ジュウリとしては、クミに勝ちたかったが、さすがに相手が悪かった。
素直に負けを認められるぐらいには実力差を理解していたジュウリ。
ガンプラ番組の伝統企画、ゲストとクミのガンプラバトル一本勝負も、
クミが強すぎるという理由で、最近は新人アイドルに役目を譲っているほど。
正直に言えば、今回は予想以上に善戦できたとすら思っている。
「次やる時は、覚えていなさいよ」
勝ったのになぜか捨て台詞と共に去っていったクミも、同じ気持ちだったのだろう。
そう、二人が予想していたよりもずっと、カザナという少女とそのガンプラが強かった。
クミが去ったガンプラ工房で、ジュウリはカザナと二人きり。
年下の少女はダハックを手にまじまじと見つめてから。
「やっぱり、改めて見るとすごいね。
ジュウリさんは、ガンプラ歴はどのくらい?」
「もう10年になるかしらね。
当時やってたガンプラ大会の中継を見て、ガンプラを始めて、ガンダムの原作を追って。
青春はほぼガンダム漬けよ」
我ながらオタクな人生の使い方をしたと思う。
しかも後悔していない。
「ボクは5年ぐらいかな。
戦車のプラモデルが欲しかったんだけど、
男の子みたいって言われるのが嫌で、
ガンプラは男女問わず人気だったから、陸戦型ガンダムを買ったんだ。
ウェザリングをしてみたくて、さっそくやってみて、
そしたらやりすぎてドロドロになっちゃって」
「ああ、やるやる。
誰もが一度は通る道!」
「うん、でもあの頃はそれでも格好よく見えて。
今でもボクの宝物なんだ」
綺麗なガンプラよりも、現実を戦い抜いたようなガンプラが好き。
そりゃ、その年でこんなガンプラを作りもする。
バスターガンダムXYZの塗装に納得するジュウリ。
だから、ちゃんと口にして伝えておこう。
「その、悪かったわね」
「え?」
「あんたの事、イイトコのお嬢様が気まぐれでガンプラ触ってるとか思ってたから。
カザナは、本気でガンプラに触れてるんだってわかったからね」
なので、謝る。
それはお互い様だとカザナも。
「ボクも最初、ジュウリさんを見た時は男受けを狙ってガンプラを触ってる、
オタサーのお姫様気取りなんて思ったからおあいこだよ」
「……さすがにその認識はひどくない?」
「だって、ボクからしたらダイズさんを独占しようとする女オタクだったから」
「それ、今も変わってないわよね?」
「ううん、ダメ寄りのオタクさんになってるよ」
「なお悪いわよ、このオジョーサマは……」
まったく、イイ性格をしている。
ただジュウリにとってここまであけすけに物を言う相手は初めてで。
カザナもそこまで言うような相手を巡り合わなかったから、楽しそうに笑いあい。
「これからよろしくね、ジュウリさん」
差し出される右手と、友好の意思。
歳の差6つ、10代にとっては大きすぎる差だろうが、
不思議とその手を握る事にためらいなどなく。
ギュッと握手を交わし、ジュウリも。
「ま、よろしく。
あとネコトのチャンネル登録とホザイッターのフォローを頼むわね」
「もうしてる。というかこの流れで宣伝するんだ」
「当たり前じゃないの、あのクミさんに仕込まれたのよ?」
「うん、すごく納得」
カラカラと笑いあう二人。
それから色々な話をしていたところで、工房の扉が開き。
入ってきたのは、二人を引き合わせた当人のダイズ。
「ちーっす、なんか楽しそうじゃねぇか」
学校帰りそのまま、カバンをロッカーに入れながら、
共通の友が仲良くなってくれている事が喜ばしいようだ。
カザナとジュウリは顔を見合わせてから。
「女同士の、秘密の話よ」
「うん、秘密」
「ちぇ、男の入る余地なしか」
言葉とは裏腹に、楽しそうなダイズ。
誰かが楽しい事を、自分の事のように共感できる。
この人はそういう人。
本当に良い子なので、今度収録してもらう夢小説を渡そうとジュウリが立ち上がったら。
「ダイズさん! ボク、ダイズさんにこれを読んでほしいな!」
「なっ!?」
割って入ってきたカザナは、ダイズにノートを渡す。
中身をパラパラとめくり、目を通すダイズ。
「何々? 『陸上部女子マネが憧れの先輩と一緒に用具室に閉じ込められてしまったシチュエーションボイス』って。
カザナもこれやんの!?」
「うん! ボクは、ダメ?」
「いやダメじゃねぇけど……しゃーねーな」
恥ずかしいんだからな、と前置きはするが、受け入れてくれるダイズ。
ちょっとまて、ジュウリはカザナの肩を引っ張り。
「それは私の特権よ! 何勝手に――」
「そうだダイズさん! ボク、ネコトの動画を見たよ! 素敵な人だね!」
「ぐっ!」
このガキ、よりにもよってこのタイミングで!
ダイズに見えない角度の、目元の勝ち誇った事。
ネコトの大ファンとして、自分が褒められるよりも嬉しいダイズは笑顔を咲かせ。
「見た!? ネコトちゃん、すっげぇ可愛いだろ!?」
「うん! ガンプラを作るのも上手くて、憧れちゃうなぁ。
どんな人が演じているんだろう?」
「おいおい、それはバーチャルアイドルに野暮ってもんだ。
ネコトちゃんは、ネコトちゃんだから最高なんだよ」
「えへへ、そうだね。ね、ジュウリさん?」
「え、ええ、そうね。……ほんと、そうよね」
訂正、やっぱりこの小娘、油断ならぬ。
新しい友人の強かさに、この仕返しはどこでしてやろうか。
などと、大人げなく考えるジュウリだった。