銘治の時代。外国からの技術が輸入され日本の生活も大きく変わった。廃刀令を以って刀の時代は終わりを告げ、今では腰に刀を差してる人間は殆ど居ない、ごく一部を除いて。
「ここが例の奴が出てくる宿場町か」
様々な旅行客が行き交う街中を一人の青年が歩く。軍服の上から蒼の羽織を着ており、肩には何か細長いものを入れた袋を掛けている。そして、他の人は気付いていないが、彼に追従するように一羽のカラスが空を飛んでいる。
「しかし、頸刎ねても死なないとか冗談だろ……んなの、“柱”の誰かに任せる案件だろうが……」
とは言え、命令された以上は任務は遂行しなければならない。けれど同時に自分だからこそ白羽の矢が立ったとも考えられる。恐らく上が期待しているのは情報の入手。件の相手に関する何らかの情報、討伐に繋がる手がかりを得られれば良しと言ったところなのだろう。仮に自分が死んだ所で、出世、つまり大成できないと言われてる事で有名な“黒”以上に奇怪な色をした俺なら大した損失にもならないと言う考えだろう……。
「決めた。俺、この任務で生き残ったら絶対休暇取ってやる……」
※
時を同じく、この町の歩く一人の女性。桃色の髪に同じ色の一重を羽織っており、その手には鞘に収められた大降りな刀が握られている。
「小鳥丸の話ではこの町、ね……」
女性は何かの気配を探るように目を閉じる。しかし何も成果が無かったのか、ゆっくりとその目を開く。
「支部の子達では誰も祓う事が出来ないなんて。折れた子や喰われた使い手が居なかったのが不幸中の幸いね。とりあえずは支部で詳しい話を聞きに行きましょう」
そして女性も目的の場所へ移るべく移動を開始する。
※
人知れず、されど確実に人に仇名すモノ達。いずれも太古の時代より、影ながら人々の脅威となるモノ達。
(日輪刀で首を撥ねても死なねぇ“鬼”とか冗談じゃねぇな)
(人を喰らって強くなる“禍憑”。そんなの放置していたら大変な事になる)
それを討つべく刃を携える者、あるいは己自身が刃である者。やがて二人はすれ違う、けれどそれだけ。今は互いに面識の無い二人にとって、お互いの存在は往来を行き交う他の人々と変わらない。
「……?」
それから数秒後、男性は妙な、けれど決して不快ではない違和感を覚えて後ろを振り返る。しかし、女性は人ごみに消えており、この時は違和感の原因を彼が知る事は無かった。
「気のせい……か」
そして、男性も人ごみの中へ紛れて行く、相手は違えど、志は同じくする者達。そんな彼らの邂逅と物語の始まりまで、あと少し――。