この戦い、足を引っ張っているのは間違いなくボクだ。
カザナは、戦況を理解していてなお、行動を起こせずにいた。
メリクリウスのプラネイトディフェンサーは確かに強力で、
ビーム攻撃で貫くのならば、ウイングゼロのバスターライフルクラスの物が必要だろう。
バスターガンダムXYZにも、それだけの奥の手は、ある。
当てなくてもいい、至近弾だけでプラネイトディフェンサーごと敵2機を蒸発させられるだけの一撃。
だがカザナはためらう。
あれは両刃の剣、外せばその時点で敗北が確定すると、ビルダーの心が、拒絶する。
情けない、作り上げた本人が、成否を理由に使えないなんて。
戦況を変える手段はもうひとつもある。
ヴァイエイトに接近し、実弾で攻撃を仕掛ければいい。
プラネイトディフェンサーはビーム対する防御兵装。
バスターガンダムXYZには、バズーカ、ガンランチャー、ミサイルポッドと多数の実弾兵装を搭載している。
全部を当てる必要もない、2,3発も当てれば致命傷は与えられる。
だが、射程はエネルギー・ライフルに比べて短く、近づけばメリクリウスが向かってくるだろう。
メリクリウスは近接戦に強く装備が整っている、
クラッシュシールドから伸びるビーム・サーベルは、
バスターガンダムXYZのボディを真っ二つに溶断するだろう。
もちろん、それを退けてヴァイエイトに攻撃ができればいい。
できればいいけれど、カザナはそうできる自信なんてない。
この戦い、足を引っ張っているのは間違いなくボクだと。
ボクにもっと技術があれば、この戦況を変えられるのに。
やるべき事はわかっているのに、体は動いてくれない。
反撃を受けない安全な場所からエネルギー・ライフルを撃つことしかできない。
このガンプラのコンセプトがそもそも、近づくのが怖いから遠距離武装に特化したガンプラを作ったのだから。
元より、突撃など想定もしていない。
「でも、このままじゃ……このままじゃ……」
ヴァイエイトの狙撃を躱し続けるギャプランのダメージは、なんとか直撃こそ避けているものの、
至近弾のダメージが蓄積しもう3回も回避しきれるか怪しい。
「カナ、近づくのは怖いか?」
ダイズはこの状況の打開方法に気が付いている。
カザナが動けば、突破口は切り開けるのに。
ペダルを踏み込もうとした足がすくみあがる。
「…………」
返事もできない、情けない女。
無言を理解し、ダイズはわかった、と。
「カナ、そのガンプラの一番威力が高い武器を、赤い方に撃ってくれ」
策がある。サブモニターに映るダイズの顔には自信があった。
「い、一番は無理! 撃つと、バスターが動けなくなる……」
「じゃあ2番でいい、あとは俺がやれる」
「――失敗したら?」
この人は、そう考えないのだろうか?
失敗したら負けるのに、勝ちたくても勝てないのに。
なんだそんな事かと、ダイズは事もなげに。
「その時は、”次”に勝てばいいんだよ」
「次?」
「ガンプラバトルはなにもこの一戦だけじゃねぇ。
……いや、一戦だけじゃないでしょう?」
ダイズの口調が変わる。
突然でカザナは驚くが、これがこの人の本当の話し方で、
ちゃんと、自分の気持ちを伝えるために偽る事を止めたのだと気づいた。
「これからガンプラバトルを何百、何千と遊ぶ事になるのなら、
1試合1試合が勉強で、練習であり、本気で挑むべき戦いなのだから。
だから、今できないという理由で、逃げてはだめだ!」
ヴァイエイトのビーム・キャノンが、ギャプランの脚部に掠ってダメージになる。
スピードが目に見えて落ちた、もう次は避けられない。
ビーム・キャノン、次弾発射まであと3秒。
ギャプラン特攻、今出せる最大加速でメリクリウスに迫る。
「カザナ! 撃つんだ! 君の次は、私が繋ぐ!」
「――っ!」
バスターガンダムXYZ、右肩のビーム・ガトリングの先端に、右腰のバズーカをドッキング。
機体の全長に匹敵する銃身は、真っすぐにメリクリウスへ。
ダイズの真摯な言葉は、カザナを信頼していなければ絶対に出ない。
無謀な特攻は、カザナが撃たなければ、外してしまえば迎撃されて終わりだ。
怖い、けれど、応えたい。
その信頼に、カザナは、応えてみせたい。
カザナ・フィーネルベルト、今でなく、いつ勇気を振り絞る!?
「当たれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
連結されたバズーカとビーム・ガトリングは
ビームの塊を圧縮して撃ち出すビーム・バズーカへと変化。
放つは、極大のビーム弾。
メリクリウスの反応は早い、ヴァイエイトの防御に飛ばしていたプラネイトディフェンサーを、
全て自分の所へ戻して展開。
ビーム弾が電磁バリアにぶち当たり、10基のうち3基のプラネイトディフェンサーが稲妻を奔らせて動作不良を起こし、
バリアが揺らいだ。
ギャプラン、MA形態の加速を乗せたままMSへと急速変形。
狙いは一点、揺らぎの中心。
「貫く!」
バリアの隙間を穿つ、ビーム・ライフルの一発。
メリクリウスのボディに直撃し、背中から突き抜けた。
<メリクリウスを撃破しました>
これで、あとはヴァイエイトのみ。
ゴヅンと、何かがぶつかる鈍い音が、ダイズの耳に響く。
「まずい!?」
破光を滾らせる砲口が目の前に。
ギャプランのボディに押し当てられる、ビーム・キャノンの銃口。
ゼロ距離射撃。こちらさえ落とせば、バスターガンダムXYZはいくらでもなんとでもなる。
ヴァイエイトの指が、ギチリとトリガーを引き絞り、あと2ミリ。
ミサイルの一発が直撃し、その指もろとも、ビーム・キャノンを吹き飛ばした。
「させ……ないっ!」
両肩4つのミサイルポッド全弾発射。
ビーム・ガトリング、バズーカ、ガンランチャー、エネルギー・ライフル。
全砲門を我武者羅に撃ち続けて接近するバスターガンダムXYZ。
信頼に応えたい、まだ、応えきれてない。
1機落としてそれで終わりじゃない、全滅させて初めての勝利。
ダイズは言ってくれた。勝とうと、俺達ならできると。
カザナの次をダイズが繋いでくれたのならば。
「ボクも――」
ヴァイエイトに命中する爆発、飛び散る破片がバスターガンダムXYZを傷つけていく。
ガツンと体当たりをしながら、ヴァイエイトのボディの隙間にエネルギー・ライフルの銃口をねじ込む。
砲身がグニャリと歪んだ。
だから、どうした!
「次に繋いでみせるから!」
エネルギー・ライフルの暴発。
銃身の炸裂がヴァイエイトのボディ内部で巻き起こり、木端微塵に粉砕する。
<ヴァイエイトを撃破しました>
カザナが初めて目にした、敵を倒したシステムアナウンス。
いつも目にしていたのは、<撃破されました>だったから、実感が、無い。
半壊したバスターガンダムXYZの中で、キョトンとする肩を、ギャプランがバンと叩き。
「おめでとう! 初勝利だ!」
揺れた座席と、まるで自分の事のように喜ぶ声で、ようやく胸の奥から湧き出す物が現れて。
「やった……、やったぁぁぁぁ!!」
カザナ・フィーネルベルト、ガンプラ歴5年。
ガンプラバトル対人戦、初めての勝利の瞬間だった。
さて、カザナの成績についに一勝の文字がついたものの、
次の試合にて、残念ながら13敗目。
でも、これまでの敗北よりもずっと清々しい気分なのは、全力を出し切っての敗北だったからだろう。
トーナメント敗退の二人は、勝者達が繰り広げていく戦いを見守る。
バスターガンダムXYZを抱えてダイズの隣に腰掛けで、独り言のように語りだす。
「ボクは、これまで全力で戦った事が無かったんだ」
今日はじめて分かった事だけれど。
戦ってみたいと思いながらも、傷つく事を怖がって、愛機の力を全く引き出せずに負けてしまう。
その理由を今日、この大会で初めて知れた。
それでいい、とダイズはカザナを祝福する。
「やっぱりさ、やりたい事をやってみせねぇと、なんでもつまんねぇよ。
俺達には自分の意思がある。
それを誰かに縛られて、抑え込まれたままなんて、まっぴらごめんだ。
俺がそうだし。……カザナ君も、そうなのでしょう?」
「――さっきもボクの事、カザナって呼んでたね。
フィーネルベルトの家の事、バレてたんだ」
「途中から、でしたけどね」
この人は愚かな人ではない。
バトル中の目の良さや勘の鋭さに、気づかれてもおかしくはないと薄っすら察していた。
この人はそういう人、真面目に話がしたい時は、口調を飾り付けず。
「入学前に、在学中の有力者の関係人物には全部目を通させてもらいました。
中等部のフィーネルベルトの御令嬢。
たった20年で世界有数の企業グループを作り上げたお父さんの手腕には感服しましたよ」
「ロクな事してないよ。あの人に人情なんて、これっぽっちもないんだから」
「――そうですか。カザナ君がそう言うのなら、そうなのでしょうね」
強引な手腕で成り上がる者はこの世界に居て。
過去においても珍しくはない事例だと。
だから、カザナの考えも否定しない。
彼女の意思を尊重するのは、ダイズもそれは同じだから。
「じゃあ家が嫌い同士、仲良くなれそうですね」
「ダイズさんも?」
「堅苦しいのはどうにも苦手なもので。
他人にかしこまられるのも、媚へつらわれるのも苦手ですよ」
「クスッ、それで、普段は無理したしゃべり方をしてるんだ?」
「……コホン。へっ、あと10年もすりゃ、無理じゃあなくなってんぜ」
いや10年もかかるんだ。
ある種正直な自己分析に、誠実な人なんだと好意的に思うカザナ。
二人は消化されていく試合を見ながら、色々な事を話す。
家の事、学校の事、互いの事。
家の名に縛られる立場だからこそ、ああ、同じ思いの仲間がいるんだと。
それが嬉しくて、時に言ってはいけない事まで口にしてしまう。
やがて大会は決勝戦を終えて、優勝したのは、ダイズとカザナを2回戦で下したチーム。
インタビューによると、優勝したのは現役を退いた元ガンプラマイスターだという。
強いはずだ、強いに決まってる。
勝者を拍手で讃え、声援を送りながら、ダイズが拳を突きつけて。
「でも、次は負けねぇ!」
「うん! 次は負けない!」
そう次がある。
また二人でこの大会に出場し、今度は優勝と意気込み、約束するのだった。
もう日も傾き始めた夕食時。
「カザナ、メシはどうするんの?」
「今日は外で食べてくるって、ばぁやには言ってあるよ」
「んじゃ、うまい店件、俺のホームがあるから、そこへ行こうぜ!」
カザナは大切な友人で仲間だ。
これからもっと仲良くなりたいし、一緒にガンプラを楽しんでいきたい。
レストラン・フレンズ。
ダイズが知る限り、最高の料理を提供してくれる至高のレストラン。
京の料亭と比べてもいい、ここを超える店なんて存在しないと。
お店が見えてきてから、カザナは緊張の面持ちで。
「さっきダイズさんが話してた、”姉ちゃん”って人が居るんだよね?」
「おう、かなりディープなオタクだけど、すげぇ良い人だ」
「……ダイズさんに夢小説を朗読させるような人だから、喪女さんかな? うん、大丈夫」
最後のものすごく失礼なセリフは小声だったのでダイズには届かず。
どうにも宿敵に立ち向かうような覚悟を決めているカザナ。
よくわからんが、とダイズはレストランの扉を開けて。
「たっだいまーっす!」
「お、お邪魔します」
凱旋するかのような堂々としたダイズに、その背中に隠れて中の様子を伺うカザナ。
店内は席がほとんど埋まるピークタイム。
調理中のモービルはこちらに気が付き。
「おかえりダイズ君。……あれ? その子は?」
「ゼブラゾーンで共に戦った、俺の新しいダチです!
一緒に大会に出たんで、その打ち上げに連れてきたっす!」
「そうなんだ、はじめまして、モービルです。綺麗な銀髪だね」
「か、カザナ・フィーネルベルトです。よ、よろしくお願いします!」
「わぁ、ハーフさんなんだ、これからよろしくね」
調理する手は忙しそうなのに、表情に一切焦りを浮かべず笑顔の応対。
さすがモービル店長。
ジュウリは駆け寄ってきて。
「いらしゃ~い。あらぁ、随分と可愛いお友達じゃないのぉ。
私はジュウリよ、よろしくね」
「え!? は、はい……」
美少年良き良きと邪な笑みを浮かべて二人をカウンター席に案内するジュウリ。
お冷を置いて、注文を取り。
ジュウリが離れたところで、カザナは小声でダイズに。
「ダイズさん! あの人が言ってた人!?」
「ん? そうだけど」
「すごい美人さんじゃないですか! なんかスタイルもいいし……!」
「ああ、姉ちゃんは美人さんだぞ」
「聞いてないよ! っ~~!」
何が気に入らなかったのか、少年に間違われる自分の胸をさすって顔を真っ赤にしている。
ううむ、男にはわからないなにかがあるのかとダイズはあまり気にしないようにして。
やがて料理を運んできたジュウリが、美少年の顔を間近にしようとさりげなく近づき。
――ピシリと、笑顔が固まった。
「……女の子?」
「……うん、ボクは女――」
瞬間、ジュウリの指がダイズの耳をつかみ上げる。
「痛っ! ちょ、姉ちゃん! なにすんだよ!?」
「こっちのセリフよ! あ、あんたこんな年下の女の子連れ込んで……ナンパぁ!?」
「はぁ!? だから大会に一緒に出場したって――」
「女の子に声かけて!?
ま、まさかダイズ君、年下のほうが好みなの!?」
「何の話だよ!?」
焦燥したジュウリの表情、嫉妬の籠った怒声。
ああなるほど、とカザナはピンときた。
そう、この人も多分、ボクと同じ。
ダイズじゃ埒があかぬと、耳をつかむ指はそのまま。ジュウリはカザナの方へ向き。
「カザナちゃんだっけ? コイツになにか変な事されなかった?」
「え? 変な事?」
「こういうイケメンはね、近づけば女なんかコロッといくとか思ってんのよ!
気を付けないとダメよ!」
「近づけば……」
思い起こすのは、顔を近づけて囁かれた乙女落とし。
ポッとカザナの頬に朱が差し。
ジュウリの頭部から、ヤカンみたいに湯気が吹いた。
「~~~~~~~~っ!!」
耳を掴む指は、首を絞める腕に代わる。
気道を完全に塞ぐヘッドロックがダイズを襲い。
「ごふっ! ね”え”ぢゃ……、や……め……」
「吐け! 全部、私が納得できるように吐け!」
いやそれじゃ喋れないと声も出せず青ざめていくダイズ。
カザナはカザナで、思い出してポーっと上の空。
完全にアルバイトの業務を放棄するジュウリ。
それを見守りながら、やれやれしょうがないなと肩をすくめて、自ら料理を配膳するモービル。
テーブル席に座る、同い年の男性二人の前に料理を置くと。
うち一人の、大仏みたいな無害そうな顔の男はカラカラと笑いながら。
「よっ、あれがこの前言ってた兄ちゃんか?」
「うん、そうだよ」
「あの気難しいジュウリちゃんがお熱とは。
また随分と女難が付いてそうな坊主だな」
ありゃ大変だぞ、とそれはそれで見世物としては一流と楽しそうな大仏面。
その隣で、なるほどな、と何を納得したのか、体格の良い美形も。
「あの大会で仲間を増やしたようだな。……ふっ、まるで昔のお前のようだ」
「そうだね、ユリカさんと出会ったのも、あの大会だったなぁ」
「お前が気に入るわけだ、とな」
実の家族以上に付き合いのある旧友も、ダイズ達を気に入ったようだ。
自分達とは色々と違うけれど、あの3人から感じる雰囲気はどこか懐かしくて。
「うん、大切な大切な、僕の新しい友人達だよ」
3人の未来は、どうなるのだろうか?
それが楽しみで仕方がないと、微笑ましく見守るモービルと、その二人の友人だった。