カタナ、閃く   作:金枝篇

4 / 69
書き溜めていた分を推敲しつつ投下していく形。
ストック30話くらい、バリアハート終了までは凡そ書き終わってます。
クオリティを上げながら、のんびり更新していきます。


絆の始まり

 カタナ。エカターニャ・N・アルビー。

 不思議な娘だ。感情がすぐに顔に出る。だけど感情を出していない時は殆ど顔が動かない。

 ぼーっと何かを見ているようで、でも意外と目端が利いていて……。

 自然な顔を作るのに慣れていないような、感情表現を得て間もない幼子のような、そんな娘。

 

 彼女は足首まで伸びた長い髪と一緒に、床をするすると滑るように動いている。

 どうやらフィー・クラウゼルとは感じる何かがあったのか、直ぐに打ち解けているようだった。

 言葉こそ殆ど交わさないが、呼吸が合っている。動きを取っても、流れるような武器の扱いを見ても、鋭敏な感覚を見ても、所謂『普通』という定義からは間違いなく外れている。

 

 『私、エマの家に行ったことあるんだ。昔の事だけど、多分あの時見たのはエマさんと、エマのお姉さんだったと思う』

 

 そう言われた時、私は、少し不安になった。

 まさか入学初日から自分の身分を知られるとは予想外の話。

 《Ⅶ組》に配属された事にも、何かしら意図がないかと勘ぐっていたのだ。

 

 その一言を受けただけで、一瞬で脳裏に様々なことがよぎった。

 自分の『使命』を行えなくなるという不安。

 久しぶりに他人の口から語られた「姉」の話。

 それとも正体が掴めないカタナという少女について。

 

 しかしエマは直ぐに気付いた。そんな風に悩んでいるエマの顔を、カタナが酷く怖がっていた。

 あれは罪悪感を抱えていた顔だ。

 『自分が私を傷つけていないか』『自分が言葉を告げたのは間違いではなかったか』。

 その怯える子供のような眼を見て、エマは己の心配が杞憂であったと悟った。

 

 (なんというか、背伸びをしているみたいなんですよね)

 

 エマにはカタナが、人の機微に疎い子供が、必死になって勉強をしているように見えた。

 フィーと並ぶと、本当にそれが顕著に見える。

 フィーは他人に興味が無さそうだが、カタナは他人に敏感過ぎるのだ。

 戦闘には全く不慣れなエマだが、それでも分かるくらいに、彼女達二人は並ぶと様になる。

 似ている部分も正反対の部分も、良い具合に嵌っている。

 

 (確かに、私の事を知っている以上、彼女には「何か」があるのでしょう。彼女自身も語りたくない過去が)

 

 《魔女》の《郷》に手紙を届ける。そんな仕事を誰がするというのだ。

 誰からお婆様に手紙が届いたのか、届けたカタナは何をしていたのか。その内容は何だったのか。疑問は尽きない。

 

 そう言えば――そう言えば、と記憶の底を引っ繰り返して、一つ思い当たる。

 まだ姉と修行をしていた頃。もう十年……いや、もっと昔。

 お婆様ことローゼリアは、どこからか届いた手紙を読んだ後、家を空けた。

 

 『古い友人に会ってくる。数日で戻る』

 

 簡潔にそれだけが書かれた置手紙を残し、彼女は数日、郷から姿を消した。そして言葉通りに戻ってきた。

 まだ母が生きていた頃の出来事だ。エマがローゼリアと会話する機会は今より少なく、一体何をしてきたんですか? と尋ねても『秘密じゃ』と隠された。そして話は其処で終わってしまった。

 

 詳細を此処で尋ねたい気持ちは強い。

 だけどカタナは、言えないと繰り返すだろう。

 そして言えないという事実に、悲しむのだと思う。

 だから止めた。

 

 漠然とだが分かる。彼女の微かな翳りは、普通の人間が持ってはいけない何かだ。

 後ろ暗いのかもしれない。鮮血に塗れているのかもしれない。汚れているのかもしれない。一般常識では忌避される出来事なのかもしれない。

 少なくともエリンに足を運ぶのだから、並大抵の過去ではない。

 

 しかし彼女が、真摯に、言葉こそ下手だったが、私に向けて言った言葉は嘘ではないと思った。

 『ちゃんと話そうと思った』

 だからエマは、それを信じた。信じて、友達になりましょうと手を出した。

 彼女はそれでとても喜んだのだ。花が咲いたように。その小さな微笑みは、演技ではなかった。

 セリーヌにはまた小言を言われてしまうかもしれないが――。

 

 (それも、学院生活の、醍醐味です)

 

 何時かで良い。彼女からの話も何時か聞ければそれで良い。

 彼女は何れ話してくれるだろう。

 焦ることはない。だって。

 

 私達は、まだ入学式を迎えたばかりなのだから。

 

 口の中で、檸檬の味をした飴が、小さく弾けた。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 オリエンテーリングであるから、最終ポイントには何かが待っていると思っていた。

 サラ教官との訓練じゃないにせよ、何かしらがあるんだろう、と。

 ぱっと見た限りでは、広間には誰も居なかった。サラ教官の姿もない。

 なんとなく唇が渇いた気がして、小さく舌で湿らせながら様子を伺う。

 

 「……なあ、なんか視られてないか?」

 

 リィンが小さく口に出す。彼は静かに刀へと手を伸ばしていた。

 

 「フィ、フィーさん、左に何かある?」

 「特には。……右には?」

 「こ、これ見よがしな、石像が、上の段に、ひ、一つ」

 

 私が言うのと同時パシリという音が響いた。

 発生源は無論、“それ”からだ。

 壁際に置いてあった石像の質感が、ゆっくりと変化していく。

 尾を広げ、翼を広げ、動き出す。

 頭に二本の角、尾は鈍器のように分厚く、羽までもが石造り。

 

 「《石の守護者(ガーゴイル)》 ! 魔法で動くゴーレムの一種です! 帝国の伝説では、土精(グノーム)も運用していたと言われていますが……!」

 

 今迄が練習だとすれば、これが本番だろう。

 サイズは大きい。首を掲げた身長――床から頭までが、私達の胸の高さ。全長は3mを超えている。広げた翼と相まって、威圧感は中々の物があった。

 ただ、戦力で見れば、十分、倒せる強さだ。

 こんな(色々な意味で)都合の良い怪物が適当に出現するはずがない。

 サラ教官が手配して設置したのだろう。

 

 「これ突破しないとダメかな?」

 

 エマが解説する中、フィーは暢気に広間の奥を見ていた。階段があり、その向こうには光が差し込んでいる。建物の地図を頭の中で重ね合わせて、今までのルートを凡そ把握すると、あの上が私達の落下してきた場所で間違いはなさそうだった。

 フィーは「こいつ無視したらダメ?」と言いたいらしい。

 

 「……い、良い考え、だけど、それは一部の人しか出来ないかなぁ」

 

 ここに居る3人はエマを除いてそれが出来るが、それをした場合エマとガーゴイルのタイマンになる。少し距離を置いて、後ろから来ているだろう他パーティでも同じだ。

 離脱できる人間とは、ガーゴイルを回避して逃げ切れる身体能力があるという人間を指す。

 ラウラやガイウスが抜けた場合の面子を考えて……ユーシスは微妙だが恐らく大丈夫として……残りは、マキアス、アリサ、エマ、エリオットの四人。……うん無理。

 

 それに、あのくらいなら多分私達が普通にやれば、倒せると思う。

 最初にパーティ分けで提案された、リィンとエリオットとマキアスという3人のチームならちょっと難しいかもしれないが、それでも『強さが足りない』から倒せないのではない。

 単純な、基本の経験不足が足りないから、苦戦するだけ。

 つまり目の前の怪物に「怯まないで立ち向かえるか」という部分だ。

 落ち着いて、冷静に。それならリィンとエリオットとマキアスのトリオでも行ける筈だ。

 

 「この四人なら、楽勝……」

 

 と、言おうとして。

 リィンは、黙っていた。

 何となく顔色が良くない。腑に落ちない顔をしている。

 

 「リ、リィンさん、調子、悪い……?」

 「いや、まだ『視られている』感覚が、終わらな――」

 「?」

 

 疑問符を浮かべた私達が、意味を測りかねている間に。

 ゴゴゴゴゴ、と地下からの鈍い音が聞こえた。

 同時、ガーゴイルの「変化」に、気付いた。

 

 断じて、油断はしていないし、何が来ても防げるつもりでいた。

 幾ら目の前のガーゴイルが倒せる相手だからといっても、油断は禁物。

 そもそも私は、この目の前のガーゴイルを片手で捻れるような強さは持ってない。

 だが目の前で起きた出来事は、防ぎようがなかった。

 

 何せ。

 ――ゴッシャアン!! と。

 ガーゴイルの傍にあった壁が、崩れたのである。

 台座の真横が、破裂したように此方へと吹っ飛んだのだ。

 

 「っな!?」

 

 地鳴り。迷宮が()()()

 鳴動した岩盤達が意志を持って動いたのだ。

 それは恰も、見えない手が、積み木を崩して、新しく組みなおすように。

 壁が崩落し、まるで生物が身悶えするように瓦礫がガーゴイルに降り注ぐ。

 そして同時に、ただの四つ足だったガーゴイル、それが形を変えた。

 

 巨大な翼、四つ足、竜のような造形、それはそのままに――()()()()()()()()()()()

 

 「な、なにが、起きてる、の……?」

 「それは俺も知りたい!」

 

 私の疑問に、答えられる人間はいなかった。

 目の前で事態は進んでいく。

 旧校舎の壁が、ガーゴイルに力を与えていく。

 その体積を増やしていくのだ!

 ガーゴイルの背中に石が重なり、それらが徐々に形を整えていく!

 その癖に、先ほどまで壁だった場所は、見直してもやはり壁。穴が空いてすらいなかった!

 ……どんな理屈だ!?

 

 「……何、あれ?」

 

 フィーの疑問に答えられる人間も、やはりこの場には居なかった。

 見えざる迷宮の手による『改造』が、完了する。

 

 ゆっくりと、動き始めた。

 ガーゴイルに跨って見えるのは、甲冑。

 巨大な背中の動きを邪魔しない様に取り付けられるは鞍。

 地面に突き刺さっていた岩塊が研磨されるように一瞬で形を変え、無造作に振るわれる両刃の剣に生成される。

 そして背中に乗った石像が、胴体を構成。巨大な剣を、岩の腕が握りこむ。

 

 ゴオオオオッ!! とガーゴイルが吼えた。

 そして、吼えあがる守護者の上に()()()()

 首のない騎士が、片手で剣を握り、もう片手で鞍上から手綱を握る!

 

 私達は呆気にとられていた。

 現象もそうだが、敵の変化にも驚いていた。驚く以外の、咄嗟の判断が出来なかった。

 だが。だが、それが姿勢を整え、此方を見た瞬間に、肌がぞわっと逆立った。

 

 「あ、あれ、や、やばい……!」

 

 先までのガーゴイルとは、比較にならない。

 強さが跳ねあがった。

 

 仮に、この旧校舎全てを把握している者が居たならば理解しただろう。

 背中の首無し騎士は、大きさこそガーゴイルに合わさっているが、地下4階の守護者:オル・ガディアに瓜二つである……!

 

 「まさか――」

 

 エマが、私の隣で、小さく呟いたのを聞き逃さなかった。『私のせい?』と。

 言いたいことは分かった。

 

 《魔女》が目的をもって学院に来たならば、彼女にこの場所が反応したという可能性はある。

 あるいは彼女と、()()()()()()()()()()()()()()。それは、あるかもしれない。

 だが――それが何だというのだ!

 彼女を責めて、この状況が綺麗に終わるはずもない。

 

 そして私はさっき約束をした。

 彼女が何であっても、それで彼女との友情を結ばない理由にはならないと……!

 それは、この責任を彼女だと追及する理由はない、と、そういう事だ!

 

 「か、考えるのは、後……!」

 

 小太刀二本を抜き出し()()()

 フィーは身を小さく屈め、今にも飛び出しそうな臨戦態勢だった。

 リィンは当に抜刀し、気合を込めて対峙している。

 私と、フィーと、リィンとが、マジになった。

 

 『場を仕切りなおせるか!? いざという時に、逃げられるか!?』と思って背後を見る。

 巨体な分、狭い通路には入ってこられないのではないか?

 ご丁寧にも結界が展開して部屋から逃げることは許されそうもなかった。

 

 ――さては相当性格の悪い奴がボーナスをのっけたな畜生め……!

 

 悪態を吐く。

 だがやることは決まっている。

 逃げられないならば、立ち向かうしかない。

 正直に言おう。倒しきれるかは分からない。

 だが逃げられないなら未練がましく逃げる方法を探す余裕は、この相手には無い!

 

 「行くぞ……!」

 

 リィンの号令と共に、私とフィーは駆けた。

 これが試験だというならば、越えるしかないのだ!

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「――ォオ!」

 

 リィンの制服と黒髪が風圧で揺らぐ。

 猛烈な勢いで振り下ろされる岩剣をリィンが紙一重で回避したのだ。

 

 だが下がることは出来ない。下がるというのは背後に無尽蔵の距離があるから出来る事だ。

 だが、敵の行動と同時におかしな『結界』があって通路側には逃げられない。

 下手に下がると追い詰められる。リィンも私達もそれを悟っている。

 

 「ダメだね。外には出れない。結界は破れない。悪いけどリィンそのまま耐えて。出来る限り妨害はこっちとカタナでするから。下がると揃って()()()()になるよ」

 「ぞっとしないな! 頼んだ! 俺は此処で出来る限り抑える!!」

 

 フィーが素早く戦場を走って状況を把握。出口に向かったが結界の外には出られないとのこと。

 ならば今は耐える戦略しかない。肉を切らせて骨を断つのも無理だ。

 相手が固すぎる。このメンバーで数が減ったら、順番になます切りになって終わりである。

 どっちにせよ誰も脱落しないように戦うしかない。今暫くは!

 

 「手数が――多い!」

 

 リィンは必死に、その場で攻撃を凌ぐ。

 剣を回避したところで、攻撃は止まない。何せガーゴイルには爪と翼と顎とがあるのだ。尾が届かないだけマシだが何の気休めにもならない。翼から放たれる風圧で姿勢が揺らぎ、回避した瞬間の隙を顎が追撃する。リィンを追って左に延ばされたガーゴイルの首を、私とフィーが狙う。

 だがそれは首なし騎士の籠手に防がれる!

 そして相手の剣が、此方に振り下ろされる!

 床を軋ませるような一撃で砂煙が舞う。

 埃を払いながら、私とフィーは、甲冑を見た。

 

 「……固い。速い。重い。厄介な相手。火力が足りない。……面倒くさいとか言ってる場合じゃないね」

 「き、気を散らせてるだけでも十分だと思お、う。……フィーさん、リロードしておいて。その間に時間は稼ぐ。……久しぶりだけど出来る、はず……」

 

 倒せないけど、時間は、稼がないと。

 体に染み込ませた技を、振るおうと前に出た。

 

 ――出来ないなら、やってみればいいんじゃないか?

 

 その言葉を聞いていたから、やってみようと思った。

 あんな風に助言をしてくれた人を、放置なんか出来ない。

 

 必死の形相で刀を振るうリィンを援護するように、前に出る。

 前に出ながら、首無し騎士を誘導するように、右、左、右と反復横跳びの要領で、跳んでいく。

 相手が此方に合わせて、微かに動いているのが分かった。

 どうやって視認しているのかは知らないが(甲冑にセンサーでも付いてるのだろうか?)私に合わせて微かに左右に動く。リィンにはガーゴイルの頭だけに専念してもらおう。少しは休憩させなきゃ不味い。

 では――少し――頑張ってみよう。

 

 「鬼さん、此方……手の、鳴る、方、に……」

 

 口ずさみながら、力を抜く。

 脚を振り、歩き方を変えながら、速度を上げる。

 

 騎士が動いた。

 右、左、右という私の動きから先を予測し、その先を予測し、剣を斜めに振り下ろす。

 その振り下ろされた先は、私が脚を置こうと思っていた場所。

 

 ――手強い。

 ――私は、速度を上げる。

 

 私の視界、私へと向かって迫る刃は、刺突ではなく、斬撃。

 幸いにも刃ではなく峰の部分だが、命中すれば骨と内臓が潰れてアウト。

 細かく動く速い奴には、範囲攻撃が有効だと、向こうは知っている。

 

 ――私は、速度を上げる。

 

 そして今のあれは、範囲攻撃が得意なのだ。

 敵はガーゴイルに()()()()()。つまり回転軸が2つあるのだ。

 首無し騎士が横に薙ぎ払っても、その状態でガーゴイルが回転すれば、二連続。

 逆も然りだ。一撃目が時計回りの斬撃だったとしても、ガーゴイルが反時計回りに動けば?

 そう、一瞬前に回避した、右から左への斬撃が、即座に左から右へと戻って来る。

 多少の動き、死角へ回り込む動きは防がれてしまう。

 

 ――加速する。

 ならばどうしようか? 頭の中で獲物を仕留める理屈が組みあがっていく。

 

 ――加速する。

 相手の薙ぎ払いの高さが絶妙だった。膝より少し上。

 下手に跳躍すれば落下までに刈られる。

 伏せても立ち上がる前に刈られる。

 ならば、方法は、一つ。

 

 ――成功、してね……っ!

 

 だから私は、それに突っ込んだ。

 

 「………っ、!」

 

 最後の一歩で『使った』。

 加速しきった身体の勢いを、足に伝えて。

 体を低くする。それは「屈む」のではなく、前に倒れこむような動きだ。地面に胴体がつくよりも早く脚で床を蹴る。踵で地面を押し込み、浮き上がる胴体を腹筋で押さえ込み、目指すはガーゴイルの腹の下……!

 

 ――伏せてダメなら。

 ――限りなく身体を低く伏せたまま、走る……っ!

 

 ビシッと腰から嫌な響きがした。やっぱりキッツイ!

 後日フィーに確認したところ、彼女は言ってくれた。

 

 『ふらふら滑るように前進したと思ったら、気付いたら一瞬で相手の中に潜り込んでいた』。

 

 過程は分からずとも、行動の結果は向こうに伝わったようだ。

 成功した、ならば、良し……!

 

 「カタナ、腹にしがみ付いたのか……!?」

 「リ、リィンさん、正解……。此処ならば、こ、攻撃は受けないからね……安全圏――」

 

 残念ながらガーゴイルにしがみ付いている今、両手が使えないので武器攻撃は出来ない。

 だがその分、魔法が、使い放題だ。

 意図を悟ったガーゴイルが暴れるが、悪いね。流石にここで失敗するへまはしないよ!

 

 「ARCUS発動――《ニードルショット》」

 

 一瞬の後、地面が盛り上がり、ガーゴイルの腹を強烈な勢いで貫いた。

 続けざまに連射する。ARCUSが放熱で動かなくなるまで連射する。

 

 どす、どす、どすと鈍い音が連続――()()()

 命中はしたが、ドシャドシャ(土砂土砂)ッと砂が砕けるような音!

 これはガーゴイルが固いのではない。

 私のアーツ適性が低いが為、ニードルショットが泥団子にしかなっていないのだ。

 

 「ちゅ、注意を引くのが、狙いだから、これで、良い……!」

 

 腹の下から泥団子を連続で叩き付けられるから、だけではない。

 飛び散った土と砂は、散乱し、ほんの僅かだが周囲の視界を塞ぐ。

 相手が苛立ったのが、分かった。

 

 ――ゴォァアアアアアッ!!

 

 そして素直に、暴れた。

 暴れるだけならいいが、四本の爪で地面を掴むと、四肢の力を抜き、そのままの勢いで私を潰さんと全身プレスを仕掛けてきた!

 無論それは回避しないと圧死する。するので転がってガーゴイルから抜け出た。

 首無し騎士が私に追撃をするが、それには妨害が挟まった。

 銃声が響き、その隙に先程の位置に。真横では、再装填を終えたフィーが、銃を構えている。

 

 「っとと、流石にしんどい、な、これ……」

 「速い。カタナ。やるね」

 「あ、ありがと。援護、助かった」

 

 バックステップで着地するが、勢いが付きすぎて後ろに倒れこみそうになった。

 がくりと膝が落ちる。何とか成功させたが足に来ている。

 久しぶりすぎて腹から踵までの筋肉が熱い。

 

 ――二回目は、無理、かな……。

 

 状況は劣勢も劣勢だ。何が辛いって相手の手数を防ぐので精一杯。

 フィーも私も耐久性はそんなに高くないから回避に神経を使わねばならない。

 

 鍛えてある事とタフネスがある事は違う。骨密度と筋密度ではどうしたって男子に軍配が上がるし、単純な力比べなら私達はクラスで下の方。一撃を受ければ行動に支障が出てしまう。

 

 さっきのような方法は何度もできる筈が無い。私もやりたくない。というか出来ない。

 最前線のリィンが只管に太刀で相手の攻撃を耐え、私達はリィンへの致命的な一撃を妨害し、こちらへの攻撃を回避し、その隙にエマが全力で皆に回復魔法をかける。この繰り返しだ。だが回復魔法でも回復しきれない物はどうしたって出てくる。

 

 エマ自身のエネルギー。戦術オーブメントの損耗。こちらの集中力。そうした体力以外の要素が確実に、私達を追い込んでいく。このままならば負けるだろう。遅かれ早かれリィンは一撃を受け、エマの回復が追い付かなくなり、私とフィーは逃げ回るだけになる。

 このままならば――。

 ()()()()()()()、ね。

 

 「風よ、穿て!」

 

 当然も当然、このままのハズが無い。

 

 「リ、リィンさん……! 時間稼ぎは終わった! 皆が、間に合った!」

 

 背後から駆けよってくる足音。その音の数は6つ……!

 張り合っている男子二人の、相変わらずの会話は聞こえていたが、そんな状況でない事は把握してくれたらしい。互いに罵声を浴びせながら、それでも引き下がらずに戦場に飛び込んで来てくれる辺り頼りがいがある男子達だ。

 

 「は、入ると広間から出られない! 回復した上で飛び込んで!」

 「承知した! ――あれが敵か――! 行くぞガイウス殿!」

 

 おお、という呼応と共に風が吹いた。

 槍だ。槍の切っ先が、真っすぐに空間を貫いた。

 切っ先を、狙って動く的に当てるには相応の技量が求められるが、彼はそれを成功させた。

 空間を真っすぐに穿つ衝撃がガーゴイルの頭に寸分違わず直撃。その勢いは、リィンへと向かっていた首の軌道を強制的に曲げさせる。

 首が頭ごと流れた一瞬で、リィンは反対側――ガイウスの近くに転がって距離を取る。

 

 同じタイミングで大質量が、物凄い勢いで飛んできた!

 青い髪と青い剣、その両方が、地面に響く踏み込みの後、加速と共に首無し騎士に向かう。

 その威力たるや!

 気持ちいい程の両手剣によるスイングが、騎士に直撃!

 ガイウスの一撃と合わせて上下両方にダメージを受けた二体は、衝撃と共に大きくバランスを崩して広間の壁に叩きつけられた……!

 

 朦々と巻きあがる粉塵で視界が閉ざされる中、私はやっと息を吐いた。

 とりあえず、体勢を立て直さなきゃいけない。

 ……流石、火力がある奴らは違う。

 

 「これが言わば最終問題という事か! 随分と手強い相手を用意してくれている!」

 「……半分くらいサラの想定を超えて敵が暴れてる気がするけどね」

 「そ、れは今言ってもしょうがないよ、フィーさん。……フィーって、呼んでも、良い?」

 「ん。良いよ」

 

 意気軒昂と眼を輝かすラウラ。驚く他の皆。敵のレベルと、多分ラウラの武力と覇気に対する物も含まれていそうだ。流石は新入生最強、アルゼイドの娘である。

 

 目の前の怪物を見て、私が飛ばした忠告を無視し、迂闊な真似をする人間は居なかった。

 道中で回収したアイテムまで使って、万全になった状態で皆が入って来る。逃げられない時から類推していたが、結界の外部から攻撃や魔法は使えないらしい。

 リィンの消耗に対して慌ててエリオットが《ティア》を追加で唱え、ユーシスはフィーに、マキアスは私に、薬をパスしてくれた。感謝だ。

 

 即座に使用。体内の血流が勢いを増し、熱が吸われるように消えていく。

 また『使う』と負担になって、今度こそ動けなくなる。あれは鍛え直すまで封印だ。

 がらりと瓦礫を押しのけ、動き始めた怪物を見て、ガイウスが状態を口に出した。

 

 「それなりにダメージが通ったと思ったが……回復しているのか。確かにアレの体を構成する素材には困らない場所だが」

 「ああ。しかも下のガーゴイルと上の鎧騎士で行動が違う。2体を相手にしてると思ってくれ」

 「リィン、其方は良く一人で耐えきったな」

 「他3人の援護のお陰だ。俺一人じゃ確実に負けてたよ。それに皆が来てくれると信じていた」

 

 分析したガイウスが槍を構えなおし、ラウラが感心し、リィンが謙遜した。

 

 頼れる前線組にトップを任せ、私はフィーと共に横に広がる。

 前衛をリィン達に任せ、後衛を射撃組と魔法組に任せ、今回で言えば相手の対策にユーシスも白兵に回した方が良いだろう。私とフィーはやっと万全の姿勢で遊撃が出来――。

 

 そこで、気付いた。

 いや、やっぱりヤバイよ、この状況。

 

 同時に、粉塵の向こうからガーゴイルが飛びかかってきた!

 激しい衝突音が広間に響く。

 ガーゴイルの突進をガイウスが止め、追撃する下の首と顎をリィンが止め、騎士の剣をラウラが止める!

 刀、槍、大剣。それらが重なって敵の進撃を食い止める。その組み合わせはまるで壁。まず破れない!

 

 だが問題は、守りではない。

 攻めだ。

 

 (……こ、この面子、後方から指揮できる奴が、居ない……!?)

 

 リィン、ラウラ、フィー、私。あの動きぶりなら(狩猟経験があると語っていたし)ガイウス。

 ある程度の『実戦経験』がある奴が、揃いも揃って近接戦闘型だ!

 ユーシスならワンチャン、コマンダーが出来そうだが、悲しいかな……マキアスが居る状態で指揮任せてもどっかで皺寄せが生まれる。この状況で不和を生む可能性を投げ入れるわけにはいかない。それに。

 

 「ユーシスをバックアップに回しても、出来る事が少ないか……!?」

 「渡されたばかりのARCUSでは碌な魔法が使えなかろう! この敵を相手に白兵戦をするならば! 私を! 含めて! 4人欲しいぞ!」

 

 揃ってリィンとラウラが言ってくれた。

 基本だ。相手の手数を防ぐにはこっちの手数がないといけない。よほどの化物(1人で無双出来る奴らの事。カシウス・ブライトとか)でなければ相手より多数で戦うべきなのだ。

 そして私とフィーでは妨害は出来ても壁役にはなれない。

 攻撃を受け止めて味方を守るだけの、耐久力と体力。ラウラやガイウスみたいに真正面から戦える奴じゃないと【壁】――後衛の皆を守る盾にはなれない。

 

 重い攻撃をラウラとガイウスが止め、軽い攻撃をリィンとユーシスが止める。

 守るだけなら今なら十分な余裕があるが、攻めるとなるとそれが必須だ。

 

 それで初めて、遠距離組と私達妨害組が、安心して行動が出来る。

 

 後衛組は、戦闘経験が、無いのだ。

 冷静に、落ち着いての行動が、出来ないのだ。

 後衛組が経験豊富なら状況は全く変わって来る。

 『移動しながら攻撃』『自分で適切な距離を把握して位置取りをする』『走りながら味方を援護』その他色々を判断できる。それらの経験がある奴が居ない。

 だから誰か一人、指揮官が欲しい。

 

 更に言うならば、強化魔法や回復魔法は、後衛組の攻撃以上に必須。

 前線の皆に頑張らせるためのバックアップが切れたら、それはそれで如何しようもない。

 もう攻撃魔法は最低限にして、全力で回復にリソースを注いで良いくらいだ。

 

 ――今のARCUSじゃ、大したアーツ、使えない、し!

 

 手に入れたばかりでスロットも殆ど未開封。

 そんな状態でアーツを使うより、直接、物理に走ったほうが早い。

 

 オーブメント機能のバージョンアップを進めるのは良いけど!

 せめて旧式との互換性を保って欲しい!

 毎回スロット開けるの大変なんだぞ!

 これは誰しもが少しは感じる偽らざる本音だ!

 

 「ユーシス! 手伝ってくれ!」

 

 リィンは即座に呼びかけた。考えるよりもまず防御を確実にする判断は正しい。

 大貴族の子弟相手に躊躇うことなく言えるのも、彼の才能が為せる技だ。

 果たしてユーシスは、ふんと軽く息を吐き、しかし次の瞬間には躊躇なく駆け寄って、鎧騎士に一撃。お手本のような斬撃が決まり、相手は一瞬だけ怯んだ。

 そしてリィン達に並び、剣を構える。様になっている。

 

 「助かる……!」

 「構わない。それで、次はどうする。俺は後衛を信頼できないが?」

 

 彼も状況は把握していた。

 言外にマキアスにコマンダーを任せるのは嫌だと告げ、同時にアリサやエマ、エリオットでは頼りにならないと告げる。どれもその通りだ。

 前線が頼れるから逃げ腰でこそないが、流石に初めてボスを見た時の動揺、混乱は収まってきていない。表面上は戦えているとは言え、緊張しているのが良く分かる。

 

 (これがガーゴイルだけなら簡単だったんだけどね……!)

 

 ガーゴイル単体ならば、白兵が2人か3人居れば手数を抑え込める。

 体力もそこまでは無い。多少混乱していても建て直せる。

 だが今は、余力がない。

 

 単純に1体が2体に増えたのではない。

 「視界」と「範囲」が全然違うのだ。

 例えばガーゴイルが単体の場合、己の下半身や踵を目で見ることは出来ないし、背中の上、頭の後ろなどを守る術を自身で持っていない。

 

 だが今、ガーゴイルと首無し騎士は、視界を共有していない。

 要するに、互いの弱点をガーゴイルと首無し騎士が補い合い、敵2体が連携して戦ってきている状態だ。ならそれを越えるには、それ以上の連携が必須。

 

 「カタナ、其方は出来るか!?」

 「い、今は、む、無理! 皆の事を、知らなすぎるし! わ、私は自分の『道具』に躊躇しないから、へ、下手に指揮官を任せると『後で蘇生させるから特攻してね』とか、言うよ」

 「うむ! それは困るな!」

 

 私の言葉を笑って受け流したラウラだった。

 冗談に聞こえたんだろう。冗談ではないから困る。

 もうちょっと互いの技や力や呼吸を把握できれば兎も角、今は、無理です。

 

 同じ目をフィーに向けたが、フィーも無言で首を振った。

 援護や連携は得意な猟兵とはいえ、彼女が味方に指揮をする経験は無かったと思う。

 猟兵の最上位格というのは頭がおかしくて、それこそA級S級遊撃士に匹敵する奴らもゴロゴロいる。しかもクラウゼル――『西風』だ。一騎当千のベテランが集う組織で、彼らをコマンド出来る才能があったら、最初からそう動いてくれているさ。

 前衛組は敵の攻撃を耐えながら、暫し目で会話をし、ユーシスが忌々しそうに吐き出す。

 

 「不本意だが、あの男に任せるしかないか……?」

 

 前線組だけに聞こえるような声で吐き出した。

 ユーシスにも妥協があったのだろう。

 それでも最も生存確率と効果が高そうな提案を、彼がした、その時だ。

 

 ――ARCUSが、輝いた。

 ―― 一瞬で、()()が広がっていった。

 

 その瞬間の、その開けた世界を、繋がった世界を、私はこの先、忘れない。

 

 ――勝てる。

 

 思うと同時に、リィンの号令が広間に響いた。




Q:カタナのステータスは?
A:SPD(行動速度)、AGL(敏捷度)、MOV(移動力)はフィーと同じくらい。
 一方、ATS(魔法攻撃力)はぶっちぎり最下位。ティアを唱えてもガイウスの半分以下の効果しか発揮しないという悲惨なレベル。素直に薬を使いましょう。
 幸い行動が速いのでアイテムラヴァ―にはなれます。その他ステータスはまたの機会に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。