やっと更新できました。
暇な時間がある筈なのに、書き上げる時間が足らない。
何かと忙しく慌ただしく、話題に事欠かない毎日ですね。
暑い日が続く中、皆さんも元気でお過ごし下さい。
では、どうぞ。
「ねえ、大きくなった時の夢、持っている?」
「私は、そんなもの、ありません」
問いかけた時の彼女の眼は、どこまでも暗く、深く、黒く広がっていた。
光や力が澱んだ結果ではない。
最初から何も抱いていない、何も持たない者が、何も得られないまま時間を過ごしたような色。
「そう。……いいわ、私はルシオラ。貴女に色々教えませんかと、クルーガーに誘われたの」
「カタナです」
よろしくお願いします、と。
感情が込められているようで、全く込められていない返事をされたことを、覚えている。
○ ○ ○ ○ ○
銀色の影が、遊園地の中を走っていく。
非常灯が微かに輝く、ミシュラムワンダーランドの中。
非日常の夢を見せる娯楽施設の中を、悪夢の具現とも言える忍が駆けていく。
黒装束に身を包んだ《銀》が、一瞬だけ身を翻し、空中から幾つもの流線を放つ。
札だ。東方の模様が描かれた札が、紙にも拘わらず、湖畔の風の影響も受けずに一直線に突き進み、私達の元に、飛んできている!
「躱すか、撃ち落とせ! 当たりどころが悪いと、一撃で
「りょ、う、かいですっと!」
ロイドさんの声に応え、動いた。
即死効果とでも言うのだろう。命中すると爆ぜ、戦闘能力を奪うだろう札。私とフィーは、互いに身を低く、スライディングの要領で札の下を潜り抜けた。
一瞬前まで頭があった場所に突き刺さった札は、そのまま爆発。近くの屋台を吹き飛ばす。
「……ありゃ確かに、痛い」
命中しどころが悪ければ、戦闘不能まで一瞬だ。
呟いたフィーの背後、ロイドさんとリンさんはその身体能力で綺麗に前転し、回避。
エオリアさんは――
「《ランセットスロー》!」
――毒や睡眠薬を塗布したナイフを投げ、それらを撃ち落としていく!
空中で炸裂する《爆雷符》……に見せかけた、別の札。
数が多く、速度が速い札術――これは――。
(《銀》に見せかけた、ルシオラさんの式神術……!)
この暗闇だ。ここにいる殆どの人は、《銀》の技だと誤認するだろう。
私だって、ルシオラさんだ、と知っていなければ確実に《銀》の技だと思っていた。
札の数が多い。必然、私達に向かってこないものもある。
「あら、これは、まずいわね、フフ」
「言ってる場合じゃないですよ!?」
ユウナは手にしたトンファーを構え直し、弾丸を乱射する。
どうやら打撃と射撃を切り替える仕組みが内蔵されているらしい。焦りながらもかなり正確に、自分へと迫る札を撃ち落としている。
一方、所謂「武芸」が不得手なベリルは、といえば。
戦術導力器を、駆動させていた。
「ア、アーツで足りるの!?」
「足らせるわ、フフ」
私の言葉に、余裕を崩さない。
士官学院の生徒だ。当然ながら戦術
ただし、ARCUSではない。ENIGMAだ。スロットは全解放済みだろうが、クオーツは市販品。
「それじゃあ、まずは、こんな感じで、やってみましょう」
フフ、と怪しく微笑んだベリルは、そのまま駆動させる。
ベリルの前、壁のように出現した熱の壁が、札を防ぐ――。
(確か……旧式で発動出来ていた《ヒートウェイブ》……じゃない!?)
戦術導力器は、バージョンが上がると古いアーツが使えなくなることも多い。
《ヒートウェイブ》は、ARCUSでは発動が出来ないタイプだ。ENIGMAならば。
と、思っていたら。
その赤い熱の壁の中で、炎が歪む。
壁の一部が形を変え、出現した火の矢が、札を貫いていた。
「……今の……え? ……《フレアアロー》……?」
「フフ、正解」
何が起きたのかといえば、簡単な話だ。
《ヒートウェイブ》から《フレアアロー》に――発動されたアーツが、
複数人で別々のアーツを発動し、それらの相乗効果を期待するのは、良くある戦い方だ。
だが、今のは違う。
ベリルは、個人で、発動中のアーツの『形』を変えたのだ。
「……これは驚きましたね」
目を白黒させる私の前、エオリアさんが目敏く、ベリルの掌を見つめていた。
いや、正確に言えば、その指の間を、だ。
細く白い指の間に挟まっている物は――宝石。
「……イメルダの宝石……!? え、それ戦闘用だったの!?」
「違うわよ。戦闘にも使えるってだけ。説明――っと」
「危ない!」
咄嗟、私は小太刀を差し入れていた。
ひょい、と身を捻ったベリルの身体があった場所に、《銀》の刃がある。
刃が仕込まれた長い鎖、と表現出来るだろうか。
それを私の、新調した黒い刃が、受け止めている。
劇場でベリルを切り裂いた一撃、二度目を許すほど私は甘くない。
「……説明してもいいけど、走りながらが良さそうね」
「同感。遠距離だと無理だと悟って切り替えたっぽい」
ロイドさんらと合流した私達の前、《銀》が剣を構えるのが見えた。
だが、相手が如何に優秀な「式」とはいえ、此方の人数と戦力の方が、流石に圧倒している。
そう思っていたら。
《銀》が、分裂する。
1体から、2体に。
「……2体ならまだ大丈夫だな。俺とリンさんで前衛、カタナさん達とユウナは援護しつつ後衛を守ってくれ。バックスはエオリアさんに――」
2体から、3体に。
「……ユウナ。防御に専念して前線を維持してくれ。その間に急いで片付けて加勢す――」
3体から、4体に。
全員余裕が消えた。
○ ○ ○ ○ ○
才能は、無かった。
ヨシュア、レン、そしてルシオラとほぼ同時期に『執行者』となったシャロン。
比較対象の優秀さを鑑みたとしても、それ以前より候補者だった少女カタナは、未熟だった。
……ただ、辛うじて、努力の跡だけは見えていた。
天才が安々と超えていく壁を、地道に努力して、一枚一枚超えるだけの鍛錬があった。
「強くなるには理由がいるわ。貴女は理由を持っていない。違うかしら?」
「そうかもしれません」
カタナという少女は不幸だった。
才能がないことが、ではない。
才能もなく、理由もないのに、ただ努力ができてしまうことが不幸だった。
成長というのは、階段だ。一段目よりも二段目が、二段目よりも三段目がより高くなる。
そしてカタナの実力では、何れ壁を超えられなくなることは、目に見えていた。
それなのに、行動を止めない。
止める理由がないから止めないのは、不幸だ。
「……技芸も、工作も、同じ。心が無いと、上には行かないわ」
「でも教えてくれるんですね」
「そうね。――貴女が『結社』に……心がある以上、何を言っても、鍛錬は止めないでしょう。それなら見せかけでも、それっぽくさせるのが指導者よ。――それに」
「……それに?」
「いいえ。なんでも無いわ」
不幸であると知っていても、止めなかった。
クルーガーが止めなかった理由は分からないが、ルシオラが止めなかった理由は、簡単だった。
――ほんの少しだけ、重ねていた。
自分が一座に置き去りにした、可愛い
そんな彼女よりも、10歳近く年下の娘が、どんな風に育つのか――それが、気になった。
だからついつい、お節介を焼いて、基礎技能は鍛えた。
『式』を使って一風変わった召喚獣で戦ったこともある。
成長を見るのは、楽しかった。
その時のカタナが、その成長に理由も意味も見出だせないままだったとしても。
身勝手なことに、一方的に、可愛らしかったのだ。
○ ○ ○ ○ ○
そして、今、どうなっているかと言うと。
「来るわね、まだ、まだ、まだ、まだ、……今!」
「っしょっと!」
タイミングに合わせて、速度をそのままにステップで角度を変える。
一瞬後、曲がらなかったら着弾していただろう札が外れたことを確認し、再加速。
「もう少しです! ここを抜ければ、鏡の城です!」
ユウナを先頭に、私とフィー、ベリルで遊園地内を駆けている。
いや、ベリルは違うか。私に抱えられている状態だ。
『わ、私! 遊園地の地図、頭に入ってます!』
『……わかったわ。ユウナさん、貴女と、そっちの学生3人でここを離脱しなさい。そうすると恐らく、あの《銀》の1体くらいは別行動になる。それなら対処もしやすいからね!』
流石に4体の偽《銀》を相手にするには、戦力が足らなすぎる。
だが、私達4人が別行動をすれば、その状況も覆るのではないだろうか。
仮に1体も追いかけてこないなら、私達が安全に逃げることが出来る。
1体2体くらいが追いかけてくるなら、互いに撃破の目がある。
こっちに集中するなら、ロイドさんらが自由に動ける。
戦線の膠着を打破するためにも、ユウナの道案内に乗っかったのだ。
本当は患者の近くに控えていたかっただろうエオリアさんの、残念そうな顔が心苦しい。
「ここ、結構、来るの?」
「お父さんが働いているんです! ……はぁ、はぁ……!」
「速度落とすと追いつかれるわ。頑張ってね、フフ」
「はいっ!」
若干息を荒げながらも、気合十分で返事をしてくれるユウナ。
因みにベリルは、背負われているのではない。
「荷物を肩に担ぐ格好」で、私の肩(及び髪)の上だ。怪我がなくとも、流石に私&フィーの最速コンビには劣る。ユウナは根性で何とかなっている。
おかげでベリルは、背後――追いかけてきている《銀》の姿が、よく見えていた。
背後を振り返って走る余裕があんまりない私達の、生命線だ。
「でも本当に居るんですか!? 疑うわけじゃ、ないですけど!」
「居るよ。十中、八九……、居なくても、考えて探せば見つけられる場所に、絶対に居る!」
アーケード街を抜けた。
真っ直ぐに伸びる通路の先……正面に、塔が見える。
走りながら、煙玉を取り出し、投げた。障害物がないこの道、駆け抜けるのが一番難しい。
それを自分らと《銀》との間に放り込み、僅かだけ時間を稼ぐ。
《アルカンシェル》への暗躍が、私に向けての……メッセージならば、あの人は私が知りようのない場所には居ない。執着がある人間は、その人間に見つけて欲しいという感情が働くものだ。
まして、愛情深いルシオラさんならば、尚の事。
「……今回の犯人、お知り合い、なんですよね?」
「暫定此処の面々しか知ってないけど、ね!」
ロイドさんや遊撃士の……ヨシュアさん辺りは気付きそうだが、全員への共有はまだなされていない。
今がチャンスだとも言える。エステルなんかは『シェラ姉のことを考えると放っておけないわよ!』とか言いながらこっちに飛んできかねない。
そうなったら私とルシオラさんの、内緒の会話機会は、無い。
それは嫌だ。言いたいことの1つや2つある。
そして、エステルらの前でそんなこと、白状できない。
アイツラ遠慮とか知らないもん……! ノーガードで殴り合わされちゃうもん!
「巻き込んだことは、ごめん!」
「……私は良いです! ベリルさんは?」
「気にしているけど、カタナの選択と返事次第かしらね、フフ」
一緒に解決を、と言っても――流石に斬りつけられてスルーしきれるかというと話は別。
事件の解明の仕方、ルシオラさんとの対話次第では、ユウナからの信頼も失墜するだろう。
つまり――。
「友情の危機……!」
「カタナに関わると大体皆1回か2回は友情の危機迎えるからいつものことだよ」
ラウラとかマキアスとかがそうだよとしれっとした顔で言われた。……否定できない!
それにエマとは微妙に距離あるし、まだまだこの先も油断は許さないからな!
「まあ、それは良いんだけど。ユウナ、入り口、鍵掛かってるよね? どうするの?」
「……非常口や、キャスト用の関係者口は知ってますけど! 鍵の番号なんかは流石に、知りません!」
煙は蹴散らされ、その奥から《銀》が追いかけてきている。
不安定な手摺りの上を駆け抜け、滑るように動く姿は、まさに怪人と呼ぶのに相応しい。
あれを撒きながらのんびりと、ピッキングをしている時間は……。
「無いね。しょうがない、強引にやるよ」
「ぐ、具体的には?」
「入り口、吹っ飛ばす」
一歩、フィーが前に抜け出た。速度を上げたのだ。
だが、懐から爆薬を取り出す気配はない。彼女が持っている爆薬では(バリアハートの地下で使った奴だ)設置に時間がかかる。では、どうやって?
駆け抜けたフィーが、腕を確かめるように握ったり開いたりしている。
若干ぎこちない、不慣れな武装を確かめる動き。
「……ガルシアさんからの受け取り品?」
「うん。でもちょっと不安。カタナ手、空く?」
「フフ、私が手伝うわ。抱える向き、変えてくれない?」
「ん、頼んだ!」
髪を上手に使い、ベリルの背中と膝に手を入れて、支える。
同時、足の動きを変えた。柔軟性を意識し、相手の視線から『ずれる』ような動き。
詠唱を始めたベリルの妨害にならないように、急停止と上下移動を避けて、《銀》の圧力を耐える。
背中に感じた冷たい気配を回避。だが――。
(これ、やっぱり殺気が薄い……! 殺す動きじゃない、始めから命令された動きだけしてる……!)
やはり式神。
事前に命令された以外の動きは、下手。
そして、振るわれる剣の軌道は、しなやかで、曲線を描いている。
ルシオラさんが《銀》を使う理由はなんだと思ったが――ああ、そうか。
この動きは、剣ではない。
即ち――《銀》ではなく《銀閃》の動きを真似ている……!
ならば、戦った経験がある。対応は、出来る!
「やってやらぁ……!」
腕の中のベリルの重さを感じながら、私は加速する。
ほんの数十秒、回避し続けるだけだ!
○ ○ ○ ○ ○
そして今、カタナは自分の手元に居る。
ワイスマンが斃れた後、あちこちを放浪してリベールから帝国に渡り、学生になったと聞いた。
「……そう、きっと貴女は育った。そして育ったとは」
きっと、あの時には私に見せなかった、強い輝きを放っているということ。
そういう尊い輝きを、愛しいという思いを――。
――その思いを、両腕に握りしめて、壊したくなってしまう。
――つい、しっかりと確かめてしまいたくなる。
それが《幻惑の鈴》ルシオラの持つ『闇』だった。
○ ○ ○ ○ ○
「……じゃ、まあ、ちょっと、やるしかないね!」
フィーもまた、腕にある重さを感じ取る。
加速を重ね、鏡の城の入り口を確認しながら、腕を軽く振る。
ガルシア・ロッシから譲られたこの武器は、肘までを覆う薄手のグローブに近い。
関節の駆動に邪魔にならないように装甲が施され、それが手の甲まで続いている。
武器を握ると、手の甲に微かに触れるか触れないかと言った大きさ。
「支援装備か。《ルバーチェ》だと……埃、被ってて、おかしくなかった」
《西風の旅団》を思い出す。
養父ルドガーは、改造された巨槍バスターグレイブを縦横無尽に奮っていた。
ゼノはライフルを主武器としつつも、近接での投擲技や、罠の扱いで距離の不利を補っていた。
レオニダスは、半身を覆うほどのガントレットを構えながら、内蔵された射出機能で衝撃や煙幕を撒いていた。
フィー自身、双組の銃剣で、遠近の両方を鍛えてある。
ガルシア・ロッシだけが、遠距離攻撃の技を持たない、なんてことはない。
(自分以外の誰かが使えるように……ってことかな。若頭だけあって、部下への配慮が、届いてる)
後方支援を部下の銃火器に任せていただろう《ルバーチェ》では、彼の支援能力は発揮されなかった筈。
結局、部下も使わなかったのだろう。
それでもメンテナンスを欠かしていなかったのは流石だろうか。
しかも、ある程度までは腕の太さに対応できるような仕組みにもなっている。
重さも扱える。ここ数時間で、大分慣れてくれた。
「これで、打撃の射程を伸ばしていたって感じだと、思うけど ―― 効果は自分で確かめろ、ってね!」
入り口まで残り数アージュ。
両手に握った銃剣の、その刃を振るう。
同時、腕から流れた微かな波動が、それに共鳴する。
斬撃が
「――な!?」
視界の隅、鏡の城の入り口に、切込みが入った。
本来ならば、経験豊富なフィーの攻撃であっても、傷が走る程度の筈。
それがより深く、より遠くまで、切込みが『通って』いる!
「リ、リーチが伸びた……?」
曲線に飛ぶ鎖を回避して、確認する。
いや、攻撃した軌道がそのまま少しだけ伸びた、と言ったほうが正しいか。
フィーの銃剣は、刃渡りが短い。だが、多分、鏡の城入り口には、私の小太刀を超える……リィンの太刀やラウラの両手剣と同じくらいまで深く
白兵を得意とする格闘家が『気弾』を飛ばすのと、理屈は同じ。
攻撃した斬撃が、衝撃となって『飛ぶ』。
ガルシアさんから受け継いだ、フィーの新しい力……!
「ENIGMA、駆動 ―― さあ、少しだけ威力を、上げましょう、フフ」
ベリルが続く。ENIGUMAが稼働し、その中に蓄えられた七耀石の欠片が呪文を紡いでいく。
だがそれは、通常の発動ではない。
発動と同時、ENIGMAを握るベリルの掌で、宝石が輝いている!
アーツとは、研磨された七耀石同士が共鳴して発動するものだ。
戦術導力器の中で発動したアーツは、使用した持ち主の身体をアンプとして威力を広げていく。
だから体質で得意不得意がある。
内部に七耀石を溜め込む魔獣は、戦術導力器がなくともアーツを発動できる。
「これら二つを、混ぜ合わせれば、どうなると、思う?」
「……それが、さっき切り替わった技!」
「正解。――手にした宝石で、意図的に反響を曲げる。七耀石の波動に、手にした七耀石を《
どう?ちょっと凄いでしょう? と不敵な笑みを浮かべるベリル。
次の瞬間、《エアロシックル》と《スパークル》が同時に叩き込まれた。
フィーの攻撃で、深くまで壁が刻まれていた状態……。
曲がった風のアーツを受け、城の入口が、砕け散る……!
「っちぃ! と、なら、こっち!」
時間は稼いだ!
悪寒に従い、ギリギリで刃を回避。そのまま、腰の骨を入れる。
カチッという音。勢いを加速に変え、縮地で、距離を離す。
その勢いを腰から肩、腕へと繋げ、ばちっと弾けるような指先のスナップで瓶を投げる。
一直線に飛んだ刃は、《銀》には命中せず――
「せええいっ!」
ユウナが乱射した銃の散弾で破裂した!
いつぞやのサラ教官の時にも使った、ちょっとした小細工用品だが、不意打ちには上々だ。
僅かに怯む《銀》の姿。その姿が立ち直るよりも先に、私達は鏡の城へと飛び込んでいく……!
――私だって、覚悟の1つや2つ、決まってるんです、よ!
○ ○ ○ ○ ○
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○ ○ ○ ○ ○
鏡の城・最奥部・占いの部屋。
鏡が無く、鼻を微かに香が擽り、神秘的な布で囲われた小部屋がある。
その奥で静かに座っていたルシオラの真上に、4つの影が飛んでいた。
「クロス、ブレイクッ――!」
一つは《銀》。
作り上げた式神が、自分の方へと吹っ飛んできている。
それを成したのは桃色の少女だ。トンファーに全霊を込めた一撃で、偽《銀》を弾く。
鏡の城に入った瞬間、操作が消えたのは感じ取っていた。
撃破されたのだろうとは察していたが――。
(残骸を上手に使って、その影に――)
本来、役目を終えたら即座に虚空へと消えるはずの式は、消えないままだ。
恰も――別の誰かが、操作しているかの様。
――《シャドウスピア》――
廊下の奥、長い髪の少女が、アーツを放っている。
無論、ルシオラは一瞬で看破する。アーツの腕前は未熟だとしても、占い師としての才覚は、恐らく自分に匹敵する。であるならば。
速度を殺さず、立ち上がり、一歩、下がる。
ユウナ・クロフォードがけたたましい音を立てて、絨毯に転がる。
落下した偽《銀》は溶けて消えつつある。そのボロ布を目眩ましに飛び出す少女が二人――。
片方はカタナ。
そして。
「――あら」
流石に少し驚いた。
複数の《銀》を使った自分に対して、複数のカタナを用意してくるとは。
「……成長しているわね!」
「「勿論、です――折角なので、ここで、初心を、表明して、おきます!」」
――からの《ホロウスフィア》!――
ベリルの詠唱が届く。
分身したカタナの内、どちらかはフィー・クラウゼルという少女だ。
薄暗い部屋の中、恐らくは数カ月間、連携を磨いた同系統のライバル同士での、連撃。
背筋が、ぞくりと震えた。
「私はもう、今の時点で、つい力加減を誤って壊してしまいそうなくらい、喜んでいるわ!」
「「ありがとうございますっ!!」」
その返事は、何時の日かに聞いた、感情が含まれていない物ではなかった。
(ああ、……カタナ、貴女……とっても綺麗)
培った友情を以て、自分に敵意を飛ばす彼女の、その輝きときたら。
成長するとは、きっとこういう事を言うのだろう……!
(でも……、まだ、まだ!)
思わず喜んだルシオラだが、そう簡単に攻撃を受けるほど甘くはない。
使っていたテーブルをひっくり返し、下から自分へと伸びるように刃を突くカタナの盾に。
壁の織物を掴み空中を薙ぎ払い、固めた布の勢いを持って、空中のカタナを撃ち落とす。
良い腕だったが、もう一押し……!
「――その首、いただきます!」
三人目のカタナが、出現していた。
「!」
見れば、空中で叩き落としていたカタナは、黒い布地の塊となっている。
(……なるほど、ユウナが地面に落ちた瞬間、……偽《銀》を空中に放り上げて、カタナ本人は式神のフリをして――私が迎撃した瞬間を狙って……!)
ああ、思えば彼女もまた『蛇』だ。
足より、頭より、もっと噛むに相応しい場所があるではないか。
テーブルにぶつかって悲鳴を上げるフィーが、テーブルを切断。
自分に向かって飛びかかるカタナのアシストを忘れない……!
「ふふ」
ルシオラの微笑みを、どう受け取ったのか。
黒い小太刀を、牙のように構えたまま、少女が口を開いた。
今迄、心に秘めていた。
けれども口に出して、組織のものには伝えていなかった。
ルシオラにはこれ以上無く届く、夢の話。
「私の――」
瞳に宿る炎は、幾つもの色に彩られていた。
友人を害したルシオラへの怒り。
自分への執着を知って反応する喜び。
そして己の誓いを口に出す勇気。
複雑に絡み合ったそれらが、覚悟と共に放たれる。
「――私の夢は、『執行者』です!」
だから、心は残っています!
言葉にすれば、たった一言の――最も効果的な言葉だった。
その言葉は、確かに
その一刀は、確かに『束縛』を切り払う。
一切の躊躇なく振るわれたその刃が、首に食らいつき、薙ぎ払った。
6月13日、午前0時。
《アルカンシェル》への、偽《銀》による脅迫状事件は、此処に幕を閉じることとなる。
殺してませんし、殺せるような力もありませんよ!
でも、この一発でルシオラが満足しました。戦闘終了です。
さて次回で、長かったクロスベル旅行も終わり。
ロイドらがどうやって切り抜けたのか―とか
ルシオラさんがこの後どうするのかーとか
今回の事件、名前だけ使われてご立腹のあんな人とか
ここまで来たら出会っておきたい至宝の女の子と出会ったりニアミスしたりして
学院へと戻ることとなります。
濃密な三日間でしたね。
次回「交差点の心」
Q: ――――――■■、■■■■■■――――――
A: 偶には謎だらけの伏線があってもいいと思う。
感想評価お待ちしてます。