魔法の世界のアリス   作:マジッQ

26 / 37
いや、本当に申し訳がない。
二ヶ月近くも更新を滞らせるとか……エタったと思われても仕方がないかもしれない。

前書きにあれこれ書くのはどうかと思うので、続きは活動報告で。


波乱の新学期

ホグワーツ特急に乗り、監督生が集まる車両へ向かうハーマイオニーとロンを見送った後、ハリーとジニーの二人に並んで空いているコンパートメントを探していく。

去年までなら一時間近く前には到着していたので探すことなく座ることができたのだが、今年はハリー達と行動を共にしていたことによってギリギリの時間となってしまった。

 

「あなた達、いつもこんなにギリギリの時間なの?」

 

というのも、今朝は随分と慌しかったのだ。ムーディが執拗に安全や警備体制を確認していたのもあるのだろうが、起床時間が遅かったり準備が終わっていなかったりというのはどうなのだろうか。

 

「えっと、いつもという訳ではないのよ? 今日は偶々遅かっただけで、いつもはもう少し早いし」

 

ジニーが目を泳がせながらそう言っているが、ギリギリの時間帯より少し早い程度では大して変わりがないということに気がついているのだろうか。いや、知っているから取り繕っているのだろうけど。

 

 

空いているコンパートメントを探しながら車両の後ろへと進んでいく最中、周囲からの視線を感じると共に話し声が聞こえてきた。視線だけで周囲を見渡すと、すれ違う殆どの生徒が私とハリーを見ているようだ。何人かの手には日刊預言者新聞が握られている。恐らく、夏休み中に新聞で叩かれた内容について話しているのだろう。ハリーも気がついているのか、チラチラと周囲を忙しなく見ている。

 

そんな視線に晒されながらも最後尾まできたところで、トランクを足元に置きながら暴れるヒキガエルを握るネビルの姿が見えた。

 

「やぁ、ネビル」

 

「やぁ」

 

ハリーがネビルに挨拶し、ネビルも挨拶を返す。

 

「この……暴れるな、トレバー……どこも一杯だ。僕、席が全然見つからなくて」

 

「ここが空いているじゃない」

 

ネビルが言い終えるのと同時に、ジニーがネビルの横をすり抜けながらコンパートメントの中を覗き見る。私も近づいて中を見ると、中はルーナが一人座っているだけだった。

 

「ルーナしかいないみたいだし、ここに入れると思うわよ」

 

そう言いながらコンパートメントの扉を開く。

 

「こんにちは、ルーナ。相席いいかしら?」

 

「こんにちは、アリス。ジニーもこんにちは。別に構わないよ」

 

ルーナの許可も貰ったので中へと入り、トランクを荷物棚へと上げる。全員の荷物を棚に上げ終わり一息ついたところで、ルーナ、ハリー、ネビルの紹介が行われた。

それからは、ハーマイオニーとロンが戻ってくるまで適当に雑談をしていたが、ネビルが“ミンビュラス・ミンブルトニア”を出してきたときは驚いた。この植物はかなり希少なもので、市場には滅多に出回らないものだ。恐らく、ホグワーツの温室にもないだろう。“ミンビュラス・ミンブルトニア”は、その見た目からは想像も出来ないが上質な魔法薬を作る際に使われることもあり、中でも治療薬として使用した場合は大抵の外傷を治すことができる材料となる。

 

そこで、私が“ミンビュラス・ミンブルトニア”の樹液を貰えないかネビルへ聞こうとしたのと、ネビルが羽根ペンで“ミンビュラス・ミンブルトニア”を刺激したのは同時だった。“ミンビュラス・ミンブルトニア”の樹液は“臭液”と呼ばれ、その名の通り悪臭を放つ液体だ。“臭液”はちゃんとした手順で取り出せば問題がないが、“ミンビュラス・ミンブルトニア”の防衛機能を刺激するようなやり方で採取しようとすると、全身のおできから“臭液”を勢いよく噴出させてしまう。

 

「―――けほッ」

 

つまり、今のような結果になってしまうのだ。

私達がいるコンパートメントは暗緑色の“臭液”があちこちに付着しており、私達の身体にも大量の“臭液”が付着してしまっている。そして運の悪いことに、喋ろうとした瞬間に“臭液”が噴出したため口の中にまで“臭液”が入ってしまった。口の中に入った“臭液”を吐き出すも、苦さと臭さが抜けずに顔を顰める。

 

「スコージファイ -清めよ」

 

杖を振って“臭液”を取り除く。まだ臭いが残っている気がするが、窓を開けて換気すれば大丈夫だろう。

 

「ご、ごめん。僕、試したことなくて……こんなに勢いよく“臭液”が出るなんて」

 

「まぁ、別にいいけれど。今度からは、ちゃんと特性を理解してから試してね」

 

ネビルに一言そう言いながら窓を開ける。ハリーとジニーもネビルに声を掛けているが、ネビルはひたすらに謝り続けている。まぁ、今回は仕方がない。知らなかったとはいえ、自分の不注意が招いたことなのだから。臭いだけで毒性のない“臭液”だからよかったものの、これが有毒物など身体に害のあるものだったら、大変なことになっていただろう。

その後、ネビルに“臭液”を分けてもらえないか言ったら、即答で了承をもらった。先ほどのお詫びに好きなだけ採取してもいいと言われたので、遠慮なく“臭液”を正しい方法で採取していく。被害を被ったのは事実なので、別に構わないだろう。

 

 

ハーマイオニーとロンが戻ってきたのは、それから一時間以上経ってからだった。二人は酷く疲れた様子で座り込み、ロンはハリーのお菓子を奪うように貰っている。

二人が今までのことを話し出し、全員がそれを聞いていく。どうやら、レイブンクローの監督生は予想通りアンソニーとパドマだったようだ。また、スリザリンの監督生はドラコにパンジー・バーキンソン、ハッフルパフの監督生はアーニー・マクミランとハンナ・アボットのようだ。ハリー達はスリザリンの監督生がドラコであることに不満らしく愚痴を言っていた。

 

 

「ルーナ、このルーン文字を逆さにすると耳を金柑の実に変える呪文が判明するっていう記事だけど、実際にやってみたら金柑の実じゃなくて銀杏の実になったんだけど?」

 

「そう? うん、そういうこともあると思うよ。金柑の実に変える呪文を銀杏の実に変える呪文にしちゃうなんて、アリスは凄いね」

 

「ザ・クィブラー程じゃないわよ。いつも思うけど、この雑誌の出来は秀逸だわ」

 

「そんなことないわよ。ザ・クィブラーって雑誌としては全く駄目よ。皆こう言っているわ。ザ・クィブラーは屑雑誌だって」

 

ルーナとザ・クィブラーの記事について話していると、ハーマイオニーが辛辣にそう言ってきた。ザ・クィブラーの愛読者としては、今の言葉には文句を言ってやりたい気持ちになったが、ルーナの不機嫌そうな顔を見たことでそれを抑えた。

 

「あらそう? あたしのパパが編集してるんだけど」

 

ルーナがそう言うと、ハーマイオニーは一気に気まずそうになり、何とか弁解しようとしていたが、ルーナが雑誌で顔を隠して自分の世界に入ってしまった。

 

「ハーマイオニー、貴女にとっては駄目でも愛読している者もいるんだから、言葉は選んだほうがいいわよ?」

 

「そうね……ごめんなさい」

 

ハーマイオニーが本当に申し訳なさそうにしていたので、話を打ち切り別の話に変えようとしたとき、コンパートメントの扉が開いた。視線を扉へと向けると、ドラコがクラッブとゴイルを連れて立っている。

 

「何か用かい?」

 

「挨拶は礼儀正しくだ、ポッター。さもないと罰則を与えるぞ?」

 

ハリーがドラコに突っかかり、ドラコはそんなハリーを見て薄ら笑いを浮かべている。そして、私が特に何かを喋る暇もなくハリー達とドラコの言い合いが行われる。

 

「気をつけることだな、ポッター。僕は君が規則を破らないか、犬のように追い掛け回すだろうからね―――そうそう、マーガトロイド。君にも一つ言うことがあったんだ」

 

出て行こうとしたドラコが急に足を止めると、そのようなことを言い出して私へと向き直った。

 

「言いたいことって、何かしら?」

 

「父上からの伝言だ。“後悔したくなければ、よく考えることだ”―――僕も、君が賢い選択をすることを祈っているよ」

 

それだけを言い終えると、ドラコは今度こそ立ち去っていった。

ドラコの言う伝言。ルシウス・マルフォイからだと言っていたが、多分違うだろう。正確にはルシウス・マルフォイよりもさらに後ろにいる人物―――ヴォルデモートからの伝言と考えるのが正しいか。

 

「ねぇ、アリス。今のって……」

 

ハーマイオニーが困惑したように話しかけてくる。恐らく、ハーマイオニーもドラコの言葉の意味を理解したのだろう。ヴォルデモートが私を狙っているというのは、ハーマイオニー達も知っていることだ。ハリーとロン、それにジニーも何とも言えない顔で見てくる。ちなみに、ルーナとネビルの二人は事情が分からないためか、首を捻っている。

 

「―――ま、今考えたところでどうにもならないでしょ」

 

現状、私がヴォルデモート側につくことはありえない。メリットよりもデメリットの方が大き過ぎるのだから当然だ。

 

コンパートメント内が少し暗く重い空気になったが、ネビルが到着まで遊ぼうと言って“絵柄の変わるトランプ”を取り出したことで僅かながらも空気が和らぎ、ホグワーツへ到着する頃には重苦しい空気はなくなっていた。

 

 

 

 

大広間では新入生歓迎の宴が例年通りに執り行われた。組み分け帽子が去年までとは違う内容の歌を歌ったときは生徒の間でざわめきが起こったが、次の瞬間に豪勢な料理が現れると、殆どの生徒の頭から歌についての話題が抜け落ちたようだ。

 

「ねぇ……さっきの帽子の歌、どう思う?」

 

隣に座るパドマがフライドチキンを食べながら話し、それにアンソニーが答える。

 

「どうも何も―――危険が迫っている、団結し合え、油断するな、警戒しろ。聞いたままじゃないか?」

 

「そうよね。魔法省がこんな感じだし、ホグワーツの中だけでも団結しようってことか」

 

そう言いながら、パドマは片手に持った日刊預言者新聞を机の上に放った。今日発行された記事には、今年の夏から変わらない、ダンブルドアやハリー、私やセドリックに対する批評が書き連ねられている。

 

「親の中には、今年ホグワーツに子供を行かせたくないと考えている人もいるみたいだよ。汽車の中で何人かがそう話しているのを聞いた。理由は―――まぁ、新聞を真に受けているらしいよ」

 

「まぁ、そういった親の反応も理解できるけどね。生徒の反応はどんな感じなのかしら? ここに来るまでの様子からすると、あまりよく思われてはいないみたいだけど」

 

周囲へと視線を向けると、何人かの生徒が顔を逸らすのが見えた。汽車に乗ってからずっとこんな感じだ。

 

「アリス達のことを知っている人は戸惑っているみたい。アリス達が嘘を言っているとは思えないけど、内容が内容だけに信じきれていないようなの」

 

「アリスやセドリックは嘘を言うタイプじゃないからね。ハリーの場合は“生き残った男の子”というのと、魔法省が叩きすぎて逆に怪しいといった感じかな。ダンブルドアについては……半々かな。特に親たちは、ダンブルドアが無闇に混乱を起こすわけがないと考えている人と、年老いて耄碌したため妄言を言っていると考えている人とで分かれているらしい」

 

二人の話を聞きながら生徒たちの諸事情を整理していく。思っていたよりは完全な否定派というのは少ないみたいだ。信じきれていないというのも、ヴォルデモートが復活したと言われているのに目立った事件が起こっていないことが一因だろう。だが、ヴォルデモート側もこれからは影に隠れないで、表立ったことも少なからずやってくるはずだ。

一番起こりえる可能性としては、アズカバンに収容されている死喰い人の開放だろうか。現在、アズカバンに入っている死喰い人と言えば、ヴォルデモートがハリーに倒された後にも忠誠を違えなかった者達だ。それはつまり、ヴォルデモートにとっては最も取り戻したい戦力であることは間違いない。当然、アズカバンに収容されている死喰い人が再びヴォルデモートの元に集うのを防ぐために、ダンブルドアが魔法省へと何度も説得してはいたようだが、魔法省が何らかの対策を取ることはなかった。

 

 

その後は、ある意味毎年の恒例とされている新教員の紹介が行われた。恒例というのも、闇の魔術に対する防衛術の教師が一年毎に変わっているからなのだが。

今年に新しくなった教師は二人。騎士団の任務で長期不在しているハグリッドに変わって、前任の魔法生物飼育学の教師であるグラブリー・プランク。空席になっていた闇の魔術に対する防衛術にはドローレス・アンブリッジという魔女が就いた。

このアンブリッジという魔女は魔法省の人間らしく、ダンブルドアの話に横槍を入れる形で行った演説によって、魔法省がホグワーツの教育や運営に干渉していくというのが分かった。

 

先ほど、組み分け帽子が団結せよと言ったところで魔法省の干渉という事態。見越していたのかは不明だが、恐らく魔法省はホグワーツの内部―――自分たちの手の届かない場所で内々に団結されるのを恐れたが故に、今回のような手段に出たのだろう。闇の魔術に対する防衛術の担当が空席になっていたのも都合が良かったのかもしれない。ファッジはダンブルドアが魔法省、ひいては自身の立場を脅かすと思い込み、それを恐れている。今はまだ魔法省が組織力や権力という点で優位に立っているが、個人で卓越した力を持つダンブルドアが生徒とはいえ組織を築き上げるというのは、ファッジからすれば看過できない問題なのだろう。それに今は子供ということは、将来的には魔法界の中心を担う人材ということでもある。

 

 

 

小さくない波乱の種が撒かれた宴から解散した後、パドマとアンソニーは監督生の仕事として新入生を寮へと案内しに向かった。在校生は新入生の後から寮に戻るため、少し遅れてから大広間を出て行く。

私が一人になると、周囲からの視線が強くなったのを感じる。とはいえ、その視線の殆どは疑惑のような感情が込められているだけのようだったので、別段気にしないで寮へと向かっていた。

 

談話室へと入ると多くの生徒が暖炉を中心にして集まっていた。殆どは五年生のようだが、上級生や下級生もちらほらといるようだ。

私が談話室へ入った音で振り向いた彼らは互いに顔を見渡している。それを横目で眺めながら寝室へと向かうも、暖炉を通り過ぎるあたりで一人から声を掛けられた。

 

「ねぇ、アリス。少し聞きたいことがあるんだけれど、いい?」

 

話しかけてきたのは六年生の女生徒で、クィディッチではシーカーを勤めているチョウ・チャンだ。

 

「別に構わないけれど、何かしら?」

 

チョウと向かい合うために振り返る。そうすることで集まっていた生徒達の視線に正面から晒されることになったが、その程度で狼狽することもないのでチョウの話へと意識を向ける。

 

「ありがとう―――その、去年の対抗試合が終わった後、ううん、学年末パーティーのときにダンブルドアが言った事なんだけど―――本当なの? その―――例のあの人が、復活したっていうのは」

 

チョウの問いに答える前に周囲を見渡す。私へと視線を向けている生徒の殆どが不安と疑惑の感情を顔に浮かべていた。チョウの言葉は彼ら全員の代弁といったところか。

 

「信じたくない気持ちも分かるけどね、紛れもない事実よ」

 

私がそう答えると、全員の顔が恐怖で染まった。何人かは信じきれないのか私を睨んでくるが、その目はあからさまに揺らいでいるのが見て取れた。

 

「そう、なんだ」

 

「えぇ―――それを聞いてくるということは、ここにいる人は魔法省の話よりも私達の話の方が本当だと思っているってことかしら?」

 

「―――うん、そうね。最初は魔法省の話を信じていたけど、最近の魔法省や日刊預言者新聞を見ていると、どうもね。嘘を言っているアリス達を非難しているというよりは、本当の事を言っているアリス達を信用させないように非難しているように思えてきたの。といっても、私はセドリックに言われて気がついたことなんだけれどね」

 

言い終えると、チョウはそのまま階段を登り寝室へと向かっていった。残った生徒達は、それぞれが聞きたいことを尋ねてきて、私はそれに全て偽りなく答えていった。

 

 

 

 

毎年のことだが、新学期が始まった翌日にはもう授業は始まり、多くの生徒がうめき声を上げていた。レイブンクローではそういった者は少数だが、他の寮では大多数がそのような感じである。特に、五年生は一際大変な授業内容になることは間違いない。なぜなら、五年生にはOWL(ふくろう試験)という一つの関門が立ち塞がるからだ。

 

OWLは五年生の生徒全員が受けるもので、マグルの世界でいう国家試験に近いかもしれない。この試験の成績によって、将来どのような進路に進めるのかの大部分が決定してしまうぐらいには重要な試験だ。六年生以降の学科にしても、このOWLで一定以上の成績を取らないと受講できない学科が出てくる。そのため、教師達はこのOWLに対する準備に余念がなく、毎回の授業毎に大量の宿題を出してくる。過去四年間とは比べ物にならないその量には、流石の私でも手間取っている。

 

「アリス、今どのぐらいまで終わった?」

 

「魔法薬学は終わったから、あとは薬草学と変身術ね」

 

「うわ、もう魔法薬学が終わったのかい? 僕なんてこれから取り掛かろうとしているのに」

 

「私なんて数占いも終わってないわ。本当、アリスの宿題を片付けるスピードは異常よ。何か秘訣でもあるの?」

 

どうやら、私が手間取っていると思っていても、二人からしたらそんなことはないらしい。新たに羊皮紙を取り出して薬草学の宿題へと取り掛かる私を、パドマが恨めしそうに見てきた。

 

 

 

「ところで、アンブリッジについてどう思う?」

 

宿題に一区切りがついたところで、パドマが嫌悪感を滲ませながら話し出した。アンブリッジという言葉が出たことで、アンソニーの顔にも苦々しい表情が浮かぶ。

 

「意図してやっているにしてもそうでないにしても、闇の魔術を教える教師としてはロックハートに並ぶぐらい狂ってるわね。知識面では十分でしょうけど、実践的に考えれば不十分過ぎるわ」

 

というのも、アンブリッジの行う授業においては、杖を一切使わずに教科書で魔法理論を学ぶだけで、“防衛術”を学ぶという学科本来の目的から随分と逸脱してしまっているのだ。

確かに、魔法を使用する上で理論というものは重要だ。高度な魔法になるほど、理論というものは不可欠になってくる。だが、それはあくまでも土台に過ぎない。どんな高度な理論も実際に魔法という形にしない限り、意味のないものとなってしまう。宝の持ち腐れというものだ。仮にも魔法省に属するアンブリッジがそれを理解していない訳がない。であるにも関わらず、理論だけを学習する授業を進めようとするということは、魔法省によってそういう風に教育するようにと指示されている可能性がある。随分と強引な手段だが、疑心暗鬼に陥っているファッジならばやりかねないというのも否定できない。

 

「アリス、それはロックハートに失礼だろ。ロックハートもかなりアレな教師だったけど、アンブリッジよりは全然マシだと思うよ―――性格的な意味で」

 

「そうよ。いくら教師として底辺にも入れないロックハートでも、アンブリッジと比べたらまだまだ良い方よ―――扱いやすさ的な意味で」

 

「―――あなたたちも相当だと思うけれどね」

 

とりあえず、アンブリッジ主導で行われる闇の魔術に対する防衛術の授業には何も期待することはない。正直、授業に参加するだけでも時間の無駄だが、ボイコットしたらしたで難癖を付けられるのが目に見えている。あの手の輩は、付け入る隙を与えてはいけない部類の人種だ。隙を見せたが最後、己の力―――アンブリッジの場合は権力だろうか―――を使って、相手を容赦なく切り伏せてくる。

 

「一応二人に言っておくけど、アンブリッジに対して難癖を付ける口実を与えちゃ駄目よ。癇に障ることがあっても知らぬ存ぜぬで通しなさい。あの手の輩は、こっちが逆上して突っかかってくるのを嬉々として待っているのだから。食虫植物と同じよ」

 

「分かってるさ。僕はもう、アンブリッジと相対するときは聖人になったつもりで向かい合う気だよ」

 

「同じく。聖母になったつもりで生温く見守ってあげるわよ」

 

―――なんだろう。去年と今年で二人の精神が非常に成熟している気がするのだが。夏休みの間に何かあったのだろうか。それとも、監督生になるとこうなるものなのだろうか。

 

 

 

 

数日後、大広間の一部―――グリフィンドールのテーブルでハリーとアンジェリーナ・ジョンソンが言い争いをしていたのが目立った。内容は、ハリーがアンブリッジに罰則をもらったせいでクィディッチメンバーの選抜に参加できなくなったことを責めているようだ。

ハリーが授業中に、アンブリッジに対して反抗したと噂になっていたが、この話を聞く限りでは本当らしい。ハリーも今の自分の立場は理解していて、ハーマイオニーも近くにいただろうに、どうしてそのようなことになったのか。

 

食事が終わり、ハリーが席を立つのを見計らってそれを追っていく。大広間を出た階段前でハリーに追いつき、呼び止めた

 

「ハリー」

 

「今度はなんッ―――あぁ、アリスか。何か用?」

 

振り向いたハリーは、誰が見ても分かるほどの不機嫌な顔を浮かべていた。こんな状態のハリーに言っても逆効果になりそうだが、言わないよりはいいだろうと判断して話を続ける。

 

「少しね。アンブリッジに罰則をもらったらしいけれど、その原因がアンブリッジの言動に対して反感したからというのは本当なのかしら?」

 

「そうだよ。でも、僕は間違ったことは言っていない」

 

「そうね。又聞きだけど、ハリーが言ったことは間違ってはいないわ。でもね、態々それをアンブリッジに向かって敵意剥きだしで言うのは軽率よ。アンブリッジが魔法省から来ている以上は、こちらの粗を探そうとしているのは明白でしょ? そのアンブリッジにこちらから餌を与えるのは得策じゃないわね」

 

「でも、僕は本当のことしか言っていない。ヴォルデモートは復活したんだ。アリスだって知ってるはずだ」

 

「勿論知っているわ。その場にいたんだから。でも、それは今の自分の立場を危うくしてでも主張しなくちゃいけないことなのかしら? 今までダンブルドアが主張してきたにも関わらず魔法省はヴォルデモートの復活を否定している。それどころか、ダンブルドアの息が掛かった内部戦力が出来るのを恐れている―――ファッジの妄想だけれどね。そんな中で、ハリー一人が声高に真実を語ったところで魔法省が信じるはずもないでしょう? このぐらいのことは、ハーマイオニーにも言われているんじゃないかしら?」

 

「それが何だ!? 僕達が真実を語らないで誰が真実を語るって言うんだ。ここには騎士団のメンバーはいないし、いても全員が教師だ。皆に本当のことを言ってくれるなんて思えない。だったら、僕達が言うしかないだろう? それとも、アリスはアンブリッジに好きに言わせておいて、それを黙って聞いていろなんて言うつもりか?」

 

ハリーが先ほどよりも声を荒げてくる。その興奮した様子を見て、これは駄目だなと若干諦めに入ってしまう。

 

「まさしく、その通りよ。言っても状況が悪くなるだけなんだから、放っとけばいいのよ。下手に罰則なんか受けて時間を潰されるよりかは、その時間を本当に役に立つことに使ったほうが有効的でしょ。事実、ハリーが自制できていれば罰則を受けることもなかったし、クィディッチにも問題なく参加することができたんだから」

 

言い終えると同時にハリーの顔が赤くなり、ハリーは何かを言おうとしたのか口をパクパクさせていたが、そのまま何も言わずに階段を駆け足で登っていった。

その後姿が消えるまで見ていた私は、後ろの物陰に隠れている二人へと声を掛ける。

 

「二人とも、ハリーに自制させないと取り返しのつかないことになるわよ」

 

物陰から出てきたハーマイオニーとロンへ話しかける。二人は近付きながら、ハリーの向かった先をチラチラと見ている。

 

「分かってるわよ。でも、ハリーはどうしても我慢できないみたいなの」

 

「そりゃ僕だって、アンブリッジのババアに無闇に突っかかっていったら拙いとは思うけどさ。ムカつく気持ちは抑えられないって―――いや、うん、そうだな。ハリーはもうちょっと落ち着いたほうがいいな」

 

ロンの言葉にハーマイオニーが睨みつける。ロンは向けられたハーマイオニーの視線に物怖じしたのかハリー擁護から一気に手のひらを返した。

 

「でも、ハリーみたいになれとは言わないけれど、アリスはアンブリッジに対して何とも思っていないの?」

 

「勿論、思うところはあるわよ。でも、さっきも言ったけど、そんなことに一々反応していたら時間の無駄じゃない。だから、アンブリッジの話なんて半分以上は流して聞いているわ―――聞く価値ないもの」

 

私がハッキリとそう言うと、二人は口元を僅かに引き攣らせる。誰もが思っているだろうことを口にしただけであるのに、そのような顔をされるのは心外だ。

 

 

 

 

闇の魔術に対する防衛術。アンブリッジは教室の正面に置かれた椅子に座り、教室全体を舐めまわすように眺めている。対して生徒は、一切の言葉を喋らずに黙々とアンブリッジに指示された教科書の頁を眺めている。眺めていると言ってもその態度は様々で、教科書を読む振りをしながら器用に寝ている男子や、教科書の一点を見続けてぼんやりしている女子などがいる。本来であればそのような授業態度ならば先生に注意を受けること必死であるはずだが、アンブリッジは明らかに気がついていながらそれを黙認している。

というのも、最初の授業の際にアンブリッジが言っていた、不真面目にやって将来泣きを見るのは自分自身であるという言葉があるからこそだろう。不真面目な生徒は初めから切り捨てるつもりであるという考えが伝わってくる。さらに言えば、生徒に力を付けさせないという意味では、現状は好都合であることに違いない。

 

パラパラと、既に何十回と読み直した頁を読んでいる振りをしながら捲っていく。内容は理解する必要はない。既に理解しているものを理解し直すなんて労力の無駄極まる。

故に、頭の中では授業とはまったく異なることを思考する。ドールズが完成したため、次の目標としているのは人形の大規模操作や魔法具、魔法薬の貯蔵だ。現状、私が自身の意思で動かせる人形の最大数は、大きさにも左右されるが多くて数十体。精度に拘らなければもっと多くの人形を操作できるものの、実用性に欠けるために一定以上の精度を基準にしている。

私の当面的な目標は、一度に百を超える人形を操ることだ。私の人形の最大の利点は“数”であるため、その絶対数が多いほど望ましい。とはいえ、百を超える人形を操るというのは極めて難しい。簡単な動きをプログラムして動かすだけならばどうとでもなるが、それでは出来損ないのロボットレベルの動きしか出来ない。可能な限り精密に、かつ一体でも多くの人形を操る。これを達成するには、理論や知識よりも経験が重要だ。

 

「―――はい、では授業はここまでです。皆さん、今日読んだ章を自分なりにまとめてきなさい。次の授業に提出です」

 

授業が終わり、長く沈黙を続けていた教室に音が戻ってきた。生徒たちは教科書を仕舞うと、足早に教室から出て行く。私もパドマとアンソニーの二人と共に教室から出ようとするが、見計らったようなタイミングでアンブリッジが声を掛けてきた。

 

「あぁ、ミス・マーガトロイド。ちょっとお待ちなさい。確か、貴女は次の時間に授業はないはずよね。少し私とお話しましょう」

 

そう言って迫ってくるアンブリッジの顔は、自分の誘いが断られるとは思ってもいないかのように自信に満ちている。一体、何がこの女に自信を与えているのだろうか―――魔法省の権力か。

正直、断りたい気持ちで一杯である。だが、よくよく考えてみれば、今までにアンブリッジと直接話したことはなかったので、これを機会に一度だけでも話してみるのもいいのかもしれない。ものは試しと言うし、直接話すことで今まで見えなかった部分が見えるかもしれない。

 

「えぇ、構いませんよ。私も、先生とは一度話してみたいと思っていましたから」

 

心にもないことをよく言うと、自分で自分に呆れる。そんな私の内情を知らずに、誘いに乗った私に気分を良くしたのか、アンブリッジの口角が釣りあがる。それを見て察する。この女、間違いなく何か仕掛けてくる。

 

「悪いわね、二人とも。そういう訳だから、また後で会いましょう」

 

「そ、そうね。じゃぁ、私たちは先に行っているわ」

 

「話し込みすぎて、次の授業に遅れないようにね」

 

そう言って、二人は教室を出て行った。これで教室に残ったのは私とアンブリッジの二人だけだ。そこから二人で教室を出て向った先は、アンブリッジに与えられている教員部屋だ。アンブリッジが先に部屋に入るようにと言ったので、何を言うでもなく部屋へと入っていく。

 

以前この部屋に入ったのは三年生の時、ルーピンが防衛術の教師であった頃だが、部屋の内装は私の記憶にある面影を一切残さずに変わっていた。

まず、最初に目に入るのはピンクである。部屋のどこを見渡してもピンク、只管にピンク。机や石壁は流石に違うものの、絨毯やカーテン、ティーセット、花瓶やそれに添えられた花、クローゼットに掛けられたコートなど、その全てがピンク色に染まっていた。

その光景に一瞬眩暈がするものの立ち直り、次に視界に入ってきたのは部屋のいたるところに飾られた絵柄付のお皿。お皿の中央に描かれているのは猫であり、様々な種類の猫が部屋に入ってきた私たちへと視線を向けている。

 

「ようこそ、私の部屋に。歓迎するわ」

 

相変わらずの撫でるような声で話すアンブリッジは、扉を閉めるとティーセットの置かれている棚へと向う。

 

「さぁさ、どうぞお座りなさい。貴女はお客さんなんだから、気楽にしてていいのよ」

 

アンブリッジはそう言うと、こちらに振り向いたっきり動かない。その視線はじっと私へと向けられている。あまり向けられていたくはない部類の視線であるため、アンブリッジの勧め通りに椅子へと座る。私が椅子に座ったことで満足したのか、軽く頷いた後にお茶の準備へと入った。

 

アンブリッジが完全にこちらを見ていない隙を見計らって、袖口から一本の小針を取り出す。取り出すと言っても、袖口の中に縫い付けてあった小針を押し出して、針先を出しただけだが。取り出した針を腕に押し付けて突き刺す。小針とはいえ皮膚に刺さる痛みはあるものの、今となっては慣れたものであり、表情一つ動かさずに済ます。

この一連の行動を、膝上で手を重ねる過程の動きの中で完了させる。傍目に見ても、椅子に座った後に手を膝上で重ねたようにしか見えないはずだ。

 

何故学校でこんな工作員染みた行動をしなくてはならないのかと溜め息を吐きたくもなるが、原因はこの部屋の壁に飾られているお皿―――正確にはそれに描かれた猫だ。部屋に入ってからというもの、視線を一度も逸らさずに私を見続けている。猫が好奇心旺盛で、この絵の猫もそのような習性があるとしても、明らかに異常な光景だ。まず間違いなく、この猫達は何らかの意図があって私を見ている。そして、その意図を辿った先にあるのはアンブリッジであることは確かだろう。というより、この状況でそれ以外の可能性が思い浮かばない。

 

「さぁ、紅茶が入ったわ。生徒とお話できる機会なんて滅多にないから、とっておき(・・・・・)の葉を使ってみたの。お口に合えばいいのだけれど」

 

アンブリッジは慣れた動作でテーブルへとソーサーに乗ったカップを置く。同時に漂ってきた香りに思わず笑みを浮かべる。

 

「―――確かに、良い葉を使ってますね。とっておきと言うだけはあって素晴らしい香りです。当然、先生の腕の良さもあるのでしょうが」

 

「ふふ、ありがとう。貴女も紅茶には詳しいのかしら?」

 

「まぁ―――それなり、とだけ言っておきます」

 

「まぁ、それなら今度またお茶をする機会があれば、是非貴女の入れる紅茶を飲んでみたいわ」

 

「そうですね。機会があればご馳走しますよ」

 

そう言ってお互いに声に出さずに笑い合う。傍から見れば、今の私達はさぞ仲の良い紅茶飲み同士に見えることだろう。

 

「貴女とは良い友達になれそうだわ。さぁさ、冷めないうちにお飲みになって」

 

そう言って、アンブリッジは再び私へと視線を固定する。先ほどよりも深い笑みを浮かべながら。私は、特に何を言うでもなくカップを持ち、口をつけ紅茶を含み、飲み込む。その瞬間、アンブリッジの笑みが一層深まったのが見えた。それも先ほどまでと違い、ハッキリと悪意を感じ取れるような薄っぺらい笑みだ。

 

「どうかしら? あまり人に振舞ったことがないから、是非感想を聞きたいわ」

 

「―――とても美味しいですよ。その手の(・・・・)お店に出せるレベルの味ですね」

 

確かに美味しい。それは嘘ではない。

そして、その手の(・・・・)お店に出せるレベルというのも嘘ではなく本当のことだ。最も、その手の(・・・・)お店というのは極めて限られるものであるが。

 

「あら、お世辞でも嬉しいわ。そう言ってもらえると、貴重な葉を使った甲斐があるというものだわ」

 

確かに貴重だろう。最も、本当に貴重であるのは葉ではなく、このお茶に含まれているモノであるのだろうが。

 

「それで、お話とは一体なんでしょうか?」

 

「あぁ、そうだったわね。ごめんなさいね、すっかり忘れていたわ」

 

アンブリッジは欠片も悪く思っていなさそうな表情で謝罪を口にする。

 

「それで、お話というよりは貴女に聞きたいことがあるの―――ダンブルドアは何を隠しているのかしら?」

 

いきなり本命の話題がきたか。こう聞いてくる以上は、私がダンブルドアと繋がっていると知っている、ということか?

 

「仰る意味がよく分かりませんが? ダンブルドア校長が何かを隠しているなんて、私が知っているわけないですよ?」

 

アンブリッジの問いにそう返すと、アンブリッジは予想外というかのように目を見開いた。アンブリッジにとって私が質問の答えを知らなかったのが予想外なのか、本当の事を喋らなかったことが予想外だったのかは知らないが。

 

「そうね、変な質問をしてごめんなさい。ほらほら、紅茶を飲みなさい。折角の紅茶が冷めてしまったらもったいないわ」

 

アンブリッジはすぐにいつも通りに持ち直すと、カップに残っている紅茶を飲むように勧めてくる。私はなにも言わずに素直に紅茶を飲み干した。

 

「そう、貴女は何も知らないの―――なら、別のことを聞くわ。ダンブルドアの仲間にはどんな人物がいるのかしら?」

 

「仲間というと、教師陣ということでしょうか? でしたら、ホグワーツの教員は全員が教育に携わる仲間と言えるでしょうし、仕事上知り合った人物も仲間と言えるのではないですか?」

 

「―――いいえ、いいえ。違うわ。もっと結束している仲間のことよ。ダンブルドアが秘密を共有するような仲間は誰がいるの?」

 

「―――? すみません。やっぱり先生の仰る意味が、よく分からないのですが?」

 

アンブリッジの顔が見る見る内に苦虫を噛み潰したようなものへと変わっていく。

それはそうだろう。経緯はともかく、今回のアンブリッジの行動は私がダンブルドアと繋がっていると判断したが故のものあり、アンブリッジの中では私が洗いざらい全てを白状しているというのが、本来望んでいた展開であるのだろうから。

 

 

その後は、アンブリッジが新しく入れ直した紅茶を飲み、アンブリッジの問いに対して適当に答えていく時間だけが過ぎた。部屋の中に沈黙が包まれる頃、授業終了を知らせる鐘が鳴り、廊下がざわざわと騒がしくなる。

 

「それでは、次の授業があるので失礼します。紅茶ありがとうございました。とても美味しかったですよ」

 

「―――そう、それは良かったわ」

 

私がお礼を伝えると、アンブリッジもいつもの笑みを浮かべて返事を返す。

部屋を出て、生徒の波に乗りながら次の授業がある教室へと向かい、歩きながらアンブリッジの行動を思い返す。

アンブリッジ―――というよりは魔法省が私とダンブルドアの関連性を疑っているのは構わない。先学期にファッジに対して堂々とヴォルデモート復活を宣言したのだから、疑って掛かるのは当然だろう。それでも、まさか“真実薬”まで使って尋問をするとは。魔法省―――ファッジも形振り構っていられないといったところか。

 

杖を取り出して、先ほど取り出した小針へ“消失呪文”を使い、小針を消し去る。この小針には極めて強力な解毒薬が含まれており、皮膚に刺すことで一時間の間だけ解毒作用をもたらす魔法薬だ。これによって、アンブリッジが紅茶に仕込んだ“真実薬”を解毒・中和することが出来た。

 

紅茶に含まれていたのが“真実薬”であると判別できたのは何のこともない。ただの状況判断に過ぎない。

 

 

 

 

夕食を終えた私は、寮へと戻らずに天文台へとやってきた。というのも、朝のふくろう便で送られてきた手紙によって呼ばれたからだ。

 

「こうして話すのは先学期以来かな。元気にしていたかい?」

 

そして、天文台の壁に寄りかかる私の横には呼び出した張本人―――セドリックが、相変わらずの爽やかフェイスで同じように壁に寄りかかっている。

 

「そうね。夏休みは会う機会自体なかったし、学校でも話せるタイミングがなかったしね」

 

セドリックは騎士団に入っておらず、加えて夏休みの間は実家で過ごしていたために会うことはなかった。新学期が始まってからも、私はOWL、セドリックはNEWT(いもり試験)で忙しく、かつアンブリッジがいるせいもあって話す機会がなかったのだ。

 

「アリスは、その、大丈夫かい? 日刊預言者新聞で色々言われているだろう? レイブンクロー内でも何か言われていないか?」

 

「多分チョウから聞いてはいると思うけれど、今のところは大丈夫よ。ヴォルデモートが復活したことを信じていない人もいるけれど、何人かは信じてくれているみたいだし。ハッフルパフではどうなの?」

 

「こっちも似たような感じかな。魔法省の中傷が逆に僕達の言葉に真実味を持たせてくれている。グリフィンドールではその影響が特に大きいみたいだし」

 

それとなく聞いてはいたが、ハッフルパフやグリフィンドールでもレイブンクローと似たような感じか。ここまでくると、魔法省にはある意味感謝してもいいかもしれない。

ちなみに、スリザリンに関しては語るまでもないので割愛する。

 

「お父さんが言うには、ファッジはかなり無茶な改革を準備しているらしい。詳細な内容は分からないけれど、アンブリッジに関係していることは間違いないようだよ。今のファッジは昔とは大分違っている。ヴォルデモートの一件とは別に、魔法省内で不満の声が上がってもいるらしい」

 

「それもある意味では当然かもね。いくらハリーの魔法不正使用による裁判をするといっても、刑事事件の大法廷を開くなんて明らかに度が過ぎているわ。裁判を行っているその場で、法律は変えられるなんて言っていたみたいだし。魔法省大臣としては明らかな問題行動よ」

 

それこそがファッジの失態の始まりだろう。不満を抱くとはいえ法律を変えられる権力を持つファッジは、大法廷を召集するよりもそちらを固めてから裁判に取り掛かるべきだった。法律さえ変えてしまえば、たとえ最小規模の法廷であってもハリーの有罪は逃れられなかっただろうに。裁判の日程を決定するのは魔法省なのだから、ハリーの魔法不正使用が発覚してから準備をしても、こちらに文句を言うことは出来ない。

尤も、それを行ったら今度はハリーを有罪にするために法律を変えた、とうことで批判を受けてしまうのだが。

 

「アンブリッジといえば、セドリックの学年では防衛術はどんな感じなの?」

 

「他の学年と同じさ。始まりから終わりまで只管に教科書を読み続けるだけだよ」

 

「七年生はNEWTがあるのに大変ね」

 

「それを言ったらアリスもだろ? 今年はOWLじゃないか」

 

「「―――はぁ」」

 

魔法省とアンブリッジに振り回されている現状に、思わず溜め息を吐いてしまう。それがセドリックと重なってしまい思わず笑ってしまうが、何も言わずに寮へと帰っていった。

 

「―――あ、情報交換とはいえ夜中に他の女性と会っていると、チョウが怒るわよ?」

 

「―――気をつけるよ」

 

 

 

 

翌日の変身術の授業では、ゴブレットに注がれた水を“消失呪文”で消す授業が行われた。授業が終わり、マクゴナガルが“消失呪文”についてのレポートを羊皮紙二巻き分宿題として出し、生徒が呻き声を上げながら教室から出て行く。午前最後の授業であったため生徒は皆が大広間へと向かい、私もパドマとアンソニーの二人と大広間へ向おうとするが、教室から出ようとしたところでマクゴナガルから声を掛けられた。

 

「ミス・マーガトロイド。お待ちなさい」

 

似たような展開が昨日もあったなぁ、と思いながら振り返る。マクゴナガルがいつものように背筋を伸ばしながら近付いてきていた。

 

「何でしょうか? 先生」

 

「少し話しておくことがあります。時間は取らせないので昼食には十分間に合うでしょう」

 

「―――分かりました。というわけで、後で向うから先に大広間へ行っていて」

 

「分かったわ。あまり遅くならないようにね」

 

昨日のアンブリッジの時とは違い、軽い感じて返事をしたパドマはアンソニーの腕を引っ張って教室を出て行った。昨日と違うのは、今回がマクゴナガルだからだろうか。

教室奥にある準備室へと入り、マクゴナガルに勧められたソファへと座る。マクゴナガルも対面に座ったところで、ローブの中から小さな袋を取り出してテーブルの上に置く。

 

「頼まれていたものです。一応、事前に頼まれていた分は作ってあります」

 

マクゴナガルは袋を手に取り、中を軽く確認した後にローブの中へとしまった。

 

「ご苦労様です。それにしても、このような魔法具を自作するとは、貴女の才能には舌を巻くばかりです。正直に言うと、貴女がどこでこのような技術を身に付けたのか聞きたいのです。ダンブルドアが信用なさっているのですから、それが無粋なことだと分かってはいるのですが」

 

マクゴナガルはそのまま口を閉ざし、僅かな沈黙の時間が流れる。一分か二分か経った頃、立ち上がったマクゴナガルは仕事机の引き出しから一つの細長い箱を取り出して、私へと渡してくる。

 

「アラスターから今回の魔法具作成に対する報酬です。アラスターはこういったことには非常にシビアなので、相応の報酬が入っているでしょう」

 

マクゴナガルから箱を受け取り、フック状の留め金を外して中身を確認する。箱の中にはガリオン金貨が綺麗に一列に並べれて収納されていた。

 

「―――流石にこれだと貰いすぎな気がするのですが」

 

「貰っておきなさい。闇と戦うための道具にはいくらお金をつぎ込んでも足りないというのが、アラスターの考えなのです」

 

「―――そうですか。それなら、遠慮なく貰っておきます」

 

返すのもどうかと思うし、あって困るものではないので、ありがたく貰っておくことにする。

 

「ところで、昨日アンブリッジ先生に呼ばれたと聞きましたが、何かありましたか?」

 

「耳が早いですね。安心してください、別にハリーみたいに反抗したわけではありませんから―――まぁ、別の意味で反抗はしてしまいましたけどね」

 

「―――それは一体どういうことですか? 貴女なら、今の状況で彼女に何かすることは、付け入る口実を与えるだけだと分かっているはずです」

 

「勿論、それは分かっていますよ。ですが、危うく“真実薬”を盛られそうになったんですから、それを回避した代償としては安いものだと思いますが?」

 

「なっ―――それは本当なのですか? “真実薬”を使われたと?」

 

マクゴナガルが酷く慌てたように身を乗り出してくる。それも当然だろう。“真実薬”をアンブリッジが使ってきたということは、危うく騎士団の秘密が暴かれようとしたのだから。

 

「“真実薬”だという確証はありませんが、アンブリッジ先生の言動から察するに間違いはないと思いますよ」

 

そう言って、昨日アンブリッジに紅茶を飲まされたことからアンブリッジの表情の変化、質問の内容を説明した。それを聞いたマクゴナガルは顔から血の気が僅かに引いた様子だった。

 

「なんと―――では、貴女はアンブリッジに秘密を晒してしまったということですか?」

 

「それこそまさかです。アンブリッジが秘密を知っていたら、今頃魔法省が色々と介入してきているでしょう?」

 

「それはそうですが―――では、貴女はどうやって秘密を守ったのです。貴女が“閉心術”を使えるというのは聞いていますが、“真実薬”は“閉心術”で防げるほど簡単なものではありませんよ」

 

マクゴナガルの言うとおり、“真実薬”の効果は“閉心術”では到底防ぐことが出来ないほどに強力だ。あれは服用者の深層意識で左様するレベルの薬なので、防ぐ以前に“閉心術”を使うことが極めて困難なのだ。理論上であれば、“閉心術”でも“真実薬”を防ぐことは可能とされるが、あくまで理論上での話であって実際に防ぐことの出来る者などまずいない。

 

「毒をもって毒を制する。東洋の言葉ですがそれを用いました―――毒と言ってもこの場合は魔法薬ですが。“真実薬”の効果を中和する魔法薬を、紅茶を飲む前に接種することで、“真実薬”を無効化したんです」

 

そう説明すると、マクゴナガルは絶句という言葉がピッタリ当てはまる顔をした。

 

「そんな、馬鹿な―――“真実薬”は数ある魔法薬の中でも特に強力なものの一つです。こと自白剤としての効力に関しては、まさしく最高の魔法薬です。それを中和したと、本当に貴女はそう言うのですか?」

 

「そうです。お疑いのようでしたら調合法をお教えしますので、スネイプ先生やムーディに検証してもらってはどうでしょうか? 当然、その際には無闇に情報が漏れないように取り扱い厳守でお願いしますよ」

 

今まで強力な自白剤として、犯罪者の尋問に役立ってきた“真実薬”を中和することができる魔法薬が存在するというのは、間違いなく騒ぎの種になりえる代物だ。もしこれが流出でもしてしまえば、これからの尋問や捜査に多大な支障が出ることは確実である。

だが、デメリットだけでなくメリットも確かにある。今回のように、敵対している相手への重大な情報の流出を防ぐことが可能であるのだから。

 

「―――よいのですか? 今まで存在しなかった新薬です。秘密にしておけば、将来的にも様々な状況で、貴女にとって有益になりえるのですよ」

 

「構いませんよ。いくら有効に使えるものでも、使う機会がこなければ宝の持ち腐れですからね。それなら、ヴォルデモートと戦う上で使ったほうがより有効的です」

 

それに、中和剤と言っても私にとっては無意味な代物だ。調合法を理解している製作者にとって、それを無効化する方法を知っているというのは当然のこと。魔法薬の中には無効化出来ないものも存在するが、この魔法薬に関してはそれが存在する。

尤も、それを作るには私しか知りえない上に、必要な材料も一つしか存在しないことに加えて、それを手に入れられるのは私だけ。故に、この調合法が流出したところで私にデメリットはない。

 

「―――分かりました。では、スネイプ先生に検証してもらいましょう。一応、このことはダンブルドアにも報告しておきますが、よろしいですね?」

 

「構いません」

 

その程度のことは承知済みだ。

その後は、羊皮紙に調合法を記してマクゴナガルへと渡し、思った以上に話し合いが長引いてしまったために、大広間へと急ぎ足で向かっていった。

 

 

 

 

本の虫を片手に持ち、近くに誰もいないことを確認しながら廊下を歩いていく。廊下から見える外は赤く染まっており、あと数十分後には夕食の時間になるだろう。私の肩には上海と京が乗っており、私の死角となっている後ろや視線の反対側を注意深く見渡している。

 

そうやって辿り着いたのは必要の部屋がある壁の前だ。本の虫で近くに誰もいないことを確認して、ポケットから一つの砂時計を取り出す。砂時計にはチェーンが付いており、それを首に掛けてから手の中で砂時計をクルクルと回していく。砂時計を回し終えると、私を中心とした周囲の光景が急速に変化していく。暗くなっていた廊下は明るくなっていき、廊下を歩く人は前を向きながらも後ろへと移動していく。ビデオを巻き戻すようなその光景は続き、朝へと近付いたところで景色の逆再生は停止した。

 

朝日が廊下へと入り込むのを眺めながら砂時計―――逆転時計をポケットへと仕舞う。そして壁の前で規定の回数を往復し、現れた扉を開けて必要の部屋へと入っていく。

 

この逆転時計は、ヴワル図書館の保管庫に眠っていた魔法具の一つだ。非常に貴重な魔法具である故にパチュリーが持って行ってしまっていると思っていたのだが、予想に反して残っていたのには驚いた。

まぁ、残っていたものは仕方がないので、ありがたく使わせてもらうことにした。幸いにも、今年は逆転時計のお陰で非常に有意義な時間を過ごせている。何せ、授業がある日でも夕方に使って朝まで戻れば、本来授業で縛られる半日を自由に過ごすことが出来るのだから。新学期が始まってからは、余裕のある時間を見つけてはちょくちょく逆転時計を使っているので、今までとは段違いに作業を効率よく行うことが出来ている。

尤も、戻した時間に比例して歳を重ねていくということでもあるが、たかだか数時間、数日の差でしかないので気にすることはない。

 

必要の部屋に入り、本棚の間をすり抜けて“姿くらましのキャビネット”の前へと立つ。扉を開けて、キャビネットの中へと入り呪文を唱えると、ヒュンという音とキャビネットの中に付けた目印によって移動を終えたことを確認する。そして、扉を開くとそこは必要の部屋の中ではなく、ヴワル図書館の寝室へと移っていた。

 

「よっと」

 

キャビネットから出て、軽く伸びをする。その際に背骨がポキという小気味いい音を出した。壁に掛かっている時計を見て時間を確認し、戻るまでの時間とそれまでに行う作業を考えていると寝室の扉が開く。入ってきたのは倫敦と露西亜であり、二人は空中を滑るように移動しながら近付いてきた。

 

「久しぶりね、二人とも。元気にしていたかしら?」

 

「大丈夫、何も、問題ない」

 

「強いて言えば、オルレっちがファランクスに失敗して訓練室を壊したくらいかな」

 

「……それは、問題ありじゃないの?」

 

倫敦と露西亜の報告に溜め息を吐きながら部屋を出る。

ドールズは全員が異なった成長をしており、分かりやすい違いとしては話し方や性格に差が生まれている。倫敦は言葉を切って話すし、露西亜は一見普通に話すけれど性格に癖がある。その他のドールズも個性と呼べるものが確立されて嬉しく思う反面、一部のドールはもう少し穏やかに育たなかったものかと悩んでいる。

 

廊下を抜けて大書庫へと入ると、そこにはパチュリーがいた頃には見なかった光景が広がっている。無数の本棚の間をすり抜けるように動いて本を運んでいる人形、散らかった床を掃除している人形、机に並べられた様々な器具を前にして材料を調合している人形など、ドールズの指揮を中心として多くの人形が作業を行っている。

私が部屋に入ってきたことに気がついた蓬莱が一部の人形を除いて作業を中断させて、挨拶をしてくる。それに片手を上げることで返し、そのまま作業に戻るように指示すると人形は再びそれぞれの作業へと戻っていった。

 

「お疲れ様、蓬莱。オルレアンのこと以外で何が問題はあったかしら?」

 

持ち場に向っていく倫敦と露西亜と入れ替わるようにして近付いてきた蓬莱へと声を掛ける。蓬莱はドールズの中では上海に続く年長者なので、私がいない間の指揮を任せている。

 

「特にはないかな? ―――あ、確か魔法薬の材料が少なくなってきたから、近いうちに補充する必要があるって仏ちゃんが言ってたかな」

 

魔法薬に使う材料は夏休みの間に結構買い込んでいたはずだけど、それがもう無くなりそうとは。気合入れて作っているのか、はたまた失敗しているのか。後者はないと思うが、直接聞いた方がいいだろう。

 

「ありがとう。そのことは仏蘭西に直接聞いてみるわ。蓬莱も疲れているでしょうし、休憩にしましょう。紅茶とクッキーの用意をしてもらっていいかしら?」

 

「うん、分かった―――は~い、皆~! 休憩の時間ですよ~!」

 

蓬莱の声に人形達は一斉に動きを止める。そして各々近くにある椅子やらソファー、テーブルの上にまで移動すると座り込み、目を閉じて動かなくなった。

この人形たちはドールズみたいに魂が宿っているわけではなく、昔に使っていた半自立操作によって動かしている。普段の動きは事前に組み込んであるプログラムによって動き、それをドールズが細かく指示することで荒い部分を修正しているのだ。本来であれば、人形を動かすためには魔力を随時供給する必要があるのだが、錬金術研究によって生み出した魔力結晶を用いることでクリアした。この魔力結晶は大気に満ちている魔力を吸収して蓄えるというものだ。

 

これだけ聞くと何やら便利そうな物と思えるが、実際にはそれほど有効価値のある物ではないのが実情だ。というのも、蓄えた魔力の利用が非常に危険だからだ。魔法使いは、自身が生み出した魔力の他に、大気からも魔力を取り込んで運用している。これを意識して行えるかで使用できる魔力の強弱というのもが分かれるとされ、歴史上において偉大な魔法使いと呼ばれる者は全員がこれを行うことが出来たと言われている。

 

だが、魔力結晶の場合は結晶という媒介を経由してしまうためか、魔力の質に変化が起こってしまい、人間がその魔力を取り込むと毒となって身体を蝕んでしまうのだ。少量ならば大丈夫だが、大量の魔力を結晶から取り込んでしまうと内臓器官に障害が起こり、最悪の場合では死に至ってしまうほどの猛毒となる。これは“魔力中毒”と呼ばれ、過去にこの症状に陥った者で生きている者は、聖マンゴ病院の隔離病棟に入院しているらしい。

それ故に、現在では魔力結晶を作り出す者は存在しなくなった、失われつつある知識だ。

 

だが、私にとってはこの魔力結晶というのは非常に利用価値のあるものだ。確かに人間が使うと毒にしかならない代物だが、人形に対して使うのであればメリットしか残らない。何せ毒に侵されることなく、純粋に魔力源として活用出来るのだから、その重要性は大きい。

 

「ありがとう」

 

近くのソファーに座り、蓬莱が持ってきた紅茶を受け取る。一緒に持ってきたクッキーを一枚齧り紅茶を飲むと、随分と腕が上がったなと思い笑みがこぼれた。そうやって一息をついていると、作業が一段落したのか仏蘭西がやってきた。

 

「お疲れ様。調子はどういかしら?」

 

「あ~、いい感じだよ~、うん。結構調合できたし~、ストックは十分じゃないかな~」

 

仏蘭西は他のドールズとは違って、生まれた当初の間延びした声を今も引きずっている。成長していないということはないので、多分これが仏蘭西の個性なのだと思う。

それはともかく、ストックが確保できるほどに順調ということは、材料が不足しているというのは単純に魔法薬の作り過ぎということか。

魔法薬は仏蘭西の指揮の下に、人形が役割を分担して行っている。複雑なプログラムが組み込みにくい人形達には複雑な作業を要する魔法薬調合は難しいかと最初は思っていたが、予想に反して良い成果を上げている。人形達はプログラムに従って動くために、一定の動きを忠実かつ正確に再現するのだが、その正確な動きこそが魔法薬の調合に適していたのだ。人間では集中力に限界があり、どうしても気の緩んでしまう瞬間というのが存在する。対して、人形にはそういったことはないので、常に安定して魔法薬を作ることが出来るのだ。これが分かってからは、プログラムに魔法薬調合法を組み込んで人形達に魔法薬の調合を一任している。とはいっても、全部が全部任せっきりというわけではないが。

 

「ご苦労様、ありがとうね。それだけ作ったのなら材料も少なくなっているでしょうし、暫くは魔法薬の調合はお休みでいいわ―――そうね、オルレアンの方を手伝ってあげて」

 

仏蘭西に指示を出すと、仏蘭西は早速と言わんばかりにオルレアンがいるだろう別室へと向かっていった。この様子だと、そのままオルレアンの訓練を再開させてしまいそうなので、十分に休憩してから手伝うようにと言い含めておく。

オルレアンは私の護衛―――親衛隊のリーダーの役割を担うドールだ。親衛隊には当然、オルレアン一人だけでなく、オルレアンを含めた複数の人形で構成されている。この人形は、制作には他の人形よりも手を掛けているものの、魂を宿すドールズと比べると自立行動の可否の差がある。それはどうしようもないことだが、私を守る人形を私が操っても大した意味はないので、親衛隊の人形にはオルレアンの命令に従い行動するというプログラムを組み込んだ。これによって、オルレアンの指揮の下に親衛隊が機能することになったのだが、生まれたばかりのオルレアンに複数の人形を同時に指揮し、かつ自分自身も状況を判断し動くというのは非常に難しい。それ故に、オルレアンには他のドールズとは別に、訓練を繰り返して経験を積み上げることが最優先だと言ってある。

 

ちなみに全ての人形が手作りと言うわけではなく、ここにいる人形は“双子の呪文”によって生み出した人形が大多数を占めている。流石に時間があるとはいえ、これだけの人形を一体ずつ手作りで作り出すのは骨が折れてしまうからだ。

 

 

暫く休憩した後、オルレアンの訓練を手伝ったり、仏蘭西と一緒に魔法薬の出来栄えを確認したり、蓬莱や倫敦や露西亜の調整などを行った後、いくつかの道具や魔法薬を手にしてホグワーツへと戻った。

 

 

 




【仲良く登校】
そりゃぁ一緒に住んでいるんだから、一緒に動くさ。
奴らの朝のドタバタ騒ぎに巻き込まれてしまっていますけど。

【臭い粘液(臭液)が掛かった(口にも入った)ドロドロ姿のアリス】
―――あえて言おう。
未成年禁止的なことを想像した奴……お前は自首するべきだ。

【ザ・クィブラー】
アリスは愛読者にして定期購読者

【僕も、君が賢い選択をすることを祈っているよ】
まるで、手のひらを返したかかのような態度。
マルフォイだから仕方がないか。

【ヴォル復活説】
セドリックとアリスが加わるだけでこの違い。
魔法省のあの中傷は、あからさま過ぎて逆に怪しいと思います。

【ピンクBBA】
さて、どうやって排除しようか。

【チョウ・チャン】
このビッt……げふんげふん。

【レイブンクローの三賢者】
アリス、パドマ、アンソニーのこと。実際にそんな称号はついていない事実無根なものだが、この三人が同期で最も優秀な部類であることは否定しようのない事実。

【アンブリッジ<ロックハート】
どっちがマシかなんて明らかだろう? 常識的に考えて。

【癇癪ハリー】
煽り耐性Zero。
どっかのAUOみたいだな。
―――つまり、そのうち覚醒フラグが立つということですね。わかりません。

【アリスVSアンブリッジ 前哨戦】
真実薬? アリスから秘密を奪いたければ、その三倍は持ってこい!
―――たとえ十倍濃縮の真実薬があっても、中和してみせますが。

【セドリックとの夜の密会】
思春期の心を刺激するような展開ですね。
この二人に限って、それはありえないけどな!

【マクゴナガル】
若干、達観の域に入りかけ。
いつか、アリスだから仕方がないという風に思わせたい。

【逆転時計】
暗躍する時間がないなら、作ればいいじゃない?

【ヴワル図書館】
普段学校に縛られるアリスに変わって、色々と裏で作業中。
学校では上海と京を連れており、他のドールズはヴワルで仕事中です。
(時たま、入れ替わったりもしている)

【ドールズ】
上海:青い服を着た人形。全人形のリーダー。標準語で話す。
蓬莱:赤い服を着た人形。標準語だが、時折過激な言葉が入る。”~ちゃん”と姉妹のことを呼ぶ。
露西亜:黄色い服を着た人形。標準語、特攻気質。”~っち”と姉妹のことを呼ぶ
京:藍色の着物(最近は他のドールと同じ服)を着た人形。口数が多くなく、基本無口。
倫敦:橙色の服を着た人形。単語、単語で話す。
仏蘭西:緑色の服を着た人形。のんびり屋、間延びする話し方。
オルレアン:紫の服を着た人形。生真面目、礼儀正しい。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。