UNDERMYTH   作:零崎記識

10 / 10
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。


女神日記 2冊目

Θ月<(_ _)>日 天気 晴れと言う可能性と雨と言う可能性が重なり合っている。

 

早朝にベル君が帰ってきた。

 

多少汚れているようだったが、目立った外傷もなく、無事なようで安心した。

 

昨日の夜遅くホームへ帰ってきて誰もいないと知ったときは最悪の可能性が頭をよぎって心臓止まるかと思ったけど無事に帰ってきたみたいでホッとした。

 

ベル君は帰ってくるなり装備を外しただけで着替えもせずにベッドに倒れこんでしまった。

 

朝から夜までほぼ1日中ダンジョンに潜っていたんだ。相当疲れていたのだろう。

 

でもこれだけは聞いておかなければならない。

 

ベル君が最近やけにソワソワと落ち着かない様子だった理由。

 

恐らくそれこそが、今回ベル君を徹夜でダンジョン探索という無茶に駆り立てた原因だ。

 

ベル君が寝てしまう前に、これだけは確かめなくてはならなかった。

 

疲れた体に鞭打って起きようとしているベル君を押しとどめて尋ねたところ、ぽつぽつと話し出した。

 

ベル君が、この街に何をしに来たか。その理由を。

 

曰く、彼は強さを求めてこの街に来たらしい。

 

何でも、自分を育ててくれた祖父をモンスターの襲撃で失い、二度とそんな悲劇を起こさないための力を求めて、彼はオラリオを訪れたらしい。

 

悲しみ、怒り、憎しみ、苦痛………様々な負の感情を感じさせる暗い顔で、あえて淡々とした口調でそう語った。

 

眷属に過去の辛い出来事を思い出させるのはボクも辛かったが、しかし主神(おや)として、眷属(こども)が何を求めて冒険者になったのか、いずれは向き合わなければならなかったことだ。

 

本当は契約した時に聞いておくべきことなのだろうけれど、恥ずかしながらボクはそれを疎かにしていた。

 

だからボクは聞かなければならない。ベル君の語る言葉を一字一句聞き逃さないように耳を傾けなければならない。

 

そして、主神(おや)として、何をしてやれるのか、考えなければならない。

 

でなければボクは以前と何も変わらない、穀潰しのままだ。

 

寄生先がヘファイストスからベル君に移っただけだ。

 

主神と眷属の関係は、一方的に神が人間に養われるだけの関係であってはならない。

 

ボクらは家族(ファミリア)だ。対等な『契約』で結ばれた、ギブアンドテイクの関係だ。

 

神が一方的に人の子達から搾取するような関係であってはならない。

 

そう自分を戒めながらベル君の話を聞いていると段々と経緯が見えてきた。

 

彼は最近、ミノタウロスに襲われたらしい。

 

ボクは冒険者ではないのでオラリオのダンジョンにいるミノタウロスがどれくらい強い魔物なのか分からないが、ボクが神だったころの神話を基準に考えれば相当な強敵だと推測できる。

 

そして、ベル君はミノタウロスと戦って瀕死の重傷を負ってしまったらしい。

 

そこをよりにもよってあのロキのところの『剣姫』に助けられ、その強さを目の当たりにした。

 

最近落ち着かなかったのは『剣姫』という明確な目標ができてベル君の『強くなりたい』という願いと共鳴し一刻も早く剣姫に追いつきたいという気持ちの表れなのだとか。

 

『剣姫』――ボクも噂位は聞いたことがある有名な冒険者だ。

 

何という名前だったか、ヴァレン―――ヴァレン何とかという名前だったような気がする。

 

兎に角そのヴァレン何某が最近ベル君が落ち着かなかった原因らしい。

 

ムムム…ボクと言う女がありながらベル君の浮気者。

 

と最初は嫉妬を覚えはしたものの、ベル君の口調から、多分彼はそのヴァレン何某について異性としての感情は持っておらず、純粋に超えるべき壁、強者として彼女を見ているようだった。

 

うーん複雑な心境だ……。

 

ベル君がヴァレン何某に恋愛的に懸想しているわけでは無いことはボクとしては万々歳なのだけど……仮にも異性、それも美少女の話題をしているのに一切そう言う感情を抱かないというのも……ちょっぴり心配になる。

 

大丈夫かなベル君。

 

女の子には興味ありませんとか言ったりしないよね?

 

話が逸れたので戻そう。

 

そうして強くなるため、やる気満々でダンジョンに潜ったあと、ベル君は一旦食事するために『豊穣の女主人』という酒場に行ったらしい。

 

『豊穣の女主人』って確か…非常に見目麗しい女の子達が沢山いて給仕してくれる酒場じゃなかったっけ?

 

……まぁあの酒場の女の子に手を出そうものなら店主にひどい目に遭わされるらしいし、特別に許そう。

 

とにもかくにもそこで食事をしていた矢先、ロキとその団員達もやってきたらしくてその中の一人に名指しで罵倒されているのを聞いてしまったらしい。

 

自分の眷属を謂れもないのに罵倒されたと聞いて心中穏やかじゃなかったが、ここで怒りだしても意味がないので一先ず怒りは飲み込んで話を聞いた。

 

ロキの奴め…ボクを罵倒するに飽き足らずベル君まで罵倒するとはいよいよもって度し難い。

 

だから嫌いなんだ。

 

罵倒したのはロキ自身ではなくその眷属だそうだが、眷属(こども)の責任が主神(おや)に関係ないとは言わせない。

 

少なくとも主神として眷属を諫めなかった時点でボクの中では同罪だ。

 

そのせいでベル君に残っていた自制心が崩れて徹夜でダンジョン探索なんて無茶に繋がったというのだから腹立たしい。

 

これでベル君に何かあったら、ボクはロキを絶対に許さない。

 

とはいえ、何あれこうして無事に帰ってきてくれて良かった。

 

思わず頭を撫でてしまったが、気落ちよさそうに目を細めるベル君の表情は新鮮だった。

 

あれはヤバイ。

 

ボクの母性をこれ以上なくくすぐられた。

 

胸がキュンとして、もっと甘やかしたい欲求に駆られて抑えるのが大変だった。

 

しかも本人はあれを無意識でやっている。

 

ベル君…キミ稀代の天然の女たらしの素質があるよ…。

 

恐ろしい子!

 

こうしてみると、付き合いこそ浅いがボクはベル君にすっかり入れ込んでしまっている。

 

彼がダンジョンから永遠に帰ってこなくなってしまったことを考えると、怖くてたまらなくなる。

 

だからこそ、ボクはベル君に約束して欲しかった。

 

もう無茶はしない……と。

 

しかし、ベル君は目を伏せて黙り込むだけだった。

 

今思えば意地悪な約束だったと思う。

 

ダンジョンでは何が起こるか分からない。

 

無茶をしないとは言っても、何かしらのイレギュラーが発生して無茶を強いられることは十分ありえる。

 

それにレベルアップの条件の事もある。

 

ある程度経験値(エクセリア)が集まると、ステイタスを更新しても能力値が上がりにくくなる。

 

これは冒険者という『器』に経験値が満杯になってしまいそれ以上経験値を貯められなくなるために起こる。

 

つまりそれ以上強くなるなら、レベルを上げて『器』を大きくしなければならない。

 

しかし、いくら経験値を集めてもレベルは上がらない。

 

レベルを上げるには、冒険者は己の殻を破って何かしらの『偉業』を達成しなければならない。

 

スキルの影響でベル君は膨大な経験値をため込んでいるだろう。

 

つまり、レベルアップをしなければならない時期は近いと言っていい。

 

『強くなりたい』というベル君の願いからすれば、絶対にベル君は近々『偉業』に挑戦しなければならない時が来る。

 

何を以て『偉業』とみなされるのかはボクにも分からないが、生半可なことではできないと聞いている。

 

『無茶をしない』など土台無理な話なのだ。

 

ベル君もそれを分かっているのか、しばらく黙り込んだ後、とても言いにくそうに約束はできないと言い、『でも、必ず生きて帰ってくることだけは約束します』と付け加えた。

 

嘘は言っていない。

 

つまり、ベル君はベル君なりに無茶をしつつも生きて帰ってくる術を持っているのだと、ボクはそれで納得するしかなかった。

 

話し終えてベル君が寝てしまった後、ボクは考えた。

 

ベル君の無茶を止めることはボクにはできないし、彼自身それを望んでいない。

 

ではボクは主神として、何ができるだろう。

 

苦難の道を血反吐を吐いて進もうとする眷属に対し、何をしてやれるのだろう。

 

ベル君にも言ったが、ボクはベル君の背中を押そうと決めた。

 

茨の道であることを分かっていながらそれでも進もうとする彼の意思を、主神として尊重しよう。

 

この決断が本当に主神として正しいのか、ボクには分からない。

 

それでもボクはもう養われているだけなのは嫌だ。

 

ボクもベル君の力になりたい。

 

そのために、ボクには何ができるのだろう。

 

 

θ月(=_=)日 天気 自分が信じる限り、空は晴れだ。

 

一晩中考えた。

 

ボクに何ができるのかを。

 

ボクにはヘファイストスのような鍛冶の腕もなければ、ロキのような組織力もない。

 

ボクは無力な神だ。

 

だからボクは、友達を頼ることに決めた。

 

ヘファイストスに、ベル君の武器を作ってもらうために頼み込もうと思う。

 

当然断られるだろう。ヘファイストスの所の武器は相当に値が張ることは武器に詳しくないボクでも知っている。

 

到底ボクに払える金額ではない。

 

それでも、ベル君には武器が必要だ。

 

茨の道を行こうとするベル君には、その道を切り開く力が必要なんだ。

 

いざという時彼の身を守れるだけの牙が、どうしても必要なんだ。

 

そのためならば、ボクの頭くらい幾らでも下げよう。

 

ヘファイストスには絶交されるかもしれないけれど、覚悟の上だ。

 

今日開かれる『神々の宴』で、ヘファイストスに直接頼み込む。

 

ロキのやつも来るだろうからこれまで参加してこなかったけれど、ヘファイストスに接触するには絶好の機会だ。

 

当然『神々の宴』だけで交渉がうまくいくとは思っていない。

 

それにもしヘファイストスが了承したとしても一朝一夕で武器ができるはずもない。

 

2日…いや、余裕をもって3日ホームを空けるとベル君に伝えて『神々の宴』に赴いた。

 

初めて参加したけれど…すごく華やかだ。

 

オラリオの神と言う神が一堂に会するところは何というか壮観だった。

 

ボクと同じギリシア神話の神々だけでなく、北欧神話、インド神話、果ては日本神話の神々まで。

 

オラリオってこんなに神々がいたのか…。

 

とまぁ字面だけ見ればすごそうな宴だが、実際は只の暇神の集いだ。

 

ボクを含めここにいる神々全員、天界の生活に退屈し、暇を持て余して態々権能の殆どを封印してまで地上に降りてきた神々が暇つぶしに集まっているだけというのが実態だ。

 

それはどうだっていいんだ。ここにいる神々の大半には用が無いのだから。

 

問題はヘファイストスが参加しているかどうかだけど…。

 

折角だからと料理を食いだめしながらヘファイストスを探していると、フレイヤに遭遇した。

 

ボク苦手なんだよなぁ…。

 

神の中でも最高峰の美貌と、『最強』と名高いファミリアを率いる組織力。

 

女としても主神としてもボクとは雲泥の差だ。

 

彼女と接していると嫌でも自分のコンプレックスを刺激される。

 

まぁ…それでも……。

 

ロキと比べれば大分マシな方なんだけどね‼

 

ロキの奴め……散々ボクをバカにして…。

 

『ドチビ』だの『貧乏』だの人が気にしていることをこれでもかというくらい揶揄って……。

 

だからお返しに「キミのファミリアは裕福でも胸は貧しいままなんだね!」って言い返してやった。

 

そのまま取っ組み合いになったが、最終的にボクが勝った。

 

ちょっとスカッとした。

 

だけど、喧嘩の最中ボクを『ロリ巨乳』とか言った男神は許さない。

 

『ロキ無乳』はちょっと面白かったけど。

 

すると、騒ぎを聞きつけたのか、ようやく探してたヘファイストスと会えた。

 

ボクにもファミリアができたと聞いて、ヘファイストスも少しだけ感心したようだった。

 

でもベル君の名前まで知っているとは驚いた。

 

ヘファイストスが言うには、ベル君は冒険者の間でそこそこ有名になっているらしい。

 

曰く『最低限の装備だけで格上を狩り続ける狂戦士』

 

ギルド支給の安い武器だけで強敵に挑む姿がダンジョンで目撃され、冒険者間でも話題になっているらしい。

 

知らなかった……。

 

ベル君はあまりダンジョンのことについて自分から喋らないので、彼がダンジョンで何をしているのかボクには知る術が無かったが、そんなことしていたのかベル君……。

 

やっぱり、ボクのしようとしてることは間違いではなかった。

 

彼には……もっと強い武器が必要だ。

 

ボクはヘファイストスに頭を下げて、本題を切り出した。

 

当然断られた。

 

ヘファイストスには「先ずはお金を貯めなさい」と正論で諭されたが、今回ばかりは引くわけにはいかない。

 

かくなる上はと昔タケミカズチから教わった謝罪とお願いの最終奥義『ドゲザ』で何度もヘファイストスに頭を下げた。

 

他の神々の好奇の視線が突き刺さったが、構うものか、恥も外聞もベル君と天秤にかければどうでもいいことだ。

 

ボクは何度も何度も頭を下げたが、この日ヘファイストスが首を縦に振ることは無かった。

 

 

θ月(?_?)日 天気 晴れと言う蓋然性がある。

 

あ……足がしびれた…。

 

流石に丸一日土下座しっぱなしは足に堪えた。

 

昨日、ボクはヘファイストスに1日中ずっとドゲザをしていたために日記を書けなかった。

 

しかし流石に1日中頼み込んだお陰か、ついにはヘファイストスが根負けして武器制作を了承してもらえた。

 

まぁ…代わりにボクは2億ヴァリスの借金を負った訳だけれど……。

 

元よりタダで作ってもらえるとは思っていないのでツケにしてもらえるだけありがたい。

 

それに()()()()()()()()()()()()()()()となれば2億ヴァリスでも安すぎるかもしれない。

 

あの『天界の神匠』と謳われたヘファイストス自身がその手で作り上げた武器!

 

権能を封印したのでもうかつてのよう武器は作れないと言っていたが、構わない。

 

彼女が打ってくれるなら世界の誰が打った武器よりも信頼できる。

 

ボクも助手として武器制作に携わっている。

 

このままなら明日にでも完成するだろう。

 

どんな武器ができるのか今から楽しみだ。

 

 

θ月= )日 天気 晴れは……みんなの心の中にある。

 

今日は本当に色々あった……。

 

今日の朝、ベル君の武器を完成させたボクは早速ベル君に武器を届けに街へでることにした。

 

凄い人混みだったけど案外あっさりベル君を発見できた。

 

やっぱりボクたちは運命で結ばれているんだね‼

 

ベル君が言うには、彼は人探しをしながら祭りの見物をしていたそうなので武器を渡すのは後回しにして、デートに繰り出すことにした。

 

こうして二人で出かけるなんて初めてだったが、なかなか楽しかった。

 

唯一不満があるとすればベル君の方は多分デートだと思ってなかったことかな……何か、恋人に接する態度と言うよりちょっとませた小さい娘を微笑ましく見守る大人みたいな目をしていた。ぐぬぬ……。

 

そして事件は起こった。

 

あの変神ガネーシャのところがモンスターの調教ショーをしているらしい闘技場から大きな銀色の猿みたいなモンスターが出てきた。

 

そして、どういう訳かボクを狙って襲い掛かってきた。

 

本当意味が分からないけど、理由なんて気にしている場合ではなかった。

 

ベル君は即座にボクの手を引いてモンスターから逃げ出した。

 

ボクは完全にお荷物だった。

 

天界にいたころはいざ知らず、今のボクは貧弱な女の子でしかない。

 

足手まといなボクを引き連れてベル君はダイダロス通りに逃げ込んだけれど、そこでモンスターに捕捉されてしまった。

 

ベル君のお陰でギリギリ捕まらずに済んだけれど、その時のベル君の顔が今でも鮮明に記憶に焼き付いている。

 

モンスターに捕まりそうになっているボクを見て一瞬恐怖の表情を浮かべた後、激しい憤怒の表情へと変わった。

 

苦虫を噛み潰したような壮絶な表情でモンスターを片目を潰したベル君は再びボクの手を掴んで逃げ出した。

 

しかし、その時のベル君には明らかに余裕が無かった。

 

恐らく、ベル君がこの街に来る切欠となった出来事を思い出して重ねているのだろう。

 

ボクは直接彼が祖父を失った場面を見たわけでも無く、話を伝え聞いただけなのでベル君の苦しみを理解してあげられない。

 

それがとても歯痒かった。

 

目の前で苦しんでいる眷属(こども)がいるのに、ボクは何かをしてあげるどころか、逆に彼に守られるばかりで、足手まといですらある。

 

こんなに自分が無力だと思ったことは無い。

 

権能が無ければボクなど只の小娘なのだという事実を嫌でも突き付けられている気分だった。

 

そんなことを考えながらしばらく逃げ続けてたら、地下通路へ通じる入り口を見つけた。

 

ベル君に促されてボクが先に中に入ると、背後で扉が閉まる音と、閂が落ちる音が聞こえた。

 

振り返ったら鉄格子の扉の向こう側からベル君がこちらを見ていた。

 

驚いてベル君に詰め寄ると、彼は自分が囮になってモンスターを引き付けるからその間に逃げるようにボクに言った。

 

理屈の上では理解できる。

 

ベル君のお陰で一度は逃げおおせたが、以前状況は変わらず、このままではさっきの二の舞だと。

 

このまま二人で逃げるより、二手に分かれたほうがいいと。

 

それでもっ!主神(おや)眷属(こども)を見捨てて一人だけ逃げるなんてボクにはできない‼

 

しかし、ボクの返事を待つまでもなく、ベル君は走り去っていってしまったため、ボクの声は虚しく響き渡るだけだった。

 

その時、やけに背負った武器の重さがずっしりと感じられた。

 

気落ちしている時間は無い。

 

一刻も早くベル君と合流してこの武器を届けなくては。

 

ボクが思い描いていた状況とは大分違うが、正にこういう時のためにヘファイストスに無理言って作ってもらった武器だ。今こそこの武器がベル君には必要なんだ!

 

そう気持ちを切り替えてボクは地下通路をひた走った。

 

地下通路を出てみると、そこは見たこともない場所だったが問題ない。

 

ベル君の居場所は音が教えてくれた。

 

モンスターが暴れることで発生する大きな音が、ダイダロス通りに響き渡っていたからだ。

 

音の発生源の方角へ走ればいずれはベル君に会えるはずと考え、ボクは走り出した。

 

そして……いた。

 

袋小路で追い詰められているところだったが、ベル君は無事だった。

 

思わずベル君の名前を呼んでしまった。

 

モンスターがこちらに気づいて掴みかかってきたが、そのおかげでベル君から注意が逸れた。

 

その隙にベル君は袋小路から抜けだし、ボクをモンスターから庇うような形で飛びついてきた。

 

そのままボクらは後ろにあった木の壁を突き破り、隠し階段を転げ落ちた。

 

案の定ベル君には何故戻ってきたのかと詰め寄られたが、そんなの決まっている。

 

無力でも非力でも、ボクはベル君を守りたいんだ。

 

養われるだけでは……守られるだけでは嫌なんだ。

 

主神だからとか理屈をつけたけれど、本当はそんなの関係ない。

 

ボクが、ただ()()()()と思ったんだ。

 

『無くしたくない』と思った。

 

『失いたくない』と思った。

 

ボクにとってベル君は初めてできた『大切な人』だから…。

 

だから守りたい、支えたい、力になりたい。

 

その気持ちに理屈など関係ないんだ。

 

……と、威勢のいいことを言ってはみたけど状況は依然として悪い。

 

それでも、ボクの気持ちが伝わったのかベル君は覚悟を決めた顔で頷き、ボクを背負って走り出した。

 

こんな状況でなんだけど、ベル君の背中はあったかくて幸せな気分になった。

 

そしてどうにかこうにか隠し通路を発見したボクらはそこへ逃げ込んで一時的に身を隠した。

 

でも、あくまで『一時的』だ。

 

ここに身を隠していてもいつか見つかる。

 

ベル君も同じことを考えていたようだった。

 

隠れてやり過ごすのも、逃げ切るのも無理、とすれば―――

 

倒すしかない、あのモンスターを。

 

そうベル君に言うと、ベル君にはハッキリと不可能と断言された。

 

ただでさえ手強い敵なのに、武器を失ってしまった状態ではどうやっても倒すことは不可能だと……彼にしては珍しく弱気な口調で言われた。

 

でもねベル君、ボクだって無策でベル君の所に戻ってきたわけじゃないんだよ。

 

ボクは背中に背負った荷物の包みを解き、中に入っていた真っ黒なナイフをベル君に渡す。

 

ヘファイストスとボクが二人で作り上げた武器。

 

名付けて、『女神の刃(ヘスティアナイフ)

 

ベル君のためだけに作られたこの武器には驚くべき特性がある。

 

ボクが刀身にステイタスを刻み、ベル君(もちぬし)の成長と一緒に強化されていくという凄い特性だ。

 

ヘファイストスはこのナイフを『邪道』と評したけど、使い手と一緒に成長する武器なんてボクは素敵だと思う。

 

何より今、ベル君を守ってくれるなら邪道でも何でもいい。

 

今ここでベル君のステイタスを更新し、強化されたベル君とヘスティアナイフの力を合わせてモンスターを討伐する。それがボクの作戦だ。

 

ボクはベル君の強さをステイタス上の数値でしか把握してないけれど、それでもベル君が負けるとは微塵も思えなかった。

 

ボクは信じてる。

 

彼の力を、彼の覚悟を。

 

主神(おや)としても、ボク個神としても信じると決めた。

 

ベル君にボクの命を預けると、そう決めた。

 

これがボクなりの覚悟だ。

 

眷属(こども)を見捨てて生き残るくらいなら、自分の命ごと託して一緒に生き残る道を選ぶ。

 

負けた時は……せめて一緒に死んで天に帰ろう。

 

だから任せたよ…ベル君。

 

そんな思いを込めてベル君のステイタスを更新する。

 

 

【ベル・クラネル】

 

Lv.1

 

力 :sss 1550

耐久:ss 1090

器用:sss 1320

敏捷:sss 1890

魔力:I 0

 

《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

決意(レッド・ソウル)

 

・世界に対するセーブ&ロード権

 

・早熟する

 

・獲得経験値極大補正

 

・強敵との戦闘時決意の丈に応じステイタス上昇

 

・戦闘時決意の丈に応じ攻撃力上昇

 

・討伐経験のある敵との戦闘時能力大幅向上

 

・決意を新たにするたびに自動回復

 

・決意の折れぬ限り効果持続

 

 

凄い……ステイタスだけなら既にレベル1冒険者の中ではトップクラスの数値だ。

 

謎のスキルの影響も大いにあるだろうけれど、ステイタスはベル君が流した血と汗と努力の結果だ。

 

それだけの経験を、彼は日頃ダンジョンで積み重ねてきたという何よりの証拠。

 

これだけのステイタスと、ヘスティアナイフがあれば……きっと勝てる。

 

やるべきことはやった。

 

ボクにできることはここまでだ。

 

後は物陰に隠れてベル君に全てを任せる。

 

物陰から武器を素振りするベル君を見ていたら、突然ヘスティアナイフが赤く光り出した。

 

何が起こったのか分からないけれど、脈動するように赤く浮き上がるナイフの神聖文字はまるで生物的な印象を受けた。

 

まるで()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()…そんな印象を抱かせた。

 

『生きている武器』とは言ったけど……まさか本当に……?

 

そのことについて深く考える間もなく、モンスターが遂に現れた。

 

固唾を呑みながらボクはそれを見守る。

 

壁を上ってくるモンスターに向かってベル君が雄叫びを上げる。

 

そして次の瞬間、ベル君の左目が赤い光を放ち、ヘスティアナイフも呼応するように赤い光を纏った。

 

二つの赤い輝きはまるで共鳴するかのように強さを増していった。

 

これが……ベル君のスキルの効果…?

 

そう見惚れている暇もなく、ベル君はあっという間にモンスターの足元を潜って背後に回り込むと、モンスター巨体を足場に高く飛び上がり、次の瞬間にはモンスターの首を切り落としていた。

 

あまりにあっさりしすぎて事実を呑み込むのが一瞬遅れたけど、ベル君が勝った!

 

勝ったんだ!

 

ボクは嬉しくて思わずベル君に飛びついた。

 

暫しベル君と勝利の余韻に浸っていると、安心したせいかどっと疲れが出て気を失ってしまった。

 

目が覚めると、見慣れない部屋のベッドに寝かされてベル君が隣で心配そうにボクを見ていた。

 

ベル君がいうには、ここは『豊穣の女主人』の一室らしい。

 

何でもあの後ボクを抱えてホームに帰ろうとしていたベル君がちょうど探していた給仕の娘と遭遇し、介抱のためここのベッドを貸してくれたらしい。

 

事情を把握したところで、ベル君にナイフのことについて聞かれた。

 

落ち着いたところで流石に気づいたのだろう。ヘスティアナイフの鞘にあのヘファイストスの刻印がされていることに。

 

ヘスティアナイフの代金2億ヴァリス。

 

ボクらには逆立ちしてもそんなお金があるはずないのでヘファイストスに無理言ってツケにしてもらったのだ。

 

お陰でボクはヘファイストス・ファミリアでタダ働きして働いて返すことになっているが、それは言わないことにする。

 

ベル君に余計な負い目を感じて欲しくなかったし、そもそもこれはボクが勝手にやった事だからだ。

 

ボクはただ、ベル君を守りたかった。

 

養われるだけじゃ嫌だった。

 

力になってあげたかった。

 

だって……

 

ボクらは『家族(ファミリア)』だから!

 

 

主神(おや)としての想いに目覚め、彼女は(She's)決意に(filled with)満たされた(DETERMINATION)

 

 

 

 

 

 




ドーモ。ドクシャ=サン。ゼロサキです。

ちょいちょい詰まりながら何とか完成しました。

いやぁ難産と言うか寧ろ暴走気味というか…日記形式ってこんなのだったっけ…?

筆のノるままに勢い任せで書いたら若干迷走して日記形式じゃなくなってるような感じが若干しないでもない可能性が微レ存ですが「こんな日記だってあっていいだルルォ!?」と言い張って押し切りましょう。

さて、ベル君視点とヘスティア様視点が終わったところですが次回はまだ2巻にはいきません。

この事件の裏側を第三者視点でパパパっと書いて、(1巻)終わりっ!てな感じの予定でございます。

分量少なそうだから割とスグ投稿できるかな…?(フラグ)

まぁ大体皆さんご存じの通り、フレイヤ=サンが登場します。

彼女がベル君をどう思ってるのか気になっている人はご期待ください。

投稿頻度が下がる一方ですが絶対に黙って失踪はしないのでアンテ周回でもして気長にお待ちくだされば幸いです。

ではまた次回!
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