カタナ、閃く   作:金枝篇

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果たして無事に「碧の軌跡」序章まで辿り着けるのだろうか……。
……アーネスト・ライズとハルトマン議長は。

では、どうぞ。


残影に続く(中)

 「シスター・アインが、帝国のあっちこっちにその花が生えてるだろうと予想したんだよ」

 

 南オスティア街道の花畑を浄化しながら、二人は話してくれた。

 各地に実力ある聖職者を派遣して《プレロマ草》の回収や、土地の浄化を進めているらしい。

 流石はアイン・セルナート。ルーファスさんの言葉を鵜呑みにしなかったようだ。……いや、ルーファスさんが意図的に《草》の繁茂を見逃したとは限らないけどね。

 相手がルーファスさんの読みを上回った可能性は普通にある。そこはまだ判断できない。

 《星杯騎士団》以外にも動員されているらしいが、何れも実力者揃い。ある程度以上の実力がないと、妨害や暴走した魔獣に対応出来ない、ということらしい。

 

 「それであっちこっち行ったり来たりして、此処に辿り着いたんやな」

 「ただ、帝都周辺の花壇っつーのは物凄く不穏だがな」

 「……それは確かに」

 

 幾ら『貴族派』が余計な栽培をするとしても、こんな帝都に近い場所でやるかといえば疑問だ。

 彼らはオズボーン宰相に対立しているのであって、皇室に反逆したいわけではない。多分。

 そうなると、これを用意したのは『貴族派』ではない(と思う)。

 しかし『改革派』の可能性はもっと低い。帝都の近くで麻薬栽培。大問題だ。オズボーン宰相が、そんな間抜けをやるかと言われると疑問。カール知事も見逃しはしないだろう。

 

 「だから、アーネスト・ライズだと」

 「アーネストを匿ってるだろう組織だな。……どうする? 多分乗り込めるで?」

 「……場所は?」

 「霊園から地下に入って、水路進んだ奥や。多分だが、今撤退の準備中ってところやな……。こっちが全部引き受けても勿論良い。本来はこっちの仕事や。だから完全に自己満足になる。どうする?」

 

 ケビン神父の言葉に、皆の視線が私に集まった。

 正直……行きたい。とても行ってみたい。ケビン神父、セリス神父、あとデュバリィ。

 こんなメンバーで組めるのは滅多にない事だ。情報収集という意味でも、機会を逃したくない。

 だが、それ以上に。

 

 このアホと一緒にコンビで戦える機会を、逃したくない。

 友人ではないけど、腐れ縁。久しぶりの再会だ。行動を共にすれば絶対楽しいだろうな。

 

 「……出来ません。今の私は、班長、ですから」

 

 だけど私はそれを断った。

 確かにアーネスト・ライズ――もとい、それに援助をしている組織のことは気に掛かる。

 おそらく相応の規模と危険性を有している。私だけなら良い。だが皆は連れていけない。連れていけない以上、私が頷くわけにはいかない。こう見えても責任を背負っているのだ。

 

 「そっか。そうやな……。――じゃ、うちらだけで行ってくるわ」

 「お、お願いしま「カタナ」」

 

 す、と言い終わる前に、アリサに制された。

 

 「良いわよ、行ってきて」

 「え!?」

 「友達なんでしょ? 実習も終わる目処が経ったし、午後の予定には余裕がある。数時間、別行動しても怒らないわよ。サラ教官には黙っててあげる」

 「いや、でも」

 

 躊躇っている私に、アリサは近寄って、ほらほら、遠慮しないの、とデュバリィの方に押しやってくる。ウインク付きで背中を押されてしまった。

 

 「それにねカタナ。さっきから『可能なら一緒に行きたいな』ってずっと顔に出てるのよ」

 「……そんなに?」

 「そんなに。それに手配魔獣の原因を解明するのも実習の範囲内って言い訳は付くでしょ? 私達は私達で、チャールトン支配人に説明とか、今日のレポートとかやっておくわ。勿論カタナの分は残しておくけど」

 

 皆を見る。ユーシスもガイウスもエマも、良いぞ、という顔だ。

 リィンらのA班もエリオットの自宅でゆっくり休憩したらしい。こっちも少しは息抜き良いでしょ、というのがアリサの言葉だ。……別行動が許されるかっていうと微妙だけど。

 任せなさい、と胸を張られてしまった。

 

 「~~分かった! 甘えさせてもらう! ありがとっ!!」

 

 内心では頭を下げっぱなしだ。それでも、機会をくれた皆に感謝をして。

 私は先の発言を翻した。

 

 「デュバリィ、良い?」

 「私は気にしませんわよ。貴女と一緒に行動することを優先させますわ。――そちらの神父様達も、学生に協力している友人を邪険にするほど不親切じゃないでしょう?」

 

 デュバリィの言葉に、巡回神父とシスターは、無言で肩を竦めるだけだった。

 彼女がそう言うなら――甘えさせてもらおうっと。

 私は甘えてばっかりだな!

 

 「ラウラも言ってた。カタナ、貴女がクラスで一番子供よ。末娘にしか見えないわ」

 

 ちょっと凹む。凹むが、私は本当に感謝しながらヒンメル霊園へと足を向けたのである。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「で、あのカタナって奴、大丈夫なのか? 明らかに()()()じゃないよな?」

 「まあ……良い子か悪い子かで言えば、悪い子やな。邪悪な子ではないけどな」

 

 アーネスト――と、おそらく彼が組んでいるだろう組織は、地下道に居る可能性が高い。

 ヒンメル霊園の一角から地下へと潜り進んでいく。

 《帝国解放戦線》と呼ばれるその組織の足取りを追う道中、最後尾を進むセリスは尋ねた。

 ケビンは正直な意見を話す。

 少女カタナは、決して善良ではない。今は善良であろうと努力しているが、過去が過去だ。

 心身共に壊れワイスマンの傀儡となっていたヨシュア・ブライトとは違う。

 彼女には選択肢があった。ワイスマンから離れる道もあれば、いっそ『蛇』から逃げる道もあった。子供には困難だったかも知れないが、心底、本当に嫌だったのならば、母や親族……は無理でも、それこそ《七耀教会》や《遊撃士》に助けを求めることは出来たのだ。

 彼女はそれをしなかった。

 逃げ切れたかはさておき、逃げる努力をしなかったのだ。

 

 「調べれば分かる。人を殺した数は両手両足の数じゃ足らない……。実際、彼女は、最後の最後までワイスマンと一緒だった」

 

 大陸全土に情報網を持つ教会ならば、彼女の犯行(だろう)事件を拾い上げることは出来る。

 例えば、表向き評判が良かった爵位を持った男性が、裸のまま寝台で毒殺されていたとか。

 例えば、敬虔な顔の女性が、その裏で使っていた拷問器具を、逆に使用されて死んでいたとか。

 例えば、《D∴G教団》を潰して、被検体にされていた少女を救助したとか。

 例えば、リベールのジェニス王立学園に潜入して在校生の情報をごっそり盗んだとか。

 おそらく彼女がやったのだろう、という事件はある。

 直接、詰問すれば「Yes」と返ってきそうではある。

 

 「……実際、今でも未練はあると思うで。外道と理解してても、嫌いであっても、一緒に行動してた思い出は捨てられないもんや。ワイスマンが愉悦目的だったとしても、あの子は恩を感じとる。時々無意識かもしれんがワイスマンみたいな振る舞いするしな。確実に教えが染み込んどる」

 

 崩落するリベル=アークから、瀕死の状態で逃げようとしたワイスマン。

 ケビンが『塩の杭』で彼を殺害したその時も、彼女はワイスマンを庇おうとした。

 結果的に彼女は、ワイスマンを庇いきれなかった。限界を迎え気絶した彼女を、ケビンは《アルセイユ》まで運搬した。だが一歩、何かが違えば――それこそ、ワイスマンを救うために全力で抵抗が可能だったならば――彼女は、あの男諸共に、処分されていただろう。

 あの時のケビンならそれが出来たし、淡々と処分を行えた。

 

 「ところが『影の国』で、なしくずし的とはいえ、脱出の手伝いもした……」

 

 巻き込まれた『影の国』で、彼女は悩みながらも脱出へ協力体制を取った。

 《殲滅天使》が居たからではないだろう。

 決定的だったのは、煉獄だ。あの時、彼女はワイスマンの味方をしなかった。

 相当悩んでいたが、それでもあの瞬間だけは、ケビンやエステルの味方だったのだ。

 

 「体を張った結果、オリヴァルト殿下の後ろ盾を貰って、帝国の学生や。そして今、彼女はようやっとる」

 「殺す理由はないってか」

 「ま、努力してるなら認めんとな。総長も副長も同じ意見やった」

 

 つい先程、ヘイムダル大聖堂で顔を合わせた『匣使い』からも、大丈夫でしょう、とお墨付きを頂いた。善行を為そうとしているのなら、裁定は暫し《空の女神》様にお任せだ。

 

 「あの2人と師匠と、お前。あと《蒼の聖典》からも、今は、悪事を働いてないと報告が上がってきた。……分かったよ。なら暫く信じてやる。《鋼》の従者も、一旦は見逃しだ」

 「分かってくれてありがたいで、先輩」

 「……もう1つ確認だ。アーネストの狙い、何だと思う?」

 

 一瞬黙ったあと、ケビンは淡々と返す。

 

 「流石にそれは、本人から聞くしかないと思うで。碌でもないことに思うけどな」

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 かなり広い地下水路を抜ける。

 管理が行き届いていない通路を駆け抜け、人の気配へと進んでいく。

 駆け抜けた私達を出迎えたのは――銃弾の雨であった。

 

 「のわとと、あっぶな!」

 「待ち構えていましたわね!」

 

 咄嗟、壁に隠れた私。盾で銃弾を弾くデュバリィ。ひょいひょい避けて矢で撃ち落とすケビン神父。剣で切り落とすセリスさん。後半に行けば行くほどおかしな技量になっている気がする。

 水路だけあって薄暗い。それでも手鏡と反響定位(エコーロケーション)で相手を探ると、銃を乱射する一般構成員の中に、幾人かの強い気配がある。舌に感じる気配。間違いない。《グノーシス》だ。

 

 「その程度でこっちが止まると思ってんのかぁ! ――グラン・セルペンテ!!」

 「安心せい、殺しはせんで。事情聞かないかんからな。――クロスギアレイジ!!」

 

 セリス神父が剣を抜いた。真っ赤な炎が一直線に突き進み、銃を構えた男たちを薙ぎ払った。

 その一瞬で各々が動く。ケビン神父は幾人かの服とズボンに矢を放ち地面へと拘束。

 

 私とデュバリィも一気に飛び出すと、速度を使って駆け巡った。

 身を低くしての縮地。カチっと言う腰が入った音。滑るように動いた私の身体は銃弾の雨を潜る。そのまま乱射している構成員の腕を下から跳ね上げた。懐に入って顎を蹴り飛ばして気絶させ、男の胴体を盾にしたまま銃を奪う。奪ったので、そのまま撃った。

 一応殺さないように注意しつつ、武器や、武器を持つ手を狙っていく。盾にした男が崩れたタイミングで、小太刀を抜いて加速。同時、銃弾が無くなったので補助導力機を駆使して再装填……!

 膝関節や股間を斬りつければ、男達は一瞬で戦闘不能になった。

 次々と苦悶の声を上げて倒れる構成員らだが、私の攻撃はこれでも極めて優しいのだ。

 

 「遅いですわね。せめてカタナくらいの速度を持ってきなさい!」

 

 なにせデュバリィの方が遥かに危険。

 一瞬で数人を斬り伏せ、破れかぶれで突撃してきた剣を持った男の顔面に、盾を叩きつける。

 シールドバッシュ。強打した男は鼻血を流しながら吹っ飛んでいく。男が煉瓦壁に叩きつけられたその時には、既に彼女は大きく飛び上がっていた。地面に叩きつけられた剣が、衝撃波となって床を水面のように走っていく。

 速度は私やフィーと同等かそれ以上。火力はラウラやガイウス並。剣の技量はリィンを越え、アーツも普通に優秀だ。ギリギリ委員長がアーツの技量で越えられる程度。

 デュバリィは、強い。とても強い。嫉妬するくらいに。

 

 「時間稼ぎのつもりだったのかも知れねーが、時間稼ぎになってねーな」

 「このメンバーで手こずる相手なんてそれこそ限られてますわよ」

 「違いねえ。……いや一応敵同士だからな? 私ら」

 

 瞬く間に鎮圧された集団を見聞したセリス神父とデュバリィの言葉である。

 

 「《グノーシス》使ってる。精製場所が何処かは分からねーが……」

 「で、魔神化(デモナイズ)の兆しは?」

 「ない。こりゃぁ全員、効能を把握した上で服用してるな」

 

 倒れた男達は、結構なダメージを負ったはずだが……死ぬ様子はない。肉体も相当頑丈だな。死なないなら多少気は楽だ。しかしコイツラ素人だな? バリアハートの地下で戦った猟兵より明らかに練度が低い。こっちが日々の鍛錬で強くなってる分を加味しても……連中あんまり強くない。

 強くないのに悪魔化しない。覚悟がある、と見るべきなんだろうか。

 

 「行くぞ」

 

 男達が屯していた部屋の奥。如何にも、という扉がある。

 施錠されていたが大した問題じゃない。

 おらぁ! と蹴られた扉は、めきゃっと陥没し、その後に奥へと倒れていく。

 流石は第4位。《吼天獅子》直々の体術だ。こっわ。

 派手な金属音を立てて倒れた扉から中に入る。

 地上の光源が僅かに届く中、スーツ姿の男性がこっちを振り向いた。

 アーネスト・ライズがそこに居た。

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 「……後は逃げるだけだというのに……!」

 「ちょいと時間を掛けすぎたな。その男に拘らずとっとと逃げればウチらも取り逃していたわ」

 

 ケビン神父の口調は軽いが、瞳に油断はない。

 アーネストの傍には、2人の男がいる。

 逞しい巨躯の大男と、膝を抱えて意気消沈している男性。

 前者に見覚えはないが、おそらく猟兵。そして後者は、ハルトマン議長だった。派手に着飾っていた衣装は汚れ、穴まで空いている。クロスベルで強権を振るっていた嘗ての姿は見る影もない。

 めっきり老け込んだハルトマン議長は、私達を見て救助が来たと理解するや否や、手を伸ばしてきた。

 

 「た、助けてくれ……! 儂はもう付き合うのはまっぴらなのだ! 投獄でも裁判でも何でも良い! どこか安全な場所を保証してくれ……! こんな男達の妄想には付き合っていられん!」

 「そういうわけには、いかないんですよ!」

 

 アーネストは逃げ出そうとしたハルトマン元議長の首根っこを掴む。

 完全に主従関係は逆転していた。

 

 「この男にはまだ役に立ってもらう――私がクロスベルの市長になる為にね!」

 

 写真記録で見た時は中々の美形だと思ったが、野望を浮かべた顔は歪んでいる。

 その言葉に秘められた熱気に、ハルトマン議長は小さく悲鳴を上げて縮こまった。

 

 「同志《A》。相手は強いぞ。俺の助力が必要か?」

 「いいや、同志《V》。それには及ばない……!」

 

 《A》ってなんだよ、アルマータかよと一瞬思ったが、どうやらコードネームらしい。

 アーネストだから《A》か。安直だ。

 ……だがその彼の手に、赤い錠剤が握られていたならば笑えない。

 

 「おっと、飲ませんで!」

 

 ケビン神父の番えた矢が、その瓶を叩き落とす。

 砕けて地面に散らばる錠剤を、アーネストは靴で踏み躙りながら哄笑を上げた。

 

 「既に服用済みだ……! ははははははっ!!」

 

 瞳が真っ赤に充血し、徐々に変貌していく。上半身が膨れ上がり、鎧のように硬質化していく。

 取り出された剣も漆黒に染まり、吹き出す魔力は《グノーシス》の狂気で溢れている。

 私は間合いを図りながら、尋ねた。

 尋ねざるを得なかった。

 

 「市長になって、どうするつもり?」

 「決まっている。――私が目指すのはクロスベルの独立だ……!」

 「……何故それで、彼らと協力して《グノーシス》を用意することになるんですか?」

 「『鉄血宰相』の呪縛から逃れるためだ! 全てはなぁ!」

 

 アーネスト・ライズは憎々しげに、血走った眼で語る。

 八つ当たりのように振られた剣で壁が崩れる。威力はかなり高い。直撃すると危ない。

 《V》と呼ばれた男は既に姿を消していた。

 

 「『鉄血宰相』のやり方は知っている……! 周辺諸国で発生した動乱にかこつけて軍を派遣、後に併合するという手法! 旧ジュライ市国の併合とて同じだ。敢えて不安定な地域に援助を申し出て、地域が帝国に依存させる。そして予想通りテロや紛争が発生したら、安全を理由に資本を引き上げる! クロスベルを同じ目には合わせはしない!」

 

 確かにそれはオズボーンの常套手段だ。

 だがそもそも、その帝国の手腕を、最初に見抜けなかった方も悪い。

 政治の話だ。片方が一方的に悪にはならない。

 見方によっては、帝国は損をしながら領土を広げ、特区の住民を保護しているとも言える。

 

 「……だから、宰相閣下に反抗する人々と組んだんですか」

 「悪いかね……!? 帝国貴族は、鉄血宰相よりは『幾分』かはマシだ……! クロスベルで中立の政治はやっていくことは出来ないと。私は思い知った。ならばいっそ帝国貴族と条約を締結し、私がその窓口に座れば良い!」

 「……帝国の貴族は、そんなに甘くないですよ」

 

 私はアーネスト・ライズの言葉に、肯定も否定もしなかった。

 会話をしながら、意識を徐々に切り替えていく。

 ここに《Ⅶ組》の仲間は不在だ。つまり多少行動がエグくとも、戦い方がクソ鬱陶しくても、許される。『結社』時代の私の本気モードは――トールズでは、サラ教官くらいしか知らないよな。

 

 「出来るとも、この《グノーシス》があれば! 悪魔化よりももっと有意義な使い方が出来る……! 知っているだろう! 人や心を"視”る力のことを! 交渉と政治においてこれほど便利な力はない!」

 「……そうですね」

 

 私が、クロスベルの人々に抱く感情は――()()だ。

 

 個々人に対して好ましさは抱いているさ。

 むしろ私は、個々人……つまるところ親しい人、関わった人がいるからこそ、その人のために行動が出来るのであって、愛国心とか『国家』への思い入れなんて皆無だ。

 帝国にも同じこと。オリヴァルト皇子に頼んでトールズに来たのも、煉獄でワイスマンが消えた後で半分自棄だった。幸いにも、そのやけっぱちが良い方向に転がってくれただけ。

 リィンやベリルみたいな友人がいるから私は帝国にいるだけだ。

 クロスベルではロイドさんやらエリィさんらがいる。

 だから私は、仮にこの2勢力がぶつかることになったらかなり骨を折るだろう。

 

 けれども、国家同士の諍いに出張るほど私は立派じゃない。

 全く関係のない人に無償の施しが出来るほど、優しくもない。

 だから、冷静に眺めていた。

 感情は何処かに置いたまま、冷静に冷徹に、彼の言葉を聞いて判断した。

 

 (――無理ですよ。アーネストさん)

 

 アーネスト・ライズの計画が、100歩、いや1000歩くらい譲って成功したとする。

 オズボーン宰相の気勢を削ぎ、貴族らが皇帝陛下と――それこそ宰相閣下より優先されるほどに緊密に繋がり、〈四大名門〉の皆様がアーネストを新しい市長と認める。そしてその貴族らにクロスベルに必要以上の介入をさせない。

 更にはディーター新市長やマクダエル議長との関係を良好にする。周辺諸国、特に《共和国》からの妨害を回避しての承認も必要になる。

 この時点で極めて不可能に近いが、それが仮に――本当に成功したとして。

 

 それでも、絶対に無理なんだ。

 

 あの街は、言うならクロイス家が作った箱庭だ。

 最初から利用するために用意された都市。

 都市基盤からインフラ整備、果てはIBCの全てが《錬金素材》。

 真実を知った者は、死ぬか、取り込まれるか、言えない状態で追放されるかだ。

 かくいう私だってマリアベル・クロイスが明らかになんか企んでいるとヨシュアさんに話したが、その情報が『特務支援課』等に流れた気配は一切ない。

 偽《銀》騒動も同様。普通は絶対に裏取りするだろうあの事件は、未だに『背景』が表に出ていない。もしかしたら誰かが調べて記憶を消されたのかもしれないな。

 あの街は情報が歪められている。誰も彼もが利用することばっかりだ。

 だから真摯に州の為に頑張る人々は尊敬する。警察とか、遊撃士とか、『特務支援課』とかね。

 

 そういう意味では、アーネスト・ライズは道化でしかない。

 だが、敵だ。敵ならば、その道化を最期まで踊らせてやるのもコチラの仕事。

 

 「考えは分かりました。……だから《プレロマ草》を栽培したんですか?」

 「そうだ……! 同志らも喜んでくれたともさ!」

 

 そうか、とその言葉に返事をしたのは、黙って推移を伺っていた2人の《星杯騎士》だった。

 

 「お前の理想はこの際、関係がねーな。《D∴G教団》との繋がり、《プレロマ草》の栽培、《グノーシス》の配布。どれをとっても見逃すわけには行かねーよ」

 「せやな。今回は競走馬だけで済んだが、一歩間違えれば民間人にも多数の被害が出た。今なら痛くしないで捕縛するで? 素直に投降してくれると助かるんやけどな」

 「お優しいことだ――ならば、その優しさ、精々利用させてもらう!」

 

 咆哮が響く。アーネスト、ではない。

 壁際で怯えて震えていたハルトマン議長が全身を震わせ、頭を抱えて絶叫していた。

 その姿が、徐々に不気味な怪物へと変貌していく。

 

 「あ、ああ、ああああ”、あ、頭があああああ、わ、割れ――れれ、ああああああああああああっ!!」

 「――盛ったな?」

 「ああ、盛ったとも! この男には利用価値がある。従順になるよう躾けは大事だからなあ!」

 「……おい小娘ども。そのアーネストの相手は任せた」

 

 デモニクス化したハルトマン議長を見て、セリスさんはしゃーねえかという態度だ。

 

 「ハルトマンは屑だが、ここで死なせるわけにもいかねえよ。そしてお前らじゃ、ハルトマン議長を『倒す』事は出来ても『解呪』は出来ねえだろ。――ケビン、お前は逃げた連中を追跡しろ」

 「了解や」

 

 素早く暗闇に消えていくケビン神父を、アーネストは追いかけない。

 むしろ私達を見て発奮した。声に混ざる嘲りと侮り。折角の眼が勿体ない。

 

 「《星杯騎士》でもない、小娘2人が相手とは、馬鹿にされたものだ……!」

 「なら、その身で私達の強さを味わうと良い」

 

 目を開ける。意識が切り替わった。デュバリィが懐かしそうに――楽しそうに微笑んだ。

 

 「じゃ、()ろっか、デュバリィ」

 「足を引っ張りませんように」

 

 真横に拳を出す。デュバリィの拳とぶつかる。

 キキキキキン、という連続した音。

 戦術オーブンメントのリンクが共鳴した。数値は一瞬でLV5を越える。

 

 心を読むなら読むと良い。何が出ても驚くんじゃないぞ?

 今からの私は《Ⅶ組》のカタナじゃない。

 『執行者』候補生カタナ。とても、とっても悪い子だ!




カタナちゃん凶悪モード。《Ⅶ組》同伴だと、現状、絶対発動しない。
本気(ガチ)モードが『結社時代』なら、凶悪モードは『空』時代のスタイル。

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