久しぶりの投稿につき、作風崩れてないか不安。
でも、深くは気にせず糖化―――じゃない投下。
――――――2016/01/2 修正
前話の「秘密」を都合上、修正しました。
本文の一部”破れぬ誓い~”の部分を削除
今学期最後のクィディッチの試合も終わり、優勝杯はグリフィンドールが他寮に大差をつける形で獲得した。その後は特に目立つような出来事もなく、迫る学年末試験が近づいた六月。
「結局、これまでマルフォイが何をしているのかは、分からずじまいだったな」
今学期最後のDAが終わり、談話室へと戻る道すがらロンが呟く。それに反応したのはハーマイオニーだ。
「ロンったら、まだマルフォイのこと気にしているの? 貴方はそんなことより、もっと気にするものがあるんじゃないかしら?」
「それを言うなよ、ハーマイオニー」
ロンが嫌なことを思いだしたかのように顔を顰める。DAではそれなりに腕を上げているロンだが、相変わらず座学には弱いようで、学期末試験を親の仇のようにみている。
「ハリー、マルフォイは今日もずっと籠りっぱなしかい?」
「そうみたいだ。僕らが必要の部屋を使っているときに入ってきてから、一度も出ていないよ。何度かマルフォイが入っている部屋に入れないか試してみたけど、無駄骨だったな」
ドラコはここ最近、時間の許す限り必要の部屋へと籠りっきりになっている。時には授業をサボることもあるほどだ。そこまでして、部屋の中で何をしているのかは確かに気になるが、知ることが出来ない以上あれこれ考えていても仕方がないことではある。
「それじゃ、私はこっちだから」
未だドラコのことで話し合う三人に一言断ってから、レイブンクローの談話室へと別れる階段を進んでいく。時間も既に遅く、あと一時間もすれば外出禁止の時間になるだろう。私はそれを気にする必要もないのだが、特に差し迫ってやることもないので、意味もなく夜中を出歩くこともない。
談話室へと入り、それなりに埋まっている席から空いている場所を見つけ、就寝時間まで本を読んで時間を潰す。そうして時間を潰していき、本を読み終わったと同時にルーナが話しかけてきた。
「はい、アリス。ダンブルドアから頼まれたの。渡してくれって」
そう言って手渡されたのはメモ用紙程度の羊皮紙の巻紙だった。
「ありがとう、ルーナ」
本を机に置き、受け取った羊皮紙を開いて書かれている文章に目を走らせる。
「―――、ちょっとダンブルドアに呼ばれたから出かけてくるわ」
「そうなんだ。いってらっしゃい」
「えぇ。それと、多分ハリーかハーマイオニーから連絡がくるかも知れないけれど、低学年を除いたDAメンバーに警戒を促しておいて。恐らくだけど、今夜は一波乱あるかもしれないわ」
「うん、わかった」
緊張感を持って言った言葉にも相変わらずの調子で答えるルーナに苦笑しつつ、少しの指示を出してから談話室を出ていく。ダンブルドアに呼ばれたのは、使われていない空き教室の一つだ。人気のない暗い廊下を歩き、目的の空き教室に着いて扉を開ける。
教室の中にはダンブルドアの他に、キングズリーやトンクス、ムーディ、ルーピン、シリウスといった騎士団のメンバーがいた。
「マーガトロイド、お前も来たか」
ムーディが杖を床に打ちつけながら近づいてきて、力強く肩を叩いてくる。
「お前はそこらの闇祓いより余程優れているからな。頼りにしているぞ」
「ちょ、痛、痛いんですけどッ」
遠慮なく叩いてくるムーディから逃げるように距離を取り、他のメンバーと軽く挨拶してからダンブルドアの話を聞く。ダンブルドアはこれからハリーと外に出るということと、場所や目的は語れないが、その間ダンブルドア不在のホグワーツの警護を任せるということ。尤も、他の人はともかく私は目的を知っている。このタイミングでハリーと共にやることと言えば、分霊箱の捜索及び破壊しかないだろう。
ダンブルドアが出ていき、空き教室に騎士団のメンバーのみとなった後、校内巡回の打ち合わせを行い、それぞれの担当する巡回区域へと向かっていった。
私も巡回に向かい、その途中でドールズを全て呼び出すと同時に何体かの人形も呼び出す。その内の二体の人形に小袋を持たせて、ルーナかハーマイオニーかジニーに渡すように向かわせる。小袋の中にはフェリックス・フェリシスの小瓶が複数入っている。直感というか予感というか、とにかく今夜は一波乱起こるような気がする以上、それに巻き込まれるかもしれない彼女達には出来る限りの護りを施しておくべきだ。その点では、フェリックス・フェリシスによって齎される幸運はかなりの効果を発揮してくれるだろう。今回の分でヴワルに貯蔵していたフェリックス・フェリシスのほぼ全てを使ってしまうことになるが、所詮は魔法薬。また作ればいいだけのことだ。
暗闇に包まれる廊下を巡回しながら手持ちの装備を確認していく。杖、ドールズ、人形数体、カードホルダー、各種魔法薬、魔法具のアクセサリ。身軽に動ける範囲での万全の装備は整っている。
「さて、あとは」
人形をさらに二十体程呼び出し、魔力糸で繋いでから城内へと散開させる。もし人形が壊されたり呪文を掛けられたりすれば、魔力糸を伝って私へと伝達するようになっている。私から散開させた人形の見ているものが分かるという訳ではないが、相手からしたらそんなこと分からないので、廊下の真ん中を進む人形と遭遇したら何かしらのアクションを起こす可能性が高い。
城の中を見回り始めてから大凡一時間。
「ッ!?」
これといって異常の起こらないことに少し気が緩んでいたとき、城内を索敵させていた人形の一体の反応が途絶えたのを感じた。伝わった感覚からして恐らく破壊されたのだろう。反応があった場所は、ここからそう離れてはいない。魔法で足音を消しながらそこへ近づいていくと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「気をつけろッ! 折角気づかれずに侵入できたのに、無駄にするつもりかッ」
「落ち着きなよ、悪かったって。あれを見ていたら、あのクソガキを思いだしちまってねぇ」
片方の声はドラコのものだ。もう一方の声は思い出すまで一瞬間が空いたが、ベラトリックスのものだと気がつく。他にも多くの人間の声が聞こえる。ドラコとベラトリックスの会話からして死喰い人だろう。
いったいどうやったのか知らないが、ホグワーツに死喰い人の集団が侵入したということは間違いないので、予め渡されていた連絡用の魔法具でムーディ達へ連絡する。
連中がどんな目的で侵入してきたのかは不明だが、このまま見ているだけということはありえないので、隙をみて奇襲をかけられるよう戦闘態勢に入る。
「―――で、いつまで隠れているつもりだぃ? クソガキ」
「!?」
私が戦闘態勢に入った途端、ベラトリックスが振り向き様に呪文を放ってきた。私が隠れていた壁を破壊し、飛び散る破片が襲ってくる。
「久しぶりだねぇ、クソガキ。元気そうでなによりだよ」
ベラトリックスの放った呪文は相当に強力だったようで、壁が大きく抉れている。まるでドラゴンが噛み砕いたかのような破壊痕から、エクスパルソ以上の威力を持った呪文だと想像できる。
「いいのかしら? こんなに大きな音を出しては、すぐに他の人がやってくるわよ?」
すでに連絡はしているので数分と経たずにやってくるため、音を立てようが立てまいが関係ないのだが。
「はッ! 下手な芝居はお止め。お前のことだ、どうせもう知らせているんだろう? こっちは端から気づかれずに事を進められるとは考えちゃいないんだよ」
「だから、僕が止めるのも無視して呪文を使ったのか?」
ドラコがベラトリックスに横目で睨みながら杖を取りだす。尤も、杖先が私へと向いていることから、ベラトリックスに何かをするという訳ではないだろう。
「それにしても、ドラコ。貴方随分と彼女達の中での地位が上がったんじゃないかしら? 前までの貴方なら、死喰い人を前にしてそこまで強気な態度はとらなかったと思うけど?」
「前は、だろう? 過去は過去、今は今だ。それに、僕は別に命令している訳でも強制している訳でもない。ただ、計画を遂行するに適した進め方を進言しているだけさ」
そう言って、ドラコは杖を振らずに呪文を放ってくる。例の技法によるものだろう。前回と違い、今回はベラトリックスの奇襲から盾の呪文を重ね掛けしているので、焦る必要はない。ドラコの放った呪文は、全て盾の呪文に弾かれて霧散していった。
「ドラコ、お前はやるべきことがあるだろう。先に行きな。ここは私達が相手しておいてあげるよ。ちょうど、向こうの連中も到着したようだしね」
後ろから慌ただしく近づいてくる足音を耳にし、振り向くことなく彼らを迎える。直接見てはいないが、後ろを警戒している露西亜とオルレアンが構えていないので、敵ではないことは確かだ。
「ベラトリックス!」
「おや、一族の面汚しかい。ついでにお友達の駄犬も一緒のようだね? おっと、失礼。駄犬はあんたの方だったねぇ!」
ベラトリックスの言葉に死喰い人の中で笑いが響く。親友が笑われたことで血が上ったのか、シリウスが飛び出しそうになるが、それは嫌味を言われた本人であるルーピンによって止められる。
「落ち着けシリウス! ここで冷静を欠いたら、奴らの思う壺だ!」
「―――ッ、あぁ、そうだな。すまない親友」
「何、気にするな親友」
シリウスはすぐに冷静さを取り戻し、改めて死喰い人と向き直る。それに合わせて他の人も戦闘態勢へと入るが、死喰い人は構えこそするものの、どこか余裕の表情をしている。
いや、あれは余裕というより、愉悦に歪んでいると言うべきか。
「お涙を誘うねぇ。出来の悪い芝居を見ている気分だよ」
「ふん、何とでも言えベラトリックス」
「おー怖い怖い。そんな怖い顔を向けられちゃあ、こちらも手が出ちゃうじゃないか」
ベラトリックスの口が三日月のように歪む。何を企んでいるのかは知らないが、余計なことをされる前に先手を打つ。
そう考え、杖を振るおうとしたその時だ。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
「何だ!?」
どこか離れた場所で甲高い悲鳴が響いた。その声は聞いただけで絶望と恐怖に怯えているのがわかる程のものだ。
「おやまぁ、お行儀悪く夜中に出歩いていた生徒でもいたのかねぇ」
「いったいなにを―――」
そう言葉を漏らすも、それは途中で遮られた。何故なら、視線の奥、死喰い人の背後の曲がり角から大量の吸魂鬼が現れたからだ。
「吸魂鬼だと!? 馬鹿なッ、何故奴らがホグワーツに!?」
ムーディが信じられないといった様子で叫ぶ。
「まさか、さっきの悲鳴は」
「そのまさかだろうよ! 馬鹿な生徒が運悪く吸魂鬼に出会っちまったのさ! この城の中はとっくに吸魂鬼の巣窟になってるんだよ!」
「どういうことだッ、ベラトリックス! 僕はそんなこと聞いていないぞ! なぜ吸魂鬼がいるんだ!」
ドラコがベラトリックスに詰め寄る。その様子は鬼気迫るもので、ドラコが吸魂鬼の存在を知らなかったであろうことが伺えた。
ドラコとベラトリックの口論を他所に、騎士団の何人かが吸魂鬼に対応すべく場を離れていく。如何に生徒が寮内にいて保護されていようとも、その安全は絶対ではない。もし寮内に侵入されでもしたら、逃げ場のない密室で吸魂鬼に襲われることとなってしまう。DAメンバーであれば守護霊を出せるので対抗は出来るだろうが、やがては時間の問題となってしまうだろう。
「ステューピファイ! -麻痺せよ!」
シリウスの放った呪文が開戦の合図となり、場を一気に混戦となった。騎士団と死喰い人が呪文を打ち合い、吸魂鬼が縦横無尽に飛び回り、襲い、徘徊していく。死喰い人と吸魂鬼の両方に対処しなければならないこちらは、かなりの苦戦を強いられることとなった。
「“ドールズウォー”」
数には数を。こちらも戦力の頭数を増やして対抗する。とはいえ、人形では吸魂鬼相手に出来ることは限られてしまう。決定的な戦力にはなり得ないのが痛い。
「ドラコ! さっさとお行き!」
ベラトリックスがドラコへ叱咤を飛ばし、ドラコはそんなベラトリックスを睨んでから、戦場の隙間を縫うようにして駆け出した。それを見たルーピンがドラコを止めるべく杖を向けるも、死喰い人の妨害によって防がれてしまう。
私は、走り抜けていくドラコへと蓬莱と数体の人形を向かわせる。人形はドラコによって瞬く間に破壊されてしまうが、蓬莱はドラコの呪文を避け続ける。そのまま蓬莱は、廊下の奥へと去っていくドラコを追跡していった。
いまやホグワーツの中は戦場となっている。私と騎士団の殆どが多くの死喰い人を相手取り、数人の騎士団と戦える生徒が吸魂鬼と少数の死喰い人と戦っている。
私も移動しながら、目に入った敵を片っ端から叩き伏せている。とはいえ死喰い人は兎も角、吸魂鬼には追い払う以外の決定的な対処法がないので、正直キリがない。これはいよいよ本気で、吸魂鬼を殺す方法を完成させないといけないかもしれない。
戦場の中でもこのようなことを冷静に考えてしまう自分に呆れを感じつつ、何体目かわからない吸魂鬼を守護霊で叩き伏せて遠くへと追いやる。これだけしても数分後には戻ってきてしまうだろうことを考えると嫌気がする。
「エクスパルソ! -爆破!」
階下から上がってきた死喰い人の上にある天井を爆破して、相手を落石の下敷きにする。だが、相手もそう簡単にはやられてくれず、当たりそうなものだけを呪文で弾き、体捌きのみで抜けてきた。
「クルーシオ! -苦しめ!」
「プロテゴ! -護れ!」
死喰い人の磔の呪文に対し、前面に防御膜を張ることで逸らす。磔の呪文は服従の呪文と同様に、呪文使用時の発光現象が起きないのが厄介だ。杖先から一直線にしか呪文が飛んでこないので防ぐこと自体は難しくないものの、混戦の中においてはその限りではない。
「ステューピファイ! -麻痺せよ!」
「ラミナス・ヴェナート! -風の刃よ!」
「インペディメンタ! -妨害せよ!」
呪文を打ち合い、その余波によって壁のいたる所が砕かれていく。この死喰い人、クラウチやベラトリックス程ではないにしろ、かなりの手練れだ。倒せない相手ではないが、正面から倒すのは時間がかかり過ぎる。
「ぉ、あ―――えぁへ?」
であれば、裏をかけばいいだけの話だ。倒れ痙攣する死喰い人の後方からは蓬莱に似た人形が数体、姿を現す。蓬莱シリーズの人形は全てが麻痺毒を浸透させた武器を持っており、それで死喰い人を攻撃したのだ。バジリスクの毒の武器を持つ蓬莱シリーズも存在するが、今は調整中なので出すことができない。
「オブリビエイト -忘れよ」
倒れ伏す死喰い人を拘束した後、忘却呪文で余計な記憶を消去する。こうしておけば、たとえ拘束から逃れたとしても、戦力にはならないだろう。
次の敵を捜しに走りだそうとしたとき、懐に入れていたカードが発光したことで足を止める。カードを取りだすと、淡く光りながら魔法陣を浮かべている。このカードは以前に魔法省で使用したものと同じで場所に関係なく姿現しが可能なもの。そして、このカードと対になるものは、ドラコを追った蓬莱に持たせている。
「発光してから十五秒で転移だから、そろそろね」
蓬莱のことだから、いきなり敵の面前に呼び出したりはしないだろうが、念の為に出来る限りの隠蔽呪文を施しておく。最後に姿を消し、咄嗟の攻撃に対応できるようにし終わると同時に、私はその場から転移した。
「―――」
転移を終えた私を迎えたのは、強く冷たく吹き抜ける風だった。周囲は暗く、空の星から注ぐ僅かな光だけが光源だ。
「天文台の上かしら」
消音呪文により声が周囲に聞こえることはないが、つい小声で喋ってしまう。周りにある物と此処より高い建物が見えないため、ここが天文台の上だと当たりをつける。
「貴方一人だけか? 他に誰かいるのか?」
周囲の状況を把握しているとき、ドラコの声が聞こえてきた。どうやら誰かと話しているようだ。
「わし一人じゃよ、ドラコ。君の方こそ、一人なのかね?」
様子を伺える位置にまで移動している間に聞こえてきたのは、ダンブルドアの声だ。
「一人じゃない。今夜、この城には死喰い人が侵入している。直にここへとやってくるだろう」
「吸魂鬼もかね?」
慎重に移動し、ドラコとダンブルドアの二人が見える位置にまで辿り着く。
そこで見たのは、ドラコが無防備のダンブルドアに向けて杖を構えているというものだ。ダンブルドアに杖を隠し持っているような素振りは見えない。無防備でドラコと相対している。如何にダンブルドアといえど、杖を持たない無防備な状態でドラコに抵抗できるとは思えない。
そこで、この場にハリーがいないことに気が付いた。ハリーは今夜、ダンブルドアと分霊箱の捜索と破壊に行っているはず。まさか置き去りにしてきたということもないだろうし、間違いなくこの場にいると思うのだが。ハリーがいるのなら、ダンブルドアに杖を向けるドラコに対して何もアクションを起こさないのは不自然だ。
ドラコとダンブルドアの会話を注意深く聞きながら、懐より“地図帳”を取りだす。ちなみに、“地図帳”というのは、パチュリーより頂戴した“本の虫”の新たな名前だ。昔はそれほど気にしなかったが、最近になって本の虫と呼称することに抵抗を感じてきたために改名したのだ。上海達に言わせれば、どちらでも大差ないみたいだが。
地図帳を開き、天文台を拡大して映し出す。浮かび上がる地図にはドラコとダンブルドアと私の他に、私が今いる位置から僅かに離れた場所でハリーの名があった。そちらへと視線を向けるが、ハリーがいると思われる場所には何もない。ハリーは透明マントを持っているし、恐らくそれで姿を消しているのだろう。
「おやまぁ! ドラコッ、よくやったよ!」
階下への階段からベラトリックの声が聞こえたことで、視線をそちらへ向ける。階段からはベラトリックスの他に、有名どころの死喰い人の多くが昇ってきた。数は―――10人か。
「ベラトリックス―――下の連中はどうしたんだ?」
「馬鹿共の相手なら、他の連中や吸魂鬼が相手しているさ。ここへくる階段も封鎖しておいたからね、時間はたっぷりある」
ベラトリックスはドラコへと近づき、傍までくると両肩に手を置く。
「さぁ、おやり。やるんだよ、ドラコッ。お前はここまで、あの方の指示を十分にこなした。あとはダンブルドアさえ殺せば、お前はあの方に認められて、より高い地位に登りつめられる」
ベラトリックスの諭すような言葉に、ドラコは眉一つ動かさずにいる。ドラコは表情こそ変えないが、纏う雰囲気には殺気が混じりはじめたのを感じる。
仕込みは済ませてある。そろそろ介入するべきか、否か。その判断に迫られている時に、階下から新たな人物が現れた。
「おや、セブルス。ようやくご到着かい? 随分とのんびりしていたんだねぇ」
「―――未だに事を終えていないとは。お前達とて随分とのんびりしていたようだな」
スネイプはこの場をぐるりと見渡して、いつものねっとりした口調で話す。ベラトリックスは、そんなスネイプの態度に苛立ったのか眉を顰めるも、何も言わずにドラコへと再度声を掛ける。
「さぁ、ドラコッ やるんだッ!」
ベラトリックスがドラコへとより強く行動を促したのを狙い、指示を出す。その瞬間、天文台にいる者達の頭上で眩しくない程度の発光が起こった。暗闇にいたことで、突如現れた光源にベラトリックス達の意識が向かったところで、それ以外の全員が一斉に動き出す。
透明マントを脱ぎ棄てたハリーがダンブルドアの前面に立ち守りの体勢になり、ドラコはベラトリックスを、スネイプは残る死喰い人の半数を不意打ちで倒し、残った死喰い人は姿を消していたドールズによる麻痺毒で倒れ伏した。
「―――ダンブルドア先生、これってどういう状況ですか?」
ハリーが現状に戸惑いながら、背後のダンブルドアへと疑問を投げかける。その間も、杖を下ろさず、視線を死喰い人から離さないのは流石というべきか。
「はてさて、この状況は複雑怪奇過ぎて理解が追い付くのにも一苦労じゃが、一つ言えることは、我らが有利に立っているということじゃよ、ハリー」
ダンブルドアはハリーへ答えとも言えない答えを返すと、呻き声を上げるベラトリックスに杖を向けるドラコへと近づいていった。同時に私も姿を現し、ハリーへと近づいていく。
「お疲れ様、ハリー」
「あ、あぁ。アリスもお疲れ? ねぇ、この状況っていったい―――」
「さぁ? 私にも何が何だか。それより、ダンブルドアの杖はどうしたのかしら?」
「ダンブルドアの杖は、マルフォイの武装解除の呪文で飛ばされてしまったんだ」
そう言って、暗闇に覆われた校庭を見やるハリー。杖を校庭へ向けて呼び寄せ呪文でダンブルドアの杖を拾おうとするが、杖は現れず不発に終わった。
「認識が違うんじゃないかしら? ダンブルドアは武装解除で杖を飛ばされたのでしょう? だとしたら、杖の忠誠がドラコに移っているだろうから、それで呼べないのかもね」
今度は私が杖を校庭へ向けて呪文を放つ。ドラコの杖という認識で行った呼び寄せ呪文は、すぐさま校庭の先から一本の杖を引っ張ってきた。
「はい、これかしら? ダンブルドアの杖は」
「うん、間違いないよ」
ダンブルドアの杖は一般的な杖よりも長く、小さな瘤が等間隔に浮いているものだ。どういう素材を使用しているのかは分からないが、流石ダンブルドアの使用する杖というだけあって、今まで感じたことのない強い魔力が滲み出ている。
私がダンブルドアの杖を分析していると、ダンブルドアの話していたドラコが語気を荒げるのが聞こえた。声から二人へと視線を向けると、倒れるベラトリックスに杖を向けるドラコと、ドラコの手を押さえるダンブルドアという光景が入ってきた。
「ドラコよ、杖を下ろすのじゃ」
「断る! こいつだけは絶対に許さない! ありったけの苦痛を与えて、生まれてきたことを懺悔させながら殺してやる!」
あまりの剣幕に、私もハリーも目を見開く程に驚いてしまった。
ドラコはここまで激昂する人間だったか? 確かに前々から頭に血が上りやすい性格ではあった。怒りに任せて短絡的なこともしていただろう。それでも、ここまで怒りを露わにして、冷静さを欠いているのは初めて見る。
「ドラコよ、落ち着くのじゃ。何故君がそこまで憎しみに囚われているのかはわからん。じゃが、それはしてはいけないことじゃ。それをしてしまったら、君は君が憎む者と同じになってしまう」
「そんなの知ったことじゃない! 僕はこいつを殺す! その邪魔をするというのなら、たとえ貴方でも―――」
ドラコがダンブルドアに杖を向けた瞬間、ドラコの杖が手元より弾かれ、こちらへと飛んでくる。くるくると回転しながら飛んできた杖は、ハリーの手に握られた。流石、長年使っているだけあって綺麗な武装解除だと感心すると同時に、コロコロと主が変わる手元の杖に同情する。
「―――ポッター、何のつもりだ?」
ドラコがハリーへと振り向きながら問い出す。先ほどよりは落ち着いたようだが、それでもハリーを睨みつける眼光には、殺気が滲んでいる。
「マルフォイ、君に何があったかは知らない。けど、ダンブルドアに手を出すというのなら、僕も黙ってはいない」
「ふん―――やるつもりか? ポッター。強くなっているのが自分だけだと思わない方が身の為だぞ」
「これでも身の程は弁えているつもりだよ。そのうえで、君を止めると言っているんだ。その意味すら分からないのかい?」
淡々と挑発する両者に一触即発の空気が流れる中、私が思ったのは一つ。この二人、成長したと思ったら根っこの部分は相変わらずだった、というものだ。むしろ、なまじ実力が付いている分、性質が悪くなっている。
ドラコをスネイプが、ハリーを私が諌めようと近づいた時、床に倒れているベラトリックスが不意に笑いだした。
「何がおかしい、ベラトリックス」
静かながらも殺気の籠るドラコの言葉を気にも留めずに、ベラトリックスは醜く笑い続けている。ドラコがベラトリックスの脇腹に蹴りを入れたことで物理的に止められたものの、それでもベラトリックスは嘲笑を浮かべている。
「はぁ、はぁ―――ドラコ、こんなことを仕出かして、どうなるか分かっているのかい?」
「黙れ」
そう言い、ドラコが再度蹴りを入れようとするが、それはスネイプによって防がれる。
「セブルス、やはりお前は裏切っていたわけかい。いや、あんたにとっては最初から仲間でもなんでもなかったんだろうけどねぇ」
「よく理解しているではないか。さて、これからは素晴らしい尋問の時間となろう。覚悟は出来ているかな? 出来ておらずとも関係ないが」
スネイプが口角を上げながらそう言うと、割と洒落に聞こえないから困る。いや、スネイプ本人は本気なんだろうが。
「はッ、根暗な陰険小僧が! だがねぇ、一つ腑に落ちない。どうしてこのタイミングで我々を裏切った。お前にしろドラコにしろ、今裏切るのは到底賢いとは思えないからねぇ」
「それを貴様に話す必要などないな」
「ははッ、確かにそりゃそうだ!」
「―――なぜ?」
スネイプが会話を打ち切り、ダンブルドアがベラトリックスの前に進み出たところに、言葉を被せてしまう。ダンブルドアの出鼻を挫くようなことになったが、正直あまり気にしてはいられない。
「なぜ貴方は、この状況でそんなにも余裕なのかしら?」
ベラトリックスがドラコやスネイプと話している間に抱いた疑問がそれだ。絶対的に不利な状況であるはずのこの場で、なぜベラトリックスはこれだけの余裕をみせていられる?
「はん、何故もどうも、今の私のこの状況が打破できるとでも思っているのかい? 流石にそりゃ無理があるさ。つまり開き直っているのさ」
「嘘ね」
ベラトリックスの言葉を即座に否定する。
「貴方、自分の性格を振り返りなさい。私が知っている貴方は、死の淵に立たされようと潔さをみせる奴じゃないわ。泥と屈辱に塗れようが、命尽きるまでヴォルデモートへの忠誠と相手を殺すことだけを考えて生きている狂人よ」
それが、過去の記事や魔法省で直接相対したことで抱いた、ベラトリックスという魔女への認識だ。この女は、性根どころか魂から狂っている。
「―――あは、きひゃ! キャハハハッハハッ!」
少しの間をおいて、ベラトリックスが突然奇声を上げて笑いだした。突然のことに目を細める。追い詰められているとは思えない奇行にそれぞれが警戒する中、ベラトリックスが甲高い声で叫ぶ。
「よく解っているじゃないか小娘! まさかこんなところに私を理解している奴がいるとはねぇ! その通りだよ! こんな下らないお遊びをしているのは、それだけの理由があるからさ!」
ベラトリックスの嘲りは止まらない。次にベラトリックスが目を向けたのはスネイプだ。
「セブルス! どうせお前はこう考えているんだろう? 実力ある死喰い人の多くが小娘によって殺されたいま、ここで私達を捕らえてしまえば、残るは闇の帝王と雑兵な死喰い人、闇の生物くらいだとねぇ。確かに、そこまで戦力が削られれば我々とて危ういだろうさ。闇の帝王が負けるとは思わないが、ダンブルドアという不確定要素がいる限り安心はできない。常々あの方も仰っていた」
ベラトリックスは、今度はドラコを見る。
「ドラコ。私達を罠に嵌めて勝ったつもりかい? 闇の帝王の力を削り、私への復讐達成の一歩を踏んだつもりかい? だとしたら滑稽だねぇ―――帝王は全てを見抜いているんだ。お前程度の浅知恵など筒抜けさ」
「なんだとッ!?」
ベラトリックスが言い終えると共に、拘束している死喰い人の身体からゴキッという音が鳴る。そちらへと視線を向けると、死喰い人達の身体が不規則に脈打っており、隆起と萎縮を繰り返しながら形を変えていっている。
「これは」
ダンブルドアが小さく呟くと同時に、死喰い人達の変化が治まる。いや、正確には死喰い人“だった”もの達だ。
変化を終えた元死喰い人は、今や見知らぬ他人へと成り替わっていた。
「スタン」
その内の一人の男にハリーが近寄り声を漏らす。
「知り合い?」
「―――うん。夜の騎士バスの車掌だ。死喰い人の疑惑を掛けられてアズカバンに収監されていた」
アズカバンに収監と聞いて、もう一度スタンと呼ばれた男を見る。確かに、やつれ衰えてみえるが、以前に日刊予言者新聞で見たことがある顔だった。
「なんだ、これは? ベラトリックス! これはどういうことだ!」
ドラコが文字通りに変わり果てた死喰い人を見て困惑と怒りの声をあげる。それに対し、ベラトリックスは変わらずのにやけ顔だ。
「どうもこうも、見た通りさ。こいつらは本物じゃぁない。闇の帝王自ら編み出した禁呪によって作られた、操り人形なんだよ―――勿論、私もね」
ベラトリックスにも変化が起こり始め、その姿形を変えていく。声帯にも変化が及んでいるのが、途切れ途切れに話す。
「これは、生きている人間を贄にして、魔力尽きるまで、元となる者の、姿、力、人格を植え付ける呪文、さ。」
ベラトリックスの語る事実に私達は驚きを露わにする。そんな魔法が存在し得るのかと。だが、現実として目の前に存在している以上、それは揺るぎない事実として叩きつけられた。
「キ、キヒヒ……見誤った、ねぇ……今夜の……作戦は、お前らの、化けの皮を剥がす、為に行われたのさ。お前らの、ことは……帝王、は、信をおいてなど、いないんだ、よ」
声帯にも変化が起きているのか、ベラトリックスの言葉は声を変えながら途切れ途切れに言葉を漏らしていく。彼女の言葉通りなら、今夜の襲撃はダンブルドアの殺害ないし戦力の消耗を狙ってのことではなく、スパイとしてヴォルデモートの配下に扮していたスネイプと、最近の動きが怪しいドラコの仮面を壊す為だけのものらしい。
「我らに……損害は、ない―――組織の膿、を取り除き……ホグワーツへの侵入を、成した―――ざまぁないね!」
そう捨て台詞を吐き捨てて、ベラトリックスは姿を完全に消した。残ったのは禁呪の生贄にされたという人達の亡骸だけだ。耳を澄ませば、終始聞こえていた戦闘音も聞こえなくなっている。ドールズと視界を繋げても戦闘の様子はないことから、奴らは完全に撤退したのが分かった。
「話してくれるかの、ドラコや」
一時間後、先の戦闘による被害の対応を指揮していたダンブルドアと共に、騎士団の者や戦いに参戦していたDAメンバーは医務室へと場所を変えて集まっている。負傷者はベッドに横たわり医療を受け、それ以外の者は椅子やベッドの端に腰かけたり、壁に背を預けたりしている。
その中心にいるダンブルドアが、同じく中心にいるドラコへとゆっくり話し掛けた。
「どのようなことがあって今回の襲撃に手を貸し、ベラトリックスに向けてあれほどの殺意を抱いていたのじゃ?」
「―――命令されたんだ。ヴォルデモートに。今学期中に死喰い人をホグワーツへ侵入させる方法を確立しろと」
「それは、死喰い人としてヴォルデモートに命令されたのかね?」
ダンブルドアの問いに、ドラコは拳を強く握り締めながら感情を押さえるように言葉を漏らす。
「違う……脅されたんだ。母上や父上のように殺されたくなければ、命令に従えと」
「ルシウスが、死んだ?」
声を上げたのは応援に駆けつけてきたウィーズリーさんだ。座っていた椅子から腰を上げて、信じられないとばかりに目を見開いている。
「あのルシウスが? ルシウスが……本当に死んだのか?」
ウィーズリーさんは嘘だと言ってくれと懇願するようにドラコへと問いかける。だが、ドラコはそれに答えず、沈黙したままだ。ドラコのその様子に嘘ではないと思ったのか、ウィーズリーさんは椅子に力なく崩れ落ちて俯いた。
たしかウィーズリーさんは、ルシウスとは昔からの犬猿の仲だったと聞いている。お互いがお互いを嫌い、相手の弱みを探り合うような関係らしいから、そこまでショックを受けるようなものなのかと思ったが―――互いをよく理解している同士であろうからこそのショックということなのだろうか。
「君にとって辛いことを聞くことを許しておくれ。ドラコや、誰がルシウスを殺したのじゃ?」
「ベラトリックスだ」
ベラトリックスがルシウスを殺した。ドラコが彼女に対してあそこまでの憎しみの感情を抱いていたのは、それが原因か。
「ヴォルデモートがベラトリックスに命じたんだ。極秘任務に失敗したと言ってだ。僕は両親を殺したヴォルデモートとベラトリックスを決して許さない。その為に力をつけて、今回の計画中に奴らを始末できるよう機会を伺っていたんだ―――結果はこの有様だけどね」
そう言って、ドラコは俯いて口を閉ざしてしまった。ダンブルドアはこれ以上この場でドラコに質問する気はないらしい。その時、タイミングを見計らったかのようにスネイプが医務室へと入ってきた。
「セブルス、どうじゃった?」
「流石は闇の帝王、といったところでしょうな。贄にされていた者達は全て死亡。遺体からも魔法の痕跡は見つからず、あれだけの肉体操作を施したにも関わらず、肉体にも何ら損傷は見つかりません。一切の情報が得られないことから、戦略的にみても有効かつ悪辣極まる闇の魔法ですな」
スネイプがダンブルドアへと被害者の報告をしているのを聞きながら、ポケットに入ったままのダンブルドアの杖をいつ返そうか考える。天文台で渡せればよかったのだが、医務室に入るまでそんな暇がなく、医務室に入ってからも諸々の報告やドラコとの話が始まってしまったことで、今も渡せずじまいでいる。
まぁ、この話し合いが終わってから返せばいいかと適当に考えていると、ちょうどスネイプの話も終わり、この場は解散ということになった。怪我人は医務室に残り、そうでない者は校長室へと向かい話し合いの続きをするようだ。私やハリー達は寮へと帰寮し、ドラコは怪我こそないが精神的にかなりの疲労をしているとされ医務室に泊まっていくこととなった。
「ダンブルドア、杖をお返しします」
「おぉ、すっかり忘れておった。ありがとう、アリス」
ダンブルドアへと近づきポケットから出した杖を渡す。本当に忘れていたのかは知らないが、深くは気にしない。私がダンブルドアへと杖を返しているのを見て思いだしたのか、ハリーもドラコへと近づいて杖を渡している。ドラコはハリーを見ようとはしなかったが、杖は受け取りしっかりと握り締めた。
「ほれ、君達も早く寮へ戻りなさい」
ダンブルドアは両手を振りながら、私やハリー、私達を待っていたロン達に向けてせっせと帰寮を促す。私達もそれに逆らう気はないので、何も言わずに次々と医務室から出ていった。
最後に私が退出し、扉を閉めようとしたとき、背後から
振り向き様に閉じかけた扉を乱暴に開け放つ。暗い廊下から明るい医務室に入ったことで少し目が眩むが、それも僅かですぐに視界がクリアになる。
ウィーズリーさんやスネイプを始めとする大人達は目を見開き固まっている。ただ、視線だけは同じ場所に向けており、その先を凝視している。
視線の先には二人がいた。
一人はドラコだ。ベッドに向かおうとしたのか先ほどより部屋の奥におり、こちらに背を向けている。それはいい。なんの不思議もない。唯一違和感があるのは、手にした杖を背後に向けて動きを止めていることだろうか。
もう一人はドラコの足元にいるダンブルドアだ。俯せに床に寝ており、ドラコと同様に動く気配がしない。しかし、ドラコと違うのは、ダンブルドアからは生きている気配すらもしないこと。
「ダンブルドア?」
後ろから聞こえたハリーの声を切っ掛けに、部屋の中の時間が止まったような空気が動きだした。
私は無言呪文の武装解除でドラコの杖を弾き飛ばす。シリウスとキングズリーがドラコへと飛びかかり、床へと押し倒す。ルーピンやウィーズリーさんはダンブルドアへと駆け寄り必死の形相で声を張り上げている。
「え……? なに? どうしたの?」
「マルフォイの奴、なんで押さえつけられているんだ?」
パドマの困惑した声とロンの疑問の声が耳に入るが、それに答える者はいない。別に説明できない者がいない訳ではなく、それを誰もが口にしようとしないからだ。
ムーディがドラコを魔法で雁字搦めに、念入り深く拘束し終わると、ダンブルドアに声を掛けている二人へと急いで近づいていく。
「ルーピン! アーサー! ダンブルドアの容体は!?」
ムーディの言葉に二人が振り返るが、その顔は悲壮感に包まれながら横に振られる。
「―――死んでいる」
ルーピンの言葉が遠くに聞こえる。泣く者や崩れ落ちる者など反応は様々だが、全員に共通している思いは信じられないというものだろう。ダンブルドアは紛れもなく最高峰の魔法使いであり、どのような手段を使われても死ぬことなどないだろうと、誰しもが思ってしまう存在だ。私だって、パチュリーといった規格外の存在を除けば、寿命以外でダンブルドアが死ぬとは思えないと考えてしまう。
「どうして……どうしてダンブルドアが。さっきまで、あんなに……何があったんですかッ」
ハリーは今の状況が理解できないのか、絞りだすように声を漏らして、視線を忙しなく動かしている。誰がどう見ても冷静な状態ではないが、そもそもこの場で冷静でいられる者などいるのだろうか。
―――内心溜め息を吐くと共に、自分がどうしようもないほど性格が破綻しているなと、何度目になるかわからない再認識をする。
ダンブルドアとはそれなりに短くない時間を接してきたし、彼が持つ膨大な知識とそれを活かす頭脳にはパチュリーとは別に敬意を抱いていた。確かに優しすぎるところも多々あるものの、それは彼ならではの人間性であるし、私には持ちえないものだったから羨ましいと思っていたのも事実だ。
なのに、私はダンブルドアの死を悲しむことが出来ない。感情でも理性でも悲しみを抱いてはおらず、突然の事態による動揺が収まってからは、ダンブルドアの死によって起こる今後の事態に対しどう対応していくか。そんなことを淡々と考えている。
「マルフォイッ! どうしてッ、何で!? どうしてダンブルドアを殺したぁッ!」
そして、この惨状を起こった瞬間のことを聞いたハリーは、ダンブルドアの死体に直面し、僅かな硬直のあとにドラコへと憤怒の形相で問い詰める。その様子はまさに鬼のようで、咄嗟にシリウスがハリーを押さえなければドラコへ何をしたか分からない程だ。
だが、ハリーを止めたもののシリウスの顔も怒りに染まっており、危険な気配を漂わせている。そもそも、この事態を認識できた者でドラコへと怒りを向けていない者などいない。
私は別として。
「――――――」
だが、ドラコは多くの怒りの視線と感情に晒されていてもピクリとも表情を変化させずに、しかし決して視線は合わせようとせずにいる。ハリ-やシリウスはそんなドラコの態度にさらに激昂するが、今度はリーマスとウィーズリーさんによって押さえられた。
「あ、あぁ……そんな、なんで……どうして、こんなことが」
「う、くぅ……あぁ……ああぁぁぁあ」
マクゴナガルは床に崩れ落ち、現実を認めたくないかのように言葉を漏らす。ウィーズリーおばさんはマクゴナガルの傍で泣き崩れる。それを皮切りにトンクスやハーマイオニー、パドマ達も泣き崩れた。
ドラコから引き離され、椅子に座ったハリーが頭を抱えて俯く。ぼそぼそと呟く声が聞こえてくる。途切れ途切れに聞こえた中に、僕が杖を渡さなければと言っているのが聞こえた。確かに、ハリーがドラコに杖を渡さなければこの事態は防げたのかもしれないが、それを予想しろというのは無理な話だ。ハリ-を責めることは出来ないだろう。
「―――ん?」
私は形だけでも悲しそうな顔を作り、なおかつドラコを警戒するという建前で近づき、ドラコを観察する。すると気になる点が見つかり、思わず疑惑の声が漏れた。
「どうした、マーガトロイド」
どこかと連絡していたムーディが私の疑問の声を聞きとり、問いかけてくる。
「いえ……」
そう言って濁そうとするが、言うなら今しかないだろうと思い、閉じかけた口を開いた。
「……ムーディ、ドラコが服従の呪文に支配されている可能性があるかもしれないわ」
私の言葉に医務室にいる全員の視線が集まる。
「服従の呪文だと?」
「えぇ。正直言って、ドラコがいきなりダンブルドアを殺そうとするなんて、あまりにも突拍子がなさすぎるわ。それに今だって、何を言われても表情を少しも変えていない。まるで言葉が聞こえていないみたいにね。目を開いたまま気を失っている状態に近いかしら」
ムーディやキングズリー、シリウスやスネイプといった、闇の魔術に深く触れている人達は気がついたようだ。特にスネイプは、自身が管理する寮の生徒であり、接している時間を多いのだから尚更気にかかっただろう。
「正直、私の知るドラコはこれだけのことをしておいて、ここまでの能面面なんかしていられないわ。態度に反してメンタル弱いから―――まぁ、私の主観によるものだから、そうでない可能性もあるけど」
「いや……なるほどな。確かにこの小僧、精神面は未熟だったやもしれん。それに親が親だ。いざというときに臆病風に吹かれることもありそうだ。そんな奴が、己を取り巻く事情を吐露した相手を殺して無感情でいられるとは……確かに不自然か」
ムーディはそう言って何度か頷くと、拘束したままのドラコを魔法で浮かせる。
「とにかく、今はこやつを厳重に隔離するべきだ。時間をおかずに魔法省がやってくる。それまでに、今後の対策を話し合う必要がある。ミネルバ、わしがこやつの状態を調べ終えるまで、話し合いを進めておいてくれ」
「―――わかりました。それでは、各寮監はそれぞれの生徒を寮へと送り届けた後、校長室へときてください。ポピーは怪我人の治療をお願いします。ハリ-とマーガトロイドは一緒に校長室へ。魔法省がくる前に聞いておきたいことがあります。ハグリッド、申し訳ありませんが、私の代わりに生徒をグリフィンドール寮へと連れていってください」
マクゴナガルは目を泣き腫らしながら、それでもいつものようにキビキビと指示をだしていく。魔法省がくるまで時間がないため、各々は速やかに動きだした。私とハリーはマクゴナガルに連れられて、校長室へと向かうこととなる。
校長室へと入り、マクゴナガルとテーブルを挟んで向かい合うと、一瞬の静寂のあとにマクゴナガルが口を開いた。
「ハリー、ダンブルドアと今夜、ホグワーツを離れどこへ行っていたのか、何をしていたのか教えてくれませんか?」
「いいえ、お話できません」
マクゴナガルの問いに、ハリーは間を開けずに答えた。その返答をマクゴナガルも予想はしていたのか、驚いた様子は見せずに言葉を続ける。
「重要なことなのかもしれないのですよ?」
「その通りです、先生。とても重要なことです。重要であるからこそ、ダンブルドアは誰にも話してはならないと僕に言いました」
「それは、ダンブルドアが死んだこの状況において、それでも秘密にしておかなければならないほどのことなのですか? 我々が貴方の助けになれるかもしれない、あなたや皆の危険を減らすことが出来るかもしれない。それらの可能性を踏まえた上で秘密にするべきことなのですか?」
「そうです」
マクゴナガルの半ば問い詰めるような言葉にも、ハリーは一歩も引かずに話すことは出来ないと言い放つ。ハリ-の顔を見て話を聞くのは無理だと察したのか、今度は私へと向き直る。
「マーガトロイド、貴女はどうですか? 貴女がハリーやダンブルドアの勉強会に度々加わっていたことは知っています。当然、貴女は二人が何をしていたのか知っていると思いますが、ハリーがこうである以上、貴女も話すことは出来ないということですか?」
「そうですね。確かに二人が何を隠しているのかは知っていますが、お考えの通りお話することはできません。私はハリーのように口止めされている訳ではないですが、今後のリスクを考えると話せませんね」
実際その通りだ。ヴォルデモートの抱える分霊箱の保管場所こそ不明だが、その総数は判明している。だが、下手に情報を拡散してヴォルデモートへと渡ってしまった場合、分霊箱を今以上に見つかりにくい場所に隠すか、総数を増やしてしまうかもしれない。その場合、砂漠から一粒の砂金を探し当てるような事態になってしまうだろう。
「―――ふぅ、わかりました。ダンブルドア自身が貴方達に託したのですから、私も貴方達を信じましょう」
それからは、生徒を寮へと連れていった寮監やハグリッドが集まり、時間をおいてムーディもやってきた。ドラコを調べたムーディによると、確かにドラコは服従の呪文によって支配されていたらしい。
ということは、今学期私が会った時には既に呪文の影響下にあったということか。あの時にみせた戦闘術は果たしてドラコ自身が身につけたものなのか、それとも操られることで与えられたものなのか。もしあれが与えられたものであり、与えたのがヴォルデモートだとするならば、ヴォルデモートの戦闘力で呪文の不可視不動化による戦闘術が可能ということになる。ドラコが使用した場合でも厄介だったというのに、ヴォルデモートが使ってくるとか考えたくもない。ダンブルドアなら対処も可能だったかもしれないが、彼は死んでしまった。
私が今後に起こり得るヴォルデモートの戦いについて考えている間に、マクゴナガル達は来年度の授業を行うべきか否か、ダンブルドアの葬儀はどのようにするかなどを話していた。そして魔法省の役人がホグワーツへ到着したと知らせが届き、マクゴナガルは出迎える為にこの場は解散という流れとなる。
私とハリーは魔法省の役人と鉢合わせないよう急いで寮へと戻された。途中でハリーと別れ、レイブンクロー寮の入口へと辿り着く。合言葉を唱えながら、談話室にいるだろう大勢の生徒から飛び交う質問をどう流していくか。疲労した頭を回転させながら談話室へと入っていった。
◆◆
数日後、ダンブルドアの葬儀はホグワーツにて行われた。魔法省が最後まで渋っていたようだが、先生や生徒が言った“ダンブルドアなら大好きなホグワーツで眠りたいと思うはずだ”という言葉によって最後には折れた。
広いホグワーツの校庭を埋め尽くさんとばかりに葬儀の参列者が集まり、静かに行われていく式を見守っている。私も生徒達が集まっている場所の一角に座り、ダンブルドアが入れられた白い大理石の墓石を見つめる。生徒の中には両親によって、パドマやアンソニーのように今朝の内に実家へと連れて帰られた者もいたが、それでも参列している生徒は多い。他の参列者の中には著名な魔法使いや魔女、ダイアゴン横丁やホグズミードの商売をしている店主、大臣を始めとした魔法省の役人、ハグリッドの弟のグロウプや水中人、禁じられた森からはケンタウルスもいる。
それから式が終わり、それぞれが自由にダンブルドアの墓石へ向けて思い思いの言葉を送っている中、私達生徒は荷物を持ちホグワーツ特急へと向かう。去年の登校時に襲撃され破壊された汽車はすっかり元通りになっているようでなによりだ。
「帰りまで襲撃があるとか……流石にないわよね?」
いや、一度襲撃してきた連中だ。二度あっても不思議ではない。ヴォルデモートの目的だろう私とハリーは、この時だけは確実にこの汽車に乗っているのだからいい的だ。
まぁ、だからこそこれだけ多くの魔法使いが汽車の護衛として配備されているのだろう。
汽車に搭乗し、適当に空いているコンパートメントを探して座り、出発までの時間を静かに過ごす。数十分程か、汽車が大きな汽笛を鳴らして動き出した。窓から覗く景色が速くなり、周囲を箒で旋回しながら警戒している魔法使いを何となしに眺めていると、コンパートメントの扉が静かに開かれた。
「アリス、いいかしら?」
ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人がコンパートメントに入り各々自由に座っていく。ハーマイオニーが杖を振り、一通りの防諜呪文を張るとハリーが口を開く。
「マルフォイがどうなったか聞いたかい?」
「聖マンゴの特別病棟に入院するそうよ。魔法省はアズカバンに投獄したかったようだけれど、容体が思わしくないからということでマクゴナガル達が反対したらしいわね」
「マルフォイの容体って、そんなに酷いのかい?」
「えぇ。何せ、ヴォルデモートの服従の呪文によって無茶に操られていたんだからね。身体能力を身体の負担を無視して動かされ、精神構造を組み替えて別人格に作り替えて、二年に渡って偽りの記憶を植え付けて、殺人を強要されて、最後には捨てられる。これで精神が病まないのなんて、それこそ元から精神が破綻している人ぐらいじゃないかしら」
「待って。二年間もマルフォイが操られていたって……それじゃあ、五年生の時にはすでにヴォルデモートによって操られていたってことなの?」
「そうなるわね」
「僕、マルフォイのことは嫌いだけど…今回のことは流石に同情するな。ダンブルドアが殺されたときは本当に憎かったけど、それも操られていたと思うとな」
「そうだね。多分、本当のマルフォイならダンブルドアを殺せる状況になっても、ヴォルデモートに命令されていても、実行なんてできなかったと思う。確証はないけど、多分間違ってはいないと思うんだ」
ロンとハリーがそう呟く。いつもはドラコを嫌っている二人でも、今回のことは流石に思うところがあるようだ。特に父親から服従の呪文の恐ろしさを聞かされていたロンにとっては、今回の件は重いものとなっているだろう。
暫くの間沈黙が続いたが、車両販売が回ってきたこともあり小休憩に入ることになった。
小腹を満たし話し合いを再開したところで、ハリーがそういえばと前置きして疑問を口にした。
「服従の呪文って、その人が支配されているかどうかもわからないような呪文だよね。どうやってドラコが操られていた間のことがわかったんだ?」
「それなんだけどね……ムーディがドラコを調べている際中にドラコ自身が喋ったのよ」
「マルフォイが喋った? おいおい、それってどういうこと?」
「勿論、ドラコが自分の意思で喋ったんじゃないわ。その時はまだ呪文の支配が残っていてね。ムーディがあれこれ調べている時に、急にドラコ喋りだしたの……ヴォルデモートの声でね」
「それって」
「ヴォルデモートが仕込んでいたものらしいわ。ドラコの身体で喋りだしたヴォルデモートは、今回の事件についての経緯を詳細に話したわ。ネタばらしっていう前置きと共にね」
今回ドラコに降りかかった事態を知ることはできたのは、ヴォルデモートが自ら経緯の説明を行ったからだ。でなければ、一切の情報を得ることはできなかっただろう。
「どうしてヴォルデモートはそんなことをしたんだろう」
「それも暴露していたわ。簡単に言うと嫌がらせと煽り、ドラコを精神的に追い詰めるっていうのが目的らしいわ。それ以外に目的もないただの挑発行為よ」
そう説明すると、ハリー達はあからさまに嫌悪感を丸出しにした。それもそうだろう、普通なら情報を渡さない為にも秘密にしているべき計画や、それにともなう手段を態々敵対している相手に明かしたのだから。これでは、ヴォルデモートはこちらのことを取るに足らない相手と認識していると示しているようなものだ。
「これからどうなるのかな。ヴォルデモートは狡猾だし残忍だ。どんな手段でも使ってくるだろうし、今この瞬間にも僕達にとって致命的な計画を実行しているかもしれない。ダンブルドアもいなくて……勝てるのかな?」
「ロン、何を言っているの? 勝てるのかじゃなくて、勝たなくちゃいけないのよ!」
「ハーマイオニーの言う通りだ。そのためにも、なんとしても分霊箱を破壊する必要があるんだ」
ハーマイオニーに賛成の意を示したハリーは、ポケットからロケットを取り出して、中から紙切れを取りだす。
「それがダンブルドアと見つけたっていう分霊箱?」
「偽物だけどね。本物はずっと前に、ヴォルデモートを裏切ったR・A・Bっていう人物がすり替えたらしい。破壊するって書いてあるけど、R・A・Bが本当に分霊箱を破壊したのかがわからないんだ」
R・A・Bか―――R・A・B?
「どうかしたの、アリス?」
ハリーが言うR・A・Bについて、顎に指をかけて考えていた私を見てハーマイオニーが訪ねてくる。
「いえ……R・A・B。どこかで聞いたような気が……いや、見た……のかしら?」
「知ってるのかいッ!?」
ハリーが身を乗り出してくる。それを手で押し戻し、首を振って答える。
「わからないわ。R・A・Bっていう言葉はどこかで見た記憶があるけど、それがどこで見たのかは覚えていないわ」
どこかで見たのは間違いないと思うのだが、それがどこなのかが思い出せない。大抵のことは忘れないけど、こうも記憶が曖昧だということは一瞬、多分チラッと目にした程度の認識だと思うが。
とりあえず、R・A・Bについては思いだしたら教えることとする。
「それで、ハリーは分霊箱を探すのよね? ということは、もうホグワーツへは戻らないということかしら?」
「そうだね。準備ができたら、すぐにでも探しに行くつもりだ」
「あてはあるのかしら? 闇雲に探しているだけじゃ、まず見つからないわよ」
「あてなんてないさ。けど、だからといってそれが探さない理由にはならないよ。やれるかやれないかじゃなく、やるしかないんだ」
「確かにそうね。さて、となると探し出すべき分霊箱は残り四つ。推測が正しいならば、ヘルガ・ハッフルパフのカップ、ロウェナ・レイブンクローの縁の品、サラザール・スリザリンのロケット、蛇のナギニね」
「破壊する品は分かっているけど、問題はそれらがどこに保管されているかだ」
「ナギニに関してはヴォルデモートとセットと考えて間違いはないだろうから、実質三つね」
「アリスは何か心当たりとかないのか? ホグワーツ創始者の縁の品とか、君が興味を持ちそうな代物じゃないか」
「あのね、ロン。確かに私はそういった物に興味を持っているけど、だからって現物がどこにあるかなんて把握はしていないわ。よく勘違いされているけど、私は万能でもなんでもないのよ? 精々、レイブンクローの談話室にロウェナ・レイブンクローが持っていたっていう髪飾りのレプリカが飾ってあるということぐらいよ」
これにしたって、レイブンクロー寮に属するものなら誰でも知っている程度の知識にすぎない。
ハリー達は目を見開くが、何か言いだす前に考えを否定する。
「言っておくけど、それは分霊箱じゃないわ。調べてみたし、もしヴォルデモートが髪飾りを分霊箱にするとしても、それは本物の場合。レプリカを分霊箱にするとは考えられないわ」
「そっか……でも、一つの手がかりにはなったね。レプリカがあるってことは、それの元となった髪飾りが必ずあるはずだ。アリス、その髪飾りはどんな形だった?」
そう言うハリーに、口で説明するのは手間なので絵に書いて見せる。記憶を頼りに書いたが、まぁまぁ近いものにはなっているだろう。
「これがロウェナ・レイブンクローの髪飾りかぁ。すっげぇ高そう」
「ロン、これが本物なら値段なんてつけられるものじゃないわ」
ロンの割と俗な考えをハーマイオニーが一蹴する。それに対して何か文句を言っているロンとは別に、ハリーは一人黙り込んで何やら考え事をしていた。
「どうしたのかしら? 何か気になることでも?」
「あぁ、うん。この髪飾り……似たようなのをどこかで見たような気がするんだよ」
「ロウェナ・レイブンクローの髪飾りを?」
これまた、意外なところから新情報が出てきたものだ。
「それと同一のものかはわからないけど、似たようなものは見たと思う。レイブンクローの談話室に入ったことはないからレプリカとは違うだろうし、かといって外でそういったものを見る機会はないから、あるとしたらホグワーツだと思うんだよな」
ハリーの言う髪飾りが本物かは不明だが、もし本物であればヴォルデモートが分霊箱としている可能性は非常に高い。
「でも、レイブンクローの髪飾りって大昔に紛失して行方不明よ。本当にあるのかしら」
「さぁね。でも、見逃すには大きすぎる情報だから、徒労に終わるにしても調べる価値は十分にあるわ」
髪飾りが存在し、それが分霊箱であり、隠し場所が敵対組織であるホグワーツにある。なるほど、まさに灯台下暗し。騎士団側からしたら予想外もいいところだろう。敵の生死に関わる代物が自分達の膝元にあるというのだから。
尤も、騎士団で分霊箱を知っているのは私達以外にいないのだが……いや、スネイプなら知っているか?
「それじゃあ、ホグワーツで髪飾りを探す必要があるけど、さっきも言ったように僕達は学校へ戻らない。だから、アリスに捜索をお願いしたいんだ」
「わかったわ。ただ、万が一に備えて協力者がいたほうがいいかもしれないわ」
「協力者?」
ハリーが疑問を露わにする。
「そう。私がホグワーツにいればいいけれど、もしかしたら去年みたいに私がホグワーツに来れない事態になるかもしれないし、何らかの事情で捜索が出来なくなる可能性もある。その時に私に変わって髪飾りを探してくれる人がいた方がいいと思うわ」
「だけど、それは危険過ぎる。誰に頼むにしても、他の人を危険には合わせられない」
「とはいえ、そうも言っていられないわ。私がホグワーツにいなかったら捜索することができなくなるのだから、どうしても人手は必要よ。勿論、協力者には捜索するものの危険性を十分に説明して、見つけたら監視のみに留めて決して触れないようにする必要はあるわ」
当然、分霊箱という存在についても秘密にする。ヴォルデモートの力に大きく関わる闇の魔道具という説明にすれば危険性についても十分に伝えられるだろう。あとは、誰に協力してもらうかという人選だが。
「ルーナとネビル、それとジニーに協力してもらいましょう、彼女達なら十分任せられるわ」
「「駄目だッ!」」
私が言い終えるや否や、ハリーとロンが声を張り上げて反対の声を上げた。まぁ、それを予想していなかった訳ではないので、特に驚きもしないが。
「ジニーを危険な目に合わせることなんてッ、そんなの駄目だ!」
「そうだッ。ネビルやルーナだってこれ以上危険なことには巻き込めないッ」
「貴方達の気持ちもわかるわよ。恋人や妹、友達をこれ以上危険な目に合わせたくないという気持ちは認めるけど、だからといって今はそんなことも言っていられないわ。彼女達は力もあるし咄嗟の判断力もある。そういった実力含めてこれ以上の人選はないと思うわ―――それに、本人達もやりたがっていると思うわよ?」
私がそう言うと、コンパートメントの扉が開く。そこにはルーナ、ネビル、ジニーの三人がおり、コンパートメントに入っては扉を閉める。
「ジニー、どうして……」
ハリーが戸惑いの声を漏らす。まぁ、秘密に話していた場に突然現れたのだから仕方ないだろう。
「ちょうどコンパートメント前を通ったら、貴方達の話し声が聞こえてね。防諜呪文の一部を解除して話を聞いていたのよ。まぁ、アリスにはバレていたみたいだけど」
「ジニーは静かに解除したつもりだと思うけど、まだ粗があったからね。すぐに気がつけたわ。話の流れ的に彼方達にも聞いてもらった方がいいと思って放置していたけど、正解だったわね」
とはいえ、ジニーが防諜呪文を破った瞬間に別の防諜呪文を使い、分霊箱といった肝心の単語だけ別の言葉に聞こえるようにしたが。
難航するかと思った説得も、ジニーやネビルが負けじと反論しているおかげでハリー達が今にも折れそうである。やはり、こういうのは当事者に意見を言ってもらうに限る。
長くない論争の末、ハリー達が折れる形で決着した。とはいえ、ジニー達が動くのは私が捜索できなくなった場合なので、去年のようなことがない限りジニー達に捜索が回ってくることはないだろう。
内緒で動く可能性は当然あるが、そこまでいったら自己責任だろう。
協力の話がまとまってからは、六人で今後の詳細を決めていった。ロンドンが近づいてきたところで解散となり、フラーとビルの結婚式について教えられたのを最後にホームで別れた。
これで原作6作目”謎のプリンス”が終了。
【謎のプリンス】
―――誰?
作中で明らかになっていない事実。
【ムーディの”はたく”】
相手の気合を入れさせる補助技。ただし、相手の防御力によってはダメージが入る。
【幸運薬の支給】
モンハンに出ないかな。
そのクエストの報酬に”幸運”補正が入るとか、そんな感じで。
【警備員アリス】
多分、今までで一番装備が充実している。
【VS死喰い人+吸魂鬼inホグワーツ】
今夜のホグワーツは疑似アズカバン。
【戦場】
サーチアンドデストロイ
―――デストロイできねぇなぁ
【忘却呪文】
これ最強じゃないか?
やり方しだいで磔の呪文以上に廃人に出来る。
ハリーを悪人に、ヴォルデモートを善人にもできるかも?
【本の虫or地図帳】
どっちもどっち。
【激おこドラコ】
暗黒面にとりつかれておる。
ダース・ドゥラコ卿となるのか?
【私は知っている】
主人公が敵の心情や性格を理解するのはデフォ。
有名どころだと、嫉妬を理解した鋼。
【成り替わってました】
暗黒卿ダース・ヴォルデモートの創った呪文。
適当な生贄を使って、特定対象の身体能力、魔力、知識、性格諸々をコピーした人形を作る。呪文は時間経過で強制解除。制作した数と対象の力量によって、魔力が著しく弱まるデメリットあり。
―――まぁ、使い道があれば今後出てくるかも?
【ルシウス死亡説(疑)】
正直、生きてようが死んでようが関係ない。
【スネイプ】
暗黒面に堕ちそうで堕ちない奴。
もうこいつが”選ばれし者”でいいんじゃないか?
【ダンブルドア死亡説(確)】
フォースと共に (◦ὲ◦)ノシ
【操られてました】
フォイが別人みたいに強かった。
残念、肉体以外別人でした。
フォイはどこまでいってもフォイメンタルでいてほしい。
暫くは聖マンゴで入院。
【精神攻撃】
基本
【情報戦】
基本
【仲間】
強制参加。
これも基本。
【】