カタナ、閃く   作:金枝篇

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十人十色の子獅子達

 (これ、は)

 

 岡目八目という言葉がある。盤面遊戯を見学している人間は、実際に指している者より八手先を見通すことができるという意味だ。俯瞰的な視点を有する人間は、直接相手と対峙している時よりも冷静に、客観的に、盤面を理解し、最適な方法を導くことが出来る。

 

 その時に感じた光景は、まさにそれだった。

 戦場の中に私が居る。だけど他の9人もいる。

 見えない位置に居る後衛の皆が分かる。

 相手の視界の中で私がどんな風に見えているのかが分かる。

 まるで意思が一つに集まったように、相手の行動が見ないでも分かり、繋がっている。

 

 「っ。――俺が正面! ラウラは左、ガイウスとユーシスは右だ!」

 「私の仕事は、あの剣を受け止めることだな?」

 「話が早くて助かる!」

 

 リィンが真っ先に動き、指示を出す。前衛を三方向。

 敵を中心に、三時の方向にガイウスとユーシス。9時の方向にラウラ。6時の方向にリィン自身。

 

 騎士は基本的に右で剣を持っていた。私達から見て左だ。

 だからそちらにラウラを置き、一番厄介で威力が高い相手の剣戟を防ぐ。

 右から左に向かって振り下ろされる剣ならば、ラウラならば勢いが付かない間に踏み込み、抑えることも出来るし、適度に妨害が出来るだろ。

 そして一番厄介な―― 一撃でこちらを倒してくる大剣さえ防げれば、ガーゴイルの攻撃は、リィン、ユーシス&ガイウスでなら何とかなる。

 リーチが長くカバーできるガイウスと速度があるユーシスを一緒にすれば攻防両方を補える。ガーゴイルを足止めさせながら攻撃を入れ続けるのだ。

 

 (う、上手い……! リィン、やっぱ素質ある……!)

 「アリサはユーシスと俺の間、マキアスはラウラと俺の間から敵を狙うんだ! 余裕がある時だけで良い! 出来る限りエリオットとエマの2人を助けてやってくれ。エリオットは回復に専念、エマは回復薬を惜しまずに使って味方全員に強化魔法を頼む!」

 

 アリサを4時、マキアスを8時に配置。

 軍隊で言う『鶴翼の陣』だ。

 リィンの指示(オーダー)に、全員が自然と位置を変えた。

 

 こういう才能は、こればっかりは、生まれ持った資質だ。

 普通に指示を出しても従いやすい奴、従いにくい奴と差が出る。

 リィンの指示は不快感を与えない。だから素直に従う。マキアスでも「今はそれが一番か」と頷くような、カリスマ性。

 最後に私とフィーに向けて彼は言った。

 

 「フィー、カタナ、二人は自由に援護してくれ。任せたぞ!」

 「……ん、任せて」

 

 その言葉に、私は、頬が動くのを抑えられなかった。

 そんな風に言ってくれたこと、私を信じてくれたこと、それが嬉しくて――同時に、そんな風に言えるリィンが眩しくて――私は、自分でも気持ちが悪いくらいに気分が高揚するのを、我慢出来なかったのだ。

 自分で言うのもなんだけど、ちょっと不気味な笑顔を浮かべていたと思う。

 陣形が整うや否や、間を置かずリィンが斬りかかった。

 

 「行くぞ!」

 

 応答が響き、前衛と中衛が同時に動いた。

 全部で六人。前と左右と左右斜め。

 それら六つに対して敵が行った行動は、防御だ。

 鎧の騎士がラウラの剣を止める。ガーゴイルの角がリィンを止める。弓矢と銃弾は無視。翼と尾で、出来る限りガイウスとユーシスの妨害をする。だが全ては止められない。

 

 「――はぁっ!」

 

 ユーシスの斬撃が、ガーゴイルの妨害を掻い潜った。

 他の3人より軽い。だが速度がある。

 連続で振り抜かれた速き刺突(クイックスラスト)の威力は高くない。

 だが相手は姿勢を崩し蹈鞴を踏む。

 そのワンアクションは、一人が追撃に入るのに十分な時間を作った。

 その瞬間を槍が穿った。

 ガイウスの槍だ。『風の槍(ゲイルスティング)』は相手に浸透した。

 叩き付けられた風が相手に付きまとう様に流れ、微かに速度が落ちる。

 相乗効果。両者共に適性が「風」なのも相まって、二つの攻撃は僅かな時間でダメージを積み上げていく。ガイウスとユーシスが先んじて同じチームBで互いの呼吸を読めていたのもある。

 貫く。突く。貫く! 突く! それが響き、相手に浸透していく!

 

 「リ、リィンさん、ちょっとごめん、ねっ!」

 

 相手が怯んだ隙は、見逃してはならない。

 ガーゴイルの頭部は、リィンの胸から腰くらいで動いている。

 必然、それを抑えるリィンの構えは低く、重心が下がっている。

 だから――。

 

 「「踏む(よ)!!」」

 

 私――いや、「私達」は狙った。

 加速した私とフィーは、リィンの背中を足場に駆け上がる。

 

 「む、胸!」

 「Jar(ヤー)!」

 

 ラウラとリィンに目を取られ、ユーシスを防げなかった。

 それが変化する。ユーシスとガイウスのリンクへと注意が向いた瞬間を狙う!

 リィンを台にして高さと速度を稼ぐ!

 そして駆けた運動エネルギーをそのまま――騎士の胴体を、全力で()()()()()

 脚力、速度、タイミングまで合わさったダブルドロップキック……!

 

 「っし!」

 「タイミング、ばっちり……!」

 

 互いのスカートが翻る。

 白い腿の生足が四つ、相手の上半身に着弾。

 騎乗した鎧に、後ろに倒れこむ動きを与える。

 

 ――重心が崩れれば、こっちの物だ!

 

 そのまま、その倒れかけた騎士の胴体を足場に、跳躍。

 

 ――加速する。加速。そう。加速だ。どんどんと速度が上がっていく。私とフィーの回転率が上がっていく。同年代で、しかも見知らぬ場所で、なのに()()()()

 頭の中からガンガンと興奮物質が溢れてきて、足腰の疲労が消える。

 ()()は出来ないけど、速度は、保てる……!

 

 相手が姿勢を崩した瞬間、リィンとラウラが揃って動いた。リィンは右に、ラウラは左に。動いて生まれた空隙に、マキアスが弾丸を叩きこむ。その数秒後にはリィンが左に動き、今度はユーシス達との合間に矢が刺さる!

 弾丸も、矢も、頑丈な鎧を破るには足りない。だが僅かずつではあるが、確かに蓄積していく。

 全ては視界には映らないのに、それが手に取るように分かる。

 目線があった。フィーだ。彼女は挑戦的な瞳を、私に向ける。

 

 「付いてこれる?」

 「良いよ。上げようか……速度……!」

 

 フィーの方こそ付いて来れるよね? という意味を込めて、私は肯定を口に出す。

 互いのギアが更に入った。私の長い髪が空中に流れていく。

 ばかりか私達の速度に影響されたように、他八人の行動速度が上がった。刃の速度が上がり、場所を入れ替えての立ち回りが廻り、詠唱が最適化され、流れが加速していく。

 それを打ち破らんと、鎧騎士とガーゴイルが咆哮を上げた。

 

 「――ヂ、ヂヂヂヂッ!!」

 

 鎧の中にエネルギーが満ちていく。その内部に蓄えられた魔力が雷へと変換される。

 騎乗されたガーゴイルが、その力を受け、羽を広げた。

 雷の力を孕んだ翼の大振りは、小さな嵐と化して部屋に吹き荒れる。前衛組は、その風圧に姿勢を崩す。思わず乱れた陣形を、奴は狙った。

 

 揚力を推進力に変え、陣形の一角――ユーシスとガイウスの元に突撃を慣行!

 身体能力と武器の違い。立て直し即座に妨害が可能だったガイウスと、耐久力で劣るユーシスの元に!

 僅かな綻びを食い破らんと、敵が叫び。

 

 「「うるさい!」よ!」

 

 鎧を蹴った後、着地した私達が、妨害した。

 吼えた顎を私が下から真横に蹴り飛ばす! 同時にフィーが踏み付ける!

 ゴリっと鈍い音がしてガーゴイルの声が曇る。頑丈な頭蓋骨にダメージは無い。だが。

 

 「っらぁ!」

 

 蹴り飛ばしたついでに、手に握っていた()()を目玉に叩き付ける。

 

 「わ、私の矢っ!? いつの間に!?」

 

 先程、鎧に弾かれた、アリサの矢。それを拾っていた私が、(やじり)を突き刺したのだ。

 目玉まで岩石造り。苦痛という意味では効果は薄い。だが()()()()()は別だ!

 攻撃と同時、私のARCUSが――その中の『オボロ』が輝く。相手の視界を塞ぐ。

 今頃、あのガーゴイルは周囲が何も見えない――『暗闇』の中に居るだろうさ!

 

 「ゴ、ァ、ルァアアア!!」

 

 首を振ったガーゴイルの頭に、手をひっかけ、その勢いに従う様に身体を自分から跳ばす。

 鎧の騎士の前に、私は運ばれる。私の長い髪が、空中に広がる。

 奴の視界の一面全てを、その瞬間、確かに私一人に集めたのだ。

 相手のセンサーには何が映っているだろう? 私か? 私の足か? それとも私のスカートの中か? だが悪いな、それらは全て――。

 

 「ゆ、誘導……!」

 

 真後ろからフィーが銃剣を連続で叩き込む。先程は胸板を思い切りドツかれ、今度は背中からドツかれ。さぞ苛立っただろう鎧を、私は蹴り飛ばして後ろに下がる。

 長い髪が離れ、奴の視界が解放される。

 そして、そこには、刃を振りかぶったリィンとラウラが、既に行動に移っている……!

 二つの鋼が叩き込まれ、鎧にピシリという音がした。

 

 「も、もう、一息……っ!」

 

 刃二つを、その罅に重ね、傷を広げるように振るう。

 

 ――入った!

 

 ARCUSが光る。武器に共鳴した「オボロ」が敵に異常を付与。

 相手に纏わりつくように封印が施され、その魔法を封じる!

 

 「―――――!」

 

 敵が気力を振り絞る音が聞こえた。

 「嵌め殺される」と理解をした。

 それは本能的な行動で、機械的な判断だったかもしれない。

 

 だが奴は悟った。

 このままでは負ける(私達が勝つ)と。

 

 そして動いた。

 先程のように、ユーシス&ガイウスのコンビへ、加速と共に駆ける。

 それを二人は回避しようとして。

 

 「ぬう……っ!!」

 「ちいっ!」

 

 踏ん張った。奴の狙いを悟ったのだ。

 ガーゴイル達が突き進んだ先に居るのは、二人ではない。

 アリサだ。

 ARCUSが瞬く。繋がった意識が行動を変化させる。相手の暴走を、連携が防ぐ。

 なりふり構わずに飛び込んでくるガーゴイルと騎士鎧、それらを二人で受け止め、押されながらも時間を稼ぐ!

 

 「帝国貴族として女子供に対して攻撃をさせるわけにはいかないのでな……!」

 「帝国貴族ではないが! 此処で退くわけにはいかないのは! 同感だ……!!」

 

 後先を考えない敵の暴走。

 無論、リィンもラウラも、させるかとばかりに攻撃をするが、奴はそれを無視した。

 肉を切らせて骨を断つ。鬱陶しい中衛と後衛を始末すれば、あとは力任せに暴れても勝ち目があると判断をしたのだ。此処が勝負所とばかり、奴は暴れる。猛烈に暴れる。ガーゴイルに至っては視界が見えていないが故、暴れたら隙を晒し、攻撃を受けてすらいる。

 だが一切の被害を考慮しない暴れっぷりは、こちらに届いた。

 ガイウスの顔も歪み、ユーシスは膝をついた。だが防御する武器から手は離さない。全霊を込めて突撃の重さに耐え、背後のアリサへ一歩たりとも進ませまいと全力を奮う――!

 

 「ちょ、ちょっとごめんねアリサさん……、し、舌、噛まないように!」

 

 ――私が、間に合った。

 着地と同時、ガーゴイルの周囲を、六時から三時の方へ。ぐるりと回りこみ、アリサを横から攫うように抱えあげる。いわゆるお姫様抱っこだ。相手がリィンじゃないのは勘弁してもらおう。

 小柄な私だが、勢いがあれば僅かの時間、僅かな距離を、アリサを運搬するくらいは出来る!

 適当な場所まで運び、彼女が無事に脚から着地して弓を構えたのを確認し、即座に私は動く。

 遊撃役は、足を止めては居られない。振り向いて敵へ向かうと、今にもユーシスとガイウスが潰されかけていた。腕が限界を迎え、二人が飲み込まれる直前。

 

 「《フォルテ》!」

 

 詠唱は、エマから。燃え上がるような炎の加護が、ガイウスに届いた。寸前で踏ん張る。そして強化された筋力を持って、耐える。だが、流石に無理が――。

 

 「《セレネスブレス》!」

 「《エコーズビート》!」

 

 更に、エマとエリオットからの支援が飛んだ。

 リィンがユーシスのカバーに入り、彼に手を貸して立たせる中。

 たった一人で敵を抑えている一瞬でのことだった。

 

 「――!!」

 

 一瞬でもガイウスが耐えられれば、それで良かったのだろう。

 リィンとしてはユーシスを助け、即座に3人で耐える算段を立てていたのだろう。

 だがその予想を良い意味でガイウスが覆す。尽きかけた体力が回復され、気力と筋力と耐久力が強化されたガイウスが、咆哮と共に敵の巨体を支え切った。槍が軋み、頑健なる彼の身体の筋肉が、ガーゴイルと鎧騎士、その2つの前進を、たった一人で抑え切る……!

 

 「――ぐ、ぅ、今の……!!」

 「う、うちに!」

 「分かっている!!」

 

 リィンが、立ち上がったユーシスが、武器を構えて鎧へと切っ先を叩き付ける。

 鎧の罅が拡大していく。その全身へと亀裂が入っていく。後、少し……!

 マキアスに何やら武器を手渡していたフィーが動く。敵を挟んで、私達二人は互いが交差するように狙う。

 もっとも亀裂が深い()()

 ガーゴイルの翼と首の間を通り抜けるようにすり抜け、相手の脇腹から背中に走るように、刃を振う。その狙いは唯一つ――騎士の甲冑の継ぎ目だ!

 

 ――ギャィン!

 

 と耳に痛い音が響き、一拍の後に、肩から腕が「外れる」。

 ラウラが防ぎ続け、一切の攻撃を許さなかった大剣を持った腕が、地面へと落下する。

 

 「こ、凍った……っ! こんだけやってやっと……!」

 

 私達の攻撃が、装甲の関節部を破壊。

 同時に「オボロ」が震え、騎士の全身が霜に覆われていく。

 こんだけ攻撃してやっと動きが止まったのだ。

 動きが鈍った瞬間、それを見逃す訳にはいかない。

 

 「マッキー、さっきの撃って」

 「変な綽名で呼ぶの止めてくれないか!?」

 

 フィーの言葉に、マキアスが返事をしながら、銃を構えた。

 ガーゴイルの首が足掻く。先程、私が叩き込んだ『暗闇』もそろそろ解除される頃。

 視界を取り戻すように、奴は岩の瞳の焦点を、皆に合わせ――。

 

 ――そのガーゴイルの眼球に、矢が突き刺さった!

 

 私が安全圏まで送り届けたアリサが弓で狙撃したのだ。

 まさか撃った本人も命中するとはと思っていた顔だが、今はその偶然に感謝する。

 広い視野と全員の動きが見えたからこその、引き寄せられた偶然だ。

 

 凍った鎧は動けない。ガーゴイルは動きを潰された。

 マキアスが、動く。

 

 「何が起きるのかは知らないが……! 決めれば良いんだろう決めれば!」

 

 そこに向けられるのは、散弾銃だ。

 狙いの先は、甲冑――()()()

 ユーシスが奮戦した事にライバル心が刺激されたのか。彼は一切の迷いなく狙いを定め、完璧な姿勢で射撃を放つ!弾丸が鎧の中に叩き込まれ。

 

 「私の特製品……。威力は、折り紙付き」

 

 駆ける私は壁を蹴り、高所を取っていた。

 ガーゴイルが居た台座の上から、更に上へと跳躍。

 その視界の中、結果を見る。

 

 次の瞬間、鎧が内側から爆発した。

 

 叩き込まれた弾丸はフィーの特製品だった。マキアスに渡されたそれが、存在しない首から騎士の中に打ち込まれ、その中で着火。盛大な音を立てて弾け飛び、私が破壊した関節に最後のダメ押しが入り、凍結との温度差で金属が悲鳴を上げ、あらゆる継ぎ目と罅割れから黒煙を上げるっ!

 衝撃音と共に鎧が砕ける音。鎧騎士は動きを止める。

 

 「giiiiiaaaaaaaaaaaa!!」

 

 ずるり、という音が聞こえた気がした。ガーゴイルに騎乗していた騎士は鞍から零れるように地面に倒れ、もう動かない。その輪郭は見る間に透明になり、床に吸い込まれて消えていく。

 自由になったガーゴイルが吼えた。そして翼を広げた。

 

 「飛ぶつもりか!」

 「わ、悪いね?」

 「させないよ?」

 

 飛ぼうが飛ぶまいが、手を休める筈がなかろうが!

 既に私は、天井の梁に手が届いている。

 視界の正面に、壁を伝い天井近くに跳んでいたフィーが居た。

 鏡に映ったように、敵を中心に対照的に動き、今再び交錯する。

 相手が飛翔したことを踏まえ、即座に狙いを変更。空中に上がるガーゴイルの真上から天井を蹴り、落下の勢いを加算してガーゴイルへと直下していく!

 

 ――戦闘で重要なのは上を抑える事。

 

 そして同じように動いていたのは、私とフィーだけではない。

 

 「八葉一刀流――」

 

 ユーシスとガイウスを回復するようにエリオットに指示したリィンは、機敏な動きで私達の狙いを悟ってくれていた。

 最大高度こそ足りないが、ガーゴイルの足元から真上に、天井へと曲線が描かれていく。

 私とフィーが目指す先は右の翼。

 そしてリィンが狙うは左の翼。

 

 「四ノ太刀、紅葉切り――!」

 

 弧の切っ先は脚の一部と、薄い石の左翼を断ち切る。

 私とフィーの連撃は右翼に穴を開けていく。

 左から上に抜けた衝撃と、右から下に抜けた衝撃。

 二つに翻弄され、ガーゴイルは地面へと落下する。

 落下地点に居るのは。

 壁際から走り始めて速度を上げ、全身を半回転させるように剣を振うラウラだ。

 その青い両手剣が、輝いていた。

 

 「我が渾身の一撃、喰らうが良い!」

 

 斜め上から袈裟掛けに振り下ろされた、新入生最強とも称されるその一撃が、ガーゴイルの胴体に食い込み! 振りぬいた勢いのまま大剣が胴体を上から断っていく! 続けざまの連撃の後、大きく身体を回し、脚を軸に更に剣で円を描き、終いとばかりに大きく腕を振り抜いた!

 

 「奥義・洸刃乱舞――!」

 

 ラウラの奥義がガーゴイルを微塵に粉砕。

 ――それが、このオリエンテーリングの戦いの、終わりを意味していた。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「さっきのそれがARCUSの真価ってわけ。いやぁ、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利よねぇ。お姉さん感動しちゃったわ」

 

 強敵を撃破した後、各々が感じ取った「先ほど」の感覚を思い返していると、サラ教官が拍手の音と共に戻って来た。各々、割とぼろぼろだった。

 

 特にユーシスとガイウスが一番消耗が激しい。

 その身を盾にしたのだ。非常にきつかっただろう。

 

 私も腰から下の筋肉が燃えそうだ。酷使し過ぎて疼痛が酷い。

 その場にいた全員が同じ状態。互いのリンクは思った以上に全員に負担をかけていて、緊張が解けた今、殆ど立ち上がることも出来ないで床に座り込んでいる。

 ラウラだけは元気だった。流石過ぎる。

 

 なんとなく皆の眼の中に達成感だけではなく「大変だったんですよ教官」と恨みがましい色が見えているのは気のせいではないだろう。予想の倍くらいキツイ敵だったのではないだろうか。

 

 喜んでも良いのよ?という言葉に対して皆の返事は辛辣だった。当然も当然。

 

 私も言いたい。『あれ絶対に設定をミスっているか、想定外だったでしょう』と。

 

 ……言わなかったけど。あのレベルも試験の一環だったという事にしておくのが、都合が良さそうだから言わなかったけど。

 だが顔に出ていたらしく教官の答えは『そんな顔しないでよ』だった。

 皆の抗議を受け流し、彼女は《Ⅶ組》の理由を語る。

 

 「君たちが《Ⅶ組》に選ばれたのは色々な理由があるけど。一番分かりやすい理由はそのARCUSにあるわ。――《戦術リンク》。さっき皆が感じた「互いが繋がっている感覚」。それが戦場にもたらす利益は革命的よ?」

 

 不満を言いたかった心は落ち着かせて、まあ、確かにと私は思う。

 確かに、所詮は学生(学生レベルではない奴も、私含め何人かいるが、それは横に置いておいて)な自分達でも、あれだけの事が出来たのだ。仮にこれが訓練を積んだ軍人や、遊撃士なら効果はどれ程だろうか?

 

 一部の遊撃士は自らの連携を形にする「コンビクラフト」という技を持つ。エステルとヨシュアさんが使っていたあれだ。あれらは、高いレベルの者同士が、互いを信頼し合ったり、現場で呼吸を掴んだ上で編み出して習得をする物だ。素人には不可能だ。

 

 だが、それを機械で再現することが可能ならば如何だろうか?

 『常に伝達と連携を可能とする機能(All-Round Communication & Unison System)』。頭文字を取って、ARCUS。

 

 ……フィーと合わせて自分を加速させた時の一体感。連携した時の達成感と高揚感。皆とリンクしたまま戦う感覚。あれはとても良い物だった。それは、認めよう。

 

 「でもARCUSは個々人によって随分と差が出る。貴方達は新入生の中で特に高い適性を示したの。貴方達10人がね。勿論メンバーがこうなったのは偶然でもある……。いくら推薦されたとしても、適性数値が0に近かったら、普通のクラスだったでしょう」

 

 そこまで告げて、教官は声のトーンを変えた。

 軽い空気から真面目な口調になって、腕を組み、私達全員を見る。

 

 「トールズ士官学院は、このARCUSの適合者として君達10名を見出した。でもやる気のない者や気の進まない者に参加させるほど、予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと、本来所属するクラスよりハードなカリキュラムになるでしょう。それを覚悟して貰った上で――《Ⅶ組》に参加するかどうか、改めて聞かせてもらいましょうか」

 

 全員が少しずつ考え、段々と立ち上がっていく。

 拒否をすれば、そのまま普通のクラスに入ることになる。

 今日は入学式初日。今からでも十分に他所のクラスに溶け込めるし、今の体験を持っていけば話のタネにもなるだろう。

 

 私は――少し、考える。

 私は別に、最初から《Ⅶ組》に入ると理解して、来たわけではなかった。

 

 リベールであれこれやって、『影の国』でも色々あった。

 端的に言えば『弱くなった』。

 まあエステル達は――「前の死んだ顔より、今の方がずっと良いと思うよ」と告げていたけど。

 その後、自分の身の振り方を考えた時に、学校に通って普通の生徒になってみようと思った。

 でもだ。それならジェニス王立学園でも良かった筈だ。単純に、普通に生徒になるなら、クローディア王女というコネもあるし、援助だって貰えた。そっちでも十分楽しい生活を送れただろう。

 

 ……けれど私は、こっちを選んだ。こっちに来なければいけないと思った。

 リベールで平然と活動できる程、図々しくなれなかったというのもある。

 でもそれ以上に、行かなければ、と漠然と思ったのだ。

 

 弱くなった自分でも何かが出来ると思った。

 ひょっとしたら贖罪や慚愧の念もあるのかもしれない。

 あるいは、もっと、別の――■への■■が――。

 

 「カタナ、貴方が最後よ。どうする?」

 

 はっと見れば、私以外の全員は一歩前に出て、参加の意思を示していた。

 相変わらずユーシスとマキアスは喧嘩腰だったが、それでも参加を決めたようだ。

 このまま平民クラスに混ざっても良い。それも選択の一つ。

 だけど、どうせ参加するなら――。

 

 (面白くて、気が合って、何より自分が欲しい物に近い場所)

 

 眩しくて、羨ましくて、とても輝かしい「何か」に近い場所を、求めれば良い。

 私は頷いて、前に出て、言った。

 

 「エカターニャ・N・アルビー……、参加を、希望します」

 

 私の言葉に、サラ教官は宜しい、と頷いて。

 

 「それでは、この場を持って特科クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する。この一年、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしてなさい――!」

 

 とても楽しそうに、宣言した。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「まさかここまで異色の顔ぶれが集まるとはのぉ」

 

 そんな十人を見下ろす高台に、二つの姿があった。

 片方は、筋骨隆々とした老年の男性。

 このトールズの学院長を務める、ヴァンダイクだ。

 彼は集まった少年少女達を一望した後、最後に中心に居るリィンを見た。

 

 その好々爺のような眼に映る黒髪の少年は、若き日の部下を思い出させた。

 今では『鉄血宰相』と呼ばれ、貴族との対立を深めている男。

 彼の家族についても良く見聞きしていた間柄だ。結婚式にも顔を出した。年齢も合う。シュバルツァーという名前からも関係は伺える。推測は多分正しいのだろう。

 

 だが、それは彼が今言う事では無い。

 どこかで誰かが伝えるにせよ、それは女神の導きだろうと思う。

 

 「確かに。ですがこれも――女神の巡り合わせと言うものでしょう。ひょっとしたら、彼らこそが“光“となるかもしれません」

 

 片方は、金髪の青年だった。

 赤い衣装を着こむ姿は、貴公子の表現が相応しい。

 オリヴァルト・ライゼ・アルノール。トールズ士官学院の理事長を務め、この《Ⅶ組》を発足させた立役者。現皇帝:ユーゲント三世の庶子であるが故、継承権こそ遠いが、その手腕と人気は有名になりつつある。

 

 彼にはもう一つの顔があった。

 世界を自由気ままに放浪する「謎の詩人オリビエ・レンハイム」という顔だ。

 

 リベール王国にふらりと入り込み、何かと事件の中に顔を突っ込み、帝国と王国の真実を探る為にエステル・ブライトと共に冒険をした姿……。

 表向きは「解決に尽力した」以上は語られていないリベールの異変。謎の古代遺物の真実や、秘密結社に関しても彼は知っている。そしてその手が帝国に忍び寄っている事も。その手をギリアス・オズボーンが利用している事も、知っている。

 そしてそのやり方に、異を唱えたからこそ、彼はこのクラスを作った。

 そこに「彼女」――カタナを追加したのも、彼だ。

 

 「一通りの事情は聞きましたが、良いのですかな? 何れサラ教官とはぶつかりましょう」

 「無論、それは分かっている。それは彼女が乗り越えなければならない壁だ。彼女の犯した罪は多く大きい。……今は無理でも、何れ立ち向かえるくらいに育って欲しいとは、思っている」

 

 決して簡単なことではない。

 サラ・バレスタインが、果たして彼女を許すかは、怪しい。それは分かる。

 だが、戦いの中で見せた顔も、今何かを決意したときの顔も、嘘ではないだろう。

 

 「幼い子ですな。あの娘は」

 

 学院長の言葉を、理事長は無言で肯定した。

 

 オリビエとして出会った時、彼女は表情を持たない娘だった。

 あの《殲滅天使》とて、もう少し表情は豊かだった。

 エステル・ブライト達と触れ合う中で、彼女は人として目覚めて、人並みの弱さを手に入れた。

 だから彼女が、トールズに入学したいという意思を見せた時――彼女の「保護者」からの言伝も一緒に来た時――許可を出した。

 

 皇子オリヴァルトではなく、同じ異変に関わったオリビエとしての判断だ。

 何れ彼女は、自分から自分の過去を語るだろう。

 それが出来る仲間を、手に入れて欲しいと心から思う。

 

 (それが、人として生きるという事なのだ。カタナ君。君の周囲に居る皆は、君に負けず劣らずの個性と資質を持っている。そんな《Ⅶ組》の生徒諸君と……「10人の仲間」として、また会える日を、楽しみにしているよ)

 

 オリビエは心の中で告げ、ヴァンダイクに軽く辞して、背を向けた。

 会議の時間が迫っている。通路を見ればミュラーが『さっさとしろ時間だぞ』と睨んでいた。

 すべき事は多い。

 あのギリアス・オズボーンを相手にするのだ。足掻くには何をしてもし過ぎるという事はない。

 彼の戦いも、まだ遥か先の未来まで、続いている。

 

 何れ《Ⅶ組》と彼が出会うその日。

 その時に、あの場に居る十人がどんな強さと光を手に入れているのかが、楽しみだった。

 




 Q:勝てた最大の要因
 A:10 VS 2の状態+リンク発動+相手に延々とバステと遅延を入れ続けてギリギリ。
 尚、実習は「班分け」という現実が待ち構えている。

 Q:カタナって強()()()の?
 A:ギルバートよりはマシ。執行者>越えられない壁>カタナ。味方になると弱体化する法則。

 Q:もしや、帝国遊撃――
 A:ワイスマンは笑顔を浮かべている。



 次回から第一章スタート。
 ですが実習の前に、ふらっと別の場所に向かいます。
 具体的に言えば、お祭り真っ最中の東の街に……。

 ではまた次回。
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