魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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神ィ!?

わ―――私はッ! 仰せの通りにぃ!?


>追伸
前話を若干修正しました。
報告遅延申し訳ありません。


グリモールド・プレイス十二番地

「―――よし」

 

トランクの中身を再度確認し終わり蓋を閉める。中には生活必需品や学校の教材を含めて必要なものを詰め込んである。本来なら、そこまで大きくない一つのトランクに沢山の物を収納することはできないが、このトランクには“検知不可能拡大呪文”の呪文が掛けられているので、外見とは裏腹に内部空間は相当な広さをもっている。

 

ここまで大掛かりな荷物を持っていくのは、残りの夏休み中にヴワルへと戻ってくる暇はないだろうと予想してのことだ。ダンブルドアに本部にいる間もヴワルへ戻る許可を貰ったが、実際にはそう簡単に戻れるとは思っていない。いくらダンブルドアが認めても、周りの人が反対することは目に見えている。だから、戻ってこれなくても問題ないように、必要なものを持ち出しているという訳だ。

 

「みんな、そろそろ行くわよ」

 

ベッドの上で何やら駄弁っていた七人(・・)のドールズへと呼びかける。フヨフヨと飛んでくるドールズの中には、この夏で新たに加わった人形の姿がある。

名前は“オルレアン”。他のドールズ同様に洋服を着ているが、唯一異なる部分がある。それは服の各部に甲冑のようなものが付けられていることだ。甲冑といってもフルプレートメイルのような全身甲冑ではなく、間接部などを覆う程度のもの。持たせている武器はハルバートで、甲冑含めて“盾の呪文”が施されている。まぁ、持たせているといっても、普段から持ち歩かせているわけではないが。

 

上海、蓬莱、露西亜、京、倫敦、仏蘭西、オルレアン。計画していた七人のドールズ全てが生まれたことで、魔法を知った日に抱いた夢は叶ってしまった。

魂を持ち、自立行動する人形を生み出す。あの頃は、在学中に達成することなんて出来ないだろうと思っていたが、四年という短い時間で達成できたのはパチュリーの助力があればこそだろう。二年になる前の夏休み、あの日にパチュリーと出会っていなければ今の私は存在していないと言っても間違いではないと思う。今更だが、パチュリーにはいくら感謝してもしきれない。

 

最も、予想よりも早くに夢を叶えることが出来たので、これから先何を夢見ていこうかと絶賛考え中であるのが悩みの種だ。まぁ、このご時勢だから碌な夢は叶えるのも一苦労だと思うので、とりあえずは無事に生き延びて平和な日常を手に入れるぐらいを目標にしているのが現状である。

 

 

 

 

「そろそろかしら?」

 

現在いる場所はダイアゴン横丁の大通りから少し外れた横道。ここでダンブルドアと合流して“付き添い姿現し”で騎士団の本部へと向かうことになっている。人目につかないよう透明マントを使って姿を消し、この道を通るダンブルドアの手を掴んだ瞬間に移動するというのが、事前に打ち合わせておいた計画だ。

 

凡そ一分後。微かに聞こえた足音に視線を道の奥へと向ける。すると、脇道奥の曲がり角からダンブルドアが現れた。ダンブルドアは周囲を見渡すことなく真っ直ぐと歩いており、歩みに釣られるようにして両手がゆっくりと振られている。その歩みは緩やかで、まるで何かの式典で壇上に向かって歩く者のようだ。

ダンブルドアが近づいてくるのを音を立てずに待ち、目の前を通るときを狙って左手へと触れる。その瞬間、“姿現し”特有のお腹が引っ張られる感覚と景色が高速で回るのを感じ、次の瞬間にはダイアゴン横丁とは異なる狭い道路の影に立っていた。

 

「久しぶりじゃな、アリス。夏休みは楽しめたかの?」

 

「えぇ、それなりに充実した日を送れましたよ」

 

「それは重畳じゃ。さて、あまり長話も出来ないのでな。向かうとしよう」

 

そう言って、歩き出したダンブルドアの後ろをついていく。目的地はそこまで離れた場所ではなく、二十メートル程歩いたところで足を止めた。

 

「アリスよ。これを読み、内容を覚えたらわしに渡すのじゃ」

 

ダンブルドアが手渡してきた羊皮紙の切れ端を受け取り、手の中で広げて中身を確認する。羊皮紙には“不死鳥の騎士団の本部は、ロンドン、グリモールド・プレイス十二番地に存在する”と書かれていた。二度読み直し羊皮紙をダンブルドアへと渡すと、ダンブルドアは羊皮紙に火をつけて完全に燃え散るまで羊皮紙を見つめた。

羊皮紙が燃え散るのを確認するとダンブルドアは前に出て、正面に建っている二軒の家の間に立った。羊皮紙の内容を読んだ時点で、これ一連の行動がどういったものであるかを理解した私もダンブルドアの横に立ち、先ほどの羊皮紙の内容を頭に浮かべる。すると、正面の家、恐らくグリモールド・プレイス十一番地と十三番地に建つ家が左右へと移動していき、新たに出来た空間に年季のはいった黒塗りの家が現れた。

 

「忠誠の術ですか。守人はダンブルドア先生ですか?」

 

「アリスはこの魔法については知っているのじゃったな。左様、わしがこのグリモールド・プレイス十二番地―――不死鳥の騎士団本部の守人じゃ」

 

話しながら敷地内に入り、扉の前へと進んでいく。ダンブルドアが扉を杖で叩くと鍵が外れるような音が数回響いた。ダンブルドアが扉を開けて中に入り、私も続いて入っていく。家の中は真っ暗だったがすぐに明かりが点いたので、目だけで内装を見渡していく。所々剥がれかけた壁紙の張られた壁には旧式のガスランプが一定間隔で取り付けられており、その明かりが天井に無数に張られている蜘蛛の巣を照らしている。一つだけあるシャンデリアにも蜘蛛の巣が張られており、巣の中にいる五センチ程の蜘蛛が明かりを避けるように巣の端に移動しているのが見えた。壁に掛けられた肖像画は黒ずみ、手入れが一切されていないことが窺える。肖像画の裏側から聞こえるゴソゴソという音は無視した。床に敷かれたカーペットもボロボロで大部分が擦り切れ磨耗しているので、歩くたびに固い床板の音が響いている。それに、見渡す限りの家具には全て蛇の形をしているのが見えた。

 

「この家の持ち主は熱心なスリザリン信者か何かですか?」

 

ここまで蛇を取り入れている家ともなると、スリザリン信者かそれに縁のある者の家であるのは間違いないと思う。案の定、ダンブルドアから返ってきた答えは予想通りのものだった。

 

「確かに、この家に代々住んでいた者はスリザリンの思想に強く傾倒しておった。この家から出た魔法使いや魔女はほぼ全てが闇の魔法使いや魔女として有名な者ばかりじゃ。じゃが、現在のこの家の持ち主に限ってはそうではない」

 

闇の魔法使いを多く輩出したということは、ヴォルデモートの陣営にもこの家出身の魔法使いや魔女がいる可能性もあるということか。だが、現在の持ち主は違うというのは?

 

「先生、現在の持ち主というのは?」

 

「―――私だよ」

 

私の言葉に答えたのはダンブルドアではなく、階段の上から下りてきた男性―――シリウス・ブラックだった。

 

「久しぶりだね」

 

「お久しぶりです、ブラックさん」

 

「ブラックさん(・・)は止めてくれ。背中がゾワゾワする。それに、ブラックの名は好きじゃないんだ」

 

「なら……シリウスと。この家の持ち主がシリウスということは、ここはブラック家の家ということですか?」

 

「その通りさ。最も、見ての通り今やボロ家屋だけどね」

 

なるほど、ブラック家の家というならダンブルドアの言葉も納得できる。ブラック家といえば純血の一族では多くの闇の魔法使いを輩出してきた家として有名だからだ。それにシリウスは純血主義を嫌っているようだし、だからこそ騎士団の本部としてこの家を提供しているのだろう。まぁ、ブラック家の名が出たときの嫌悪感丸出しの顔を見るに純血主義というよりブラック家そのものを嫌っているのかもしれないが。

 

「アリス!」

 

「ハーマイオニー、それにロンも久しぶり」

 

階段を駆け下りてくるハーマイオニーと、それに引きずられるようにして下りてくるロンに声を掛ける。

 

「あぁ、久しぶり」

 

ロンの声に元気がないが、やってきた状況からしてハーマイオニーに引っ張られてきたのが原因だろうか。

 

「久しぶり、アリス。夏休みはどう? 元気だった? 何か変わったことはなかった?」

 

「それなりね、いつも通りに過ごしていたわ。特に大きく変わったことも―――ドールズが一体増えたわね」

 

矢継ぎ早にハーマイオニーが質問してくるが、とりあえずその全てに答えておく。ハーマイオニーの早口には大分慣れたので、このぐらいは余裕だ。

ドールズが増えたということでハーマイオニーが興味深そうに聞いてきそうだったが、その寸前にダンブルドアが声を挟んだ。

 

「三人とも、久々の再会で積もる話があるのも分かるが、一先ずは後にしてくれんかの。これからすぐに会議があるのでな。二人とも部屋に戻っていなさい」

 

ダンブルドアが言う会議とは、当然騎士団のことに対するものだろう。ハーマイオニーたちが会議に参加しないということは、騎士団のメンバーには入っていないということか。

―――一悶着ありそうだなぁ。

 

「アリス、行きましょう。この家のこと案内してあげるわ」

 

ハーマイオニーが私の手を取ろうとするが、その前にダンブルドアがそれを遮った。

 

「すまないが、ハーマイオニー。アリスには一緒に会議に出てもらわなければならぬのじゃ」

 

ダンブルドアがそう言うと、ハーマイオニーとロンは見て分かるほどに驚いた顔をしている。

 

「えっ!? でも、ダンブルドア先生。アリスは私達と同じ未成年です。先生は以前、私達未成年は騎士団の活動に参加できないと仰られていました」

 

「確かにその通りじゃ。君達は優秀な生徒ではあるが年若い。闇の魔術に最低限抵抗できるだけの経験がない。であれば、非常に危険が付きまとう騎士団には加えることは出来ぬのじゃ。無論、アリスも同世代の者よりも経験があるとはいえ未熟であることに変わりはない。しかし、アリスの抱える事情を考慮すれば騎士団に加えるほうが安全を確保できるのじゃ」

 

ダンブルドアの言葉にハーマイオニーは納得できていないようだ。まぁ、同世代の私が騎士団に参加できてハーマイオニー達が参加できないというのは不満を抱えるのも当然だろう。

 

「アリスの抱える事情って何なんですか? 友達が危険な事情を抱えているなら、私達も力になりたいんです!」

 

ダンブルドアが一瞬私に視線を送ってきた。多分、話しても構わないかということだろうから頷いておく。

 

「君達は既に知っているじゃろうから伝えるが、他の者には決して他言してはならぬぞ。アリスの母親のことは聞いておるな。その血筋は魔法界にとって大きな意味を持っておる。そして、その血を引くアリスを取り込もうとヴォルデモートが暗躍しておる。奴にとってアリスの血は是が非でも手に入れたいものなのじゃ。故に、わしはアリスをより近い場所で保護することにしたのじゃ。無論、君達は不満を覚えるじゃろうが、アリスの安全の為にも納得してもらいたい」

 

ダンブルドアがそう二人に頼むと、流石のハーマイオニーも口を閉じた。

というより、言い含め方があれだ。友達が心配なハーマイオニーに対して、その友達を守るためと言って引かせるとは。何というか、相手の急所を狙っている。さらに直接頼むと言うことで反論し辛くもしている―――深く読みすぎかな?

 

ハーマイオニーが未だに不満顔のロンを連れて上へと向かうのを見送ると、シリウスが先に廊下奥の部屋に向かい扉を開けた。その途端、部屋の中から何人かが話し合う声が聞こえる。シリウスが入ったことで部屋の中の人は話を中断してこちらへと顔を向けてきた。私もダンブルドアに続いて部屋の中へと入っていく。部屋の中には見知った顔もあれば、初めて見る顔も幾つかあった。ルーピン先生―――もう先生と呼ぶのはおかしいか―――、スネイプ先生、ムーディ、ウィーズリー夫妻にビル、黒人の男性、酔っ払っている男性、紫色の髪をした女性がテーブルを囲うようにして座っていた。そして、その全員は私が部屋に入るのを驚いたような顔で眺めている。ダンブルドアは話を通していないのだろうか。

 

「皆、待たせたの。早速ですまないがわしの話を聞いてほしい。あぁ、アリスよ。好きな席に座りなさい」

 

「ダンブルドア、本当にこの子を騎士団に加えるおつもりですか?」

 

そう言ったのは黒人の男性だ。彼は私を見ながらもダンブルドアを同時に見て話している。

 

「そうだとも、キングズリー。騎士団を結成する際にも言ったが、アリスには騎士団へと参加をしてもらう。勿論、学生である以上は任務などに就くことはないが、騎士団が持ちえる情報などは聞かせることとなる」

 

それを聞いて、キングズリーと呼ばれた男性は渋い顔をした。そして、ダンブルドアが言い終えると同時にモリーさんが抗議の声を出した。

 

「この子はまだ十五歳なんですよ! 騎士団に参加させるには若すぎます!」

 

そこからは抗議するモリーさんと説得するダンブルドアとの話し合いが続いた。途中、ウィーズリーさんやルーピンにモリーさんが同意を求めていたが、他の人はダンブルドアの考えに従うということで、最後にはモリーさんが折れることとなった。モリーさんは最低限の条件として、騎士団で得た情報は騎士団以外の者には決して漏らさないこと、直接的な活動には参加しないこと言い、話が進まないので頷いておく。最も、その程度は予想していたことでもある。情報の秘匿はダンブルドアに言われていたことでもあるし、学生の身で騎士団の活動を行えるとは思っていない。

―――実際問題、私が騎士団に入る意味があるとは思えない気がするが。

 

その後、ダンブルドアは用事があるということで部屋を出て行った。残った人たち未だ戸惑っているのか何も喋らないし、何人かは私をチラチラと見ている。そんな中、ムーディが杖を床に一突きしてから口を開いた。

 

「何をやっとるか。マーガトロイドが参加することになった以上、必要な情報を話してやれ。我々には悠長にしていられる時間はないのだぞ」

 

「そうは言いますがねアラスター、私はまだ納得した訳ではないんですよ」

 

「ならば、今からまたダンブルドアに抗議をしてくるか?」

 

ムーディが睨みをきかせながら言うと、モリーさんは口を噤んで押し黙った。ムーディの魔法の目がギョロギョロと動き、私に視線を合わす。

 

「ダンブルドアからはお前が中々に出来る魔女だと聞いている。最初に聞いておくが“閉心術”は使えるのか?」

 

「えぇ、出来ますよ」

 

ムーディの問いに答えると、ムーディとスネイプ先生の除いた人が目を見開いたのが見えた。この二人は表情筋が固まっているのだろうか。

 

「え、でも、貴女はまだ五年生よね。本当に“閉心術”が使えるの?」

 

「本当ですよ。嘘を言っても意味ありませんし」

 

紫髪の魔女の疑問に答える。本当は一年以上前から使えるのだが、態々それを言う必要もないだろう。

 

「ふむ、ならばテストをしよう。セブルス、マーガトロイドに“開心術”を掛けろ」

 

ムーディが魔法の目で私を、普通の目でスネイプ先生を見ながら言う。

 

「……よかろう。マーガトロイド、そこに立ちたまえ」

 

スネイプ先生に指示されたとおりに先生の正面に立つ。スネイプ先生が杖を取り出し構えるのを見て、私も心を閉じ、覗かれないよう集中する。スネイプ先生の“開心術”がどれ程のものかは分からないが、この場で任せられるあたり高い開心術師である可能性は高い。念のため、パチュリーを相手にする時と同じレベルで“閉心術”を使う。

 

「レジリメンス! ―――開心!」

 

スネイプ先生が“開心術”を使うと同時に、私の中に何かがスルリと入ってくる感覚がやってくる。それは僅かな隙間を見つけてはすり抜けるように入ってくる。思った以上にスネイプ先生の“開心術”が強い。“閉心術”で構築した壁と呼べるような心の防壁をスルスルと突破してくる。既に三分の一程が突破された。

少しでも気を抜くと一気に突破されそうだが、さらに強く“閉心術”を構築することでようやく防ぎきることに成功する。確かにスネイプ先生の“開心術”は強力だったが、正直に言ってしまうとパチュリーの“開心術”には劣っているようだ。スネイプ先生が本気でない可能性もあるが、半分も突破されないで防げたことから完全に“開心術”を掛けられることはないだろう。

パチュリーの“開心術”は防ぐ間もなく心を覗かれてしまうレベルなので、少しでも防げるように研鑽を積んできた賜物だ。今の私の“閉心術”ならパチュリーの“開心術”でも―――駄目だ、防げる様子が全く思い浮かばない。

 

「どうだ? セブルス」

 

「ふむ……問題なかろう。我輩の“開心術”を完璧に防ぎきった。恐らく、闇の帝王ですらそう易々と破ることは出来まい」

 

スネイプ先生の評価に、今度こそ部屋にいる全員が驚きの声を上げた。ムーディですら目を大きく見開き、魔法の目はその動きを止めている。

 

「セブルス、それは本当なのかい?」

 

「左様。少なくとも、我輩は本気で“開心術”を掛けた。我輩の“開心術”がどの程度のものかは、君もよく知っていると思うが?」

 

ルーピンの問いに、スネイプ先生は落ち着き払って答える。スネイプ先生の言葉が真実ならば、先ほどの“開心術”は本気のものだということだ。スネイプ先生と周りの反応から察するに、スネイプ先生の開心術師としての力量はかなりのものなのだろう。それを十五歳の魔女が防ぎきったというのだから、驚くのも当然なのだろうか。

 

「なるほど、それならば聞かせても問題はあるまい。キングズリー、話してやれ」

 

ムーディの言葉を受けてキングズリーが現在の情勢や状況を話してくれた。途中、スネイプ先生は用事があるということで退出していき、モリーさんは夕食の準備に取り掛かった。

ある程度の情報を聞き終えると、遅れながら自己紹介を行った。闇祓いのキングズリー・シャックルボルト、“七変化”のニンファドーラ・トンクス―――ニンファドーラの名前が好きじゃないということでトンクスと呼ぶように言われた―――、ならず者に詳しいならず者のマンダンガス・フレッチャー。この場にいないメンバーでマクゴナガル先生やハグリッド、ディゴリー夫妻も騎士団のメンバーであるらしい。

 

「さて、最後にハリーの護送についてだ」

 

話が落ち着いたところで、ウィーズリーさんがそう話を切り出した。

 

「移動手段は箒でいいとして、誰が護衛に就くかだが」

 

「アラスターは必要だろう。それとキングズリーにリーマス。あとは―――」

 

「私も行くわ」

 

「では、トンクスもだな。シリウス、そう怖い顔をするな。君がハリーの傍にいたいと思っているのは知っているが、ダンブルドアの指示なんだ」

 

「……あぁ、わかってるさ」

 

「では、固定メンバーはこの四人で、残りはその時に動ける者で対応しよう。マンダンガス、今週は君がハリーの見張り役だったな。しっかり頼むぞ」

 

「わかってるよぅ」

 

各々の役割が決まったのを最後に会議は終了となった。私は夕食の前に荷物を部屋へと持っていくために、シリウスの案内で階段を上がっていく。シリウスは三つ目の踊り場の左側の扉の前で立ち止まった。

 

「ここだ。安全が確認できている部屋の数が少なくてね。ハーマイオニーとジニーとの相部屋になってしまうが我慢してくれ。ハリーとロンは一つ下の右側の部屋で、ジョージとフレッドは左側の部屋だ。荷物を置いたら皆を呼んで食堂まで来てほしい」

 

ハーマイオニーと相部屋というのは構わないが、不穏な言葉が聞こえたな。安全が確認できている部屋ということは、逆に安全が確認できていない部屋もあるということか? というより、ここはシリウスの家なのだからどこが安全でどこが安全でないか分かりそうなものだが。

私の疑問を察したのか、シリウスは「あぁ」と呟いてから理由を話し出した。

 

「私は学生の頃にこの家を出てね。それ以来、一度も戻っていないのだよ。直系の親族がすべて死んでしまっているので所有権こそ私にあるが、長年空家だったせいか色んなものが巣くっていてね。少しずつ除染してはいるものの、追いついていないんだ。だから、君も無闇に家の中のものには手を触れないほうがいい」

 

そう言って、シリウスはそのまま階段を下りていった。私は部屋を空けて中に入ると、空いている場所に荷物を置く。部屋は剥がれかけた濃緑の壁紙に三つのベッド、一つのテーブルに三つの椅子が置かれただけの簡素な部屋だった。一つを除いて、ベッドにはバッグや本が置かれているので、そこがハーマイオニーとジニーのベッドなのだろうと判断する。

空いているベッドの傍にトランクを置き、蓋を開ける。それと同時に、トランクの中からドールズが勢いよく飛び出してきた。ドールズはそれぞれが「疲れた」「息苦しかった」「窮屈だった」などと愚痴を漏らしている。

 

ドールズに一言謝り、これから夕食にいってくるので各々自由に過ごしているように伝える。念のため、ハーマイオニーの荷物などやこの家にあるものには触れないように注意するが、そこらへんはドールズも分かっているのか、最近覚えた敬礼で元気よく返事をした。

―――こういうのを一体どこで覚えてくるのだろうか。

 

部屋を出て階段を下り、騒がしい部屋の前に立ってノックをする。少し間をおいて扉が開き、中からハーマイオニーが出てきた。

 

「アリス! 待ってたわ! さっ、部屋に入って入って!」

 

「その前に、ハーマイオニー。夕食だから下りてくるようにと、モリーさんからの伝言よ」

 

「あっ、そうなの。それなら、夕食を食べ終わってからでいいから部屋に来てね。色々話を聞きたいの」

 

それは別に構わないが、聞きたい話と言うのが騎士団関連なら話すことは出来ないので、どうやって言い含めるか悩む。

ハーマイオニーに続いてロンが出てくる。聞こえてくる声からジョージとフレッドの双子も部屋の中にいると思ったが、どうやらロンで最後のようだ―――と思ったら、背後でバチンという音が鳴ると同時に肩に手を置かれる。

 

「よっ! 久しぶりだな、アリス」

 

「我らが女王様は今日もクールビューティーだな」

 

背後に“姿現し”で現れたジョージとフレッドに振り向きつつ、フレッドの言った女王様発言に首を傾げる。

 

「お久しぶり。ところで、女王様って何かしら?」

 

「才色兼備、容姿端麗、冷静沈着、そして我らが恩人の一人でもある君を称える称号さ。ちなみにハリーには王子様、セドリックには王様という風に称えようかと思っている」

 

「……色々言いたいことはあるけど、とりあえず女王様は止めてちょうだい。じゃないと、鞭で叩きつけるわよ」

 

「それは怖い。そういうことなら、残念だけど女王様は撤回しよう。別の意味で女王様になられても困るからね」

 

ジョージはふざけた感じで発言を訂正していたが、その額に薄っすらと汗が浮かんでいるのは見逃さなかった。私が女王様発言に対して切り返すとは思っていなかったのか、返した内容が予想外だったのかは知らないが、まぁ撤回するというのなら踏み込まないでおこう。

 

 

 

 

この家に来てからの数日は、何かと騒がしい日が続いた。一番はやっぱりと言うべきか、ハーマイオニー達の質問だ。私だけ会議に参加していることもあり、会議で何を話しているのか、騎士団は今どんな活動をしているのか、ハリーはどうなっているのかなど、執拗に質問してくるのだ。当然、内容を話すわけにもいかないので質問は一切受け付けていないが、それで諦める訳もなく、時間があれば質問をしてくる。ハーマイオニー達の気持ちは分かるがいい加減しつこかったので、どうしようかと考えていたときに一つの知らせが騎士団に届いた。

 

知らせの内容は、ハリーがホグワーツを退学及び杖を破壊されるというものだ。この知らせを受けた途端、騎士団に限らずハーマイオニー達も騒然となった。報告によると、原因はハリーがマグルの面前で守護霊の呪文を使ったためらしいが、どうにもその場には吸魂鬼がいたらしい。アズカバンにいるべき吸魂鬼がロンドンにいることも疑問だったが、とにかくハリーの件をどうにかするのが急務ということで騎士団が慌しく動いた。

続いて送られてきた報告によると魔法省にダンブルドアが到着し、今回の一件について収拾をつけようとしているらしい。また、ダンブルドアから急ぎハリーの監視役を増やすように指示があった。監視役の増員としてルーピンとエメリーン・バンスという魔女が向かうこととなった。

 

 

「ねぇ、アリス。ハリーは大丈夫よね?」

 

ハーマイオニー達が騒ぎ立てるので、私が抑え役としてハーマイオニー達と一緒に待機することとなった。とはいえ会議に参加していないという訳でもなく、会議が行われている食堂に置いてきた上海と片側の視覚と聴覚を共有しているため、話を聞くことは出来る。

 

「法律的には無罪放免となるはずだけどね。未成年でも生命の危険がある状況であれば魔法の行使は認められているはず。法律を作った魔法省がそれを理解していないとは思えないわ」

 

「そうよね。法律はハリーを守ってくれるはずだわ」

 

「……でも、生命の危険がある状況に限るということは、その状況を証明できないと適応されないということでもあるわ。その場にいたのはハリーと親戚のマグル、アラベラ・フィッグというスクイブの老婆。マグルやスクイブには吸魂鬼を見ることは出来ないし、ハリーは尋問の対象。状況的にはあまり有利とはいえないわ」

 

私がそう言うと、ハーマイオニーは反論したそうに口を開いては閉じていたが、結局その口から言葉が出てくることはなかった。吸魂鬼があの時あの場にいたことをどう証明するか。それがこの件に関する重要な点であるというのはハーマイオニーも理解しているのだろう。

 

「でもさ、吸魂鬼の行動は全部魔法省で管理されているはずなんだろ。だったら、その記録を見ればいいんじゃないか?」

 

「それも難しいわね。まず、吸魂鬼がそもそも魔法省の管理を外れて勝手に、あるいは外部の者に指示されていた場合は記録そのものが存在しないわ。この場合、誰が指示しているのが可能性として高いかは言うまでもないわね? 次に記録が残っていた場合というのは、つまり吸魂鬼は魔法省の指示でハリーを襲ったと言うことの証明となってしまう。魔法省としてはそんな事実は決して認めないだろうし、証拠となるものは全て抹消しているでしょう」

 

ロンの質問に答え、それを聞いたロンはハーマイオニー同様に口を噤んだ。

翌日、ハリーからふくろう―――ヘドウィグというらしい―――が送られてきて、今がどうなっているのか、何時ここ―――親戚の家から出られるのか知りたいという旨が書かれていた。受け取ったハーマイオニーやロンは手紙を書きたそうにしているが、ダンブルドアからハリーには一切の情報を与えないようにと言われているため、手紙を返すことが出来ないでいる。そんな二人に反して、ヘドウィグは手紙の返信を急かしているのか、執拗に嘴で二人のことを突いていた。

 

そして、ヘドウィグがやってきてから三日後。ハリーを騎士団本部へと護送するためのメンバーが出発していった。メンバーは以前決めたムーディ、キングズリー、ルーピン、トンクスに加えて五人の魔法使いが護衛に就くことになった。

全員が出発するのを見送ると、残ったメンバーは会議の続きに入った。私も食堂に入って話を聞いている。最近になってフレッドやジョージ達が会議の話を盗み聞きしようとしているので、蓬莱と露西亜と仏蘭西に扉の前を見張らせることにしている。残りのドールズは、京は私と一緒にいて、残りは部屋で荷物の見張りをさせている。態々人の荷物を覗き見る人はいないと思うが、まぁ念のためだ。

 

会議は久々に戻ってきたスネイプ先生を交えてのものとなった。議題はやはりハリーのことについて。今回の一連の事件、魔法省やファッジ魔法大臣の動き、どう収拾をつけ、万が一の場合にはどのようにするかなど。議題が議題だけに皆の言葉に熱が入っているのが分かる。

会議に参加している以上は私も何か発言をしたほうがいいだろうかと思ったが、思ったこと言いたいことは他の人が大体代弁しているので、これといって話しに入り込むところが見当たらない。というより、モリーさんとシリウスが白熱しすぎて介入の隙がないというべきか。

 

 

 

どのぐらい時間が経ったか、モリーさんとシリウスは未だに熱が冷めることなく話し合っている。扉の外では、ジニーが階段から覗き込んで何かを投げつけていたが、あれは一体何なのだろうか。

 

夕食の時間が近づき、モリーさんが準備に取り掛かり始めた頃、蓬莱から見える視界に家の扉が開くのが映った。開いた扉から入ってくるのは、ハリーを迎えにいったメンバーとハリーだ。

 

「―――ハリーが到着しましたよ。今、玄関から入ってきました」

 

ハリーがやってきたことを食堂にいる人に伝える。私の言葉にいち早く反応したのはモリーさんだ。モリーさんは夕食の準備を一旦止めて、廊下へと向かっていった。

 

「いやぁ、それにしても凄いな。確か、人形の見ている視界と自分の視界を繋げているだったかね? 自立して動く人形だけでも驚きなのにそんなことまで出来るなんて、こりゃ話に聞いていた以上だな」

 

そう興奮したように話しかけてきたのはウィーズリーさんだ。ハリーが無事到着したことで安心したのか、先ほどまでのピリピリした感じはなくなっている。

 

「まぁ、魔法に関わろうと思ったのがドールズを作りたいと思ったからですからね。それを叶えるために沢山勉強しましたから」

 

「いや、素晴らしい。自分の作りたいものを作るために努力する姿勢は是非見習いたい。どうだね? 今度、そこらへんの話を詳しく聞かせてくれんかね?」

 

「そうですね。時間があれば構いませんよ」

 

ウィーズリーさんはマグルの機械類に対して非常に強い関心を持っているようで、ガラクタを拾ってきてはそれを修理したり分解したりしているそうだ。マグル文化に関心を抱く魔法使いということで、魔法に傾倒している魔法使いからの印象は良くないらしいが、私としてはウィーズリーさんのような人がいることは決して悪いことではないと思っている。まぁ空飛ぶ車を作って、それを街中まで走らせるというのはやり過ぎかもしれないが。

ちなみに、ウィーズリーさんの言う話とは純粋に物作りの話であって、ドールズのことでないだろう。前にも一度聞かれたが、ドールズに関しては秘密だと言ったので再び聞いてくるということはないはずだ。

 

ドールズについてと言えば、騎士団の参加への話が出た際にダンブルドアからもドールズのことを聞かれたのだが、ダンブルドアにだけは全部と言わずともある程度の情報は教えることとなった。どのような魔法かは流石に言わなかったが、少なくても闇に類する魔法を参考にしていることは伝えてある。ダンブルドアが私に対して下手に誤魔化すこと―――勿論全部ではないだろうが―――を止めた以上は、こちらもそれに応える必要があると判断したからだ。その結果、闇祓いや教師陣、騎士団メンバーからの質問がなかったのは助かった。ダンブルドアが、自分がある程度の事実を把握しているため警戒する必要はないと伝えたのが大きいのだろう。

 

―――これって借りになるのだろうか? 恩をきせて自分を裏切れなくするという意味ではそれなりに効果有りであることは否めないが。

こんなことを考えてしまう自分が酷く捻くれていると思い、軽い自己嫌悪に陥ってしまいそうだと溜め息を吐く。

 

 

 

 

夕食の準備が出来たので会議を一時中断し、一同は食堂で食事を進める。スネイプ先生だけは帰っていったが、スネイプ先生が夕食の席に加わらないのはいつものことなので特に気にはしない。ハーマイオニー達が食堂に入ってくる際に、廊下から騒音のような叫び声が聞こえてきた。恐らく、肖像画に描かれているシリウスの母親がまた騒いでいるのだろう。モリーさんとルーピン、次いでシリウスが飛び出していったことからも間違いはないはずだ。

 

食事中、話題として上がるのはハリーの護送についてだ。何か異常はなかったか、敵は現れなかったかなど、護衛メンバーから話を聞いている。

そして、話題の中心となっているハリーはというと、酷く不満気な顔をしている。最初こそシリウスと普通に話していたが、全体の話題に騎士団のことが混じってくるにつれて口数が少なくなってきた。

 

まぁ、ハリーがこのようになるのも分かってはいた。何せ、ロンの部屋に行ったハリーが大声で数々の不満を暴露していたからだ。最も私が直接聞いたのではなく、部屋に待機していた倫敦から聞いたことだ。モリーさんがハリー達を呼びに行ったときに扉を潜ってきて、私の耳元で教えてくれたのだ。

 

そしてデザートを食べ終わり、就寝の時間だとモリーさんが言ったが、シリウスがそれを遮りハリーへと向かい合って話し出した。

 

「驚いたよ、ハリー。てっきり私は、君がここに着いたら真っ先にヴォルデモートの事を聞いてくるだろうと思っていたんだが」

 

「聞いたよ! ロンとハーマイオニーに聞いた。でも、二人は騎士団に入れてもらえないから詳しいことは何も知らないって」

 

「二人の言う通りですよ。あなた達はまだ若すぎるの」

 

シリウスの疑問にハリーは憤慨といった感じで答えたが、そのハリーに応えたのはシリウスではなくモリーさんだった。

 

「モリー、騎士団に入っていなければ質問してはいけないと、いつから決まったんだ? ハリーはあのマグルの家で一ヶ月も閉じ込められていたんだ。何が起こっているのかを知る権利がある」

 

「ちょっと待った! 何でハリーだけが質問に答えてもらえるんだ? 僕達だってこの一ヶ月間、皆に散々質問してきたのに誰も何一つ教えてくれなかったじゃないか!」

 

ジョージが大声で文句を言うが、モリーさんはそれを無視してシリウスへと向かい合っている。シリウスはハリーにも騎士団のことやヴォルデモートのことを教える必要があると主張し、モリーさんは未成年で騎士団にも入っていないのだから不用意に教えるべきではないと主張している。モリーさんはダンブルドアの言葉も出しているが、シリウスはそれに一歩も引かずに反論している。

 

「ちょっと待って! 僕が駄目だっていうなら、どうしてアリスは騎士団に参加できているの? アリスだって僕達と同じ未成年だ」

 

ついにハリーがそのことを出してきたか。ハーマイオニー達に私が騎士団として会議に参加していることは聞いているはずなので、話に出してくるとは思っていたが。

 

「それは、この子は、この子の場合は、ダンブルドアの指示です」

 

「それはロンとハーマイオニーから聞いたよ。でも、それなら僕だって条件は同じはずでしょ? ヴォルデモートは僕の命を狙っているんだ」

 

「ハリー。君の言いたいことも分かるが、ハリーとアリスでは事情が異なるんだ。ダンブルドアはアリスの持つベルンカステルの血がヴォルデモートに取り込まれるのを恐れている。そして、それを防ぐ為には騎士団の情報を知り、いざという時に動けるよう騎士団に入っていたほうが守りやすいとお考えなのだ」

 

「ハリー。この事については変更することはできない。彼女はすでに多くの情報を知っているし、ダンブルドアがそれを認めない。それに、彼女は情報をヴォルデモートに盗まれないよう防ぐ手段を持っている。だがハリー、勘違いしないでほしい。それは君に情報を教えないということではない。勿論、彼女ほどではないが、私はある程度の情報を君に教えるべきだと思っている」

 

ルーピンの言葉に反論しようと口を開きかけたハリーだが、それをシリウスが制した。だが、最後にシリウスが言った言葉に今度はモリーさんが反応するが、それはウィーズリーさんによって遮られた。

 

「モリー、ダンブルドアは立場が変化したことをご存知だ。ハリーが本部にいる今、ある程度の情報は与えるべきだと認めていらっしゃる。それに、私個人としても、全体的な情報をハリーは知っておくべきだと思っている。他の誰かから、歪曲された話を聞いてしまうよりはね。ハリーも自分で物事を判断できる年齢だ。このことで意見を言うのを許されるべきだろう」

 

「僕、知りたい! 何が起こっているのか」

 

ウィーズリーさんの言葉にハリーは即答した。モリーさんは説得は無理だと思ったのか、ハーマイオニー達に出て行くように言うが、そこでまた反論が起こる。双子は自分達は成年しているのにどうしてだめなのかと、ロンはもし今聞けなくてもハリーが後で教えてくれるとそれぞれが主張する。

最終的に、ハーマイオニー、ロン、ジョージ、フレッドは話を聞くことを許されて、ジニーだけはモリーさんによって強制的に部屋へと連れて行かれた。そして、静かになるのを待ってからシリウスが口を開いた。

 

「さて、ハリー。何を知りたい?」

 

ハリーは多くの質問をした。一ヶ月間、溜まりに溜まったものを吐き出すかのようにそれらは出てきた。ヴォルデモートは何処にいるのか、何を企んでいるのか、何か事件は起こっていないのか、騎士団は何をしているのか。そして、それに騎士団のメンバーが答えていき、その答えに対して再度ハリーの質問が飛ぶ。

 

「目先の問題は魔法省だ。ファッジが頑なにダンブルドアの事を否定している。例のあの人は戻ってきてなんかいない、全てはダンブルドアの虚言だと言ってね」

 

「ファッジはダンブルドアを恐れているんだ。ファッジはダンブルドアが自らの失脚を企み大臣職を狙っていると思っている。魔法省を乗っ取ろうとしていると思い込んでいるんだ。勿論、ダンブルドアはそんなことを考えてはいない。だが、ヴォルデモートが戻ってきたという事実に向き合えないファッジは、ダンブルドアを敵かなにかと思い込むことで平静を保っているんだ」

 

「魔法省がヴォルデモートの復活を認めない以上、我々が多くの魔法使いに真実を信じ込ませるのは簡単なことじゃない。それでも、何人かの者を味方につけることはできた。それに、信じてもらえずともヴォルデモートが復活したという情報をまったく流していないというわけではない。最も、それによってダンブルドアが苦境に立たされているのも事実だが」

 

ウィーズリーさん、ルーピン、シリウスと順番に話が進んでいく。ハリーは時折質問を挟みながらも、静かに聞いていた。

 

「国際魔法使い連盟の議長職とウィゼンガモット法廷の主席魔法戦士から降ろされてしまったのも魔法省の手引きだ。勲一等マーリン勲章を剥奪するという話も聞く。ダンブルドアは日刊預言者新聞で散々叩かれているよ。ダンブルドアだけじゃない、ハリーやアリスにセドリックもだ。新聞は読んでいたかい?」

 

ルーピンの言葉に夏休み最初の事を思い出す。日刊預言者新聞に私やダンブルドア、ハリー、セドリックを含めて「嘘吐き」だの「思い込みが激しい」だの「目立ちたがり屋」などと書かれていたのだ。ハリーの記事に関しては去年のリータ・スキーターが書いていた記事を元にしている部分も多いようで、元ネタが豊富というのもあるだろうがハリーの抱える事情がそうさせるのだろう。私やセドリックよりもハリーは集中して叩かれていた。

 

最後に、ヴォルデモートが前回猛威を振るっていたときには持っていなかったもの。それを求めて極秘に動いているとシリウスがハリーに告げた。だが、ハリーがそれは何かと追求するもモリーさんによって遮られてしまう。これ以上の情報を教えることをモリーさんは許容できないのだろう。

これ以上の情報を教えるなら、騎士団に入れてはどうかというモリーさんの半ばヤケの言葉にハリーは真っ先に賛同したが、それはルーピンによって遮られた。その際に言った「成人した学校を卒業した者しか騎士団に入れない」という言葉で、ハリーが私を引き合いに出したことで再び問答が起こった。

 

 

「アリス」

 

モリーさんがハリーたちを寝室へ追いやっているのを見送り、私も部屋に戻ろうと席を立ったところでルーピンが声を掛けてきた。

 

「分かってますよ」

 

特に何を言っている訳ではないが、先ほど話題に上がってしまった“モノ”について、ハリー達に教えないようにということだろう。正直、私としては教えてもいい気がするが、今教えてもどうにかなるものでないことも確かなので、騎士団の方針通りに情報を漏らさないことにする。

 

 

 

 

ハリーが騎士団本部に来てから数日、いよいよ尋問の日がやってきた。ハリーは朝早くからウィーズリーさんと魔法省へ向かっている。時間的にはそろそろ尋問が始まっているはずだ―――本来であれば。

 

一時間程前にウィーズリーさんの同僚の人からふくろう便が届き、尋問の時間と場所が変更になったらしい。話を聞くと、変更になった場所は魔法省の神秘部という部署のさらに地下にある古い法廷で行われるということ。だが、問題なのは時間だ。元々余裕を持って早く出発していたハリー達だが、変更された時間は随分と早まっており、順調に魔法省に到着していたとしてもギリギリか遅刻かという時間だったからだ。

 

突然の変更に知らせを知った全員が憤慨したが、変更されてしまったものはどうしようもない。尋問における主導権はあちらにあるのだから、尋問を受ける側は魔法省の決定に従う他はないのだ。

 

「……」

 

「……」

 

現在、本部にいる者は全員食堂に集まって、尋問の結果がどうなったかの知らせが届くのを無言で待っている。シリウスは腕を組んで指を叩いており、ハーマイオニーは本を持っているものの一度も頁が捲られていない。ロンやジニーは机に突っ伏しているが、寝ているわけではないだろう。ジョージとフレッドは部屋の隅で何やら話し合っており、モリーさんは昼食の準備をしている。

 

それからさらに三十分後、一羽のふくろうが食堂の窓から入ってきてテーブルの上に静かに降り立った。瞬間、モリーさんはふくろうが咥えている手紙を奪い取り封を開け始める。全員の視線が手紙に集中するのをふくろうが恨めしげに見ているが、誰もふくろうのことには目を向けてはいなかった。とりあえず、近くにあったビスケットを一枚取りふくろうの前に持っていく。ふくろうはビスケットを咥えると、ホーと一鳴きしてから入ってきた窓へと飛び去っていった。

 

「―――無罪よ! 無罪放免!」

 

モリーさんが叫んだその言葉に、それぞれが声を上げる。ロンとハーマイオニーは互いに抱き合い、双子とジニーは腕を組みながら踊り始めた。

数時間後にはハリーとウィーズリーさんが帰ってきて、改めてハリーが無罪放免になったことを伝えられる。それを聞いて双子とジニーが再び踊り始めた―――今度は変な掛け声付きで。

 

 

 

 

ハリーの尋問も終わり新学期が近くなったところで、ホグワーツからの必要な学用品が書かれた手紙が届いた。例年よりも手紙が送られてくるのが遅かったが、まぁ教科書を二冊買うだけなので、支障はないだろう。

 

テーブルの上に手紙を置いてトランクの中身を整理していると、部屋の扉が音を立てて開いたので、反射的に扉の方へ視線を向ける。

 

「アリス! アリスも貰った!?」

 

ハーマイオニーが興奮冷めぬといった感じで入ってきたかと思うと、開口一番そのようなことを尋ねてきた。

 

「貰ったって、何をかしら?」

 

「これよ、これ。監督生バッジ! 私だけじゃなくてロンも貰ったわ」

 

そう言ったハーマイオニーの手には“P”と書かれた赤と金の二色で彩られたバッジがあった。そういえば、監督生は五年生から二人選ばれるんだったか。

 

「あら、おめでとう、ハーマイオニー。それと、残念だけど私は貰っていないわ」

 

「えっ!? 嘘、アリスなら絶対に貰ってると思ったのに」

 

「レイブンクロー生なら……パドマとアンソニーが貰ってるんじゃないかしら? 監督生は二人だし、あの二人なら相性もいいだろうしね」

 

それに、あの二人は同学年の中では優秀な生徒だ。レイブンクロー内では三本の指に入っているし、学年全体でも五本には入っている。ペアということを考えれば、あの二人ほど適している者はいないだろう。

 

「そう。確かに、あの二人なら監督生になってもおかしくはないわね」

 

ハーマイオニーも納得した様子で頷いた。

 

モリーさんが買ってきてくれた教科書などの学用品を整理してから夕食の為に食堂へと下りる。食堂には真紅の横断幕が掲げられており、「おめでとう ロン、ハーマイオニー 新しい監督生」と書かれていた。お祝いの席でもあるためか、今日に限っては立食形式の食事らしく、椅子が隅に避けられている。テーブルの上にはいつもより豪勢な料理が大皿で並べられていた。

 

食事中は何人かのグループに分かれて雑談に興じながら過ごしている。ロンは近くにいる人にお祝いで貰った箒の自慢話を、ハーマイオニーはルーピンに屋敷しもべ妖精の権利についての話を、モリーさんはビルと髪型についての論争を、ムーディやキングズリーやウィーズリーさんは魔法省についての話をそれぞれしている。その中で、私は部屋の端っこでコソコソと話し合っている双子とマンダンガスの所へと向かった。

 

「何を話しているの?」

 

声を掛けると、マンダンガスは肩を大きく揺らして振り返った。マンダンガスは口ごもって何かを呟いている。

 

「大丈夫だ、ダング。アリスは俺達のスポンサーの一人だ」

 

スポンサーということは、先学期にハリーとセドリック同意の下あげた金貨についてだろうか。確か、二人は悪戯専門店を作りたいといっていたので、それに関する話なのだろう。

 

「何か材料の取引か何かかしら?」

 

「ビンゴだ、アリス。見ろよこれ、マンドレイクの根だ。試したことはないけど材料に使えそうだと思ってな。ダングに調達を頼んだんだ」

 

「それ、取り扱い要注意の品じゃなかった? 大丈夫なの?」

 

「まぁ、うん。多分、大丈夫じゃないかな?」

 

「……あまり無茶はしないようにね」

 

ジョージの安心できない返事を聞きながら、その場を離れる。入れ替わる形でハリーが双子のところに向かうのを横目で見ながら、ロンとハーマイオニーのところへと向かう。ちょうど二人とも同じところにいたので手間が省けそうだ。二人の近くでは、トンクスとウィーズリーさんが話をしている。

 

「ハーマイオニー、ロン。監督生就任おめでとう」

 

「ありがとう、アリス。でも、本当に意外だったわ。アリスが監督生じゃないなんて」

 

「あぁ、それ僕も思った。別にアリス以外の人が監督生に相応しくないって言うつもりじゃないけど、やっぱりアリスが監督生って言われたほうがしっくりくるもんな」

 

二人の言葉に軽く苦笑して返しながら、ポケットから二つの品を取り出す。

 

「はい、これ。監督生の就任祝いよ」

 

そう言って二人に手渡したのは二つのアクセサリー。二つとも細かい彫刻を施した銀のペンダントで、ハーマイオニーのは猫、ロンのは犬の意匠をしている。ハーマイオニーを猫にしたのはペットのクルックシャンクスを元にしているのだが、ロンを犬にしているのは特に理由はない。強いて言えば猫に対してしっくりくる動物を選んだ結果だ。

 

「わぁ! 可愛い。それに綺麗。本当に貰っていいの!?」

 

「勿論。というより、貰ってくれないと作り損だから困るんだけどね」

 

ハーマイオニーはすぐにネックレスを首に着け始め、ロンもハーマイオニーの着け方を見ながらか、ゆっくりした動作でネックレスを着けた。

 

「あら。似合ってるわよ、ハーマイオニー。これアリスの手作りなの?」

 

トンクスがハーマイオニーの首に掛かったネックレスを見ながら聞いてくる。

 

「えぇ。といっても、作り置きしていたものを少し弄っただけですけどね。魔法が使えればもう少し調整できたんですが」

 

「いや、それにしても中々の出来じゃないか。この犬なんか、どことなくロンに似ていなくもない」

 

トンクスと一緒にやってきたウィーズリーさんがロンのネックレスを覗き込みながらそんな感想を漏らす。それに対してロンが反論しようとするが、それは横から割って入ってきたムーディによって遮られた。

 

「ほぅ、これは……なるほど。これは、マーガトロイドが作ったのか?」

 

ムーディは魔法の目でネックレスを覗き込むように見たあと、普通の目を私の方へ向ける。

 

「そうですよ―――気づきました?」

 

私の言葉の意味が分からなかったのか、ムーディ以外の人は首を傾げている。

 

「無論だ。このネックレスには魔法が掛けられているな。恐らくは、“盾の呪文”か?」

 

「その通りですよ。このネックレスには“盾の呪文”が掛けられていて、これを身につけている間は襲い掛かる呪文を少しだけ防いでくれます。といっても、ネックレスが壊れたら効果ないですし、本来の効力よりもずっと低いですけどね」

 

「だが、僅かにでも身を守ることが出来るならば、それは大きな助けとなる。二人とも、そのネックレスは常に身につけていたほうがいいぞ。マーガトロイド、もし余裕があるようであれば、騎士団の者にも同じようなのを作ってやってくれんか? 材料など必要な物があれば調達もしよう」

 

「構いませんよ。学校でないと魔法が使えないので、学校で作ってから騎士団に入っている先生の誰かに届けてもらうかたちでいいですか?」

 

「構わん。正直、死喰い人に対して何処までの効果があるか分からないが、これがあることで助かる命があるかもしれないことを考えれば、身に着けておいて損はないだろう」

 

そういい残して、ムーディは食堂を出て行った。

 

「凄いわね。ネックレスに呪文の効果を持たせるなんて。物に呪文を掛けるっていうのはあるけれど、“盾の呪文”の効果を持たせたのは聞いたことないわ」

 

「私もだ。だが、アラスターが言うのなら間違いはないだろう。いやぁ、あの人形にも驚かせられたが、これも驚いた。君は人間ビックリ箱か何かかね?」

 

トンクスの驚きの声に続いて、ウィーズリーさんが冗談めかして言った後、ルーピンに呼ばれて二人はその場から離れていった。残ったハーマイオニーとロンは、今の話を聞いて驚いているのか、首に掛けたネックレスを手で持ち上げながらマジマジと見ている。

 

「アリス。本当に、このネックレスに呪文がかかっているの?」

 

「えぇ、そうよ。ただ、注意してね。それは何度も呪文を受けたりすると壊れてしまうから。呪文の練習などをするときは外しておいたほうがいいわよ」

 

他にも注意する点を二人に説明したあとちょうどお開きとなり、モリーさんに急かされる感じでそれぞれが部屋へと戻っていった。

 

 




【検知不可能拡大呪文】
魔法界の四次元ポケット

【オルレアン】
お待ちかね七体目の人形。
攻撃主体かと思いきや防御主体になったかも。

主要ドールは揃ったので、次は量産型ドールの生産かな。
持ち運び? 既に解決済み。抜かりはない。

【新たな目標】
”生き残る””平穏に暮らす””知的好奇心を満たす”
とりあえず、このぐらい?

【呼び方】
何人かの呼び方(地の文、会話上)に変化有り

【アリスの騎士団加入】
ロン達からの苦情ありあり。
だが、未成年の主張は弾かれる。

……アリス加入する意味なくね? とか思ってはいけない。
後には引けないのだ。

【閉心術】
秘密主義のアリスが身につけていない訳がない。
過去に未修得的な感想を返した気がするが、計画は常に変化するものということで。

師は当然、我らがパッチェさん。奴が中途半端な閉心術で満足するはずがなかろう。
まぁ、スネイプも子供時代から閉心術使ってたみたいだし無問題。

【クリーチャー】
だれそれ?

【女王様アリス】
才色兼備、容姿端麗、冷静沈着なアリスに付けられた称号。

アリスとてユーモアは持ち合わせている。
S的な意味だと思った奴⇒お前はMだ。

【今更なドールズの追求】
完全な秘密主義では得られる信用も得られない。
闇の魔法引用といっても、ぶっちゃけダン爺も半ば気づいていること。

【ハリー】
僕に教えてよ! 僕を見てよ! 
僕は君達よりずっと色んなことをやってきた!
etc etc

未成年の主張……若いですねぇ

【尋問】
ぶっちゃけ、待ってる人は暇。
ついでに、魔法省は権力乱用しすぎです(←正しい権力の使い方

【監督生バッジ】
こういうのは、仲のいい二人にやらせるべき。

【スポンサー】
悪戯専門店WWW
スポンサーは”アリス””ハリー””セドリック”

【就任祝い】
盾の呪文付きシルバーアクセ 動物編
WWWの盾の装備シリーズの先駆け。


不確かな次回タイトル
~ 波乱の新学期 ~

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