カタナ、閃く   作:金枝篇

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クロスベル旅行、これにて完結。

次回からは再び学院生活に戻ります――が。
ですがしかし、クロスベルから帰国する際が、一番重要なイベント山盛りです。

45話で描写しきれなかった部分も含め、諸々公開の回!
悪夢を見せていたのは、本当にルシオラだけだったのでしょうか?

では、どうぞ。


追伸 うっかりキーアの髪色を間違えました(修正済み
ちょっと支援課に怒られてきます。


交差点の心

 学生らを送り出した大人達も、決して楽な戦いではなかった。

 リンとエオリアのコンビならば、《銀》の1体くらいは何とかなる。2体でもかなりキツイが戦い方次第では勝ち目がある。だが3体は無理だ。幾ら分身であったとしても、数の差は厳しい。

 ロイド・バニングスが1体を請け負っても、単純に2対1と1対1にはならない。

 

 「回復が……間に合わない……!」

 「俺はまだ大丈夫です! リンさんを優先してください!」

 

 ギリギリで刃を回避するロイドは、虚勢を張ったが、旗色の悪さは隠せない。

 偽物であると分かっていたが、それで勝てれば苦労は無かった。

 ……向こう3体の《銀》は、互いに連携が取れ、敵の中の誰か1人でも撃破すればそのまま勝負の趨勢が決まる。対してロイドとリンは、そもそも連携しての戦いは今回が初めて。お世辞にも呼吸は合わない。

 エオリア1人でリンとロイドのフォローをするのも難しい。ジリ貧とも言える状態――。

 それを打ち破ったのは、数発の銃声だ。

 

 「――!」

 

 《銀》の黒装束を掠める、弾丸。

 次いで聞こえるのは、涼やかな女性の声――。

 

 「《オーラレイン》!!」

 

 青い輝きが降り注ぎ、響いた導力魔法が、一同の疲労を癒やしていく。

 ロイドは即座に、相手を把握し、呼んだ。

 

 「エリィ!?」

 「良かった、さっきベルから連絡があったの……!」

 「マリアベルさんが――」

 

 安心すると同時に、ロイドはその言葉に、漠然とだが嫌な気配を感じ取る。

 数呼吸だけのインターバル。その間に、頭の中に情報が駆け巡った。

 

 カタナ・N・アルビーが、事情を確認しに行った場所はIBCビル。

 そこでミシュラムに入る許可を取り付けた。許可を出したのはマリアベルだろう。彼女はそのままエリィにも事情を伝え、援軍になってくれるように頼んだ。理解できる流れだ。

 

 だが、カタナがコンタクトを簡単に取れるような相手だろうか?

 

 ロイドは、エリィや今までの事件を通じて親交があるから、つい忘れそうになるが……マリアベル・クロイスは、多忙なのだ。事件の事情を話して、解決に助力して貰うだけならば、ロイドらを連れていけば良い。だがカタナは遊撃士協会で、それを望まなかった。

 となると……もしや、二人の間には、何かしらの因縁があると考えて良いのではないか?

 カタナは『結社』の一員だったという。

 

 偽《銀》を前にトンファーを構え直して、再び向かって行く。

 疑問は消えない。

 となると、今回の事件、マリアベル・クロイスも何らかの関係が――?

 

 

 ――――――■■、■■■■■■――――――

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 ルシオラさんの首を全力で切った私だが、無論、届かなかった。

 まあ、私の全力で執行者に届く筈もなく――というか、ほぼ殺せないことを承知で、首を狙ったのだが――その覚悟は、無事に伝わってくれたらしい。

 

 『良い攻撃だったわ。……満足したから、逃げようと思うのだけど……』

 

 それでも微かに首を掠めるくらいは、していたらしい。

 白く艶やかな項を、軽く手で抑えたまま、ルシオラさんは妖しく微笑んだ。

 

 『追いかけてくるかしら?』

 「……しません」

 『そう。なら、暫く会えないわね。――今度あった時、また成長を、見させてもらうわ』

 

 すっかり荒れ果てた鏡の塔だ。

 絨毯も壁掛けも、テーブルも天井も酷い有様で、無事じゃない場所はない。

 ユウナは疲れてへたりこんでいるし、ベリルは顔こそ平然としているが額に汗が浮かんでいる。

 私とフィーだけで何とかするのは、不可能。

 

 大体、これ以上やったら、明日の帰国に支障が出る。

 月曜日から学校だよ!こんな忙しい事件に巻き込まれたけど!

 

 『では、またね』

 

 ひらひらと扇と手を振ったルシオラさんは、余波で壊れた壁からひょいっと飛び降りた。

 彼女は多分、逃げおおせるだろう。

 ロイドさんやエステルやらには、犯人が誰であったのか、は伝えるが……伝えたところで、彼女が捕まるとは思わない。さっさと共和国方面へと逃げてしまう可能性はあるし――どうせマリアベル・クロイスが暗躍する。此処の後始末に介入できる以上、証拠隠滅も難しくは無いだろう。

 

 (片付けする時に逃さないとは話してなかったしね……)

 

 そも、ルシオラさんの個人情報は、クロスベルには転がっていない。

 顔を知っている人間も限られている。

 適当にほとぼりが冷めるまでその辺を放浪し、素知らぬ顔で戻って来ることすら出来る。

 偽《銀》を操っていた人間と、ここの占い師と、()()()()()()()が同一人物である証拠さえ消せば完壁だ。

 

 後日判明したことだが、ルシオラさんは、鏡の城が修繕された後、しれっとした顔で戻ってきたそうだ。本当にしれっと戻ってくる辺り、やっぱり結社メンバーは面の皮が厚い。マリアベル・クロイスはそれ以上に面の皮が厚い。

 対外的には『犯人は共和国方面へと逃げました』としたらしい。

 《アルカンシェル》側も『犯人は逃げた』と伝えられれば、深追いは出来まい。

 ……因みに、ベリルが傷を負わされた一件に関して、クロスベルの警備体制/危険性が帝国から追求され、ある日の『帝国時報』を賑わせることとなった、とは語っておこう。

 

 「犯人を取り逃がしたことに関しては、俺が怒られるよ。でもそれ以上に、君達に怪我が無くてよかった。あの偽《銀》に、もっと怪我を負わされたとなったら、民間人の保護すら出来ないと言われる。――警察官としては、そっちの方が、辛いからね……」

 「い、いえ。こちらこそ、心配してくださって、ありがとう、ございます」

 

 勿論、クロスベル側も黙って批判されるだけではなかった。

 犯人を逃した失態はあるが、二次被害を出すことがないように専念し、また遊撃士協会とも連携を取って事後処理に当たっている――と、つまり『学生らの安全を優先した結果だ』という理屈を発表したそうだ。

 

 ロイドさんは「皆からの希望があったとは言え、危険に晒したことは違いない」と非常に複雑そうな顔だったが……まあ、嘘は言ってないよ。そう言えって強制されたわけでもないし。

 表立って修正出来ない立場だが、皆を利用してすまないと再度謝られてしまった。

 いえいえ、お気になさらず。

 クロスベルの置かれた環境は、分かっていますから。

 

 さて、遊園地から戻ってきた私達は、《龍楼飯店》のベッドへと倒れ込む。

 元々怪我を押して行動していたベリルはぶっ倒れ、フィーもあっという間に夢の中だ。

 日曜日、午前2時。もう数時間もすれば仕込みでチャンホイさんが目覚めるという頃。

 私の元に、客人が現れた。

 

 「……礼を言いに来た」

 

 黒装束に、銀色の仮面を被った怪人。

 本物の《銀》が、私の前で微笑んでいた。

 綺麗な人だな、と思った。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 ――――――■■、■■■■■■――――――

 

 

 ―――ラレイン》!!」

 

 青い輝きが降り注ぎ、響いた導力魔法が、一同の疲労を癒やしていく。

 ロイドは即座に、相手を把握し、呼んだ。

 

 「エリィ!?」

 「良かった、さっきベルから連絡があったの……!」

 

 活力を取り戻したリンとロイドが、それぞれ打撃を叩き込み、《銀》を退かせる。

 その隙を掻い潜って、パールグレイの髪が靡く。

 息を切らせて駆け寄ってきたエリィ・マクダエルは、再装填しながら手短に事情を説明した。

 

 「丁度、こっちでお祖父様と夜会に出てて……、今日の仕事が終わったところで、ベルから連絡があったの。《アルカンシェル》を襲った不審者が、こっちに潜伏してて、ロイド達が追いかけてるって」

 「ありがとう、助かった!」

 

 再び立ち上がった偽《銀》らを前に、トンファーを構える。

 先程までの不利な状況は、これでほぼ互角にまで持ち込めた。

 

 (後は……!)

 

 気になることは二つ。

 真犯人を知っているという態度で、この場を離脱した――離脱させた、学生らの安否。

 もう一つは、マリアベル・クロイスが援軍を呼んだということ。

 ふと、頭の中に疑問がよぎる。

 

 (確かヨシュアさんは、彼女に気を付けろと言って……)

 

 何故か記憶が曖昧だが、そう、言っては、いなかったか?

 エリィという頼れる援軍を呼んでくれたことは感謝しているが、何かが引っかかる。

 大陸最大の資本力を持つIBCが……何も知らない、なんてことは。

 

 「ロイド、どうしたの!?」

 「……いいや、何でもない。まずは此処を切り抜ける!」

 

 そうだ。後で良い。

 マリアベル・クロイスに問いを投げ――。

 

 

 ――――――■■、■■■■■■――――――

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 月を背後に、闇夜に佇む漆黒の暗殺者《銀》。

 《アルカンシェル》で目撃した、歪な偽者ではない。

 その立ち姿と雰囲気だけで『本物だ』と分かった。

 眠っていた私を起こした強い気配はある(意図的に飛ばしたのだろう)が、殺意も敵意も感じない。

 

 「夜半に、女性の元を訪ねるのは、どうかと、思いますが」

 「全くだ。だが今くらいしか、礼を言う機会が無い。明日には離れてしまうのだろう? ――冤罪を晴らしてくれたこと、感謝する」

 「貴方の為では、ありません」

 

 一番はベリルの為。次は私ら三人の休暇の為。その次は巻き込まれた皆の為。

 むしろ私的には、《銀》がお礼を言うに来ることの方が意外だった。

 そんなに事件解決が嬉しかったのだろうか。

 

 「そんなようなものだ。……これを」

 

 彼女は、すっと何かを差し出した。

 紙――何やら複雑な模様が描かれた紙だ。遊園地で何度となく投げられた『札』に似ている。

 

 「プレゼント、ですか? こういう……補充が効かない物は、遠慮したいんですが」

 

 確かに手数と武装で勝負する私にとって、投げれば効果がある『札』は魅力的だ。

 だが生産できず、使い切りでしかないアイテムは、習熟も難しい。ちょっと遠慮したい。

 

 「いや、これは原本だ」

 「……原本?」

 「そうだ。君は、投擲武器も使うのだろう。背中の筋肉の付き方で分かる。……君が投げる武器に、この原本に書かれている模様を刻むと良い。軌道を曲げるくらいは可能になる」

 「……それ以上は?」

 「自分で確かめることだ。残酷に言えば才能による」

 

 ……本当に残酷だな。

 だが、まあ、投げる武器の軌道が()()()というのは、私には嬉しい武器だ。

 普通の人間でも、ボールをカーブさせたり、急降下させたり、というのは握り方と回転で可能。

 苦無や投げナイフらで同じことが出来るようになる、特殊な模様を彫れる、というのは――それは有難い。

 不意打ち上等の私にとっては最高だ。

 

 「……そういうことなら、頂きます」

 「ああ。それと……一つ、気になっていることがある」

 

 《銀》の顔が、私の小太刀へと向いた。

 流石の私も、就寝中は武器を外している。ベッドの手の届く場所に丁寧に置いてある。ついでに言えば細いワイヤーで手首に繋がっており、今この状態でも引き寄せることも出来る。

 仮面越しに、手に入れたばかりの小太刀への視線が、強まった。

 

 「……確認したいことがある。その小太刀を、見せてくれないか?」

 「良いですけど。……昨日、じゃなかった。一昨日受け取ったばかりの新品ですよ」

 「新品だからこそだ」

 

 私は無言で、鞘から刃を抜いて、見せる。勿論《銀》に握らせない。

 黒い刃を暫し観察した後、《銀》は感嘆の声を上げた。

 

 「……まさかこんな場所で目にするとは」

 「そんなに貴重な物を、頼んだつもりは、ないんですが」

 

 何を驚いているのか分からない。

 ミヒュトさんに注文し、帝国の業者がクロスベルを経由して持ち込んだ、それだけの品の筈だ。

 

 「……であれば、偶然か――取り違えか……君の運命が吸い寄せたか、だな」

 

 《銀》はそう語った。

 

 「この黒い刃は、東方では非常に珍しい。刃の素材だけならばまだあるが、此処まで漆黒の……そして良い拵えの武器は、まず一つしかない。そんな貴重品が手に入ったならば、それは……非常に幸運だ」

 

 武器は持ち主を選ぶという。

 私の手元に来たのは、何か理由があるからだと《銀》は語った。

 もしかしたら本当にただの、裏社会に流通した物が私の元に流れ着いたか。

 どこかで業者が取り違え、そのまま偶然が続いて私が買い取ったか。

 あるいは誰かの陰謀――は、無いか、流石に。

 

 「……大事にすると良い。尤も、ただの武器以上に使い熟すには、相当の修練が必要になるだろうがね」

 

 そこまで言って、《銀》は身を翻す。

 どうやら話は終わりということらしかった。

 

 「また会う機会が来ないことを、祈ってます」

 「私もだ。君がクロスベルの闇に入り込むのは、良いことだとは思えない」

 

 口元を微かに綻ばせ、《銀》は闇夜へと消えた。

 残されたのは、テラスから月光を浴びるだけの私だ。

 ベッドの中のフィーは……どうやら起きているようだが、何も言わずに、そのまま寝始めた。

 私は無言で、黒い刃の小太刀を、眺める。

 

 根元の部分、殆ど隠されるように、何かの銘が刻まれていた。

 月光に輝く、東方の文字。

 

 ――《斑鳩》、と。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 ――――――■■、■■■■■■――――――

 

 

 ――ンシェル》を襲った不審者が、こっちに潜伏してて、ロイド達が追いかけてるって」

 「ありがとう、助かった!」

 

 再び立ち上がった偽《銀》らを前に、トンファーを構える。

 先程までの不利な状況は、これでほぼ互角にまで持ち込めた。

 

 (後は……!)

 

 気になることは、あの学生達だ。

 真犯人を知っているという態度で、この場を離脱した――離脱させた、学生らの安否。

 年齢に似合わない経験の持ち主であることは、分かっている。

 単純な実力で言えば、ユウナが一番低いかもしれない、と思えるくらいには。

 だがそれでも――。

 

 (それでも、こんな状況になっては、いけなかった……!)

 

 別行動のほうが、互いの撃破率、戦闘の勝率、作戦成功率が高かったとは言え、少女らに任せるのは警察としては忸怩たる思いだった。怪我人を投げることになったエオリアははっきり憤っていた。

 

 (頼むから無事で居てくれよ……! こっちも急ぐからな……!)

 

 一刻も早く、駆け付けなければならない。

 使命感と責任感が、心を燃やす(バーニングハート)。同時、体中に満ちていく気合。

 偽《銀》が微かに怯んだ――そんな気がした。

 

 そのままの勢いで、ロイド&エリィと、リン&エオリアコンビは、偽《銀》を撃破する。

 撃破までに何があったのか、それを彼らが理解するのは、まだ先のことだ。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「大変でしたぁ……!」

 「ユウナ、ありがとう」

 

 《銀》からの訪問を受けた、その翌日――もとい数時間後の昼間。

 かき入れ時のパン屋で、私とユウナは互いに労いあっていた。

 ベーカリー《モルジュ》の、イートインコーナーだ。パン屋の軒先に、白いテーブルが並んでいて、穏やかな風を感じながら、焼き立てのパンに舌鼓を打っている。

 帰宅は午後の列車を使う。

 《龍楼飯店》で最後の朝食を食べた私達は、二手に別れていた。

 ベリルとフィーは遊撃士協会に。私はユウナに会いに警察学校に、だ。

 

 「良いです良いです、気にしないで下さいー。やっぱ来てくれた人には、大変だったって思うより、楽しかったって思って貰いたいですから」

 「こっちこそ、ユウナのお陰で、本当助かった」

 

 ルシオラさんとの戦い後、無事にロイドさんらと合流した私達だったが、流石に限界だった。

 私に至っては、ロイドさんらに保護されるや否や、凄まじい()()()()()()が這い上がり、眩暈と共に倒れそうになったくらいだ。

 顔だけは平然としていたベリルも勿論体力の限界。顔に出していなかったが全身冷や汗。エオリアさんが慌てて介抱したのだから、状態は推して知るべしだ。

 そんな中、ユウナが手を上げてくれたのである。

 

 『調書は私がお手伝いするので、皆さんは休ませてあげて下さい』と。

 

 援軍としてやってきたエステルらに、ルシオラさん回りの情報は最低限伝えて置いた。

 そのまま厳重に護送され、私達は《龍楼飯店》に運び込まれたのである。

 ……スコットさん&ヴェンツェルさんらが(無事に《アルカンシェル》側の安全確保がされたのもあって)、昨晩はずっと私達の警備をやってくれていた。お陰でマスコミや警察、きな臭い上層部の人らからの干渉もシャットアウト。ぐっすりと休めたという訳だ。

 

 まあ、そんな中、しれっと警備を掻い潜って、私らに会いに来た《銀》も居るのだが。

 やはり彼――いや、彼?だとなんか違和感があるけど、彼ってことにしておく――《銀》の実力は流石だ。

 

 ベリルはエオリアさんの手当てを受けに遊撃士協会に。フィーはベリルに同伴している。

 フィーはフィーで何か調べたい物があったらしい。警察には初日に行ったし、訳アリな裏通りや旧市街には足を運んだので、今度は遊撃士方面を当たってみる、ということらしかった。

 

 で、私達の代わりに只管、報告書の手伝いをしていたユウナは徹夜でへろへろ、という訳だ。

 警察学校側が気を使ってくれたようで、今日は昼で授業が終わりになったらしい。

 

 「そこのアパルトメントに、お母さん達と住んでるんです。お昼食べたら、帰って寝ます……」

 「うん、そうして」

 

 4月にクロスベルに来た時に出会った、ケンとナナという弟妹と、両親と五人で暮らしているそうだ。

 

 「大変な三日間だけど、ユウナと一緒に事件を追えて、良かったよ。多分、フィーもベリルも、同じことを、思ってる」

 「……そうですかー?」

 「ん、そうだよ」

 

 天真爛漫で、ひたすらに真っすぐ明るく突き進む、というエステルに近いタイプは、クラスに居ない。

 強いて言えばリィンが近いのかな、とは思うが、リィンは周囲のために自分を殺す傾向があるからな。

 

 「多分、また、クロスベルに来る、と思うから。……や、違うな。……んっと」

 

 少し言葉を選んで、私はユウナに告げる。

 

 「クロスベルに足を運んだ時は、ユウナに挨拶しようかな、と思えるくらいには、なってる」

 「……そんなにです?」

 「ん、年齢が近いのもあるけど。こう……頑張ってる人を応援したいって気持ち、わかるから」

 

 多分、ルシオラさんや――まあ業腹だかブルブランが、私に助言をしているのは、そういう感覚なのだ。

 自分が見る側になって、自分を見ていた側の思考が、理解できた。

 

 「ユウナなら、きっと良い警察官になれるよ。ロイドさんみたいな」

 「そう言ってくれると嬉しいですよー」

 

 疲れてへにゃっとしているが、ユウナは顔を上げて笑顔を見せてくれた。

 

 「あ、そうそう、ロイドさん達、そこの建物に住んでるんですよ」

 「そこの、青いビル?」

 

 ですです、と話してくれた。

 《モルジュ》の前には坂道がある。

 この坂道を下ると『特務支援課』ビルの裏口に繋がるらしい。

 丁度、坂の前では、三人の――日曜学校に通ってるくらいの少年少女が戯れている。

 

 「私も良く遊びに行きます……、ふわ」

 

 お昼を食べたことで、愈々ユウナは眠気が限界近いらしい。

 のそのそと起き上がった所で、私は手を差し出した。

 

 「じゃあ、帰って、良く休んで。で、明日から、また頑張って。私達も、勉強とか、頑張る」

 「勿論です! また会いましょうね!」

 

 言葉に、ユウナはきりっとした顔で、頷いた。

 互いに激励をして、私達は別れたのである。

 

 ユウナの背を見送って、私も大きく伸びをする。

 初夏のいい天気だ。クロスベルは観光地としては本当最高だと思う。

 視界の緑色が、風に爽やかに揺れている。

 

 さて、それじゃあ《龍楼飯店》に戻ろうか。

 そろそろベリルとフィーの用事も終わっている筈。

 荷物を抱えて、駅までの間に何か忘れ物が無いか確認して――。

 

 

 

 「ねえ」

 

 

 「ん、はい、はい――」

 

 誰かに、呼び止められた。

 周囲を見る。振り向くと、小さな女の子の姿があった。

 『特務支援課』ビルに繋がる、坂を昇って来たらしい、薄碧髪の少女だ。

 

 ――何故か、心臓が、鼓動を立てた。

 

 「えっと、私に、何か、用、かな」

 

 少女におかしいところはない。

 衣装は質が良いし、肌や髪は手入れされていて元気いっぱい。顔立ちは愛くるしい。

 なのに。それなのに。

 

 ――全身の何かが、震えて、音を立てた。

 

 その可愛く輝く前髪に、瞳が隠れている。

 丁度、女の子の瞳だけが、視線だけが、見えない。

 

 

 「ねえ」

 

 

 少女は、気付いたら私の前に居た。

 その小さな身体で、目いっぱい背伸びをして、私の顔を覗き込む。

 

 ――強烈な違和感。

 ――そして、悪寒と――

 ――()()()()()()――

 

 少女は、私に問いかけた。

 

 

 「あなた、――()()? どうして、此処に居るの?」

 

 

 凄まじい嫌悪感と忌避感、そして違和感が全身を包んだ。

 空気も、風も、視界の色も、近くで遊ぶ子供たちの声や姿も、パンの匂いも、同じままなのに。

 

 そこに佇む少女を、私の全身が拒絶していた。

 理性では何も理解できていない。初対面の少女を嫌う理由はなく、そんなつもりもないのに。

 

 ()()()私の中で叫んでいた。

 彼女から、離れるべきだ、と。

 だが、行動よりも先に、意識に来た。

 一瞬で気が遠くなり、地面を支えてる脚から力が抜ける。

 

 

 「貴女みたいなイレギュラー、初めてだよ……!? ……なんで? 何が、起きてるの!?」

 

 

 その言葉を最後まで聞けてはいなかった。

 意味を理解するよりも先に、全てが遠くなる。

 気を失う直前、私は悟った。

 

 ああ、ロイドさんに感じた、気持ちの悪さは、きっと、彼女が、由来――。

 

 

 ――――――■■、■■■■

 ――おおっと、其処までにして貰おうかね?

 

 

 「っは!?」

 

 ずるっと音を立てて腕が動き、私は姿勢を崩す。

 

 「え、あれ? 電車――の、中――?」

 「完全に舟を漕いでたよ」

 

 手荷物、お土産、武器、それら全てと私達。

 ベリルとフィーと同じ客室に、私は居た。

 西へと向かう列車の窓からは、地平線へと下がり始めた太陽が見える。

 夕方までもう少し。きっと明日も良い天気だろう。

 

 「…………なんか、……あれ? ねえ、フィー、私さっきまでクロスベルに居なかったっけ……?」

 「それは3時間前の話ね。帝都行きの列車に乗車したでしょ」

 「……乗ったんだっけ?」

 

 私の疑問に、フィーは何を言ってるのやら、という顔をした。

 ユウナと別れの挨拶をして、《龍楼飯店》で合流して、《アルカンシェル》に挨拶して、クラスの皆へのお土産も買って、見送りに来てくれたロイドさんやエステル達に挨拶して、電車に乗ったでしょ、と。

 

 「……そう、だっけ。いや、その記憶は、あるんだけど」

 

 その記憶はある。

 確かに私は、フィーの言う通り、列車に乗った。

 だが、何か大事なことを、忘れている気がする。

 もっと衝撃的で、身の危険を感じるヤバい相手に、出会ったような気が……するのだが……。

 

 「カタナ、それより、ベリル」

 「あえ?」

 

 ふと目線を落とすと、すうすうと寝息を立てるベリルが、居た。

 私の膝の上に。

 完全に膝枕をしている姿勢だった。

 普段は神秘的な彼女の、静かな寝顔だった。ちょっとドキドキする。

 

 「あんまり動くと落とすよ」

 

 おおっと。危ない。危ない。

 エオリアさんらから『怪我はもう大丈夫ですけど、体力が戻るまで良く休んでくださいね!』と言われている。普段、余裕そうな顔をしていても、活動限界は私らよりも短い。ここは寝かせておかねば。

 

 「……で、何か忘れ物でもした?」

 「……気のせいかなぁ」

 

 何か引っかかるが――まあ、でも、疲れて、夢見が悪かったのだろう。

 明日からの学院生活の為にも、この疲労は取っておかなければいけない。

 ぼんやりと考えている内に、列車内に放送が入る。

 

 ――次はトリスタ、トリスタです――

 

 それじゃあ、ベリルを起こすとしよう。

 寝顔もたっぷり見れたし弄ってやる。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「あの人から粗品が届いたわ」

 「……お詫び?」

 「ということらしいわね」

 

 ルシオラさんから、謝罪の手紙が届いたそうだ。

 巻き込んだ件に関して、丁寧な謝罪文と、推薦状が入っていたそうだ。

 

 「卒業したら、私の後を継いで『鏡の城』の占い師をしませんか、だそうよ。……就職先、1つ確保ね」

 

 私のルシオラさんへの、覚悟を決めた一撃も、ちゃんと受け取ってもらえた。

 結果、私とベリルの関係に、罅は入っていない。

 ほっとした私を見て、彼女は手を伸ばした。

 

 「フフ、色々あったけど、良くやったんじゃない? 褒めてあげましょう。――いいこいいこ」

 「ちょ、もう、頭撫でるのは反則……!」

 

 フフと笑いながら私を構ってくる。

 どうやら――寝顔を見られたことが、よっぽど癪だったらしい。

 ええい、私の髪を弄るなって!

 嫌じゃないけど!

 

 かくして、私とベリルの絆は、より深まったのであった。

 勿論フィーとの関係もね!

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「さて、それじゃあ話をしようか、至宝の巫女」

 

 少女に、声が届いた。

 

 何処でもない空間の、何処か。

 髪を撫でつけ、眼鏡をかけ、歪んだ笑みを浮かべたカタナ・N・アルビーが、座っている。

 正確に言えば、彼女の中の《白面》ワイスマンが、面白そうに座り、向かい合っている。

 

 「まず、尋ねよう。――()()()()()()

 

 少女――キーアは、ただ簡潔に言った。

 天真爛漫な表の顔とは真逆の、諦観と消耗と混乱を重ねたような瞳で、ただ一言。

 

 「覚えてないよ」




最後のシーンのために、今回の旅行を差し込んだと言っても過言ではありません。
勿論、ユウナとかルシオラとか《銀》とかも重要なんですけどね。

Q:カタナの投擲術
A:《銀》の技で苦無や手裏剣を「曲げる」ことが出来るようになった。
実は第1話「カタナ」の時点で、ゼフィランセスに対して使用している。やっと伏線回収できた。

Q:カタナの小太刀
A:なんと《斑鳩》が使う黒い小太刀。
《銀》曰く「どう考えてもカタナが手に入るものじゃない。何かある」とのこと。
それが偶然なのか、取違えなのか、カタナも知らない陰謀なのかは不明。
切れ味、耐久性、造形美、全てが超高品質で、この先もまず壊れない。
《黎の軌跡》ネタを出した人一番乗りになりたかった!
そう言えば、カタナのマスタークオーツは『朧』。何とも幸運な偶然です。

Q:キーアとワイスマン
A:この二人の会話はネタバレの山。今はまだ表に出せないのじゃ。

さあ帰ったらテスト期間。
それを終えたら、シャロンとの再会なんかを挟んで、いよいよブリオニア島へ出発です。

次回「テストからは逃げられない」。

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誤字脱字は気を見て修正しています。毎回ご指摘感謝。

それではまた。
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