毎日暑く、何かと大変な毎日が続いています。
読者の皆さんも、健康に気を付けて、頑張りましょう!
《黎の軌跡》は予約しました。
リメイク《那由多の軌跡》もプレイ中です(PSPでは全クリ済み)。
本当はもっとサクサク更新したいのですが、自分で納得できるラインにするのが大変ですね。
今後とも宜しくお願いします。
では、どうぞ。
まがりなりともクロスベルの権力者の席に座っていた人物だ。
悪党だったとしても、悪党なりの格好良さというか、筋のある強欲を持っているのではないか、と思っていた。自分の利益のためならば、何でもするような、そういう、ある種の強さ、
……そんな予想を大きく裏切り、ホガース元警察局長とプレストン元警備隊隊長は、酷かった。
なんかもう、頭が痛くなるくらい、駄目人間だった。
色々な駄目な大人を見てきた私だが、ここまで駄目オブ駄目と評価する相手は、初めてだ。
「つまりお二人は、どこかの懇親会で話した記憶だけはあると」
「それが何か問題があったかなぁ」
「ね。会場は盛り上がったよ。中々いい仕事をしたんじゃないかな?」
互いに「ねー」と頷きあう男が二人。
これで外見が愛らしい少年少女や見目麗しい女性ならば絵になっただろう。
しかし小太りの中年男性同士でやられても、気持ちが悪いだけである。
「……お二人は、情報漏洩という言葉をご存知ですか?」
「いやいや、だって僕らはもう役職解雇されて、今はこの会社の専務だからねえ」
「そうそう。それにあんな程度の話、何も役に立たないだろう?」
「――警察資料です。……罷免された時に、口外しない旨の誓約書を書かれた筈ですが」
流石に頭が痛そうな顔のロイドさんだが、それでも丁寧に質問をしている。
正直、数発ぶん殴っても良い気がしたが、彼らは(一応)ここの会社の役員だ。それは不味い。
「書いた気もするけど……。内容忘れちゃったな……」
「そうそう。よく分かんなかったし。だから良いかなって」
「良いわけ無いでしょう……」
ロイドさんが、自身に『落ち着け』と言い聞かせているのが分かった。
この眼の前の二人が、悪意を持ってやっていたのならば、もっと素直に怒りを出せたのだろう。
だが……酷い。酷すぎる。自分らの行いを理解していない。行いがどんな結果を齎すかが見えていない。
無能な働き者が一番邪魔だというが、まさにそれ。
そりゃ政治家も、コイツラを据え置いておくよ。
だって座ってるだけで健全な組織運営の邪魔が出来るもん。自浄作用消えるもん。
「では、その内容を話したのが何時だったのか……。出来る限り正確にお願いします」
「割としょっちゅう話してるよね?」
「そうだね。あーでも毎回同じ話だと飽きられるからねぇ。多分一月以内かなぁ」
「――場所は」
「ミシュラム……だったっけ?」
「だった気がするねぇ」
ぜんっぜん頼りにならねえなこの大人ども!?
私でも思わず絶句していたのだから、嘗ての部下だったロイドさんは言わずもがな。温厚な彼の頬が、若干引きつっていたのは、見間違いではないだろう。
ユウナに至っては何も言えない状態、オーバーフローだ。
だがしかし、それでも辛抱強く聞き取りを行い、何とか正確な情報を入手したのである。
○ ○ ○ ○ ○
「信じられません! 本当にあの人達、警察署長と警備隊の司令官だったんですか!?」
「事実なんだよ、それが」
終わった後、我慢していたユウナが叫んだ。
全くの無関係な私から見ても酷い。他の形容詞が浮かばない。語彙が死んだのは許せ。
憤慨する彼女を宥めながら、ロイドさんが小さく頭を下げる。
「……捜査へのご協力、ありがとうございました」
「あら、お気になさらず。クロスベルの治安維持に協力するのは市民の義務ですから」
にこにこと社交的な笑顔を見せる少女が座っている。
ベンチャー企業《エルフェンテック》の女社長:リーヴさんだ。
年齢的に舐められないためか、表向きの業務は秘書のサーシャさんに任せている様子だが、この騒動は直々に顔を出し、協力者アピールをしている。
割と面の皮が厚いらしい。
「参考になりましたか?」
「……要件は済みました。遅い時間に、ご迷惑をおかけしました」
「あの、リーヴさん、なんであの二人、雇い入れたんですか!?」
ロイドさんの話が終わったところで、ユウナが切り出した。
民間人の協力者でしかない私とフィーは、ロイドさんの確認を黙って聞いていただけだ。
因みにユウナは『ちょっと真っ直ぐ過ぎて話が複雑になる、絶対に口を挟まないように』と念押しされていた。
……黙って聞いていたからこそ、会話の酷さがよく分かったのである。
質問に対して、女子供社長リーヴことリーヴスラシル嬢はこう答える。
「え? だって人脈だけは豊富だし、接待の技能は高いじゃない」 と。
余裕の口ぶりだった。
「あの二人に商売人としての才能なんか期待してないわ。交流窓口として設置しておけば、良い儲け話を引っ張ってこれると思ったから雇ったの。実際、ATMくらいの才能はあるのだもの」
「だからって……!」
「ユウナ、落ち着け。ここで大声を出しても迷惑になるだけだ。……企業の経営方針に口を出す権利は無いから。……失礼しました」
ロイドさんの言う通りだ。
とはいえ、思うところはある。
……リーヴ社長はどうやら、知識と手腕は確かだが、人の心にはまだちょっと疎いらしかった。
ミラで動く奴は、それ以上のミラを提示されると容易に反旗を翻す。
フィーも、元猟兵だけあってこの辺をよく知っていた様子だが、何も言わなかった。
リーヴさんは、どっかで手痛く、あの2人の愚かさに巻き込まれそうだが……まあ、それは私らが関与するところではないな。
会社を経営している時点で、彼女の才能は非凡だと分かる。
欠点がない人間は居ない。
詰めの甘いところを、秘書さんがフォローしていくというのも、一つの方針だ。
「……あ、私からも、一つ」
ロイドさんが退室手続きをサーシャさん(リーヴさんの秘書だ。眼鏡だけど怪しいところは全く無い)と進めている間、聞きたいことがあったので、こっそりと話しかけた。
……四月から気になっていたんだよ。
この距離では見間違えない。どっかで見たことあるという判断は、間違っていなかった。
「レミフェリアのリーヴスラシル公女ですよね?」
「な、何の話かしらね?」
問いかけに、彼女は目線を逸らしてすっとぼけた。
いや、ごめんなさい。嘘を吐くのは、流石に私の方に分があります。見破れます。
彼女は現レミフェリア大公――つまりアルバート大公の姪にあたる人物だ。
そんな彼女が何故クロスベルでベンチャー企業を経営しているのかは、さっぱりだが。
「じゃあ、リーヴスラシル公女によく似た社長さん。ちょっとお願いが……」
「……ミラの話?」
「まさか」
来る途中、ロイドさんから資料(勿論、公開OKな奴)を見せてもらった。
この《エルフェンテック社》。かなり悪どい稼ぎをしているらしい。
《教団事件》で、このIBCビルが現場になったとは、ユウナから聞いている。
このリーヴスラシル様、IBCビル前で『特務支援課』の皆さんが警備隊と戦っている間、それを窓から眺めつつ導力ネットワークで株を弄って荒稼ぎしていたというのだ。
いや経営者としては間違っちゃいないけどさ……。
社長として好機を逃さないのは当然なんだけどさ……。
一市民が戦いに介入しても邪魔なだけだから判断としては正しいんだけどさ……。
随分と、肝が太いというか。図々しいというか。博才がある人だ。
さておき。お願いをしてみる。
「わ、私、レミフェリアの家具とか医療機器とか、愛用していまして……メーカーの紹介とか、して頂けないかなと」
「なんだ、そんなこと?」
いやいや、大事なこと。
入学式から研修中まで、ずっと相棒にしているトランクもレミフェリア製である。
武器に使うワイヤーなんかもレミフェリア製。特に後者は重要だ。損耗率が高い私にとって、質の良い品を低価格で入手するのは大切。
名刺を貰う。これで少しは資金を温存できるだろう。
「では、お邪魔しました。また、ご縁があったら」
「……私からも最後に良い? 貴女も、身内の方、レミフェリアに住んでない?」
「あの人が何か?」
「……いいえ。なんでも」
一瞬だけ見せた、私の顔に、リーヴさんは息を呑んだように首を振った。
うん。それで良い。貴女が自分の正体を表にしたくないように、私にも触れたくない母はいる。
どうでもいい人間の話題を出されても、面倒なだけだ。
かくして《エルフェンテック社》への訪問は終わったのである。
○ ○ ○ ○ ○
「……《エルフェンテック》はまだマシな企業だ。少なくとも《ルバーチェ商会》や《黒月》に比較すれば、ちょっと強引なだけで、違法行為をしているわけじゃない。――そんなマシな企業でも、強かで、一介の警察官が相手をするには『壁』なんだ、このクロスベルでは」
「だから私に見せたかったと」
「そうだね。勿論、今は警察が……自浄して、信頼を取り戻しつつある。でも他国からのパワーのほうがずっと強い。クロスベル全体が一丸となっても届かないくらいに」
ユウナへの社会勉強も兼ねていた、ということか。
IBCビルから出て、港湾区へと歩きながら、ロイドさんは諭す。
「だけど、その怒りは……苛立ちは、間違いじゃない。現実を前に歯噛みして、悔しいと思うのは俺も一緒だからね。さっきの二人みたいに――
「……分かりました」
と、ここまで話したところで、さて、と話題を切り替える。
爽やかな笑顔を口元に浮かべながらも、目の中に確かな火を燃やしていた。
聞き込みで消耗したエネルギーが、回復したらしい。私達にも気合が再度、充填される。
「と、堅苦しい話はここまでだ。ユウナ、話を聞いて思いついたこととかはないかい?」
「私ですか? ―― ええと、ロイド先輩が気付いてることで?」
「いや。……俺はある程度、今回の事件の概要を把握している。でも、ユウナは、まだ一度情報を聞いただけだ。だからこそ、皆が気付かない『何か』に気付いたんじゃないかと思ってね」
「ええっと……。……ううーん……」
私達も一緒に考える。
顎に手を当て、頭を働かせる少女が三人。
暫し悩んでいた後、ユウナはぽつり、と呟いた。
「……お金持ちじゃない気がします」
ほう、と意外そうな感嘆が来た。ロイドさんからだ。
「――理由を聞こうか。ミシュラムでのパーティで、あの二人が吹聴したならば、参加者……かなりの資産を持っているか、身分が高い人が、計画を立てたと考える方が自然じゃないか?」
「それはそうなんですけど……さっき、話してましたよね。何度か話題にしているって」
「そうだね」
「だから、ただ社交界に顔を出してる人が実行犯なら、タイミングに違いが出るんじゃないかなって。千秋楽より、もっとやりやすい日、ありましたもん」
ユウナの指摘に、ロイドさんは少し考え――「なるほど」と頷いた。
彼は、犯人が、権力者ではないかと考えていた様子だった。
「ディーター市長は、州の腐敗を一掃する宣言を出していた。マクダエル議長も同意している。加えて《ルバーチェ商会》が潰れた今、誰かが……逆転を狙って行動するには良いタイミングだ」
「捜査一課も忙しいからですか」
なるほど?
ロイドさんは、昨今の情勢を知っていたが故に、そっちに思考が引っ張られたと。
何も知らないユウナを連れてきて整理させたのは正しい判断だったのだろう。
「取り敢えず少し手配をしておく。……カタナさん達も、なにか気付いたことがあれば」
「……ミシュラムのパーティに参加して……。でもしょっちゅう顔を出す、権力者や資産家と言うほどの立場ではなく……、《アルカンシェル》に入り込んで暗躍する……」
ロイドさんが何処かに連絡を入れている間、私は思考を巡らせる。
しかも……予告状には、新作公演を中止する要求まで乗っていた。
その対象がシュリちゃんとなっているにも拘わらず、襲われたのはベリル。
ベリルが襲われたのは
何かがずれている。
頭の中で、何かが引っかかる。
それを形にする前に、導力器が鳴った。
電話を終えたロイドさんが、再び通話に出る。
「ロイドです。……ああ、スコットさん。何か分かりましたか」
『色々調べてみたんだが……《銀》の侵入経路の推測がたった。聞いてくれ』
私達は、一斉に声に注目した。
○ ○ ○ ○ ○
劇団《アルカンシェル》の一室で、スコットは通話を続ける。
スタッフらには個別行動を取らないようにしっかりと言い含めてある。ヴェンツェルが絶えず気を配り、これ以上の侵入者が出ないように哨戒中。今の所、第二の襲撃が起きる気配はない。
彼の傍らには、アバン団長とバルサモ支配人の二人が居た。
「まず、観客の中に《銀》が変装していた可能性は低いと判断した。知ってもいる通り、今日は千秋楽だ。そこで、やってきた観客全員に、バルサモ支配人が握手も交えて挨拶している。その目を潜り抜けた可能性は勿論ゼロではないが……」
「はい。全員、至近距離ではっきりと顔を見ました。勿論、エカターニャさんらの顔も覚えています。見に来て下さったお客様のほぼ全員、身元の確認が済んでいますし……」
「さっきミシェルからも連絡があった。誰かが入れ替わっていた、という可能性は低そうだ」
マインツ方面から戻ったヨシュアとエステルの2人が、観客らの家を速攻で駆け回ったそうだ。
勿論、国外から来た客に変装し、支配人の挨拶を潜り抜けたという可能性はゼロではない。
が、ゼロではないだけだ。
少なくとも他に追うべき本命の推理があるなら、そちらを考えるべき。
『つまり外部からの侵入ですか』
「……どうも、それも違うらしい」
『? 流石に、人目を忍んで入り込むくらいは、出来ると思いますが……』
事情を聞いたほぼ全員が、そう思っていただろう。
得意不得意、発見されやすいされにくいの差はあれ、A級遊撃士ともなれば、《アルカンシェル》に入り込むくらいは出来る。
ヨシュアさん自身も話していたことだ。
《銀》の熟練度を考えれば、難しくはない。
「ヴェンツェルが調べた結果、侵入ではない、と結論付けた。……実は彼、元々帝国の遊撃士協会に所属していてね。少し前にテロ事件で閉鎖されてしまったが、その教訓を活かしてる」
『ふいっきゅぅ!?』
「……なんか今変な声がしなかったか?」
『ああ、聞いていたカタナさんがちょっと噎せたんです。すみません、続きを』
「室内への潜入ルートから地下まで、アイツらしく徹底的に調べたが、入り込んだ気配が無い。……となると」
スコットは、部屋の中を見回した。
支配人と団長、二人と改めた室内には、包装紙が広がっている。
その中には少々小さくはあるが、トランクよりは大きな箱も幾つか見受けられていた。
「……多分、荷物や贈り物と一緒に入り込んだんじゃないかと考えた」
『――なるほど。だからベリルさんが』
彼女が襲われたのは、ただのついでではない、ということだ。
荷物や土産に紛れて入り込む。公演後、人が居ない瞬間を見計らい外に出る。
そんな中、ベリルがクッキーの差し入れを取りに来た。だから襲われた。
「大凡、正しい推測だと思っているよ。……ただ、違和感がまだ残っていてね」
『と、言いますと』
室内に散らばった――散らばりすぎた、土産の残骸を観察して、続けた。
○ ○ ○ ○ ○
「紙が多い、ですか?」
『ああ。まあ……《銀》が音を消すために、緩衝材として多めに箱に入れていたなら分かるんだが……』
ちょっと多すぎる気がする、と。
……引っかかる。
紙が多いことが、ではない。
何か――その事実こそが、見て見ぬ振りをしているのではないかと、突きつけられる感覚だ。
頭の何処かが痺れるような、何処かに反響するような、じっとりとした予感。
なんだろうか。
(……まさか……)
マリアベル・クロイスは私に言っていた。
もう気付けるのだ、と。
心臓の鼓動が激しくなる気がした。
『ともあれ、もう同じ手は使えない筈だ。《アルカンシェル》の護衛は引き続き行う。ミシュラム方面に行くなら気をつけてくれ』
「分かりました。ありがとうございます」
「ロイドさん。でもミシュラムって……」
その会話で、意識が引き戻される。
そうだ。今は、方法を考えないといけない。
ヨシュアやエステルらの話からしても、《銀》がミシュラムに身を隠していることは間違いないのだ。
「……船はもうありませんよ? 明日までは流石に」
「大丈夫だ!」
ユウナの疑問に、即座に答えるロイドさん。
なんというか、まじで切り替えが早い。
切り替えが早い……ではないな。
「ものすごく……しつこい」
「それ!」
「ちょっと二人共!言い方ぁ!」
ユウナが待てい!という顔をした。
いや、これ褒めてるんだって!
フィー、ナイス。
変な方向に引っ張られそうだった私の思考も、切り替わった。
観察に回っていたフィーだが、ロイドさんやユウナとの会話は見ていて楽しかったのだろう。
言葉にすればちょっと悪いが、面白いという感想が籠もっていた。
「あ、ええと、悪い意味では、ないんです。次から次へと、諦めない姿勢が、逞しいなと」
「数少ない取り柄だからね」
ちゃんと褒め言葉として受け取ってもらえたらしい。
これでまだ警察官としては経験不足というのだから、今後が恐ろしい。
それで、ミシュラムへの移動方法はどうするのだろう。
尋ねるや否や、答えが来た。
エンジン音を響かせて、港湾区の岸辺に入り込む、船影。
白く塗られた、一台の導力ボートだ。
「ロイドさーん! 借りてきましたよー!」
「……フランさん!?」
と、手を振っているのは……あれはフラン・シーカーさんだ。
受付のフランさんが助手席に。彼女の……お姉さんかな? が、ボートを運転している。
……あ、さっきのロイドさんの「手配」ってこれか!
警察側の行動も早い。ベリルの一件、どこも本気でお冠らしかった。
「セルゲイ課長……俺の上司から借りた。一度使ったルートだ。運転も習ってある」
「……の、乗り込むの、私達で大丈夫ですか?」
「……実を言えば、ここから先は俺達だけで行くべきじゃないかと思っている」
ロイドさんは、大きく息を吐いて、私とフィーとユウナを見る。真剣な瞳だった。
「……戦力としては優秀だと思う。あの偽《銀》とも張り合えるかもしれない」
「でも、許可は出来ない、ですか」
「……許可出来ない、という一言は出せないな。ミシュラムの何処かに《銀》が潜んでいたとしても――何も知らないで別荘やホテルに滞在している人は多いからね。情報を出せない以上、危険を理由に引き止めは出来ない。それに……」
「法律もない、でしょ?」
フィーが指摘すると、ロイドさんは「そうだね」と肯定してくれた。
「ユウナは俺が引き止めることは出来ても、帝国人である君達を、強引に拘束するのは難しい」
「……でも、行って欲しくない、ですか」
「ああ」
私達が傷を負った時の責任が、ロイドさんに飛ぶ――からではないだろう。
勿論、それはある。あるが、彼はもっと根本的な問題として……私らの心身を守ろうとしてくれている。
その心使いは嬉しかった。
彼の瞳は真っ直ぐで、其処に誤魔化しがなかったのは、わかった。
だけど。
「……ごめんなさい。私、遊撃士協会で話した通り、です」
「そだね。私もカタナと同意見」
フィーが後押ししてくれたので、引かない。
私よりもずっと強く、リィンと同じように周囲を引っ張っていくだろう、格好の良い人に。
顔を上げて、きっぱりと宣言した。
「ベ、ベリルを傷つけた《銀》を、許して、おけません! 置いてかれるのは嫌です!」
「……そう言うと思っていた」
宣言した瞬間、私の中にあった
一つはロイドさんへの何か。相性の悪い何かが微かに悲鳴を上げた音だ。無視した。
もう一つは、ずっと感じている、《銀》への思考。その正体――。
だが、それを形にする前に、会話は進むのだ。
「わかった。ただし危なくなったらきちんと下がって欲しい。カタナさんとフィーさん、君達二人が勢いのまま暴走すると、追いつくまでに手間が掛かる。本当に気をつけて」
「ろ、ロイド先輩! この流れで私だけ置いていくとか無いですよね!?」
「……勿論だ。このまま手伝ってもらうよ、ユウナ」
ロイドさんの言葉に『任せて下さい!』と両拳を握る。
この通り、戦う準備もしてあります! とトンファーが構えられていた。
前衛が2人、中衛が2人と、ちょっとバランスが悪いパーティだが、これ以上なく心強かった。
「……あら、じゃあ私も一緒に行って良い? フフ」
声が、割り込んだ。
聞き間違えるはずもない。
黒いケープを羽織ったベリルが、水晶を手に怪しく微笑んでいた。
○ ○ ○ ○ ○
「……ベリル!? ちょ、起き上がって大丈夫なの!?」
「大丈――」
「大丈夫ではありません!」
ベリルの後ろから駆けつけたのは、エオリアさんだった。リンさんも一緒。
その顔は、かなり憤っている。
「フフ……大丈夫よ……数時間、ちゃんと休んだのだから……私も着いていける」
「確かに怪我は軽かったでしょう。……しかし、それとこれとは別問題です!」
会話で察した。
……さてはベリル。目を覚まして、私達の行動を把握して、これ幸いと抜け出してきたな?
当然ながらエオリアさんらに見つかり、今に至ると。
医者として看過出来ない、と引き止めるエオリアさんと、どうやって私らに同伴しようかとあの手この手で抜け出そうとするベリルの攻防が、私達の前で繰り広げられていく。
押し問答で、決着が付く様子は、無い。
フィーが助け舟を出した。
「……じゃあ、もうエオリアさん達も、ミシュラムまで一緒に行けば?」
「あら、それは良いわね、フフ」
当然ながら『良くありません!』と言ったエオリアさんだ。
民間人を護る為の遊撃士だ。国の縛りは受けない。その民間人が勝手に危険地帯に行くのは当然ながら看過出来ない。しかし――ベリルの意思は硬い。しかも、何やら奇妙な方法でするっと束縛をすり抜ける。
一歩、すっと踏み出した瞬間、ベリルの身体は岸辺にあった。
ボートの直ぐ側で此方を振り向いている。
「私も、どうしても、見過ごせないの。大事な――」
――大事な友人二人が、こんなに尽力してくれているのだから。
闇夜の中に、はっきりと聞こえる声。
エオリアさんは、むむむむという非常に難しい顔だ。気持ちはわかる。
「! あ、あの! そうです! 思いつきました!」
ユウナが手を挙げる。
「ここで、改めて遊撃士協会に、ベリルさんから依頼を出せば良いんじゃないですか?」
……その手があったか!
《銀》関連の依頼は、私が出した形。警察への通報は《アルカンシェル》から。
――
つまり『私の護衛をお願いします』という依頼を出せば。
「……分かりました。分かりました! 仕方がありません! 私とリンも、同伴します!」
エオリアさんの良心に付け込んだようでちょっと申し訳ないけれど。
不謹慎にも、私はちょっと喜んでいた。
ベリルが復活して、一緒に戦えるというならば、それだけで嬉しくなるのも、当たり前だろう?
○ ○ ○ ○ ○
「……で、カタナ。貴女、犯人に心当たりがあるんじゃなくて?」
「……ど、どうだろ」
「口に出してないってことは、薄々感づいてて、見ないふりをしているのだと思うけど。フフ」
ロイドさんが運転する導力ボートの上だ。
補助にリンさんが付き、エオリアさんはミシュラムの地図を広げて行動を練っている。
エステルらも急いでこっちに向かう手筈は整えているとのこと。
若い乙女4人――つまり、私とフィー、ベリルとユウナは、後部座席での内緒話だった。
……当のベリルに言われたら、嫌でも思考を向けざるを得ない。
「……実を言えば……その……思い当たる人が……居ない、でもない」
ただ、犯人とは考え難く、理由も分からない人だったから。
けれども。
「あの人はあんなことをしない」ではなく。
「理由があったらするだろう人」と考えるなら。
今回の事件を起こせるだろう、完璧な容疑者を。
……認めよう。
……私は、知っている。
○ ○ ○ ○ ○
ミシュラムの一角に、一人の女性が佇んでいた。
彼女は椅子に座り、机の上の写真を静かに眺めていた。
写真に映る少女を長め、女性は微笑む。
穏やかで優しく、しかし何処か、
○ ○ ○ ○ ○
《
――お前は知らなかったようだが、今あの遊園地で占い師やってるんだよ――
土産物や贈り物の中に散乱していた、無数の紙は、《銀》が「式神」だと隠すためのもの。
予告状で語っていたシュリちゃんへの興味は、似た境遇の少女を知っていたから。
ミシュラムの遊園地で働いているならば、社交界の場に、盛り上げるゲストとして顔を出すのは十分にありえる話だ。……たとえ、今は『結社』から距離をとっていたとしても、ホガース&プレストン経由で、情報は手に入る。
あの人は、私に愛情を持って接してくれていた。
だから、きっと、何かのトリガーを引いてしまったのではないだろうか。
――違いますか?
――ルシオラさん。
Q:ホガースとプレストン
A:《暁》での描写はもっと酷い。
クロスベルの弱点や陰謀を訴えた人間を、忖度ではなく「なんか良く分からない話をしているから解雇で」と雑に処理している始末である。
雇用したリーヴも手痛く一撃を受けることになるが、それは別のお話。
Q:ヴェンツェル
A:これまた帝国遊撃士協会襲撃(略)の被害者。カタナは変な悲鳴を上げた。
Q:パーティメンバー
A:カタナ、フィー、ベリル、ユウナ。結構面白いメンバーだと思います。
Q:《幻惑の鈴》ルシオラ
A:カタナの師匠枠。化粧とか、美容とか、男性を籠絡させる方法とか、ハニトラみたいな方法を教えてくれていた(実技まではやってない)。旅芸人一座の出身だけあり、庶民の生活に詳しく、芸術や歴史、各地の文化にも詳しかった。
バリアハートで白状した通り、生存していて嬉しいと思ってしまうくらいには慕っている。
常識的な人で、良識を知る人だが、「愛」というただ一点に関してはブレーキが壊れた人。
すっごい分かりやすく言えばヤンデレに近い。
……こんな事件を起こして、碧時系列では大丈夫なのだろうか?
マリアベル「さあ、どうなんでしょうね」 ← 素知らぬ顔
因みにマリアベルは、今回に限って言えば本当に何もしていません。
偽《銀》がルシオラの仕業である、とは看破しましたが、助力も、犯行の手引もしていません。
ミシュラムへの被害は出さないようにと細心の注意を払っていますし、遊撃士協会・警察・警備隊・《アルカンシェル》とそれを慕う民衆らに疑われないように一切手出しをしない姿勢です。
完全に傍観者。楽しんで眺めています。……やっぱりどっかで殴っていいと思う。
次回「愛情の悪夢」
それでは次回、VSルシオラと参りましょう。
倒せないでも、倒せないなりに、戦う方法はあるのです。