おのけん様、10評価ありがとうございます!
また、ぴんころ様と町長様も8評価を入れていただきありがとうございます。
おかげで今回の話はすらすらと書くことができました!
ルーマニアの闇夜に甲高い音が響き続ける。何も知らぬものが聞けば「祭囃子」と聞き間違えるようになっている。
だが、その発生地点を見れば誰でもその「認識」が違うことに気づくだろう。甲高い音は英雄同士の武器がぶつかり合い、弾かれる音。剣と槍の乱舞。
常人が入り込めば一瞬で刃の暴風に巻き込まれ、現世から消える。
それを間近で見てしまった魔術師の気持ちはどんなものだろうか?
特に、英霊を使い魔同然と見ている魔術師がそれを見てしまったら?
セイバーとランサーの目に追うことすらできぬ高速戦闘。
一瞬にして位置が入れ替わり、即座に攻撃が相手へと向かっていく。ランサーは槍のリーチと軽さを生かした面の制圧に向いた多段攻撃をセイバーに撃ち放つ。
セイバーは目視で致命傷にならないように身体を最小限に動かして致命傷を避け、槍衾の隙間から一撃重視の一閃をランサーに繰り出した。
ランサーは肩あてでその一閃をはじき返し、わずかによろめいたセイバーの胴体に強烈な薙ぎ払いを叩き込む。
セイバーは強靭な足腰で吹き飛ばされずに、槍をつかむと竜人の腕力で強引にランサーを己の懐に呼び込み、膝蹴りを打ち込む。
それは傷は与えないが、衝撃は伝わりランサーは勢いよく後方に飛ばされ、背中から火炎を吹き出しながら空中で宙返り、態勢を整えて大地へと降り立った。
槍によってできた傷が既に癒えたセイバーは着地後の隙を狙ってランサーに飛び込む。
互いの獲物が衝突しひときわ大きな衝突音を響かせると両者は同時に後方へと飛び退り、戦闘前と同じように対峙する。
周りの状況は、戦いの前と比べて惨憺たる有様だ。道路は砕かれ電灯は余波によって吹き飛んだり、上下逆転して大地に突き刺さっている。
まるで大規模な地割れが発生したかのような原因は、あまりにも強すぎる英雄同士のぶつかり合いだけで引き起こされたのだ。
相手の様子を伺う2騎のサーヴァントの様子を見ている。ゴルドの自信は打ち砕かれていた。
この聖杯大戦に参加したゴルドの気分は最高潮に近いものだった。
政治分野などにしか本領を発揮できない今回の主催者であるダーニックのことは心の底で軽蔑していたし、今回の宝具も濫用可能な体制までユグドミレニアがこぎつけることができたのも、ムジーク家が「魔力生成に特化したホムンクルス」や「戦闘特化のホムンクルス」の製造技術を齎すことで、ユグドミレニアは戦力の大幅な増強ができた。
その上に本来の聖杯戦争では宝具を打つだけで魔力を大量に持っていかれてしまう事態をホムンクルスに肩代わりさせることによって避けることができるという魔術協会にはない魔力面と戦力面で圧倒的優位に立てるのはムジーク家及び、自らの才能があったからこそだ。
他のユグドミレニアの参加者は破綻者や名前を知られていない若造ばかり。
しかも、サーヴァントはルーマニアで知名度補正が一番高くなるヴラド三世とは違って、世界的に知られている大英雄!
なのである。しかも、潤沢な魔力による召喚ともあって竜にさらに近づいたセイバーは持ち前の再生力と強化された竜の体によって耐久力は他のサーヴァントどもと一線を画す。
そして適性がもっとも高いセイバークラスで召喚されたことで、セイバーに勝てる英雄は居なくなった。
自分も魔術は極めているというわけではないが、魔術協会の魔術師とは互角と言えるほどの強さだろう。
これで勝てぬはずがないと意気揚々とルーラーを助け、ランサーに馬鹿にされてつい令呪を使ってしまったが、関係ない。自分とセイバーの力、そして潤沢な魔力と令呪を使えば負けるはずがないと思い込んでいた。
だが、どうだ?
セイバーとランサーの剣戟を自分は視認することさえままならない。セイバーもランサーも傷はなく互角。
世界的に知名度が高い大英雄に劣らない英雄なんてほとんどいないはずだ! あのランサーの真名さえ判明すれば、セイバーは打ち倒せるはずだ・・・!
そして、ゴルドは気づく目の前にいるではないか。相手の真名を看破する能力を持った裁定者が!
「ルーラーよ!」
彼女はゴルドへと振り向く。
「どうか、どうか裁定者の力を以てランサーの真名を…!」
「お断りします。」
「何故ですか!?あなたの命をあのランサーは狙っています。もし私とセイバーが敗北すればランサーはあなたを狙うかもしれません! それでもよろしいとあなたはおっしゃるのですか!?」
ゴルドの焦りが積もった眼がルーラーの目を見つめる。
ルーラーは先ほどの会話と変わらず、まっすぐとゴルドの目を見つめ語気を少し強めて言い返す。
「中立のサーヴァントとして現界したルーラーとしてそれを看破し伝えることは明確なルール違反となるからです。また、先ほども伝えましたが セイバーとランサーが戦うことと私が命を狙われることは別の事柄です。私個人の事情を考慮して、彼らの戦いに水を差すような行いはルーラーとして召喚された私の誇りにかけてできません。」
「…ッ!!」
ゴルドは唇をかむ。
(強情すぎる…!)
そして、ゴルドはあることに気づく。サーヴァントを戦わせるのならばマスターが近くにいることは確実だ。
魔術戦に持ち込めば、セイバーが致命的な傷を行う前にマスターを脱落させることができる。
「ならば、魔術戦だ!敵のマスターと誇りある戦いをして見せよう! 見ているのだろう!?『赤』のマスターよ! 出てきて勝負をせんか! 魔術協会の走狗よ! このゴルド・ムジーク・ユグドミレニアが相手をしてやろう! 」
しかし、その声に反応するものはいない。
もしかすると相手も自分と同じように令呪をランサーに使わせ、偵察役としてランサーを出しているのかもしれない。
だが、撤退の時となればさすがに出てくるはずである。
そう考えたゴルドはセイバーとランサーの戦いを見守ることにした。
そして、幾ばくかの時間が経過し空が白み始める。
ランサーもセイバーも数時間に及ぶ戦いで、消耗はしているものの鎧や髪に土ぼこりがついている程度で目立った傷はないし、目にも闘志が宿っている。
「このまま太陽が昇ってからもお前とは撃ち合いを続けられそうだ。」
ランサーが口を開き、セイバー見据える。
それにセイバーもわずかながらだがうなずく。
「だが---お前のマスターはうんざりしているようだ。」
その言葉にゴルドは疲れを意識した。寝ることはできずに英雄同士の戦闘を間近で何時間も見続けたのだ。当然、足にも疲労回復の魔術は施してはいるが限界は近い。なにより、精神的な疲労は癒すことができない。
セイバーはそんなマスターを身体の状態をつながれたパスで確認する。
令呪の効果もあり、あと数日程度ならランサーと戦うことは可能であるが、もしマスターを狙われれば致命的な一撃をもらうことになる。
マスターをかばったことで戦いが終わるなど、ランサーは良しとしないだろう。
「マスターの心配をしてくれて感謝する。もし、機会があるのならば…次こそは貴公と決着が着くまで戦いたいものだ。」
その言葉にゴルドは気づかされた。
自分はセイバーの足かせとなってしまっていたことを。 自分がセイバーについてくることなくユグドミレニアの一室で使い魔を通して見守っていたらどうだっただろうか?
セイバーはを気にすることなく全力を発揮し、ランサーを討ち取っていただろう。
悔しさを痛感する。
自分が変なプライドと欲を出してルーラーの協力を取るために出向かなければ自分はランサーという戦果を前に胸を張れていたであろうに。
裁定者の勧誘など、詐欺師ともいえるあのダーニックに行わせればよかったのだ…。
後悔を感じているゴルドの前で、ランサーはセイバーに
「初戦でお前と打ち合えた幸運に感謝しよう。」
武人らしく堂々とだが、傲慢な雰囲気を感じさせずに告げると、霊体化していく。
そしてランサーの霊体化が胸まで到達したその時
「では、さらばd…!」
ランサーが突如として身体をそらす。
その瞬間、ランサーの肩に黒い靄を纏った弾丸が撃ち込まれ爆散した。
「ぐぅっ!?」
ランサーは肩を抑え、弾丸が放たれた方向を険しい目で見つめて、今度こそ撤退した。
ゴルドはその光景を見たとき、少し動揺した。
(あのセイバーが傷をつけれなかったランサーに傷を負わせた…?いや、セイバーは私を気にしていたから本気を出せなかっただけだ。おそらく、アーチャーかアサシンの仕業だろう。 あとで問い詰めなければな…。)
そのあと、ゴルドはルーラーをユグドミレニアの拠点に招待しようと交渉したが、にべもなく断られてしまった。
交渉が失敗したゴルドはため息をつきながらもホムンクルスとともに車に乗り込み、帰還した。
ルーラーは両者が帰還した後、息を吐く。
「…これが、初戦…。」
ルーラーの目の前には、明るい太陽の光に照らし出された崩壊し、元の様子を想像することができないほど破壊されつくした道路が映っている。
魔術協会が暗示などを使って、魔術的隠ぺいを施せば大丈夫だろうがこの道は数か月は使用不可能になるだろう。
全てのサーヴァント同士の戦闘がこのような破壊を巻き起こすとは考えたくもないが、もし市街地で戦闘がおこれば裁定者権限を使ってでも止めるしかない。
もしも、ほかのサーヴァントがみな『黒』のセイバーであるジークフリートや『赤』のランサーである、施しの英雄・カルナのように規格外であるサーヴァントだとしたら
この聖杯大戦は甚大な被害を各地に残し、最悪の場合このルーマニアが滅ぶ可能性もある。
それを監視するために自分は呼ばれたのだろうか?
それとも、あのランサー・カルナが私を抹殺しようとしたように……。
「今、考えを巡らせたとしても何も始まりませんね。ともかく関係のない人々に被害が及ばないようにがんばるしかありませんね。」
ルーラーは霊装を解除すると電灯が光る道を町に向かって歩き始めた。
「ふむマスター、使い魔からの声の通達と目視によって俺のスキルは問題なく発動した。ほい、これがルーラーとランサーの情報だ。」
純白の髪を腰まで伸ばした褐色の肌をした少女が隣の人物にメモ用紙を渡す。
マスターと呼ばれたメガネをかけた青年は、そのメモを確認するように口に出す。
「今回のルーラーのはかの、オルレアンの聖女であるジャンヌ・ダルクのようですね。向こうのランサーはインド神話の英雄・カルナですか…。私の家が触媒を渡したとはいえ、こうもあたりを引き当てますか。まぁアルジュナなどが召喚されても困りますが…。今回の目的の大部分は果たしていますが、まだまだやることがありますしね。特にロードからの連絡で、赤の陣営のマスターと一切連絡がついていないというのが怪しいですし、聖杯大戦の数か月前からこのルーマニアに土木建築の材料が黒の陣営以外の場所に流れているというのも怪しいですしね。」
前半部分に白い髪の少女は反応する。
「えーーー?この戦争あんたの家が引き起こしたのか?」
「人聞きが悪いですよアサシン。どっちみち、ユグドミレニアが奪取した聖杯が安全かどうかは近いうちに調査しなければならなかったんです。その役割がユグドミレニアと親しい家で、魔術協会とも聖堂教会ともつながりがある家に回ってきたんですよ…。私は魔術も強くないので、前線には出たくないのに勝手にユグドミレニアに連なっているとかいう『認識』を押し付けられた時はどうしようかと思ったんですよ?」
「でもよー?それなら俺が全員殺せば関係なくね?」
アサシンのかるーい言葉にマスターはため息を吐く。
「あなたがアサシンのスキルを保持して召喚されたらそれでよかったんですがね、アーチャーのスキル持っているのにアサシンのステータスで召喚されたせいで気配遮断がないからどうしようもできないじゃないですか…。」
「ごめーん。ところで、そろそろ霊装変えてもいい?この幻霊飽きてきた…。」
「まぁ、いいですよ。ランサーには神呪毒を打ち込めましたし、当分は動くのもままならないでしょう。」
そうマスターが言い終えるのと同時にアサシンの姿が文字通り「溶ける」。
数秒ののち、アサシンは召喚された時の姿に戻る。
「はぁぁぁー。やっぱ、魔力消費が少ないとはいえ疲れるわー。」
アサシンは首をゴキゴキならし、「如何にも疲れている」とマスターに見せる。
「さて、次の局面はどうなりますかね?早いうちに聖杯の確認がしたいのでサーヴァント同士が衝突する大規模戦闘がおこってくれれば楽なんですけどね。」
アサシンのマスターは窓から入り込む陽光に目を細めて、少し嗤った。
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