてくる。

 

「アリス。私達は一旦戻るわね。アリスも疲れているだろうし、今日はゆっくり休んで。明日お昼頃にもう一度くるから」

 

パドマの言葉にありがたく思いお礼を言うと、二人は気にしないでと言って部屋を出て行った。隣を見ると、セドリックがチョウに今日は寮へ戻るように言っており、チョウは若干渋っていたものの最後には頷いていた。

パドマとアンソニー、チョウが出て行くのを見送って部屋に戻ると、三人を除いた全員が残っていた。その中にはロンとハーマイオニーも含まれている。

 

「では、わしはファッジと話をしてくる。三人とも、今日は寮へと戻らずここにいるように」

 

ダンブルドア校長が出て行き、私達は着替えてからベッドへと入って、マダム・ポンフリーから薬を貰う。それを飲むと瞬く間に眠気が襲ってきて、身体が相当疲労していたのか、眠気に誘われるままに眠りについた。

 

 

 

 

「ダンブルドアはいるか!?」

 

扉が勢いよく開かれたような音で目覚め、次に聞こえた声で意識が覚醒する。何事かと思い顔を動かすと、寝る前にはいなかった上海がすぐ横で寝ているのが視界に入った。よく見ると、上海だけでなくドールズ全員が私を囲むようにして眠っている。いや、蓬莱だけは起きているようで、武器を持っていないものの、浮かびながらカーテンの外を睨みつけていた。

 

「大臣、ここは病室です。少しお静かに―――」

 

「何の騒ぎじゃ?」

 

マダム・ポンフリーが騒がしく入ってきたファッジ大臣に注意しようとしたところで、戻ってきたのかダンブルドア校長の声が聞こえた。その音で起きてしまったのか、ドールズがのそりと身体を起こす。

 

「どうしたのじゃ? ファッジ。そんなに騒いでは寝ている者達に迷惑じゃろう」

 

「そのようなことを言っている場合ではない! ダンブルドアよ、クラウチが脱走した!隠し持っていた杖を使って逃げ出したのだ!」

 

蓬莱をカーテンの上まで上がらせて、覗き込むように視界を共有して様子を窺う。ファッジ大臣の言葉にダンブルドアは驚いている様子で目を見開いている。話を聞くと、スネイプ先生がファッジ大臣とその護衛として連れてきた吸魂鬼を伴って、クラウチ・ジュニアのいる部屋へと入った瞬間に事が起きたらしい。部屋に入った吸魂鬼はファッジ大臣の制止を無視してクラウチ・ジュニアへと襲い掛かったが、マクゴナガル先生が吸魂鬼に気を取られた一瞬で、隠し持っていた杖を使い吸魂鬼と三人を退けてそのまま逃亡。現在はマクゴナガル先生とスネイプ先生が追跡しているが、恐らくは無駄に終わるだろうということだ。

 

ファッジ大臣が話し終えると、ちょうどマクゴナガル先生とスネイプ先生が戻ってきた。すぐさまファッジ大臣が話を聞くが、半ば予想していた通り逃げられてしまったらしい。

 

「ファッジよ。クラウチが逃げたとあっては悠長にしていられる時間は多くない。あやつは自由な死喰い人の中でも、最もヴォルデモートに忠実な一人じゃ。ヴォルデモートはすぐに勢力の回復にかかるじゃろう。我々も、対抗するための措置を取らねばならん」

 

ヴォルデモートという言葉に過敏に反応しながらもファッジ大臣はダンブルドアへと言葉を返す。

 

「おいおい、ダンブルドア。その言い方では、例のあの人が復活したのだと……そういう風に聞こえるが? セブルスから聞いてはいたが……よもや、本気でクラウチの言うことを信じている訳ではあるまい?」

 

「間違いなく―――クラウチはヴォルデモートに命令されていたのじゃ。そして今夜、ヴォルデモートは復活を果たした」

 

ダンブルドア校長の断言するような言葉にファッジ大臣の表情が固まる。それは、今聞いた話が嘘であって欲しいといわんばかりのものだ。

 

「馬鹿馬鹿しい。クラウチは例のあの人に命令されていたと思い込んでいただけだ。奴が狂っているのは誰もが知っている」

 

「真実薬を使ってクラウチに自白させたのじゃ。疑いようもない。加えて、ヴォルデモートが復活した場には三人の目撃者がおる。三人は、今夜何があったかをわしに話してくれた。わしの部屋に来てくだされば、一部始終をお話いたしますぞ」

 

そこからは、ヴォルデモートの復活が確かだと言うダンブルドア校長と、全てはクラウチ・ジュニアの狂言と妄信でしかないと言うファッジ大臣とで意見が分かれた。話は平行線で、私達の証言やスネイプ先生の左腕に刻まれている闇の印―――スネイプ先生はかつて死喰い人だったということか? ―――を見せたにも関わらずファッジ大臣は信じようとしなかった。話の途中でハリーがファッジ大臣に墓場で見た死喰い人の名前を言うも、その全ては過去に公となった者の名前を羅列しているだけだと切って捨てた。

 

「大臣、ハリーやダンブルドア校長が言っていることは全て本当です」

 

会話が僅かに途切れたところで、私の向かい側のベッドで寝ていたセドリックが声を発した。ベッドから降りて毅然とした立ち振る舞いでファッジ大臣と向かい合っている。

 

「―――ファッジ大臣。私からも言わせていただきます。今回の一連の話は全て本当のことです」

 

起きていて、ハリーとセドリックが立ち上がったのに一人だけ高みの見物をしているのも憚れるので、カーテンを開けて会話に加わる。何人かの人は私たちが起きていたことに驚いている様子だ。

だが、私たちが加わってもファッジ大臣は考えを変えずに頑なに否定した。終いには、私達全員が狂っている、魔法省が十三年間築いたものを覆し大混乱を引き起こそうとしていると言った。ダンブルドア校長は最後通牒とでも言うかのように、ファッジ大臣が行うべき必要な措置を進言したが、それも受け入れられることはなかった。

 

最終的には、ファッジ大臣―――いや、魔法省はダンブルドア校長と袂を分かつこととなり、ファッジ大臣は最後にダンブルドア校長へ忠告をした後、対抗試合の賞金を置いて出て行った。

 

 

「やることがある」

 

少しの沈黙の後、ダンブルドア校長が残った者に振り向いて口を開く。

 

「モリー、あなたとアーサーは頼りに出来ると考えてもよいか?」

 

「勿論ですわ」

 

「エイモス、あなた方も頼りにしてもよろしいか?」

 

「勿論だとも。何かとファッジに警戒されるだろうが、出来る限りのことは協力させてもらう」

 

「助かる。魔法省内部で真実を知り、先を見通せる者と接触するには君とアーサーが格好の位置にいる。まずは、アーサーに伝言を送らねばならぬな」

 

「僕が父のところにいきます」

 

ビルがダンブルドア校長に申し出て、幾つかの伝言を受けると部屋を出て行く。ディゴリー夫妻もビルに続くように部屋を出て行った。

ダンブルドア校長は、マクゴナガル先生にハグリッドとマダム・マクシームを校長室へ連れてくるようにと伝え、マダム・ポンフリーにはウィンキーの介抱を頼んだ。

 

二人が出ていくのを見届けてから、ダンブルドア校長はシリウス・ブラックに元の姿に戻るように言う。人間の姿になったシリウス・ブラックを見てモリーさんやスネイプ先生が騒ぎ出す。特にスネイプ先生は憎しみの形相でシリウス・ブラックを見ているが、ダンブルドア校長の仲介によって二人は握手を交わした。しぶしぶ……仕方なく……一時的に……この瞬間だけはという感情が滲み出ていたが。

 

その後、ダンブルドア校長から指示を得たシリウス・ブラックとスネイプ先生は部屋を出て行き、ダンブルドア校長もやることがあると言っていなくなった。残った私達は、二言三言話してから薬を飲んで、再びベッドで眠りについた。

 

 

 

 

学期末パーティーまでの一ヶ月間は何かと憂鬱に感じる時間だった。

翌日の昼に医務室を出た私は真っ先にパドマとアンソニーに捕まり、迷路で何があったのかを聞かれた。ムーディ先生の正体は成り代わった死喰い人であったこと、その死喰い人によってヴォルデモートの下へ連れて行かれたこと、ヴォルデモートが復活したこと、勧誘されたこと、ダンブルドア校長とファッジ魔法大臣が袂を分かったことなどを話した二人の反応は、恐怖と困惑が入り混じっているようだった。特にヴォルデモートが復活したということについては、酷くショックを受けていたようだ。勧誘についてはショックというより困惑といった感じだったが、理由である血筋については私自身確証を得ていないので、今は曖昧にだけ伝えておいた。

 

とはいえ、正直荒唐無稽な話だと思うので、私の言った話を信じるのかと尋ねたが、二人は信じたくはないけれど、私が嘘を言っているようには見えないと言って信じてくれた。

 

 

他にあったのは、一週間が経過した頃にダンブルドア校長に話があると呼ばれたことか。校長室で話したことは予想通りと言うべきか、ヴォルデモートが語った私のお母さんについてだ。とはいえ、お母さんが魔女であったというのはヴォルデモートに言われたことで初めて知ったことなので、これといって話せることもなかったのだが。

一旦話が途切れたのでベルンカステル家について尋ねたが、ダンブルドア校長も詳しくは知らないらしい。だが、お母さん―――シンキ・ベルンカステルという魔女が実在したことは確かなようだ。ヴォルデモートが語った、奇跡とも思える魔法の使い手ということが書かれた文献があることも確かだと言った。今は失われたが、ゴドリック・グリフィンドールの手記にも同様のことが書かれていて、ダンブルドア校長はそれを読んだことがあるらしい。

 

ヴォルデモートの誘いを断った理由についても尋ねられたが、これについてはあのとき思ったことをそのまま伝えた。勿論、ヴワルに関することは伏せてだが。

その後、ダンブルドア校長に提案されたことには驚いた。ダンブルドア校長は、かつて闇の時代に結成した反ヴォルデモート組織“不死鳥の騎士団”を再び集めると言い、それに私も加わって欲しいと言ったのだ。理由を尋ねたが、ヴォルデモートが狙っている者を目の届かないところで放置するより、手元に置いておいたほうが守りやすく対処もし易いからとのことだ。加えて、ベルンカステルの血は光の陣営にも闇の陣営にも無視することはできない存在である、ということもあるらしい。

―――簡単に言ってしまえば、危険な爆弾は相手に渡すよりも自分で管理していた方が良い、ということだ。

 

遠慮というものが取れたダンブルドア校長の言葉に驚いていたが、そんな私を見てダンブルドア校長は「下手に隠し通すより、包み隠さずに明かした方が君と話す上で一番だと判断したのじゃが」と言った。

ちなみに、ヴォルデモートにも言ったような質問もぶつけてみた。味方したと思わせて、ヴォルデモートに寝返るかもしれないと。それに対するダンブルドア校長の言葉はヴォルデモートの言った言葉と同じものだった。ダンブルドア校長もそれを分かっていて言っているのか、理由が同じならどれだけの利益を与えられるかが分かれ目と言った。私の望みはこちら側に付いた方が叶いやすい、それは私もそう思っているはずだという言葉も付け加えて。

 

―――本当に、包み隠さないようになっていた。

そこまで多くを話したわけではないが、ダンブルドア校長は相手に本心や考えを全ては教えないタイプだと思っていたのだが。

 

結果としては、私は不死鳥の騎士団に参加することとなった。私の参加に反対する者もいるだろうが、それはダンブルドア校長の方から説得しておくとのことだ。

拠点が決まり、落ち着いた頃を見計らって迎えに向かうと言ってきたが、私としては休みの間はヴワルから離れたくないので、どうしようかと悩んでいた。ダンブルドア校長にもそれが伝わったのか理由も聞かれるも、正直に答えるわけにもいかないので、ある程度はぐらかして伝えた。あまり情報は漏らしたくはなかったが、騎士団に参加する上で拠点を離れるからには、ある程度の情報漏洩はやむを得ないだろう。

 

伝えたのは、知り合いから譲り受けた住処があること、普段の生活などはそこでしていること、住処と同時に譲り受けた魔法書や実験器具があるので勉強をする上では欠かせないこと、その住処には“忠誠の術”が掛かっている―――守人が誰かは教えていない―――ので見つかることはないこと。

 

ダンブルドア校長はこの件について少し追及してきたが、私としてもこれ以上は譲れないので教えはしなかった―――特に譲り受けた知り合いについて―――。最終的に、拠点を離れる際には騎士団のメンバーにそのことを伝えること、三日以内に帰ってくることを条件に認めさせた。移動についてはフルーパウダーを使ってダイアゴン横丁まで飛び、そこから向かう方法を取った。煙突飛行ネットワークは魔法省に監視されているが、直接ヴワルに飛ぶわけではないので問題はない。唯一、ヴワルへの行き来の最中にヴォルデモート側に見つかってしまう可能性だが、透明マントや隠蔽の魔法具を使うことで回避する。

 

最後に、ハリーを騎士団の拠点で匿うことになるが、ハリーを含めて学生の者は騎士団の活動には参加させないので、何かを聞かれても秘密にしておくように言い含められた。

監視するにしても何故私だけを騎士団のメンバーに加えるのかと尋ねたところ、私が並みの魔法使いよりも強いだろうということと、マグル出身故の魔法界特有の固定観念に縛られない考えや感情に流されない冷静さを持っているかららしい。本当かどうかは知らないが、ヴォルデモートにしてもダンブルドア校長にしても随分と高く評価してくれるものだ。

 

 

 

学期末パーティーでは、執り行えなかった対抗試合の授賞式が行われた。とはいえ、正式なものではなく学校主催として開かれたものであったが。

優勝者は私とハリー、セドリックの三人が同立一位ということとなった。優勝杯は三人がホグワーツの生徒であるため学校に飾られることとなり、優勝賞金については全員がいらないと言ったことで一時保留となったが、ハリーからフレッドとジョージの二人がバグマン氏との賭けで悲惨な目に遭い、全財産を失ったことを聞くと満場一致で二人に賞金を譲ることに決まった。これから皆に必要なのは笑いであり、あの二人が作る悪戯道具がそれにきっと役立つと言ったハリーの言葉に同調したということもある。魔法省の役人が起こした損害に、魔法省からの賞金を当てても構いはしないだろう。

 

授賞式が終わると、ダンブルドア校長からヴォルデモートが復活したことが告げられた。生徒はその言葉を聞いて騒然としていたが、続くダンブルドア校長の言葉に再び静まり返る。ダンブルドア校長がヴォルデモート復活を話すことで、私達三人の名前も上がり一気に視線が集中するのを感じた。

最後に、ホグワーツ生のみならずボーバトン生やダームストラング生に結束を呼びかけて、訪れるだろう困難な時代を皆で乗り越えようという言葉で締めくくられた。

 

翌日、パドマとアンソニーと一緒に玄関ホールから出るとフラーとクラムの二人を見かけたので、二人には先に行っていてもらい二人へと近寄っていく。二人と軽く挨拶して話しているとセドリックもやってきて、話へ加わった。

少しの間言葉を交わしてから別れを告げると、フラーとクラムはハリーを探しに人ごみに紛れていき、セドリックはチョウの下へと戻っていった。

 

パドマとアンソニーと合流して馬車からホグワーツ特急へと向かい、空いているコンパートメントを占領してからは、ロンドンへ到着するまで三人で雑談に興じた。

 

 




【ピーター・ペティグリュー】
こいつって、マゾじゃね?

【死喰い人】
ヴォルデモートがジャイアンなら、スネ夫ポジションの奴ら

【アリス】
迷惑な奴に高く評価されてます

【セドリック】
いつから気がついていたのかな?

【明かされる真実】
名探偵ヴォルデモート
毎週夜七時からSチャンネルで放送中

【半純血】
才能溢れるアリスが―――本当にマグル生まれだと思っていたのかい?

【ベルンカステル】
あひゃひゃひゃ! な魔女とは一切の関係はありません
強いて言えば、初代ベルンカステル当主がフレデリカという名前であった位の薄い関係です

ベルンカステルって、語呂がいいし強そうな名前ですよね

【アリス・マーガトロイド・ベルンカステル】
アリスの本名
千年も前に滅んだベルンカステル家の末裔
半純血ながらも、ヴォルデモートにスリザリンと同等かそれ以上と言わしめる
まぁ、ヴォルヴォルも半純血だしね

【シンキ・ベルンカステル】
”不老不死の魔女”にして”奇跡の魔女”
その力はゴドリック・Gやサラザール・Sをして奇跡の使い手を言わしめるほどの力を持つ
どのような力を持っていたかを知る者は、現代には存在しない

創設者の肖像画でもあればね~

【シンキママ】
恋に落ちて魔法との縁を断った女性
昔は知らないが、アリスの知るシンキママは子供よりも子供っぽい人

恋はどのような人をも変える力を持つらしい

【ヴォルデモートとのお話】
意外と普通に会話をしているアリスとヴォルヴォル
とはいえ、アリスが欲しいヴォルが何かと穏便に済ませていることも確か

【ありえないということは、ありえない】 -追記-
どこかの強欲さんの名台詞
少しだけ言い方を変えた

【時間だ! 答えを聞こう!】
だが、断る!

【お辞儀をするのだ!】
アスキーアートは神

【セドリック生存ルート】
運命とは、抗うために存在するのだよ

【武装解除術VS死の呪文】
普通に考えたら鬩ぎ合うことなく、ハリーが負けると思うんだよね

【金の光】
主人公補正

【縄抜けセドリック】
姿くらまし&姿現しのコンボ
いい男は遅れてやってくるを実践してくれた

【扉越し失神呪文】
……心眼持ち?

【バーティ・クラウチ・ジュニア】
ハチ公にも劣らぬ忠犬

【添い寝ドールズ】
就寝中に堂々と扉を開けてやってきた
蓬莱の貫禄に惚れる

【クラウチ・ジュニア脱走】
セドリック生存ルートがあるんだ
ジュニア生存ルートがあっても不思議ではあるまい

【頭の固いファッジ】
まるで政治家みたいだな……あっ、政治家か

【知らず折れる、ハリーの恋】
セドリックが存命しているのだ
当然、チョウとかいう女の心変わりなんてないさ

【ダンブルドアとのお話】
ダンブルドアが遠慮を止めました
そして、それはアリスと接する上で正しい方法

パチュリーがアリスに対して遠慮なんてしていたかね?
その影響だよ

【騎士団への参戦】
死亡フラグにならないことを祈るばかりである
ハリーからの妬みが酷いんだろうなぁ

【賞金】
跪いて口で拾え

【】
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