カタナ、閃く   作:金枝篇

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通算UA10万越え、ありがとうございます!

更新遅れて申し訳ありません。
もっと早く更新したかったのですが、月姫とかサマーアドベンチャーとか地中海への出撃とか、やりたいタスクが沢山なのが悪い。テイルズも買ってしまった。

いよいよ《黎の軌跡》発売が近づいてきました。
表に出た情報も、ちょっとづつ摘んでシナリオに反映させてます。
まだ原作での情報が少ししか出ていない人とかも、顔出しさせてみました。


サブタイトル:生存フラグ、あるいは愉快な『結社』の皆さん


では、どうぞ!


テストからは逃げられない

 6月15日。火曜日。

 クロスベルから戻って来て二日後のこと。

 

 「フィーは、勉強、大丈夫?」

 「ん。エーデル先輩が見てくれてる。ヴィヴィさんも一緒」

 

 テスト前の進捗どうー? と尋ねに足を運んだ私に、フィーはそう答えた。

 明日16日水曜日から、士官学院はテスト期間に入る。私達一年生にとっては初のテストだ。

 4月から今まで習った部分、と範囲こそ狭く思えるが、なにせ今まで習ったことがない分野も多いから、油断は出来ない。基礎力を固めておかないと、今後に差し支えるし。

 《Ⅶ組》にはエマとマキアスを筆頭に頭脳派が揃っている。

 これで点数が悪かったら、サラ教官はお小言を受けるのだろう。

 

 更に言えば、各自の点数と、クラス平均点が掲示されるとのこと。

 となると、サボるわけにもいかない。

 そこで私は、フィーに声をかけたのだった。

 

 「ベリルから、試験の予想範囲、貰ってるから。エーデル部長も、自分の復習になるって、手を貸してくれてる。ヴィヴィさんも一緒だし。夜にも、エマから教わる予定」

 「ん、分かった。頑張って」

 

 ならば私は私で、勉学に励むだけだ。

 クロスベルでの空き時間、ベリルはちょこちょことテストの用意を進めてくれていた。

 占いで範囲を予想し、そこを重点的に解く。

 占いなので、ヤマを張るのと似たような物だ。その的中率が『どっかから問題入手してない?』と疑われるレベルで精度が高いだけである。

 

 「……んー……んー?」

 

 ということで、私もベリルと一緒に、勉強だ。

 オカルト研究会も、今日は部室を閉め、本校舎の一角で参考書を広げている。

 時々気分転換で屋上に昇ったりもしているが、集中している、と言えるだろう。

 

 (まあ、順位は、大丈夫でしょ)

 

 大体の講義は頭に記憶されている。

 過去問や予想問題集にも目を通したが、苦戦しそうな気配は無い。

 ワイスマンから教わっていた知識が大きすぎた、とも言える。

 伊達に考古学者やって《環》を解放した訳ではない。ヤツの頭は本物だった。

 古い文章や資料を読み解くための『古典』知識。

 遺物の成り立ちを解明する『歴史』。

 構造や装飾を理解するための『美術史』と、はっきり言ってものすごく幅が広かった。

 『政治経済』の知識は、工作員として社交界に潜り込むのに必須だったから、これも問題なし。

 『導力学』、『保健体育』は結社時代に学んでいる。忘れていなかった。良し。

 

 「何か気になるところでもあった?」

 「ん、いや、学業は、問題ない、んだけど。なんか……調子が良い」

 「良いことじゃない、フフ」

 「いや……なんか、良すぎる」

 

 計算をしても、前より計算速度が上がっている。

 少し見ただけで歴史の年表を諳んじる事ができている。

 ワイスマンに習った細かな知識も、すんなりと思い出せる。

 なんというか……机が広がったみたいな感覚だった。

 

 「こう、今迄は普通の机で作業していたのが……広さが倍になって、効率上がったみたいな」

 「……クロスベルの一件で何か目覚めたのかしらね?」

 

 ……なんか冗談で笑えなさそうで、嫌だな、それ。

 確かに妙な違和感を、クロスベルで持ったのは確かだ。

 記憶の中では整合性が取れているし、アレ以上のとんでもイベントは来ていない筈なのだが。

 

 「……とりあえず、テストで有効活用させてもらう。終わってから、考える」

 

 明日から4日間で8科目。午前と午後、それぞれに1科目ずつの長丁場。

 糖分補給と睡眠を怠らないようにして、頑張ろう。

 ……それにしても。

 

 「……あー、なんか、色々思い出したなあ」

 

 頭が妙にすっきりした結果か、今迄は忘れていた――隠れていた記憶が、出てきている。

 何かが目覚めた、もとい封印が緩んだというのも、強ち間違いではないかもしれない。

 

 確か、あれも、一つのテストの話。

 何時もの戦闘訓練に、妙に乗り気な《鋼》様が、やって来て。

 おまけとばかりに、一風変わったゲストがやってきた日があった。

 

 「……ちょっと出てくる。エマ探してくる」

 「多分、カフェテリアで自習をしていると思うわ。いってらっしゃい」

 

 廊下を足早に抜けて、カフェテリアに。

 灰色の雲の下、降る小雨は微かに重く、郷愁を誘う臭いがする。

 入ってすぐ見つけて、目の前の席に座った。

 

 ……ああ、忘れていたとも。

 私の頭は、どうにも都合が悪い事は、忘れるように出来ているらしい。

 でも、思い出したのなら。

 やっぱ伝えておかないと、と思うのだ。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 『結社』における戦闘訓練というのは、幾つかのバリエーションに分けられる。

 

 記憶処理を前提とした猟兵を雇うこともあるが、執行者や執行者候補生は、組織に運用される施設内で研鑽だ。大抵の場合、そのどれもがかなり過酷だ。脱落する者は多く、脱落しても救う人間は少ない。

 

 1つは自然環境を利用した、サバイバル技術。環境的に厳しい場所で鍛える訓練。

 1つは武器や導力器、人形兵器の知識や運用方法。導力ネットの扱いも此処に入る。割と専門性が強いので、取得する余裕がある人間は多くない。私はワイスマンの勧め(強制)もあって取ったけど。

 そして最後の1つが、戦闘訓練だ。

 

 単語で想像出来ると思う。

 『結社』お手製の多々ある人形兵器や、同じ階級同士での模擬戦、そして『執行者』や『使徒』の皆さんからの手解きまで、一番過酷で、一番容赦がない訓練が課されるのだ。

 

 「では、今日は私が指導しましょう」

 「……来てしまいましたわね、一月ぶりの地獄が……」

 「おやデュバリィ、地獄とは中々良い言葉を使いますね」

 

 我らが前に顔を出したのは、鎧に身を包み、身の丈以上の大槍を構えた聖女様。

 『結社』最強の戦力とも呼ばれる《鋼》のアリアンロード様だった。

 

 「そ、そうで、でしょうか? いえ、深い意味はありませんけど?」

 「ええ――つまり今迄の鍛錬は、地獄でしか無かったと。私は私なりに、地獄よりもやや厳しい鍛錬をやってきたつもりでしたが……それが甘いというならば、もう少し気合を入れましょうか」

 

 しれっと言われた言葉に、(一応友人に該当するかもしれない)デュバリィの顔が凍る。

 

 「デュバリィの阿呆。どアホ。馬鹿め……」

 「お前憶えとけよ。食事代奢るだけじゃ済まないからな……!」

 「……明日動けるか心配でなりませんわ」

 

 私、アイネス、エンネアと揃ってデュバリィに怨嗟のツッコミを入れた。

 年齢が近いことと、執行者ではないけど使徒のサポートをしている点で、私達はそれなりに一緒の時間を過ごしていた。任務こそ別々だが、休みの時に顔を合わせるのはしょっちゅうだった。

 必然、三人の鍛錬に、私も同行することになる……。

 

 「や、やるしかありませんわ!」

 「……き、今日はせめて15分くらいは耐えよう、か」

 

 剣、小太刀、槍、弓を構える私達。

 当然ながらアリアンロード様を相手にして()()()訳がない。

 この鍛錬の肝は()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

 聖女様が私達4人を倒すだけなら、本気で薙ぎ払えば事足りる。秒殺だ。

 なにせデュバリィが100回に1回くらい勝てる《剣帝》を、片手で捻れるのだから。

 アリアンロード様は、ソレを少しだけ加減する。

 全力で回避と防御に専念すれば、ギリギリこちらが脱落しない程度に、手加減をして攻撃する。場合によっては死なない程度に急所すら狙ってくる(無論、下手をすると重症だ)。

 それが延々と続く。

 精神と肉体をギリギリまで消耗させる、油断も一息入れる暇もない、地獄なのだ。

 

 「……なあ、折角だから、妾も参加させてくれぬかなあ」

 

 だが、そんな私達の緊張を破る、声があった。

 声は背後から。私達よりも先に、声の主を見たアリアンロード様は、驚愕していた。

 小さく『何故、此処に?』と呟いたのが、見えた。

 

 「何故って、なにもない。あんな手紙見て「まあ良いか」で放置出来るほど、妾はお主との友情捨てておらんわ」

 「……だからといって、乗り込んできますか? 此処は箱舟の中ですよ?」

 

 振り向く。

 長い長い金の髪と、真っ赤な瞳が見えた。

 背丈は私と同じくらい。外見だけならば、幼く見える。

 だが立ち振舞と、何よりも瞳に浮かぶ老成した感情が、外見よりも遥かに歳を重ねていると伝えていた。

 

 「……貴方は」

 

 私は、その顔を知っていた。

 アリアンロード様に頼まれて、魔女の郷《エリン》へと手紙を届けた時に、出会った人。

 後に出会うエマや、上司として知ることになるヴィータ様ら、魔女の総纏め。

 吸血鬼とも伝えられる、帝国の歴史の生き証人。

 

 《緋》のローゼリア・ミルスティン。

 

 嘗て手紙を贈ってから、もう暫くの時間が経っているが……何故、今此処に?

 

 「まあ、一つは郷から消えたヴィータを探してのことじゃな。……だが、どうにも妾には会いたくないらしく、探しても逃げられるばかりでな……。――ならばと、もう一つの用事を済ませようと思った」

 

 そこまで話して、彼女は私を見た。

 

 「娘よ。お前が届けてきてくれた手紙、読んだぞ。――内容知っておったか?」

 「い、いえ。まさか。そんな、任務の中身を知るなんて、工作員、失格ですから」

 

 じゃろうな、と彼女は笑った。

 お陰で追いつけた、とも。

 

 「平たく言うと別れの挨拶が書かれていてな」

 「……そんな物を書いた覚えはありません」

 

 鋼のようにぴしゃっと否定した彼女への追求を、ローゼリアさんは辞めなかった。

 

 「書いてあったわ。それとも何か? 『私は心配ありません。今後も手紙を送ります』がそうではないとは言わせん。 ……何故、直接会えんのだ? 心配ないと言ってる奴ほど何か小さなことでも気にしているもんじゃろ。文脈と筆跡で丸分かりじゃ」

 

 すうっ、と緋の視線が鋭くなった。

 

 「何年の付き合いだと思っておる。お主が『結社』の誘いを受けることは別に良い。良い大人だからな、逐一仕事の相談しろとも言わんわ。――だが、友情を無碍にする考えは許さん。お前の()()()は、世間一般常識に照らし合わせると強すぎる。そういうのは大丈夫とは言わんのだ」

 

 とはいえ、真意を読み解いた後も、どう動くかは結構迷っていたらしい。

 だから今になって顔を見せたということか。

 

 「……ローゼリア、貴方の気持ちは分かりました。……言い方が悪かったのは、謝罪します」

 

 両者は睨み合う。

 私達はそそくさと二人の間から離れ、様子を伺うのみだ。

 これは……もしや地獄を味わわずに済むのでは無いだろうか?

 

 「ですが、やはり貴方への迷惑や……計画が及ぼす影響を考えると、貴方との縁は切っておきたい。貴方が大事な友人だからこそ、巻き込みたくはない。私達に、加担させたくはありません」

 「加担するしないは、妾が決めるわ!馬鹿者め!」

 

 切り捨てて、ローゼリアさんは一歩前に出た。

 風が吹く甲板の上だというのに、大気が軋んだ気がした。

 

 「主が悪事を働くなら止めようと思うのは当然。そして、覚悟を持ってやってるにせよ、見ないふりをしろと言うのは都合が良すぎるじゃろ。知った上で幻滅するか、受け入れるか、それは妾が見て決める。……そしてなあ」

 

 はあ、とローゼリアさんは面倒そうな息を吐いた。

 

 「お主は、妾が此処まで言っても、まず動かん。テコでも動かん。頑丈さと頑固さと意志の強さは、ドライケルスと同じ筋金入りと来た! 手紙で意見を翻すなら、出向かんわ」

 

 なら、方法は一つしか無いじゃろ。

 一歩進んだ時には、巨大な杖を取り出していた。

 

 「――喧嘩して勝ったほうの我儘を通す、ということですか」

 「分かりやすいじゃろう?」

 「確かに分かりやすい。ですが、私に勝てるとお思いですか」

 

 聖女様の目が座る。

 顔に現れた気合は『本気になります』という合図だ。

 一息、二息と呼吸をするごとに練られる気が、全身を覆っていく。槍を握る手に籠められた力は、私達を相手にした鍛錬では、決して見れない、強さの頂きの証だ。

 ローゼリアさんは、卓越した技量を持つ魔女だ。

 その辺の『執行者』よりは強い。だが……アリアンロード様に勝てるかと言えば……。

 

 「誰が妾一人で相手をすると言った?」

 

 ローゼリアさんは私達を見た。

 察した。

 

 ……だからこのタイミングで出てきたのかよ!

 ローゼリアさん1人でも無理だとしても、彼女の支援(妨害、強化、回復)を受けた私達4人が追加されたら、多少可能性は上がる。それでも勝てるとは思えないが、単体よりは遥かにマシだ。

 結局私達は、この鍛錬からは逃げられないらしい。

 

 「お主ら()入れ。何、心配するな。他にも参加したい奴は居た」

 「……他にもですか」

 「リアンヌ、お前に我儘を言えるかもと言ったら、じゃあと手を上げたやつは沢山居たぞ?」

 

 からからと愉快そうに笑う。

 覇気に飲まれることなく、楽しそうに、笑っている。

 ……どうやら此処に来るまでの間、主だった戦力に声をかけてきたらしい。

 離れた場所に居た面々にも声をかけ、転移術で一時的に箱舟に呼び寄せたのだ。

 

 「そうだな……。……相手してもらおうじゃねえか」

 

 煙草の香りがする。

 扉を開けて出てきたのは《痩せ狼》ヴァルター・クロンだった。

 ……ああ、うん、大分こっちの戦力強化されたね。

 

 「ええ、そうね。私達も参加させて。お茶会は賑やかな方が良いでしょう?」

 

 くすくすとした微笑みが重なる。

 ……私達が居る此処は、グロリアスの甲板だ。

 戦闘訓練は、その規模によって使う場所が変わる。室内戦、野外戦様々だが、アリアンロード様との戦いは、大体がグロリアスの甲板上だ。

 風は強いが、普段は低めの柵をかなり高く伸ばして行うから、落下の心配はない。

 その柵の上に、足をぶらぶらさせた《殲滅天使》が座っていた。

 《パテル=マテル》は船へのダメージを考えると使えないだろうが、大鎌とアーツで十分だ。

 

 「……」

 

 その横、無言の――当時はまだブライト家に派遣されていなかったヨシュアさんも並ぶ。

 私達の上位互換が、それぞれ増えた形になるわけだ。

 

 「…………なるほど、一筋縄では行かなそうですね」

 「いや、まだ終わっておらんぞ?」

 

 ローゼリアさんがパチリと指を鳴らす。

 次にやってきたのは、女性陣だった。

 立ち振舞が艶やかだったり、貞淑だったり、風雅であったり。

 順番に、ルシオラさんとクルーガーさんと――。

 

 「イ、イスレさんまで……? これはまた、意外、ですね」

 「若い子らに付き合うのは、わるぅないやろ?」

 

 目元をベールで覆った、黒い服の女性。紫の花飾りと、蝶々の刺繍があしらわれている。

 執行者NoⅢ。《黄金蝶》ルクレツィア・イスレさん――彼女まで、参加を希望している。

 となると。

 

 「だってねえ、面白そうではないかね?」

 「……まあ、お前が、見逃すはず、無いか」

 

 私の真横に、これまた楽しそうに笑うブルブランが居た。

 これで終わりかと思いきや。

 ダメ押しとばかりに、やってくる化け物達。

 全員の間を通り抜け、ローゼリアに並ぶように立つ、美丈夫が二人。

 

 「滅多に無い機会だ。精々《鋼》様には頑張ってもらわねえとな……」

 「俺は兎も角、お前が参加するとは思わなかった」

 「はっ……。……てめえとの共闘なんて滅多に出来ないだろう。しかも二人で挑んでもそうは倒れねえ英雄が相手なんだ。この期を逃したらもうないだろうからな。――違うかレオンハルト」

 「……そうだな、違いない。マクバーン」

 

 互いに剣を取り出し、構える。

 二つの剣。《アングバール》と《ケルンバイター》が掲げられる。

 《劫焔》マクバーンと《剣帝》レオンハルト。

 この二人の連携とか、多分この先何度見られるかも分からない。

 

 というかこの面々を引っ張り込んだローゼリアさんがやばすぎる。

 ……何を理由にどうやって引っ張り出したんだよ!

 長生きは伊達ではないらしい。

 

 「お前を誘ったという『盟主』様とやらには会えんかったがな」

 

 長年の友人を誘った相手が何者だったのかを探ろうとしたそうだ。

 流石に出会えず、代わりに『執行者』の面々と出会うことになったらしい。

 そこで、別に親しくはなくとも、声をかけれる程度の関係を作れたのは、年の功だろう。

 

 つまり――聖女様は――たった一人で――。

 《劫炎》《剣帝》《黄金蝶》《幻惑の鈴》《痩せ狼》《死線》《怪盗紳士》《漆黒の牙》《殲滅天使》ら執行者オールスターズに加え、本気モードのローゼリアさんと、デュバリィ・アイネス・エンネアと、おまけに私。総勢14人を相手にすることになるわけだ。

 

 ワイスマンやノバルティス博士制作の人形兵器は居ない。

 《破戒》ことエルロイ・ハーウッド様も不在だけれど、それは気休めにしかならない。

 

 「…………」

 

 流石のアリアンロード様も、固まっていた。

 その頬が若干引き攣っているのは、見間違いではないだろう。

 こんな光景、この先一生見れる気がしない。

 

 「妾の本気、理解してくれたかの?」

 「良いでしょう。……ええ、良いでしょう!」

 

 アリアンロード様は兜を脱いで、槍を構えた。マントが翻った。本気モードだった。

 あんまりにもあんまりな光景に、若干普段の冷静さが消えている。

 

 「今迄皆に鍛錬させてたんじゃ。偶にはお前が劣勢になっても良いだろう?」

 

 くくくくと悪い笑顔を浮かべるローゼリアさん。

 

 つまり。

 今までは私らが逃げられない―と嘆いていたが。

 アリアンロード様ですら、逃げられないという意味になったのだ!

 

 「その面々であっても私に勝てないと思い知らせてあげましょう!」

 「じゃ、僕が審判ねー」

 

 しれっと空中に浮かんでいるのは、カンパネルラさんだ。

 

 「掛かってきなさい《身喰らう蛇》……! 悪の力で私を倒せるとは思わないことです!」

 「言ってろリアンヌ! 囲んで叩いてごめんなさいと言わせてやるわーっ!」

 

 どっちが正義の味方なのかさっぱり分からない言動で、二つの波動がぶつかり合う。

 後に、《蛇》が最も多大な被害を負ったとされる大喧嘩は、こうして幕を開けたのである。

 

 え、結果がどうなったかって?

 アリアンロード様が奮戦しまくってほとんど全滅したが、マクバーンさんとローゼリアさんで辛うじて耐えきり、勝利を掴んだ形になった。

 因みに乗っていたグロリアスは墜落した。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「そんな事してたんですか……」

 「してた。……まあ、ローゼリアさんが、戦い終わった後に、どんな会話をしたかは、聞いてないんだけどさ。……でも、なんか頭撫でられたよ」

 

 カフェテリアで私の話を聞いたエマは、呆れた顔だった。

 

 海に落下したグロリアスを、そのままにはしておけない。

 在野の技術を遥かに超えるオーバーテクノロジーだ。どこぞの組織に渡っても困る。

 審判を終えたカンパネルラから『盟主様からの罰則ねー、参加した人全員で回収してねー』という指示が出され、各自は海中の残骸処理に専念する羽目になった。

 

 そして後片付けの合間を使い、ローゼリアさんはアリアンロード様と、会話をしたようだった。

 二人仲良く、粗大ゴミを片付けながら。

 ……帝国の歴史を知ってる人間なら気絶しかねない光景だな、うん。

 

 『礼を言うぞ、エカターニャ』

 

 そしてそれが終わった後で。

 彼女はそのまま続けたのだ。

 この機会が無かったら、きっと仲違いをしたままだっただろう、と。

 

 『昔っからあいつは気遣いが下手でな……。昔から変わってない。だが、昔のままだと放置していたら、きっと妾との……仲直りの時間は、ずっと遠かっただろう。最悪、リアンヌが死ぬまで理解しあえんかったかもしれん。その機会を、お前は与えたのだ』

 「……別に」

 

 当時の私は、その時間がどれほどの価値を持っているか、理解していなかった。

 ただ、誰かに優しく頭を撫でられたことなど、記憶の中でも滅多に無かったから、くすぐったかった。

 

 「……まあ、それで私とローゼリアさんの出会いは、終わったんだけど」

 

 これ以上忘れていることも無い。

 あれ以来、私は彼女に会ってない。

 騒動の後、こっそりと戻ってきたヴィータ様からは「もうやらないで」と笑顔で忠告を受けた。

 本気で嫌だったのだろう。

 

 エルロイ様とノバルティス博士はその戦いの記録を見て傑作だと喝采をあげたそうだ。

 よっぽど面白いデータだったらしい。笑ったのは久しぶりという感想も耳にした。

 

 「なんで私にそれを伝えたんですか?」

 「……話したかったからだよ」

 

 気付けば日は落ちて、空は暗い。雲に覆われて余計に薄暗く、外灯もぼうっと光っている。

 カフェテリアで勉強していた他の生徒も、三々五々に解散している。

 疎らになった周囲から残されて、私はエマと向かい合っている。

 

 「だってエマ、なんか私に壁あるし」

 

 私の言葉を、否定しなかった。否定できなかったんだろう。

 まあ……彼女の複雑な胸中は、4月から今までなんとなく分かっている。

 私自身への信頼信用はあっても、私の経歴と人間関係まで含めて飲み込めは、無理がある。

 でも、だからこそ。

 

 「話しておきたかった。本当に、それだけ!」

 

 ローゼリアさんと親しいといえば、少しは肩の荷も降ろしてくれるだろうかという、気遣いだ。

 なんか沈んでいる顔のエマに、私は気にしないでと伝えた。

 別に……まあ、過去を考えれば、信じきれないのもよく分かる。

 エマなりに努力していることも分かっている。実際、オリエンテーリングや、サラ教官の時や、バリアハートでの一件や。そうした時、本当に色々助けて貰っている。

 

 「だから……こう……私はエマを信じて待ってる。それで良いでしょ?」

 

 私の言葉に、彼女はぱちくりと目を瞬かせて。

 

 「……なんか、4月より強くなりましたね」

 

 そんな事を言われてしまった。

 

 「わ、私も少しは成長してる! ……皆頑張ってるんだもん。置いていかれるとか嫌じゃん」

 

 士官学院の皆だけじゃないぞ。ユウナさんもそうだった。

 今の私は――うん、単純に、育つことが、努力することが、楽しみなのだろう。

 人間、目標があると元気になる。

 ルシオラさんに宣言してしまった以上、私はその約束を果たしたい。

 

 「じゃ、テスト互いに頑張ろ」

 

 吐き出してすっきりした。

 

 テストに限らず、試練も、目標も、逃げようと思って逃げられるものではない。

 逃げたとしても、やがて巡って自分の前に、形を変えて立ちはだかる。

 結局どっかで覚悟を決めるしか無いのだ。

 後ろ向きな私だが、逃げっぱなしも……もう飽きたのだ。

 

 エマは、私にそれ以上、何かを言わなかった。

 静かに、何かを考えながら、見送ってくれた。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 さて、後日の話。

 6月23日、水曜日。

 廊下に張り出されたテスト結果を確認し、私は拳を握る。

 

 合計得点は913点。

 学年11位だ。

 

 「……最後の方でスタミナ切れたのが痛かったなぁ」

 

 握った拳は、達成感と、僅かな悔しさ。

 頭がはっきりした影響もあって、恐らく今まで以上に集中して取り組めたのだ、が。

 ……その分、脳への負担も大きかったらしい。

 最後の方で眠気に襲われ、ミスが目立ったのが痛かった。

 

 「学年平均は……889点」

 

 2位の《Ⅰ組》とは45点もの差がついている。

 私の点数もそうだが……フィーもかなり伸びたようだ。620点、67位と書かれている。

 

 「これならサラ教官も鼻高々、だね、V(ブイ)

 

 フィーのVサインもよく分かる。

 というか2年下で、日曜学校もロクに通っていない、フィーよりも成績が悪いのはどうなんだ?

 まあでも、これならばサラ教官も自慢出来るだろう。

 やったと全員でハイタッチを交わしていく。

 

 「エマも、流石!」

 「結果を出せて、良かったです」

 

 いぇーいと互いの手を叩く。気持ちのいい音が響く。

 

 そして同時に。

 ARCUSが、輝いた。

 私のとエマのとが、同時に。

 

 「……わお」

 

 こういうことも、あるらしい。




Q:テストの結果
カタナ(913点。11位)。ミスさえしなければ930点ほどで、リィンを抜かして7位。
地頭も決して悪くないが、一番の強みは知識。
ワイスマンの教育を受けた執行者候補生である。兎に角、知識が非常に幅広い。
クロスベルからの帰国後、なんか処理能力も上がった。

フィー(67位:620点)。原作より80点ほどアップ。
エマだけでなく、ベリルのノートと、エーデル先輩の功績。
因みにヴィヴィちゃんも影響され、原作よりも少しだけ順位が上がっていたりする。


Q:アリアンロード VS 結社オールスターズ
1:カタナやデュバリィなど前衛の低レベル組が撃破される(アリアンロードHP残り85%)。
2:中衛をしていたシャロンやブルブラン、ヨシュア、レンらが次いで撃破される(残り65)。
3:後衛だったルシオラやエンネアも撃破されるが、ローゼリアは耐えた(残り45)。
4:ヴァルターやイスレ等、残っていたタフな面々が撃破される(残り20)。
5:どんどん戦力が欠けていく中奮戦していたレーヴェ、ついに撃破される(残り10)。
6:《火焔魔人》化したマクバーンと、全部を振り絞ったローゼリアが生存(残りHP0)。
結果を受け、彼女は「もっと強くならねば」と決意を新たにした。
この結果、『閃Ⅳ』における死亡フラグも消滅した。
……分校長との会合がどうなるのか楽しみである。大丈夫だろうか、ゼムリア大陸。

次回「少女修行中」

特別実習の前に、師匠との再会が入ります。
さあ頑張れカタナ、シャロンの特訓は厳しいぞ!
感想評価お待ちしてます。
ではまた!
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