魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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Re:ホグワーツ

時折揺れる椅子に座りながら手元の本に目を落とす。魔法の研究を記述したこの本も、この夏で随分とその厚みを増した。

あの日、夜の闇横丁でパチュリーに出会ってからというもの、休みの間はずっとヴワル魔法図書館に詰め掛けていた。ヴワル魔法図書館にはホグワーツでは決して見ることの出来なかった多くの本が保管されているので、とても夏休みの間だけでは全部を読むことは出来なかった。最初は魂関連の本に絞って読んでいこうとしたのだが、基礎は大事にしていきたいし一足飛びに魂を研究しても良い結果は出ないと思ったので、簡単な部類の本から始めている。

 

「やっぱり、ホグワーツに戻ったら必要の部屋を探す事が第一ね」

 

パチュリーに言われた必要の部屋なら学校側に知られる危険性もなく研究ができるらしいので、今後の研究を行っていく上で重要な部屋になるだろう。とはいえ、入り口の壁を強力な魔法で無理やりに破壊した場合は、使用者の部屋の入り口が破壊されるのと同義らしいので注意が必要とのことだ。

 

「お~いぃ、アリスぅ。暇だよ~」

 

ふいに上から声が聞こえてきたので顔を上げる。そこではピーブズが手に知恵の輪をカチャカチャと弄りながらプカプカ浮かんでいた。

 

「だったらそれを解いていたらいいじゃない。まだ解けていないんでしょう?」

 

この知恵の輪は、汽車での移動中ピーブズが静かにしているように買ったもので、最初は物珍しそうに弄っていたがもう飽きてしまったようだ。

 

「やだよぉ、これ全然解けないし飽きちゃったよ。ねぇねぇ他の部屋に悪戯してきていいでしょ~」

 

「いいわけないでしょう。唯でさえ貴方が学校を抜け出しているのは秘密なんだし」

 

ピーブズがここにいるのがバレないように認識阻害の魔法を掛けているのに、それを台無しにするつもりだろうか。ちなみに、この認識阻害の魔法はパチュリーから教わったもので、相手の意識に気付かれないで干渉して術者のいる一定範囲の空間を認識できなくする魔法だ。パチュリーオリジナルの魔法らしく、今までこの魔法を破った魔法使いはいないらしい。この魔法を、コンパートメントを覆うように掛けてピーブズを隠しているのだ。でなければピーブズの存在が一発でバレてしまうだろう。

 

まぁ、車内販売の人もこの部屋に気付かないで通り過ぎてしまうという欠点はあるが、それは汽車に乗っている間の欠点であって、普通に使う分には高い性能の魔法だろう。

 

「やだやだ~!暇だ暇だ~!」

 

「……そんなに暇なら学校に着くまで追いかけっこでもしていなさい。蓬莱」

 

今まで椅子に座っていた蓬莱は、私の声に反応すると動き出しピーブズに向かって飛んでいく。

手に剃刀を持って。

 

「えっ!?ちょ!待って待って!分かった静かにs「シュカッ」うわぁ!?」

 

ピーブズは蓬莱の振った剃刀をギリギリ避けて離れるが、蓬莱はすぐにピーブズに向かって距離を詰める。蓬莱が持つ剃刀はパチュリーと一緒に開発した魔術処理が施してあり、ゴーストであるピーブズにも触れる、つまり斬ることが可能な剃刀なのだ。注意して見れば刃の部分に薄っすらと文字が彫りこんであるのが見える。

ピーブズが蓬莱から逃げ惑うのを見ながら、私は残りの二体の人形にも指示を出す。

 

「上海、水筒から紅茶を入れて頂戴。露西亜は鞄からクッキーを出して頂戴」

 

指示を出すと上海と露西亜は浮かびながらそれぞれ準備を始めた。夏休みの終わりに完成した露西亜も問題なく動いている。紅茶とクッキーの準備が終わったのを見計らって、二体には蓬莱と一緒にピーブズの追いかけっこに参加させる。装備は上海がランスで露西亜が鎌だ。当然蓬莱の剃刀と同じ魔術処理済みである。

 

「えっ!?ちょっアリス!ギブギブ!これ以上はm「シュカッ」ちょ!?「ヒュッ」ひぃ!?「スパッ」ひゃぁ!?た……助けて~!」

 

ピーブズの断末魔を無視しながら、ホグワーツに到着するまで紅茶とクッキーを片手に外の景色を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

汽車が停車したのを確認して降りる。一年生がハグリッドに連れて行かれるのを見ながら去年とは違う道を歩いていく。五分ほど歩き開けた場所に出ると、そこには多くの馬車があった。とはいえ、馬車に繋がれているのは普通の馬ではなかったが。

 

目が白く、黒毛に骨ばった外見の馬だ。翼はドラゴンの翼に似ている。見たことはないけど。

しばらく観察していると、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「アリス!久しぶりね!」

 

「久しぶりパドマ。元気だった?」

 

「もちろん!アリスも元気そうでよかったわ。汽車の中を探したけど見つからなかったから心配してたのよ?」

 

そういえば認識阻害の魔法を張っていたな。ピーブズを隠すためとはいえ悪い事をした。

 

「やぁ二人とも。久しぶり」

 

「久しぶりアンソニー。いい夏休みだったかしら?」

 

「まぁまぁだね。怪我もなくゆっくりできたよ」

 

久しぶりに会うパドマとアンソニーの二人と軽く話すが、人が少なくなってきたのを見て私たちも馬車へと乗る。私たちが乗ったのを見計らってか、馬車に繋がれている生き物がゆっくりと動き出した。

 

「ねぇ、二人はこの馬がどういった生き物か知っている?」

 

そう尋ねると二人は首を傾げて不思議そうな顔をしていた。

 

「馬って……どこにいるの?」

 

「どこといっても……馬車の前にいるでしょ?ちょうど棒の間に」

 

「……いや、何もいないけど」

 

「何かいるの?」

 

どういうことだろう。二人には見えていないのだろうか。周りを見れば誰も馬車を引く馬に関心を抱いていないように見える。いや、まるで気付いてさえいないかのような態度だ。

なんで私にだけ見えているのだろうと疑問に思ったとき、ふと以前読んだ魔法生物の生態について書かれていたことを思い出した。

 

天馬の一種で、普通の人には見ることができない天馬がいるとその本には書いてあった。その天馬を見ることが出来るのは“死”を見た事がある人だけで、それ以外の人は決して見ることが出来ない生き物。本に書いてあった外見的特長も一致している。

 

「……セストラル」

 

「えっ?セストラル?」

 

「なにそれ?」

 

「天馬の一種で“死”を見たことのある人しか見ることができない生き物よ。前に読んだ本に書いてあったのだけど、多分馬車を引いているのはセストラルじゃないかしら」

 

「……聞いたことある。白い目に骨ばった外見の天馬がいるって。馬車を引いているのがそうなのかい?」

 

「外見的な特徴は合っているし、そうだと思うわ」

 

そう言うと、二人は身を乗り出して馬車の前を凝視する。どうにかセストラルを見ようとしているみたいだ。

 

「駄目だわ。やっぱり見えない」

 

「僕も駄目だ」

 

二人は残念がっているが普通は見えないほうがいいだろう。セストラルが見えるほどの死を見るというのは、自身がその死をはっきりと認識できる必要がある。私の場合は両親の死だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

門を通り城へと到着した私たちは新入生歓迎のために大広間へと向かう。ちなみにピーブズは城に到着した途端にどこかへ消えていった。

レイブンクローのテーブルに座り、雑誌を読みながら新入生が入ってくるのを待つ。ちなみに今読んでいる雑誌は“ザ・クィブラー”というものだ。載っている記事は様々で、毎回欠かさずに載っている記事もあれば一度しか載らない記事もある。時事関係の記事もあるが日刊預言者新聞に比べて支離滅裂で荒唐無稽な内容が殆どという、一種のゴシップに分類されても仕方がない雑誌だ。事実、愛読者以外にはゴシップ雑誌としての印象が強いらしい。とはいえ、偶に確信めいた事や全く新しい考え方が載っているときがある為、私は毎月欠かさず読んでいる。

 

しばらくして大広間の扉が開き、マクゴナガル先生に引率された新入生が入ってきた。恐らく大広間に掛けられた魔法に驚いているのだろう。何人かの新入生はキョロキョロと周囲を見渡している。それをテーブルに座っている生徒が微笑ましそうに見ている。スリザリンは例外だが。

 

そういえば、グリフィンドールにハリーとロンの姿が見えないな。あの二人ならハーマイオニーと一緒にいると思ったんだけど、グリフィンドールのテーブルを端から端まで見渡しても二人の姿は見えない。

まぁ、あの二人のことだからホグワーツに来る途中で何かやらかして、スネイプ先生あたりに説教でもされているのだろう……考えておいてあれだけど、非常にしっくりきたのは何故だろうか。

 

それからは去年と同じように組分け帽子による寮決めが行われた。余談だが、組分け防止が去年歌った歌詞と今年の歌詞が異なっていた。周りの話を聞いていると、どうやら毎年違うらしい。まさか一年かけて歌詞を考えているのだろうか。一年で唯一の見せ場とはいえご苦労なことだ。

 

 

歓迎会の宴も滞りなく終わり、一年ぶりにレイブンクローの寮へと戻ってきた。途中、濁ったブロンド色をした髪の女の子がレイブンクローの列から離れて、フラフラとどこかに行きそうになっていたので手を引っ張って連れてきた。私が手を引っ張っている間、女の子は特に気にした様子もなくキョロキョロと視線を動かし、時にはじっと肖像画や像を見ていた。

 

談話室へと入り、女の子の手を離す。女の子―――ルーナ・ラブグッドと言っただろうか。手を離した途端、目をパチパチと瞬かせて周囲を見たあと私に視線を向けた。

 

「?……いつここに来たのかしら……ねぇ、貴女知ってる?」

 

まるで談話室に来たのを今気がついたかのように不思議そうな顔をして聞いてきた。まさか、ここまで引っ張ってきたのに気がついていなかったとでもいうのだろうか。

 

「貴女がフラフラ何処かに行きそうになっていたから引っ張ってきたんだけど……もしかして気がついていなかったの?」

 

「ううん、気がついてたよ。いきなり手が引っ張られるんだもん。ビックリしちゃったわ」

 

なら何で聞いたのかしら。

私が彼女の言動に疑問を感じていると、彼女は他の人に混ざって部屋へと歩いていった……と思ったら突然振り返り、駆け足で戻ってきた。

 

「私、ルーナ・ラブグッド。貴女は?」

 

「……アリス・マーガトロイドよ」

 

「そう。ここまで連れてきてくれてありがとう。またね」

 

そう言って、今度こそルーナは階段を登り部屋へと向かっていった。その姿が見えなくなると同時に、私は短くも深い溜め息を出す。この短時間で随分と疲れた。今日はさっさと寝てしまおう。

 

私は重く感じる足を動かしながら部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 


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