東方仮面時王異聞~Another Time Decade~   作:放仮ごdz

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大変長らくお待たせしました。最近東方ロストワードを始めた放仮ごです。ゼロワンももはや佳境ですね。超強化されたアナザーゼロワン書きたいので急ピッチで仕上げました。

今回は人里編の最終話。アリス/アナザーアギトとの決着、そして奴との再戦です。新たなアナザーライダー登場。敵か味方か…?楽しんでいただけたら幸いです。


第七話:半人半霊の醒剣(庭師)

 私は、弱い。厄災とやらが人里を襲った際に、私は人助けとか考える前に、腕試しとばかりに果敢に挑んであっさりと敗北し、実感した。春雪異変で魔理沙に負けてから、何も変わっていない。これでは幽々子様を守るなんて到底無理だ。何故か見逃されたが、厄災が幻想郷の実力者たちを襲わないとは限らない。弱い自分から脱却せねば、何も守れない。ああ、どうすればいい。手早く力を得るにはどうすれば…そうだ、厄災の連れて来た異形共を駆逐すればいい。最後の勝者になりさえすれば、私は強者だ。そうだろう?

 

――――「そうだ、愛した者を守るためならば手段を選ばずにはいられない。お前の囚われてしまった運命と戦い、そして勝って見せろ。運命を斬り開け!今日からお前がブレイドだ」

≪ブレイド!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上ならこの熱気は関係ない!アイシクルフォール・クナイバースト!」

 

 

 Aアギトトルネイダーで上空を高速飛行し、地上のアナザーアギト達の放ってくる火炎弾の弾幕を避けながら次々と形成した氷剣を放り投げ、氷の刃の雨の弾幕を降らすアナザー鎧武。ディケイドもその横で想起したマスタースパークを放って蹂躙。瞬く間にアナザーアギト達は散らされていく。

 

 

「数が減って来たわ。急降下して奇襲するわよチルノ、大妖精!」

 

「要はこれも弾幕ごっこよ!大ちゃんは最強の私の親友だもの!こんなでたらめな弾幕、軽く避けちゃって!」

 

「私、中ボスなんだけど…行くよ!」

 

 

 そしてディケイドの言葉に従い急降下。集中砲火と共に操演で空中に引っ張り上げられたアナザーアギト数体の斬撃が襲いかかるが、アナザー鎧武が斬撃を放って凍結させて一纏めの氷塊にしたアナザーアギト達を盾にして集中砲火を防ぎ、Aアギトトルネイダーの突進で氷塊をど真ん中から貫き破片を目暗ましにして、急停止したAアギトトルネイダーから勢いのままに飛び降りたディケイドの飛び蹴りがアナザーアギトの群れのど真ん中に炸裂。大半を吹き飛ばし、囲われたところを降りてきたアナザー鎧武が一閃。ついでとばかりにアナザーアギトの一体をアギトに向けて蹴り飛ばした。

 

 

「なっ…!?」

 

「数の暴力も弾幕ごっこと同じでブレイン…だったかしら?」

 

「馬鹿って侮った奴に一杯食わされる気分はどうだ⑨!」

 

「馬鹿は馬鹿よ。そんな力に惑わされないで貴方達も「私」になればいいじゃない。人はただ、人であればいい。妖怪も、怪人も、余計な力なんていらない。私を受け入れろ!」

 

 

 アギトは飛んできたアナザーアギトを邪魔だと言わんばかりに斬り弾き、ダブルセイバーを変形させて円形の刃となったそれを投擲、糸で繋いでチェーンアレイの様に振り回し、周りのアナザーアギトもろともディケイドとアナザー鎧武を斬り裂かんとするも、Aアギトトルネイダーに二人は回収されて上空へと退避する。

 

 

「さすがは人形遣いと言うべきかしら。本当のアギトと違ってトリッキーな攻撃をするわね」

 

「あれじゃ近づけない、どうしよう大ちゃん!」

 

「ダメージ覚悟なら突っ込むけど…チルノちゃんが許してくれないよね。とりあえず、彼らの攻撃が届かない上に逃げるよ…!?」

 

 

 そのままさらに上空へ逃れようとするAアギトトルネイダーに、糸が繋がった円形のダブルセイバーが飛んできて遠心力のままに前輪部に巻き付いて下に引っ張られてバランスを崩し落ちそうになる二人。見てみると、怒り心頭といった様子のアギトがいた。

 

 

「「なっ!?」」

 

「――――私がこの幻想郷の神になるのよ。許されない、アリス(アギト)以外が神に近づくなんて!」

 

「もう支離滅裂ね。アギトの力に飲み込まれてしまってる。もうあれは聞く耳持たない怪物よ。力ずくで黙らせるしかない。そのためにはカードを取り戻すか…」

 

「…私が倒す、ですね」

 

「それは駄目。大ちゃんを万が一でも危険に晒したくない」

 

「言い争っている暇はなさそうよ。来る!」

 

「「!」」

 

 

 何とかAアギトトルネイダーに掴まって口論していると、ダブルセイバーをもう一本取り出して円形に変形させ、二つ目の円形ダブルセイバーを左手に握り刃に炎を纏わせて投擲するアギト。それを見るなりアナザー鎧武がAアギトトルネイダーに巻き付いている糸を断ち切り、解放されたAアギトトルネイダーは急旋回してライドブッカーソードモードを構えたディケイドが一閃。円形ダブルセイバーを弾き飛ばすことに成功する。

 

 

「どこまでッ…どこまで私を馬鹿にすれば気が済むのよ!!」

 

 

 その息の合った連携が癪に障ったのか、激昂したアギトはまるで超能力…念動力でも扱うかのように複数のアナザーアギトを持ち上げ、まるでミサイルの如く投擲。文字通りぶっ飛んできたアナザーアギト達はディケイドとアナザー鎧武に迎撃されるも、「弾幕はブレイン」という信条はどこへいったのか力技で連続でアナザーアギトを飛ばすというごり押し戦法に切り替えたアギトの猛攻に、Aアギトトルネイダーに複数のアナザーアギトが組み付いて無理やり地面に引きずり落とされてしまった。

 

 

「アギトの超能力まで…それは反則じゃない?」

 

「大ちゃん、大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫…じゃない、かも」

 

 

 叩き落され変形が解けてしまったアナザーアギト(大)を守るべくアナザーアギトの群れを蹴散らすアナザー鎧武とディケイドだがしかし、炎を纏って襲いくる強化されたアナザーアギトの軍勢を薙ぎ払う事など到底できず、完全に囲まれてしまう三人。

 

 

「手こずらせてくれたわね…絆の形がなんだって言うのよ。さあ、(アリス)になることを受け入れなさい。それとも痛い目に遭ってからの方がいいかしら?」

 

「くっ…」

 

 

 アギトの手にしたダブルセイバーの切っ先を首元に突き付けられライドブッカーからカードを取り出すことが出来ないディケイド、アナザーアギト達の熱気でろくに氷が出せず太刀を手に構えるだけで精いっぱいなアナザー鎧武、大ダメージでまともに動けないアナザーアギト(大)。万事休すかと思われた、その時。

 

 

「ウェエエエエエエイ!!」

 

 

 奇妙な掛け声とともに、アナザーアギトの群れのど真ん中に人影が飛び込んで蒼い雷光が瞬くと共にアナザーアギト達が吹き飛ばされる。その中心にいたのは、アナザー鎧武と同じく重厚な鎧を身に着けたアナザーライダーだった。

 三葉虫とカブトムシを合わさった様な形状で複眼が無く直接剥き出しの瞳が見開いている頭部、肩や太腿等が膨れ上がったアンバランスでマッシブな体型の青いボディで、両肩に四本ずつ獣の爪の様な突起が生えた銀色に輝く西洋鎧に似た装甲のハートか逆さのスペードが三つ並んだような胸部、腰にはスペードの描かれたバックルの中央に髑髏が埋め込まれたベルトをつけ、背中には左側にBLADEの名前が、右側に2003の年号が刻まれていた。異形の寄せ集めの様な印象を受けるそれの名は「アナザーブレイド」。

 

 

「な、次はなに…がはっ!?」

 

「隙あり!」

 

 

 突然乱入してきた新たなアナザーライダーにアギトの注意が逸れた隙を突いてその懐に飛び込み、拳をアギトの腹部に叩き込んだディケイドは、統率が乱れたアナザーアギト達の穴を突いて二人を連れて何とか脱出することに成功。アナザーブレイドは右手に握った丸鋸がくっついた剣とも斧ともつかぬ馬鹿デカい大剣を左手に握った長い刀身の日本刀と共に振り回してアナザーアギト達を蹴散らしていく。その様はまさしく圧巻であり、ディケイドは怯みながらも襲ってきたアナザーアギトを迎撃しつつ問いかけてみた。

 

 

「貴方は敵?それとも味方なのかしら?!」

 

「私は、私の獲物が変わったこいつらを倒すために来た!邪魔になるならお前も斬る!邪魔しないのならどけ!」

 

「それは、ありがたいわね!邪魔はしないけど、一緒に戦わせて!」

 

「っ…私一人で十分だ!」

 

「チルノちゃん、意地を張るのはやめよう?最強だからって一人で戦うことはないよ」

 

「むっ、大ちゃんがそう言うなら…」

 

 

 ディケイドの問いかけに頷きながらタックルでアナザーアギト達を撥ね飛ばしていくアナザーブレイドに、フラフラのアナザー鎧武が物申すもアナザーアギト(大)に説得されてしぶしぶ頷き、先に飛び出したディケイドに続いて炎の中へと飛びかかる。

 

 

「私の考えを理解しようともしない脳筋風情が…私の邪魔をするな!」

 

「私は運命と戦う!そして勝つ!ウェイ!!」

 

 

 体勢を立て直したアギトのダブルセイバーとアナザーブレイドの大剣が激突。炎と雷が迸ったその余波でアナザーアギト達が吹き飛んでいき、変身者の技量の差かアナザーブレイドの振り下ろしがダブルセイバーを弾き飛ばしてアギトの胸部に炸裂、体勢が崩れた。

 

 

「今よ、大妖精!」

≪ファイナルアタックライド≫

 

「はい、さとりさん!」

 

 

 その隙を突いてアナザーアギト(大)に呼びかけながらカードをドライバーに装填、九枚のエネルギーカードを展開しながら跳躍するディケイドと、クラッシャーを展開して大地に両足を踏みしめ構えるとエネルギーがアギトの紋章となって足元に浮かび上がらせるアナザーアギト(大)。それに気付いたアギトがアナザーアギト達を嗾けるも、アナザー鎧武とアナザーブレイドに阻まれる。

 

 

「これで!」

≪ディディディケイド!!≫

 

「終わりです!てやー!!」

 

「私を受け入れなさい!」

 

 

 ディケイドのディメンジョンキックとアナザーアギト(大)の飛び蹴りが二つの流星となり、破れかぶれにアギトの放った炎を纏った拳が激突した。

 

 

「くっ…私を、拒むな!」

 

「拒んでいるのは貴方の方よ!」

 

「アリスさんこそ、私達を拒んで独りにならないで!…チルノちゃん!」

 

「おう!行くよ大ちゃん、さとり妖怪!」

 

「っ…ァアアアアアアアアッ!!」

 

 

 しかし、他のアナザーアギト達をアナザーブレイドに押し付けたアナザー鎧武もアナザーアギト(大)の横、ディケイドの反対側から黒ずんだオレンジの果汁が迸った飛び蹴りを繰り出してきて、咄嗟にもう片方の拳で受け止めるも力負けしてディケイドとアナザー鎧武の足が両の拳を弾いてがら空きとなった胸部にアナザーアギト(大)の飛び蹴りが勢いついて炸裂。

 

 

「そ、そんな…がふっ」

 

 

 アギトは吹き飛ばされて無人の家屋に頭から叩きつけられ、ぐったりとその場に崩れ落ちて元の姿に戻ったアナザーアギトの胸元からアギトライドウォッチが転がってカードに戻り、さらに変身が解除されてアリスの姿に戻ると手元にアナザーアギトライドウォッチが出現、すかさずディケイドはそれらを回収した。

 

 

「ようやく取り返せた…これからは気を付けないとね」

 

「ほんとだよ。さとり妖怪のせいで余計めんどくさくなったじゃない。大ちゃんが元に戻ってよかったけど、あとで覚えてろ?」

 

「ぐっ…な、なぜ…その力を奪えば、誰も私には敵わないって、厄災が…」

 

「貴方の敗因は肉弾戦に向いてないことと、自分のアイデンティティを捻じ曲げて力押ししようとしたことね。大妖精や里の外の連中をアギトにしなければ、アナザーブレイドは来なかっただろうしアギトの力がないこちらに勝機は無かったわ」

 

「炎で私の氷も封じられてたし、最強の私でも戦いにくい相手だったわ」

 

「…アリスさん、どうして」

 

 

 大妖精も元に戻り、周りのアナザーアギトも人間や怪人の姿に戻ったことで終わったことを確信して安堵の溜め息を吐きながら苦しげなアリスの問いかけに答えるディケイド。正論をぶつけられてぐうの音も出なかったのか恨めし気な視線を向けていたアリスだったが、悲しげな顔の大妖精にそう聞かれて、気まずい表情となって顔を背けた。

 

 

「…例え貴方が私を受け入れてくれるとしても、あんなことをしてしまったなら引き返せるはずがない。自業自得とはいえ、私の運命はああなった時点で厄災の手の内よ。それに私は弱いから、孤独のままだとあいつらに飲み込まれてしまう。だから…」

 

「あいつらって、もしかして霊夢…っ!?」

 

「大ちゃん!」

 

「え?」

 

「ウガアアアアアッ!」

 

 

 三人がアリスに気を取られていたところに、アナザーアギトの呪縛から解き放たれた怪人の一体…毒蛾の意匠を持つモスアンデッドが襲いかかってきてアナザー鎧武が咄嗟に守ろうと飛び出すも間に合わない一撃が大妖精を襲う…ところを、大妖精の目と鼻の先でモスアンデッドはアナザーブレイドに真っ二つにされ、その体に吸収された。見れば、同じようなベルトを付けていた複数の怪人も既に姿が無く、アナザーブレイドが倒していたことが窺えた。

 

 

「これでようやく…九体目」

 

 

 そう言って変身を解除するアナザーブレイド。現れたのは二本の刀を身に着けた銀髪をボブカットにして黒いリボンをつけた色白の少女。着ている白いシャツに青緑色のベストと短めのスカートはボロボロになっており、瞳も荒んでいたが敵意はなく、安心したさとりとチルノも変身を解くと顔見知りなのかアリスが少女に問いかけた。

 

 

「いきなり邪魔してきて誰かと思ったけど…魂魄妖夢じゃない、久しぶりね」

 

「そういうお前はアリス・マーガトロイド…人の獲物を奪わないでくれる?」

 

「えっと…妖夢さん、助けてくれてありがとうございます」

 

「また、大ちゃんを失うところだった…ありがとう」

 

「礼はしなくていいわ。弱者を守れずして幽々子様を守れるわけがないもの。ええ、私はまだまだよ」

 

「……チルノと同じタイプみたいね。敵意が無くて助かる」

 

 

 ギロリとアリスを睨みつける妖夢に大妖精とチルノが礼を告げ、変身が解除されたことにより心が読めるようになったさとりは妖夢の心を読んでその行動原理が「弱い自分からの脱却、そのために使えるものは何でも使う」というチルノとある種の同類な願いであると知って安堵の溜め息を吐く。さっきは興奮していたのか意思疎通が取れそうになって連戦するのかと冷や冷やしていたのだ。アナザーアギトから元の姿に戻った怪人たちを確認していく妖夢を尻目に、さとりはアリスに問いかけた。

 

 

「それでアリス。このウォッチは預かるけど…貴方はまだやる気なの?」

 

「いいえ。倒されて目が覚めた…とでも言えばいいのかしら。頭が冴えたというか、大妖精が私を拒まないって言ってくれたから…気が楽になった。私は、独りじゃないんだってね」

 

「そうらしいわね。私のことも友人だと思ってくれていいわよ。私も心が読めるから他者から忌避されていた気持ちは分かるわ。一人じゃないってのは心地いいものよ」

 

「…なら聞く必要なかったんじゃないの?」

 

「本人の口から聞くのと読むではまるで違うのよ?」

 

 

 朗らかにそう語るさとりに、呆気にとられた表情を浮かべるアリス。自分なら、そんな能力持ってたら孤独心に押し潰されるだろうことは想像に難くない。そんな強さが自分には足りないのだと、思いつめた表情を浮かべるアリスに、さとりはその心を読んで一息吐いた。

 

 

「…心を読んでしまったけど、そんな思いつめるものじゃないわ。悪いのはウォッチをばら撒いた厄災なのだから。解放された人里の人間は怪人見てさっさと隠れちゃったみたいだし、貴女も着いてくる?」

 

 

 その言葉に顔を上げ、目に見えて狼狽えだすアリスに笑うさとり。悪いものを溜めこむとろくなことにならないのは心に関しては専門家ともいえる自分が一番わかっている。他人の心が読めない故の思い込み、他人を信じれずに苦痛を感じていた少女に手を差し伸べたくなったのだ。

 

 

「…いいの?私、自分で言うのもなんだけどヒステリックよ?」

 

「でも頭がいいでしょう?この異変の謎を解き明かすのを手伝ってほしいの。なにせ、ついてくるらしい妖精二人と私じゃ考えるのは苦手でね」

 

「私は最強だ」

 

「ちょっと賢くなったけど、チルノちゃん…」

 

「…そうらしいわね。こんなめんどくさい私でよければだけど…チルノ、大妖精。許してくれる?」

 

 

 踏ん反り返るチルノとそれを窘める大妖精に苦笑を浮かべ、頭を下げるアリス。チルノの腕を切断したことも、大妖精をアナザーアギトにしたことも、罪悪感として記憶に残っているが故の礼儀。先程までの尊大かつヒステリックな様子とは似ても似つかぬアリスに、妖精二人は。

 

 

「もちろんです!ね、チルノちゃん?」

 

「いんや、許さない。私の腕はどうでもいいけど大ちゃんを信じないばかりか危害を加えたのは許さない。許さないけど、アンタが一枚も二枚も上手だったのは認める。大ちゃんを守るのを手伝ってくれるなら、許せる…と思う」

 

「素直じゃないわね」

 

「勝手に心を読むな!」

 

 

 馬鹿正直に許してくれた大妖精と、ぶっきらぼうながらも条件付きで許してくれたチルノに罪悪感と安堵からか決壊して涙を流し始めるアリス。そんな時だった。

 

 

「見つけたわよ、さとり~!」

 

「っ!?」

 

 

 突如伸びてきた右腕がさとりを掴もうとし、一番にそれに気付いたアリスが飛ばした上海人形の弾幕で弾いて難を逃れ、その腕が伸びてきた方角を見やると、人里の入り口にアナザーオーズから変身を解いた霊夢がそこにいた。背後には以前よりも量が増したメダルの山がある。

 

 

「霊夢さん…まさか、私を追って…!?」

 

「え、巫女に目を付けられて生き延びたのさとり?」

 

「私達の知る限りあの人に目を付けられて生き延びた人なんて妖精にもいなかったんだけど…」

 

「私も。…アギトになっていても、逃げることしか出来なかったわ」

 

「あ、やっぱり一番ヤバいアナザーライダーなのねアレ」

 

 

 三人から同情と驚愕の視線を向けられ、げんなりするさとり。察してはいたが理解したくなかった。少なくともこれまで会ったアナザーカブト、アナザー響鬼、アナザーファイズ、アナザー鎧武、アナザーアギトと比べると能力もダントツで危険だというのは明白だった。この人里での戦闘の音を嗅ぎ付けたのだろう霊夢は、ハアハアと興奮しつつ焦点の定まらない目でさとりを見据え、その目と目を合わせてしまったさとりはヒエッと短い悲鳴を上げる。

 

 

「足りないのよ、さとり!一度でも欲してしまったら、貴方達がいないと私はもう満たされないのよ。ねえだから、この手を掴んでよ!お願いだから!」

≪オーズ!!≫

 

「熱烈な愛の告白は嬉しいですが丁寧にお断りさせていただくわ。変身!」

≪カメンライド・ディケイド!!≫

 

「大ちゃんに手は出させない。私は最強だ!」

≪鎧武!!≫

 

 

 左手でウォッチを起動して変貌すると同時に右腕を伸ばしてきたアナザーオーズに対し、変身してそれぞれの剣で斬り掃うディケイドとアナザー鎧武は大妖精とアリスを背に、臨戦態勢を取る。

 

 

「さとり、お得意の変身でやれるでしょ!」

 

「…それなんだけどね。あのオーズってライダーと貴方の鎧武ってライダー、ディケイドは変身できないのよ」

 

「…は?アギトやら他のにはなってたのに?」

 

「名前や情報は姿の表面に在る記憶からわかるんだけど、ディケイドが変身できる九つのライダーには含まれてないわ。つまり手詰まりね。チルノの氷に期待したいんだけど?」

 

「大ちゃんの為ならやってみるけど‥‥!?」

 

「あ"あ"ああアアァァァ…!!」

 

 

 会話もつかの間、アナザーオーズは奇妙な唸り声と共に右腕だけでなく左腕まで伸ばしてきて、アナザー鎧武の大剣を掴みメダルの塊へと変え取り込んでしまった腕を凍らせるも分離して逃れられ、大妖精を抱えて飛び退くアナザー鎧武。二人が斬り掃う最中でアリスと大妖精も弾幕を飛ばして抵抗するも、伸び縮みする両腕の掌で受け止められメダルに変えられてしまい、霊夢のセンスとその能力の合わさった脅威に戦慄する一同。

 

 

「アリス、掴まって!…点で防がれてしまうなら面よ!想起【マスタースパーク】!」

 

「貴方の欲望、受け止めたいけどやめておきましょうか!」

 

 

 ならばとディケイドは極太の魔力光線を放ってアナザーオーズを飲み込まんとするも、飛蝗の如き跳躍で回避され、頭から赤い鷹の翼を生やして滞空するアナザーオーズは上空から七色の光弾…彼女の十八番であるスペルカード【夢想封印】を放ち、直撃はしなかったものの着弾時の爆風で目くらましされ背中合わせになって警戒する四人。そして魔の手が足元からディケイドを狙って伸びていて…

 

 

「捕まえた♪」

 

「危ない!」

 

「え?」

 

 

 ディケイドが突き倒されると同時に爆風は晴れ、そこにはディケイドを突き倒した形で背中にアナザーオーズの右手で触れられたアリスの姿が在った。たまらず、アナザー鎧武が氷剣でその腕を斬り落とすも手遅れであり、背中側からメダル化していき倒れ込むアリスに駆け寄り抱えるディケイド。

 

 

「アリス!…なんで」

 

「…気にしないで。友人でしょ、私達。でもごめん、貴方達の旅にはついていけない…この子を、お願い」

 

 

 そう言い残して上海人形をディケイドに押し付けるが最後、アリスはディケイドの胸の中で完全にメダルと化して崩れ落ちた。零れ落ちるメダルに、声にならない声を上げるディケイド…否、さとり。大妖精は居た堪れない表情となって俯き、そんな二人をアナザーオーズの魔手から守り続けるアナザー鎧武も怒りを表す様に氷剣を振り回す。

 

 

「安心して、さとり。アリスは死んでないわ。私の欲望として取り込まれただけよ」

 

「…貴方は、こんなことを何度繰り返したんですか…」

 

「私が守るべき、調停すべき者達すべてによ。人里、魔法の森、迷いの竹林、地底、冥界…色んなところで何人もの人間や妖怪が私の欲望へと還ったわ。それでも私は満足できないの、だからあなたも大人しく…」

 

「待って。今、なんて…」

 

 

 アリスを失った無力感に苛まれながらも、その言葉を聞き逃さなかったさとり。この怪物は、地底にも赴いたと、そう言った。ならば、あの無人と化した旧都の有り様は…

 

 

「まさか、お燐やお空…私のペット達も…!?」

 

「ああ、地底の話?そうよ、お空には特に抵抗されて一日再生に費やされたけど…ね。その分、この力を手に入れたわ。【ギガフレア】」

 

 

 そう言って胴体が赤く、孔雀の様な意匠のものに変化し左手に見覚えのある火球を形成するアナザーオーズ。前回のこいしの死といい、この怪物はさとりにとってとことん地雷の種らしい。

 

 

「私は貴方を…許さない!」

 

「なら一度痛い思いを見て考え直してくれないかしら。私の中にいた方が幸せよ!」

 

 

 怒りのままにライドブッカ―ガンモードを掲げて乱射するディケイドであったが、その光弾はよりにもよってアリスだったセルメダルの波に阻まれ、さらにメダルの波で吹き飛ばされて変身が解けてしまい、膨れ上がる核の火球が放たれんとする。アナザー鎧武は慌てて氷の壁を形成するも、焼石に水、核に氷だ。放たれる前の熱で足元はフラフラで、先のダメージもあって倒れる寸前であった。全滅の言葉が三人の頭によぎった、そこに。

 

 

「貴方を倒せば、私は最強だと言う事ですね?リフレクトモス」

 

「っ!?」

 

 

 放たれたその火球を真正面から受け止めたばかりか、跳ね返した怪人がいた。魂魄妖夢、アナザーブレイドである。逃げた怪人を追って一度人里を離れていた彼女であったが、アナザーオーズの襲来を察知して戻ってきたらしい。火球を跳ね返されて大ダメージを受けたアナザーオーズが周囲のセルメダルを取り込んで再生する中、アナザーブレイドは背後にいる三人に言葉をかけた。

 

 

「アレは私が引き受けましょう。貴方達は邪魔よ、ここから去れ」

 

「無茶よ、あれには一人じゃ敵わない…」

 

「これまで倒してきたアンデッドたちの能力を取り込んでいるので心配無用。貴方達を庇いながら戦うなんて無謀にも程があるわ。私を想うのなら速やかに逃げなさい」

 

「っ…私は、最強だ…」

 

「駄目だよ、チルノちゃん!ここは逃げよう?!」

 

「…任せたわ。死なないで」

 

「不死身の剣士には心配の無用ね」

 

 

 変身が解けたチルノに大妖精と共に肩を貸しながら人里を後にするさとりたち。そして、アナザーアギトから解放された者達の多くが残された人里にて、二人の「王」がぶつかった。

 

 

 

 

 

 

「いいわ、いいわ、いいわ!私をもっと笑顔にしなさい!」

 

 

 それを陰から見守る少女が一人。その手には赤いクワガタを模した仮面が描かれたアナザーライドウォッチが握られていた…

 

 

 

 

 

 

 

ーーto be next another time




まさかのアリスとの和解からの絶望エンドでした。アナザーオーズが強すぎる。

アナザーアギトトルネイダーからのトリプルライダーキックでアリスとの決着。からのアナザーブレイド登場。どういうわけか幻想郷に現れたアンデッドを狩ってバトルファイトの勝者として最強を目指している模様。本質はチルノと近いです。敵の敵は味方と言うポジションのアナザーライダーです。倒したアンデッドの能力を取り込む能力を得ました。

そして再登場アナザーオーズ。アリスをメダルに変え、さらに地底の妖怪達もメダルにして取り込んでいたことが発覚。パルスィが恐れていたのも霊夢のことです。さらにお空を取り込んだことで「クジャク」の能力と共にお空の核エネルギーを制御する能力まで得ているという圧倒的な力を披露。ちなみにお燐や勇義も取り込んでいるので…勝てるのかな?と正直不安です。

アリスから上海人形を託され、アナザーブレイドの助けで命からがら逃げだすさとりたち。なんでこうも人里が襲撃されるのか、という謎も浮上してますが…犯人と思われる人間が最後に出てますね。

次回は逃げ出したさとり一行に襲いかかる求婚(・・)?ということで次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。

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