三章もこれにて終了。
とはいえ裏で進行している話がまだまだ沢山あります。
カタナ及び《Ⅶ組》には、これれからも頑張って苦労してもらいましょう。
では、どうぞ。
揺蕩う意識の中、私はノックの音で目を開ける。
「調子、どう?」
「ぜ、全身あっついけど……やっと何とか疼痛が収まってきてる……」
顔を覗かせたフィーに返事。筋肉と肌の痛みにあるのは熱感。火傷の治療中だ。
まるっと全身が熱波に包まれたような状況だった。身体中全部がキツイ。無事な部位が無い。
大丈夫かな?と思ってもすぐに身体が火照ってくる。
座っていてもしんどいので、私は浮かぶことにした。
ベッドの中ではない。ミュゼが用意してくれたプールの中である。
……いや、プールなのか? これは。
ドローメという魔獣が居る。ゼリー状の体と、頭部に目と触手を有する軟体動物的な魔獣だ。じめっとした場所ならば、街の地下から森の中まで大体の場所に生息している。恐らく、その生態をヒントにしているのだろう。ゲル状になった冷たい薬液に、私は全身を漬けている。
制服ごとだ。服も脱ぎたかったのだが、火傷した肌を余計に傷つける可能性があった。
かくして私は、プールの中に浸って治療中。治った所で服を脱ごう。
ここはオーレリア伯が手配してくれた、オルディスのさる貴族の館だ。
「皆は?」
「休憩中。私とラウラは軽度だったから、軟膏と包帯で処置したよ。……具合は?」
「痕は、そんなに残らない、ハズ」
一番ダメージが大きかったのは私だ。
落下先が海の中だったのも危なかった。一歩間違えれば出血や、感染症で致命傷になりかねなかった。
沈む前にマキアスが引き上げてくれたお陰で、無事だった。
エリオットが《ティア》で応急手当をしてくれた。
そして私は救急搬送され、この屋敷でこうして治療を受けている……。
「オーレリア伯が、実習の話したいんだってさ。しんどいなら寝てて良いけど、どうする?」
「……お、お願いー」
ご丁寧なことに、このプール……いや、プールっていうか箱だな。箱には滑車とハンドル、タッチパネルで操作するエンジンとアームが付いている。少々見栄えは悪いが、操縦が出来るのだ。
フィーががらがらと私ごと箱を運んでいく。
向かった先には、エリオットとマキアスが揃っていた。
中央で腕を組むオーレリア伯と、背後で侍女の姿勢なミュゼ公女、そして私達。
「ラウラは?」
「休んでる。珍しくね」
「アルビーも無理をしないように。――さて、今回の実習に関して、まずは評価を」
後始末でゴタゴタしているだろうに、オーレリア伯は悠然としていた。
《聖櫃》撃破から1日。殆ど休んでいないだろうに、疲労を見せていない。タフだ。
「ブリオニア島での実習は、高く評価する。私達の方で、理事やサラ教官には伝えておこう。実習から脱出まで、ミュゼを庇っての行動は見事なものだった。途中のトラブルはあったが……あれを予想しろ、というのは無理だろう。この時点で、私は合格判定を下したい」
……なんとなく釈然としない。
私も含め、全員が同じような顔をしていたと思う。
今まで見たことがないくらい複雑な表情だ。
……だってさあ、ヤッたこと、地味じゃん。
確かに与えられた課題はこなしたけど、臨検予定の船舶は転覆してたし、退治予定のエンシェントオッサーは死んでたし。サバイバルは多少こなしたけど……ねえ?
「諸君らの気持ちは分かる。私も学生時代に何度も同じことを感じたよ。自分たちが思っている以上に力は通用せず、何事も理想の結果とはいかないものだ」
……そういえばこの人はトールズ卒業生だったか。図書館の記録に、当時の……若かりし頃の写真が載っていた。今より随分小柄な体で、《アーケディア》を握っている
「だが、少なくとも諸君のお陰でなされたことが2つはある」
言いながら、オーレリア伯は窓の外を示す。
窓の外。幾つもの建物がある。屋台、商店、宿場、民家。それらの軒先に運ばれていく、木箱。
中を確認した1人が、箱から何かを取り出した。
それは、色取り取りの貝殻だ。
「あれは、成果だ。オルディスの祭りを彩るだろう。まずはそれを喜ぶように」
私達が集めた、数少ない成果。その少ない成したことに意味はあった。伯爵はそう告げる。
まあ……『君たちのお陰で祭りが盛り上がったよ!』と言われると考えるなら――町の人々からの感謝を貰えるならば、地味だけどやった甲斐は――確かに、あるな。
少しだけ気分が上向いた。
頑張って、自分を納得させる。
「さらに言えば、同伴されたミュゼを無事に還したことも評価点だ。諸君らが奮戦しなければ彼女は焼けて死んでいた。それは非常に大きな問題となっただろう」
伯の背後、小さく膝を曲げて挨拶するミュゼ。
彼女が死ぬとか、ははは、笑えない話だ。
(無事で良かった!本当に!)
「……そして、あの巨人に関してだが……」
話題を切り替えたオーレリア伯は、打って変わって非常に剣呑な瞳を宿した。
「戒厳令が敷かれるだろう。諸君らも……あまり吹聴はしないように。仲間同士で話題に上げるくらいに留めておいて欲しい。――アレは、爆弾すぎる」
それは、そうだ。退治前にも考えていた通りの事を、念押しされた。
私は『結社』時代のあれやこれやのお陰で知識を持っているが、世間はそうではない。
気を付けないとマジで情報の希少価値狙いで誘拐すらも見える。
あれは、そういう代物だ。
「そこで伝えておく。何かあったときは私の名前を出して構わない」
「……ええと?」
「私が頼まれたのは、端的に言えば、『トールズの《Ⅶ組》に対して余計な邪魔を入れさせない』と言う内容だった。『実習だけ』とも言われていなければ、『期限』も決められていない。後輩達の奮戦はこの目で確認が出来たのでな。今後も手伝える範囲では手伝おう。だから、いざという時は――」
「『オーレリア伯爵を通して下さい』と、使って良い……ということですか」
「そういうことだ。不満かな? マキアス・レーグニッツ」
「……いえ」
リーダー代理のマキアスは、何も言わなかった。
最近少しだけ彼の態度が柔らかい。良い傾向だ。
「《銀鯨》のアフターケアも私で取り持とう。船団が解散することになるからな」
彼らの就職先や、情報のシャットダウンもやってくれるらしい。
カイエン公らの突き上げが多少強くとも、オーレリア伯ならば辣腕と立場で対処出来る。
だからこそ理事長の皆さんは彼女にお願いしたのだ。そっち方面の心配は……私達が必要以上に気を揉んでもしゃーないな。
「荷物は隣室だ。帰りの切符も用意してある。出発までは、自由時間にすると良い」
言った所で、扉が叩かれる。
ノックの後入ってきたオーレリア伯の家老は、素早く駆け寄って耳打ちをした。
『――巨神……カイエン公が……』
断片的だったが、そんな単語が聞こえた様に思う。
どうやら早速《貴族派》は行動を始めたようだ。伯の顔が険しくなった。
「急用だ。行かねばならん。――手短になってしまったが、以上を今回の実習の総括としよう。――また皆に会えることを、そして次にあった時は今以上に成長していることを、期待している」
私達は揃って『ありがとうございました』とお礼を言う。
次に彼女に会うのが何時になるかは分からないが……その期待に応えないとな。
「私に勝てるくらいでも構わんぞ?」
あ、ちょっとそれは無理です。無茶言わないで下さい。
○ ○ ○ ○ ○
『ううむ……。義を通すというなら、無理強いは出来んか』
『協力してもらった、お返しなので』
自由時間の前、バルクホルン神父とも別れの挨拶をした。
彼は彼で、これから巨神関連のドタバタを治めるために各地を奔走することになるだろう。
既に《メルカバ》は待機済み。老神父も身支度を整えていた。
マリアベルのことを尋ねられたが、私は答えなかった。
協力しないと正体言うという脅しを切ったのだ。
協力してくれたなら黙っているのが道理である。
『君の証言があれば、確固たる証拠になるかと思ったが……神父が約束を破れとは言えぬな』
漠然とした予測はあるのかもしれない。
《七耀教会》がどこまでクロイス家を把握しているかは分からない。だが、察している可能性は高い。そもそも《七耀教会》の《守護騎士》が知らない事実が大陸にどんだけあるのだろうか。
アイン総長曰く『クロスベルにも部下がいる』らしいから、私の証言なくてもなんとかなる、と思いたい。……いやあでもアイツの性悪さを考えると、尻尾を掴ませなさそうではあるが……まあ、次に何かあったら伝えるというくらいにしておこう。
こういう時に義理を欠くと(マリアベルにそんな物があるかは別として)信用を失うからな。
私の言葉に、神父は頷いてくれた。
『帰りにノルド方面によって、影響がないかは確認しておく。何かあったらガイウスや教会から伝えられる範囲で便りを送るだろう。では達者でな、若者等よ』
と、こんな感じでバルクホルン神父もオルディスを離れていった。
私達は自由時間。ほんの少しだけだが、実習終わりの休憩ということで、街を散策する。
調子が悪いと宿で休んでいたラウラは心配だったが……まあ、彼女の容態に
こればっかりはラウラ自身で解決してもらうしか無い。
「カタナさん」
「おっと、これはこれは、ミュゼこ……ミュゼ」
どうしたの? と尋ねる。オルディスのベンチの上。バルアレス灯台を望む海沿いの一席だ。
彼女も本来ならば帰宅――アストライア女学院へと戻って良いはずだが、どういう訳か行動を一緒にしている。
未だに私以外から正体を見破られていない公女様は、隣に座って微笑んでいた。
「最後の自由時間、これを良い機会とみて皆さんに何か企む人が居ないとは限りません。念のためです」
「……それだけ?」
確かに、可能性はある。だが、オーレリア伯の庇護は解けていない。強引な真似は出来ないと踏んでいる。あの人が自由時間を楽しめと言ったなら、楽しめる様になっているのだ。それは。
となると、別の理由がありそうだ。ふむ。
視界の中では、慌ただしい動きの船舶が何隻もある。その内には、明らかに引き上げ用の工業機械を積載した大型タンカーもあった。……あれは完全に、巨神狙いだなあ。
結局あの《至宝》は、海中に沈んだ。
ブリオニア島を半分ふっとばした巨人は、街への被害は出さなかった。
護衛船団と《銀鯨号》も消滅したが乗組員は無事。旗艦以外は残っている。
……ジュノー海上要塞の出入り口、橋は陥落したらしいが……幸い要塞の被害は軽微で済んだと聞いている。大波と隕石の余波で外壁工事が必要になったとか、戦車何両かが橋と一緒に落下したとか、そんくらいだ。不幸中の幸いにも。
本当に要塞に到達していたら、内部にあった山程の備蓄品と一緒に丸焦げだっただろう。いや、焦げならまだマシ。木端微塵になっていたかもしれないな。
当然、そんな火力を有する存在を、放置して置けるはずもない。
なるほどなあ。公女が微笑んでるの、あれが理由か。
今回の事件が広まるのは一瞬だ。
だから、カイエン公の判断は正しい。
誰よりも先手を取れる立場にあるのだから動くに決まってる。
利益や勢力争いを考えるならやるしかない。オズボーン宰相らに回収されたほうがヤバいのもそうだし、《貴族派》内部の発言力という意味でも必須事項だ。
むしろ此処で動かないのは問題である。色んな意味で。
が、ミュゼ公女としては、入念にカイエン公の動きを把握しておきたいのだろう。
単純に親族の味方をするのに留まらない。念のため、観察をしておきたい。
中々に食えない女狐様らしい。
「あれもそうですね。――カタナさん、いえ
「……め、面倒事になりそうだね」
わざわざ『様』付け。貴族として呼ばれるとなると、あんまり良い予感はしない。
まあ断れもしないんだけどさ、私の立場上。あと計算上。
封筒の中には何枚かの書類が入っていた。
「そんなに厄介なお話ではありませんよ。――背中の傷、残っていらっしゃるでしょう」
「い、痛みはないよ?」
「女性の肌です。痕1つも刻んではいけないんですよ?」
1枚は治療に関するものだった。医者の紹介状だけでなく、請求書までセットになっている。
……まあ何かに使えるだろう。素直に受け取っておく。私一人で独占する必要もない。
それ以外の紙は……。
「社交界の招待状に……アストライア女学院の立ち入り許可証に……」
「有効に使って下さい。貴女なら出来ると思っていますから」
「う、受け取っておきますけど。お礼という意味なら、ラウラに一括で渡しても良いのでは?」
「調子が悪い様子なので」
……ラウラが不在の今B班で、貴族とこういう会話をしてて一番角が立たない相手は、私だ。
受け取った一式を旅行鞄にしっかり収納する。
此処最近、相手への貸しばっかり増えてる気がするな。
「二人共難しい話は終わったかい?」
私とミュゼの間に、顔を見せる少女が1人。
レオノーラだ。マリアベルの変装ではない、本物のレオノーラである。
発見された場所は、なんとオルディスの、七耀教会の地下である。
両手両足を捕縛されていたが、這ったまま飲める水筒だけは置いてあったそうだ。叫びを打ち消す
私達が偽レオノーラと見破れずとも、実習終了と同じタイミングで解放されるように調整されていた。マリアベル・クロイスめ。用意周到だ。
「ええ、丁度」
「なら次の店に行こう! フィーさんもマキアスさんもエリオットさんも待ってるよ!」
回収された後、バルクホルン神父が診察したから、憂いはない。
どうやら彼女にとって、自分が敵に捕縛されていた事実よりも、それで私達と一緒に活動が出来なかったことの方が重要らしかった。ぐいぐい来る。積極的である。
《銀鯨》が解散すると聞いているはずだが、それを見せない強さがあった。
「……分かった。じゃあ、難しい話は、止めよう」
強引に腕を引っ張られるのも悪くない。
勢いに逆らわず立ち上がることにした。
数時間だけれど――オルディスを満喫して、帰るとしよう。
帰ったらまた、忙しくも楽しい学校生活が再開されるのだから。
○ ○ ○ ○ ○
さて、そんな風に学生一同が紺碧の海都を堪能している中。
一足早く、機上の人間となっていた魔女は、静かに考えていた。
「……思えば確かに不思議ですわね」
客席に座り、窓を見ている仕草をしながら、頭の中では計算が働いている。
特徴的なツインテールをロングに変え、眼鏡で雰囲気を変え、服装も地味めに抑えたマリアベル・クロイスだ。どっからどう見ても唯の旅行者である。
社用の飛行艇ではなく敢えて通常の航路を使いクロスベルへと戻る最中。
彼女は、静かに考える。
(エカターニャ・N・アルビーは私を脅しました。あんなジャブ大した効果は無い)
問題は、そこではない。
(彼女は律儀に約束を守るでしょう。私の正体が露呈するのは暫く先……その筈です)
しかし、だ。
明らかにおかしい。
(……何故、私はバレていないのでしょうね?)
カタナが『バラしますよ』と脅したからこそ、思い当たった。
自分の立ち振舞いと、クロスベルにおける情報操作は完璧だ。
クロスベルの権力者には、既得権益という媚薬が通じている。
政治家で厄介なのはヘンリー・マクダエル議長くらい。
ハルトマン議長は失脚したが、市長として父ディーターが入り込んだから、こっちも問題はない。
遊撃士協会側にはアリオス・マクレインが居るし、『結社』という協力者も居る。
《
七耀教会もとりあえず放置しておける。探っている様子はあるが最奥まで到達していない。
けれども――あの偽《
ミシュラムの占い師 兼 《幻惑の鈴》ルシオラが、少女カタナを見て……ついうっかり発動させてしまった愛情。愛情の表現方法がアレなのは横に置いておく。
あれはマリアベルにとって真面目に危機だった。
無罪を証明するために、最愛なる親友エリィを、ロイド・バニングスに合流させた。
だが、それも綱渡りだ。
彼ならば『カタナとマリアベルの間にどんな関係があるのだ?』と考える可能性はある。
今もある。何時思い出しても不思議ではない。
そも『結社』屈指の工作員ヨシュア・ブライトが――私や『IBC』の話を、親しくなった彼らに、何故伝えていないのだ?
証拠がなかったとしても、普通、忠告くらいはする。
だがそれがない。
腹芸で此方を騙している様子も無い。
(………と、なると)
暫し考えた後、彼女は――ああ、と納得した。
「
口元を隠す。思わず浮き出る笑みを必死に隠す。
漏れる愉悦の音は、それでも殺しきれなかった。
なんのことはない。
思い出させないようにしているのは、思考を操作しているのは
「これは帰ってこっそりお話を聞きませんとねぇ……」
○ ○ ○ ○ ○
(……疲れた、な……)
宿に残ったラウラは、小さく呟く。
青く艶やかな髪を広げたまま、天井を眺めている。
寝台に身体を横たえたまま、上に布団を掛けることもないまま、ぼんやりと。
疲れたと言うのは、半分正しく、半分間違いだ。
(……私は何も出来なかったな……)
――……私達は、まだまだ弱いのだろうな……
あの時の気持ちは、本当だ。それでも緊急事態だったから、何とか己を叱咤して動かした。
しかし、目前で見た、オーレリア・ルグィンの強さは、ラウラの心を軋ませるのに十分だった。
ラウラだったからこそ衝撃が大きかった、とも言える。
ラウラの周囲には傑物が揃っていた。《光の剣匠》、父ヴィクターがその筆頭だ。
その強さ、高みは理解していたつもりだった。己がまだまだ及ばないことも承知していた。
だが、ヴィクターの全力を、ラウラが見たことは無い。
下手に強すぎる力を見せると、娘にどんな影響が出るかを、父は知っていた。
差がありすぎると、人間はそれを認識できない。
だがラウラは己の強さを理解し、他人の強さを理解できる。
だからこそ、目指す先の遠さを理解して、精神が揺らぐ可能性を、承知していたのだ。
『私はあんな風にはなれない』という事実。
フィーとカタナが
(最後の一撃も……到底、及ばない……)
鮮烈な輝きが、ラウラ自身に影を落とす。
自分達は十分やれた、出来ることをやったという言葉も、どこか空虚に感じられる。
……それだけならば何も問題がなかったのだ。
リィンのような、研磨し合える強いクラスメイトの存在。
サラ・バレスタインら教員に相談することも可能だった。
もう直に寮母に就任する、シャロン・クルーガー等の外部協力者の目線もある。
立ち上がる支障は、無いはずだった。
ケルディックで《痩せ狼》に遭遇しても、乗り越えられたように。
その悩みが、深くなる前に切開して、グルノージャ戦のように己の糧に出来るなら。
誰もが忘れていた。
悪意は、不意打ちでやってくることを。
――私が、もっと強ければ――
――強くなるためには、どうすれば――
――どうすれば良いのか、教えてやろうか?――
「………? ……今。何か? ……聞き間違いか?」
ラウラが周囲を見ても、気配は無い。
大きく息を吐く。
「……搭乗時間には遅れないようにしなければな」
するりと。
彼女の中に『黒』が入り込んだことに、誰も気付かなかった。
○ ○ ○ ○ ○
「さて、もう1回。尋ねよう。――
歪んだ笑みを浮かべる男に対して、彼女はしつこいなあ、と吐き捨てる。
眼鏡を掛け、正面を向いたままの蛇に向ける瞳は、荒んでいる。
「覚えてないよ。覚えてないけど、……あの子は、初めて、といえば貴方は満足する?」
少女は続ける。
「何度目かも分からない中で見つけたイレギュラー。本当は居ないはずの存在だよ」
「消したいのかね?」
「貴方がそれをさせないでしょ?」
少女の言葉に、白面はそうだとも、と返す。
己の肝入りだ。唯の人形ではない。丹精込めて作った人形だ。壊れないとも。
「しかし、君も中々酷いことをする。やっている事は『時』と変わりがない」
「そうだね。知ってる」
「神様の自覚がありか」
どこでもない白い世界に座る
「良いよ。私は罰を受ける。それがどのタイミングかは分からないけど、死ぬだろうし――ロイド達から見捨てられるかもね。ばかりか世界がまるっと敵になるかも。……でも、それでも良い。そして、いっそやるなら、何処までもやるよ」
だって、と彼女は笑う。
乾いた感情の中に、ほんの少しだけ人間味が浮かぶ。
「諦めない心を、私は皆から、学んだから」
彼女は白面へと続けた。
まるで黒幕のように。
「貴方の生み出したイレギュラーが、どうなるのか。私も楽しみにしておくよ」
○ ○ ○ ○ ○
かくして――隠して、世界は進んでいく。
その裏に本来はあり得ない者たちを内包した世界は、ゆっくりと、確実に、歴史を刻む。
淀み侵食する“それら”が形になるまで、後僅か。
帝都ヘイムダルを襲う大嵐は、間近に迫っていた。
刀、未だ閃かず。
Q:ラウラの危機
A:ロックオンされました。皆、存在を忘れてただろう?
これにて三章終了。閑話を挟んで四章に参ります。
帝都ヘイムダルでの特別実習がどんな形になるのか(プロットを隠しつつ)……。
ヤバさを衝撃的な形にするためにも、じっくり色々進めていきます。
死者は……まあ、出ないように頑張って貰いましょう。
ラウラ以外にも致命傷を負いかねない奴が何人か居るので。
ではまた次回。