カタナ、閃く   作:金枝篇

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まさかのアニメ化……! 驚いた……!
良い作品になってくれることを期待します。

バリアハート・ラストバトルです。どうぞ!


翡翠を刻む血

 「…………おい、アルバレア……! ユーシス! ……起きれるか……!」

 

 強い衝撃と怒声を聞き、ユーシスは目を開ける。

 そして、自分に何があったのかを思い出した。全身が震えて動くのに難儀はするが、それでも身を起こす。自分に声を掛け、首の襟元を掴むマキアス・レーグニッツも、服が焦げ、動きがぎこちない。

 だがそれでも、男子2人は何とか意識と意欲を取り戻し、現状を把握した。

 

 「く、……あれ、は……リィンか……!?」

 「他に思いようがない。――独りで、押しとどめている。機甲兵と、猟兵を……!」

 

 二人の視線の先には、太刀を振るう少年の姿があった。

 黒髪は灰色に染まり、穏やかだった瞳は真紅に染まっている。全身から、まるで邪悪なオーラを漂わせているようにすら見える、リィン・シュバルツァーが、縦横無尽に刃を振るう。

 巨大な機甲兵の、受け止めるだけで腕が壊れる重量の一撃を受け流す。

 その合間を縫って投げられるダガーを最小限の動きで避け、猟兵の殺意を押し返す。

 

 「他の、連中は、どうした」

 「委員長とクラウゼルは何とか回収した。完全に意識を失っているが、呼吸はしている。……アルビーは、向こうだ。不本意だが、あの場を突っ切らないと出来ない」

 

 雷撃のショックで、筋肉が不随意に動いたのだ。

 偶然にもフィーは、マキアスらの方に転がって来たが、カタナはそうではなかった。

 

 「どうして僕らが、動けるのかは、僕が、知りたい」

 「おそらく――実習前の、実技試験のお陰だ。……あの時、盛大に……苦戦したからな」

 

 リィンの鋭い剣閃が翻り、機甲兵の関節部に食い込む。

 だがそのまま断ち切れるほど甘くも柔くもない。下手に力を込めれば、太刀ごと()()()()()()()。故に、手数で削っている。だが手数で削るということは、時間がかかるということだ。

 今はまだリィンに余裕がある――何時まで持つかは、分からない。

 

 「……そういえばあの戦術殻のβ版は、電撃を使ってきた、な」

 「少しだけ耐性が、あったんだろう。――それで、重要なのは、此処からだ」

 

 一度気を失ったからか、リィンと他の面々の間にリンクは繋がっていない。

 だが仮に繋がっていたとしても――あの戦場に、飛び込める気がしない。

 完全に戦いが別次元だった。たとえ電撃で体が麻痺していなくとも、割って入る勇気は無かった。

 

 「……アドラーも、優秀だが、こっちに、意識を向ける余裕が、無い」

 「出入口の扉は破れない。出来るのは、援護くらいだぞ」

 「だがアーツも連打は出来ん。さっきの雷撃でARCUSもかなり負担がかかった。……簡易の導力補修機も壊れている。……残ったエネルギーで使えて、数回だ」

 

 動けさえ出来れば、治療が出来る。

 女生徒の鞄を勝手に開くのは一瞬躊躇われたが、エマの回復道具を取り出し、使う。

 勿論少女らにも使ったが、暫くは起き上がることも出来ない。

 

 「レーグニッツ、流石に銃は無理だな?」

 「無理だ。僕はアーツで行くしかない。君はどうなんだ。その身体で剣は振るえるのか」

 「……気合で動く。威力は察しろ。だが全力で一回振るくらいならば、ギリギリだ」

 

 動けてそれくらい。

 認識を確認した二人は、それでも、と大きく呼吸をした。

 

 「見てるだけにするか?」

 「馬鹿を言え! 此処までされてのこのこ引っ込んでいられるか……!」

 「意見があったな」

 

 二人の間に、リンクが嵌る。

 そして一瞬に賭けるため、二人は、動いた。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「あは」

 

 口から、喜悦の声が漏れる。

 止められない。止めようがない。止まる筈がない。

 

 「あはははははは」

 

 明白な『敵意』と共に振るわれる鋼を回避し、その一撃が自分の肌を切り裂いていく。

 嵐のような猛攻は、機甲兵を確実に削り、アイリの元にも届いていく。

 此方の殺意を受け流し、返される、その死線の上。

 

 「あはははははははははははははっ!」

 

 アイリ・アドラーは喝采を上げていた。

 まさか、まさかまさか、本当にこんな人間がいるなんて。

 本当にこんなに元気に動ける、心臓を持った人間がいるなんて!

 

 「最っ高ですよ! おかげで私は安心している! これ以上もなく、喜んでいる!」

 「何の話だ!」

 「私の、大事な人の話ですよぉ!」

 

 どんな人間にも、心の中を占める1人や2人くらいは、居る。

 アイリ・アドラーの場合、それは妹だった。

 2人目のとある同僚(裏切り者の男の子)に関しては置いておいて、妹:アイカ・アドラーは、大事な存在だった。

 少なくとも、その死を本気で悼むくらいには。

 アイリは今でこそ《ニーズヘッグ》の分隊長だ。

 だが、数年前までは違った。アイリもアイカも一猟兵に過ぎなかった。

 小さな事件で、壊滅的な打撃を受け、部隊〈小指〉は全滅した。……全滅するはずだった。

 

 だがアイリは生き延びた。

 そして、妹の死体を運ぶことになった。

 運ばれた死体は今、()()()()()()()()()()()使()()()()()()

 

 「クロスベルのテロ事件……知ってます……? 私もどっぷり関わっていましたとも。色んな武器を売買する。それが我ら《ニーズヘッグ》。青い薬(グノーシス)も、そう。向こうで手に入った物を、必要としていた貴族に卸した。――その中で、知りました」

 

 妹は、まだ生きている、と見ることも出来るだろう。

 だけど実感がなかった。確証がなかった。

 何より。

 何よりも――心臓を移植した、なんていう荒唐無稽な話を、納得させることが、出来なかった。

 移された娘は、何も知らずに生きている。

 その現実を見ても尚、信じがたかった。

 妹は死んだのだ、という事実を受け入れて、足を止めるだけだった。

 

 だから欲した。何か他に成功例がないのかと。

 だから探した。《D∴G教団》から辿り、痕跡がないかと。

 

 妹の心臓移植を行ったのは、《D∴G教団》司祭ヨアヒム・ギュンター。

 先日、クロスベルでの『教団事件』を引き起こしたとして、『特務支援課』に倒された男。

 

 仕事柄、多種多様な組織とコンタクトを取る。

 ヨアヒムから回収した『グノーシス』を売買するついでに、彼の技術や、関連人物も探した。

 目途があったわけでは無い。

 最初は手探りだった。

 ただ慎重に、そして必死に、探った結果、中っただけだ。

 

 目を通して、やがて行きついた。

 《D∴G教団》から《錬金術師》へ。

 《錬金術師》から《黒の工房》へ。

 《黒の工房》から『帝国』へ。

 そして『帝国』から《鉄血宰相》へ。

 

 確信が、あったわけでは無い。

 証拠は、全部消されている。

 

 リベールとの戦争を引き起こした将校らは既に全員が処理されている。

 当時の情報を持つ人間は限りなく少なく、生き残っていても口は割らない。

 僅かな手がかりしかなかった。

 

 時系列的に何時、どこで、どんな風にあったのかも、全て推測でしかないのだ。

 ……ギリアス・オズボーンは、自分の人間関係も徹底的に情報を消していた。

 アイリとて、手に入れた情報を、『貴族派』へと売り渡す気なんかサラサラない。

 この目の前の少年の本当の父が誰なのかすら、言う気が無かった。

 

 ……だが、言葉に出来ずとも、第六感で察知した。

 目の前に、アイリにとっての希望がある。

 

 「お前が、そうなんですよぉ……! リィン・シュバルツァー!」

 

 襲い掛かる刃を、ダガーで受け流し、もう片手でダガーを投げ、懐から追加していく。

 一本の太刀へと襲い掛かる、短剣の雨(ダガーレイン)。銀の嵐が、殺到していく。

 

 「何を見ているのかも語らない癖に、勝手なことを……!」

 「ええ、そうですとも! 勝手な話! 猟兵の身勝手な我儘でしかないっ……!」

 「それが、皆を傷付けた、理由か!」

 「そうですよぉ!」

 

 機甲兵が動く。その剛力を以て、変色した少年を抑え込む。

 既に内部でチャージが始まっている。内部に溜め込んだエネルギーを叩き込めば、今度こそリィン・シュバルツァーは倒れる。どれ程に変貌していようが、暴走のようなものだ。限界がある!

 そんな理由。その通りだ。否定も出来ない。

 自分でも馬鹿馬鹿しいと思っている。だが、捨てられない。

 

 「んなことは分かっていますとも! 私の目的はどこまでも身勝手で、貴方達を踏み台にしかしていないっ! ですが私は後悔なんか一切しない! 許される気もなければ、謝る気も無いんですよぉ!」

 

 心臓移植――その単語を理解できる人間すら、この大陸で一握りだろう。

 他人の身体を、別の他人で保管するという知識や技術や、発想は、認知には程遠い。

 けれども、アイリにとっては弱点だ。

 

 自分は、妹の心臓を持った少女に、未練を持っている。

 猟兵が、何も知らない一般人に拘っている。

 殺し殺されが日常の猟兵が、生きてるか死んでるかも分からない人間に拘り続けている。

 第二第三の妹が増える可能性もある。

 ミラを積んでも技術を欲する者が間違いなく出てくる可能性を、直視している。

 それら全てが、アイリにとっては到底、見過ごせない、表に出来ない話だった。

 

 「恨みたければ恨め! 憎みたければ憎め! だがこの私の意志だけは……私が何を狙っていたのかだけは、望んでいたのかだけは、私だけの秘密なんですよぉ!」

 「だったら猶更――聞き出す!」

 「出来ると思いますかぁ!?」

 

 チャージが終わる。

 機甲兵が震えた。一発目には及ばず、警戒されているだろう二発目。

 だが回避しようが、耐えようが、倒れようが、全てに備えるように、既にアイリは行動を終えている。

 ワイヤーで空中に退避し、電撃が――。

 

 「そこだぁああああっ!」

 

 ぶつん、と。

 

 「…………ユーシス・アルバレア……っ!?」

 

 渾身の一撃で、ワイヤーが断たれた。

 剣を握っていたまま、飛び込んできていた。

 痺れた全身を駆使して、たった一発、一撃だけの攻撃。それがワイヤーを断ち切っている。

 その腕が、ダガーで退避を狙うアイリを、水路へと叩き落した。

 

 自分への殺意や敵意は無く、故にアイリの意識が向かなかった。

 再び自分が、電撃を受けることを覚悟しての、突撃だ。

 そして。

 

 「飛べ、シュバルツァー! 《アースランス》!」

 

 地下水路の中に乱立した、たった今作られた、乾ききった大地の槍が。

 リィン・シュバルツァーの足場になっていた。

 

 ――電撃が、走った。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「っがぁああ!」

 

 今度こそ悲鳴を上げ、アイリ・アドラーに一撃が叩き込まれた。

 

 機甲兵が、煙を上げて、崩れ落ちる。

 無数の傷と共に、表面の耐電コーティングが剥がされた機甲兵は、自らの電撃に、耐えられなかったのだ。その判断機能も壊れ、もう操作を受け付けない。

 自爆するように崩れ落ちたと同時、ユーシス・アルバレアは水路に倒れた。

 

 「ちっ、おい! 無事か……! ユーシス! リィンも……!」

 「まだだ!」

 

 駆け寄ろうとしたマキアスを、着地したリィンが制する。

 今尚も髪と目が変色したままのリィンは、地下水と汗でずぶ濡れになりながらも、まだ警戒を緩めない。

 

 「まだだ。まだ……彼女は、立ち上がる……!」

 「…………効き、ましたよぉ……!」

 

 全身にダガーを仕込んでいたアイリにとっても、電撃は効果的だった。

 電熱で空気と肌が焼かれた、おぞましい臭いが漂ってくる中、それでも。

 それでもアイリ・アドラーは、立ち上がる。

 

 「最後まで邪魔してくれてぇ……!」

 

 その手は、薬瓶を握っていた。

 殆ど中身が残っていない錠剤、その数粒を、かみ砕き、足元の生水を掬って嚥下する。

 グノーシスだ。

 自分自身が飲むためにも、少しだけに確保しておいた。

 明瞭になる脳が、周囲の情報を伝えてきている。

 強化された精神が、痛みを誤魔化すほどに活性化し、身体が動くようになる。

 時間制限付きだが。

 

 「後は、逃げるだけだっていうのにねぇ……!」

 

 その時間制限が、あれば良い。

 周囲の情報をより鮮明に把握できる知覚が、リィンの胸を再度視認する。

 戦いで破けた制服の上からでも、その心臓の上にある、無残な傷跡を伝えていた。

 

 逃げ道の確保は、出来ている。

 水位を調整する為の、工事現場。そこには外の河へと抜ける通路を複数、隠してある。

 だが、当然、水の中だ。泳ぎ潜る必要がある。

 仮に通路が塞がれていたらこの地下に戻って来なければならない。

 そして流石に自分だけが水中で、他の敵が水上にいて取り囲まれる、なんて言う状態はごめんだった。

 

 本当に、胸の傷を確認さえ出来れば、逃げるだけだったのだ。

 だが煽られ、戦いになり、此処までもつれこんだ。

 捨て身の攻撃と、予想もしないリィン・シュバルツァーの『力』で、此処まで消耗させられた。

 恐らく……この少年は、自分が今ここで水の中に逃げても、追いかけてくるだろう。

 

 上手く追い払った大人らも、近くまで来ていると、感覚が囁いている。

 捕まってはならない。捕まったら、自分の狙いも、何もかもが白日の下に曝け出されかねない。

 いや……その前に《(サー)》から、口封じがされて終いか。

 

 だが、何よりも、捕まったら。

 妹の心臓の行方を、見ることが出来ない……!

 

 それは、嫌だ。

 だからアイリは、立ち上がり――嗤った。

 望みが果たされた喜びと、危機を前に、それでも血に塗れた笑顔を見せた。

 この翡翠の街に、己の血を刻んだ在り方は、まだ、終わっていない!

 

 「マキアス! ユーシスとカタナを頼む……!」

 「……無理しすぎるなよ! リィン!」

 「とっとと倒れて下さいなぁ!」

 

 水を切り、激突する二つの影。

 電撃で未だ痺れが抜けないアイリ。

 体力を限界まで酷使し、暴走したまま戦い続けるリィン。

 

 二人の間を、幾つもの血が、油が、服の切れ端が、欠けた刃が、流れていく。

 その中に1枚のカードがあった。

 

 《恋人》の、タロットカードだ。

 それが意味するところは「愛」。

 肉体と肉体の繋がり。情動であり、欲望であり、未練である。

 リィンとアイリ、どちらも初対面の敵同士でしかない。

 ただ一つ、()()()()()()()()()()()が、力になっていると言う共通項を除いては!

 

 「けり、つけてやりますよぉ!」

 「させない――お前は、此処で、無力化する!」

 

 太刀を収めたリィンの周囲に、焔が躍る。

 赤ではない。蒼炎とも表現できる、青色の焔が、濡れた足元から立ち上る。

 湯気は陽炎の如く動き、蒸気が火花となって舞い踊る。

 

 「焔よ、我が剣に集え――!」

 

 苛烈だった。

 ダガーで受けても防ぎきれないのは、アイリの全身に麻痺が残っているからだ。

 しかし、仮に麻痺が無かったとしても防げない程の意志が、一撃一撃に込められている。

 

 「私に此処まで本気を出させた分……! 血と涙は、支払ってもらいませんとねぇ!」

 

 アイリは、ワイヤーに手を伸ばした。

 周囲に突き刺し、投擲し続けていたダガーへと結びつけ、回収していく。

 その何本かが断ち切られる。

 

 「お前に、実習を、壊させはしない……!」

 「プロ舐めんじゃねぇですよ!」

 

 これが互いに最後の攻防だと分かっていた。

 燃え盛る熱の中、歯を食いしばり、凌ぐ。

 残ったダガーの大部分を投擲に回し、同時、ワイヤーに無数の手榴弾を繋げていく。

 

 『焔ノ太刀』――!

 

 烈火の一撃が、アイリに襲い掛かった。

 直撃すれば耐えられないだろう、八葉一刀の太刀。

 手に持ったダガーが砕けていくのを、鋭敏になった知覚は感じ取る。

 死線が己の脳に映し出された瞬間、一瞬が引き延ばされるのが分かった。

 

 ダガーが砕ける。胸元の二つ目の刃も砕ける。防刃素材も無効化されている。

 けれども。

 

 「それで負ける程……! 私は未熟じゃあ、ないんですよぉ!」

 

 一瞬後、切り裂かれた服が、爆発した。

 リィンの刃と炎は、アイリの装備した手榴弾すらも斬っていた。

 立て続けに炸裂する手榴弾。それを受けても尚、刃は止まらない。

 迫っている。アイリは、爆炎の中から姿を見せた、満身創痍のリィンに向け。

 

 「《ブレードメイデン》……!」

 

 己の渾身の力を込めて、刃を叩き込んだ。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「…………っ……!」

 「―――■■■!!」

 

 爆発が収まった時、そこには、至近距離で互いを確認する、二人が居た。

 リィンの太刀は、アイリの脇腹を貫いて、止まっている。

 そしてアイリの短刀は――リィンを、貫いてはいなかった。

 血を流しているのは、アイリだ。しかし。

 

 ずるり、と。

 リィン・シュバルツァーが、崩れ落ちた。

 

 脇腹に刃を突き刺したまま、アイリは下がった。

 倒れたリィンの手から、太刀が……正確に言えば「太刀だった物」が、零れた。

 刃だけが、アイリの脇腹に突き刺さっている状態だ。下手に抜くと失血死しかねない。

 

 「…………私の、勝ちぃ……!」

 

 最後の瞬間、リィンはアイリへの必殺の一撃を、加減した。

 あんな風に暴走していても「人殺し」という禁忌に対しては、セーフティが働いたらしい。

 結果、彼の攻撃は、飽く迄も『重症』程度に収まった。

 

 アイリもまた、咄嗟の判断をした。

 まともに受け止めていたら――あるいは、リィンを殺そうとしていれば。

 多分、リィンの方が、先にアイリを貫いていただろう。先に限界を迎えていただろう。

 だがアイリは咄嗟に狙いを変えた。

 

 「………強かったですよ、皆さん……」

 

 一言、褒めて、悪態を吐く。

 

 「……は……学生が……猟兵ここまで、……追い詰めるんじゃねーです……」

 

 自分に刃が食い込むと分かった瞬間、アイリは、ダガーを()()()()()()()()()

 連続で太刀と、リィンの手の甲へと、柄を振り下ろしたのだ。

 結果、太刀は砕けた。

 手の甲を壊されたリィンの一撃は、本来よりもずっと軽かった。

 

 「……逃げましょう……。これ以上、此処には、……居られない……」

 

 確かまだ、男子生徒が一人――自分がゾーイと名乗って、接触した少年が、居た筈だ。

 彼が自分を制圧できるとは思っていないが、これ以上の時間は不味い。

 グノーシスが伝えてきている。

 恐らくもう、1分か2分かで、大人らが合流するだろう。

 

 (水路から地上に出れば……手配した迎えも……来ている……)

 

 止血も、合流してからだ。

 手早く自分の証拠や痕跡をかき集め、倒れた生徒らに、背を向けて、歩き始め。

 

 

 何処に、行こうと、いうのかね?

 

 

 一つの声が、引き留めた。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 その瞬間、アイリの背筋に、凄まじい悪寒が這い上がった。

 振り向く。隙だらけだが、そんな事を言えない程に、化け物じみた気配が、あった。

 

 

 「ああ、いや、逃げるのは、構わない。その恐怖は正常なものだ」

 

 

 一人の女子が、立ち上がっている。

 カタナ・N・アルビー。『結社』の執行者候補生。

 《蛇》とも取引があるアイリにとっては、事前に情報を持っていた。

 警戒対象でこそあっても、取扱注意レベルでは無かった。

 無かった、筈、なのに。

 

 (――この、余りにも恐ろしい気配は、……なん、なの、です……!?)

 

 彼女の足元には、レーグニッツ少年が倒れている。

 ……気絶させられたのだ。

 

 

 「怯えているか。無理もない。だが、私としても不本意だ」

 

 

 声色だけは、少女の、ウィスパーボイス。

 その声が、精神に響いてくる。

 

 カタナの形をした『何か』は、懐から取り出した、ひび割れた()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして()()()()()()

 

 

 こんなに早く目が覚めてしまうことが、不本意で、予想外だよ。

 

 

 虚空から杖を取り出した『誰か』の、琥珀色の瞳が、アイリを射抜いた。

 蛇を彷彿とさせる、その眼光を前に、アイリは。

 即座に、背を向けた。

 

 (何ですか! なんですか、あれ! あんなの……あんなの、聞いて、ない……っ!)

 

 少しは感情が見えていた顔は、歪んだ笑みを浮かべていた。

 まるで貼り付けたような笑顔――言うなれば、《白面》の如き、顔。

 

 鍛え抜かれた生存本能が、怪我を無視した全力行動を取らせた。

 追いかけてくる気配のない『怪物』を後ろに、命だけを守るために一直線に駆け抜ける。

 消耗しきった自分の身体の、どこにこんな体力があったのかと思う程の速度だった。

 闘いの余波で、照明すらも消えた、薄暗い通路に、声が響く。

 

 

 起こしてくれたお礼を、してあげようか。

 

 

 もはや姿が見えなくなった『何か』から、膨大な魔力を感じ取った。

 カタナ・N・アルビーでは絶対に持ちえない出力。

 ()()()()()()()()()()()()()()と思う程のエネルギー。

 

 

 さあ、逃げる姿を、足掻く姿を、見せてもらおう。

 

 アナザーディメンション……!!

 

 

 アイリが水路に飛び込んだ瞬間。

 無数のが、バリアハート地下水路を、叩き壊した。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 法剣で壁が切り裂かれ、アイン・セルナートが飛び込んでくる。

 サラ・バレスタインとトヴァル・ランドナーも、同時だった。

 

 しかしその時には既に、敵の気配はない。

 逃げ去った猟兵に舌打ちし、倒れる生徒らの安否を確かめる。

 気絶している生徒ら6()()は、怪我の大小こそあれど、命に別状はなかった。

 

 

 ここに、マキアス・レーグニッツ冤罪に端を発した大騒動は、一先ずの決着を見たのである。




ブルブラン「だから何も仕込んでない筈がないと言ったじゃないか」

「原作死亡キャラ生存」のタグ活用する最初の相手がこうなりました。
実はバリアハート編最後の攻撃はこれにすると、割と最初から決めていました。

さあ、誰が、どこまでこの事実を知ってるんでしょうね(ミスティさん見ながら)!?


Q:裏切り者の男の子。
A:《暁の軌跡》主人公ナハト・ヴァイス。
 元《ニーズヘッグ》の「小指」分隊長。《零の軌跡》の後、エステルらがリベールに帰還した後くらいの時期に、入れ替わるようにクロスベルで準遊撃士となる。

Q:アイリの妹「アイカ・アドラー」の心臓を持つ娘。
A:一応ネタバレなので以後反転。
 《暁の軌跡》ヒロインであり、ナハトの相棒クロエ・バーネットのこと。
 ヨアヒムによる心臓移植の結果、一命をとりとめたが、アイカの記憶や趣味、断片的な人格すらも見えるようになっている。軌跡世界で臓器移植成功させるとか《D∴G教団》やべえ。
 所謂『移植記憶』なのか、クロエの精神がショックを和らげるために虚構の記憶を作り出したのか、移植の拒絶反応を防ぐためヨアヒムが細工を施した結果なのかは語られていない。
 カタナは、ジェニス王立学園にて彼女と知り合っている(第9話「春眠『暁』を覚えず」)。

Q:《(サー)
A:《ニーズヘッグ》の首領。《戦争卿》とも呼ばれている。この先出てくる予定はない。
所謂「死の商人」で、今尚も正体は不明。《暁》で判明するんだろうか……?

次回はバリアハートのED。後始末とか色々。
その後、何話か閑話を挟んで、第3章と行きましょう。

38話「かくて戦場は移り行く」。

感想評価お待ちしてます。
ではまた次回。
フフフ。
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