ガンプラビルダーズ・フレンズG-Next   作:いすた

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『飾名・フィーネルベルト』は、今だ自分が置かれている状況がよくわかっていない。

身体や服の趣味で男の子見たいとからかわれる事も多く、

初対面の相手の場合は、そもそもカザナを女と気づく事が少ない。

なのに、このダイズという男の人はものの数秒で見破り、

何を思ったのか、リアルで少女漫画みたいなセリフを口にして、大会に誘われた。

思わず頷いてしまったが、冷静になると後悔しかない。

こんな、いかにもヤンキーっぽい恰好に口調。

あの言葉や行動を見るに、女遊びに慣れているのだろうが、

今現在、最大の問題はそこではない。

相手があの『慈恵』の嫡男だという事だ。

カザナが通う学校の高等部の生徒で”要注意人物”としてあの学校に通う者なら全員が顔を覚えている。

なにせ慈恵という家の名は強大。関わり方をしくじれば、この国では生きていけない。

そしてその本人が、不良という社会不適格者となれば、警戒して当然。

名前を聞かれて咄嗟にカナと偽名を名乗ったのは、自分の立場を隠すため。

慈恵の家からすれば矮小なフィーネルベルトなど眼中にもないだろうが、念の為だ。

 

(噂では、この人が入学してから50人の生徒が退学させられて、10人の教師が解雇されたって)

 

噂だけでも恐ろしい。

そして、そんな相手が今まさに隣に居て、一緒に大会に出場するという。

「俺に逆らったらどうなるかわかってるよな?」

成り上がりのフィーネルベルト家は、この一言で詰む。

まさかガンプラを楽しむつもりでやってきたお店でこんな目に合うなんて。

別にバトルをしなくてもいい、ただ愛機と一緒にこのお店の空気に浸りながら、

休日を過ごしたかっただけなのに。

愛機『バスターガンダムXYZ』は、今、その問題の彼の手の中にある。

試合前にお互いのガンプラを見ておこうと交換をし、

慈恵の嫡男様は360度上下左右からじっくり見つめ、慎重に関節を動かして確かめながら。

 

「両肩と両腰に巨大な銃を4つ。

 近接武器はオミットしての砲撃特化機か。

 お、関節強度を高めてある。

 ――そうか、砲撃時の姿勢が安定するようにしてあんのか」

 

――ナンパのネタにしては見る箇所がディープだ。

ある程度、ガンプラに関しての知識は有しているのだろう。

こだわったポイントをしっかり見てもらえているのは嬉しくて。

 

「う……うん。バスターガンダムとヴェルデバスターを組み合わせたんだ」

「ちょっと俺、まだガンダムほとんど見てねぇから原作わっかんねぇけど、

 これがどれだけの手間と愛情を注がれて作られたのはわかるぜ。

 ガンプラを始めたばかりでも、そこそこのガンプラを見てきたからな」

「ほんとに、はじめたばかりなの?」

「おう、先週な」

 

午前中の、その時はビルダーのほうを気にしてはいなかったが、

カザナの手の中のギャプランの戦いぶりは異質だった。

ビーム・シールドやバリア系装備を無改造のビーム・ライフルで徹底的に貫き、

やたらと実戦慣れをした立ち回りで、ガンプラバトル歴の長い猛者達と互角に渡り合っていたが。

このギャプラン、よく見ればほとんど素組み。

しかし改造ポイントはしっかり押さえられており、

腕に小型のランチャーを増設され、脚部のふくらはぎのバーニアは取り払って加速を調節されている。

関節にも手を加えている形跡に、熟練だが我流ビルダーらしい癖が伺える。

初心者が教科書を見ながらした、そういう類には見えない。

 

「誰かに手伝ってもらってるよね?」

「お? やっぱりわかっちゃう?

 いやぁ、俺がホームにしてる所に、すっげぇ強い姉ちゃんが居てさ、

 その人に色々教わってんだ」

 

慈恵の嫡男のガンプラに、すごい手の加え方をアドバイスする人だ。

立場に物を言わせた命令、もしくは現金を積まれたビルダーがやる芸当ではない。

ギャプランが「この人は悪い人じゃない」と、カザナに語り掛けてくれているような。

そうなのだろうか? バスターガンダムXYZを飽きずに見つめる瞳は、

まばゆいくらいにキラキラと輝いてはいるけれど。

今は機嫌が良いみたいだ。

このまま上機嫌で帰ってもらえれば、無事平穏に事が終わる。

 

「なぁ、カナはガンプラバトルの戦績どんなくらいなんだ?」

 

そう思ったところで、一番されたくない質問が飛んできた。

 

「え……えっと……その」

「ちなみに俺は130戦72勝。

 さっき話した姉ちゃんには全く勝てなくてよ。

 オンライン対戦だと結構勝てるんだけどなぁ」

 

先週はじめたばかりで、もうその試合数、しかも勝率50%以上。

カザナの冷や汗は、止まらない。

 

「えっと……ボクは」

「ん? 話したくないなら別にいいけど」

 

さっそく機嫌を損ねてしまった!

仕方がないと、スマホに自分の記録を表示して、恐る恐る差し出す。

 

「なになに……、12戦……0勝」

 

おっとこれは、と気まずそうな表情で頬をかくダイズ。

情けなさすぎる戦績に、恥ずかしくてカザナは目尻に涙をにじませながら。

 

「ご、ごめんなさい! ガンプラは昔から好きで作っているんだけど、

 ボク、バトルがどうしても苦手で……。

 でも、作ったガンプラを動かしたくなって、たまにバトルはやるんだけど、

 全然……勝てなくて……」

 

こんな弱い者と組んで、勝てるわけがない。

何せ大会ルールは2on2、一人が戦力外なら実質1対2。

戦う前から結果は見えている。

やっぱり、ボクは大会にでないほうがいい。

いまからでも謝って、この話は無かった事に。

カザナの目尻に浮かぶ雫を、武骨な男の指がグイとぬぐい。

 

「よし、連敗記録は今日で終わりだ」

「え?」

 

泣くな。とカザナの肩を叩いてダイズは。

 

「勝とうぜ! 俺達ならできる!」

 

出会って30分も経っていないチームで、どこからその自信がでてくるのか。

普通ならば呆れて失笑するのだろうけれど。

不思議な事に、彼のその言葉と笑顔には、何か説得力があったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2on2のトーナメントは滞りなく消化され、

一番最後にエントリーしたダイズとカザナもついに出番。

カザナも緑化迷彩カラーのパイロットスーツに着替え、入場待機列でダイズと並び立ち。

 

「大丈夫……大丈夫だよボク……大丈夫……」

 

手の平に何度も何度も人という字を書いては飲み込みを繰り返しており、

さすがに緊張しすぎだろと、心配するダイズ。

 

「おいおい緊張しすぎだろ。

 負けたら死ぬわけじゃあるまいし」

 

いや貴方の家の名に殺されるでしょ。

そう食って掛かりたいのをグッとこらえるカザナ。

胸キュンして頷いてしまった30分前の自分を蹴り飛ばしなくなってくる。

だが悲しいかな、5秒後の自分は進行係に名を呼ばれてPODへと入り込み、

愛機バスターガンダムXYZをスキャナに取り込む前に、ギュッと抱きしめ。

 

「お願いだよバスター。僕を助けて」

 

カザナにとってガンプラとは、縋り付くものだった。

フィーネルベルトの家はカザナという一人の人間に何も期待していない。

『飾り』の『名』で『飾名』。

時が来たら政略結婚に嫁がせる為の、フィーネルベルトの服飾品。

だから、人間として一定水準の知識と経験さえあれば、

フィーネルベルトの家は何をしていようと誰も気にも留めない。

男の恰好が好きだろうと、接着剤と塗料で指を汚していようと、

どうせ嫁がせる際に、全て奪うのだから。

自分の未来を知るカザナに、希望なんてない。

だから、ガンプラに触れている間は、現実逃避をさせてくれる。

ミリタリーテイストの衣服は、軍用迷彩に塗装した愛機とのペアルック。

絶望の未来を忘れさせてくれる、それがカザナにとってのガンプラだった。

 

「あ~、てすてす、カナ、聞こえてるかー?」

 

ヘルメットのスピーカーから聞こえてくる、慈恵の嫡男の声。

なんでこんなところに、日本でトップクラスに厄介な家の直系が来て、

カザナに目を付けたのか。

もう、運が無いとしか思いようがない。

 

「ん? っかしいな、ミュート入って――」

「き、聞こえてるよ!」

「お、よかった。まぁ、気楽にいこうぜ」

 

だから誰のせいだと。

カザナの思いも他所に、現実は止まらない。

バトルステージ決定。

ガンダムWに登場したコロニー周辺宙域。

コロニーの搬入口からの出撃、先に俺が出る、とギャプランが。

 

「ジケイ・ダイズ、ギャプラン行くぜ!」

 

ジケイの名に、もしかしたら他人かもという淡い期待を打ち砕かれるカザナ。

――せめて、無様は見せぬようにしなければ。

 

「カナ、バスターガンダムXYZ、行くよ!」

 

ギャプランに比べて、カザナのバスターガンダムXYZは機動力で大きく劣っている。

両肩と両腰に合計4門の長銃を装備し、

それぞれが別種の。エネルギー・ライフル、ガンランチャー、バズーカ、ビーム・ガトリングとなっている。

反面近接武装の一切が取り払われており、

遠距離から敵を撃ち抜く事に特化した仕様のようだ。

ジュウリのダハックとは正反対。

故に、組むダイズの動きも反対となる。

セオリー通り、ダイズはカザナを置いていかぬように巡行スピードを落とし、足並みを揃え。

 

「それじゃ俺がフロントやるから、後ろよろしくな」

「う、うん」

 

ギャプランが囮になって、隙を見せた敵をバスターガンダムXYZが撃ち抜く。

作戦は決めてあった通りに。

そして、見つけた、敵2機。

赤と青、色は違うが本体のデザインは似通っており、頭部は赤が2本角、青が1本角。

装備は両者とも対照的で、赤が背負うのは雷神様の背負う太鼓10個。

青が背負い手に持つのは、風神様の風袋。

機体名、『メリクリウス』と『ヴァイエイト』。

まだこちらに気が付いていない、仕掛けるチャンスだ。

近くにあった巨大な残骸に身を潜めてから、ダイズは問う。

 

「カナ、狙えるか?」

「ちょっと自信ないけど、うん、やってみるね」

 

バスターガンダムXYZの搭載する砲門のうち、狙撃に適しているのはエネルギー・ライフルの一門。

フラつく銃身でおっかなびっくり青いヴァイエイトに狙いをつけて、ようやく放たれた一発。

完全な奇襲だった、が。

突き進むビーム弾は、直撃の手前で太鼓3つが割って入り、

ビーム弾をパシンと弾いて打ち消される。

 

「やっぱりオートガードを設定してあった!」

「なんだ、あの太鼓はバリアなのか!?」

「プラネイトディフェンサーだよ! 強力なバリアを発生する遠隔操作の盾!」

 

メリクリウスに搭載されている、

『プラネイトディフェンサー』は、ガンダムWに登場した電磁バリアの防御兵装。

作中に置いても強固な盾として、最後の最後まで使用されていた強力な武装だ。

その最大の特性は無形である事。

10個の太鼓型のユニットは組み合わせ次第で大きさ、形、強度まで自在に変化させる。

ガンダム世界における数少ないバリア特化機のうちの1機であり、対象はビームのみと限定的ではあるが、

長距離ビームなどいくら撃ち込もうと簡単には破れない。

この盾以外の本体の武装はビーム・ガンと、ビーム・サーベルを内蔵した実体盾のみ。

メリクリウス単機ならば、それほど脅威ではない。

そう、これが単機ならば。

赤が盾ならば、青は矛。

背中の袋のようなバックパックの蓋が開き、巨大なエネルギーを発生。

袋の口たるビーム・キャノンから放たれる暴風は、ビームの竜巻。

 

「やっべっ!?」

「避けて!」

 

ギャプラン目掛けて撃たれた巨光を慌てて回避するも、

直撃こそなんとか避けたが、至近弾で装甲の表面が焼かれて溶けていく。

なんという火力、そう何度も回避はできないだろう。

盾と矛、これほど相性の良いコンビネーションもそうはない。

だが故に、突破口もわかりやすい。

ようは、どちらかを落とせば

 

「よし、俺が赤のバリアをブチ破る!

 カナは青いほうを抑えてくれりゃあいい!」

 

プラネイトディフェンサーが攻撃を防いだ時の揺らぎは、遠くからでも見えた。

ジュウリのダハックほどバリアに強度は無い。

あれなら、ビーム・ライフル3発以内で貫通可能だと見る。

 

「確かに、ダイズさんならあのメリクリウスは落とせるけど……」

 

ひとつ気がかりがある。

ヴァイエイトはどうして、ギャプランを狙った?

初撃を撃ち込んだのはバスターガンダムXYZのほうだ。

ヴァイエイトと同じ射程を持つ砲撃機体、ヴァイエイトにとって脅威となるのはこちらのほうのはず。

狙いを間違えたわけではない、ヴァイエイトの第二射もギャプラン目掛けて放たれた。

 

「くっ! やらせない!」

 

完全に無視をされて僚機を狙われるなど、砲撃機の恥。

こちらを見ろと、ヴァイエイトに向けてエネルギー・ライフルを撃ち込むも、

プラネイトディフェンサーに遮断され、ビームの飛沫一滴すら届かない。

メリクリウスは、動かない、いや、ギャプランには決して近づかない。

戦術が徹底されすぎだ、間違いない、カザナは確信する。

 

「だめだ! 向こうにダイズさんの技、バレてるよ!」

 

午前中、大会前の最後の調整をしている選手達の前で、ダイズは目立ちすぎた。

シールド、バリアを技術で貫通してくる新人。

こんな特例、チェクされないはずがない。

このままでは、ヴァイエイトのビーム・キャノンがギャプランを直撃し、

ダイズとカザナの敗北が決まるのは、時間の問題だった。

 

 

 

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