天華百剣~鬼~   作:【ユーマ】

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第1話『月下の双雷』

 青年が宿場町から少し離れた林を歩く。夜、それは太陽が完全に沈み、奴等が野外でも活動を始める時間。日中は旅行客で賑わう通りも今は殆ど人が居ない。日中なら人ごみの中でも目立ったであろう少し跳ねっけのある銀色の髪も夜の闇に紛れ、遠目には見えなくなっている。上空に滞空させてた一羽の鴉、鎹鴉(かすがいがらす)も今は彼の肩に止まっている。

 

(住民の話からしてこの辺りの筈だが……)

 

 直後、遠くから聞こえてくる金属同士が打ち合う音、すなわち剣戟の音。

 

「探す間でも無かったな。と言うか、もしかして俺の他にも同じ任務を受けた奴が居るのか?」

 

 相手が相手だ、“柱”でないなら彼以外にも殉職するの前提で任務を受けた隊員が居ても不思議ではない。音のした方向に大急ぎで向かい見えてきたのは長年放置されたであろう空き家、その家の前で一組の男女が向かい合っている。けれどその風景を目にして、密かな逢引と思う者は誰も居ないだろう。なぜなら男の身体は普通の男性を遥かに超える大きさで、4本の腕を生やしておりそのいずれにも刀を握っている。黒い靄を纏い、その隙間から黒ずんだ緑色の肌、それらが男性は異形の存在である事を示している。が――

 

(あんな靄を纏う鬼なんて居たか?それにあっちの女性……なんだ、あれ?)

 

 そしてもう一人、太刀を構える女性。彼女の周りを珠が飛んでおりそれらが桜色の電気を纏い数珠繋ぎになっている。太刀もその刀身がバチバチと帯電している。

 

(血鬼術……ではないか。どう見ても鬼じゃない。でも――)

 

 彼女を見て感じたのは日中にも感じた違和感。自分の中の何かが見た目は人なのに人じゃないと訴えている、かと言って鬼の様な禍々しさは感じない。何より――

 

(気配が刀にまで及んでる?)

 

「ケヘヘヘ、もう逃げられねぇな。大人しくしてりゃ痛くないように喰ってやるからよぉ……」

 

「生憎、貴方の様な人に喰われる様な趣味は持っていません。これ以上、被害が広がる前に貴方を討ち取ります!」

 

「そうかよぉ、じゃあ……苦しみながら死ねぇっ!!」

 

 直後、状況が動いた。男が四本の腕で女性に斬りかかる。迫りくる4本の刃を全て受け止め、鍔迫り合いとなる。しかし、それは長くは続かない。

 

「ガフッ!?」

 

 彼女周りを滞空していた珠が鬼に向かって飛び、鬼の顔面を直撃。怯んだ一瞬に女性が刀を押し返し――

 

「はぁっ!」

 

 鬼の腕を一つ斬り落とす。が、すぐにそこから腕が生えてくるかの様に生えてくる。

 

(まぁ、あっちは後回しだな……)

 

 青年は鎹鴉を空に飛ばして刀の鯉口を切る。そこから覗かせるのは黄色い刀身、それだけならば普通の事。けれど違うのは此処から、精神を集中させて、深呼吸を一つ。と、同時に黄色かった筈の刀身がゆっくりと薄い桃色へと変わる。そのまま戦いの場に乱入すべく、隠れてた木から飛び出した。

 

「なっ!?」

 

「えっ?」

 

 突然の乱入者に二人の視線が青年の方を向いた。

 

「雷の呼吸――」

 

 直後、狙いが自分だと気付いた鬼が構えようとするが時すでに遅し。そこは既に青年の間合いの内。

 

「弐ノ型・稲魂(いなだま)!」

 

 放たれる居合いは四太刀、一瞬で全ての腕の肘から先を斬り飛ばす。

 

「ギャアアアアーーっ!?」

 

「壱ノ型……」

 

 後ろに飛び退き、居合いの構えを取る。

 

霹靂一閃(へきれきいっせん)!」

 

 そしてすれ違い様に首を一閃、キンッと刀を納める音が響くと同時に首が落ち、胴がゆっくりと倒れる。

 

「あ、貴方……」

 

「悪いが、話は後にしてくれ」

 

 すぐに首を刎ねた筈の鬼のほうを振り返る。本来ならば鬼はこの後、全身が灰となって崩れる筈だがその様子はない。斬りおとされた腕と首は灰となって消えたが、胴体だけはゆっくりと起き上がり斬られた首と肘の先から黒い煙が噴出し、やがて斬られた部位を形作り始める。

 

「ア~、イテェじゃねぇかぁ……。そこの女に斬られた時よりイテェ……その刀、てめぇ鬼狩りかぁ?」

 

 まず最初に首が再生しきり、鬼が首を鳴らしながらこちらを睨みつけてきた。

 

「こいつで頸落としても倒せないってのはマジだったか……」

 

 そうぼやきながら、青年は靄の奥から覗かせる鬼の瞳を見る。

 

(瞳に数字がない、って事は十二鬼月ではないか。なら普通の手順じゃ殺せない事を除けば普通の鬼、か?)

 

 少しでも情報を集めたいが、鬼とのまともな対話など到底無理な話だ。

 

(とりあえず手頃なところで斬るところを変えてみるか……)

 

「何をやっているんですか!」

 

 と、思ったところで女性は険しい表情で青年を怒鳴りつける。

 

「護刀も連れずに一人で禍憑と戦うなんて無茶です! 菊華刀では禍憑に傷を付ける事は出来ても倒す事は出来ない事ぐらい、ちゃんと知ってる筈でしょう!!?」

 

「菊華刀? 何言ってるんだ? それに禍憑って……この鬼の名前か何かか?」

 

「え?」

 

「刀の付喪神なのか、なんだか知らんがすぐに此処から離れろ。鬼は然るべき手順を踏まないと倒せない」

 

 こいつの場合はその手順踏んでもダメだったがな。と、苦虫を噛んだ様な表情で付け加える。

 

「っ!? 貴方、今――」

 

 と、反論しようとした所で腕の再生も終わった鬼がこちらに突撃。そのまま刀を振り下ろし、二人はそれを飛び退いて避ける。

 

「ったく、こうなったら上に怒られない程度に戦ってから撤退する他無いか……。まぁ、そう言う訳だ。こっちはこっちで何とかするから、あんたは今のうちに此処から離れろ」

 

 と、男性は一歩前に出て構える。が、女性も彼に続き太刀を構える。

 

「それはこっちのセリフです。鬼だが何だか知りませんけど、あれが禍憑なのには間違いないんです。なら、あれを倒すのはうちの役目です」

 

 青年が身体を捻り、繰り出される突きを避ける。反撃と言わんばかりに胴を斬り裂く。

 

「……忠告はしたからなっ!!」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 戦いが始まってから暫く。それに気付いたのは女性の方だった。

 

(そう言えば……)

 

 こちらが幾ら攻撃を加えてもすぐに再生されるのはどちらも同じ、斬り飛ばされた部位が灰の様に朽ちていくのも同様だ。けれどある一点だけ、違う部分がある。そもそも、彼の持つ刀がホントに菊華刀でないならあれに傷を負わせられる事自体おかしい。禍憑は自分達か菊華刀以外でダメージを与える事は不可能。更に完全に討伐するとなると菊華刀でも無理なのだ。

 

(鬼……確かそう言っていたわね)

 

 彼はこの禍憑をそう呼んでいた。そして禍憑もまた、彼を“鬼狩り”と呼んでいた。

 

(もし、うちの予想通りなら……)

 

 自分も彼も細かな傷が増えている。このまま戦い続けてもジリ貧。ならば賭けて見るしかない。

 

「あのっ!」

 

「なんだっ!」

 

「うちに一つ考えが」

 

「考え?」

 

 振り下ろされた斬撃を左右に散会する形で避ける。

 

「この禍憑はうちが攻撃した場合と貴方が攻撃した場合で再生のしかたが違います」

 

「っ!?」

 

 女性が攻撃した場合は肉体が生える様に再生していく、それは青年にとっては当たり前の様に見かける光景だ。そして、彼が攻撃した場合は黒い靄の様なものが欠損した部位を新たに形作る。鬼は再生する、それは鬼殺隊にとっては当たり前の事で、彼は殆ど気にも留めていなかったので、その違いを見落としていたのだ。

 

「この禍憑の体は二種類の再生の仕方をしている。そしてうちと貴方、どちらに傷を負わされたかによって表れる再生のしかたは決まっていた。つまり――」

 

 裏を返せば、もう片方は機能を失っている可能性が高い。そこから導き出される結論は――

 

「二人に同時にって事か、了解した。だったら首を狙ってくれ! 俺の刀でも首以外の所を斬っても再生されるのは変わらない。まずは俺が崩す、そのスキを狙えっ!」

 

「はいっ!」

 

「雷の呼吸、参の型・聚蚊成雷 (しゅうぶんせいらい)!」

 

 高速で相手の周囲を回り、細かな斬撃を浴びせる。彼が元の場所に戻ると同時に鬼の全身から血が噴き出す。

 

「こ、この虫けら共がぁああああっ!!」

 

「壱ノ型――」

 

 青年が居合いの構えを取ると同時に、女性の太刀の切っ先に玉があつめる。やがて桜色の雷が刀身と玉を包み、鞭の様な形状となる。

 

「霹靂一閃っ!」

 

「破邪戒罰っ!」

 

 放たれた居合いと雷の鞭が鬼の頸を討つ。

 

「アッ……」

 

 宙を舞う首から今までにないか細い声が響き、胴体も仰向けに倒れる。女性の横に着地していた青年も鬼の方を振り返る。首が灰となって崩れ落ち、今度はそれに連動する様に胴体も灰となって朽ちていく。

 

「た、倒せた、のか……?」

 

 その一言が口から漏れると同時に鬼の肉体は完全に消え去り、女性も太刀を鞘に納める。

 

「ええ、気配はもうありません」

 

「そっか……ハァ」

 

「大丈夫、ですか?」

 

「どうにか……」

 

 討伐し、無事生き残れた事に安堵しその場に座り込む。結局、あの鬼はなんだったのか。碌な情報は得られなかった。とは言え、手がかりはまだ残ってる。

 

「あんた、さっきから鬼の事を禍憑と呼んだり、俺の刀を菊華刀と言ったりしてたがあの鬼について何か知ってるのか?」

 

「ええ、まだ予想の範囲を出ませんが。とりあえず詳しい事は何処か落ち着ける場所で」

 

「なら、手頃な場所を一つ知ってる」

 

 最後にフゥと息を吐いて立ち上がる。

 

「近くの宿場町に、俺の所属してる組織の拠点がある。其処でなら漏洩を気にせず情報交換できるはずだ」

 

「判りました。なら案内してください」

 

 そうして二人は空き家をはなれ宿場町へと戻っていく。これが二人の出会いにして今まで交わる事の無かった二つの物語の最初の交差でもあった。

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