東方仮面時王異聞~Another Time Decade~   作:放仮ごdz

5 / 10
はいどうも、平成ライダーの終わりが近づいているためライダー熱が燃え上がっている放仮ごです。ジオウが終わるまでもう少し進めたい。感想はいつだって受付中です。インスピレーション湧くので本当にありがたいんです。

今回はアナザーファイズ/妹紅と別れたさとりの話。第一話でアナザーライダーと化した彼女も登場。地獄と化した人里での戦いです。終盤グロ注意。楽しんでいただけたら幸いです。


第五話:孤独(七色)の人形遣いと最強(湖上)の氷精

 独りは嫌だ。一人ぼっちはもう嫌だ。人形たちがいてもこの孤独は埋まらない。私の居場所は、この幻想郷にはない。そう確信してしまったのは、こんな状況になったからだろう。幻想郷を襲った悪意。たまたま人形劇で人里に訪れた私は、厄災と呼ばれるそれに襲われた。そして見捨てられた。ああそうだ、みんな家族や友人が大切で、私なんかを気にする余裕はないのだろう。私が親友だと思っている魔理沙もパチュリーも、どうせ私以外の人を選ぶだろう。ああ、やっぱりこの幻想郷に私の居場所はない。ああそうだ、みんな私と一緒になればいい。私になればいい。私が沢山いれば、そこが私のいるべき居場所じゃないか。

 

――――「そうだ、誰にでも帰れる居場所は必要だ。これまでの自分を捨て去り、目覚める魂がままに居場所を守り抜け。今日からお前がアギトだ」

≪アギト!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大ちゃんたちに手を出すなあ!」

 

 

 人里に訪れたさとりが目ににしたのは、大量に人里を跋扈する、普通の着物を身に纏ったバッタの様な異形の怪人「アナザーアギト」の群れと、それらから背後の妖精や子供を守りながら氷漬けにして斬り砕いていく怪人の姿。

 群青色の体をした、まるで枯れ木の様な甲冑を身に着けた鎧武者の様な姿で、刀が突き刺さった頭からは血が流れて後頭部から生えた黒が混じった水色の長髪は落ち武者のようにも見える。オレンジの切り身の様な単眼の様なバイザーからは怒りに満ちた眼が覗いていた。中央に8が描かれた錠前とナイフが合体した様な切腹してるかの様なベルトを身に着け、左肩の鎧には2002の年号が、右肩の鎧にはGAIMと刻まれているそれの名は「アナザー鎧武」。ほぼ壊滅状態の人里が徐々に氷漬けにされていく光景にさとりは目を丸くした。

 

 

「…何故アナザーアギトがこんなに…それに、あのアナザー鎧武は…?」

 

 

 アナザー鎧武は冷気を纏った巨大なオレンジの切り身を模した刀身の大剣を振り回してアナザーアギトを次々と薙ぎ払っており、天下無双とはこのことだと言わんばかりの大暴れだ。しかし背後にいる妖精や人間の子供たちを守るためにアナザーアギトの攻撃を受けてもおり、劣勢だというのが分かる。100を優に越える数から一人で十人近くも守るのは無謀だ。

 

 

「…アナザーライダーが全員敵だと言う訳でもない、か。変身!」

≪カメンライド・ディケイド!!≫

 

 

 見かねたさとりはディケイドに変身しながら走り、ガンモードにしたライドブッカーから放った光弾でアナザーアギト数体を吹き飛ばし、アナザー鎧武に加勢すべく隣に立った。

 

 

「状況は理解できないけど加勢するわ」

 

「なんだお前!私一人で十分だ!」

 

 

 しかしアナザー鎧武は助力を喜ばずディケイドにも大剣を振るい、ディケイドはバックステップで回避。そのまま地面に突き刺さった大剣を蹴りあげてアナザー鎧武を狙って飛びかかってきたアナザーアギトの一体を迎撃した。

 

 

「後ろの子たちを守りたいんでしょ?私に構っている暇はないんじゃないかしら」

 

「チルノちゃん、助けてもらおう。チルノちゃんだけじゃ…」

 

「ぐっ、大ちゃんがそう言うなら…。みんなに少しでも触れたら許さないからな!」

 

「はいはい」

 

 

 大ちゃんと呼ばれた緑髪を黄色のリボンでポニーテールに纏めた妖精、大妖精の言葉でしぶしぶ受け入れるアナザー鎧武にやれやれと手を振りながら近づいてきたアナザーアギトをソードモードにしたライドブッカーで斬り付け蹴り飛ばす。

 

 

「ちょっと暴れるからお前たち、大ちゃんたちを守れ。氷王【フロストキング】」

 

 

 そう言って氷の形状の使い魔を生成し、小弾幕をばら撒かせて大妖精たちを護衛させるアナザー鎧武は、自身の体の数倍はあろうかという巨大な氷のハンマーを、アナザーアギトの密集している場所に振り下ろした。

 

 

「氷塊【グレートクラッシャー】!続けて、冷体【スーパーアイス無頼キック】!」

 

「随分とまあ派手なのね。じゃあ私も」

≪カメンライド・ファイズ!!≫

 

 

 続けて冷気を纏って飛び蹴りを繰り出すアナザー鎧武に対抗すべく、ディケイドもアナザーファイズに酷似した…というよりオリジナルであるライダー、ファイズに変身。スナップを利かせてから放った拳でアナザーアギトを殴り飛ばし、カードを三枚連続で装填。

 

 

≪アタックライド・ファイズショット!≫

≪フォームライド・ファイズ!アクセル!!≫

≪ファイナルアタックライド・ファファファファイズ!!≫

 

 

 ディケイドファイズ アクセルフォームに変身し、装備したデジタルカメラ型手甲ファイズショットで10秒間高速移動しながら連続でライダーパンチ、グランインパクトを叩き込んで、Φの紋章が浮かびあがったアナザーアギトは崩れ落ちて人里の人間に変わり、この大量のアナザーアギトの正体が人里の住民だと察した。しかしファイズの必殺技は猛毒を打ち込むというもの、生きてはいない。アナザー鎧武は気にせず氷漬けにして砕いて殺してしまっているが、後の祭りだろう。

 

 

「他の人間を仲間にする…そんな感じの能力ね。もしかして後ろの子たちを守るために?」

 

「…チルノちゃんは、私を死なせてしまったことを気にしていて…誰も犠牲にしないために、戦っているんです」

 

「なるほど、ね!」

 

 

 殴りつけていた途中でいったん止まって問いかけてみるとアナザー鎧武ではなく大妖精が答え、納得するディケイドファイズは10秒たつとディケイドに戻り、時には殴りつけ、撃ち、斬り飛ばすのを繰り返していると、何時の間にやら広場の真ん中に追い詰められていた。このアナザーアギトの群れ、無作為に暴れていただけかと思えば統率されているらしい。

 

 

「輪切りにしてやる…氷符【ソードフリーザー・無双スライサー】!!」

 

「おっと」

 

 

 アナザー鎧武がもう片方の手に氷の剣を取り出したのを見るなりディケイドが大妖精たちと同じように屈むと、両手に剣を手にしたアナザー鎧武は一回転。ディケイドの頭すれすれをオレンジの輪切りの様な冷気の斬撃が360度ぐるりと回転斬りとして放たれ、周囲のアナザーアギトは凍り付き、砕け散った。

 

 

「…これで全部かしら。人間相手でも容赦ないのね…って、何のつもり?」

 

「次はお前だ」

 

 

 一息吐いていたディケイドに、大剣の切っ先を向け、振りかぶるアナザー鎧武。ディケイドは咄嗟にライドブッカーをソードモードにして受け止め、押しのけてからソードモードにする前に取り出して置いたカードをドライバーに装填した。

 

 

「聞き分けのないお子様には痛い目にあってもらうわ」

≪アタックライド・イリュージョン!≫

 

「やれ、お前たち!」

 

 

 三人に分身したディケイドに、アナザー鎧武は大妖精たちを守らせていた氷の使い魔を呼び寄せて小弾幕を放たせ、三人のディケイドはそれぞれ応戦。一人がガンモードで使い魔を撃ち抜き、一人がソードモードでアナザー鎧武とつばぜり合い、一人が横手からアナザー鎧武を殴りつける。アナザー鎧武の動きは素人のそれであり、同じ素人であるさとりの目からしても動きが分かりやすく、死角になる位置に回って攻撃を与えただけなのだが、それが理解不能に見えたのか攻撃の手が止まってしまうアナザー鎧武。

 

 

「これで!」

≪ファイナルアタックライド・ディディディディケイド!!≫

 

 

 二人のディケイドがアナザー鎧武を取り押さえ、本体のディケイドがエネルギーを纏ったライドブッカーの斬撃「ディメンジョンスラッシュ」を叩き込み、分身を巻き込んで爆発するアナザー鎧武。大妖精と人間の子供たちの悲鳴が上がるが、爆発は巻き戻るかの様に消えて無事なアナザー鎧武が姿を現す。やはり、ディケイドの力ではアナザーライダーを倒すことは不可能だと思い知らされた。冷気を纏った斬撃が固まり、飛ぶ氷の刃となってディケイドに炸裂。氷の欠片が散乱し、ディケイドの変身が解けてさとりは地面に叩きつけられた。

 

 

「ぐうっ…ディケイドじゃ、勝てない…」

 

「よくもやってくれたな、最強の!私相手に!」

 

「チルノちゃん、待って!」

 

 

 激高したアナザー鎧武がとどめを刺そうと大剣を振り上げると、背後から大妖精が腰に抱き着いて制止させる。大妖精を傷つけたくないからかそのま大剣を振り回すことなく身をよじって暴れるアナザー鎧武。しかし大妖精は必死になって離れない。子供たちは固唾を飲んで見守り、さとりもダメージで身動きが取れないまま見上げた。

 

 

「大ちゃん、どいて!そいつ殺せない!」

 

「駄目、駄目だよ!もう何人も殺してしまったのに、無抵抗の人まで殺したらチルノちゃんは前のチルノちゃんに戻れなくなる!」

 

「前の、あんな弱くて誰も守れない私に戻る気なんてないよ!それに厄災みたいにたくさんの姿に変わるコイツがアイツと無関係な訳がないもん!てか厄災でしょ、仕返ししてやる!友達みんなと私達を殺した敵討ちだー!!」

 

「もう、中途半端に頭良くなっても根本的に⑨なんだから!厄災だったら私達を助けるはずがないでしょ!襲ってきたチルノちゃんに反撃するのは普通だよ!?」

 

「あ、そっか」

 

「きゃっ」

 

 

 ぴたりとアナザー鎧武が止まり、ずり落ちて尻餅をつく大妖精。同時に変身を解き、みるみる縮むアナザー鎧武。現れたのは、水色の髪を青いリボンで纏めた少女の姿をした氷の妖精、チルノ。しかし本来蒼い瞳は血の様に紅く染まり、不機嫌な表情をしていながらも手をさとりに差し出した。

 

 

「…ごめん」

 

「チルノちゃんは気が立っていたんです、ごめんなさい!あ、私は大妖精と言います!」

 

「いいえ、こちらも話そうともせずに反撃して悪かったわ。私は古明地さとり、人探しをしているの。貴方達は?」

 

「…えっと」

 

 

 チルノの手に掴まって立ち上がったさとりが問いかけると、言いどもる大妖精。先程元の姿に戻って死んでいった人里の人間は大人もいれば子供もいた。そこからさとりは何となく察し、念のため心を読んで答えを確信する。

 

 

「…寺子屋の生き残りか。寺子屋の教え子を襲ったって言うアナザーライダーと先刻戦ったわ。それに、人里を守ろうと妖怪を襲っていた人間の少女のアナザーライダーも寺子屋の者らしいけど、まだ関係者が生きていたのね」

 

「妖精は死んでも蘇るの。私と大ちゃん、妖精の皆は厄災に殺された。ルーミアもリグルもみすちーも無事かは知らない。人間の友達もこれだけになった。だから私は死んでも守る。何度死んでも大ちゃんは二度と殺させないし、守れないのは嫌だから」

 

 

 そう語るチルノの心に嘘偽りはなく、大妖精を始めとした面々もそんなチルノを信じて共にいるらしい。大妖精だけは変わってしまったチルノを心配し身を案じているようだが。アナザー鎧武の力で歪んでいるようだが、根本は大妖精たちを守ることだと知って悩むさとり。正直、厄災の思惑通りに力を使わせるのは危険だと思うのだが、アナザーライダーの力でないと厄災に対抗できないのも事実。あの霊夢でさえ対抗できなかった結果がこの惨状だというのは火を見るより明らかだ。

 

 

「それでさとり、本当に厄災の仲間じゃないんだよね?」

 

「確かに私の力…このベルトは厄災のトラウマを想起した物だけど。厄災もたくさんの姿に変わるって本当なの?」

 

「はい。覚えている限り…狼男の様な怪人、サメの様な巨大なモンスター、ステンドグラスの体表を持つカブトムシの様な怪人、甲殻類の意匠の鎧武者の様な怪人、オレンジ色のメカ染みた戦士の様な姿、赤と青の歯車を噛み合せたような怪人、コウモリの翼が生えた車の様なモンスター…他にも色々、姿を変えてみんなに襲いかかっていました」

 

「…狼男、サメ、ステンドグラスでカブトムシ…?」

 

 

 いくつかのフレーズが脳裏に引っかかり首をかしげるさとり。どこかで聞いたような、見たような…?うんうんさとりが唸っていると、コツコツと靴音を立てて何者かがその場に訪れた。チルノは警戒して入口の方に視線を向けて大妖精たちを背に庇い、さとりも気付いてディケイドライバーを腰につけライダーカードを取り出し構えつつ振り向く。そこには、まるで人形の様な金髪碧眼の美少女がいた。

 

 

「もしかして貴方達かしら?私達(アリス)への覚醒を拒んだばかりか、ひ弱な私達(アリス)を蹂躙して殺してくれた不届き者というのは」

 

「アリスアリスって自己紹介?何の事かしら。私達は自分の身を守っただけよ、文句を言われる謂れはないわ」

 

「ああ!ああ!貴女たちも私を拒むのね?なら貴方たちも(アリス)になってもらうわ。そうすればここは誰であろうと拒まれない不思議の国(ワンダーランド)になる、皆で永遠に幸せに暮らせるわ。それが私のブレインが導き出した真理よ、悪い話じゃないでしょう?」

 

 

 霊夢を思わせる、ハイライトが存在しない瞳で満面の笑みを浮かべる少女、アリス・マーガトロイド。胸に抱いている魔導書にめり込むほど握り込み、笑顔はすぐに消え去り拒否される恐怖に支配されているかのようにハラハラとこちらの答えを窺っていた。

 

 さとりのこれまで会ってきたアナザーライダーには二種類いた。パルスィや妹紅、アナザー響鬼の少女の様な、半ばヤケクソとなって襲ってくる輩。まだ理性を持っている方だ。問題はもう一種類、心を読みたくないと思うほどの狂気…霊夢だ。もはや話が通じず、自分にとってもっとも都合のいい結論…いうなれば「幻想」に囚われ、狂うしかなくなって目的のためなら手段を選ばなくなっている狂人。アリスもそれだとさとりの脳が結論付ける。

 

 

「チルノ、大妖精、ここは穏便に…!?」

 

「大ちゃんを見たな、お前!!」

≪鎧武!!≫

 

 

 刺激したら駄目だ、刺激しないように逃げないと…そう思ってチルノに言葉を掛けようとした瞬間、チルノがアナザー鎧武に変じて斬りかかっていた。

 

 

「チルノ、なにを!?」

 

「こいつ、大ちゃんたちをヤバい目で見てた!何かする前に叩っ斬るんだよ!!」

 

 

 その言葉と共に大剣が一閃され、アリスの首目掛けて振り下ろされる。しかし、首に触れるか触れないかというところでビシッと何かが煌めき止められた。

 

 

「なっ!?この…!なんで、動かない…!」

 

「チルノちゃん!」

 

 

 アナザー鎧武は大剣を握る手に力を込めるもビクともしない。それどころか、アナザー鎧武も宙に張り付けれたまま身じろぎすらできなくなってしまい、眼前のアリスに怒号をぶつける。

 

 

「お前、何をした…!?」

 

「私は頭がいいの。あなたたち、特に貴方は私の素晴らしい提案に耳を貸さない馬鹿だってのはすぐにわかったわ。だから前もって仕掛けさせてもらったの。私は人形使い、掌の上の人形なんてどうにでも操れるわ。貴方はもう私の人形よ。その意思がどんなに私を拒もうとね」

 

 

 そう言い聞かせるようにアナザー鎧武に人差し指を向ける、アリスの手の指全てにはめられた指輪に括りつけられた何かが煌めき、さとりはそれが目に見えない糸によるものだと気付いた。アリスの手から伸びた糸がまるで蜘蛛の巣の様にアナザー鎧武を雁字搦めにしたのだ。糸一本で大剣を受け止める強度に驚愕しながらも、チルノの代わりに大妖精たちを庇うように構えるさとり。既に、囲まれていた。

 

 

「貴方は話が通じると見たわ。私の提案、飲んでくれるかしら」

 

「…そうしたいのは山々なんですけどね。大妖精たちに何かあったら私、そこの氷精に殺されてしまうのよ。だから抵抗させてもらうわ。変身」

≪カメンライド・ディケイド!!≫

 

 

 そして変身。ライドブッカーをソードモードにして周囲を警戒してジリジリと背後の大妖精たちを逃がすべく後退するディケイド。チルノは身動きを封じられ、守れるのは自分だけ。誰もこんな最高難易度(ルナティック)なんて求めてないんだけど、と内心文句を吐く。

 

 

「……そう。残念だわ。本当に、残念だわ。私達、友人になれると思ったのに。…やりなさい、私達(アリス)

 

 

 心底悲しそうに顔を両手で覆ったアリスの言葉を合図に、姿を現したのはアナザーアギトの群れ。しかし今度は着物だけでなく、装飾品やベルトの様な物を身に着けただけで衣服を着ていないアナザーアギトもいた。脳内のディケイドの記憶と照らし合わせて得た答えは、グロンギやアンデッドと言った怪人たちだということ。

 

 

「・・・友人、ね。こんなことにならずに会えていればそんな道もあったのかもしれないけど…怪人まで仲間にするのね、誰でもいいのかしら」

 

「仲間じゃないわ。みんながみんな、(アリス)よ」

≪アギト!!≫

 

 

 そう言って懐から取り出したアナザーウォッチを起動して黒い繊維に包まれ姿を変えるアリス。現れたのは、とてもアリスと同一人物とは思えない異形の怪人。ようやく全身の姿を見せたアナザーアギトの本体は、他のアナザーアギトとほとんど何も変わらないが、他と比べると随分と小柄であり、赤い複眼の中には碧眼が存在してディケイドを見据え、クラッシャーは全開で歯牙が剥き出しになっており変身前と同じく歪に笑っているようにも見え、胸部には2003の年号とΑGITΩの名前が刻まれていた。飛蝗を無理やり人の形にしたような姿は何かに覚醒して失敗した様にも見え、膨れ上がった筋肉は少々不恰好にも見える。その姿でようやく合点がいったのか、身動きが取れないまでもアナザーアギトに怒号を浴びせるアナザー鎧武。

 

 

「そうか!お前が、お前が人里の皆をあんな化け物に変えた犯人だな!」

 

「変えた?違うわ、私は覚醒を促しただけ。私と同じにしただけよ。この幻想郷に私の居場所はないの。だから、私が沢山いればそこが私の居場所になる。みんな、私の操り人形よ!ああ、なんて素晴らしいのかしら!誰にも忌避されない世界!誰も差別を受けない世界!みんな私になればいい!やりなさい、私達(アリス)!」

 

「「「「アァアア……!」」」」

 

 

 本体のアナザーアギトが両腕を振り下ろすと、それを合図とするように一斉に襲いかかるアナザーアギトの群れ。ディケイドも大妖精たちを守るべく反撃するが、まるで操演の様に本体のアナザーアギトは両腕を振るい、それに合わせるような統制された動きでアナザーアギトの群れはディケイドを追い詰めていく。

 

 

「しまっ…」

 

「うわあああっ!?」

「きゃああ!?」

 

 

 振り下ろしたライドブッカーを横から蹴り付けられ、ディケイドが体勢を崩したところに雪崩れ込むアナザーアギトの群れ。大妖精と妖精たちは弾幕を飛ばして反撃するも、そんな力も何もない人里の子供たちはアナザーアギトに噛み付かれ、その肉体を変化させアナザーアギトに変貌してしまった。真横にいた子供がアナザーアギトに変貌した恐怖で集中が解かれた妖精たちも犠牲となり、アナザーアギトは増殖していく。

 

 

「さとりさん…!…チルノ、ちゃん…」

 

 

 アナザーアギトの波に飲み込まれんとし、泣きそうな顔で手を伸ばす大妖精。ディケイドは何とか向かおうとするも妨害され、噛むべき生身の箇所が無いからか四方八方から叩きのめされる。今にも大妖精がアナザーアギトに噛み付かれそうな、その光景を。操りやすいように前に移動した本体のアナザーアギトの背中越しに見せつけられ、数日前の記憶がフラッシュバックするチルノ…アナザー鎧武。ただ最強だと豪語するだけでなにも出来ず、手も足も出ずに目の前で大親友を殺され、自分も殺されてしまったあの日。決意したはずだ。

 

 

「…大ちゃんを、守れる、最強の私に変身するんだって…弱いアタイは捨てたんだ。そうだろ、なにやってんだチルノォオオオオッ!!」

 

 

 奮い立てるかのように自らに啖呵を掛け、四肢に力を込めるアナザー鎧武。全身を雁字搦めにされ、特に右腕が複雑に絡み付いていて少しでも力を込めたら締め付けられ切れてしまいそうだなんて関係ない。親友を守れない自分だけは真っ平ごめんだ。血が噴き出て、ミシミシと嫌な音を立て始める右腕。だがそれがどうした。

 

 

「ウオォオオオオッ!!」

 

 

 雄叫びと共に、その右腕が糸にもぎ取られて変身が解け、地面に落ちるチルノ。しかしそのまま気力を振り絞って左手を地面につけて強烈な寒波を放ち、人里丸ごとアナザーアギト全てを凍りつかせた。一応味方と判断されたのか凍り付かずに済んだディケイドは何とか這い出て、噛まれるまで紙一重だった大妖精を救出してチルノの元に向かった。

 

 

「ぐうっ…なんのこれしきぃ…!」

 

「チルノちゃん、もうやめて!」

 

 

 左手で右手を拾い、凍り付かせて無理やりくっつけると言う荒技で応急処置するチルノに泣き縋る大妖精。ディケイドはビシッと言う音と共に氷が少しはがれた本体のアナザーアギトに警戒を向けながらも二人の様子を眺めた。自分の不注意が招いた参事で、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

 

「もういい、もういいよ!私達の…私のためだけに傷だらけになるチルノちゃんなんて、見たくない…」

 

「全然よくない。大ちゃんを守るためにアタイは私になったんだ。大ちゃんは気にしなくていいんだよ」

 

 

 まるで、大妖精以外はどうでもいいと言っているかのようなチルノの言葉に、さとりはああ、やっぱりこの子も壊れていたんだ、と再認識した。そして。

 

 

「…やっぱり、アナザーライダーは不死身みたいね」

 

「ええ。よくもやってくれたわね…」

 

 

 本体のアナザーアギトを凍りつかせていた氷が細切れにされて剥がれ落ち、さらに出て来たアナザーアギトが右手を振るうと見えない糸により氷が全て剥がれ落とされ、アナザーアギトの軍団が凍りついた地に足を踏みしめる。それを見て、大妖精を背後に置いて立ち上がり、治ったとも言い難い右手でアナザーウォッチを起動しながらディケイドと肩を並べるチルノ。

 

 

≪鎧武!!≫

「お前、大ちゃんを危険に晒したな」

 

「…それもだけど、子供たちのことも…謝るわ」

 

「そんなことどうだっていい。ただ、あんな奴がいるんじゃ大ちゃんはずっと危険に晒されるってことだ。他にもわんさかいるんでしょ、あんな連中が」

 

「多分だけどね」

 

 

 同時にそれぞれの剣を構えるディケイドとアナザー鎧武。本体のアナザーアギトの操演によって雪崩れ込むアナザーアギトの群れ。それを見て、アナザー鎧武は左手に握った大剣を肩にかけ、右手に氷でできた刀を手にして、ディケイドに顔を向けた。

 

 

「決めた。さとり、私と大ちゃんはアンタについて行く。私だけじゃ大ちゃんを絶対には守れないし、この幻想郷からあんな奴らを全部追い出さないと安心できないもの」

 

「貴方もその一人なんだけど…厄災と敵対しているなら話は別ね。助かるわ、まずはこいつらをちゃっちゃと片付けましょうか」

 

「上等!ここからは私達の、花道オンステージだあ!」

 

 

 走り出したアナザー鎧武が氷の剣を地面に叩きつけると、氷が斬撃としてアナザーアギトの群れに地面を這って突き進み、氷の欠片が花弁の様にディケイドとアナザー鎧武の突き進む道に舞い散った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーto be next another time




今作のアナザーライダーは二種類に分かれていて「現実」を見て絶望するしかなかったパルスィや妹紅なのと、絶望して「幻想」を狂信する霊夢やアリスみたいなのです。理性があるかないかで難易度が跳ね上がります。

アナザー鎧武/チルノとアナザーアギト/アリス。それぞれ「変身したい」「居場所が欲しい」という願望からアナザーライダーと化しました。アリスの方は自分への自信がない故の自己嫌悪みたいなものですが。

冷気を操る能力を持つアナザー鎧武の元ネタは過去作「旧ウィザスマ」の未完である星蓮船編に登場する鎧武チルノ。シャーベットとフルーツって相性いいよね。今作で初めて使用した本人のスペルカードも上手く使える「最強」に変身したチルノです。一人称も「アタイ」から「私」に。大ちゃんを守っていたらなりゆきのまま、大ちゃんが守ってと言うから人里の生き残りも守っていた、今のところ暴走は何もしていないアナザーライダーです。大ちゃん以外は自分だろうがどうなっても構わないという思考に陥ってます。

対して、人形を操る程度の能力により操演で統制された動きを取るというアナザーアギト。無作為に暴れるのではなくこうするだけでさらに厄介になるかと。人里の人間どころか周囲の妖怪、厄災の引き入れた怪人まで変貌させてます。その目的は「私達(アリス)」だけが存在する幻想郷、人呼んで不思議の国(ワンダーランド)。みんな私になればいいっていう極論がえぐい。変身しなくてもブレインやら糸やらで普通に強いっていう。

また、厄災に直接殺されたチルノと大妖精の情報から、第一話の複数の厄災は全て同一人物だったと判明。ディケイドみたいに複数の姿に変身できる何者かってことですね。この時点でアナザーディケイドではないと分かります。

そして、大妖精を守るべく共闘するディケイドとアナザー鎧武。アナザーアギト戦は夢の共闘を書きたかった。ちなみになんで鎧武がディケイドの最初の仲間なのかはちゃんと理由があります。大雑把にいえば映画。

次回は人里での大乱戦。アナザーライダーが続々登場します。次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。