ビット兵器はその性質上、自機を危険に晒す事なく一方的に攻撃が可能で、
前後左右上下、あらゆる方向から放たれるビーム砲を全て躱し、受け止めるのは難しい。
ガンダムシリーズ全編を通して厄介な武装の代表格であり、弱小扱いされた事もなく。
その強さは、昔のアニメスタッフインタビューでも、
ビット兵器が衰退した理由を作らなければ、どの戦いもビット同士が撃ち合って終わりと言われた程だ。
されど、使いこなす事は容易くはない。
ドローン等1機動かすだけでも大変なのに、
場合によっては10を超えるビット兵器をたった1人で操作、管理しなければならない。
多少はオートで動くとはいえ、全自動ではなく、
それをあのアイドル様は、18も同時に操作し、残弾管理も完璧。
ジュウリはダハックのビーム・バリアで、四方八方から撃ち込まれるチルド・ファンネルを受け止めながら、
相も変らぬクミの技量に舌を巻く。
「いったいどういう脳みそしてたら、こんな芸当できるのよ!?」
仕事の出来る女の基本はマルチタスク。
実力派アイドルのクーミは、ええ、そりゃあできる女でしょうよ。
この猛攻に、ダハックならばまだ対応できる、そのための両腕のビーム・バリアだ。
だが、バスターガンダムXYZにこのオールレンジ攻撃は、厳しすぎる。
「っ――! テレビで見る以上に、すごい!」
月の大地を走行しながらなんとか回避しようとするカザナだが、困難を極める。
ダハックはバスターガンダムXYZを守るように立ち回るが、
これは時間をかければかけるほど追い込まれてしまう。
ジュウリは考える。
カザナのバスターガンダムXYZを囮にすれば、
ファンネルをある程度片付ける隙が生まれるはずだ。
バスターガンダムXYZは落ちるだろうが、
こんな、金持ちのお嬢様の御守をして負けるぐらいなら――。
「ジュウリさん! 一度でいいから、ファンネルを一か所に集めて!」
ジュウリの案とは全く逆の提案をするカザナ。
「……それはいいけど、ちゃんとやれるんでしょうね?」
「やるよ! ボクのバスターなら、やれる!」
声音には自信が溢れている。
そこまで言い切るなら、断るのも無粋か。
お手並み拝見。
「じゃあ、やってみせなさい!」
ダハック上昇、向かう先はマザー・ファンネル。
チルド・ファンネル達は、母をやらせぬとダハックに群がる。
その数9基。
カザナは自分を狙う3基のチルド・ファンネルを一切無視し、右肩のビーム・ガトリングで狙いを付け。
「バスター! 我慢して!」
チルド・ファンネルに撃たれ続けながら、ビーム・ガトリング掃射。
ダハックを追っていたチルド・ファンネルを撃ち落としていく。
クミの作ったチルド・ファンネルは細部に至るまで作り込まれており、耐久力も高い。
それをガトリングの小弾一発で撃ち落とすとは、
ジュウリの技量を以てしても難しい銃身の仕上げの成果か。
9基のチルド・ファンネルを撃ち落とすと同時に、
攻撃され続けたバスターガンダムXYZの右腕が砕け散った。
ビーム・ガトリング、バズーカ、ミサイルポッド2門が使用不能。
さらに追撃をかけてくるチルド・ファンネルは、戻ってきたダハックがビーム砲で撃ち落としてくれた。
これで、チルド・ファンネル全16基のうち、12基破壊。
バスターガンダムXYZの右腕を犠牲にはしたが、戦果としては悪くない、どころか上々。
「バスター、ありがとう」
痛みに堪えて、よく撃ってくれた、愛機を労うカザナ。
ガンプラがビルダーにしっかり応えてくれている。
カザナのバトルの技量の低さを、バスターガンダムXYZが補う。
金に物を言わせたメッキのお嬢様が、やれる事ではない。
「……やるじゃない」
あのダイズが連れてきただけはある。
色眼鏡で見るのは、やめよう。
ジュウリは自分の心を改めつつ、残ったチルド・ファンネルの追撃を待ち構えるが、
マザー・ファンネルと共に、ジ・Oマルスの方へと帰っていった。
ファンネルさえなければ、ただのジ・Oマルス1機。
バスターガンダムXYZは右腕無しとはいえ、こちらは2機。
勝機は高まった。この戦い、勝てる。
ジ・Oマルス、帰ってきたマザー・ファンネルを両腕で迎えて、ドッキング。
ボクサーグローブと化したマザー・ファンネル同士をガキンと打ち付ける音が月面に木霊し、
余波だけで、遠く離れたバスターガンダムXYZの装甲のヒビ割れが深くなる。
ああ、通信を繋げなくとも聞こえてくる。
若輩者の甘い幻想を掻き消す、アイドル様の昂る戦吼。
――さぁ! がっぷりよつ!!
ダハックは、接近格闘においては無敵とされる機体特性を誇る。
両掌のビーム・バリアによる鉄壁の防御。
バリアと連動し、触れた敵のエネルギーを吸収するプランダー。
二つで受け止めたのち、
背中から伸びるアームド・アームのビーム・サーベルで敵を切り刻む。
故に、ダハックと格闘戦を行えるガンプラは、存在しない。
――あのベテランアイドル様が、それを知らぬわけがない。
ジ・Oマルスの背面ロケットブースターは、ただ敵に肉薄するためだけの専用装備。
ダハックの1.5倍はあろう巨躯を砲弾と化して突撃してくる。
狙いは、迷いなくダハック。
着弾まで瞬きの間。
ジ・Oマルスのマザー・ファンネルとドッキングした巨大な拳が、ビーム・バリアを殴りつける。
衝撃、たまらず吹き飛ぶダハックに、追いすがるジ・Oマルス。
さらにビーム・バリアをもうひと殴り。
地表に叩きつけられ、地面を抉るように転がされる。
まだあの暴走砲弾は止まらない。
転がるダハックへの追撃も、からくもビーム・バリアで受け止めるが、
質量差からくるパワーレシオには耐えきれず、もはやバレーボール扱いにしかされていない。
「くっ! プランダーで吸う時間が無い!」
プランダーは、敵に”触れ続けなければ”使えない。
クミはダハックの無敵性を熟知し、その対策として、
「殴り飛ばせばプランダーも意味が無い」と判断した。脳筋にも程があろう。
だが自重の軽いダハックにとって、これほどやっかいな戦術は無い。
やられっぱなしのままではいられぬ。
ジュウリはダハックのビーム砲の連射で接近してくるジ・Oマルスを迎え撃つが、
ビーム弾はマザー・ファンネル・グローブに触れて霧散してしまう。
「Iフィールド・バリア。……好きよねこの人」
拳に対ビーム・バリアを纏わせて、殴って弾く。
クミが昔からとる戦法。
そう昔から変わらない。
重量級のガンプラでクロスレンジに持ち込んでから、質量で圧し潰す。
タカイ・クミが最も得意とする戦術であり、
この状況に持ち込まれて応戦できる者など、ガンプラマイスターの領域に達した者ぐらいだ。
まだジュウリはそれに遠く及ばず。
カザナも高速で動くジ・Oマルスを捉えられずにいた。
「速すぎて当たらない! こうなったら、接近して――」
「やめときなさい。この人の1000メートル以内に近づいたら、死ぬわよ」
ダハックだからまだ7撃も耐えきれている。
片腕を失ったバスターガンダムXYZなど、挽き潰すのに5秒も必要ない。
とはいえ、ダハックもそろそろまずい。
ビーム・バリアこそ健在だが、腕の関節の音が怪しい、保って、あと2撃。
考えろカケヒ・ジュウリ。
あんな年下の小娘にだけがんばらせて、
お前はぶん殴られただけで音を上げるつもりか?
相手が格上だろうが、戦う事を止めるな。
あのお気に入りの少年が土壇場で見せた意地を見習わらず、
なにを先輩面するつもりか。
「カザナ! 次で仕掛ける!」
ダハックの腕の限界まで、あと1撃。
チャンスは、最後の瞬間。
よく8撃も耐えた。
出会って3か月になるアイドルの弟子の成長ぶりを目の当たりにし、
クミの口元は自然と緩む。
あの日、モービルの店で初めて出会ったのは、恵まれたルックスを全く活かそうともしない姿で、
世に鬱屈し尽くしたような二十歳の女。
身の上話を聞いたモービルがこれまで雇った事もないアルバイトに誘い。
クミが根暗を直せと、アイドルの理念を叩き込んだ。
いささか煽情的なウェイトレス服は大仏面の友の案だが、
それぐらいの恰好ができる女だと自覚しろとクミが強行させた、それから3か月。
ガンプラマイスター、トウジョウイン・ユリカに鍛え上げられたガンプラのテクニックは、
元々高かった物がさらに昇華され、
ピーキーな性能のダハックを操る技術も、並大抵のビルダーでは歯牙にもかけない。
あと1年もすれば、クミと互角に渡り合える可能性もある。
――だが、今はまだ負けてやれない。
アイドルの、人生の先輩として。
そして、チーム・フレンズのナンバー2という誇りにかけて。
まだ、負けてはやれない。
機体の相性など知った事かのゴリ押しもあと一手。
腕ごとビーム・バリアを殴り壊し、ガラ空きになったボディを叩き潰す。
放つのは右の正拳。
空手チャンピオンの真似をした、必殺の一拳。
炸裂する剛拳はビーム・バリアに突き刺さり、衝撃でダハックの両腕が肘関節から砕け――。
ダハックの背中から伸びるビーム・サーベルが、己の砕けた腕を貫き。
マザー・ファンネル・グローブごと串刺して、ビーム・バリアと”縫い付けられた”。
「やばっ!?」
接触回線が、ジュウリの咆哮を拾う。
『プランダぁぁぁぁ!!!」
ビーム・バリアの接触箇所から、ジ・Oマルスのエネルギーが吸い上げられ、パワーダウン。
腕部Iフィールド・バリア機能不全。
ジュウリが捨て身で作りだしたわずか数秒のチャンスは、カザナが決める。
バスターガンダムXYZ、左肩のガンランチャーを後ろに、左腰のエネルギー・ライフルを前に連結。
大出力の超高インパルス長射程狙撃ライフルがビームの束を撃ち放つ。
ジ・Oマルスの左腕ごと、半身を焼き払った。
両腕破損、損傷度68%、壊滅的なダメージ。
ダハックのビーム・サーベルが、ジ・Oマルスのボディに伸び――。
<ダハックを撃破しました>
光刃はわずかに届かず。
ジ・Oマルスのフロントアーマーに仕込まれた隠し腕から伸びるビーム・サーベルが、
ダハックのボディを逆に貫く。
「はぁ……はぁ……、調子に乗らない……事ね……」
勝ち台詞ぐらいはと声を絞り出して、
ここでクミはようやく、自分が呼吸すら忘れていた事に気が付いた。
危なかった。
あと1秒判断が遅ければ落とされていたのはクミだった、が。
「……このあたしに、隠し腕を使わせたわね」
クミは正面からの殴り合いを好み、搦手は趣味ではない。
ファンネルですら、正面から使うタイプだ。
隠し腕のような騙し武器はまず使わず。
このジ・Oマルスに装備されていたのも、ウェイトの足しにぐらいにしか考えておらず、
今日帰ったら外そうとも思っていたぐらいだ。
それを使った。使わされた。
残ったバスターガンダムXYZも同じ隠し腕で斬り倒すクミだったが。
自分のポリシーから逸脱した勝利に、納得しかねるのだった。