ユグドミレニア城塞の一室。ドンッ! と音を立てて高級なソファに座ったのは、ユグドミレニアに名を連ねるゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。
ふくよかな体と神経質そうな顔が特徴的で、体の大きさとは対照的な心の小ささが欠点であった。そんな彼は、最優のサーヴァントとして召喚した竜人ともいえるセイバーを後ろに従え自室へと戻ってきていた。
陣営の中で最前線を張るサーヴァントを召喚し、情報漏洩対策としてサーヴァントへの絶対命令権である令呪は使わなかったが、きつく言い聞かせることでセイバーを自分が許可したとき以外は話さないようにしたゴルドだったが、今の彼の表情は侮蔑で占められていた。
その矛先は、セイバーではなく一緒に召喚されたアサシンのサーヴァントへと向けられていた。
「何なのだ!暗殺者風情が、名を隠しおって…恥を知れ! おまけに、あのヴァシュロン・アドゥムス・ユグドミレニアという小僧も気に入らん!」
正確にはアサシンは名前を隠したのではない、召喚されたアサシンはライダーからの質問に対して「呼び名が多いため、アサシンでいい。」と突っぱねたのである。
その態度がゴルドの琴線に触れたのである。最優で全線で戦うセイバーと違い、裏で暗躍し鼠のように敵陣営を嗅ぎまわりだまし討ちしか能がないアサシン風情が真名を隠すなど「裏切ります」と公言しているようなものだ。
しかも、そのアサシンの口を割らないマスターにも腹が立っていた。
自分や他の家の者と違い、この聖杯大戦のためにダーニックが新たに「補充」してきた魔術師であり、そこら辺の一般人と変わらないはずなのに、サーヴァントと堂々と話せる胆力と何も読み取れない能面のような表情が不気味さを醸し出していた。
ダーニックは「補充」した魔術師の割にはあの青年を気に入っているようであり、ランサーからも目を掛けられているような気配さえある。 自分のサーヴァントとすら信頼関係を中々築けないゴルドには着実にストレスが溜まっていっていた。
「!」
その時、ゴルドの私室のドアがノックされる。
「何の用だ! いま、私は大事な話を…!」
ゴルドはフラストレーションをぶつけるかのように大声で叫ぶが、ドアを開けて入ってきたのはユグドミレニア所属のホムンクルスであった。
ホムンクルスは少し息を切らせ、ゴルドとセイバーを見据えて報告を始める。
「申し訳ありません。 ですが、火急の要件です。」
「話せ」
「先ほど、ルーマニア北西部の道路にてサーヴァントの反応を2騎補足しました。一人はおそらく赤のランサー。」
「もう一人は?こちらに攻めてくるのか?」
「いえ、この反応はおそらくルーラーかと思われます!」
「なんだと!?」
ゴルドは驚く。
ルーラーはかなり特殊なクラスであり、いくつかの条件がなければ召喚されることはないクラスであるからだ。
ひとつは、聖杯がルーラーが必要であると判断した場合に召喚され、もう一つの条件は「聖杯戦争が理論的に崩壊すると決定された」ときに召喚される。
つまり、このどちらかを黒か赤が満たしてしまったということである。
ルーラーにはサーヴァントへの絶対命令権である令呪を所持しており、その力はマスターに3画ずつ現れるものより強力であるとされている。
もし介入を許せば、この聖杯大戦は崩壊するであろうが、もし懐柔できれば赤の陣営に対するジョーカーになりうる。
そう考えたゴルドはセイバーを連れ、勇み足でルーラーと赤のランサーの居る場所へと急行する。
「アサシン、狙撃許可を出します。もし、ゴルド氏が撤退もしくは苦戦する際は赤のランサーを狙撃してください。」
「了解しました。弾種はどうしますか?」
「神性にも効く猛毒の弾丸を所持していますよね?それを使いなさい。隙があるならばそのまま食らい殺しなさい。」
「わかりました。では、私は狙撃ポイントに移ります。マスターはどうしますか?」
「私はほかのサーヴァントが居るかどうか確認します。では、3時間後には戻りますから結果報告などよろしくお願いしますね。」
ゴルドが車に乗り込み出発するのを見下ろしながら、ユグドミレニア城塞の屋上の一角ではこのような会話が行われていた。
マスター…ヴァシュロンはアサシンにそう告げると屋上から身を翻し森へと消え去る。
それを見送ったアサシンは、狙撃銃を担いで赤のランサーと黒のセイバーの予測交戦ポイントが望める高台へと移動し始めた。
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