敵の計画やえげつなさはプロットにありますが、それを効果的に見せていきたいですね。
作中での士官学院の時間割は、実際の大学や高校を元に推測しました。
コマ数とか終わりの時間は凡そ判明しているので、逆算も入ってます。
何時も誤字報告ありがとうございます。
感想評価も励みになってます。
では、どうぞ。
5月24日、月曜日。
『サラ教官が手を回して、カタナさんは本日体調不良だ、と欠席にしてくれました。食堂に簡単ですが食事を用意しておきます。しっかり休んで、また明日から元気な姿を見せて下さい。 エマより』
最初に目に入ったのは、そろそろ見知ってきた天井だった。
次いで上半身を起こした私の視界には、壁際に置かれた時計とローゼンベルクドール、そして机の上の手紙が映った。
時計の針は既に昼間を過ぎていた。
月曜日のお昼。つまり学校を休んで寝ていたことになる。
……ここまで長い時間を寝たのは久しぶりだ。基本的に短時間の睡眠でも回復できる程度には鍛えている自分だが、それでも、ぐっすりと休める時間は貴重だ。この学院でも、とても貴重だ。
肉体的疲労よりも精神的な解放感が強かったのだろう。
どうやらエマが休み支度を手伝ってくれたようで、汚れた制服は脱がされて下着姿になっているし、長い髪もタオルか何かで拭かれている。
立ち上がると、身体は軽い。とても軽い。
心の重荷が一つ消えただけで、ここまで気分がすっきりするのか……と、寝起きの体操をしながら実感する。
このまま大事を取って寝るには、ちょっとばかり回復しすぎたようだ。
シャワーだけ浴びて、学校に行こう。
静かな寮の中、汗を流した後、制服に着替えて下に降りる。
一階に降りて食堂を覗くと、確かにメモの通り、ラップされた皿が二つ並んでいた。
サンドイッチとスープだ。サンドイッチは卵、ハム、葉野菜とシンプルな品。
スープは……これはハーブだろうか。幾つかの香りが混ざった匂いがして、食欲をそそる。胃にも優しそうだ。一口舐めて美味しく滋養深いのが分かる。
二つの料理を、導力レンジで軽く温めた私は、感謝をしつつ、手を合わせて、頂くことにした。
ちょっとお行儀が悪いが、食べながら手紙を読む。
昨日の、その後の顛末も書かれていた。
サラ教官と私ら3人との激突は『旧校舎の魔力に中てられ混乱した結果である』と誤魔化した。
まあ元々私が、少し教官と折り合いが悪かったのは周知の事実。
結果、暴走しかけた
まあそうするよねと思った。私だってそうする。
懇切丁寧に事実を書くと、サラ教官が生徒への暴行で強制解雇になりかねない。
それに彼女が、あんな
手紙は続く。
私達を発見したのは、リィン達だった。
旧校舎の地下を探索していたらしい。なるほど、皆が旧校舎に入った後、私と教官が合流し、決着がついた後に皆が出てきたという流れになるのか。
……いや待て、つまり、あの旧校舎、エマの結界を無効化していたということか?
リベール:ジェニス王立学園の旧校舎地下にも、デカブツが眠っていた。
入学式での敵の強さと言い、あの場所、本当に何か――それこそストームブリンガー(ジェニスの地下に居た大型人形兵器だ)――みたいな奴が眠っているのではないか?
(……今度の調査には、本腰を入れて同行しよう。そうしよう)
結論を出したところで、意識を切り替え、続きを読む。
リィンらには、こういう風に説明を済ませてくれたそうだ。
『昔、悪いことをしていた時、サラ教官に喧嘩を売って、彼女の身内に被害を出した。入学してから今まで謝る機会を探していた。ケジメを付ける為に呼び出した』。
嘘は言ってない。
幸い、ケルディックで一緒だった面々は、私の秘密を知っている。
詳細までは知らずとも、相当にワルだったと知っている以上、濫りに漏らしはしない筈だ。
一つの決着がついて、問題が解決したと伝えたならば、猶更ほじくることはないだろうさ。
エマの手紙にも「皆さん気にしないそうです」とそうした旨が書かれている。
有難いと同時に、思う。
リィン達は知らない。
その「悪いこと」が、どの規模で、どんなくらいヤバイかを、知らない。
知らない上に、実感も出来ない。事実を説明しても、咀嚼吸収が出来ない。
リベールの異変を思い出そう。
帝国人の大半にとって『リベールが大変だったんだよ』という事件は、それ以上ではない。
南部で一時的に導力が使用不可になった、と記事や記録で知っても、情報だけでは体験にはならない。それこそ本当に導力停止に巻き込まれた人間でない限り、実体験にはならないのだ。
それと同じだ。
リィンらは――実際に《身喰らう蛇》が行った行動や惨状を目にした訳ではない。
……リベル・アーク出現直前の、『結社』による王都グランセルへの襲撃事件。
私もアレに参加していた。
衛士達を倒していった《蛇》の姿。圧倒的な力で蹂躙していく強さ。その前に、紙くずのように破り捨てられていく命。実際に、その場にいない限り、その脅威とあっけなさを理解することは出来まい。
言葉で「戦場だったよ」と伝えて理解できるのは、猟兵だった、フィーくらいだ。
彼女の修羅場の数は(比較するものでもないが)私に負けずとも劣らないと思う。
『西風』はそれ程に有名だ。
『私の過去を知りもしない癖に慰めないで!』
リィン達にこの言葉を言うのは簡単だと思う。
咽ぶような血の匂いを知らない。
ぶつかる鋼と鉄の匂いを知らない。
肌に迫る死の寒さを知らない。
それらと踊り、己は避けて相手に死神の鎌を押し付けるやり取りを知らない。
屍に骨に躯が転がるばかりの大地の壮絶さを知らない。
数多くの残骸、目を覆う惨状に、それらを睥睨する乾いた己への唾棄や自嘲も知らない。
悲惨という一言では済まない場所や経験はたくさんある。
未熟な私でも思い出せるくらいにはある。
『それを知らないくせに』。
『私の見てきた光景を知らないくせに』
……言って拒絶するのは、誰にでも出来る事だ。
でも私は、それとは逆の感想を抱く。
知らない彼らを、私は眩しく思う。
そして彼らの語る「でもクラスメイトだ」という言葉が有難い。
受け入れてもらって、日常に浸るからこそ、それを守ろうという思いも沸く。
これから先も、多分、色々な問題が目の前に立ち塞がると思う。
だけど――。
「ご飯も終わったから、学校に、行こう」
通学しようと図々しく思えた。
ならば自分は入学式より、少しは成長したと思うのだ。
荷物を手に、第三学生寮を出る。口の中に放り込んだ飴は、晴天を語るようなハッカ味だった。
○ ○ ○ ○ ○
私が教室に着いた時には、三限目の授業も半ばまで終わっていた。
学院のカリキュラムは、一コマ90分の授業が、間に10分の休憩と昼休みを挟んで五コマだ。
8時30分からが一限目、10時10分からが二限目。それが終わる11時40分から12時30分までが昼休み。その後三限目が始まり、以下四限目が14時10分、五限目が15時50分からとなる。
部活動の開始時間はまちまちだが、19時頃には活動を終えて下校が基本。
生徒会などの一部の人は20時近いこともあるらしいが、これは特例だろう。
授業中、閑散とした廊下を歩き、教室へ。
遠慮がちに扉を叩き「遅刻しました」と中に入ると、私に十の視線が集中した。
クラスメイト九人と、教壇に立っていたハインリッヒ教頭だ。
講義を中断させて申し訳ありません、と謝罪すると、教頭は一旦言葉を止め、私を見た。
「アルビー。君は体調不良で休むと聞いていた。出てきて授業を受けて支障は無いのかね?」
「だ、大丈夫です。午前中、しっかり、休ませて頂きましたので」
「そうか。では席に座りなさい。経済の36ページだ。授業を続けよう」
丁寧にもテキストの何ページを開くように、と教えてくれる。
私が着席し、ノートを開くのを見て、教頭は講義を再開した。
流石、小言は多いが授業は分かりやすい人である。
本日の授業は経済。主にエレボニアにおける金の巡りのお話だった。
「エレボニア帝国における経済の潤滑油として機能しているのが鉄道だ。……隣国リベール王国ではこうした交易は飛行艇を使って行われることが多い。リベールは立地条件上、鉄道網を敷くには障害が多いからであるな。リベールは空、更に言えば共和国は主に自動車が普及している。各国家の地理的特徴と合わせ、この差は覚えておくように」
男爵位を持つハインリッヒ教頭は、何かと神経質な上、お説教が多い。生徒の規律に煩く、サラ教官の態度にも煩い。
でも私は割と好きな先生だ。質問すると丁寧に教えてくれるし、身分の差別もしない。
トールズ士官学院の教官は、割と適当だったりする人も多いので――サラ教官だけじゃない。マカロフ教官とかも適当で、ヴァンダイク学院長もベアトリクス教官も割と放任主義だ――一人くらいは目を光らせる教頭みたいな人が居ても良いと思う。
生徒からは煙たがられているが、大人になったら感謝するタイプの人だろう。
「鉄道網が大規模に整備され始めたのは、此処十年ほどである。時期としてはギリアス・オズボーン宰相が就任してから、特に力を入れて開発が進められている。様々な話題を呼んでいる件の人物だが、彼の手腕によってエレボニア帝国全土が大きく発展したのは否定できない事実だ」
私達《Ⅶ組》の存在に眉を顰めて「大丈夫なのかあの風変わりなクラスは」と考えている様子だが、それも『《Ⅶ組》というカリキュラムで成績優秀な生徒(エマとかマキアスとかユーシスとか)の成績を下げたり、学生として有るまじき行動を取らせたりはしないか』という心配から来るものの様子。
ちなみに私は割と良い評価を貰っている。
入学三日目に起きたクロスベルでの一件が理由だ。
『時々無謀だが、士官学院の生徒として正しい資質は持っている』と認識されている。
フィーに対してはちょこちょこ小言が飛んでいるが、教頭も彼女が一番年下だと理解しているのもあって、叱咤激励の意味の方が強い。
『ここは覚えなさい。これはちゃんとしなさい。これを読んでおきなさい。周りはフォローしてあげなさい』云々……。要するに、些細な部分まで目端を効かせる、うんと良い人なのである。
「鉄道網によって大規模発展が進んだが、鉄道は飽くまでも『血管』に過ぎない。言うなれば各地の要所要所を結ぶ線であり、点そのものの発展は、各地の領主に任されている。その為、鉄道の所有権や管轄、権益においては今もいざこざが絶えないのだが、それは今回では扱わない。重要なのは、発展において必要な要素は、鉄道と領地、その両者であるという事だ。……両者が大事なのだ」
流れるような教頭の言葉を耳に入れつつ、無言で右横に目を向ける。
フィーが『大丈夫なの?』と目で問いかけていた。
私は小さく頷いた。大丈夫だよ、と。
これは授業後に聞いた話になるが、昨日の旧校舎探索には、フィーも誘われていたそうだ。
勿論、私との用事を優先させてくれたのだが、それがなければ参加していただろう、とのこと。
「では来たばかりだがアルビー、まずは西部ラマール州における主な財源を四つ上げるように」
おっと、フィーと目で会話をしていたら、目敏く注意されてしまった。
クラスの皆とも話をしたいのだが、それは授業が終わってから。
指定された私は立ち上がり、四つの財源を上げる。貿易港としての収入。大量の海洋資源。歓楽街ラクウェルを始めとした観光名所及び施設。そして内陸部生産の希少な嗜好品……。
私が答えて、集中し始めたのを見て、教頭はよろしい、と頷き、再び講義が始まる。
授業終わりまで残り25分。私は消される前にせっせと黒板をノートに写していく。
○ ○ ○ ○ ○
「本当に大丈夫なんですか? 皆心配したんですよ!?」
「わ、分かった、分かってる。から。ごめん、大丈夫だから、うん。し、心配しないで?」
「するに決まっています! 殆ど気絶だったんですからね……!?」
授業が終わったら、ここぞとばかりに私は女性陣に囲まれることになった。
特に憤懣やるせない顔で私に滾々とお説教するのはエマである。彼女がここまで怒るのは珍しい。つまりそれだけ、昨日の私の行いは、皆に心配をかけたということなのだ。
反論できない。しゅんとしていると、まあまあ、とアリサが割って入って宥めてくれた。
「カタナも反省しているようだし、そのくらいにしてあげましょ。でも、次やったらエマだけじゃなくて私達、全員が怒るわよ? 幾ら貴方が原因で、サラ教官に許して貰いに行ったとして、終わった途端に寝落ちするくらい緊張していたとか聞いたら、ちょっと悲しくなるんだからね?」
「ふぁい……、フィー、ほほ、引っはんないで」
「良い気味」
「こうしてみるとやはりフィーとカタナは姉妹みたいだな。無論、フィーが年上だ」
フィーもちょっと怒っているらしい。会話中、頬を摘まんで、ぐいーと横に引き伸ばされた。
やがて満足したのか、頬から手を離される。周囲の目は生暖かい。
あー、ダメだ。クラスの皆からの扱いが、完全に一番年下の子供をあやす様な目になっている。
前々からフィーとセット扱いされているのは理解していたし、私もコンビで納得していたが、今回の件で完全に一番下で固定されてしまったらしい。
まあ、そりゃ、……サラ教官の上で寝てしまうとか、どんだけ子供っぽいんだ私は。
思い返せば恥ずかしいなんてもんじゃない。
恥ずかしいが、でもあの時は止めようが無かったのだ。堤防が決壊しちゃったのだ。しょうがないじゃん!
「カタナ、其方は可愛がられるのが似合っている。年齢ではなく精神がな。だから諦めよ」
「わ、私としては、複雑……!」
なんというか、媚びているように見えないかと不安になる。
自分から可愛いですとアピールするとか、そういうのは苦手だ。
時に必要に駆られて演技することはあっても!
客観的に見て、顔立ちは整っていると思うし「美少女の範疇」である……とは思っていても!
友人の間でまで意識したくはないぞ!
とはいえ。ラウラの言葉は否定できない。思い返せばそうだった。
《蛇》時代から、私は先輩受けが良かった。
才能が無い私だが、努力家ではあった。
出来ない問題は、出来る限り知恵と工夫で出来るようにしたし、『執行者』に及ばずとも不貞腐れなかった。……業腹ながら、ワイスマンは創意工夫と悪事に関しては天才的だったので、彼からの助言を聞いて色々な技や知識も学んだのだ。
『道具』としての研鑽を欠かすことは無かったのだ。
『執行者』の皆さんも、適度に私に色々と教えてくれた。
ケルディックで言われたように、あのヴァルターからも、呼吸法とか教わっている。
特に年上の女性からは、戦闘以外の事を学べたのが大きい。
その最たる相手が、ルシオラさんとクルーガーさんだ。
どちらも女性的魅力に溢れたレディである。
え、アリアンロード様? あの人から女性として何かを学ぶのはちょっと。
何も
衣服の選び方、化粧や肌髪の手入れ方法、料理や手芸などの家事などなど。
だから今も日常生活にはあんまり困ってない。その経験のお陰で、今も暮らせている。
「ま、カタナが甘えるの下手なのは分かったわ。何時でも皆を頼りなさいな」
「……ぜ、善処、します」
アリサの言葉に、私は頷いて、それでひとまず、その場はお開きになった。
積もる話はまだあったのだが、そろそろ次の授業の時間だったのである。時刻は14時5分を回ったところ。次の授業はトマス教官による歴史の授業だ。食後の昼過ぎに政治経済歴史と社会学系ばかりを並べる時間割はちょっと意地が悪いと思う。
さておき。自分の席に戻っていくアリサの後姿を見送って、私は思う。
(姿勢の良さに歩き方、やっぱり先輩が、一から所作を教え込んだんだろうな……)
アリサの後ろに、先輩であり、尊敬するクルーガーさんの姿が見えた。
クルーガーさんは、忙しい人だった。帝国で仕事をしているらしく『執行者』としての仕事は少なかった。それでも時々は《蛇》に顔を出していた。
時間的な余裕がある時に、色々教わったものだ。作法とか学業とかワイヤー術とか。
表側の世界で何をしているのか。それを尋ねたことはない。
そんなことを尋ねられる立場ではなかったし、そもそも当時の私は興味を持たなかった。
だが――先日の調理実習の後、それとなく探ったところ、どうやらアリサの元に居るらしい。
居るらしいというか、ずっと居続けて居るらしい。もう6年になるという。
6年……うん、確かに私の記憶とも大体一致する。ヨシュアさんが来た10年前と同じくらいにクルーガー先輩が来て、それから4年後くらいして、《蛇》に顔を出す頻度が減ったのだ。
勿論、直接に名前を出して確認した訳ではない。そこは最大限に注意を払った。
私がクルーガー先輩の事を知っていると判明すれば、必然『どこで知り合ったの?』と話が続き、そこからヴァルターもとい『結社』に繋がってもおかしくはない。
仮に先輩が、平穏な日常生活を謳歌しているなら、それを私が壊す様な真似は出来ないのだ。
ただ容姿(髪の色や目の色)に年齢、口調、料理、教育。そうした部分をさりげなく探った結果、一致しすぎるくらいに一致した。今、先輩は「シャロン」と名乗っているらしい。
私が《Ⅶ組》に居る情報は、《蛇》経由でもアリサ経由でも、流れているはずだ。
つまり向こうは私を知っている。
であれば先輩と再会するのも、そこまで遠い話ではないと思う。
(シャロン・クルーガー先輩か……。会えると嬉しいなぁ)
色々と楽しみが多いのは良いことだ。
《特別実習》も近いし、それが終わればオカルトナイト第1回目放送。
待ち構えるイベントを前に、私は気合を入れた。
○ ○ ○ ○ ○
サラ・バレスタインは考えていた。
次の実地研修。行先は二か所。
『翡翠の公都』バリアハートと『白亜の旧都』セントアークだ。
バリアハートはアルバレア家が治める東部クロイツェンの州都。
セントアークはハイアームズ家が治める南部サザーランドの州都。
どちらも研修に関しては、ルーファス・アルバレア(理事だから話は早かった)とフェルナン氏から快い返事を貰っている。
バリアハートでの対立は、貴族派が優位だ。
ルーファスの手腕もあるのだろう。貴族派が幅を利かせ、領地の市民への圧力が増加し、階級間での摩擦が起きているという。ケルディックと同様にだ。
いやひょっとしたら貿易地より露骨に広がっているかもしれない。
セントアークでは、フェルナン氏の優れた手腕より、革新派との摩擦は少ない。
その代わり他貴族同士での横槍や突き上げが増えているという。
「本当に味方なんだよな?」という事である。
どちらも研修先としては申し分ない。問題は――組み分けである。
(まず……バリアハートの現状を直視させる為、他の皆に公都の説明をさせるためにも、ユーシスはA班。これは確定ね。で、サザーラント州に詳しいラウラをB班に入れる)
そこから先なのだ。
無難な選択をすれば、無難に終わるだろう。波風を立たせずに終わりに出来るような班分けをしても良い。しかし折角、これだけ個性的なメンツが集まっている《Ⅶ組》だ。どうせなら彼ら自身の成長を見込んで、ちょっとばかり工夫を凝らしたい。
目下のところ、最もユーシスと反発しているのはマキアスだ。彼の考えを少しでも柔軟にさせてやりたい。姿勢を変えれば見えて来る物がある、と教えてあげたいのが本音だった。
無言でA班にマキアスを入れる。
暫し考える。そういえばマキアスとカタナもあんまり仲が良くないと聞いている。であれば此処は一度に解決させてしまう方が賢かろう。カタナもA班に入れる。
A班:ユーシス、マキアス、カタナ。
B班:ラウラ。
残り:リィン、アリサ、エリオット、ガイウス、フィー、エマ。
さてそうなるとA班があまりにもギスギスしすぎている。
まず何はともあれ潤滑剤になる人間だ。男子二人の仲を取り持つには同性の方が良い。コミュニケーション能力は皆十分にあるが、エリオットはユーシスに気後れをする。ガイウスとリィンのどっちかだ。
(そういえば……ルーファス理事から、シュバルツァー家の男子に逢ってみたいっていうお願いが来てたんだっけ。断れないわね……)
リィンをA班に入れた。
次に考えるべきは、手元の情報からの対策だ。
教員としては、実習として出来る限り安全を保障したい。
同時に何かあった時の為に何かと事情を知る人間を入れておきたい。
『どうやら貴族派が猟兵と取引をしたようでね。何か企んでいるらしい』
この情報は、ルーファス、フェルナンの両方から情報が上がってきている。
無視することは出来ない。
意図的にサラの耳に入るよう情報操作がされている可能性を加味したとしても、備えは大事だ。
猟兵に詳しいフィーとカタナ。この二人は、別にせざるを得ない。
フィーはB班だ。
A班:リィン、ユーシス、マキアス、カタナ。
B班:ラウラ、フィー。
残り:アリサ、エリオット、ガイウス、エマ。
次に考えるべきは、性別だ。
例えばここでガイウスやエリオットをA班に投入すると、カタナが女子一人となってしまう。
同様に、B班にはエリオットとガイウスの二人を入れないと、男子が一人となってしまう。
勿論それで何が起きるとは思わないが……同性が一人もいないとなると互いに気を遣う。
エリオットとガイウスはB班で確定だ。
A班:リィン、ユーシス、マキアス、カタナ。
B班:エリオット、ラウラ、フィー、ガイウス。
残り:アリサ、エマ。
ふうむ、最後はどうしたもんだろうか。
鉛筆を指でくるくる回しながら考えていると、声がかかった。
「おほん、サラ教官。少し良いかね?」
「っと――失礼しました。ハインリッヒ教頭、何か」
はて、何か忘れていた仕事はあったかな? と頭の中を検索するが、該当するものは無い。
またお小言だろうかと内心で警戒していると、彼は机上の組み分け表に目を向ける。
「悩んでいるようだったのでな。私から一言でもと思ったのだが、良いかね?」
「……はい?」
「そんなに驚くことはないだろう。私とて気になる事はある。サラ教官の様に破天荒な人間に指導される生徒ならば猶更だ」
言い出した言葉に大層驚いたサラだが、ハインリッヒ教頭は至極真面目だった。
真面目にカリキュラムへのアドバイスを頂けるなら、拒否をする理由はない。
「最後の一人を悩んでいるようだが、ミルスティンとアルビーはセットにしては如何かね」
「理由をお聞きしても?」
「旧校舎の問題だ」
なるほど? とサラは内心で頷いた。それは確かに考慮要素だ。
旧校舎の問題。
生徒達には誤魔化してあるが、オリエンテーションの敵は、サラも予期せぬ相手だった。
あんな馬鹿みたいな強さの敵は、想定外過ぎた。
事前の準備は入念にしておいた。
アンゼリカ・ログナーやクロウ・アームブラストの手を借りて、内部構造やエネミーの強さを確認し、アイテムを適度に配置し、ガーゴイルの石像を運ぶ。
仕掛けはジョルジュ・ノームに整備してもらい、さらに言えばトワ会長や生徒会の有志、手が空いていた二年生にまで一通りの確認をお願いしてあった。しかしその予定が狂った。
何かあった時の為に待機していたが、慌てて飛び込もうかと考えるほど、あれは予想外だった。
「いや、あの一件に関しては、既に学院長からの沙汰が出ている。私が今更何かを言うつもりはない。だが、今後また旧校舎の地下に潜るのだろう? であれば、その為の備えはするべきではないかね。折角ARCUSという新型機が配備されているのだ。シュバルツァー、ミルスティン、アルビーの関係は強化しておけば、後々の為だろう」
確かに。
入学式の一件は、ヴァンダイク学長には報告してある。今回は不問にされたが、一歩間違えれば監督不届きとして始末書モノ。最悪、懲戒免職である。
だから定期的に旧校舎を見回っているし、変貌したと情報が来るや、即座に調査している。
リィンらが探索をする直前に下調べも済ませている。置かれている宝箱の何割かは、サラがこっそりサポート用に手配した物だ。
幸いにも、旧校舎の異変は――それからは、起きていない。
四月の自由行動日、先日の自由行動日。
強さは適切(《Ⅶ組》の皆が攻略するのに丁度良い)だし、最奥部の敵も狂った強さではない。
その鍵はどこにあるのか?
四月では、リィン、エリオット、ガイウス、フィー、カタナで攻略し、普通だった。
五月では、リィン、エリオット、ガイウス、ラウラ、アリサで攻略し、普通だった。
オリエンテーションはチーム分けがされていた。
最初に敵に遭遇したのは、リィン、フィー、エマ、カタナの四人。
このチームに原因があるとするならば……確かにリィン―エマのラインがかなり怪しい。
(それだけじゃないとは思うけど……エマが何か隠しているのは、確かよね)
己の暴走を収めるための、即座の『結界』展開に、精神世界への接触。行為と能力だけ見れば、それこそカタナより《蛇》っぽい。
特に邪悪な過去や背景は無さそうだから、深く追及はしないでいるけれども。
その内話してくれるかも、という期待を込める意味でも、この三人を纏めるのは悪くない。
戦い方のバランスも良いし、性別やコミュニケーション的にも問題は無さそうだ。
「その助言、参考にさせて頂きます」
うむ、と頷く教頭の前、班別けを決定する。
A班(バリアハート):リィン、ユーシス、マキアス、エマ、カタナ。
B班(セントアーク):ラウラ、アリサ、エリオット、ガイウス、フィー。
当然のようにマキアスは猛反発したのだが、サラの「じゃあ力づくでいう事を聞かせてみる?」の一言と、それに付随する一対三の戦闘結果により、黙りこむしかなかったのである。
○ ○ ○ ○ ○
「あ、あの……楽しい、ですか、それ」
「君のような可愛い娘の髪を弄れる機会なんて、そうそうないだろう? フフ」
フフッと格好良く笑って髪を弄り弄りする女性が一人。
いや、格好つけてもやってることは髪を弄ってるだけです。
授業が早めに終わったので、オカルト研究部に顔を出す前に、技術棟に足を運んだのだ。
ケルディックで手に入れた髪留め型の
膝の上に載せられ、良い感じの玩具にされている。
まあお詫びと暇潰しも兼ねているから良いんだけど。そこまで不快でもないし。
「ところでどっかで会ったことないかい?」
「さ、さあ、あるかもしれませんが、気のせいかも、しれません。何分、奔放な物で」
小柄な少女を腕の中に納めているからか、若干、鼻息が荒い。
女の子を愛でるのが趣味な人なのだろうか。
トワ会長との間に百合の花が咲いてたりするんだろうか。
疑問は尽きない。
しかし、この先輩との出会いが、巡り巡って、私のアーツが苦手な理由を解き明かすのだから、出会いというのは分からないものである。
Q:ハーブのスープ
A:一体
Q:バリアハート組
A:なんだかんだ言ってフィーとカタナが入れ替わっただけじゃねとかいう意見は分かる。しかしそれでは終わらないのだ。
Q:技術棟と補助導力器。
A:詳しくは次回に。実にブルブランらしい弄りとおちょくりが入っている。
Q:アンゼリカ・ログナー。小柄で嫌がらないダウナー系美少女を腕に大興奮中。
A:カタナ自身もスキンシップそのものは嫌ではないので抵抗はしない。
恥じらいの概念が薄いのも考え物である。