カタナ、閃く   作:金枝篇

16 / 69
色々あって更新遅れました。水着剣豪とか色々。
その分ちょっと文章量が増えてしまいましたが、堪能して頂ければと思います。

では、どうぞ!


策謀の交易地

 《痩せ狼》はケルディックの街中を歩きながら、星空に煙を吐き出す。

 

 エカターニャ・N・アルビーという娘は、落伍者だ。

 才能がない。戦闘が強いのでもなく、何か技量がある訳でも、余人が真似できない特殊能力を有している訳でもない。強いて理由を挙げるなら『何となく必要そうだったから』拾われ、そして『結社』の中に放り込まれた。それだけの小娘だ。

 養成機関の中で鍛えられても、ついぞ『執行者』にはなれなかった。

 

 同年代のヨシュア・アストレイが(ワイスマンの力もあったとはいえ)暗殺者として育つ中。

 レン・ヘイワースが《D∴G教団》の検体であるが故にパテル=マテルに適合するまでの期間。

 二人を遥かに超える勢いで、修羅と化したレオンハルトが登り詰めるまで。

 

 彼ら彼女らよりも遥か前から育てられていたにも拘わらず、あっさりと追い抜かれた。

 そして一時的に逃げた今でも、所詮はその程度の腕しかない。

 

 『執行者』に必要な素質はある。

 確かにカタナは心の中に闇を飼っている。それもかなりどす黒いモノを。

 だがその闇を力に出来なければ、何の意味も無い。

 

 ワイスマンが『家庭教師』に付いてからは、そこそこ有益にはなった。

 他の『執行者』の覚えもよくなり、《死線》は特にお気に入りとして面倒を見ていた。

 他の女性陣も、一生懸命な娘を可愛がっていた。真面目で、言われたことを忠実にこなし、努力する。その姿勢は、たとえ抜群の成長がなくとも、育ち幅が僅かでも、つい応援したくなる物だ。子供の特権だ。かくいうヴァルターも幾つか助言をしたことはある。

 

 少なくとも《道化師(カンパネルラ)》が連れている『玩具(ギルバート)』なんかよりは余程可愛げがある。そして実際、最終的にはサラ・バレスタインを――徹底的に防御に回れば――短時間の足止めが出来る程度の強さは身に着けた。

 

 その成長は、認めよう。

 だが、今の彼女には、それはない。

 

 ヴァルターには理解が出来ない話だ。

 強さを捨てる事に何の意味があるのか。

 ただ強くなる事を目指す男には考えもつかない。

 

 あの同門の弟弟子を思い浮かべる。

 ジン・ヴァセックは「活人拳」を目指した。

 その道は確かにヴァルターとは違うが、強さは本物だと認めよう。

 故に思うのだ。

 意識の変化で手に入れる強さの()が変わることがあっても、捨てる事にどれだけの意味がある?

 

 《漆黒の牙》は、遊撃士を目指す中で『執行者』としての力を振るう事はしなかった。

 だが技能までを捨てたわけではなかった。実際、今でも自分らと戦えるだろう。

 己の過去を技として使()()()()()()()――それは、分かる。

 カシウス・ブライトは剣術を捨てて棒術を得たという。それも使い方の変化だ。

 ……だというのにあの娘は過去の戦法を嫌っている。まったくもって、下らない。

 その上、己の過去との向き合い方も下手ときている。救いようがない。

 

 「次会う時はせめて《漆黒》と同じくらいには手応えがあって欲しいもんだがな」

 「貴様、此処で何をしている!!」

 「あ“?」

 

 街中を歩いていると、大市側には兵士達が並んでいた。

 確か領邦軍とかいう貴族のお抱えだ。彼らは皆、門の近くに立ち、銃剣を此方に向けている。

 

 妙だな、と思った。別に領邦軍が警邏をして、不審者(流石に自分が不審者扱いされるのは理解できる)を呼び止めるのは分かる。だが何故この時間に、これだけの数が揃っている?

 まるで大市の入り口から、たった今出てきた様ではないか。

 こんな時間に、連中は大市で何をしていたというのだ。

 

 「俺は通りすがりの()()旅行者だ。なんか用かよ?」

 「旅行者? こんな時間に……? ――怪しいな、身分の確認をさせてもらうぞ」

 

 下っ端らしい領邦軍の兵士が、部隊長らしき男に耳打ち。

 鋭敏な聴覚は聞き逃さなかった。

 

 ――この男、我らの工作を目撃していた可能性があります。何とかして捕まえねば。

 

 ……ああ、そういう事か、と理解した。

 ケルディックの政治には興味がないが、酒場のカウンターで、増税やらが大変というのは聞いていた。そして増税に反対する住民を困らせようと、貴族の手足が動いているとも耳にした。

 凡そ、大市でなんか小細工をしてきたのだ。その帰りにばったり出くわしたというところか。

 連中からしてみれば自分達の暗躍を見ていただろう自分を、放置はできない。

 ふー、と煙を吐く。まあケルディックがどうなろうと知ったことではないのだが。

 

 「くく、――てめえら、俺に武器を向けた意味は理解してもらうぞ……?」

 

 丁度、どことなく腹の座りが悪かったところだ。

 こっちに喧嘩を売った以上、買ってやらねばなるまい。なに、殺すつもりはない。

 だが殺す手前くらいまではやっても構うまいさ。

 

 サングラスの奥の、凶暴な獣の瞳が領邦軍を射抜く。

 その全身から立ち上る黒い覇気に、彼らは悟った。

 たとえ己らの犯行を目撃されていたとしても、喧嘩を売ってはいけない相手だったという事を。

 

 「雑魚どもがイキりやがって。取り合えず死ね!」

 

 狼の牙が、蹂躙する。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 翌日。4月25日。早朝。

 私は皆の起床を待っていた。

 

 睡眠時間というのは鍛えてあると短くなってしまうものだ。

 

 まして戦場で生きる人間は猶更だ。

 何かあったら即座に起きて行動が出来るよう、体に染みついている。

 

 昨晩、私とラウラが《風見亭》へと帰還した時間は26時前。それから3時間ほど休み、6時前の今、朝の体操をしながら待機している。アリサとエリオットには昨晩、帰還時に謝罪済みだ。

 因みにラウラと、リィンも起床している。

 出来るだけ音を経てない様に心掛けながら、私達三人は動いていた。

 リィンは床で座禅を組んでいる。ラウラは天井の梁に捕まって懸垂。別の部屋でやれ? 尤もだが、ラウラとリィンが私を外に出させてくれなかったのである。

 

 (……靴、は無理だな)

 

 昨晩、カウンターを受けた脛の痛みは引いている。

 靴に仕込んであった毒の刃は砕けて使い物にならないが、脚と歩行に支障はなさそうだ。

 ヴァルター経由で貰った『髪留め(アクセサリ)』は、今までの反発具合が嘘のようにあっさりとARCUSに馴染んでいる。これならば今日中にでも使えるようになるだろう。

 しかしジョルジュ先輩は『ハードの問題じゃないね』と話していたんだけど……。

 

 (うーん、何故、こっちはARCUSとリンクしたんだろう……訳が分からない……。ジョルジュ先輩が嘘を言ったとは思えないし……)

 

 考えていると、小声でリィンからの言葉が来た。

 

 「カタナは身体が柔らかいな。俺も柔軟は教わっているが……」

 「ん、そ、そう? 私、得意だよ。自慢できる」

 「うむ。足が180度、前後ろ綺麗に開いた上に、上半身をぺたりと床に付けれるのは凄いな。床に張り付いてるみたいだ。髪の毛が床に広がってイソギンチャクみたいだぞ」

 「ほ、褒めてる? それ」

 

 身体の柔らかさには自信がある。恐らく学院で一番、体が柔らかいだろう。

 因みに目を覚ましたアリサ達は、あんまりにもあんまりな光景にビビってた。無理もない。

 さて、そんな朝を終えて食事と『依頼』を受け取り、外に出る。

 そこでは二人の商人が悔しさに歯噛みしていた。

 

 「くっ、よくも私の屋台を滅茶苦茶にしてくれたな……!」

 「帝都の成金と意見が合うのは癪だが同意見だ……! 俺の店の場所を……!」

 

 帝国商人のハインツ氏と、ケルディック商人のマルコ氏。

 二人の店舗がブッキングしているというのは、昨日聞いた、領邦軍の妨害の一端だ。

 結局、最も売り上げが見込める真正面の敷地は、二人が交代で使うという事で話が付いていた。

 許可証について領邦軍に尋ねても「知らん」の一点張り。

 オットー元締も何とか妥協案として二人を納得させたのだ。

 それで少しは解決したのかな、と思いきや――。

 大市の真正面、昨日はハインツ氏が店を構えていた場所が酷い有様だった。軒は崩れ、商品はどれも空っぽ。棚どころか土台まで崩れかけている始末。

 

 「いや、それだけじゃないわよ。向こうも……」

 

 とアリサが目を向ける。

 これが真正面のハインツ氏の店棚だけならば、マルコ氏の妨害だったと主張できるだろう。

 しかし何とマルコ氏の店(休憩スペースのすぐ横だ)も滅茶苦茶に荒らされていた。

 どういうことなのだろうか、と目を向ける。

 そこではオットー元締が、領邦軍の偉そうな隊長と話をしているところだった。

 事情を整理したのか、遠巻きに様子を伺うケルディックの人々に向き直って。

 

 「住人たちに告ぐ! 我々領邦軍は、この惨状を引き起こした犯人を知っている!」

 

 髭の隊長は、集まった一向に向けてそう宣言したのである。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「昨晩の事だ!ケルディックの中をうろつく不審な大男を我らは目撃した。その男は非常に狂暴かつ短絡的な、ならず者だった! 我らの静止を聞かず、男は大市へ門を超えて入りこみ、力に任せて暴れまわったのだ! 辛うじてこれ以上の被害を出すことだけは防いだが、犯人は逃亡した。昨晩から厳重な警戒を続けているのはそういう理由があっての事だ……!」

 

 どうやら元締も、領邦軍からこの惨状を引き起こした犯人の話を聞いているらしい。

 店を壊された商人二人が意気投合しているのもそう言う理由か。

 つまり共通の敵を見つけたと。

 

 「ここ最近、我らは確かに大市に関与しなかった! だがそれは健全なる大市の運営が確実であると知っていたからこそのもの! 今回のような、大市の運営そのものを揺るがす事件には、この通り火急の対処をする。どうか安心して大市の運営を続けてほしい。そしてこのような狼藉を働く犯人は、二度と近付けない事を約束しよう!」

 

 きっぱりと言い切った隊長の言葉に、周囲の住人が感嘆の息を吐いた。

 どうやら人々は領邦軍に対する不信感を僅かばかり消し去ったらしい。

 ……まあ、今までが今までだったからね。無理もない。無理もないのだが――元締は複雑そうな顔で、私は冷めた眼をしていた。

 

 ケルディックの住人は逞しい。酷く壊された店棚をどうやって始末しようか、新しい店を準備しなければ、と動き出す。大損をした商人二人に対しての資金援助や、新しい商売への参入なんかも提案され、二人は共に鋭意努力しようと固く握手を交わしていた。

 いや、まあそれは良いんだけどさ。

 

 「かくしてケルディックの大市は、領邦軍の管理下で適切に運営されました、ってか……」

 

 呟いた私の目が、多分結構に()()()()()()()()と気づいたのは、やはりラウラだった。

 そりゃそうだ。私達二人は昨晩の出来事の張本人。その大男が誰なのか知っているし、領邦軍の話していたことが大嘘だと知っている。……よくも綺麗にカバーストーリーを作ったものだ。咄嗟にしては機転が利いている。

 

 ――おいヴァルター、お前、思いっきり濡れ衣を着せられてるぞ。

 

 あいつがどんな濡れ衣を着せられようが知ったこっちゃない。

 だは、あいつはそんなちゃちな悪党でもない。どうしたもんかな、と私は考える。

 実は領邦軍の行動が大嘘だというのは、ヴァルターの話を持ち出すまでもなく、分かっている。

 

 少し、あの後の事を、語ろう。

 

 あの後。昨晩の、告白の後。

 暫しの間、ラウラの胸の中でじっとしていた私だった。

 何とか感情の波が収まったので、顔を上げると、彼女の服が涙と鼻水で汚れてしまっていた。

 ……ごめん、と謝りながらハンカチで拭き取る。ラウラは、まあ良いさと苦笑いだった。

 トリスタに戻ったら、制服を洗濯してあげなきゃいけない。

 互いに笑いながら《風見亭》へと足を向けた。

 

 「さて、そろそろ宿に戻らねばな。日が昇るまでまだ少しある。少しでも寝ないと辛いぞ?」

 「……に、二徹夜くらいなら、平気だけど」

 「私もだ。だがリィン達も心配する。明日も依頼はある。速く戻らねば――」

 「ん、そうだ――」

 

 ――!!

 次の瞬間、私たち二人は、木陰へと隠れた。揃って息を殺し、影から街道へ――私の頭の上にラウラの頭が乗るような姿勢で、二人そろって街道を注視していた。

 ヴァルターに出会ったおかげでセンサーの感度が上がっていたのもあるだろう。

 隠れたのと同時、私達の前を作業服姿の若者達が走って行った。何れも腕の中に箱を抱えて急ぎ足だった。

 

 ラウラが小声で、作業着には見覚えがあったと話す。

 『ルナリア自然公園』の管理人達だった。公園内で、何やら工事をしていたらしい。

 私の眼が死んでいる間にそんなことがあったのか。

 

 「こんな時間に……? 夜半は魔獣の動きも活発だろうに……」

 「は、箱は……結構な分量……。何か緊急の資材か何かかな……?」

 「いや、それにしては様子が妙だ。緊急の用事で資材を運ぶなら導力車を使えば良いし、数人だけで抱えて運べるなら夜中の必要もない。――ここ最近の大市での動きを考えると、咄嗟に隠れたのは正解だったかもしれないな」

 

 そう言えば、私とラウラが話している間、BGMで何やら喧嘩の音が聞こえていた。

 多分ヴァルターが憂さ晴らしに八つ当たりでもしたのだろうが、その戦闘音も消えて暫し立つ。

 ヴァルターが負けるという事はありえない。彼は多分、東の街道側から去ったのだろう。

 となると彼らは()()()であの荷物を運んでいるという事で――何やら、きな臭い。

 

 「ど、どうする。追いかける……?」

 「いや。此処で下手に踏み込んで何が出来る訳もない。行く先は分かっている。明日にしよう。リィン達にも、出来るなら伝えておきたいからな」

 「り、了解。……あ、待って。ケルディックの街中に領邦軍が展開されてる……。これはヴァルター、余計な真似をしたかな。――《風見亭》まで頑張って戻ろう。少し回り道するけど」

 

 僅かに唇を湿らせながら、木に登って街を伺う。夜目は効く方だ。街を伺うと、領邦軍の詰め所に灯りが付き、兵士達がぞろぞろと出て来ていた。

 そして街中を見張り始めたのだ。大市には不干渉を貫くと言っていた割には変わった働きだ。

 このまま下手に戻ったら、夜半に何をしていたと詰問されそうだ。

 それはなんか悪い事が起きると思う。婦女子相手に尋問するほどではなかろうが、明日一日拘束されるくらいは覚悟しなきゃいけないだろう。何とかして戻らないと。

 

 「カタナ、其方ならルート取りは出来るのではないか? いけるか?」

 「ん。――こ、このまま街の北外壁をぐるっと伝っていくこう。そしたら、線路脇の隙間を通って、駅の中を東西に突っ切って、東側の門近くの木から塀を超えて宿の裏手に降りよう。ち、近くまで行ったら、ARCUSで呼び出して、窓開けてもらう感じで」

 「分かった。では、先導を頼む」

 

 そんな感じで、私達二人は無事に帰還したのだ。

 これは部屋に戻って聞いたのだが、ラウラは出てくる前、リィンに軽く声をかけて来たらしい。

 起きていたリィンと、私達の帰還で目を覚ましたアリサ&エリオットに、あれこれと説明したり、私の泣いた後を隠したりと、まあ騒がしくも有難い一瞬があった。

 

 さておき、そのような光景を目撃した身。

 これで領邦軍の言動全てを信じろというには無理がある。

 私達はどうすべきかを考え――そして、元締の元に、足を運ぶことにした。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「お願いがあります。今回の事件――俺たちに調べさせてはもらえませんか?」

 

 オットー氏の邸宅で、リィンはそう切り出した。

 髭の領邦軍隊長は大市の再開を命じ、先日までの『無関心さ』とは打って変わってトラブル解決に尽力している。

 人間というのは単純な生物だ。普段良心的な行いをしている人間が間違いをすると糾弾する癖に、今まで粗暴だった奴らが少し親切にすると直ぐに信頼してしまう。

 

 まあ、それでも、大市が賑わうのは悪い事ではない。

 だから大っぴらに批判は出来ないし、聞かれたら不味い話なのだが……。

 それでも、この掌の返し具合は怪しすぎる。元締も、腑に落ちない物を感じていたらしい。流石は人生経験豊富な商人の嗅覚だ。そしてその嗅覚は、奥に潜む危険性も嗅ぎつけていた。

 私達が下手に踏み込むと危なくないか、と心配をしてくれる。

 

 「ふむ……。昨日も言ったが、大市での事は、儂ら商人の問題じゃ。気持ちは有難いが、お前さん達が気にする事ではないぞ?」

 「オットー殿。それが、私達に無関係でもないのだ。な、カタナ」

 「は、はい。……実は、その、領邦軍が犯人だと語った人を、私はよく、知っていまして。……そういう事をする人では、ないんです。だから多分、都合よく、スケープゴートにされたのでは、ないかと」

 

 私はヤバイ部分をぼかして説明をした。

 その大男が自分の顔見知りであること。大市を壊すような人間ではないこと。昨晩、領邦軍が騒ぎ出す前に逢って会話していたこと。そこにはラウラも同席していたこと等々。

 『大市よりもまず人間をぶち殺しに行く奴だから犯人じゃありません』とは言わぬが華だ。

 

 「領邦軍が、本当に大市の為を思って動いてくれるなら、それで構いません。――ですが、俺達はクラスメイトの言葉を信じたい。士官学院の生徒としては、見過ごせない問題です」

 

 ラウラの言葉の通り、まず動いてみるのも重要だ。私はリィンに同意した。

 彼女も、義を見てせざるは勇無きなり――という言葉を呟いて頷いている。

 私達の言葉に、彼は感涙したように僅かにトーンを下げて、深々と言ってくれた。

 

 「……そうじゃな。そこまで言ってくれるのならばお願いしようかの。――ただ、くれぐれも深入りし過ぎぬようにな。なにせ、お嬢さん方の言葉を借りるなら、領邦軍はしたたかで、その知り合いが居なければ闇夜に紛れて計画を遂行していたと思われる。どんな本性を持っているか分からぬ。お前さん達を預かる身として、何かあったらヴァンダイク学院長にも申し訳が立たぬからの」

 「ありがとうございます。精一杯、務めさせていただきます」

 

 かくして私達の、領邦軍の暗躍を暴くための行動が始まったのである。

 とはいえ、相手も一筋縄ではいかない。プロの兵士を相手に学生が出来る方法は限られている。

 

 先んじて話してしまうと、大市でも情報聞き込みは空手に終わることになってしまった。

 見回りと治安維持の名目で展開した兵士達は、此方が確認したい情報をさりげなく邪魔し、質問を阻止するように動いてきたのだ。高圧的でこそなかったが『余計なことを嗅ぎまわるな』と圧力があったのだ。

 

 「収穫だったのは、どちらの依頼も間接的にだけど、昨晩の事件に関係があったということね」

 「そ、そうだね。アナベルさんからは、大市の状況を聞けたし――」

 「ズウォーダーの出現は、明白に領邦軍の動きが影響だろう」

 

 領邦軍の行った所業を解明する――というのは、正式な『依頼』を解決した上での事だ。

 領邦軍の企みを暴きました、市民からの依頼は解決できていませんでした、では意味がない。

 そこで依頼解決を優先的に動いた結果、私達は妨害を掻い潜り、二つの情報を手に入れた。

 

 「まず、アナベルさんの『お財布』の依頼」

 

 大金が入ったお財布を持ち主に返して欲しい。

 陶器屋のリジーさんから話を聞き、情報を元に駅前に向かい、駅員さんからの話で《風見亭》に取って返し、マゴット女将から大市の休憩所に回り、休憩所で『女神様に祈りに行きます』との言葉を聞いて、最後に到達したのが教会だ。私達は彼女に『お財布』を無事に返却。報酬と情報を手に入れた。

 結構良いところのお嬢様だったアナベルさんは、昨日、大市の中を歩き、色々と店を確認していたのだ。

 

 「ぬいぐるみで話題が盛り上がったのもラッキーだったわね」

 

 私が購入した『ノイちゃん人形』を見たアナベルさんは、同じく買った『ピッカード人形』を見せてくれた。

 そして更に幸運なことに『お財布も戻りました。ぬいぐるみやアクセサリーを追加で買ってくるついでに、色々と話を聞いてきましょう!』と申し出てくれたのだ。

 年若い淑女の旅行者への警戒心は必然的に下がる。

 『財布』片手に探し回った際、限界がある中で集めた情報と合わせれば、大体の状況は掴めた。

 

 「こちらは昨日、入口真正面の店で購入した装飾品です。調査のお手伝いにお譲りしますわ」

 

 お財布のお礼として手がかりまで渡してくれた。

 私達は彼女に重ねてお礼を言い、そのまま教会の隅っこを借りて打ち合わせを行っている。

 

 「ハインツさんは、初の大市参加ということで緊張していたって話だったね。そこに店の準備と棚卸しが重なった。疲れたから翌日に備えて休んだ……。彼の店は、商品が陳列されたまま放置されていた……」

 「マルコ氏も同様だ。販売用のナッツや加工品は陳列が終わっていた。ハインツ氏との口論の後、商売仲間の家に転がり込んで朝までヤケ酒を飲んでいた。二日酔いでも朝早く出てきて店の確認をする辺り、商人としての腕は確かだと感じたな。しかも修行を終え、ミラを貯めてようやっと自分自身の店を持てたばかり。その怒りも一際大きいに違いない」

 「そしてこの両方が被害に遭っている」

 

 エリオットとラウラの確認に、アリサが同意して、疑問を形にする。

 

 「ヴァルターさんが犯人じゃないとして、別に犯人が居るとしましょう。……ハインツさんの店が荒らされるのは分かるわ。大市入口に近い――つまり出入りがしやすい。物資もそれなりに単価での価値が高い。でもマルコさんの店が荒らされていたのは何故か……?」

 

 リィン達には、ヴァルターの存在を伝えてある。私の()()()()の人間で、鍛え抜かれた大男で、善良ではないが、それでも一応知り合いである、という程度は。 

 三人には『どういう関係だ?』と首を捻られたが、要するに犯人じゃない事だけは確かだ。

 説明すると長くなるので『昔の私は随分と悪いことをしていて、その当時からの知り合いだよ』とだけ話しておいた。

 だからラウラに泣きついて帰って来たのね、とかアリサには言われたが、スルーだスルー。

 真実だから否定も出来ないし、ムキになったら微笑まれるだけだろう。

 

 「こうしてみるとやはり奇妙だな。ヴァルターさんの事を知らない人から見れば、領邦軍の行動と、現在の状況は納得できるんだが……」

 

 大市の安全性を過信して、うっかり商品を陳列したままの商人二人に全く責任がない、とは言わない。

 きちんと梱包しておけば盗難被害を防げた可能性はある。

 だが結果として商品は盗まれた。

 私が知っているヴァルター像を一回外して、全くの部外者が店を破壊したと仮定してみよう。

 その場合、何故マルコ氏の店が破壊されたのだろうか? なにせあの場所は大市の奥。休憩所の隣だ。内部の高級品を狙うなら、それこそバリアハートで加工された宝飾を扱う小棚もあったし、薬屋なんかもあった。しかしそれは狙われていない。

 

 「そしてズウォーダーの登場だ。依頼が来たのは今朝。昨日まで、街道は何ら支障がなかった」

 

 魔獣ズウォーダーについては元締から話を聞くことが出来た。

 西ケルディック街道――つまり昨晩、私達とヴァルターが会話していた道の先だ。

 そのど真ん中、丘の周辺に巨大な鳥型魔獣が、ででんと居座ってしまっているらしい。

 そりゃまた通行の邪魔である。

 一応、近寄らないように迂回したり、距離に気を付ければ通行は出来るそうだが、荷馬車や導力自動車で通行したり、あるいは動物を運搬していると、相手を刺激して要らぬ被害を受ける可能性があるとの話。

 大市の活気を取り戻すためにも速攻で排除せねばならなかった。

 

 情報によれば、梟にも似た猛禽類らしい。

 羽が全体的にわさわさ生えていて、翼の模様が巨大な目のようにも見えている。

 足は長く、嘴も長く、しかし顔は小さい。小型の哺乳類や昆虫なんかを食べて生活しているタイプの魔獣だろうと推測出来た。翼の模様にちょっと親近感を覚える。

 羽で竜巻のような突風を起こし、素早い動きで空中の獲物を捕まえたり啄んだりするらしい。

 ……人間が被害に遭う光景は想像したくないな。目玉とかやばそうだ。うん。

 

 「だが、昨日まではズウォーダーは出現していなかった。昨晩()()があったからズウォーダーが出現した。その()()は、果たして大市の問題と無関係だろうか?」

 「ち、違うね……。昨日の夜、私とラウラは自然公園の管理人が西へ走って行くのを見ている。あの時にズウォーダーが居たならば排除くらいしてるでしょ。つまり、あの後に、ズウォーダーが、出現した」

 

 となると、あの管理人達が抱えていた『荷物』が何だったのかが非常に気になるところ。

 後、もう一個、私が気になっていることが、ある。

 

 「エ、エリオット。耳、良いよね……。昨晩、何か、聴かなかった?」

 

 その手がかりを持っているのは、エリオットだ。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 私の質問に、エリオットは少し考えて、返事をする。

 

 「うーん特には。あーでも外で誰かが喧嘩しているような音は聞こえたね。すぐ終わったから気のせいかなと思って、殆ど夢現だったけど…………あれ?」

 

 エリオットは私の浮かべた疑問に到達したようだ。うん、多分それで正しいと思う。

 目と目で会話した後、ひそかに耳打ちして確認し合う。

 エリオットの「答え」を聞いて、頷いた。

 少しだけ作戦を立て、そして私達は、皆に促した。領邦軍の人に、話を聞きに行こう、と。

 

 領邦軍は現在、大勢がケルディックに展開している。

 そして大きな演技が行われる時は、必ず相応の舞台裏も用意されている。

 つまり、領邦軍が全力で隠蔽をすればするほど、そこには入念な打ち合わせと情報交換がある。

 綺麗な嘘と上手な嘘の違いだ。後者はバレても誤魔化せるが、前者はボロが出てはいけない。故に私達は、領邦軍に直接尋ねる事にした。

 ケルディックの広場を見回っていた髭の隊長さん、その人に直接、公衆の面前で、だ!

 

 (さて、何が出るかな)

 

 最初は邪険だったが、ラウラが機転を利かせ『士官学院の生徒として軍の先輩からご教授頂きたい』と煽ったお陰で、何とか短時間だが会話時間をもぎ取れた。

 彼らは公の場で『犯人はヴァルターです。私達が全力で大市を護ります』と宣言済み。

 今までの大市への不干渉やら元締との確執やらを突っ込んだところで『あれは過去の話だ』と返されるのが落ちだろう。芳しい答えが出て来る筈もない。

 ならばどうするか?

 

 「あの、実は僕、昨晩、皆さんが戦っている姿を、見ていて……」

 

 音楽に造詣が深いエリオット。歌劇や演劇に関しても詳しかった。

 おかげで演技が上手いし、舞台を設定した上での胆力はかなりの物だ。

 話題を出した途端、目付きが変わった髭の隊長さんの威圧をどこ吹く風と受け流し、続ける。

 

 「凄かったです! あの巨大な男に殴られながらも、見事に町の外に追い払う姿!」

 「……ほう」

 

 嘘に正しい答えをぶつけても意味はない。大事なのは、嘘を綻ばせることだ。

 嘘の上に嘘を上塗りさせて情報を引き出せば良い。だからまず、彼らの発言の肯定から入った。

 エリオットの発言を、彼らは否定できない。

 対外的に、そのような行動をしたと発言しているから、翻せない。

 そして更に言えば『遠目で領邦軍が勝った光景を見たんです!』という彼の主張は――本当に()()()()()()()()()()()()という可能性を否定出来ない限り――邪険に扱えない。

 

 『自分たちの工作は無事に上手くいっていて、町の住人は味方になったのだな』。

 

 なんて考えてくれれば占めたものだが、流石にそこまでは甘くなかろう。

 だが持ち上げればどっかで隙は晒すだろうさ。大がかりな嘘ならば、破れやすいのだから。

 

 「なるほど、私達の情けない姿を見ていたのか。取り逃がしてしまったが……」

 「いいえ、そんなことありません! 僕はこんな体付きで、軍人には全く向いていませんから……凄い人を追い払った戦いぶりは尊敬します。それであの、僕は決定的な部分しか見えなかったんですが」

 

 エリオットは、目を輝かせる(演技をしながら)問うた。

 

 「どんな戦いになったんでしょう?」

 「ふむ、其処まで質問をされては答えないわけにはいかないな」

 

 領邦軍も、カバーストーリーは用意している筈だ。

 恐らくヴァルターを追い払った際の行動なんかも一通りは打ち合わせてある。

 予想に違わず、髭の隊長さんは話を始めた。

 

 「あの男は鍛えていたが、戦術導力器(オーブメント)やアーツは殆ど使わなかった。そこで我々は前列に防御陣を敷き、遠間から銃と術で対応をしたのだ」

 「日々の鍛錬で陣形を守り続けたんですね」

 「そうだ。最終的に向こうは我々を打ち破れず立ち去ったのだ」

 「夜間で大変だったと思います。尊敬します」

 「見回りは我々の責務だ」

 「ああ、だから音にも注意をしてくれたんですね。殆ど聞こえなかったので……」

 「そうかね? まあ相応の装備をしての行動だったのは幸運だったな」

 

 質問はそこまでで大体終わりだった。

 髭の連隊長さんに対して、エリオットは、ありがとうございましたとお礼を言って戻って来る。

 聞いていた私とエリオットは、少し皆を離れた場所に誘導し、互いに再び頷きあう。

 いぇーい、と互いに成功を喜んだ。やったぜ。

 

 「だってさ」

 「ま、まさか此処まで情報が手に入るとは思わなかった。ラッキー……」

 

 今の会話の意味を解くために、まず説明すべきことがある。

 私達の行動を黙ってみていた三人に、分かりやすいポイントを教える。

 

 「昨晩、気になってた問題が、一つ」

 

 私は己の耳を指しながら、領邦軍の説明では説明できない部分を指摘した。

 

 「お、大市で店が破壊された時の騒音を、誰も聞いてないのは、何故なんだろう?」

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「ん、んーとね、……喧嘩の音が聞こえた、良いよね?」

 「ああ。俺も聞こえていた。あの時間帯、喧嘩の騒ぎで目を覚ました人間は多いだろうな。その内容までは分からずとも、物音で目覚めた住人は多いと思う」

 「うん、だからそれがおかしいんだよリィン」

 

 エリオットが真顔で言う。

 

 「じゃあ大市の屋台を壊した時は無音だったってことだよね?」

 

 全員が、あ……っ、という顔をした。

 そうなのである。

 ヴァルターと領邦軍の戦いで皆が目を覚ました。これは良く分かる。街道に出ていた私とラウラでも分かった喧嘩音だ。相当な音量だったに違いない。

 だが大市の店が壊された音を、誰も聞いていない。

 ラウラが私を追いかけて出て行った時から目を覚ましていたリィンすら、聞いていない。

 

 立派な屋台らを、物音一つ立てずに破壊が出来るだろうか?

 休憩所近くはギリギリ距離で聞こえなくとも、大市正面の店を無音のまま壊せるだろうか?

 破壊だけならヴァルターなら片腕でやれる。だが音は出る。

 攻撃で音が出ずとも、屋台が崩れたり、陳列されていた中身がぶつかったり、そういう音は間違いなく出る筈なのだ。領邦軍の主張が正しいとして、ヴァルターとの喧嘩の音が聞こえたなら、屋台破壊の音も聞こえて良い筈だ。

 

 大体、大市は柵で囲われているし、魔獣除けの街灯も動いているとはいえ、決して視線全てを遮るような作りではない。日が沈んだ後でも、何かあればランタン片手に誰かが直ぐに様子を見に来れてしまう。

 マゴット女将のように遅くまで起きている人間だっている。

 なのに誰も気付かなかったとは――破壊の際、相応の準備や装備が敷かれていたという意味だ。

 

 ヴァルターが音を消して店棚を破壊したのではないか、という可能性は、ない。

 そんな面倒なことをやる奴ではないし。恐らくアーツを使って音を消すような真似はしない。

 

 因みにヴァルターのオーブメントは1-2-3という3本から成り立っており、3のラインの1つは土が固定だ。あいつの事だ、導力器を最新型に切り替えているとは思えない。となれば旧式(嵌め込んだクオーツの重ね合わせで色々使えるようになるタイプ)だろう。無理やり破壊音を軽減するようなスキルを使えたとしても、候補の中で使えるのは『クロノダウン』くらいが限界だ(一定範囲以内の時間速度を変化させるので、当然ながら音の速度も変わる)。

 となると別に犯人が居ることになり――都合よく音を消すような装備を持っている奴らが居る。

 

 「……いや、まさか、あんな風に情報が出てくるとは、思わなかった、けど」

 「装備とか発言の矛盾を探れれば上出来だったんだけどね」

 

 最低、領邦軍の()()を確認出来ればよかったのだが、幸運な拾い物をした。

 まさか消音機(サプレッサー)を持っていましたという情報まで聞けたのは予想外だ。

 

 「で、大市から出て来た領邦軍は、幸運にもその場に居た『いかにも事件を起こしそうな見慣れぬ大男』に責任を押し付けたという訳か」

 「そ、そうなる。ただ……証拠がない。推測に過ぎないし、ヴァルターももう居ない」

 

 領邦軍が己に濡れ衣を被せたと知れば、ヴァルターは反応するだろう。

 怒るかはさておき(喧嘩相手が増えたと喜ぶかもしれない)出現して領邦軍を殴りに行く。

 流石に昨日の今日で、ボロボロにされた相手を挑発して呼び寄せる気力は無いだろう。

 だから彼は去っていると判断して良い。

 

 「証拠……ならば、ラウラ達が話していた、街道を走っていた男達の向かった先かしらね?」

 「自然公園だな。私達が向かって大丈夫だろうか? 領邦軍が展開している可能性はあるか?」

 「……ん、ん、ヴァルターを相手に、無事だった奴は、少ない、と思う。で、大市に広がっている人数からしても、そこまでルナリア自然公園の人数は、多くない……筈」

 

 私の言葉に、ふむ、とラウラは腕を組んで頷いた。

 彼女の頭の中である安全性という秤は、無事にセーフラインに傾いたようだ。

 その後、「持論だが」という前提の上で、口を開いた。

 

 「仮に、領邦軍に何も責任がないとしよう。領邦軍と、犯人の戦いで、屋台が壊れた……という、最大限、領邦軍側に有利な状況を想定したとしよう。――その場合の、最も()()()()()()()()は、犯人を見つける事でも、今後の安全を維持することでもない」

 

 勿論、それらは大事だが、と念押しをした上で。

 実にまっすぐな意見を言う。

 

 「『破壊を止められなかった我らにも責任がある。だから領邦軍(こちら)で補填をしよう』――だ。少なくとも私や父上ならば、そうする。……無論、此方の流儀はそうではない、と言えばそれだけの話だがな。……ただ、大市の治安を維持しているというのに、ズウォーダーの処理はしない。……それは姿勢だけ、という表現になるのも仕方がない」

 

 元締の話からしても、この計画は、アルバレア侯爵家に連なる人物か、それに近い人間。領邦軍の上層部の意向。であるならばケルディックの領邦軍はまず止められない。

 この場にユーシスが居たらワンチャンくらいだ。居ない奴を当てにしてもしょうがない。

 とすると結論は一つだ。

 ルナリア自然公園に足を運んで、確固たる『真犯人』をケルディックまで連行してくる。

 これである。

 

 「彼らが領邦軍の協力を得ていることは間違いない。昨晩の話もそうだし、昨日の男達も、今思えば様子が変だった。……上手く侵入し、捕縛し、ここまで連れてくる。――領邦軍の協力は得られない以上、難易度は高いな。――止めるか? 皆」

 

 リィンが全員を見る。

 彼の瞳には『挑戦したい』という意思が見えていた。

 私は、無言で頷く。皆も同じだった。

 

 「や、やってみよっか。失敗しても、損がある訳じゃ、ない」

 「そうだな。私もリィンの意見に同意だ。領邦軍の横槍や、謂れのない誹謗中傷や、嫌みを言われるとか、そういう物はあるかもしれないが――」

 「ん、だ、大丈夫。嫌味じゃ人は、殺せない」

 

 ラウラの懸念は尤もだが()()()()だ。

 

 「じゃ手配魔獣を倒しに行きましょう。その道中で計画を詰めて――」

 「ああ。ルナリア自然公園……。万全に準備を整えてから向かうとしよう!」

 

 リィンが最後に纏めた言葉に、私達は一斉におーと気合を入れたのである!

 そう。その時の私達は、自然公園に、何が待っているのかを、知らなかったのだ。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 ルナリア自然公園。最奥部。

 

 「まさか《紫電(エクレール)》が嗅ぎつけるとはな……」

 『偶然か、それとも第六感か。……どちらにせよ大事は無い』

 

 会話をする人間が二人。

 片方は領邦軍の制服に身を包んだ男だ。

 視線は、雑多な荷物を梱包し、軍用車両に積んでいる作業服の、偽管理人達に向けられている。

 眼鏡の奥に「忌々しい」という感情を隠さない男を、もう一人の人物が窘めた。

 

 『気持ちは分かるが落ち着け、同志《G》よ。所詮この現場は実験場に過ぎない。本丸にも上にも繋がる足は存在しない。今すべきことは、急ぎ彼らの撤退を支援することだ』

 「……ああ、分かっている。同志《C》」

 

 《C》と呼ばれたもう一人の人物は、異質な立ち姿だった。

 全身を黒い衣装で覆い、体を隠すようにマントを付けている。そして顔は輪郭が分からない、フルフェイスのヘルメット。変声機能も付いている。年齢、性別、そのどれもを伺えない。

 

 事は昨日に遡る。

 ルナリア自然公園を使用していた、貴族派の兵隊から急報が入ったのだ。

 突如として出現した謎の女に、奥地で行っていた()()が漏洩した、と。

 

 『お、俺達にも、何があったのか……。いきなり、いきなりだ! 変な女が襲ってきて!』

 『そう、そうだ! 雷みたいな速度で俺達を叩きのめすと、舌打ちをして消えやがった!』

 

 残念ながらその女は、姿を記録に残す間もなく、一方的に蹂躙すると、立ち去ったという。

 目撃情報から《紫電(エクレール)》サラ・バレスタインではないか、との推測が立てられた。

 だが証拠はなく、また自然公園の奥地で行っていた()()の詳細を公表も出来ない。故にこの事件は表沙汰には出来なかった。代わりに、偽管理人達には、即座に公園からの撤退が下された。

 彼女から士官学院に。あるいは革新派へと情報が流れれば、調査の手が入る事は避けられない。

 

 故に即座の撤退。途中、大市を荒らした領邦軍の一味も合流。

 結果、夜を徹して行われた作業は、どうにか解決の目途が立ってきていた。

 その指示を任されたのが、ここにいる二人の男――《C》と《G》だった。

 

 「何故《紫電》はこの場所を見つけたのだと思う?」

 『さてな。それは分からない。だが私には、それ以上に気になっている疑問がある』

 「ああ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……だな?」

 『そうだ。……だが、その疑問は後にしよう。――《G》。私は撤退を済ませる。お前の『笛』で適度に獣達を動かせ』

 

 何? と目の色を変えた《G》に、《C》は指示を出す。

 

 『招かれざる客が来る。若い、学生達がな』

 

 自然公園の奥に、嵐が吹き荒れようとしていた。




Q:本日のサラ教官。
A:自然公園に突撃し、偽管理人を倒し、何故かそのまま帰還してパルムに去った。
 この一件のせいでヴァルターはサラに喧嘩を売り損ねた。果て何をしたかったのだろう……?

Q:ルナリア自然公園。
A:原作で偽管理人達が使用していたお馴染みの場所。閃Ⅱでは《精霊の道》の到着点。閃Ⅳでも『特異点』だったと判明。
 さてこんな場所を、果たして『ただの荷物置き場』にしていたのだろうか……?
 偽管理人達や領邦軍は何も知らなくとも、うんと上――つまりルーファス辺りは知っていて、そこで密かに何か計画していてもおかしくないよね! というお話。

Q:《G》の服。
A:領邦軍の物を借りて変装中。似合わない。


感想、評価、お待ちしてます。
ではまた次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。