暗闇と陽光を一度に見せつけられたダイズは、暗くなったPODの中で困惑していた。
自分とギャプランを襲った影のガンプラと。
それから守るように現れた、太陽色のガンプラ。
影にも驚かされたしたが、それ以上にあのガンプラ。
パワード・ジムと表示されていたガンプラの背中が、網膜に焼き付いて消えそうにない。
まちがいなく強い、これまで出会った誰よりも。
立ち向かえばイカロスの翼の如く溶けて消え失せる。
それと同時にあの温かさを感じたいと、どうにも惹かれてしまう。
あの後、ダイズが礼を言う前に、パワード・ジムは去っていった。
伸ばした指先が、触れてもいないのに熱い。
あれはきっとガンプラとビルダーが到達する一つの極致なんだと直感した。
しばしボーっとしていたら、気が付けば時刻はもう昼時。
ギャプランと共にレストランのほうへと戻れば、
いつものように、来客に極上の料理を振る舞うモービルの姿があった。
「やぁダイズ君。2人ならまだ来てないよ。
先にご飯食べる?」
ふと、網膜に焼き付いたあの太陽が、
モービルの姿とダブって見えて。
「……モービルさん、だったのですか?」
「ん? なにが?」
「……いえ、なんでも、ありません」
モービルはここで料理を作っていた。
あのタイミングで駆けつけられるはずがない。
ただ、客席から見えぬキッチンの裏側から、忘れられそうにないあの熱さを感じるけれど。
いけない、混乱している、一旦落ち着こう。
先にご飯を食べようとビーフカレーを注文し、
カウンター席について、目の前にギャプランを置く。
ダイズとギャプランを襲ったあの黒いガンプラ。
明確な敵意と憎しみを浴びせられたが、心当たりは全くない。
「……シホ、心当たりはありますか?」
ないよ、あるわけないもん。
「そうですよね……」
ガンプラに触れてまだ2週間。
恨みを買う理由なんかない。
はぁ、とため息をつくダイズの前に、注文したビーフカレーが置かれ。
「ふふっ、シホさんって名前を付けたの?」
「え、ええ、まぁ」
「――大事にしてあげてね。
ガンプラは、寂しがる子も多いから」
この人は、ガンプラについて深く知っている。
技術方面ではなく、心の方を。
影のガンプラについて聞いてみようと思った時だった。
モービルのポケットの中から、コール音が鳴り響く。
「――っと、ごめんね」
ディスプレイを見て、大事な相手なのか、キッチンの裏手に入っていったモービル。
いや、聞くのは、もっと自分に心当たりがないか考えてからにしよう。
そう思いとどまってから、極上の料理に手を伸ばすダイズだった。
そろそろ掛かってくる頃だと思っていた。
モービルにとって古くからの友人の一人でもあり、
何か不思議な縁でつながれた、ライバルの名前が携帯電話のディスプレイに表示されている。
「もしもし」
『俺だ。要件はわかっているな?』
「うん、さっきの気配だね、パワードも感じたよ」
『エグレブシスもだ。ただ、場所まではわからなかったが――』
「ユリカさんの工房だよ。
襲われたのは、この前話したギャプランのコ」
『心当たりは?』
「ないよ。あのコ達もわかってないみたい」
あの影は、あまりにも異質だった。
パワード・ジムに触れた凍り付きそうな感触は、今もモービルの指先を冷やし続けている。
『何か手掛かりは掴んだか?』
「ううん、たぶんデスティニーガンダムの改造だと思うけど」
『よりにもよって、多すぎるな』
影の奥に見えた輪郭は、人気の高すぎるガンプラで、特定は難しい。
だが、このまま野放しにしておける存在ではないだろう。
『こっちはマイスターのネットワークで影を追う。
お前は、そのギャプランのビルダーを見ていてくれ』
「うん、クミさんには僕から伝えておくよ、こっちは任せて」
『頼む』
通話を切り、ふぅと息をつくモービル。
何かよからぬ事が起きようとしている。
大事にならなければいいのだが、嫌な予感がしてならない。
キッチンに戻り、いつものように姿勢良く、おいしそうに自分が作った料理を味わうダイズを見る。
純真無垢で、ガンプラを心から楽しんでくれる少年。
あの影は、そんな彼らを襲った。
「――なんとかしないと」
守ろう。
新たなガンプラを楽しむ仲間と。
大切な友人の、1人として。