求人募集・我が師を殺せる者   作:ぶーめらんさー

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はじめましてーぶーめらんさーでございます。


此度落第騎士とfateのクロスオーバー作品を書き始めました。最後まで読んでいただければ嬉しいです。


1話

破軍学園。全国に七校存在する国際機関の認可を受けた魔導騎士専門学校の一つ。日も暮れて電灯の薄灯りが周囲を照らすその学び舎に、規則的なテンポの早い足音が響いていた。

 

足音の正体は黒髪の男子生徒だ。動きやすい服装で薄らとだが額に汗をかいている。彼はいつもの日課であるランニングを終えて人気の無い学園に戻ってきた。

 

先程通った正門から彼の住まいである寮に戻ろうと歩みを進める彼に、とある男の声が響いた。

 

「よぉ坊主」

 

その声に足を止め、その声の元に視線を向けた。その方向は彼の頭上。学園の庭に植えられている木の枝。そこに獰猛な笑みを浮かべ立つ男がいた。

 

「僕ですか?」

 

「お前以外に周りに誰がいるってんだ。……黒鉄一輝、だろ?」

 

男はそう言って木から飛び降り、その姿を顕にした。さっぱりとした青い髪。黒いズボンに白い半袖のTシャツだけのラフな姿。その身体はすらっとしているが、確かに鍛えられている事が一輝には理解出来た。

 

「何か用ですか?ていうか学園の関係者でもないですよね」

 

「いやぁなに。昨日の坊主の試合見ててな……どうだい?オレともちょっくらやりあわないか」

 

一輝の昨日の試合。ルームメイトである女子生徒との問題で起きた模擬戦の事だ。相手はAランク、一輝はFランク。強さの評価だけで言えば隔絶した差を持つ相手に彼は勝利した。

 

あの訓練場の何処かで見ていたのか、口頭や映像でも伝わったのか。男の素性や事情はわからない。しかし一輝は一つだけ確信していることがある。

 

この人が強者だという事だ。彼自身が感じている威圧感や獣の様にギラギラと光る赤い瞳がそれを物語っている。だが、その威圧感は彼を怯ませるものではなく、むしろ昂らせるもの。

 

「……良いですよ。貴方の目的はわかりかねますけど。僕も貴方とは戦ってみたい」

 

男の獰猛な瞳に対し、一輝も闘志を含んだ瞳で返す。その視線を受け取った男はさらに口角を上げる。そして手に深紅の槍を顕現させた。手慣れた動きで槍を高速で回し、肩に担ぐ。

 

「いいねぇ。話が分かる奴は事が早くて助かる」

 

一輝の視線はその槍の先に移る。そこには禍々しいほどの魔力。その槍の形状や長さなど、戦闘に必要な情報を拾いつつ言葉を続ける。

 

「僕としては先に理由を聞いておきたいですけどね」

 

「なぁに、そんな大した話じゃない。将来有望な若者に、今の内に唾でも付けとこうかと思ってな……強いて言うなら未来の求人募集だ」

 

「求人募集?」

 

「まぁ細かい事は良いじゃねぇか……さて、存分に楽しませてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

ここは何処だろうか。自分がひょんな事から死んでしまったのは覚えている。人はいつか死ぬものだし、これといって気がかりなことも無い。……要は寂しい人生だっただけだ。

 

さて、生前の話はどうでもよく今の現状について整理してみよう。

 

自分の身体はあるにはあるのだが実感は無い。もしかして今の自分は霊とか魂とかそんな感じなのかもしれない。

 

周囲はと言うと、''ここが死の国です''と言わんばかりの物悲しく暗い世界。光などはなく、瘴気のような煙さを感じる。そして音などは一切無い。ただそれだけだ。周囲の雰囲気も相まって肌寒くも感じる。

 

 

「おや?妙な迷い物があったものだ」

 

 

何も無く、無音のその場に音色のような声が響いた。

 

驚きその方を見れば一人の女性が近づいてきている。その人物の顔を見て声をあげそうになった。いや自分では声を出したつもりが、音が出なかったのだ。

 

紫色の独特の衣装を身に纏い、均整の取れた黄金比としか思えないプロポーション。深い赤色の髪に全てを見透かす様な紅き瞳。全身から放たれる王者の風格。

 

 

それは自分がハマっていたゲーム、『Fate/Grand Order』に登場するランサーのサーヴァントの一体。ケルト・アルスター伝説の戦士。異境・魔境『影の国』の女王にして門番。

 

 

スカサハ……またの名をおっぱいタイツ師匠。

 

 

「ん?何か変な事を考えておらんか?」

 

 

訝しげに眉を顰める彼女を相手に首を全力で振る。何故かはわからないが言葉が話せないので、仕方なくこうするしかない。

 

「あぁ、なるほど。良いぞ、発言を許可する」

 

「え?……うおっ!言葉が出る」

 

ようやく自分の声が出せた。スカサハに許可を貰ったら発声できたとなると、自分は何かされたのだろうか。

 

「理解出来ないとでも言いたげじゃな。ここは儂の支配する影の国、死者の世界だ。ここでの全ては儂に支配権がある……別の世界から流れて来た魂にも然り」

 

フムフム、つまりここに来た時点で支配されたと。自分はどうなるんだろう。こんな世界でまさかの人物と出会って。

 

「ところで……なんでそんなにマジマジと見てるんですか?」

 

「見込みがあるかと思ってな……ただ残念ながらお前には素質が無い」

 

そりゃあ一般人ですしお寿司。ケルト人とは全く違う人種だし。むしろケルト人は人間かどうか怪しいレベルだし。

 

「じゃが暇つぶし程度にはなるか」

 

「あのー……わかりやすく完結にお願いします」

 

「儂の暇つぶしがてらお前を鍛える。素質は凡人もいいところだが、この国で魂として自我を持っているのは珍しい。その状態では魂が死ぬまで寿命と呼ばれるものは無い」

 

「えーっと……つまりどいう意味ですか?」

 

「お前を数百年くらい鍛えてみようと思う。いくら素質が無くても時間さえかければそれなりの戦士には成り得るかもしれん」

 

は.......?自分がケルト式ブートキャンプを?

 

「いやいや.......死にますって」

 

「既に死んでおろうが」

 

そうでした。

 

「そうじゃな.......儂が納得出来る程度の戦士になれば、現世に返してやらんこともない」

 

え.......マジっすか?

 

「さて、さっそく始めるとしよう。そうじゃな、まずは.......」

 

あっコレ拒否権ないやつだ.......

 

ここから約300年にも及ぶ地獄のような修行の日々が始まった。文字通り魂をすり減らしながら、師匠に扱き抜かれたのである。

 

 

 

 

それから長い時間が経った。

 

魂だけの存在だが、軽く英雄の域には入ったのではないかと思えるレベルにはなった。なんとあの師匠と30秒は闘えるのである。時間計算で10年かけて1秒間だ。塵も積もればなんとやら。

 

しかしそのタイミングで師匠に言われた。

 

「もうこれ以上は伸びんな.......」

 

どうやら俺の魂の限界がきたようなのである。これ以上の成長は望めず、打ち止めとなってしまったそうな。

 

「これだけ時間をかけてようやくセタンタ並か。難しいもんじゃの」

 

逆に生きている間にこのレベルにいけるのはどうかと思う。さすがアニキ。実際自分の兄弟子である。

 

「よし、我が弟子よ。現世での肉体をやるから.......儂を殺せそうな魂を狩ってくるのじゃ」

 

え.......?死神になれと?

 

「身体は.......今のお前の魂ならセタンタでも耐えれるじゃろう」

 

兄弟子であるクー・フーリン兄貴の肉体が生成され、その中に魂の存在である自分がぶち込まれる。

 

「お前の知識の中の英霊(サーヴァント)と似た仕組みじゃ。使い方は実際に現世へ返ってから確かめるといい」

 

ういっす。

 

ていうか今更だけど、ここ俺の生前とは違う世界の影の国なんだよね。なんでも普通に魔法や特殊能力が存在して、英雄が生まれたりする世界。伐刀者(ブレイザー)とか魔導騎士と呼ばれているそうだ。

 

「今のお前と互角、もしくはそれ以上の者がいたら、コレで心臓を刺してこい」

 

そう言って渡されるのは、アニキの代名詞ゲイ・ボルグ。まぁ、今更ポンと渡されても師匠ので見慣れているので驚きはしない。ただこれには特徴があるらしく、ゲイ・ボルグの能力に加え、刺した対象の魂と師匠を繋ぐ特性があるらしい。

 

つまりコレで心臓を刺されれば、死後にケルト式ブートキャンプにご案内されるというわけらしい。師匠は直接現世へ介入できないようなので、この世界の異物である俺を仲介して新たな弟子を探すつもりらしい。

 

そうして魂の状態で長い年月をかけて、自身を殺せる者を育てるそうなのだ。正直言って、殺せる人いると思えんのだが.......

 

「では期待しているぞ」

 

そうして300年ほど遠回りして異世界に憑依転生した俺の、死後の求人募集が始まるのだった。

 

 

 

 

△求人募集、我が師を殺せる者△

 

〜概要〜

仕事場まではスタッフがお送り致します。

衣食住の心配はありません。

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とても槍がいのある、アクティブな職場です。

肉体、精神、魂の成長が見込めます。更なるスキルアップをお望みの方は、徹底的にサポートさせていただきます。

離職率は0%です。

上司の情熱的な指導がありますので、新人の方でもすぐに仕事に慣れることができます。

独自の教育プログラムを実践しており、未経験の方でも一人前になる事が実証されています。

 

 




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では次回もお楽しみに!

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