『創の軌跡』の情報もどんどん出てきていますね。
イメージビジュアルで新旧《Ⅶ組》が全員揃った絵がありました。
二次創作ですが、あの中に入れるようなカタナの話を最後まで書ければと思います。
感想や誤字報告など、何時もありがとうございます。
では、どうぞ!
なんというか、勇気ある人だな。
アンゼリカ先輩を、私はそう評価した。
技術棟でぼーっと椅子に座っていた私を見つけたまでは良い。
だが『何かと有名な《Ⅶ組》の娘だね。園芸部の子も気になるけど、君も気になるな』とナチュラルに口説き――そこで拒否しなかった私も私だが――距離を詰めてくるのは如何なものか。
一歩間違えればセクハラでビンタされても文句言えない立場である。
流石の社交性、というべきか。
話術に思わず私は引き込まれ、気付けば先輩の膝の上に居たのだった。
……いや良いけどさ。基本会話が苦手な私としては、こちらの感情を察しながらグイグイくる人は有難い。アンゼリカ先輩みたいなタイプの人、《Ⅶ組》には居ないからね。
(一応)美少女の範疇には入る私を、アンゼリカ先輩は抱えてご満悦だった。
髪を弄り弄りしている最中、ふと先輩は何かに気付いたようだった。
「……ちょっと触って良いかな?」
「ど、どうぞ」
「……因みにどのくらいまでならOKかな」
「女子同士ですし、お任せします」
「分かった。優しくするから安心したまえ」
カウンターの向こう側では、私の
ケルディックで手に入れた新品と旧品の比較調査をお願いしている最中だった。
ちょっと早めに授業が終わり、オカルト部に顔を出す前に寄ったのだ。
その時、室内に居たのが、このアンゼリカ・ログナー先輩。
紫のライダースーツを着た美女である。
ログナー侯爵家といえば《四大名門》の一角。北方ノルティア州を治める大貴族だ。莫大な量の鉱山を保有し、ルーレ市ラインフォルト社と共に帝国軍備の屋台骨を支えている。
その貴族の淑女としては、あまりにも適当な格好だが、立ち振る舞いの一つ一つが優雅に洗練されており、引き締まった肉体は美しい。
身体のラインがダイレクトに出る衣装は、着こなすのが難しいのだが、とても似合っている。
「ふうむ……。妙だな……。一見、何処にも異常が無い……だけど何かおかしい……肌綺麗だね」
先輩は真面目さと性癖を半々くらいに混ぜながら、私の腕をさすりさすりする。
私を膝に乗せたまま、脇の下をくぐらせ、そのまま観察という姿勢だ。
褒められているようだから、頷いておこう。
……いや、ホント、言うのもなんなんだけどさ。
……アンゼリカ先輩の手付きは丁寧で、繊細で、割と悪くない感覚だ。
これはナカセた女子は結構な数が居そうだ。え、なんか表現が曖昧? わざとだよ。
トワ会長が何回か名前を出していた「アンちゃん」さんとは彼女の事なのだろう。
なるほど、顔に浮かべた悪戯好きな顔には、トワ会長の背伸びを見た時にますます深くなるだろう笑顔が浮かんでいる。この人なら、ちょっとファイルを高いところに置くとか、如何にもやりそうだった。
「ふうむ……? ……小さい子を抱えた感触は良いなぁ…………やっぱり妙だ……」
そんなアンゼリカさんは、私の腕を持ち上げて、袖を捲り、二の腕やら肩回りを観察する。
目付きが真剣だ。
そのまま考え込んだ先輩は、次に首元に手を伸ばした。
ブラウスのボタンを外して鎖骨を確認。
そのままつつっと脇腹に添うように指を這わせて、腰から足までを丹念に観察する。
自然な動きで靴を脱がせて、ふくらはぎやら太腿やらを確認し、靴下越しに指や踵まで確認し、終いにはそのままスカートに――。
「よ、ゼリカが来てるんだっ――、ちょ、お、何やってんだお前っ!?」
「はっ……!」
「はっ、じゃねえよ! 流石に後輩を脱がせるなって! やばいだろ!」
至極、常識的なツッコミが飛んだ。
見れば技術棟の扉を開けて、クロウ先輩が驚いた顔をしている。
ふむ、と改めて自分の姿を確認する。
袖が捲れて、上半身の第一ボタンは外されてて、靴を脱いで、髪は乱れていて、べたべた触られていて、しかもこのままだとスカートまで脱がされかねない姿勢。
結構ヤバイな。客観的に見ると。
ここが技術棟で良かった。
あ、ジョルジュさん? 彼は最初から最後まで呆れたような顔をして、我関せずと無言で作業机に向かっていたよ。何時もの事らしい。
「ゼリカ、お前が女子に人気があるのは良い! だがコトに及ぶのは流石に不味い!」
「……あの、もう良いです?」
「良いも何もねえ! さっさと服を着ろ!」
クロウ先輩の言葉に、私はささっと身支度を整えた。
ご丁寧に終わるまで背を見せていたクロウ氏は、一安心したように大きく息を吐いて、その後、私にも注意を投げる。
「お前もお前だ! ミヒュトのおっさんの所でも見たけど、ちょっと警戒心なさすぎるぞ!」
「すみません、です」
言い訳になってしまうが、言わせて欲しい。
私は、肌を見せることは嫌ではないのだ。
こう表すと要らぬ誤解を生みそうだが、なんというか……理屈としては『見せたらダメだ』とは分かっているが、そこ止まりなのだ。
一般常識としてダメなことは知っている。
そして普通の生活を送るために、あらぬ噂が立つのは不味いとも理解している。
しかし今回のように、自分の体を調べたい、という意思があると、すんなり受け入れてしまう。
同時に、誰かから情報を盗むために手段の1つとして選べてしまうのだ。……困ったことに。
多分、同年代の女子と比較しても、性別の垣根を意識することもあんまりないのだろう。
ケルディックでエリオットを背負うのも全く躊躇しなかったし。
生徒会でリィンに受け止められた時も、ちょっとキュンとはしたが、……あれは……「リィン格好いいなあ」……だと思う。多分。
我ながら『結社』時代の悪癖が染み付いているなと思うが……理性的に判断できるようになっただけマシだ。悪意とか色欲とかで動いているかどうかは
「まあ今回の件は全般的にゼリカが悪いけどよ。……ったく、何そんなに気になったんだよ」
「ううむ。どうも彼女の身体が……上手く言葉にできないが……不自然なんだ。アンバランスというか……そこが魅力的でもあるんだが……」
すまない、と謝りつつ、アンゼリカ先輩は腕を組んで考える。
曰く『どこか妙だが、どこが妙なのか自分には説明できない』そうだ。
「そういうことも、あるかも、しれません」
(違和感か……。言われてみれば……全く成長しないし……原因が同じではないよな?)
《蛇》時代から色々変な経験がある私だ。
ノバルティス博士の実験(パテル=マテルの『適合検査』含む)を受けたし、薬物での強化とか、暗示とか、色々混ぜこぜだ。身体がどっか狂ってる可能性はある。
アンゼリカさんが、過去の背景も何も知らない私の、一般人とは違う些細な変化を見破ったのならば、その眼力を称えるべきかもしれない。
「残念ながら今の私には、それくらいしか分からないが……」
「き、記憶に、留めて、おきます」
聞けば、アンゼリカ先輩は『泰斗流』を修めているそうだ。
私に同門の匂いを感じ取り、マジマジと観察したくなった(下心あり)と話してくれた。
ジンさんやヴァルター、キリカさんにも指摘されなかった謎を良く見抜いたな、と思ったが。
よく考えれば、三人からマジマジと身体を測定される機会は無かった。先輩の功かもしれない。
「さて、それじゃこっちの話をして良いかい?」
分解と比較は終わったらしい。ジョルジュ先輩が声を掛けてくる。
お願いします、と私はカウンターに向かった。
アンゼリカ先輩が『やっぱりもう1回腕の中に納めたらダメかな』と名残惜しそうにしていたが、クロウ先輩が割って入っていた。さっきの今でもう1回を狙うとは、やはり勇気がある人だ。
今度はうっかりエロ未遂に入ることもないだろう。
また機会がある時に、とでも言っておこう。
○ ○ ○ ○ ○
「結論から言うとね、この新しい方と古い方」
置かれた二つの髪留め。
片方は、ケルディックでヴァルターから貰った物。ここ最近ずっと使っている物
その横に並べるように置かれたのは、学生寮から取ってきた、前の品物だ。いつまでたってもARCUSに馴染まず苦戦していた、入学式当初に身に着けていたものだ。
故障している様子は無かった。しかしARCUSとの紐付けは出来なかったし、そうである以上『その内良い感じに直ってくれるだろう』と楽観的に考えることは出来なかった。
こと命を預ける武器には念を入れて居れ過ぎることはない。
なので、さてどんな評価が来るのか、と構えた私に、ジョルジュ先輩は困ったように続けた。
「
……なんですと?
古い方は多少の経年劣化はあるけど、寸分違わず、新しい方と同じ品だ。故障もない。
ジョルジュ先輩はそう告げたのである。私は耳を疑った。そんな馬鹿な。
思わず顔を上げて「え?」という顔で見ると、先輩も真面目な顔だった。私が首を捻って意味を理解しようとしている内に、先輩はまず、新しい方を私に付けてみるように言った。
私は素直に頷いて、一房をアクセで結ぶ。
その後ARCUSを駆動。ぼわんと補助装置と繋がり、ゆっくりと髪は動いた。
これはさっきまで使っていたもの。いきなり使えない筈はない。
次に。新しい方を外し、古い方に付け替えて動かす。そう、これが動かなくて困って――。
――ぼんやり光ってぐねぐねしていた。
「……う、動いた。な、……なんで……!?」
動いたのである。古い方が。確かに以前は使えなかった筈の品が、今は使えるのだ。
どういうこっちゃ、と先輩の顔を見ると、彼は推測だけど、と難しい顔で口を開いた。
「原因が君自身にあった可能性はどうだろうか?」
ハードそのものには問題が無いのは、前から確認出来ている。
ならば使えなかった原因は私ではないかと、言い難そうに言ってくれた。
「交換したことで気楽になって、ARCUSを扱うのに余裕が出た。その結果、新しい方を使えた。品物自体は一緒だから、そのタイミングで古い方も使えるようになった」
「………あ、……あー、……ある、かも、しれま、せん」
思い出す。
あの時。ヴァルターを相手に啖呵を切った時。そしてラウラに慰められた時。
私の精神は確かに若干の余裕が生まれた。ラウラとのリンクを強固に感じた瞬間だった。
ARCUSを介すことで、私達は視点を共有できる。
言うなれば情報を全員で並列処理が出来るともいえる。
ARCUSという新しいハードを得た私は、あの時までARCUSで手一杯になってしまっていた。
ところが、ヴァルターから新しい物を手に入れた時、同時にラウラという連携相手が生まれた。
それによりARCUSの負担が減り、その産まれた余裕で
つまり使用可能になった理由は、アクセを交換したことではなかったのだ。
私の精神的変化、それに伴うラウラとのリンク強化。ついでに「新しい品なら大丈夫だ」という思い込みもあるかもしれない。これらが重なった結果、アクセとの連結使用が可能になったのだ。
旧校舎地下での戦いや、フィーとのクロスベル探索で、髪留めが使えなかった理由もはっきりした。リンクが未熟で処理が追いつかなかっただけなのだ。多分、ARCUSを捨てて従来の戦術導力器を使っていれば、何も問題は無かったのだろう。
アクセそのものには問題が無いなら、古い方だって使える。
綺麗に筋が通った。うん、理由これだよ。私が全部悪かったんじゃん。
そしてだ。この事実から更に一つの推測が生まれる。
(さ、さてはブルブランにルシオラさんも……! この事を見抜いてたな……!?)
考えて欲しい。
実におちょくって来そうな方法ではないか!
こっちなら使えるはずだ、と言って同じ品を渡す。
私は新しい方が使えて喜ぶ。
私の喜びを見て「やっぱり抜けているね」とブルブランは生温かい目をする。
そして後日、二つが同一の品だと気付いた私は「完全に遊ばれてる……!」と悔しがる寸法だ。
言うなれば彼ら彼女らなりの、迂遠な
あの人達は、ここぞとばかりに私を翻弄して行きやがったのだ。
うああああ畜生、あいつらぁっ!
思わず悶絶し、水揚げされたレインボウのようにビタンビタンと頭を抱える。
「まあまあ、何を恥ずかしがっているのかは知らないけど、良かったと思ったらどうだい? 新旧合わせて二つ分の
「……そうですね!」
大きく息を吐いてそう断言した。
ジョルジュさん、良い人だ。
入学式の時に感じた、なんというか……僅かな「嫌な感覚」は、今も少しだけ感じているのだが……ただ、こうしてきちんと向き合うと分かる。この微妙なざわざわ感は……遠くにある。
僅かだけコップに入った猛毒が微かに波紋を立たせているだけの様な――其処に猛毒が有るとしても、何かの拍子でコップから零れるまでは何も危険がない――そんな感覚。
彼が自分の手で、その猛毒を零すような意識はなさそうだ。
「お、お騒がせしました。……また何かあったら、来ます」
お礼を言って辞する。
アンゼリカ先輩は『今度会った時はまた頼むよ』と怪しい笑顔を浮かべ、クロウ先輩に突っ込まれていた。
クロウ先輩本人は割と態度も軽く、気さくで不良っぽい人なのだが――傍らに破天荒な人間が居ると、常識的な判断をするタイプらしい。抜け目がない人、という事なのだろう。
トワ会長を3人の中に追加した光景を、想像する。
うん、とても楽しそうだ。
私達《Ⅶ組》も、一年を共に過ごしたら、あんな風になれるのだろうか。
一年後の自分――想像できない。今より成長してれば良いけど。
「……そういえば、髪留め二つって話が出てたな」
ARCUSとの相性ではなく、単純な処理能力によって使えない――という事ならば。
将来的には髪留めを増やすことは出来るかもしれない訳だ。
(……あれ?)
待てよ、と思う。頭に一つ、閃くことがあった。
この閃き、前にどこかで――ええと――そう――生徒会室だ。
生徒会室で、トワ会長に入部届を出して、リィンと生徒手帳の話をした時。
あの時に頭に浮かんだ「何か」が、形になる。漠然としていた物が、明白な形に。
(……もしかして、これ、いける?)
確かめたことが無い、仮定でしかない。
だが『多分出来る』という確信が持てた。
手の中にある、二つの髪留め。ARCUS。そして従来の戦術導力器。
……試してみよう。
天才の壁は絶対に越えられない私だが、工夫次第で強さを補うことは出来る。
何より《Ⅶ組》の皆と同じように、育ちたいのだ、私だって。
○ ○ ○ ○ ○
「『謝っても許されないかもしれない』とか『謝るしか道はない』とか……“謝っても無意味なのだ”という結論になるのでは、と考えていたようだけど、本当の意味はそうじゃないのよ」
《吊るされた男》の逆位置の話を、ベリルは切り出した。
『報われない』『不利な立場』『役不足』――ベリルなりの解釈ということらしい。
「と、言うと」
ベリルはウフフと笑って優雅に紅茶を入れる。
飽くまでも私の心情だけどね、と微笑み、その片手間でタロットをシャッフルする。
技術棟から帰って来た私を出迎えたベリルは、何時もより2割くらいフフフ笑いが深かった。
「『失敗しても、報われなくても、何を言われても、それでも進みなさい』ってことよ」
適当に引かれたカードには、毎度おなじみの《吊るされた男》が載っている。
此処まで任意の絵柄を引き当てるベリルの実力は溜息しか出ない。
そして、その俯瞰的な視点にも。
「行動の先に失敗があるのではないわ。失敗の先に行動がある……。――サラ教官と約束出来たでしょう? 許された訳ではない。だけど可能性を未来に見ることが出来た」
「……ずっと大変になった、ともいう」
「でも進めてるじゃない」
ベリルの微笑みに、私は頷く。
自分の罪を認める事は苦痛だ。
認めた罪は一生消せない火傷みたいな物だ。何時までも痕が残り続ける。
「でも、人は傷を負って、やっと次に進める。何も貴方とサラ教官に限った話でもない。人間、大なり小なり、人間と関わって、傷付いて、それで成長してくものなのよ……。――偉そうに言っている私は、所詮ただの小娘で……貴方の戦いを応援しか、出来なかったのだけどね」
その応援してくれるだけが、どれほど心強かったのかを、言う必要は無いだろう。
サラ教官から聞いた話になるが、ベリルは教官にも手紙を送ったそうだ。
内容までは聴いていないが、恐らく私との対話に必要な、アドバイスだったのだろう。
「十分だよ」
「だったら嬉しいわ。だけど――《吊るされた男》が此処まで、綺麗に嵌るとなると……」
思い出す。五月の頭に、ベリルが引いたカードの内容だ。
……《恋人》がどんな意味を持つか、という事だな。
次の実習地で起きる事件を予見している、とみるのが妥当だろう。
単純な「恋愛」が問題になるとは思わない。逆位置だから、どっちかというとプラトニックではない方の愛だ。邪悪な誘惑、失恋、結婚の破綻、……学生の身にしてはちょっと重い内容だな。
……因みに数日前、何処まで占えるのかと尋ねてみたところ。
《太陽》を傍らに置いた《死神》と、それと戦う《女教皇》《恋人》《力》《運命の輪》《悪魔》が並び、更にそれを《愚者》が眺めるという構図が机の上に表示された。
『この構図は知ってる?』と問われた私は、すいません勘弁して下さいと言うしかなかった。
まあ《太陽》は比喩的な意味だけどね。『結社』の人ではなく。
当のベリルが、具体的にどんな状況なのかを言い当てられないのかが幸いか。
ベリルには『結社』の話をしても良い気がするが……下手に事件に巻き込まれても嫌だし。曖昧に濁しておこう。私が言わないでも勝手に核心まで近寄ってそうな雰囲気あるし。
「……愛、ねえ」
「そう言えば今迄、敢えて尋ねなかったのだけど」
「ん、うん」
「カタナのご両親は?」
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―――――――――――――――――。
「……ごめんなさい。質問をしてはいけなかったわ」
即座に謝罪をしてくれたベリルに、反応が返せないくらい、私はフリーズした。
何十秒か経過して、ようやっと再起動する。
「……いや、一応、母は居るよ。今も生きてる。顔も知ってる。向こうも私を子供だと認識してる……と思う。年に何回かは手紙来るし。……最後に逢ったのが『結――ん“、ん”、謎の! 秘密組織に! 入る前だから、顔は写真とか絵で思い出す感じだけど」
親。親、ねぇ……。
レンちゃんみたいに親に売られたとかじゃないし。
身寄りが無くて孤児院から引き取られたとかでもないし。
少し前から研究が行われている、人造の生命体などでないことも確かだ。
別に嫌ってるわけじゃないし……トラウマを持っている訳でもない。
何があったという訳じゃない。むしろ何もなかったから今に至るというか。
「あ、甘えるのが下手な原因の一つでは、あると思う。――ごめん、この話、止めよう」
サラ教官の胸元で寝入ってしまった事を、思い出す。
安らいで眠れる……心地よさか。なくても平気だけど、あると嬉しい物ではある。
私の複雑な顔に、ベリルは申し訳なさそうな顔をして、すっと一枚の資料を机に置く。
話題を変えてくれたようだ。
「次回のラジオ放送の内容よ。《Ⅶ組》の実習直後……5月31日月曜日になるわ」
私も意識を切り替えた。
受け取った資料に目を通す。
「……読んで、練習しておくよ」
なんとなくぎこちなくなった空気を消すように、私は笑う。
「ベリルも考えておいてよ? この前の約束通り、どっか遊びに行きたいからさ」
「そうね。……それじゃあ、お買い物でもどうかしら。フォーチュンクッキーの売り上げが好調で……目指していた金額に、手が届きそうなのよ。自分のお金と合わせて、十分買えそうだから……それを一緒に、買いに行きましょう。ヘイムダルでも良いし、別の場所でも良いから」
「ん」
まだ何となくぎこちない空気がある。何となく座りが悪い。
それじゃあ夕ご飯でも一緒に食べましょうか、と提案したのはどっちだったか……。
ともあれこうして《特別実習》前の日々は過ぎていった。
○ ○ ○ ○ ○
さて、そうして迎えた5月26日。
実技テストのチームはユーシス / マキアス / 私という組み合わせ。
リィン―アリサ―ラウラ―ガイウスのチームに、エリオット―エマ―フィーのチーム。
それらに比較して、結果が散々だったのは言うまでもない。
実習地発表で、マキアスは更に憤懣やるせない顔になったが、サラ教官に勝てる筈もなし。
リィンを混ぜた男子三人は容易く蹴散らされ(リィンには合掌しておいた)た。
決定を飲み込むしかなかったのである。
○ ○ ○ ○ ○
5月29日。土曜日。6時45分。
私がトリスタ駅に入ると、既に《Ⅶ組》は全員が揃っていた。
ユーシスとマキアスもそっぽを向き合っているが揃っている。
この図、ケルディックに向かう前に見た覚えがあるぞ。
今回は彼らが、私らと同行するという状態だが。
おはようと声をかけて、合流。
ユーシスは軽く頭を下げてくれたが、マキアスから私への態度は固いままだ。視線が怖い。下手するとユーシスより固いのではないだろうか。知らぬ内に踏んだ地雷はよほど大きかったらしい。
B班の面々は心配してくれていた。
彼女達とは此処で数日間お別れだ。互いに激励し合う、というか一方的に激励される。
ま、まあ私達も、B班に何か問題が起きるとは全く思っていない。
サラ教官の事だから適度に難易度が高い課題を用意してあるだろうが、何も心配はないだろう。
「一番遅いって珍しいね。何かしてたの?」
「ん、ミヒュトさんの所によって、色々、買ってきた」
さてそれじゃあ切符でも買うか、と皆が手続きをしている間に、フィーと会話になる。
バリアハート、セントアークまでは特急を使って4時間30分から5時間ほどだ。
朝食は既に確保してあるが、列車の中で出来る事は限られている。
食べて、皆と会話して、仮眠して、後はブレードをするだけではまず時間は潰せない。
故に他に時間を有効に使える物を持ち込んでおこうと色々買ってきたのだ。
小太刀の片方は手配が間に合っていないが、出来る限りの武装も整えてきた。
バリアハートに時折顔を出すという、ミヒュトさんの知人の話も聞いてきた。
「……まあ、頑張って。またクロスベル行くって約束も、あるし」
「ん。大丈夫。フィー以外にも約束はしてあるからね。色々と」
丁度、一週間前になるか。
22日発売の『帝国時報』に、クロスベルでテロ事件があったと載っていたのだ。
さるカルトが信者を使って暴動を引き起こしたという内容だ。
あのガルシア・ロッシ氏も、巻き込まれたらしい。それも『加害者』として。
……少しだけ複雑だ。悪人であったけれど、私達には親切だったから。
だから、なんというか、気になって『また今度、足を運ぼうか』という約束をしたのである。
「フィーも、皆との交流時間を、無駄にしないように。私もエマも、居ないからね?」
「そっちこそね」
《恋人》の預言に、マキアスとの関係にと、はっきり言って不安は山積みだ。
それでもまあ何とかなるし、何とか頑張るしかない。頑張って乗り越えるしかない。
ラジオ放送に、ベリルとの買い物に、フィーとのクロスベル旅行にと、今後の予約も沢山ある!
――まもなく2番ホームに、帝都行き旅客列車が到着します。
B班らが乗る列車がやって来る。私達の列車も直ぐに来るようだ。
私とフィーは、互いに無言で拳をぶつける。
よし気合入った。
さあ、それじゃあバリアハートに向かうとしますかね!
さあ次回からいよいよバリアハートです。
じっくりことこと追い詰めていこうと思います。
Q:アンゼリカの気付いた違和感。
A:実はアーツが使えない理由こそが「違和感」。ワイスマンが余計なことを仕込んでいる。
『結社』組は教えるほど親切ではなく、ヨシュアやレンとは(カタナの接し方が下手で)そこまでじっくり観察と会話する時間が無かった。アンゼリカだからこそ気付いたのである。
Q:思いついた技。
A:単純な強化ではないが超便利なスキルが増える。次回辺りに公開したい。
Q:カタナの両親ってちゃんと居るの?
A:居る。
触れたくない話というより、他人に話しにくい話。
Q:ミヒュトさんとの話。
A:結局、生命線である小太刀は片方だけ。代わりにサブウェポンを色々買い込んだ。
新聞も買い込んだ。トヴァル氏の情報も手に入れた。
Q:第2回クロスベル来訪。
A:第1回来訪で一瞬出会った